【文献】
R ANBARASAN et al.,"Modification of layered double hydroxides by short chain organic surfactants via ion-exchange method",Indian Journal of Chemical Technology,2005年 5月,Vol.12, No.3,p.259-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Qが2価金属のMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、及び、Caからなる群から選択される一種類以上の金属である、請求項1に記載の水膨潤性層状複水酸化物。
Rが3価金属のAl、Ga、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及び、Laからなる群から選択される一種類以上の金属である、請求項1に記載の水膨潤性層状複水酸化物。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の水膨潤性層状複水酸化物(以下、水膨潤性LDHという。)とその製造方法、ゲル状又はゾル状物質、及び複水酸化物ナノシートとその製造方法について、幾つかの実施例を参照しつつ詳細に説明する。
【0035】
<水膨潤性LDH>
本発明の水膨潤性LDHは、一般式(1)で表される化合物である。
【0037】
ここで、Qは2価の金属であり、Rは3価の金属であり、A
-は有機スルホン酸アニオンである。mは0より大きい実数であり、zは1.8≦z≦4.2の範囲である。X
n-はA
-に置換せずに残ったn価のアニオンであって、nは1もしくは2である。yはX
n-の残存分を示し、0≦y<0.4である。
【0038】
前記のように、A
-は有機スルホン酸アニオンであり、好ましくは、イセチオン酸アニオンである。イセチオン酸は、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸とも称されるもので、そのアニオンは、化学式HOC
2H
4SO
3-で表される。
Qは、2価の金属であり、具体的には、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn及びCaからなる群から選択されるのが好ましい。
Rは、3価の金属であり、具体的には、Al、Ga、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びLaからなる群から選択される金属である。
なお、前記zの範囲は、LDHの組成範囲としてよく知られている組成範囲である(非特許文献2−4参照)。
【0039】
X
n-は、本発明の水膨潤性LDHを合成するための原料LDHに含まれていたn価のアニオンであって、X
n-はA
-以外のアニオンである。したがって、X
n-は様々なアニオンであってよく、特に限定されるものではないが、例えば、CO
32-、ClO
4-、Cl
-、NO
3-、Br
-、I
-又はClO
3-を挙げることができる。なお、これらのアニオンは、一種類だけのこともあるが、2種類以上のアニオンが混在していてもよい。
【0040】
y値は、0≦y<0.4の範囲にある。X
n-が有機スルホン酸アニオン(A
-)に完全にイオン交換された場合(100%の置換率)は、y=0となる。しかし、後述するアニオン交換反応条件を緩和させることにより、アニオン(X
n-)が置換されずに残留する。有機スルホン酸アニオン以外に20%程度の他種イオンが混在していても、本発明の水膨潤性LDHは、水に対して膨潤する。しかしながら、純度が低下することによってコロイド溶液の透明度などの性能が低下するため、有機スルホン酸アニオンは、80%以上にするのが望ましく、yは0.2以下が好ましく、より好ましくは0.1以下である。
【0041】
mは、層間の水分量を表し、0より大きい実数である。この値は、雰囲気の相対湿度によって大きく値が変化するため、具体的に範囲を特定することは意味がない。
【0042】
図1は、本発明の水膨潤性LDHの構造を示す模式図である。金属Q、R及びOHから形成される金属八面体からなる複数の金属水酸化物層の隙間に有機スルホン酸アニオン(A
−)が介在して、LDHの結晶が形成されている。隙間には、水分子も存在する。LDHの結晶形状は、図示する六角板状のものや楕円板状のものがあるが、これらの形状に限られるものではない。結晶径は0.1〜10μmのものが多く、結晶の厚さは0.01〜1μm程度である。
【0043】
1層の金属水酸化物層の厚さは、0.5nm程度である。底面間隔(隣接する層の底面間の距離)は、雰囲気の相対湿度によって変化する。A
−がイセチオン酸アニオンの場合、約1.4nmである。水膨潤性LDHは、水中では層間に多くの水分子を含有して膨潤することができる。
【0044】
<水膨潤性LDHの製造方法>
本発明の水膨潤性LDHは、下記一般式(2)で表される組成を有するLDH(以下、原料LDHという。)を、有機スルホン酸アニオン(A
−)を含む下記一般式(3)で示す塩を溶解させた水、又はメタノールもしくはエタノールなどの有機溶媒の溶液中で、X
−とA
−をアニオン交換することによって合成する。
【0046】
式(2)中、zは1.8≦z≦4.2の数値範囲を示し、Qは2価の金属イオンであり、Rは3価の金属イオンである。mは0より大きい実数であり、上述したように、相対湿度によって変化する値であり、具体的な範囲を特定することは意味がない。X
n-は、n=1では、Cl
-、Br
-、NO
3-、ClO
4-又はClO
3-であり、n=2では、CO
32-である。
【0048】
前記一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)中のA
-、Q、R及びzは、前述したとおりである。
【0049】
一般式(3)中のL
n+はn価の陽イオンであり、nは1≦n≦3の数値範囲である。具体的には、L
n+は、n=1では、Na
+、NH
4+、Li
+、K
+又はH
+、n=2では、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+又はCa
2+、n=3では、Al
3+である。入手の容易性から、Na
+又はNH
4+が好ましい。
【0050】
なお、一般式(3)において、L
n+=Na
+のイセチオン酸ナトリウムを用いる場合、市販の薬品(通常、純度98%)では、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウムなどの無機の硫酸化合物が不純物として混入していることがある。これらは、メタノールに不溶であるので、メタノール溶液から、不溶物をろ過により、分離・除去してから使用することが望ましい。
【0051】
イセチオン酸ナトリウムは、特に毒性は報告されておらず、化粧品などの添加物として使用され、飲料に含まれるタウリンの代謝物として、体内で生成される物質であり、本発明の水膨潤性LDHが人体に触れて、イセチオン酸アニオンを放出したとしても無害であるといえる。
【0052】
なお、原料LDHの一般式(2)と水膨潤性LDHの一般式(1)のz値が同じ1.8≦z≦4.2の範囲であるのは、アニオン交換反応によって、金属水酸化物層の組成である金属の比に変化が生じないためである。
【0053】
本発明のアニオン交換による水膨潤性LDHの製造スキームを
図2に示す。
本発明の水膨潤性LDHの製造方法は、原料LDHの形状を保つことが可能なイオン交換法を適用した方法である。したがって、結晶性の良い原料LDHを出発原料として用いることができ、また、従来の水膨潤性LDHの製造方法である「再構築」などのプロセスが不要で、より純度の高い水膨潤性LDHを得ることができる。したがって、サイズや形状を制御したLDHナノシートを容易に得ることが可能な極めて簡便な方法である。
【0054】
<ゲル状又はゾル状物質>
本発明のゲル状又はゾル状物質は、本発明の水膨潤性LDHが、水を主成分とする溶媒で膨潤されたものである。
図3に、本発明の実施形態であるゲル状物質及びゾル状物質とその生成を示す模式図を示す。水膨潤性LDHの金属水酸化物層間に水分子が入ることによって層間が広がり、また更なる加水によって、ゲル状、ゾル状と変化していく様子を図示している。ゲル状物質(固体状)及びゾル状物質(液体状)は、水膨潤性層状LDHの金属水酸化物層間に水が入ることにより膨潤し、層と層の結合が次第に弱化して生成する。すなわち、水膨潤性LDHが水を主成分とする溶媒で膨潤されて、より多くの水分子が層間に挿入され、底面間隔、すなわち層の中央から層の中央までの距離が広げられ、ついには層と層が剥離した状態になる。なお、水を主成分とする溶媒は、水又は水が50モル%以上で、残りが水に可溶な有機溶媒からなる混合溶媒が好ましい。
【0055】
<複水酸化物ナノシート>
本発明の複水酸化物ナノシートは、下記一般式(4)で表される組成を有する。
【0057】
ここで、Qは2価の金属であり、Rは3価の金属であり、zは1.8≦z≦4.2の数値範囲である。Q及びRの具体的な金属は、前述したとおりである。
【0058】
複水酸化物ナノシートは、本発明の水膨潤性LDHを形成する金属水酸化物層に由来し、前述した2価及び3価の金属とOHとから構成される。
複水酸化物ナノシートは1層の金属水酸化物層であるが、1層に限られるものではなく、層数は2〜5層程度のものも含むことがある。厚さの範囲は、0.5〜10nm程度となる。複水酸化物ナノシートの平面視の形状は、水膨潤性LDHの結晶形状を反映する。たとえば、
図1のような六角板状の水膨潤性LDH結晶からは六角形のナノシートが形成される。
【0059】
<複水酸化物ナノシートの製造方法>
本発明の複水酸化物ナノシートの製造方法は、水を主成分とする溶媒を用いて、本発明の水膨潤性LDHを膨潤、剥離させて生成することを特徴とする。
図3には、本発明の複水酸化物ナノシートの一例とその生成過程も模式的に示されている。すなわち、水膨潤性LDHは、水を主成分とする溶媒で膨潤し、ついには層と層が剥離した状態になる。
このように、水を主成分とする溶媒に水膨潤性LDHを浸漬するだけで、容易に複水酸化物ナノシートを生成することができる。
【0060】
以上説明したように、本発明には以下のような利点がある。
(1)本発明の水膨潤性LDHは安定性に優れ、無臭である。
(2)アニオン交換性を有する良結晶性LDHを出発物として、アニオン交換により水膨潤性LDHを合成するため、煩雑な操作を必要としない。
(3)高い層電荷密度を持つLDHでも、水膨潤性LDHにできる。
(4)アニオン交換は結晶の形状やサイズを変化させることなく行うことができ、さらにナノシートもその形状を継承するため、自由なサイズ・形状のナノシートを得ることができる。
(5)使用する試薬は容易かつ安価に入手可能であり、毒性及び危険性がない。
(6)本発明のLDHナノシートは、交互積層の構成成分としてだけでなく、LDHの層が1層1層、別れて水中で存在するため、反応性の向上が期待でき、これまで、通常のイオン交換では包接できなかった種々のアニオンや分子などと水膨潤性LDHを形成することが期待できる。
【0061】
以下、実施例に基づいて具体的に本発明を説明する。但しこれらの実施例は、本発明を容易に理解するための一助として示したものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。
【実施例1】
【0062】
本実施例において2価の金属イオンとしてMgイオン、3価の金属イオンとしてAlイオンを含み、一般式Mg
3Al(OH)
8(CO
32-)
0.5・2H
2Oで示される市販のハイドロタルサイト(DHT−6、協和化学工業株式会社製。粒径分布は約0.1〜1μm、Mg/Alモル比は、2.99(±0.06)を使用した。以下、このLDHをCO
32-MgAl−LDH3又は炭酸イオン型MgAl−LDH3と表す。
【0063】
(炭酸イオン型MgAl−LDH3から過塩素酸イオン型MgAl−LDH3への変換)
特許文献8及び非特許文献12の方法を適用して、炭酸イオン型MgAl−LDH3を過塩素酸イオン型MgAl−LDH3(ClO
4-MgAl−LDH3)へ変換した。以下、この方法を変換法1と呼ぶ。
まず、酢酸比、すなわち酢酸モル量の、酢酸及び酢酸ナトリウム合計モル量に対する比率が0.127の0.1mol/L酢酸緩衝液を使用して、NaClO
4濃度が2molの酢酸緩衝液−NaClO
4混合溶液を調整した。100mgのCO
32-MgAl−LDH3を酢酸緩衝液−NaClO
4混合溶液50mlに加え、窒素気流下(500mL/分)、25℃で18時間、マグネティックスターラーで撹拌しつつ反応させた。その後、窒素気流中、孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、脱ガス水で沈殿物を充分に洗浄した。ろ別した沈殿物を回収して直ちに減圧し、真空下で1時間以上乾燥して、白色粉末108mgを得た。ここで、上記脱ガス水は、イオン交換水を15分以上沸騰させて作製した二酸化炭素を含まない水である。
【0064】
変換法1とは別に、以下に示す変換方法も試みた。以下、これを変換法2という。
500mgのCO
32-MgAl−LDH3を、三口フラスコに入れ、メタノール45mLを加え、懸濁液を作製した。窒素気流下(500mL/分)、マグネティックスターラーで撹拌しつつ、この懸濁液に、過塩素酸(60%)350mgをメタノール5mLに溶かした溶液を滴下し、さらに25℃で1時間、撹拌しつつ反応させた。その後、窒素気流中、孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、メタノールで沈殿物を充分に洗浄した。ろ別した沈殿物を回収して直ちに減圧し、真空下で1時間以上乾燥して、白色粉末561mgを得た。なお、メタノールの代わりにエタノールを用いたところ、同じ白色粉末が得られた。
【0065】
(過塩素酸イオン型MgAl−LDH3(ClO
4-MgAl−LDH3)のキャラクタリゼーション)
変換法1及び変換法2によって得られた生成物は、粉末X線回折で、底面間隔0.901nm(RH=0%で測定)を示した。この値は、非特許文献13の値0.904nmとよく一致しており、他にピークもなく、また、回折ピークはブロードでなく、結晶性に変化の無い良質なClO
4-MgAl−LDH3が合成されていることを示していた。
変換法1及び変換法2によって得られた生成物のFTIR(フーリエ変換赤外吸収法)を用い、KBr法によって赤外吸収プロファイルを測定した。
図4に示すように、1100cm
-1にClO
4-の特性吸収があり(
図4の(b)のチャート参照)、炭酸イオン型MgAl−LDH3の1360cm
-1のCO
32-による吸収が消失している(
図4の(a)のチャート参照)ことから、ClO
4-MgAl−LDH3の生成が確認できた。
【0066】
(各種のスルホン酸アニオンの包接)
ClO
4-MgAl−LDH3を20mg使用し、それぞれ、0.067mol/Lのメタンスルホン酸ナトリウム、エタンスルホン酸ナトリウム、1−プロパンスルホン酸ナトリウム、2−メチル−2−プロペン−1−スルホン酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム及びイセチオン酸ナトリウムの6種類の有機スルホン酸塩(表1参照)のメタノール溶液10mLを加え、25℃で20時間、イオン交換反応させた。
なお、ヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム及びイセチオン酸ナトリウムは、メタノールに不溶の不純物(硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウムなどと考えられる)があったので、孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を使用した。
イオン交換反応後、沈殿物を窒素気流中、孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、沈殿物を充分にメタノールで洗浄した。ろ別した沈殿物を回収し、直ちに減圧して真空下で1時間以上乾燥して、白色粉末を得た。得られた白色粉末を、さらにもう一度同じ条件でイオン交換を行なった。
【0067】
表1に、使用した有機スルホン酸ナトリウムと略号を示す。なお、得られた生成物は、MgAl−LDH3の接頭にそれぞれ、アニオンの略号であるMe、Et、Pr、Mp、Hm又はIseを付して表す。
【0068】
【表1】
【0069】
本実施例において、前記一般式(3)の化合物として、有機スルホン酸ナトリウム塩のみを用いた。これは、ナトリウム塩が最も安価で入手が容易であり、水への溶解度が大きいことによる。しかし、アニオン交換においては、溶液内に存在する[A
−]が肝要であり、ナトリウムイオン以外の陽イオンからなる前記一般式(3)の化合物であってもよい。
【0070】
合成したそれぞれのMgAl−LDH3の赤外吸収スペクトルを
図5に示す。なお、Ise−MgAl−LDH3のスペクトルは、
図4中の(c)で示している。それぞれ、有機スルホン酸アニオンに特有の1040、1200cm
-1の強い吸収を有していることから、有機スルホン酸アニオン交換が充分に行われ、ClO
4-の残留及びCO
32-の取り込みもなく、目的とするアニオン交換MgAl−LDH3が得られていることを示している。
【0071】
アニオン交換MgAl−LDH3の水に対する膨潤性を検査した。水を加えることによって、Ise−MgAl−LDH3のみ、直ちに粘稠なゲルを形成し、また更なる加水によってコロイド溶液を生じた。Ise−MgAl−LDH3以外のアニオン交換MgAl−LDH3では、透明度の低い懸濁液が得られたのみでゲル化も観察されなかった。
【0072】
定量的な光の透過度を調べるため、それぞれの0.01mol/Lの水溶液を作り、可視紫外光分光器(JASCO V−570)で透過度を測定した。測定波長=589nm、1×1cmの標準石英キュベットを使用した。比較のため、炭酸イオン型MgAl−LDH3の懸濁液の透過度を測定した。
図6に透過度のグラフを示した。グラフ中の略号Cは、炭酸イオン型MgAl−LDH3であり、その他の略号は、各種アニオン交換MgAl−LDH3を意味する。
【0073】
図6からわかるように、Ise−MgAl−LDH3のみ、96%程度の高い透過度を示し、他のアニオン交換MgAl−LDH3は、炭酸イオン型LDHと同程度の低い光透過度の懸濁液を生じるのみであった。
以上、表1に示した有機スルホン酸アニオンのうち、Ise、すなわち、イセチオニン酸アニオン:HOC
2H
4SO
3-が層間に包接されたMgAl−LDH3のみが水膨潤性を示し、透明度の高いゾルを形成することが明らかになった。
【実施例2】
【0074】
本実施例において2価の金属としてMg、3価の金属としてAlを含み、一般式Mg
2Al(OH)
6(CO
32-)
0.5・2H
2Oで示されるLDH(以下、CO
32-MgAl−LDH2又は炭酸イオン型MgAl−LDH2という。)を合成した。Mg/Alモル比が約2であり、層電荷密度は実施例1のMgAl−LDH3よりも高い。
【0075】
炭酸イオン型MgAl−LDH2の合成を特許文献9に従って行なった。
具体的には、MgCl
2・6H
2Oを508mg、AlCl
3・6H
2Oを302mgにイオン交換水を加えて12.5mLの溶液とし、これにヘキサメチレンテトラミン613mgを溶かした水溶液12.5mLを加え、0.2ミクロンのメンブランフィルターでろ過したのち、50mL容量の耐圧テフロン(登録商標)容器に入れ、耐圧ステンレス容器に収めて密封し、140℃で1日、水熱処理を行なった。ろ過及び水洗後真空中で乾燥し、279mgの白色粉末を得た。粒径は約0.5〜2μm、Mg/Alモル比は、1.94(±0.04)であった。
FTIRスペクトルを
図7(a)に示す。
【0076】
(炭酸イオン型MgAl−LDH2から過塩素酸イオン型MgAl−LDH2(ClO
4-MgAl−LDH2)への変換)
実施例1において示した変換法2を使い、過塩素酸イオン型への変換を行なった。CO
32-MgAl−LDH2を202mg秤量して、三口フラスコに入れ、メタノール45mLを加え、懸濁液を作製した。窒素気流下(500mL/分)、マグネティックスターラーで撹拌しつつ、この懸濁液に過塩素酸(60%)175mgをメタノール5mLに溶かした溶液を滴下し、さらに25℃で1時間撹拌しつつ反応させた。実施例1と同様な処理により乾燥し、238mgの白色粉末を得た。
【0077】
(過塩素酸イオン型MgAl−LDH2のキャラクタリゼーション)
粉末X線回折の結果、生成物は、底面間隔0.879nm(RH=0%で測定)を示し、非特許文献13の値0.881nmとよく一致しており、また、その回折ピーク形は、結晶性にほとんど変化無く、良質な過塩素酸イオン型MgAl−LDH2が合成されていることを示している。
【0078】
図7のFTIRによる赤外吸収プロファイルの結果も、1100cm
-1にClO
4-の特性吸収があり(
図7中の(b)のチャート参照)、また、1360cm
-1の炭酸イオンによる吸収(
図7中の(a)参照)が消失していることから、過塩素酸イオン型MgAl−LDH2が生成していることが確認できた。
【0079】
(各種のスルホン酸アニオンの包接)
過塩素酸イオン型MgAl−LDH2を、16mg使用し、実施例1の表1に示す有機スルホン酸塩について、それぞれ、0.067mol/Lのメタノール溶液10mLを作製して加え、25℃で20時間、イオン交換反応させた。沈殿物を、実施例1と同じ方法で乾燥させ、白色粉末を得た。白色粉末を、さらにもう一度同じ条件でイオン交換を行なった。
【0080】
生成物をそれぞれ、Me−MgAl−LDH2、Et−MgAl−LDH2、Pr−MgAl−LDH2、Mp−MgAl−LDH2、Hm−MgAl−LDH2、Ise−MgAl−LDH2で略称する。
それぞれの赤外吸収スペクトルを
図8に示す。なお、Ise−MgAl−LDH2のスペクトルは、
図7中の(c)のチャートに示している。
有機スルホン酸アニオンに特有の1040、1200cm
-1の強い吸収が見られることから、アニオン交換が充分に行われ、ClO
4-の残留もなく、また、CO
32-の取り込みもなく、目的とするアニオン交換MgAl−LDH2が得られていることを示している。
【0081】
得られたアニオン交換MgAl−LDH2の水に対する膨潤性を検査した。水を加えることによって、Ise−MgAl−LDH2のみ、直ちに粘稠なゲルを形成し、また更なる加水によってコロイド溶液を生じた。他のアニオン交換MgAl−LDH2では、透明度の低い懸濁液が得られたのみでゲル化も観察されなかった。
【0082】
光の透過度を調べるため、0.01mol/Lの水溶液を作り、実施例1と同じ条件で透過度を測定した。結果を
図9に示す。比較のため、炭酸イオン型MgAl−LDH2の懸濁液の透過度を示す(
図9中Cで示す。)。
Ise−MgAl−LDH3に比べて透明度は劣るものの、Ise−MgAl−LDH2のみが、他のLDH2に比べて格段に高い透明度(透過度50%程度)を示した。有機スルホン酸アニオンのなかでは、Iseが層間に包接されたMgAl−LDH2のみが水膨潤性を示し、透明度の高いゾルを形成することが明らかになった。
【実施例3】
【0083】
実施例1、2で、イセチオン酸アニオン(Ise)を層間に含むMgAl−LDH3及び−LDH2が水に対して膨潤性を示し、ゲルやコロイド溶液を形成することが明らかになったので、これらの2つのLDHについて、より詳しく粉末X線回折、走査型電子顕微鏡などの分析をおこない、粉末状態でのキャラクタリゼーションを行った。
【0084】
相対湿度によって底面間隔が変化するため、測定雰囲気の相対湿度を変化させて、粉末X線回折測定を行った。
測定は、X線粉末回折装置Rint1200(リガク、日本)を用い、回折条件は、CuKα線(λ=1.5405nm)、40kV/30mA、走査速度2°(2θ)/分で、測定は25℃で行った。相対湿度は、25℃で窒素ガスと水を飽和させた窒素ガスを混合する装置(SHINYEI SRG−1R−1)を用いて調整し、相対湿度の値は湿度温度測定器(VAISALA社製 HMI41)でモニターした。
【0085】
図10はIse−MgAl−LDH3のX線回折パターンの変化、
図11はIse−MgAl−LDH2のX線回折パターンの変化を示す。相対湿度の増加により、底面間隔が著しく変化することがわかる。
また、底面間隔と相対湿度との関係を、それぞれ、
図12及び13に示す。相対湿度の増加により、底面間隔が、不連続に増大することが分かる。これは、水分子が層間に層として挿入されるためであると考えられる。
【0086】
走査型電子顕微鏡(JEOL、Japan)を用いて、Ise−MgAl−LDH3及びIse−MgAl−LDH2の形状観察を加速電圧15kVで行った。
MgAl−LDH3のSEM像を
図14に示す。
図14(a)は炭酸イオンを、
図14(b)は過塩素酸イオンを、
図14(c)はイセチオン酸アニオン(Ise)を、層間に含む像である。なお、図中のバーは1μmで、
図14(a)〜
図14(c)は同一倍率である。
また、MgAl−LDH2のSEM像を
図15に示す。
図15(a)は炭酸イオンを、
図15(b)は過塩素酸イオンを、
図15(c)はイセチオン酸アニオン(Ise)を、層間に含む像である。なお、図中のバーは1μmで、
図15(a)〜
図15(c)は同一倍率である。
【0087】
SEM像から、Ise−MgAl−LDH3は、直径が約0.1〜1μmの大きさを有する円板状の結晶で、出発物の炭酸イオン型、過塩素酸イオン型のLDH3の形状を継承していることがわかる。Ise−MgAl−LDH2は、直径が約0.5〜2μmの大きさを有する六角板状の結晶で、出発物である炭酸イオン型及び過塩素酸イオン型LDH3の形状を継承しいることがわかる。すなわち、Ise−MgAl−LDH3及びIse−MgAl−LDH2は、イオン交換によっても外形が保たれていたことがわかる。
【0088】
ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置(Seiko SPS1700HVR)による元素分析より、Mg/Alモル比は、Ise−MgAl−LDH2では、1.96(±0.04)、Ise−MgAl−LDH3では、2.99(±0.06)であることがわかった。これらの値は、出発物の炭酸イオン型LDHのMg/Alモル比とほとんど違いがなく、層の成分が変化することなく、アニオンの変換が行なわれたことを示している。
また、CS−444LS型炭素硫黄同時分析装置(LECO社、高周波加熱燃焼−赤外線吸収法による定量分析)を使ってC/S比を測定したところ、Ise−MgAl−LDH2は、1.9、Ise−MgAl−LDH3は、2.0であり、イセチオン酸アニオンの値であるC/S=2.0にほぼ一致しており、イセチオン酸アニオンが分解せずに包接されていることを示していた。
【0089】
図16に示すように、Ise−MgAl−LDH3及びIse−MgAl−LDH2について、25℃で相対湿度と重量変化を調べた。重量変化は、窒素雰囲気中で1時間乾燥させた重量を基準として、RHを10%ずつ増加して、15分保持した後、重量を測定する方法で重量の変化を調べた。
室温においてもRH=90%まで変化させると、約25%の重量の水分が入ることが分かった。特許文献6の
図16に示されている塩素イオン型LDHが3%程度の増加であるのに比べ、10倍近い差がある。また、水膨潤性のない酢酸イオン型のMgAl−LDH2では、8%程度の増加であったが、Mg/Alモル比が同じ2であるIse−MgAl−LDH2では、25%程度の増加となっており、Ise−MgAl−LDH2のほうが水に対する親和性が強く、Iseが水膨潤性に関係していることがわかる。
【0090】
特許文献6の実施例2には、酢酸アニオンを含むLDHでは、外気にさらした場合、外気の湿度変化に伴い二酸化炭素の浸入が生じ、1週間〜1ヶ月程度で、次第に炭酸イオン型LDHへの変質が起こることが観察されたことが記載されている。
Ise−MgAl−LDH2及びIse−MgAl−LDH3について、開放条件で外気にさらして放置したが、2ヶ月後においても、XRD、及びFTIRプロファイルに本質的な変化がなく、炭酸イオンの取り込みなどの変質は見られなかった。
【実施例4】
【0091】
Ise−MgAl−LDH3及びIse−LDH2の水に対する反応を詳しく調べた。
200mgのIse−MgAl−LDHに水を2mL加えて生じたゲルを
図17に示す。図中、左側がIse−MgAl−LDH2、右側がIse−MgAl−LDH3を用いて作製したゲルである。両方共にボトルを横にしても流れない高粘性の半透明ゼリー状(ゲル)になっていることが分かる。
Ise−MgAl−LDH及びIse−MgAl−LDH2は、さらなる加水によってコロイド溶液となる。実施例1と同じ条件で懸濁液を作製して、光の散乱を観察した。
【0092】
図18に懸濁状態を示す。図中、(c)がIse−MgAl−LDH2、(d)がIse−MgAl−LDH3を用いて作製したコロイド溶液である。比較のため、同じ条件で作製した炭酸イオン型MgAl−LDH2の状態(図中(a))と炭酸イオン型MgAl−LDH3の状態(図中(b))を示す。
図18では、右側から赤色LED光を照射しており、(c)及び(d)は、透明性が高く、ナノシート形成によるチンダル現象を起こしているのに対し、(a)及び(b)は、粉末の懸濁状態のために散乱光が生じていた。
この結果から、Ise−MgAl−LDH3及びIse−MgAl−LDH2は、水に対し膨潤性があり、水によって高粘性のゲルや透明度の高いコロイド溶液を形成することがわかった。
【0093】
粉末状態及びゲル状態のIse−MgAl−LDH3及びIse−MgAl−LDH2についてX線回折測定を行なった。さらに、ゲルを窒素気流中で乾燥させた後、X線回折測定を行った状態で、X線回折測定を行った。
図19は、Ise−MgAl−LDH3、
図20は、Ise−MgAl−LDH2の測定結果である。
図中、各々、(a)が粉末状態、(b)が水を少量滴下した直後の状態、(c)が水滴下後20分ほど経過した状態、(d)が生じたゲルを窒素気流中で数時間乾燥させた後のXRDプロファイルである。表示のスケールは、(b)及び(c)は、5倍に拡大したものであり、(d)は、0.3倍(
図19)又は0.4倍(
図20)である。
【0094】
Ise−MgAl−LDH3、Ise−MgAl−LDH2のどちらについても、粉末状態(図中(a))で明らかであった回折ピークは、水の滴下によって直ちに低角側に移ると共にピーク強度が激減し(図中(b))、水滴下後、20分程度で完全に消失した(図中(c))。これは、
図3(右側の概念図)のように層がバラバラに分かれて不規則に並んだ状態となり、規則性がなくなるために回折ピークが消滅するためである。
このゲルを乾燥させることによってそれらの反射ピークの再出現が観察された(図中(d))。(d)において、ピークの強度がかなり増加しているのは、剥離後の積層により規則性が著しく増すためであると考えられる。
(a)〜(d)の結果から、ゲル状態でLDHの層が剥離し、乾燥によって再度、積層されたことがわかる。
このように、XRD測定でも、Ise−MgAl−LDH3、Ise−MgAl−LDH2共に、水によって層の剥離が起こり、乾燥によって再積層することが証明された。
【0095】
LDHナノシートの厚さは、剥離の程度によって異なる。
LDHナノシートの厚さを調べるため、表面トポグラフィをSeiko E−Sweep原子間力顕微鏡(AFM)を用いて調べた。
表面トポグラフィ用の試料は、酸洗浄したSi基板上に、カチオン性高分子(PEI)とアニオン性高分子(PSS)とを1層ずつ順に付着して、その上にカチオン性のLDHナノシートを吸着させることによって調製した。
厚さ測定は、シリコンチップを備えたカンチレバーで、20N/mのタッピングモードで行った。
【0096】
図21はIse−MgAl−LDH3のLDHナノシート、
図22はIse−MgAl−LDH2のLDHナノシートのAFM像を示している。それぞれ、基板にLDHナノシートが付着している状態を基板に垂直な方向から観察した図である。厚さは、それぞれの図の下部に示すスケールの濃淡によって示される。
LDHナノシートの厚さは、1.5〜2.0nm程度であり、単層のシートであると推定される。フォルムアミドを用いて得られるナノシートが1nm程度であるのに比べ、やや大きい値であるが、これは、イセチオン酸アニオンがナノシートの表面に付着しているため、と考えられる。その他にも、2〜6層程度の厚さのLDHナノシートも観察された。Ise−MgAl−LDH3では、多くが単層もしくは、2層のLDHナノシートが形成されていることから、剥離の程度がかなり高いことが推定された。一方、Ise−MgAl−LDH2については、単層よりも2〜5層のLDHナノシートが多かった。これは、Ise−MgAl−LDH2では、コロイド溶液の光の透過度が劣ることとも符合しており、単層のLDHナノシートがややできにくいことを示している。外形は、
図14及び15のSEM像で示した形状を保っており、層がそのまま剥離してナノシート化したことがわかる。
以上の結果から、水膨潤性LDHであるIse−MgAl−LDH3及びIse−MgAl−LDH2が、水により剥離し、複水酸化物ナノシートが生成することは明らかである。
【0097】
実施例3及び実施例4から、本発明で得られるLDHナノシートは、単層シートが、一層〜数層までとなっている良質のナノシートといえる。つまり、本発明は、LDHナノシートを含むコロイド溶液を得ることに成功したものである。
【実施例5】
【0098】
2価の金属イオンとしてNiイオン、3価の金属イオンとしてAlイオンを含むLDHについて、Ni/Alモル比=2、3及び4の3種類のNiAl−LDHを合成した。
【0099】
(Ni/Alモル比=2のNiAl−LDH)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oを364mg、Al(NO
3)
3・9H
2Oを235mg及びヘキサメチレンテトラミン307mgを溶かした12.5mLの混合水溶液を、25mL容量の耐圧テフロン(登録商標)容器に入れ、耐圧ステンレス容器に収めて密封し、180℃で1日、水熱処理を行なった。ろ過、洗浄、乾燥により青緑色粉末185mgを得た。粒径は0.3〜0.6μmであった。ICP分析より、Ni/Alモル比は2.00(±0.06)であった。このLDHをCO
32−NiAl−LDH2と表す。
【0100】
実施例1で示した変換法2を使い、CO
32−NiAl−LDH2の過塩素酸イオン型LDHへの変換を行なった。
CO
32−NiAl−LDH2を155mg秤量して、メタノール45mLを加え、懸濁液を作製した。窒素気流下、マグネティックスターラーで撹拌しつつ、この懸濁液に、過塩素酸(60%)105mgをメタノール5mLに溶かした溶液を滴下し、さらに25℃で1時間撹拌しつつ反応させた。実施例1と同じ処理により乾燥し、青緑色粉末180mgを得た。
【0101】
得られた過塩素酸イオン型NiAl−LDH2を用い、イセチオン酸アニオンとのイオン交換を行なった。
ClO
4-NiAl−LDH2を100mg使用し、イセチオン酸ナトリウムの0.067mol/Lメタノール溶液80mLを作製して加え、25℃で20時間イオン交換反応させた。上澄みを取り除き、同量のイセチオン酸ナトリウムのメタノール溶液を加え、さらにもう一度、同じ条件でイオン交換を行なった。その後、窒素気流中、0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、メタノールで沈殿物を洗浄した。ろ別した沈殿物を直ちに真空下で1時間以上乾燥して、青緑色粉末のIse−NiAl−LDH2を103mg得た。Ni/Alモル比は、出発原料と同じく、2.00(±0.04)であった。
【0102】
(Ni/Alモル比=3のNiAl−LDH)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oを409mg、Al(NO
3)
3・9H
2Oを176mg及び尿素254mgを溶かした12.5mLの混合水溶液を、25mL容量の耐圧テフロン(登録商標)容器に入れ、耐圧ステンレス容器に収めて密封し、180℃で1日、水熱処理を行なった。ろ過、洗浄、乾燥により、188mgの生成物が得られた。粒径は0.2〜0.6μm、Ni/Alモル比は、2.91(±0.06)であった。このLDHをCO
32-NiAl−LDH3と表す。
【0103】
実施例1の変換方法2を使い、CO
32-NiAl−LDH3の過塩素酸イオン型LDHへの変換を行なった。CO
32-NiAl−LDH3を268mg秤量してメタノール45mLを加え、懸濁液を作製した。窒素気流下、マグネティックスターラーで撹拌しつつ、この懸濁液に、過塩素酸(60%)140mgをメタノール5mLに溶かした溶液を滴下し、さらに25℃で1時間撹拌しつつ反応させた。実施例1と同じ処理により乾燥し、青緑色粉末297mgを得た。
【0104】
得られた過塩素酸イオンNiAl−LDH3を用い、イセチオン酸アニオンとのイオン交換を行なった。ClO
4-NiAl−LDH3を100mg使用し、イセチオン酸ナトリウムの0.067mol/Lメタノール溶液80mLを作製して加え、25℃で20時間イオン交換反応させた。上澄みを取り除き、同量のイセチオン酸ナトリウムのメタノール溶液を加え、さらにもう一度同じ条件でイオン交換を行なった。その後、窒素気流中、0.2ミクロンのメンブランフィルターでろ過し、メタノールで沈殿物を洗浄した。ろ別した沈殿物を直ちに真空下で1時間以上乾燥して、青緑色粉末のIse−NiAl−LDH3を100mg得た。Ni/Alモル比は、出発原料とほぼ同じで、2.96(±0.06)であった。
【0105】
(Ni/Alモル比=4のNiAl−LDH)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oを436mg、Al(NO
3)
3・9H
2Oを141mg及び尿素248mgを溶かした12.5mLの混合水溶液を、25mL容量の耐圧テフロン(登録商標)容器に入れ、耐圧ステンレス容器に収めて密封し、180℃で1日、水熱処理を行なった。223mgの生成物が得られた。粒径は0.2〜0.8μm、Ni/Alモル比は、3.83(±0.08)であった。
【0106】
得られたCO
32-NiAl−LDH4を用い、過塩素酸イオン型LDHへの変換を行なった。
CO
32-NiAl−LDH4を329mg秤量して、メタノール45mLを加え、懸濁液を作製した。窒素気流下、マグネティックスターラーで撹拌しつつ、この懸濁液に、過塩素酸(60%)140mgをメタノール5mLに溶かした溶液を滴下し、さらに25℃で1時間、撹拌しつつ反応させた。実施例1と同じ処理により乾燥し、青緑色粉末353mgを得た。
【0107】
得られた過塩素酸イオン型NiAl−LDH4を用い、イセチオン酸アニオンとのイオン交換を行なった。ClO
4-NiAl−LDH4を100mg使用し、イセチオン酸ナトリウムの0.067mol/Lメタノール溶液80mLを作製して加え、25℃で20時間イオン交換反応させた。上澄みを取り除き、同量のイセチオン酸ナトリウムのメタノール溶液を加え、さらにもう一度同じ条件でイオン交換を行なった。その後、窒素気流中、孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、メタノールで沈殿物を洗浄した。ろ別した沈殿物を直ちに真空下で1時間以上乾燥して、青緑色粉末98mgを得た。得られたIse−NiAl−LDH4のNi/Alモル比は、出発原料とほぼ同じで、3.93(±0.08)であった。
【0108】
NiAl−LDH2、NiAl−LDH3及びNiAl−LDH4について、FTIRによって得られた赤外吸収プロファイルを
図23、24及び25に示す。それぞれの図中の(a)は、炭酸イオン型LDH、(b)は、過塩素酸イオン型LDH、(c)は、Ise型LDHである。
得られたIse−NiAl−LDH2、Ise−NiAl−LDH3、Ise−NiAl−LDH4は、いずれも、1040cm
-1及び1200cm
-1に有機SO
3-の特性吸収があり、また、1360cm
-1の炭酸イオンによる吸収や1100cm
-1のClO
4-の吸収がほとんど見られないことから、純度の高いIse型LDHが生成していることを示している。
【0109】
NiAl−LDH2、NiAl−LDH3及びNiAl−LDH4の粉末のX線回折測定をRH=0%、窒素雰囲気下で15分保持してから行った。
結果を
図26に示す。図中、(a)はNiAl−LDH4、(b)はNiAl−LDH3、(c)はNiAl−LDH2であり、(a)〜(c)に付された枝番1は、CO
32-型、枝番2は、ClO
4-型、枝番3は、Ise型である。
Ise−NiAl−LDH2にわずかにClO
4-残留によると思われるブロードな反射が認められるものの、全てアニオン交換によってIse型に変換されていることがわかる。また、窒素雰囲気下で測定したNIAl−LDHの底面間隔を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
走査型電子顕微鏡を用いて、CO
32−、ClO
4−、Ise型のNiAl−LDHの形状観察を行った。Ise型は、NiAl−LDH2、NiAl−LDH3、NiAl−LDH4のいずれにおいても、それぞれ出発物の炭酸イオン型LDH及び過塩素酸イオン型LDHの形状を継承しており、イオン交換によっても外形を保ちつつ、変換が行われたことを示していた。
【0112】
200mgの各Ise−NiAl−LDHに水を8〜10倍量加えて、生じたゲルの状態を
図27に示す。図中、(a)はIse−NiAl−LDH4、(b)はIse−NiAl−LDH3、(c)はIse−NiAl−LDH2、を用いて作製したゲルである。ボトルを横にしても流れない高粘性の半透明ゼリー状(ゲル)になっていることが分かる。
【0113】
Ni/Al比の異なる各種のNiAl−LDHにおいても、Iseを層間に導入することによって、水膨潤性LDHになることがわかった。
【実施例6】
【0114】
(CoAl−LDH)
CoCl
2・6H
2Oを238mg、AlCl
3・6H
2Oを121mg及び尿素300mgを溶かした25mLの混合水溶液を、50mL容量の耐圧テフロン(登録商標)容器に入れ、耐圧ステンレス容器に収めて密封し、110℃で1日水熱処理を行なった。145mgのピンク色の生成物が得られた。ICP分析によるCo/Alモル比は、1.91(±0.06)であった。このLDHをCO
32-CoAl−LDH2と表す。
【0115】
CO
32-CoAl−LDH2をCl
-型CoAl−LDH2に変換した。104mgのCO
32-CoAl−LDH2に、酢酸比が0.15の0.1mol/L酢酸緩衝液を使用して、NaCl濃度を2molに調整した酢酸緩衝液−NaCl混合溶液50mlを加え、窒素気流下(500mL/分)、20℃で2時間、マグネティックスターラーで撹拌しつつ反応させた。その後、窒素気流中、0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、脱ガス水で沈殿物を充分に洗浄した。ろ別した沈殿物を回収し、直ちに減圧し、真空下で1時間以上乾燥して、ピンク色粉末99mgを得た。
【0116】
100mgのCl
-型CoAl−LDH2に、イセチオン酸ナトリウムの0.067mol/Lメタノール溶液80mLを加え、25℃で20時間イオン交換反応させた。上澄みを取り除き、同量のイセチオン酸ナトリウムのメタノール溶液を加え、さらにもう一度同じ条件でイオン交換を行なった。その後、窒素気流中、0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、メタノールで沈殿物を洗浄した。ろ別した沈殿物を回収し、直ちに減圧し、真空下で1時間以上乾燥して、ピンク色粉末121mgのIse−CoAl−LDH2を得た。ICP分析によるCo/Alモル比は、1.99(±0.06)であった。
【0117】
CO
32-型CoAl−LDH2、Cl
-型CoAl−LDH2、及びIse−CoAl−LDH2の赤外吸収スペクトルを
図28に示す。図中、(a)は炭酸イオン、(b)は塩素イオン、(c)はイセチオン酸アニオン(Ise)を層間に含むCoAl−LDH2である。
Ise−CoAl−LDH2(図中の(c))において、有機スルホン酸アニオンに特有の1040、1200cm
-1の強い吸収が見られ、Iseの層間への導入が確認された。しかし、CO
32-からCl
-への変換が充分でなく、Cl
-型LDH(図中の(b))の赤外吸収プロファイルからもわかるように、10%程度の残留CO
32-があった。
【0118】
また、粉末X線回折測定結果(RH=0%で測定)を
図29に示す。Ise−CoAl−LDH2は、底面間隔1.035nmを示していた。また、残留CO
32-によると思われる反射がプロファイルに現れていた。
【0119】
得られた水膨潤性LDHの水に対する膨潤性を検査した。
200mgのIse−CoAl−LDH2に水を8〜10倍量の水を加えることによって、直ちにゲルを形成した。生じたゲルを
図27(d)に示す。ゲルは、半透明ゼリー状であることが分かる。また、10%程度の残留CO
32-があっても、水膨潤性は著しく損なわれないことがわかる。
以上のことから、Ise−CoAl−LDH2が水に対し膨潤性があり、水によって高粘性のゲルや透明度の高いコロイド溶液を形成することがわかった。
【0120】
以上の実施例では、2価金属と3価金属の組み合わせをMg−Al、Ni−Al、Co−Alで行い、2価−3価金属イオンのLDHで水膨潤性が生じることを示した。その結果、LDHの水膨潤性が構成する金属イオンの種類に影響されることはないことがわかった。また、膨潤・剥離に関しても、構成する金属イオンの種類にほとんど影響されずに生じており、実施例で示した金属の組み合わせ以外のLDHにおいても同様であることは、容易に推測できる。
【実施例7】
【0121】
(Ise−LDHの他の製造法)
実施例1、2、5及び6に、CO
32-型LDHから、ClO
4-型もしくはCl
-型LDHを経由し、さらに、これらをアニオン交換することによるIse−LDHへの変換反応を記載した。
この変換反応は、CO
32-型LDHを出発物とする場合は、二段階の反応であるため、より簡便な一段階の変換反応であるCO
32-型LDHからIse−LDHへの直接変換を試みた。
【0122】
実施例1で用いた、一般式Mg
3Al(OH)
8(CO
32-)
0.5・2H
2Oで示される市販のハイドロタルサイトを用い、酸性物質として、イセチオン酸アンモニウムを用いて、アルコール中で反応を行なった。これは、前記式(2)においてX
n-がCO
32-であり、前記式(3)においてL
n+がNH
4+に相当する反応である。
使用するイセチオン酸アンモニウムの量は、CO
32-型LDH中のCO
32-のモル数の2倍が当量となるため、この量(式で表すと、[HOC
2H
4SO
3NH
4]/(2×[CO
32-])となる)をfとして定義し、fの値により表記した。
【0123】
100mg(0.331mmol)のCO
32-MgAl−LDH3を、三口フラスコに入れ、メタノール35mLを加え、超音波で分散させて懸濁液を作製した。この懸濁液をマグネティックスターラーで撹拌しつつ、窒素気流下(0.5L/分)、f=2のイセチオン酸アンモニウム(Aldrich特級、純度99%)(95mg; 0.662mmol)を15mLメタノールに溶かした溶液を加えた。三口フラスコに冷却管を付け、マグネティックスターラーを用い、窒素気流下で、CO
32-MgAl−LDH3の懸濁液を撹拌しつつ、ウォーターバスで加熱しながら60℃で2時間反応させた。
【0124】
排出窒素ガス中に脱炭酸イオンによる大量のCO
2が認められた。反応後、窒素気流下、孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、メタノールで沈殿物を充分に洗浄した。ろ別した沈殿物をかき集めて回収し、直ちに減圧して真空下で1時間以上乾燥して、白色粉末121mgを得た。収率は92〜97%であった。
得られた物質のFTIRおよび粉末XRDのプロファイルは、実施例1のIse−MgAl−LDH3と同一であり、また、層間にCO
32-の残留は認められなかった。また、生成物は、水と接することによって直ちにゲル状に変化した。以上により、純度の高いイセチオン酸イオン型LDHの生成を確認した。
【0125】
上記の実験では、60℃で行なっているが、60℃未満でも実験を行った。その結果、低い温度の条件でもイセチオン酸イオンは、LDHの層間に入るものの、温度が低くなるほど層間の残留CO
32-量が増える傾向があり、例えば、55℃では5%程度、50℃では10%程度の残留CO
32-が観察された。
【0126】
また、イセチオン酸アンモニウムの量については、f=2を超える量を用いた実験を行なった。例えば、f=8では、55℃で残留CO
32-は観察されなかったが、残留CO
32-の量を減少させるには、イセチオン酸アンモニウムの量(f)を増やすよりも、温度を上げるほうが効果的であった。
【0127】
メタノール以外のアルコールとしてエタノールを用いた実験を同じ方法で行なった。エタノールを用いた場合も、反応温度が65℃以上、f=2以上の場合、Ise−LDHが得られ、残留CO
32-は認められなかった。
【0128】
なお、比較のため、プロトンを放出しないイセチオン酸ナトリウムを使用して、同様の実験を行なったが、FTIRでは、数%のイセチオン酸イオンの包接は認められたものの、基本的には、炭酸イオン型LDHのプロファイルであった。これは、上記の一段反応は、酸性化合物であるアンモニウム塩を使うことによってはじめて効率的に起こることを示している。