(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910863
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】滑りブッシュ
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
F16F1/38 W
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-32730(P2012-32730)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170585(P2013-170585A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−065729(JP,U)
【文献】
実開昭63−007006(JP,U)
【文献】
実開平04−078343(JP,U)
【文献】
実開昭63−121833(JP,U)
【文献】
特開平09−291971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブッシュ本体と、このブッシュ本体の内周に配置されたブッシュ受けスリーブを備え、前記ブッシュ本体は、アウタースリーブと、このアウタースリーブの内周側に配置され、内周面に軸方向中間部で最も小径となる湾曲凸面が形成されたインナースリーブと、これらアウタースリーブとインナースリーブとの間に一体に設けられたゴム状弾性を有する弾性体からなり、前記ブッシュ受けスリーブは、変形可能な合成樹脂材料からなるものであって、外周面に前記インナースリーブの湾曲凸面と円周方向摺動可能に嵌合される湾曲凹面が形成され、ブッシュ受けスリーブの外周面の湾曲凹面が、インナースリーブの内周面の湾曲凸面より曲率半径が大きいことを特徴とする滑りブッシュ。
【請求項2】
インナースリーブの両端部とブッシュ受けスリーブの間にゴム状弾性材料からなるダストシールが介在されたことを特徴とする請求項1に記載の滑りブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション等に用いられる滑りブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションのアーム等の連結箇所には、振動低減手段として、内筒と外筒との間にゴム状弾性を有する筒状の弾性体を一体的に加硫成形した構造のブッシュが用いられるが、捩り方向の入力が厳しい箇所では、弾性体の過大変形による破断を防止するために滑り構造を設けたブッシュ、すなわち滑りブッシュが用いられることが知られている。
【0003】
図7に示すように、従来の滑りブッシュには、ブッシュ本体100が、インナースリーブ101と、このインナースリーブ101の外周側に同心的に配置され、不図示の一方の部材に取り付けられるアウタースリーブ102と、これらインナースリーブ101とアウタースリーブ102の間に一体的に加硫成形されたゴム状弾性を有する筒状の弾性体103からなり、インナースリーブ101の内周に摺動可能に挿入されると共に不図示の他方の部材に取り付けられる内周側取付筒104を備え、インナースリーブ101と内周側取付筒104の摺動面にグリースを介在させるか、又は固体潤滑材を設けたものがある。インナースリーブ101は、内周側取付筒104に設けたフランジ104a又はカラー105でバックアップされた弾性体106によって、リテーナ107を介して軸方向両側から弾性的に挟持され、これによってブッシュ本体100の軸方向変位が規制されている。
【0004】
すなわちこの滑りブッシュは、衝撃等による径方向変位の入力は弾性体103の弾性変形によって吸収し、また、捩り方向の変位入力は、インナースリーブ101と内周側取付筒104の摺動によって吸収するものである(例えば下記の特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−125291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような滑りブッシュは、軸方向変位を規制するための構成部品が多く、また、捩り方向にしか摺動することができず、その摺動性も十分ではなかった。
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、捩り方向の摺動性を向上させると共に、こじり方向への摺動も可能で、構造が簡素な滑りブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る滑りブッシュは、ブッシュ本体と、このブッシュ本体の内周に配置されたブッシュ受けスリーブを備え、前記ブッシュ本体は、アウタースリーブと、このアウタースリーブの内周側に配置され、内周面に軸方向中間部で最も小径となる湾曲凸面が形成されたインナースリーブと、これらアウタースリーブとインナースリーブとの間に一体に設けられたゴム状弾性を有する弾性体からなり、前記ブッシュ受けスリーブは、
変形可能な合成樹脂材料からなるものであって、外周面に前記インナースリーブの湾曲凸面と円周方向摺動可能に嵌合される湾曲凹面が形成
され、ブッシュ受けスリーブの外周面の湾曲凹面が、インナースリーブの内周面の湾曲凸面より曲率半径が大きいことを特徴とするものである。
【0009】
請求項1の構成によれば、衝撃等による径方向変位の入力をブッシュ本体における弾性体の変形によって吸収し、捩り方向の変位入力をインナースリーブとブッシュ受けスリーブの円周方向摺動によって吸収するものである。そしてブッシュ本体は、インナースリーブの内周面に形成された湾曲凸面がブッシュ受けスリーブの外周面に形成された湾曲凹面に嵌合されることによって、ブッシュ受けスリーブに対して捩り方向(円周方向)へ摺動可能であると共に軸方向への相対変位が規制され、しかも
ブッシュ受けスリーブが変形可能な合成樹脂材料からなり、湾曲凸面より湾曲凹面の曲率半径が大きいことによって、ブッシュ本体とブッシュ受けスリーブはこじり方向への相対変位が可能である。
【0012】
請求項2の発明に係る滑りブッシュは、
請求項1に記載された構成において、インナースリーブの両端部とブッシュ受けスリーブの間にゴム状弾性材料からなるダストシールが介在されたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の構成によれば、インナースリーブとブッシュ受けスリーブの摺動部へ外部からのダストが介入するのをダストシールにより防止して、良好な摺動性を維持することができる。また、このダストシールは、こじり変位の入力において、インナースリーブとブッシュ受けスリーブの間でゴムばねとしても機能する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る滑りブッシュによれば、簡素な構造で、捩り方向への摺動性を向上させると共に、こじり方向への変位を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態におけるブッシュ本体を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態におけるブッシュ受けスリーブを示す断面図である。
【
図3】本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態における組立状態の一例を示す断面図である。
【
図4】
図3の装着状態からこじりが入力された状態を示す断面図である。
【
図5】本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態における組立状態の第二の例を示す断面図である。
【
図6】本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態における組立状態の第三の例を示す断面図である。
【
図7】従来の滑りブッシュの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る滑りブッシュについて、図面を参照しながら説明する。まず
図1は、本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態におけるブッシュ本体を示す断面図、
図2はブッシュ受けスリーブを示す断面図、
図3は組立状態の一例を示す断面図、
図4はこじりが入力された状態を示す断面図である。
【0019】
この滑りブッシュは、
図3に示すように、ブッシュ本体1と、このブッシュ本体の内周に配置されたブッシュ受けスリーブ2と、さらにこのブッシュ受けスリーブ2の内周に嵌着される取付スリーブ3と、ダストシールとしての一対のOリング4を備える。
【0020】
ブッシュ本体1は、
図1にも示すように、アウタースリーブ11と、このアウタースリーブ11の内周側に配置されたインナースリーブ12と、これらアウタースリーブ11とインナースリーブ12との間にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体に加硫成形された筒状の弾性体13からなる。
【0021】
ブッシュ本体1におけるアウタースリーブ11及びインナースリーブ12はポリアミド等の合成樹脂材料、好ましくは固体潤滑剤としてのグラファイトを含有するナイロン66で成形され、このうちアウタースリーブ11は円筒状に成形され、インナースリーブ12は内周面が軸方向中間部で最も小径となる湾曲凸面12aをなす絞り円筒状に成形されている。すなわち湾曲凸面12aを、軸心を通る平面で切断した断面は、緩やかな円弧状をなすものである。また、インナースリーブ12の両端面12bは、外径側が軸方向外側へ張り出すような円錐面をなすように形成されている。
【0022】
上述のように、インナースリーブ12は絞り円筒状であってその両端面12bが円錐面をなす特殊形状であるが、合成樹脂材料による成形体であるため、低コストで生産することができる。
【0023】
ブッシュ受けスリーブ2は、
図2にも示すように、金属で製作された同形同大の一対のスリーブ半体2A,2Bからなるものであって、各スリーブ半体2A,2Bは、スリーブ本体部21と、その一端部から外径側へ開いた鍔部22からなり、スリーブ本体部21における鍔部22と反対側の端部21a同士で互いに衝合された状態で組み付けられるものである。
【0024】
ブッシュ受けスリーブ2の外周面、詳しくは、スリーブ半体2A,2Bにおけるスリーブ本体部21の外周面には、互いに衝合される端部21aの両側に跨って湾曲凹面21bが形成されている。この湾曲凹面21bはブッシュ本体1におけるインナースリーブ12の内周面である湾曲凸面12aと円周方向摺動可能に嵌合されるものであって、スリーブ本体部21の端部21aの外周で最も小径となるように形成され、軸心を通る平面で切断した断面は緩やかな円弧状をなし、湾曲凸面12aの曲率半径r1よりも、湾曲凹面21bの曲率半径r2のほうが大きいものとなっている。
【0025】
取付スリーブ3は金属で製作された一対のスリーブ半体3A,3Bからなるものであって、各スリーブ半体3A,3Bは、ブッシュ受けスリーブ2のスリーブ半体2A,2Bにおけるスリーブ本体部21の内周に圧入可能なスリーブ本体部31と、その一端部から外径側へ開いた鍔部32からなり、スリーブ本体部31における鍔部32と反対側の端部31a同士で互いに衝合された状態で組み付けられるものである。そしてこの組み付け状態では、鍔部32,32間の内法の長さが、ブッシュ受けスリーブ2の鍔部22,22の外法の長さとほぼ同一の長さLとなっており、したがって
図3に示す組立状態では、ブッシュ受けスリーブ2の鍔部22,22と取付スリーブ3の鍔部32,32が互いに衝合している。
【0026】
また、ブッシュ受けスリーブ2における一方のスリーブ半体2Aのスリーブ本体部21と、他方のスリーブ半体2Bのスリーブ本体部21は、長さが同一であるのに対し、取付スリーブ3における一方のスリーブ半体3Aのスリーブ本体部31と、他方のスリーブ半体3Bのスリーブ本体部31は、長さが互いに異なっており、すなわちブッシュ受けスリーブ2の分割位置(端部21aの衝合位置)と取付スリーブ3の分割位置(端部31aの衝合位置)が互いにずれており、これによってブッシュ受けスリーブ2と取付スリーブ3は互いに嵌着一体化している。
【0027】
ダストシールとしての一対のOリング4は、ブッシュ受けスリーブ2におけるスリーブ本体部21と鍔部22による隅部と、ブッシュ本体1におけるインナースリーブ12の円錐面状の両端面12bとの間に介在し、双方に密接している。
【0028】
以上のように構成された滑りブッシュは、
図1に示すように成形されたブッシュ本体1のインナースリーブ12の内周に、軸方向両側から、
図2に示すスリーブ半体2A,2B(ブッシュ受けスリーブ2)のスリーブ本体部21,21を、あらかじめOリング4を外挿した状態で、端部21a,21a同士が衝合するまで挿入し、次いでこのブッシュ受けスリーブ2の内周に、軸方向両側から、取付スリーブ3を構成するスリーブ半体3A,3B(取付スリーブ3)のスリーブ本体部31,31を、端部31a,31a同士が衝合するまで圧入することによって、
図3に示すように組み立てられる。
【0029】
そしてこの滑りブッシュは、ブッシュ本体1におけるアウタースリーブ11が例えば車両のサスペンションのアーム等の連結部における一方の部材に取り付けられ、ブッシュ受けスリーブ2と嵌合一体化された取付スリーブ3が前記アーム等の連結部における他方の部材に取り付けられ、衝撃等による大きな径方向変位の入力をブッシュ本体1における弾性体13の変形によって吸収し、捩り方向の変位入力を、ブッシュ本体1におけるインナースリーブ12の内周面(湾曲凸面12a)と、ブッシュ受けスリーブ2の外周面(湾曲凹面21b)の摺動によって吸収するものである。
【0030】
ここで、インナースリーブ12は例えばグラファイトを含有するナイロン66など、低摩擦の合成樹脂材料からなるため、優れた摺動性が確保される。しかも、ブッシュ受けスリーブ2のスリーブ本体部21及び鍔部22と、インナースリーブ12の円錐面状の両端面12bとの間には、ダストシールとしてのOリング4が介在しているので、インナースリーブ12の湾曲凸面12aとブッシュ受けスリーブ2の湾曲凹面21bの摺動部へ、外部からのダストが介入するのを防止して、長期間にわたって良好な摺動性を維持することができる。また、このOリング4は、インナースリーブ12を安定的に支持するゴムばねとして機能する。
【0031】
また、ブッシュ本体1のインナースリーブ12の湾曲凸面12aと、ブッシュ受けスリーブ2の湾曲凹面21bが嵌合していることによって、ブッシュ本体1とブッシュ受けスリーブ2(及び取付スリーブ3)の軸方向への相対変位が規制される。
【0032】
さらに、ブッシュ本体1のインナースリーブ12の湾曲凸面12aの曲率半径r1よりも、ブッシュ受けスリーブ2の湾曲凹面21bの曲率半径r2のほうが大きいため、こじり方向の入力があった場合は、
図4に示すように、ブッシュ本体1とブッシュ受けスリーブ2(及び取付スリーブ3)は、こじり方向への相対変位が可能である。しかも、インナースリーブ12は合成樹脂材料からなるものであることによって適度に変形可能であり、これによってもこじり方向の変位が許容される。したがってこじり方向への弾性体13の負荷を有効に緩和することができる。
【0033】
図5は、本発明に係る滑りブッシュの好ましい実施の形態における組立状態の第二の例を示す断面図であり、
図6は、第三の例を示す断面図である。
【0034】
このうち
図5の例は、取付スリーブ3が、ブッシュ受けスリーブ2のスリーブ本体部21の内周に圧入可能でブッシュ受けスリーブ2と略同一の長さのスリーブ本体部31と、その一端部から外径側へ開いた鍔部32を有する単一の部品からなるものであり、
図6の例は、取付スリーブ3が、ブッシュ受けスリーブ2のスリーブ本体部21の内周に圧入可能でブッシュ受けスリーブ2より長いスリーブ本体部31と、その一端部から外径側へ開いた鍔部32と、スリーブ本体部31における鍔部32と反対側の端部に外嵌されることによりブッシュ受けスリーブ2を抜け止めする金属環33からなるものである。このように、種々の取付形態を採用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ブッシュ本体
11 アウタースリーブ
12 インナースリーブ
12a 湾曲凸面
13 弾性体
2 ブッシュ受けスリーブ
21b 湾曲凹面
3 取付スリーブ
4 Oリング(ダストシール)