(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910859
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】トルク変動吸収ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/18 20060101AFI20160414BHJP
F16F 15/126 20060101ALI20160414BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20160414BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
F16F15/18 A
F16F15/126 D
F16F15/12 S
F16F15/126 B
F16H55/36 H
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-23970(P2012-23970)
(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公開番号】特開2013-160332(P2013-160332A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−287647(JP,A)
【文献】
特開平07−119794(JP,A)
【文献】
特開2005−226799(JP,A)
【文献】
特開2007−232164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/18
F16F 15/12
F16F 15/126
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、このハブと同心的にかつ相対回転可能な状態に配置されたプーリ本体がカップリングゴムを介して連結され、前記ハブ側及びプーリ本体側のうちの一方に、円周方向へ延びる空隙を介して異なる磁極が軸方向に互いに対向する磁石が設けられ、前記ハブ側及びプーリ本体側のうちの他方に、導電プレートが設けられ、前記導電プレートが、前記磁石と円周方向相対変位可能な状態で前記空隙に遊挿されたことを特徴とするトルク変動吸収ダンパ。
【請求項2】
磁石が、軸方向に対向すると共にその対向面に異なる磁極が着磁された対向凸部が円周方向所定間隔で複数対形成されたものであり、導電プレートが、前記各対向凸部間の空隙へ円周方向に出入り可能な複数の凸片が円周方向所定間隔で形成されたことを特徴とする請求項1に記載のトルク変動吸収ダンパ。
【請求項3】
磁石又は導電プレートが、マウント部を介してハブ側又はプーリ本体側に弾性的に支持されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルク変動吸収ダンパ。
【請求項4】
マウント部が、所定の振幅未満の変位に対してはばね定数が低く、所定の振幅以上の変位に対してはばね定数が高くなる非線形特性を有することを特徴とする請求項3に記載のトルク変動吸収ダンパ。
【請求項5】
導電プレートが、ハブ又はプーリ本体に一体に形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のトルク変動吸収ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトを介して回転機器へトルクを伝達するプーリに、伝達トルクの変動を吸収する機構を設けたトルク変動吸収ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関で発生する駆動力の一部は、クランクシャフトの端部に設けられたプーリから、これに巻き掛けられたベルトを介して例えばオルタネータやウォーターポンプ等の補器に与えられるが、クランクシャフトは内燃機関の各行程によるトルク変動を伴って回転されるので、前記プーリには、トルク変動を吸収して伝達トルクの平滑化を図るためのトルク変動吸収機構が設けられる。
図12は、このようなトルク変動吸収機構が設けられたプーリ(トルク変動吸収ダンパ)の典型的な従来技術を示すものである。
【0003】
すなわち、この種のトルク変動吸収ダンパは、自動車用内燃機関のクランクシャフトの端部に取り付けられて一体に回転するハブ100と、このハブ100に取り付けられたダイナミックダンパ部110及びフレキシブルカップリング部120を備える。
【0004】
ダイナミックダンパ部110は、ハブ100の外筒部101と、その外周に配置した環状質量体112の間に、ゴム状弾性を有するダンパゴム111を圧入した構造を有する。また、カップリング部120は、内径の被支持筒部121aがハブ100の外筒部101にベアリング122を介して支持されたプーリ本体121と、ハブ100の内筒部102の外周面に嵌着されたスリーブ123と前記プーリ本体121の内径の被支持筒部121aとの間に加硫接着されたゴム状弾性を有するカップリングゴム124とからなる。
【0005】
すなわち、この種のトルク変動吸収ダンパは、クランクシャフトからハブ100へ入力されたトルクを、フレキシブルカップリング部120において、カップリングゴム124の捩り方向剪断変形作用によってトルク変動を吸収しながらプーリ本体121へ伝達すると共に、ダンパゴム111及び環状質量体112で構成されるばね−質量系からなるダイナミックダンパ部110が、クランクシャフトの共振周波数域で捩り方向へ共振することによって、クランクシャフトの共振を動的吸収する制振機能を発揮するものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第2605662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような構造の従来のトルク変動吸収ダンパは、内燃機関を起動し、あるいは停止する際に、クランクシャフトの回転数の変化に伴うトルク変動の周波数の変化が、フレキシブルカップリング部120の共振点を通過することから、このときの共振によるトルク変動の増大によって大きく振れ回るプーリ本体121と、これに巻き掛けられた不図示のベルトとの間に滑りを生じる問題がある。そしてこのようなベルトスリップを生じると、「ベルト鳴き」と呼ばれる異音が発生するばかりか、ベルトの耐久性を低下させ、走行に支障を来たすなどの懸念がある。
【0008】
また、フレキシブルカップリング部120におけるカップリングゴム124の捩り方向の過大変形を防止するには、ハブ100とプーリ本体121の円周方向相対変位量を制限するために、ピンと孔の遊嵌構造等によるストッパ機構を設ける必要があるが、クランクシャフトの回転時、フレキシブルカップリング部120には、ベルトを介して補機の負荷によるプリトルクが作用しており、これによって予めカップリングゴム124がねじれた状態になっているため、ハブ100とプーリ本体121の円周方向両側への相対変位量を制限するストッパ機構を設けることが難しいといった問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、トルクを、その変動を吸収しながら伝達可能であって、しかも共振等による大きなトルク変動入力時のベルトスリップの発生を防止可能なトルク変動吸収ダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、ハブと、このハブと同心的にかつ相対回転可能な状態に配置されたプーリ本体がカップリングゴムを介して連結され、前記ハブ側及びプーリ本体側のうちの一方に、円周方向へ延びる空隙を介して異なる磁極が軸方向に互いに対向する磁石が設けられ、前記ハブ側及びプーリ本体側のうちの他方に、導電プレートが
設けられ、前記導電プレートが、前記磁石と円周方向相対変位可能な状態で前記空隙に遊挿されたものである。
【0011】
上記構成によれば、入力トルクは、ハブとプーリ本体の間で弾性体を介して伝達されると共に、伝達トルクの変動は、カップリングゴムの円周方向剪断変形によって吸収される。そして、トルク変動に伴うハブとプーリ本体の円周方向相対変位によって、ハブ側及びプーリ本体側のうちの一方に設けられた磁石と他方に設けられた導電プレートが円周方向相対変位すると、軸方向に対向する磁極間で導電プレートを軸方向に貫通している磁束によって、導電プレートに顕著な渦電流を生じ、この渦電流による磁界は磁石と導電プレートの円周方向相対変位を妨げる電磁ブレーキ作用を惹起するので、ハブとプーリ本体の過大な円周方向相対変位によるカップリングゴムの過大変形が抑制される。
【0012】
請求項2の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1に記載された構成において、磁石が、軸方向に対向すると共にその対向面に異なる磁極が着磁された対向凸部が円周方向所定間隔で複数対形成されたものであり、導電プレートが、前記各対向凸部間の空隙へ円周方向に出入り可能な複数の凸片が円周方向所定間隔で形成されたものである。
【0013】
上記構成によれば、トルク変動に伴うハブとプーリ本体の円周方向相対変位によって、ハブ側及びプーリ本体側のうちの一方に設けられた磁石と他方に設けられた導電プレートが円周方向相対変位すると、導電プレートの各凸片が、磁石における各対向凸部間の空隙へ円周方向に出入りすることによって、各対向凸部(各対向磁極)間で前記凸片を貫通する磁束の量が変化し、渦電流がこのような磁束の変化を打ち消すように各凸片に生じるので、磁石と凸片(導電プレート)の円周方向相対変位が抑制される。
【0014】
請求項3の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1又は2に記載された構成において、磁石又は導電プレートが、マウント部を介してハブ側又はプーリ本体側に弾性的に支持されたものである。
【0015】
上記構成によれば、磁石と導電プレートの電磁ブレーキ作用によるハブとプーリ本体の円周方向相対変位抑制作用が、マウント部の変形によって緩和されるので、通常のトルク変動入力に対するカップリングゴムの円周方向剪断変形によるトルク変動吸収機能が確保され、ハブとプーリ本体の円周方向相対変位抑制作用を適宜に調節することができる。
【0016】
請求項4の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項3に記載された構成において、マウント部が、所定の振幅未満の変位に対してはばね定数が低く、所定の振幅以上の変位に対してはばね定数が高くなる非線形特性を有するものである。
【0017】
上記構成によれば、アイドル回転以上の常用回転域の通常のトルク変動に対しては、磁石と導電プレートの電磁ブレーキ作用によるハブとプーリ本体の円周方向相対変位抑制作用がばね定数の低いマウント部によって緩和されるので、カップリングゴムの円周方向剪断変形によるトルク変動吸収機能が確保され、アイドル回転未満の低回転域の大振幅変位やベルト共振による大振幅変位に対してのみ、前記電磁ブレーキ作用を有効に機能させることができる。
【0018】
請求項5の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1〜4のいずれかに記載された構成において、導電プレートが、ハブ又はプーリ本体に一体に形成されたものである。
【0019】
上記構成によれば、構造を簡素化し、導電プレートを設けることによる部品数の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るトルク変動吸収ダンパによれば、ハブとプーリ本体の間での弾性体の円周方向剪断変形によって、入力トルクを、その変動を吸収しながら伝達可能であり、しかも大きなトルク変動入力に対しては、軸方向に対向する磁極間で導電プレートを軸方向に貫通している磁束によって磁石と導電プレートの間に顕著な電磁ブレーキ作用を生じてカップリングゴムの過大変形が抑制されるので、ベルトスリップやカップリングゴムの破断を防止して長期間にわたって優れたトルク変動吸収機能を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第一の実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図2】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第一の実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。
【
図3】
図2からハブ及びダイナミックダンパ部を除去した状態を示す断面斜視図である。
【
図4】第一の実施の形態に係るトルク変動吸収ダンパの概略モデルを示す説明図である。
【
図5】第一の実施の形態による防振特性を示す線図である。
【
図6】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第二の実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図7】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第二の実施の形態を、その軸心を通る平面で切断して示す断面斜視図である。
【
図8】
図7からハブ及びダイナミックダンパ部を除去した状態を示す断面斜視図である。
【
図9】第二の実施の形態に係るトルク変動吸収ダンパの概略モデルを示す説明図である。
【
図10】本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第二の実施の形態の部分変更例を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図11】第二の実施の形態におけるマウント部のばね特性を示す線図である。
【
図12】従来の技術によるトルク変動吸収ダンパの一例を、その軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は第一の実施の形態に係るトルク変動吸収ダンパを、その軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図、
図2は断面斜視図、
図3は
図2からハブ及びダイナミックダンパ部を除去した状態を示す断面斜視図、
図4は第一の実施の形態の概略モデルを示す説明図である。なお、以下の説明において用いられる「正面側」とは、
図1における左側、すなわち車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、
図1における右側、すなわち不図示の内燃機関が存在する側のことである。
【0023】
図1及び
図2において、参照符号1は、自動車の内燃機関のクランクシャフト(不図示)の端部に取り付けられるハブである。このハブ1は、金属材料の鋳造等により製作されたものであって、クランクシャフトに固定される取付筒部11と、そこから段差部12を介して正面側へ延びる内筒部13と、この内筒部13の正面側の端部から外径側へ展開する円盤部14と、その外径端部から背面側へ延びる外筒部15からなる。
【0024】
参照符号2は、ハブ1に取り付けられたダイナミックダンパ部で、ハブ1の外筒部15と、その外周に配置した金属製の環状質量体21を、ダンパゴム22を介して弾性的に連結した構造を有する。ダンパゴム22は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で環状に成形され、ハブ1の外筒部15の外周面と環状質量体21の内周面の間に圧入等によって介在されたものである。
【0025】
ダイナミックダンパ部2の捩り方向(円周方向)の固有振動数は、環状質量体21の円周方向慣性質量と、ダンパゴム22の捩り方向剪断ばね定数によって、機関振動等によるクランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、言い換えればクランクシャフトの捩り方向固有振動数と合致するように同調されている。
【0026】
参照符号3はフレキシブルカップリング部で、プーリ本体31とハブ1を、カップリングゴム32を介して弾性的に連結した構造を有する。詳しくは、プーリ本体31は外周面に不図示のベルトを巻き掛けるためのポリV溝31aが形成され、その背面側の端部からダイナミックダンパ部2の背面側へ廻り込む背面壁部31bを介してハブ1の外筒部15の内周側を正面側へ延びる被支持筒部31cを有するものであって、カップリングゴム32は、ハブ1の内筒部13の外周面に嵌着されたスリーブ33と前記プーリ本体31の被支持筒部31cとの間に、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体に加硫成形されたものである。
【0027】
カップリングゴム32は、捩り方向剪断ばね定数がダンパゴム22に比較して十分に低いものであると共に、捩り方向への許容変形量が大きなものとなっており、また、大きなトルク伝達力を与えるため、軸方向及び径方向の肉厚が十分に大きく形成されている。また、このカップリングゴム32は、ハブ1とプーリ本体31の間で捩り方向剪断変形を受けた時に径方向全域で剪断応力がほぼ均一になるように、軸方向の肉厚が外径側ほど減少する形状となっている。
【0028】
ハブ1の外筒部15の内周面と、プーリ本体31の被支持筒部31cとの間には、ベアリング4が摺動可能な状態で介在している。このベアリング4は摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の合成樹脂材料からなるものであって、円筒状に成形されており、すなわちプーリ本体31は、ベアリング4を介して、ハブ1の外筒部15に相対回転可能な状態で同心的に支持されている。
【0029】
フレキシブルカップリング部3におけるカップリングゴム32の正面側には、磁石5が配置されており、この磁石5はハブ1の内筒部13の外周面に固定されている。
【0030】
詳しくは、磁石5は環状であって、円周方向へ延びる空隙δを介して軸方向に互いに対向すると共にその対向面に極性の異なる磁極(S極とN極)が着磁された対向凸部5a,5bが、
図3に示すように、円周方向等間隔で複数対形成されている。なお、この磁石5は、環状体に複数対の永久磁石を取り付けることによって対向凸部5a,5bを形成したものであっても良い。
【0031】
プーリ本体31の被支持筒部31cの正面側の端部には、環状の導電プレート6が取り付けられている。この導電プレート6は、導電性材料(好ましくは透磁率が高く電気抵抗の低い金属)からなるものであって、前記被支持筒部31cの端部外周面に圧入嵌着された嵌着筒部6aと、この嵌着筒部6aから円周方向所定間隔で内径側へ屈曲して延びる凸片6bからなる。
【0032】
導電プレート6の凸片6bは、
図3に示すように円周方向等間隔で複数形成されており、これら各凸片6bは、ハブ1の内筒部13に設けられた磁石5における各対向凸部5a,5b間の各空隙δを円周方向へ貫通した状態で遊挿され、すなわち磁石5に対して円周方向相対変位可能な状態で設けられている。
【0033】
このため、磁石5の対向凸部5a,5bに着磁された異なる磁極間に形成される磁束は、前記対向凸部5a,5b間の空隙δ内にある導電プレート6の凸片6bを軸方向に貫通しており、したがって、対向凸部5a,5bと凸片6bが円周方向相対変位することによって凸片6bに渦電流を生じ、この渦電流により誘導される磁界は対向凸部5a,5b(磁石5)と凸片6b(導電プレート6)の円周方向相対変位を妨げる電磁ブレーキ作用を惹起するようになっている。
【0034】
そして
図4に示すように、この磁石5と導電プレート6による電磁ブレーキ機構は、ハブ1とプーリ本体31の間で、カップリングゴム32と並列に設けられた関係にある。
【0035】
また、磁石5を対向凸部5a,5bが円周方向等間隔で複数対形成された形状とし、導電プレート6を凸片6bが円周方向等間隔で複数形成された形状とすることによって、図示のように組み込むことが可能となる。
【0036】
以上の構成を備える第一の実施の形態のトルク変動吸収ダンパは、ハブ1の取付筒部11が、不図示のクランクシャフトの軸端に装着されることによってこのクランクシャフトと共に回転される。クランクシャフトのトルクは、ハブ1からフレキシブルカップリング部3のスリーブ33及びカップリングゴム32を介してプーリ本体31へ伝達され、更にプーリ本体31に巻き掛けられたベルトを介して補機の回転軸に伝達される。
【0037】
そしてダイナミックダンパ部2は、機関振動等に起因するクランクシャフトの捩り振動による捩れ角が最大となる振動数域で捩り方向に共振することによって動的吸振機能を奏するので、クランクシャフトの捩れ角のピークを有効に低減することができる。また、アイドル回転等においてクランクシャフトからハブ1へ入力されるトルク変動は、フレキシブルカップリング部3におけるカップリングゴム32が低ばねで捩り方向へ剪断変形されることによって吸収される。
【0038】
ここで、
図5に示す防振特性線のように、この種のトルク変動吸収ダンパでは、フレキシブルカップリング部3の捩り共振領域(振動伝達率が1より大きい領域)が、アイドル振動よりも低い振動数域に設定される。これは、アイドル振動以上の全ての振動数域(常用回転数域)で、振動伝達率が1より小さい防振領域となるようにするためである。したがって、アイドル回転より低回転の、起動・停止時には、トルク変動の周波数がフレキシブルカップリング部3の共振点を通過することになるが、本発明によれば、この共振領域では、磁石5と導電プレート6による電磁ブレーキ機構によって共振倍率を顕著に低下させることができる。
【0039】
詳しくは、フレキシブルカップリング部3の共振によって、プーリ本体31がハブ1に対して円周方向へ大きく相対変位しようとすると、これに伴い、ハブ1に設けられた磁石5の各対向凸部5a,5bとプーリ本体31に設けられた導電プレート6の各凸片6bが円周方向相対変位するため、対向凸部5a,5bに着磁された異なる磁極間で凸片6bを軸方向に貫通している磁束によって、この凸片6bに渦電流を生じ、この渦電流により誘導される磁界は磁石5と凸片6b(導電プレート6)の円周方向相対変位を妨げる電磁ブレーキ作用を惹起する。そして、磁石5と凸片6bの相対変位量が大きいほどその相対移動速度も大きくなるが、凸片6bに生じる渦電流の大きさ、言い換えればそれによる磁界の強さは前記相対移動速度と共に大きくなる。
【0040】
また、導電プレート6の各凸片6bの円周方向幅を適切に設定しておけば、ハブ1とプーリ本体31の円周方向相対変位量が所定の大きさを超えると、各凸片6bが、磁石5における各対向凸部5a,5b間へ円周方向に出入りすることによって、各対向凸部5a,5b(各対向磁極)間で前記凸片6bを貫通する磁束の量が変化し、渦電流がこのような磁束の変化を打ち消すように各凸片6bに生じることによっても、磁石5と導電プレート6間に電磁ブレーキ作用が惹起される。
【0041】
したがって、このような電磁ブレーキ作用によって、ハブ1とプーリ本体31の過大な円周方向相対変位が抑えられるので、カップリングゴム32の過大変形が抑制されると共に、プーリ本体31と、これに巻き掛けられた不図示のベルトのバタツキ及び滑り(ベルトスリップ)や、それに起因するベルト鳴き及びベルトの耐久性低下を有効に防止することができる。
【0042】
次に
図6は、本発明の第二の実施の形態に係るトルク変動吸収ダンパを、その軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図、
図7は断面斜視図、
図8は
図7からハブ及びダイナミックダンパ部を除去した状態を示す断面斜視図、
図9は第二の実施の形態の概略モデルを示す説明図である。
【0043】
この第二の実施の形態において、上述した第一の実施の形態と異なるところは、磁石5がマウント部7を介してハブ1の内筒部13の外周面に取り付けられたことにある。このマウント部7は、ハブ1の内筒部13の外周面に嵌着されたスリーブ71の外周面と磁石5の内周面との間に耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるマウント本体72が一体に加硫成形されたものである。
【0044】
その他の部分の構成は、第一の実施の形態と同様に構成されている。
【0045】
上述の構成を備える第二の実施の形態に係るトルク変動吸収ダンパによれば、磁石5と導電プレート6の電磁ブレーキ作用によるハブ1とプーリ本体31の円周方向相対変位抑制作用が、マウント部7のマウント本体72の変形によって緩和されるので、前記電磁ブレーキ作用を適切に調整することができる。
【0046】
また
図10は、第二の実施の形態に係るトルク変動吸収ダンパの部分変更例を示すもので、マウント本体72に円周方向所定間隔で複数のすぐり72aを形成することによって、円周方向に対するマウント本体72のばね定数を、
図11に示すように、例えばアイドル以上の回転領域で発生する所定の振幅未満の変位に対しては低いばね定数で、例えば起動・停止時などに発生する所定の振幅以上の変位に対しては、すぐり72aに形成した突起72bがすぐり72aの内面に圧接することによってマウント本体72の円周方向ばね定数が高くなるようにしたものである。
【0047】
この構成によれば、アイドル回転以上の常用回転域の通常のトルク変動に対しては、磁石5と導電プレート6の電磁ブレーキ作用によるハブ1とプーリ本体31の円周方向相対変位抑制作用が、すぐり72aによるマウント本体72の柔軟な変形によって緩和されるので、カップリングゴム32の円周方向剪断変形によるトルク変動吸収機能が確保され、アイドル回転未満の低回転域の大振幅変位やベルト共振による大振幅変位に対しては、マウント本体72が高ばねとなることによって、前記電磁ブレーキ作用を有効に機能させてカップリングゴム32の過大変形を抑制することができる。
【0048】
なお、上述した第一及び第二の実施の形態においては、磁石5をハブ1側に設け、導電プレート6をプーリ本体31側に設けたが、これとは逆に、磁石5をプーリ本体31側に設け、導電プレート6をハブ1側に設けても良い。
【0049】
また、プーリ本体31が金属板をプレスなどにより塑性加工して製作したものである場合は、導電プレート6をプーリ本体31に一体に形成することもできる。
【0050】
また、第二の実施の形態では磁石5をマウント部7により支持したが、これとは逆に、導電プレート6をマウント部7によりプーリ本体31側(又はハブ1側)に支持し、磁石5をハブ1側(又はプーリ本体31側)に固定した構成としても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 ハブ
2 ダイナミックダンパ部
21 環状質量体
22 ダンパゴム
3 フレキシブルカップリング部
31 プーリ本体
32 カップリングゴム
4 ベアリング
5 磁石
5a,5b 対向凸部
6 導電プレート
6b 凸片
7 マウント部
δ 空隙