(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5910718
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20160414BHJP
B29D 30/62 20060101ALI20160414BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20160414BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20160414BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20160414BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
B29C33/02
B29D30/62
B29C45/14
B29C35/02
B29K21:00
B29L30:00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-253224(P2014-253224)
(22)【出願日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
【審査官】
岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−088074(JP,A)
【文献】
特開昭51−151778(JP,A)
【文献】
特開2010−269554(JP,A)
【文献】
特開昭55−093438(JP,A)
【文献】
特開2011−031452(JP,A)
【文献】
特開平10−058915(JP,A)
【文献】
特許第5231673(JP,B1)
【文献】
特開2007−216634(JP,A)
【文献】
特開2000−084937(JP,A)
【文献】
特開2000−043048(JP,A)
【文献】
特開平11−165320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 35/02
B29C 45/14
B29D 30/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数に分割可能な円筒状の金属製剛性内型を台タイヤの内側に配置し、この台タイヤのトレッド部に対応するタイヤ内面の範囲に前記剛性内型を当接させた状態にし、前記台タイヤを前記剛性内型とともに加硫用金型の中に配置して、前記トレッド部に相当する前記台タイヤの外周面を前記加硫用金型で覆い、次いで、冷却手段により冷却した前記剛性内型により前記台タイヤの内側を冷却しながら前記加硫用金型の内周面と前記台タイヤの外周面との間に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出して、この未加硫ゴムを加硫させることにより前記台タイヤの外周面にトレッド部を形成するとともにこのトレッド部を前記外周面に一体化させて空気入りタイヤを製造し、この空気入りタイヤを、この空気入りタイヤの内側に配置されている前記剛性内型とともに前記加硫用金型の外に取り出し、前記加硫用金型の外において前記空気入りタイヤの内側から前記剛性内型を取り外すことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記台タイヤを前記剛性内型とともに前記加硫用金型の中に配置する際に、前記射出する未加硫ゴムを射出機のプランジャーが内設されるシリンダに充填する請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記台タイヤが既存の空気入りタイヤのトレッド部のゴムを切削して形成されたものである請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
台タイヤの内側に配置される周方向に複数に分割可能な円筒状の金属製剛性内型と、前記剛性内型とともに前記台タイヤが中に配置されてトレッド部に相当する前記台タイヤの外周面を覆う加硫用金型と、この加硫用金型の内周面と前記台タイヤの外周面との間に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出する射出機と、前記加硫用金型の中に配置された前記剛性内型を冷却する冷却手段とを備え、前記台タイヤのトレッド部に対応するタイヤ内面の範囲に前記剛性内型を当接させた状態にして、前記冷却手段により前記剛性金型を冷却して前記未加硫ゴムを前記キャビティに射出することにより、この未加硫ゴムを加硫させて形成したトレッド部を前記台タイヤの外周面に一体化させて空気入りタイヤを製造した後に、この空気入りタイヤの内側に配置されている前記剛性内型が、前記製造した空気入りタイヤとともに前記加硫用金型の外に取り出されて、前記加硫用金型の外においてこの空気入りタイヤの内側から取り外される構成にしたことを特徴とする空気入りタイヤの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法および製造装置に関し、さらに詳しくは、台タイヤの熱劣化を抑制しつつ、寸法精度よくトレッド部を形成することができ、設備の簡素化が可能な空気入りタイヤの製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存の空気入りタイヤのトレッド部のゴムを切削した台タイヤに、新たなトレッド部を形成する、いわゆる更生タイヤの製造方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている方法では既設の製造設備を使用し、台タイヤの内側に配置された加硫ブラダを膨張させた状態にして内圧を印加する。この状態で、台タイヤの周方向外側に配置されたタイヤモールドと台タイヤの周方向外側表面との間に形成された空間に未加硫ゴムを注入する。この注入した未加硫ゴムを加硫することによってトレッド部を形成しつつ、台タイヤの周方向外側表面に一体化させる。
【0003】
この方法では、加硫ブラダに熱流体を供給して膨張させるので台タイヤは内側から加熱されることになる。即ち、台タイヤを形成している加硫ゴムはタイヤ内側から加硫ブラダによって加熱されるので熱劣化するという不具合がある。
【0004】
また、射出される未加硫ゴムの射出圧力は、膨張している加硫ブラダの内圧(数MPa程度)比して大幅に高くなるのが一般的である。そのため、膨張させた加硫ブラダによって台タイヤの内側を押圧していても、未加硫ゴムの射出圧力によって台タイヤが内側に凹むように変形する。この変形の影響によって、形成されるトレッド部の寸法精度が低下するという問題がある。引用文献1では、トレッド成型空間内における未加硫ゴムの圧力P1が台タイヤに印加される内圧P2よりも僅かに高く設定される(段落0040参照)。即ち、引用文献1に記載の発明では、未加硫ゴムの射出圧力を高く設定できないため、射出時間が長くなるデメリットや、未加硫ゴムをトレッド成型空間内に十分に行き渡らせ難いというデメリットが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−31452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、台タイヤの熱劣化を抑制しつつ、寸法精度よくトレッド部を形成することができ、設備の簡素化が可能な空気入りタイヤの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの製造方法は、周方向に複数に分割可能な円筒状の金属製剛性内型を台タイヤの内側に配置し、この台タイヤのトレッド部に対応するタイヤ内面の範囲に前記剛性内型を当接させた状態にし、前記台タイヤを前記剛性内型とともに加硫用金型の中に配置して、前記トレッド部に相当する前記台タイヤの外周面を前記加硫用金型で覆い、次いで、
冷却手段により冷却した前記剛性内型により前記台タイヤの内側を冷却しながら前記加硫用金型の内周面と前記台タイヤの外周面との間に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出して、この未加硫ゴムを加硫させることにより前記台タイヤの外周面にトレッド部を形成するとともにこのトレッド部を前記外周面に一体化させて空気入りタイヤを製造し、この空気入りタイヤを、この空気入りタイヤの内側に配置されている前記剛性内型とともに前記加硫用金型の外に取り出し、前記加硫用金型の外において前記空気入りタイヤの内側から前記剛性内型を取り外すことを特徴とする。
【0008】
本発明の空気入りタイヤの製造装置は、台タイヤの内側に配置される周方向に複数に分割可能な円筒状の金属製剛性内型と、前記剛性内型とともに前記台タイヤが中に配置されてトレッド部に相当する前記台タイヤの外周面を覆う加硫用金型と、この加硫用金型の内周面と前記台タイヤの外周面との間に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出する射出機と
、前記加硫用金型の中に配置された前記剛性内型を冷却する冷却手段とを備え、前記台タイヤのトレッド部に対応するタイヤ内面の範囲に前記剛性内型を当接させた状態にして
、前記冷却手段により前記剛性金型を冷却して前記未加硫ゴムを前記キャビティに射出することにより、この未加硫ゴムを加硫させて形成したトレッド部を前記台タイヤの外周面に一体化させて空気入りタイヤを製造した後に、この空気入りタイヤの内側に配置されている前記剛性内型が、前記製造した空気入りタイヤとともに前記加硫用金型の外に取り出されて、前記加硫用金型の外においてこの空気入りタイヤの内側から取り外される構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、台タイヤのトレッド部に対応するタイヤ内面の範囲に金属製剛性内型を当接させた状態にして台タイヤを内側から堅牢な剛性内型によって支える。この状態で、トレッド部に相当する台タイヤの外周面を覆う加硫用金型の内周面と台タイヤの外周面の間に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出するので、未加硫ゴムの射出圧力によって台タイヤが内側に凹むという不具合を回避できる。また、台タイヤのタイヤ内面に当接させた剛性内型は金属製なので、台タイヤの熱を放出する冷却フィンとして機能する。そのため、未加硫ゴムが射出された台タイヤの温度上昇を抑えることができ、台タイヤの熱劣化を抑制するには有利になる。
【0010】
台タイヤを内側から剛性内型によって支えるので、未加硫ゴムの射出圧力を高く設定することが可能になり、これに伴って、射出時間を短縮できるという利点、未加硫ゴムをキャビティに十分に行き渡らせ易くなるという利点もある。これら利点は寸法精度を向上させるにも有利である。
【0011】
さらには、剛性内型を台タイヤの内側に配置する作業、製造した空気入りタイヤの内側から剛性内型を取り外す作業を加硫用金型の外部にて行なうことができる。そのため、これら作業を行なうための機構を製造装置に設ける必要がなく、製造装置の簡素化には有利になる。
【0012】
本発明の空気入りタイヤの製造方法では、前記台タイヤを前記剛性内型とともに前記加硫用金型の中に配置する際に、前記射出する未加硫ゴムを射出機のプランジャーが内設されるシリンダに充填することもできる。これにより、未加硫ゴムを迅速にキャビティに射出することが可能になるので、未加硫ゴムが不要な熱履歴を受け難くなる。
【0013】
本発明では、前記剛性内型を通じて前記台タイヤの内側を冷却しながら前記未加硫のゴムを射出し、加硫
させる。これにより、台タイヤの温度上昇を積極的に抑えることができるので、台タイヤの熱劣化を抑制するには益々有利になる。
【0014】
前記台タイヤとしては、例えば、既存の空気入りタイヤのトレッド部のゴムを切削して形成されたものを使用する。
【0015】
本発明の空気入りタイヤの製造装置では、前記加硫用金型の中に配置された前記剛性内型を冷却する冷却手段を備えた構成
にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの製造装置を一部をタイヤ幅方向断面視で例示する全体概要図である。
【
図2】
図1の製造装置を平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図2の剛性内型を平面視で例示する説明図である。
【
図4】
図3の剛性内型を分離、分割した状態を平面視で例示する説明図である。
【
図5】キャビティに未加硫ゴムを射出した状態をタイヤ幅方向断面視で例示する説明図である。
【
図6】別の剛性内型を台タイヤの内側に配置する工程をタイヤ幅方向断面視で例示する説明図である。
【
図7】
図6の剛性内型を台タイヤの内側に配置した状態をタイヤ幅方向断面視で例示する説明図である。
【
図8】
図6の剛性内型を内側に配置した台タイヤを側面視で例示する説明図である。
【
図9】さらに別の剛性内型を台タイヤの内側に配置する工程をタイヤ幅方向断面視で例示する説明図である。
【
図10】
図9の工程をタイヤ側面視で例示する説明図である。
【
図11】
図9の剛性内型を台タイヤの内側に配置した状態をタイヤ幅方向断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の空気入りタイヤの製造方法および製造装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0018】
図1〜
図2に例示する本発明の空気入りタイヤの製造装置1は、台タイヤBTの内側に配置される円筒状の金属製剛性内型2(以下、剛性内型2という)と、この剛性内型2とともに台タイヤBTが中に配置される加硫用金型10と、射出機13とを備えている。この実施形態の製造装置1は、さらに、加硫用金型10の内側に配置された剛性内型2を冷却する冷却手段8、9を備えている。
【0019】
台タイヤBTとは、通常の空気入りタイヤにおいてトレッド部TRのゴムがない状態のタイヤをいう。台タイヤBTは、使用された既存の空気入りタイヤのトレッド部TRのゴムを切削して形成される。ゴム切削後にその表面はバフ処理される。或いは、通常の空気入りタイヤの製造工程において、トレッド部TRのゴムだけを省略して製造することもできる。即ち、使用されていない新品の台タイヤBTを製造することもできる。本発明は、既存の空気入りタイヤのトレッド部TRのゴムを切削して形成された台タイヤBTおよび新品の台タイヤBTのいずれも使用することができる。
【0020】
図3、
図4に例示するように、剛性内型2は周方向に複数に分割可能になっていて、周方向に分割された複数のセグメント3(3A、3B)が、円筒状に組み付けられる構造になっている。剛性内型2の材質としては、炭素鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属を例示できる。この実施形態では、周方向長さが相対的に大きい4つの長セグメント3Aと、相対的に小さい4つの短セグメント3Bの2種類で構成されている。短セグメント3Bの周方向両端面は平面視で平行になっている。長セグメント3Aと短セグメント3Bとは周方向に交互に配置されている。
【0021】
それぞれのセグメント3A、3Bは中心軸5から放射状に延設された支持アーム6に取り付けられている。それぞれのセグメント3A、3B、中心軸5、支持アーム6は別々に分離可能になっている。即ち、剛性内型2は拡縮する構造ではなく、それぞれのセグメント3に別々に分離、分割されて細分化される構造になっている。周方向に隣り合うセグメント3A、3Bどうしは必要であれば、その内周側で適宜の連結部材によって連結される。
【0022】
互いが分離して分割状態のセグメント3A、3Bを円筒状に組み付けるとともに、中心軸5および支持アーム6を連結することにより剛性内型2が形成される。形成した剛性内型2では、それぞれのセグメント3A、3Bの外側表面は円環状に連続して台タイヤBTのトレッド部TRに対応するタイヤ内面の範囲に当接する。
【0023】
加硫用金型10は、周方向に分割された複数の分割型10aで構成されている。この実施形態では、4つの分割型10aが環状に組み付けられている。それぞれの分割型10aが半径方向に移動し、半径方向内周側に移動することにより加硫用金型10が閉型して、半径方向外周側に移動することにより加硫用金型10が開型する。
【0024】
閉型した加硫用金型10は、剛性内型2が内側に配置されている台タイヤBTのトレッド部TRに相当する台タイヤBTの外周面を覆う。この加硫用金型10の内周面と台タイヤBTの外周面との間にはキャビティ11が形成される。
【0025】
それぞれの分割型10aには、キャビティ11を形成する内周面と、形成されたキャビティ11に接続する注入路12とが形成されている。キャビティ11を形成する分割型10aの内周面は、製造する空気入りタイヤTのトレッドパターンを成形する形状になっている。注入路12の一端部は、射出機13の射出口に接続される。
【0026】
注入路12の他端部は、例えば、製造する空気入りタイヤTのトレッド陸部または周方向溝に相当する分割型10aの内周面の位置に接続される。注入路12は、途中で複数本に分岐してキャビティ11に接続されることが好ましい。
【0027】
それぞれの分割型10aにはさらに、加熱機15に接続される加熱路14が形成されている。加熱機15はスチーム等の加熱媒体を供給し、供給された加熱媒体が加熱路14を流れて分割型10aが加熱される。
【0028】
射出機13は、未加硫ゴムRを所定温度で加温しつつ収容するシリンダ13aと、シリンダ13aに収容されている未加硫ゴムRを押出すプランジャ13bと備えている。プランジャ13bを前進させることにより、未加硫ゴムRを所定の射出圧力で射出する。この射出圧力は例えば10MPa〜50MPaである。
【0029】
未加硫ゴムRは射出できる流動特性を有し、加硫が可能な仕様であればよく、例えば、天然ゴム、IR、SBR、BRなどのジエン系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDMなどの非ジエン系ゴム、カーボンブラック、オイル、老化防止剤、加工助剤、軟化剤、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等の各種配合材料が適宜配合されている。
【0030】
冷却手段は例えば、冷却機9と冷却路8とで構成される。冷却路8は剛性内型2(セグメント3)に設けられる。冷却機9は水等の冷却媒体を冷却路8に供給する。この冷却手段によって剛性内型2(セグメント3)の温度は例えば、40℃〜120℃に維持される。
【0031】
この製造装置1を用いて空気入りタイヤを製造する方法の手順の一例を説明する。
【0032】
加硫用金型10の外で、台タイヤBTの内側にセグメント3を挿入して円筒状に組み付けて剛性内型2を内側に配置する。これにより、それぞれのセグメント3が台タイヤBTのトレッド部TRに対応するタイヤ内面の範囲に当接した状態になる。即ち、台タイヤBTのトレッド部TRに対応するタイヤ内面は、円筒状に配置されたセグメント3によって強固に支えられることになる。
【0033】
次いで、台タイヤBTを剛性内型2とともに、開型した加硫用金型10の中に配置する。次いで、加硫用金型10を閉型することにより、トレッド部TRに相当する台タイヤBTの外周面を加硫用金型10で覆う。これにより、
図1に例示するように加硫用金型10の内周面と台タイヤBTの外周面との間にはキャビティ11が形成される。
【0034】
次いで、
図5に例示するように射出機13からキャビティ11に未加硫ゴムRを射出して、注入路12を通じてキャビティ11に充填する。例えば、台タイヤBTを剛性内型2とともに加硫用金型10の中に配置する際に、射出する未加硫ゴムRを射出機13のシリンダ13aに充填する。このようにすれば、未加硫ゴムRを迅速にキャビティ11に射出することが可能になるので、未加硫ゴムRが不要な熱履歴を受け難くなる。これに伴い、未加硫ゴムRの流動性が低下しない状態で射出できるので、未加硫ゴムRをキャビティ11の全範囲に十分に行き渡らせるには益々有利になる易くなる。
【0035】
キャビティ11に充填された未加硫ゴムRは、キャビティ11によって所定形状に成形される。そして、加熱路14を流れる加熱媒体によって加熱された加硫用金型10により、射出した未加硫ゴムRを加硫させる。
【0036】
未加硫ゴムRが加硫されると、台タイヤBTの外周面に、この加硫したゴムからなるトレッド部TRが形成されるとともにこのトレッド部TRが台タイヤBTの外周面に加硫接着して一体化する。これにより、空気入りタイヤTが完成する。
【0037】
次いで、この空気入りタイヤTを、この空気入りタイヤTの内側に配置されている剛性内型2とともに加硫用金型10の外に取り出す。その後、加硫用金型10の外において空気入りタイヤTの内側の剛性内型2をセグメント3に分離、分割して空気入りタイヤTの内側から取り外す。
【0038】
上述したように本発明では、タイヤ内面に金属製の剛性内型2を当接させた状態にして台タイヤBTを内側から堅牢な剛性内型2によって支える。この状態でキャビティ11に未加硫ゴムRを射出するので、未加硫ゴムRの射出圧力によって台タイヤBTが内側に凹むという不具合を回避できる。
【0039】
また、台タイヤBTのタイヤ内面に当接させた剛性内型2は金属製なので、台タイヤBTの熱を放出する空冷の冷却フィンとして機能する。そのため、台タイヤBTの温度上昇を抑えることができ、台タイヤBTを形成している加硫ゴムの熱劣化を抑制するには有利になる。
【0040】
本発明では、冷却手段8、9によって剛性内型2を通じて台タイヤBTの内側を冷却しながら未加硫ゴムRを射出し、加硫させることができる。そのため、台タイヤBTの温度上昇を積極的に抑えることができるので、台タイヤBTの熱劣化を抑制するには益々有利になる。
【0041】
台タイヤBTを内側から剛性内型2によって支えるので、加硫用ブラダによって台タイヤBTの内側を支える場合に比して、未加硫ゴムRの射出圧力を高く設定することが可能になる。これに伴って、射出時間を短縮できるという利点があり、タイヤ生産性の向上に寄与する。また、未加硫ゴムRをキャビティ11の全範囲に十分に行き渡らせ易くなるという利点もある。したがって、複雑なトレッドパターンであっても成形するには有利になる。これら利点は寸法精度を向上させるにも有利である。
【0042】
さらには、剛性内型2を台タイヤBTの内側に配置する作業、製造した空気入りタイヤTの内側から剛性内型2を取り外す作業を加硫用金型10の外部にて行なうことができる。そのため、これら作業を行なうための機構を製造装置1に設ける必要がなくなり、製造装置1の簡素化には有利になる。
【0043】
未加硫ゴムRとして、スタッドレスタイヤ用のゴムコンパウンドを使用してスタッドレスタイヤを製造することもできる。スタッドレスタイヤは通常の空気入りタイヤに比してトレッド部TRが摩耗し易いが、本発明を適用することにより、ユーザは新品のスタッドレスタイヤを購入することなく、新しいトレッド部TRを備えたスタッドレスタイヤを得ることができる。この場合、台タイヤBTとして既存のスタッドレスタイヤのトレッド部TRのゴムを削除したものだけでなく、通常の既存の空気入りタイヤのトレッド部TRのゴムを削除したものを用いることもできる。台タイヤBTを使用して新たなスタッドレスタイヤを製造するので、省資源、省エネルギーにも寄与する。また、従来のリトレッド技術よりも熱劣化を抑えられるので、長く使用可能である。
【0044】
台タイヤBTとして、既存のスタッドレスタイヤのトレッド部TRのゴムを切削して形成されたものを使用する場合、未加硫ゴムRとして、この既存のスタッドレスタイヤのトレッド部TRに使用されているゴムコンパウンドとは異なる種類のゴムコンパウンドを使用することもできる。スタッドレスタイヤのトレッド部TRのゴムコンパウンドは年々改良されて新たなバージョンや新たなゴム種が開発されている。それ故、本発明を適用することにより、ユーザは、トレッド部TRのゴムコンパウンドが改良された新品のスタッドレスタイヤを購入しなくても、トレッド部TRに改良されたゴムコンパウンドを備えたスタッドレスタイヤを得ることができる。即ち、ユーザは毎年新品のスタッドレスタイヤを購入することなく、トレッド部TRに最新開発のゴムコンパウンドを備えたスタッドレスタイヤを得ることができる。
【0045】
スタッドレスタイヤのトレッド部TRのゴムコンパウンドは年々改良されて、例えば、同条件での硬度、比重、摩擦特性が改良される。そこで、台タイヤBTとして、既存のスタッドレスタイヤのトレッド部TRのゴムを切削して形成されたものを使用する場合、既存のスタッドレスタイヤのトレッド部TRに使用されているゴムコンパウンドと台タイヤBTの外周面に形成されたトレッド部TRのゴムコンパウンドとは、例えば、同条件での硬度、比重、摩擦特性の少なくとも1つの特性が異なるようにする。即ち、これら特性をスタッドレスタイヤの性能を改善させるように異ならせる。尚、これらの特性の複数、或いはすべてを異ならせるようにしてもよい。
【0046】
本発明で用いる剛性内型2は拡縮する構造ではなく、それぞれのセグメント3に別々に分離、分割されて細分化される構造であるが、その構造は上記実施形態に限らず、種々の構造を採用することができる。例えば、
図6〜
図8に示す剛性内型2を用いることもできる。
【0047】
この剛性内型2は円筒状であり、周方向に複数に分割されたセグメント3から構成されている。それぞれのセグメント3が更に円筒周面を幅方向に二分割するように構成されている。
【0048】
幅方向に分割されたセグメント3の互いに対向する端部の内周面にはそれぞれ連結部3bが形成されている。これら連結部3bには、ボルトやピン等の連結部材7が挿入される挿入孔が形成されている。これら挿入孔は両方を貫通穴にすることも、一方を貫通穴にして他方を一端部を閉じた穴にすることもできる。
【0049】
台タイヤBTの内側に剛性内型2を配置するには
図6に例示するように、分離、分割されたセグメント3を台タイヤBTの内部に挿入する。次いで、幅方向に分割されたセグメント3の外周面を台タイヤBTの内周面に当接させた状態で、それぞれの連結部3bどうしを付き合わせる。次いで、一方の連結部3bから他方の連結部3bに向けて連結部材7を挿入してセグメント3を台タイヤBTに対して所定位置にセットする。このセット状態では、セグメント3の内周の縁部3aが、台タイヤBTのビード部Tbに当接してビード部Tbの内周側に配置されている。
【0050】
次いで、
図7に例示するようにタイヤ半径方向に延びる支持アーム6を台タイヤBTの内部に挿入し、支持アーム6の先端の嵌合部6aを、連結部材7が連通している連結部3b、3bに嵌合させる。この支持アーム6の後端のシャフト部6bはタイヤ幅方向に延在して、その両端部がそれぞれ台タイヤBTのビード部Tbに位置する。シャフト部6bの両端部には、セグメント3の縁部3aに係合する円環状の保持リング4を係合させて、これらセグメント3を台タイヤBTの内側に固定する。台タイヤBTのそれぞれのビード部Tbは剛性内型2と保持リング4とによって挟まれた状態になる。
【0051】
順次、同様にセグメント3を台タイヤBTの内側に周方向に隣接させて固定することにより、
図8に例示するように、円筒状の剛性内型2が台タイヤBTの内側に配置される。周方向に隣り合うセグメント3どうしは必要であれば、その内周側で適宜の連結部材によって連結される。製造した空気入りタイヤTから剛性内型2を取り外す際には、台タイヤBTの内側に剛性内型2を配置する上述した手順と逆の手順を行えばよい。したがって、剛性内型2を台タイヤBTの内側に配置する作業、製造した空気入りタイヤTの内側から剛性内型2を取り外す作業を加硫用金型10の外部にて行なうことができる。尚、この剛性内型2にも上述した冷却路8を設けて、冷却機9から冷却媒体を供給する構成
にする。
【0052】
図9〜
図11に例示する別の剛性内型2は円筒状であり、周方向に複数に分割されたセグメント3から構成されている。それぞれのセグメント3の周方向長さは、概ね、台タイヤBTの一対のビード部Tbの間隔よりも短くなっている。
【0053】
台タイヤBTの内側に剛性内型2を配置するには
図9、
図10に例示するように、分離、分割されたセグメント3を、その周方向を台タイヤBTの幅方向に向けて台タイヤBTの内部に挿入する。次いで、セグメント3の周方向を台タイヤBTの周方向に向けて回転させて、セグメント3の外周面を台タイヤBTの内周面に当接させた状態にしてセグメント3を台タイヤBTに対して所定位置にセットする。このセット状態では、セグメント3の内周の縁部3aが、台タイヤBTのビード部Tbに当接してビード部Tbの内周側に配置されている。それぞれの縁部3aには、台タイヤBTのビード部Tbの近傍に配置される円環状の保持リング4を係合させて、セグメント3を台タイヤBTの内側に固定する。台タイヤBTのそれぞれのビード部Tbは剛性内型2と保持リング4とによって挟まれた状態になる。
【0054】
順次、同様にセグメント3を台タイヤBTの内側に周方向に隣接させて固定することにより、
図11に例示するように、円筒状の剛性内型2が台タイヤBTの内側に配置される。周方向に隣り合うセグメント3どうしは必要であれば、その内周側で適宜の連結部材によって連結される。製造した空気入りタイヤTから剛性内型2を取り外す際には、台タイヤBTの内側に剛性内型2を配置する上述した手順と逆の手順を行えばよい。剛性内型2を台タイヤBTの内側に配置する作業、製造した空気入りタイヤTの内側から剛性内型2を取り外す作業を加硫用金型10の外部にて行なうことができる。尚、この剛性内型2にも上述した冷却路8を設けて、冷却機9から冷却媒体を供給する構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 製造装置
2 剛性内型
3 セグメント
3A 長セグメント
3B 短セグメント
3a 縁部
3b 連結部
4 保持リング
5 中心軸
6 支持アーム
6a 嵌合部
6b シャフト部
7 連結部材
8 冷却路
9 冷却機
10 加硫用金型
10a 分割型
11 キャビティ
12 注入路
13 射出機
13a シリンダ
13b プランジャ
14 加熱路
15 加熱機
BT 台タイヤ
T 空気入りタイヤ
Tb ビード部
TR トレッド部
R 未加硫ゴム
【要約】
【課題】台タイヤの熱劣化を抑制しつつ、寸法精度よくトレッド部を形成でき、設備のコンパクト化が可能な空気入りタイヤの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】台タイヤBTのトレッド部TRに対応するタイヤ内面の範囲に円筒状の金属製剛性内型2を当接させた状態にし、台タイヤBTを内側から周方向に分割可能な堅牢な剛性内型2によって支え、この状態でトレッド部TRに相当する台タイヤBTの外周面を覆う加硫用金型10の内周面と台タイヤの外周面との間に形成されたキャビティ11に未加硫ゴムRを射出して、この未加硫ゴムRを加硫させることにより台タイヤBTの外周面にトレッド部TRを形成するとともにこのトレッド部TRを外周面に一体化させて空気入りタイヤTを製造し、空気入りタイヤTを加硫用金型10の外に取り出した後で空気入りタイヤTの内側から剛性内型2を取り外す。
【選択図】
図5