特許第5910892号(P5910892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910892
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】核酸マイクロアレイ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160414BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20160414BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20160414BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160414BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
   C12N15/00 FZNA
   G01N33/53 M
   G01N37/00 102
   C12M1/00 A
   !C12Q1/68 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-23276(P2014-23276)
(22)【出願日】2014年2月10日
(62)【分割の表示】特願2007-319542(P2007-319542)の分割
【原出願日】2007年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-94019(P2014-94019A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏之
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−335999(JP,A)
【文献】 特開2005−290107(JP,A)
【文献】 特開2002−202305(JP,A)
【文献】 Genes Genet. Syst.,2004年,Vol. 79, No. 4,pp. 189-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
C12Q 1/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機能プローブが以下の特徴を有する、無機能プローブが固定されており、前記無機能プローブと間接プローブがハイブリット形成しており、前記間接プローブが、前記無機能プローブの相補配列部分と、ターゲット核酸の相補配列部分のTmの差が10℃以内であることを特徴とする繊維型核酸マイクロアレイ。
(ア)配列長が複数の配列間で同一長であり、かつ30塩基以上である
(イ)複数の配列間で配列中のGC含量が同一である
(ウ)プローブ内で立体構造を取りにくい配列である
【請求項2】
無機能プローブがゲルを介して貫通孔に固定されている、請求項記載の繊維型核酸マイクロアレイ。
【請求項3】
以下の(A)及び(B)の工程を順次含む請求項1又は2記載の繊維型核酸マイクロアレイの製造方法。
(A)機能プローブと同数またはそれ以上の無機能プローブを固定する工程
(B)無機能プローブに間接プローブをハイブリダイズさせる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断、遺伝子変異研究等に利用できる核酸マイクロアレイ及びその製造
方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸マイクロアレイとは、担体上に多数の核酸プローブを高密度にそれぞれ独立に固定化したものである。核酸マイクロアレイは、複数の核酸塩基配列に関する発現量や、特定の核酸塩基配列の配列自体を解析するために利用されるシステムである。
【0003】
核酸マイクロアレイ上に固定されている核酸プローブは、該核酸プローブの塩基配列と相補である配列(ターゲット核酸)をハイブリダイゼーションによりキャプチャーし、ターゲット核酸を検出するための、一種のセンサーとして使用される。
【0004】
すなわち、核酸マイクロアレイは、
(1) 核酸マイクロアレイに固定されている核酸プローブに対して、検査対象となる核酸試料をハイブリダイズさせ、配列特異的に形成したハイブリッドを、例えばハイブリダイズした核酸試料に施した蛍光物質等により検出する、ことで、複数の核酸プローブに対応する核酸試料中のターゲット核酸を、一度に定量的又は定性的に調べることができる。
【0005】
核酸マイクロアレイの製造方法としては、あらかじめ調製した核酸プローブをスライドガラスやシリコンなどの基板に固定する方法と、基板上で核酸プローブを直接合成する方法が知られている。
【0006】
基板上で核酸プローブを直接合成する方法としては、光リソグラフィー法が挙げられる(非特許文献1:Science 251,767-773(1991))。この方法によれば、光照射で選択的に除去される保護基をもつ物質を使用し、フォトリソグラフィー技術と固相合成技術を組み合わせて、微小なマトリックスの所定の領域(反応部位)に選択的に核酸を合成(マスキング)することによって核酸マイクロアレイを作製することができる。
【0007】
また、あらかじめ調製した核酸プローブを固定する方法としては、主にスポッティング法が挙げられる(非特許文献2:Science 270, 467-470(1995))。この方法は、あらかじめPCRや人工的な合成によって作製した核酸プローブを含む溶液を、スポッターまたはアレイヤーという特別の装置を用いて数nlから数plの微小体積でチップ表面に並べ、基板上の特定領域に固定する技術である。当該方法に使用されるスポッターは、基板上の目標の位置に核酸プローブをスポットするために、定められた位置に一定量のサンプルを数10μm〜数100μmの大きさで定量的にスポットできる性能を有する必要がある。
【0008】
スポット方式の種類は、ピン先端の固相への機械的な接触によるピン方式、インクジェットプリンターの原理を利用したインクジェット方式、スポッター内に加熱によって泡を生じさせてその圧を利用してサンプルを噴出させるバブルジェット(登録商標)方式、毛細管によるキャピラリー方式などによって作製されることが多く、スポット処理した後は、必要に応じてUV照射によるクロスリンク形成、表面のブロッキング、洗浄等の後処理が行われる。スポットされた核酸プローブを基板上に共有結合で固定化させるため、核酸プローブの末端にはアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチン等が導入されていることが多く、基板はアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等を有する各種シランカップリング剤で表面処理されていることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、核酸プローブが高密度に搭載された核酸マイクロアレイを作製する場合は、上記に示した以上の大がかりな装置等が必要となる。一方、市販の核酸マイクロアレイは、既にプローブが固定化されており、自分で設計したプローブを搭載することはできない。
【0010】
つまり、核酸マイクロアレイを使用する研究者が、核酸マイクロアレイを製造する特別な設備装置を準備できない場合、自らが設計した核酸プローブによる核酸マイクロアレイを研究等に使用する場合は、製造設備を持っている事業者に依頼する必要があった。
【0011】
本発明は、簡便に所望の核酸プローブを固定化できる核酸マイクロアレイ及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、検査対象となる核酸試料とはハイブリダイゼーションしない核酸プローブが固定された核酸マイクロアレイに対し、当該核酸プローブの相補配列とターゲット核酸の相補配列とを有する核酸プローブをハイブリダイゼーションすることによって、簡便に所望の核酸プローブを固定化した核酸マイクロアレイを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明は、機能プローブと同数またはそれ以上の無機能プローブが固定されている核酸マイクロアレイ、である。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いることにより、通常の核酸マイクロアレイの製造に必要であったアレイヤー等の大型装置がなくても、簡便に所望の核酸プローブを固定化した核酸マイクロアレイを得ることが可能となる。
【0015】
また、本発明により、核酸マイクロアレイの作製にあたり、核酸プローブを基板に固定化するための修飾が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】中空繊維束
図2】検出画像
図3】直接固定化された機能プローブと間接的に固定化された間接プローブ間での散布図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、機能プローブと同数またはそれ以上の無機能プローブが固定されている核酸マイクロアレイ、である。
【0018】
「機能プローブ」とは、検査対象となる核酸試料とハイブリダイゼーションする核酸プローブをいう。
【0019】
それに対し、「無機能プローブ」とは、検査対象となる核酸試料とはハイブリダイゼーションしない核酸プローブをいう。このような無機能プローブのみでは、細胞や組織で発現している遺伝子の定量、定性といった有効な機能を成さない。無機能プローブは、アレイに搭載されている複数の配列間で、少なくとも計算値の上では、Tmが同一となるように設計されることが望ましい。さらに、配列長は、複数の配列間で同一長であることが望ましく、プローブ内で立体構造を取りにくい配列であること、複数の配列間で、配列中のGC含量が同一であることが望ましい。
【0020】
よって、無機能プローブは、例えば、以下の方法により設計することができる。
【0021】
(1) 既定の塩基長のアデニン、チミン、グアニン、シトシンからなるランダムな配列群から、グアニンおよびシトシンの含有率(GC含量)が一定又はほぼ一定となる配列群を選択する。
【0022】
前記配列群について、使用検体となる生物種を対象とした、例えばBlast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)などの公開プログラムよる相同性検索を実施し、任意のスコアを閾値としてスクリーニングを実施する。
【0023】
(2) 上記のごとく設計された無機能プローブ(群)は、それらを用いて一旦核酸マイクロアレイを作製し、例えばmRNAの発現解析に用いる場合などは、該生物種における市販のリファレンストータルRNA等を検体として用いて、ハイブリダイゼーションがおこらないことを検証しておく。
【0024】
上記無機能プローブは、機能プローブと同数又はそれ以上核酸マイクロアレイに固定化される。固定化する無機能プローブの数は、機能プローブと同数以上であればいくつでもよい。ただし、機能プローブが核酸マイクロアレイ上に存在しない場合であっても、無機能プローブは1種類以上核酸マイクロアレイに固定されていなければならない。
【0025】
核酸マイクロアレイとしては、どのような基板上に作製されたアレイでも適用が可能である。平面基板を使用する場合には、例えばフォトリソグラフィー法、スポッティング法により核酸プローブを固定することができる。貫通孔基板を使用する場合には、貫通孔の内壁に固定することもできる。また、貫通孔にゲルを保持し、ゲル内に核酸プローブを保持することも可能である。
【0026】
アレイ性能を維持するためには、上記無機能プローブを基板に大量に固定化できることが望ましく、また、アレイの使用法上からは、常にアレイを湿潤状態で取り扱うタイプの核酸マイクロアレイが望ましい。好ましくは、基板に複数の貫通孔が存在し、それら貫通孔にはゲルを介してプローブが固定されている核酸マイクロアレイが好適に使用される。そのような核酸マイクロアレイとしては、特開2000−60554号に記載の核酸マイクロアレイや、繊維型核酸マイクロアレイが例示できる。
【0027】
上記繊維型核酸マイクロアレイでは、中空繊維の中空部、すなわち核酸マイクロアレイの貫通孔中のゲルにプローブが固定されている。よって、プローブは、3次元構造体に固定されているため、プローブはある空間内に固定されていることとなる。プローブの固定されている周辺環境は、空間自由度を有し、さらには異なる種類のプローブは物理的な隔壁を隔てて固定されている。
【0028】
よって、上記核酸マイクロアレイは、平面基板上に高密度にプローブが固定されている核酸マイクロアレイと異なり、そこに搭載されたプローブはプローブとして十分に機能し、さらに隣接する種類の異なるプローブとの非特異的反応はない。したがって、プローブは、リンカー、スペーサー等のハイブリダイゼーションに関与しない余分な配列を結合する必要なく設計され、核酸マイクロアレイとして固定することが可能である。また、平面基板上に固定化する通常の核酸マイクロアレイに比較し、より多くの核酸プローブを固定化することが可能である。
上記無機能プローブを固定化した核酸マイクロアレイに対し、無機能プローブに相補な塩基配列とターゲット核酸の相補配列を有する核酸プローブ(以下、間接プローブと称す)をハイブリダイゼーションすることにより、所望の位置に所望の機能プローブを固定化した核酸マイクロアレイを製造することができる。
【0029】
間接プローブにおいては、無機能プローブの相補配列部分とターゲット核酸の相補配列部分のTmの差が、なるべく近接していることが望ましい。
無機能プローブの相補配列部分のTmが、ターゲット核酸の相補配列部分のTmに比較して著しく高い場合は、ターゲット核酸の相補配列部分のTmを元にハイブリダイゼーション条件を決めると、無機能プローブの相補配列部分は、ミスマッチを許容したハイブリダイゼーションとなる可能性がある。また、逆に、無機能プローブのTmに合わせてハイブリダイゼーション条件を決めると、ターゲット核酸の相補配列部分にとっては極めてストリンジェンシーの高いハイブリダイゼーション条件となり、ハイブリダイゼーションがおこりにくくなる可能性が高い。
【0030】
さらに、無機能プローブの相補配列部分のTmが、ターゲット核酸の相補配列部分のTmに比較して著しく低い場合も、各部分のハイブリダイゼーション条件に大きな差が生じるため、何れか一方の条件を最適化した際に、もう一方のハイブリダイゼーションの条件は良好とはならない。
【0031】
よって、無機能プローブの相補配列部分と、ターゲット核酸の相補配列部分のTmの差は、可能な限り近接していることが望ましく、その差が10℃以内であることが望ましい。
【0032】
間接プローブにおいて、無機能プローブの相補配列部分と、ターゲット核酸の相補配列部分のTmをそろえる方法としては、それらを構成する配列の、配列長、及びGC含量を統一することにより調製が可能である。特異性を補完するためにGC含量が揃えられない場合は、配列長を一定の範囲で変更することも可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0034】
<実施例1>
無機能プローブが搭載された核酸マイクロアレイの作製
1.プローブ配列の設計
MICROSOFT社のソフトウェアー「EXCEL」のRNDBETWEEN関数を使用し、1から4までの整数をランダムに30個発生させ、それをつなげて1から4までの数値のみから構成される30桁の数値とした。
【0035】
1をA、2をT、3をC、4をGと置き換えることにより、ATGCの30塩基によるランダム配列を得た。
【0036】
上記の操作を2000回繰り返すことにより、30塩基からなるランダムな配列、2000種を得た。
【0037】
得られた2000種の配列につき、GとTの和が15(AとTの和が15)となる配列のみを抜粋したところ、248種の配列が得られた。
【0038】
得られた248種の配列をBlastn2.2.6により、NCBIのマウスRefSeqデータベースに登録されているマウスmRNA 25377配列、52676183文字列に対して相同性検索を実施した。
【0039】
得られた結果から、Evalueが1以下である類似配列が存在しない123配列から、相同配列の少ないもの(27種類)を無機能プローブとして選択した(表1参照:配列番号
1〜27)。一方、マウスの遺伝子27種類に対応する機能プローブとなる30塩基からなるオリゴDNAを、27種類を選択した(表2参照:配列番号28〜54)。
【0040】
<表1>

<表2>

次に表1及び表2に記載のオリゴDNAを、以下のようにマイクロアレイに搭載した。
【0041】
2.プローブの調製
まず、プローブとなるオリゴヌクレオチドをDNA自動合成装置により合成した。合成の際、最終段階で、アミノリンクTM(PEバイオシステムズ社製)を該オリゴヌクレオチドに反応させ、次いで脱保護操作を行うことにより、各オリゴヌクレオチドの末端にアミノヘキシル基が導入された5’-O-アミノヘキシルオリゴヌクレオチドを調製した。次いで、それらオリゴヌクレオチドに、無水メタクリル酸を反応させ、5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製した。
【0042】
3.中空繊維束薄片の製造
図1に示す配列固定器具を利用して中空繊維束を製造した。なお、図1中のx、y、zは直交の3次元軸であり、x軸は繊維の長手方向と一致する。
【0043】
直径0.32mmの孔11が、孔の中心間距離を0.42mmとして、縦12列横各19列で合計228個設けられた厚さ0.1mmの多孔板21 2枚を準備した。これらの多孔板を重ね合わせて、そのすべての孔に、ポリカーボネート中空繊維31(三菱エンジニアリングプラスチック社製 カーボンブラック1質量%添加)を1本づつ、通過させた。
【0044】
X軸方向に各繊維に0.1Nの張力をかけた状態で2枚の多孔板の位置を移動させて、中空繊維の一方の端部から20mmの位置と100mmの位置の2ヶ所に固定した。即ち、2枚の多孔板の間隔を80mmとした。
【0045】
次いで、多孔板間の空間の周囲3面を板状物41で囲った。このようにして上部のみが開口状態にある容器を得た。
【0046】
次に、この容器の上部から容器内に樹脂原料を流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤(日本ポリウレタン工業(株)ニッポラン4276、コロネート4403)の総重量に対し、2.5質量%のカーボンブラックを添加したものを使用した。25℃で1週間静置して樹脂を硬化させた。次いで多孔板と板状物を取り除き、中空繊維束を得た。
【0047】
ゲル充填中空繊維配列体の製造時に、表3に示す質量比で混合した単量体及び開始剤を含むゲル前駆体重合性溶液を調製した。
【0048】
<表3>

次に、核酸プローブを含むゲル前駆体重合性溶液をデシケーター内に設置した。デシケーター内を減圧状態にしたのち、中空繊維束の繊維束が固定されていない一方の端部をこの溶液中に浸漬した。デシケーター内に窒素ガスを封入し、中空繊維の中空部に核酸プローブを含むゲル前駆体重合性溶液を導入した。次いで、容器内を70℃とし、3時間かけて重合反応を行った。
【0049】
このようにして核酸プローブがゲル状物を介して中空繊維の中空部に保持された中空繊維束を得た。
【0050】
次に得られた中空繊維束を、ミクロトームを用いて繊維の長手方向と直交する方向でスライスし、厚さ0.25mmの薄片シート(DNAマイクロアレイ)を200枚得た。
【0051】
4.検体の作製
Mouse Universal Reference Total RNA(Clontech製)1μgから、MessageAmpII-Biotin Enhancedキット(Ambion製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って、ビオチン標識された相補鎖RNAを合成、精製した。
【0052】
5.検体の断片化
ビオチン標識された相補鎖RNA各5μgをプラスチックチューブに入れ、液量が18μlとなるように、蒸留水を添加した。RNA Fragmentation Reagent(Ambion社製)を用いて以下の通りに断片化を行った。
【0053】
まず、10X Fragmentation Reagentを事前に準備した18ulの相補鎖RNA溶液に対して2ul添加し、よく混合した後、70℃で7.5分間加熱し、その後急冷した。次に、Stop Solutionを2μl添加し、よく混合することにより、断片化反応を終了した。断片化した検体22ulに対して、蒸留水を98ul添加した。
【0054】
得られた120ulの検体に対して、15ulの20X SSC(Ambion製)と、15ulの2% SDS(Ambion製の10% SDSを希釈して作製)をそれぞれ混合し、最終的に150ulの検体液を得た。
【0055】
6.検証
上記で得られた検体液を、70℃で2分間熱変性した後、速やかにウェルプレートにアプライした。ウェルプレートにアプライされた検体液に対し、上記で作成した中空繊維束薄片を接触させることによりハイブリダイゼーションを行った。
【0056】
ハイブリダイゼーションは、検体液とマイクロアレイを接触させる場であるウェルプレートに対してポリオレフィンフィルムを貼り付けた上で密閉状態とし、60℃の遮光条件下で16時間実施した。
【0057】
16時間経過後、ハイブリダイゼーションに用いた検体液を除去し、無機能型核酸マイクロアレイを60℃に温めた2×SSC、0.2% SDS溶液中に20分間浸漬し、その後、新しい同一組成の溶液内にて同一温度、同一時間浸漬した。次に、60℃に温めた2×SSC溶液に10分間浸漬し、洗浄を終了した。
【0058】
次いで、無機能型核酸マイクロアレイの所定のプローブにハイブリダイズしたターゲット核酸を検出するために、Streptavidin, Alexa Fluor 647 conjugate(Invitrogen製)を用いて染色を行った。
【0059】
すなわち、Streptavidin, Alexa Fluor 647 conjugate 1mgを、1mlの蒸留水に溶解し、そのうちの10ulを、2X SSC, 0.2% SDS溶液5mlに混合し、染色液を作製した。
【0060】
作製した染色液に対し、上記でハイブリ済みの核酸マイクロアレイを室温で30分間浸漬した。
【0061】
浸漬した核酸マイクロアレイは、2X SSC, 0.2% SDS溶液5mlを用いて4回、各5分間づつ室温で洗浄し、最終的に洗浄溶液を2X SSC溶液に置換して洗浄を終了した。
【0062】
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸マイクロアレイ自動検出装置を用いて、アレイを2×SSC中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナルを検出した。検出画像を図2に示す。
【0063】
本結果により、今回設計した無機能プローブは、マウス全遺伝子より調製した検体とハイブリダイゼーションせず、無機能プローブとして有効に使用できることが明らかとなった(図2実線内)。なお、破線内は機能プローブであるため、シグナルが検出されることについてはなんら不思議はない。
【0064】
<実施例2>
1.間接プローブ合成と間接チップの作製
実施例1で作製した無機能型核酸マイクロアレイに対してハイブリさせ、新たに機能型核酸マイクロアレイを作製する目的で、間接プローブを27種類作製した。間接プローブは、その3’側が無機能プローブの相補鎖により構成され、5’側が、マウスのいくつかのmRNAをターゲットとするキャプチャープローブ配列として構成される。配列長が60merとなるように、上述の方法で間接プローブを合成した。ただし、末端修飾は行わなかった。なお、間接プローブの5‘側30塩基の配列は、機能プローブ(配列番号28番から54番)の何れか1つの配列と同一であり、3’側30塩基の配列は、無機能プローブ(配列番号1番から27番)の何れかひとつの配列と相補となっている。
【0065】
間接プローブの塩基配列を表4(配列番号55〜81)に示す。
【0066】
<表4>

これらは全て100pmol/ulの濃度で調製し、27種類それぞれを、2ulずつ混合し、各間接プローブがそれぞれ200pmolずつ入った混合液54ulを得た。この溶液に対し、146ulの滅菌水を混合し、各間接プローブがそれぞれ200pmolずつ入った混合液200ulを得た。この混合液15ulに対し、滅菌水を105ul、20×SSCバッファー(Ambion製)を15ul、2% SDS溶液15ulを混合し、合計150ulの間接プローブ混合溶液を得た。
【0067】
本間接プローブ混合溶液を、95℃で2分間加熱後、室温まで冷却し、攪拌した後に、前もって作製した無機能型核酸マイクロアレイに対して60℃で16時間、密閉容器内にて接触させることにより、無機能プローブと、それに対応した間接プローブのハイブリダイゼーションを実施した。
【0068】
ハイブリダイゼーション終了後のマイクロアレイを、60℃に温めた2×SSC、0.2% SDS溶液中に20分間浸漬し、その後、新しい同一組成の溶液内にて同一温度、同一時間浸漬した。次に、60℃に温めた2×SSC溶液に10分間浸漬した。ここまでの処理をもって、ターゲット核酸に対応する配列を持った間接プローブが、ハイブリダイゼーションにより無機能型核酸マイクロアレイに固定化されて成る、「機能型核酸マイクロアレイ」が完成した。完成した「機能型核酸マイクロアレイ」は、アレイに直接固定化された機能プローブと、無機能プローブによって基板に固定化された間接プローブにより、27種類のマウス遺伝子に対
応するプローブがそれぞれ搭載されたことになった。作製された機能型核酸マイクロアレイを2×SSC溶液に浸漬し、冷蔵庫中、4℃で保管した。
【0069】
2.検体の作製
マウス脳及び骨格筋より抽出された市販のTotal RNA(Ambion社製)各1マイクログラムから、MessageAmpII-Biotin Enhancedキット(Ambion社製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って、ビオチン標識された相補鎖RNAを合成、精製した。
【0070】
その後のハイブリ溶液の作製、ハイブリダイゼーション、洗浄、標識、検出の各操作は、実施例1の操作に準じた。
【0071】
図3に、各スポットより得られたシグナル強度を、直接固定化された機能プローブと、間接的に固定化された間接プローブ間で散布図を用いて比較した。
【0072】
直接固定化、間接固定化、何れのプローブにおいても、検出ターゲット核酸に対する特異的相補配列が同一であれば、機能は等しいことが明らかであり、今回開示された手法を用いることにより、オリゴ核酸をハイブリダイゼーションするだけで所望の核酸マイクロアレイを作製することが可能であることが証明された。
【符号の説明】
【0073】
11・・・・孔
21・・・・多孔板
31・・・・中空繊維
41・・・・板状物
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号1〜27:合成DNA
図1
図2
図3
【配列表】
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