【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0034】
<実施例1>
無機能プローブが搭載された核酸マイクロアレイの作製
1.プローブ配列の設計
MICROSOFT社のソフトウェアー「EXCEL」のRNDBETWEEN関数を使用し、1から4までの整数をランダムに30個発生させ、それをつなげて1から4までの数値のみから構成される30桁の数値とした。
【0035】
1をA、2をT、3をC、4をGと置き換えることにより、ATGCの30塩基によるランダム配列を得た。
【0036】
上記の操作を2000回繰り返すことにより、30塩基からなるランダムな配列、2000種を得た。
【0037】
得られた2000種の配列につき、GとTの和が15(AとTの和が15)となる配列のみを抜粋したところ、248種の配列が得られた。
【0038】
得られた248種の配列をBlastn2.2.6により、NCBIのマウスRefSeqデータベースに登録されているマウスmRNA 25377配列、52676183文字列に対して相同性検索を実施した。
【0039】
得られた結果から、Evalueが1以下である類似配列が存在しない123配列から、相同配列の少ないもの(27種類)を無機能プローブとして選択した(表1参照:配列番号
1〜27)。一方、マウスの遺伝子27種類に対応する機能プローブとなる30塩基からなるオリゴDNAを、27種類を選択した(表2参照:配列番号28〜54)。
【0040】
<表1>
<表2>
次に表1及び表2に記載のオリゴDNAを、以下のようにマイクロアレイに搭載した。
【0041】
2.プローブの調製
まず、プローブとなるオリゴヌクレオチドをDNA自動合成装置により合成した。合成の際、最終段階で、アミノリンクTM(PEバイオシステムズ社製)を該オリゴヌクレオチドに反応させ、次いで脱保護操作を行うことにより、各オリゴヌクレオチドの末端にアミノヘキシル基が導入された5’-O-アミノヘキシルオリゴヌクレオチドを調製した。次いで、それらオリゴヌクレオチドに、無水メタクリル酸を反応させ、5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製した。
【0042】
3.中空繊維束薄片の製造
図1に示す配列固定器具を利用して中空繊維束を製造した。なお、
図1中のx、y、zは直交の3次元軸であり、x軸は繊維の長手方向と一致する。
【0043】
直径0.32mmの孔11が、孔の中心間距離を0.42mmとして、縦12列横各19列で合計228個設けられた厚さ0.1mmの多孔板21 2枚を準備した。これらの多孔板を重ね合わせて、そのすべての孔に、ポリカーボネート中空繊維31(三菱エンジニアリングプラスチック社製 カーボンブラック1質量%添加)を1本づつ、通過させた。
【0044】
X軸方向に各繊維に0.1Nの張力をかけた状態で2枚の多孔板の位置を移動させて、中空繊維の一方の端部から20mmの位置と100mmの位置の2ヶ所に固定した。即ち、2枚の多孔板の間隔を80mmとした。
【0045】
次いで、多孔板間の空間の周囲3面を板状物41で囲った。このようにして上部のみが開口状態にある容器を得た。
【0046】
次に、この容器の上部から容器内に樹脂原料を流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤(日本ポリウレタン工業(株)ニッポラン4276、コロネート4403)の総重量に対し、2.5質量%のカーボンブラックを添加したものを使用した。25℃で1週間静置して樹脂を硬化させた。次いで多孔板と板状物を取り除き、中空繊維束を得た。
【0047】
ゲル充填中空繊維配列体の製造時に、表3に示す質量比で混合した単量体及び開始剤を含むゲル前駆体重合性溶液を調製した。
【0048】
<表3>
次に、核酸プローブを含むゲル前駆体重合性溶液をデシケーター内に設置した。デシケーター内を減圧状態にしたのち、中空繊維束の繊維束が固定されていない一方の端部をこの溶液中に浸漬した。デシケーター内に窒素ガスを封入し、中空繊維の中空部に核酸プローブを含むゲル前駆体重合性溶液を導入した。次いで、容器内を70℃とし、3時間かけて重合反応を行った。
【0049】
このようにして核酸プローブがゲル状物を介して中空繊維の中空部に保持された中空繊維束を得た。
【0050】
次に得られた中空繊維束を、ミクロトームを用いて繊維の長手方向と直交する方向でスライスし、厚さ0.25mmの薄片シート(DNAマイクロアレイ)を200枚得た。
【0051】
4.検体の作製
Mouse Universal Reference Total RNA(Clontech製)1μgから、MessageAmpII-Biotin Enhancedキット(Ambion製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って、ビオチン標識された相補鎖RNAを合成、精製した。
【0052】
5.検体の断片化
ビオチン標識された相補鎖RNA各5μgをプラスチックチューブに入れ、液量が18μlとなるように、蒸留水を添加した。RNA Fragmentation Reagent(Ambion社製)を用いて以下の通りに断片化を行った。
【0053】
まず、10X Fragmentation Reagentを事前に準備した18ulの相補鎖RNA溶液に対して2ul添加し、よく混合した後、70℃で7.5分間加熱し、その後急冷した。次に、Stop Solutionを2μl添加し、よく混合することにより、断片化反応を終了した。断片化した検体22ulに対して、蒸留水を98ul添加した。
【0054】
得られた120ulの検体に対して、15ulの20X SSC(Ambion製)と、15ulの2% SDS(Ambion製の10% SDSを希釈して作製)をそれぞれ混合し、最終的に150ulの検体液を得た。
【0055】
6.検証
上記で得られた検体液を、70℃で2分間熱変性した後、速やかにウェルプレートにアプライした。ウェルプレートにアプライされた検体液に対し、上記で作成した中空繊維束薄片を接触させることによりハイブリダイゼーションを行った。
【0056】
ハイブリダイゼーションは、検体液とマイクロアレイを接触させる場であるウェルプレートに対してポリオレフィンフィルムを貼り付けた上で密閉状態とし、60℃の遮光条件下で16時間実施した。
【0057】
16時間経過後、ハイブリダイゼーションに用いた検体液を除去し、無機能型核酸マイクロアレイを60℃に温めた2×SSC、0.2% SDS溶液中に20分間浸漬し、その後、新しい同一組成の溶液内にて同一温度、同一時間浸漬した。次に、60℃に温めた2×SSC溶液に10分間浸漬し、洗浄を終了した。
【0058】
次いで、無機能型核酸マイクロアレイの所定のプローブにハイブリダイズしたターゲット核酸を検出するために、Streptavidin, Alexa Fluor 647 conjugate(Invitrogen製)を用いて染色を行った。
【0059】
すなわち、Streptavidin, Alexa Fluor 647 conjugate 1mgを、1mlの蒸留水に溶解し、そのうちの10ulを、2X SSC, 0.2% SDS溶液5mlに混合し、染色液を作製した。
【0060】
作製した染色液に対し、上記でハイブリ済みの核酸マイクロアレイを室温で30分間浸漬した。
【0061】
浸漬した核酸マイクロアレイは、2X SSC, 0.2% SDS溶液5mlを用いて4回、各5分間づつ室温で洗浄し、最終的に洗浄溶液を2X SSC溶液に置換して洗浄を終了した。
【0062】
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸マイクロアレイ自動検出装置を用いて、アレイを2×SSC中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナルを検出した。検出画像を
図2に示す。
【0063】
本結果により、今回設計した無機能プローブは、マウス全遺伝子より調製した検体とハイブリダイゼーションせず、無機能プローブとして有効に使用できることが明らかとなった(
図2実線内)。なお、破線内は機能プローブであるため、シグナルが検出されることについてはなんら不思議はない。
【0064】
<実施例2>
1.間接プローブ合成と間接チップの作製
実施例1で作製した無機能型核酸マイクロアレイに対してハイブリさせ、新たに機能型核酸マイクロアレイを作製する目的で、間接プローブを27種類作製した。間接プローブは、その3’側が無機能プローブの相補鎖により構成され、5’側が、マウスのいくつかのmRNAをターゲットとするキャプチャープローブ配列として構成される。配列長が60merとなるように、上述の方法で間接プローブを合成した。ただし、末端修飾は行わなかった。なお、間接プローブの5‘側30塩基の配列は、機能プローブ(配列番号28番から54番)の何れか1つの配列と同一であり、3’側30塩基の配列は、無機能プローブ(配列番号1番から27番)の何れかひとつの配列と相補となっている。
【0065】
間接プローブの塩基配列を表4(配列番号55〜81)に示す。
【0066】
<表4>
これらは全て100pmol/ulの濃度で調製し、27種類それぞれを、2ulずつ混合し、各間接プローブがそれぞれ200pmolずつ入った混合液54ulを得た。この溶液に対し、146ulの滅菌水を混合し、各間接プローブがそれぞれ200pmolずつ入った混合液200ulを得た。この混合液15ulに対し、滅菌水を105ul、20×SSCバッファー(Ambion製)を15ul、2% SDS溶液15ulを混合し、合計150ulの間接プローブ混合溶液を得た。
【0067】
本間接プローブ混合溶液を、95℃で2分間加熱後、室温まで冷却し、攪拌した後に、前もって作製した無機能型核酸マイクロアレイに対して60℃で16時間、密閉容器内にて接触させることにより、無機能プローブと、それに対応した間接プローブのハイブリダイゼーションを実施した。
【0068】
ハイブリダイゼーション終了後のマイクロアレイを、60℃に温めた2×SSC、0.2% SDS溶液中に20分間浸漬し、その後、新しい同一組成の溶液内にて同一温度、同一時間浸漬した。次に、60℃に温めた2×SSC溶液に10分間浸漬した。ここまでの処理をもって、ターゲット核酸に対応する配列を持った間接プローブが、ハイブリダイゼーションにより無機能型核酸マイクロアレイに固定化されて成る、「機能型核酸マイクロアレイ」が完成した。完成した「機能型核酸マイクロアレイ」は、アレイに直接固定化された機能プローブと、無機能プローブによって基板に固定化された間接プローブにより、27種類のマウス遺伝子に対
応するプローブがそれぞれ搭載されたことになった。作製された機能型核酸マイクロアレイを2×SSC溶液に浸漬し、冷蔵庫中、4℃で保管した。
【0069】
2.検体の作製
マウス脳及び骨格筋より抽出された市販のTotal RNA(Ambion社製)各1マイクログラムから、MessageAmpII-Biotin Enhancedキット(Ambion社製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って、ビオチン標識された相補鎖RNAを合成、精製した。
【0070】
その後のハイブリ溶液の作製、ハイブリダイゼーション、洗浄、標識、検出の各操作は、実施例1の操作に準じた。
【0071】
図3に、各スポットより得られたシグナル強度を、直接固定化された機能プローブと、間接的に固定化された間接プローブ間で散布図を用いて比較した。
【0072】
直接固定化、間接固定化、何れのプローブにおいても、検出ターゲット核酸に対する特異的相補配列が同一であれば、機能は等しいことが明らかであり、今回開示された手法を用いることにより、オリゴ核酸をハイブリダイゼーションするだけで所望の核酸マイクロアレイを作製することが可能であることが証明された。