特許第5910906号(P5910906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5910906
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】果実由来の自己消化食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20160414BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20160414BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160414BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20160414BHJP
   A23B 7/10 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
   A23L1/212 Z
   A61K8/97
   A61Q19/00
   A61Q19/02
   !A23B7/10 C
   !A23B7/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-530794(P2015-530794)
(86)(22)【出願日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2014082799
【審査請求日】2015年6月29日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315000032
【氏名又は名称】株式会社REGALO Lab
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 幸絵
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−157310(JP,A)
【文献】 特開平10−323154(JP,A)
【文献】 特開2012−179048(JP,A)
【文献】 特開2013−085549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ科に属する果実由来の自己消化果実である自己消化食品の製造方法であって、果実が黄褐色又は赤褐色となるように且つその黄褐色又は赤褐色を維持するように、前記果実を50〜60℃の自己消化温度で6〜24時間おき、室温で16〜96時間おく処理を繰り返すことにより自己消化させ自己消化果実を得る工程を有し、
前記自己消化果実の熱水抽出液にエタノールを加え80%エタノール濃度にしたときに不溶化するペクチン画分が果実可食部100g当たり0.1g以上で平均分子量が5万以上であり且つ80%エタノール可溶部のクエン酸が果実可食部100g当たり2.0g以上、リンゴ酸が1.0g以上の濃度で含有し、且つ可食部pHが3.0以下、且つブリックスが6.0以上であり、且つ色調は黄褐色又は赤褐色であり、且つ食塩を含有しないことを特徴とする果実由来の自己消化食品の製造方法。
【請求項2】
バラ科に属する果実由来の自己消化果実エキスである自己消化食品の製造方法であって、果実が黄褐色又は赤褐色となるように且つその黄褐色又は赤褐色を維持するように、前記果実を50℃〜60℃の自己消化温度で6〜73日間自己消化させ自己消化果実とし、前記自己消化果実から自己消化果実エキスを得る工程を有し、
前記自己消化果実エキスを80%エタノール濃度にしたときに不溶化するペクチン画分がエキス100ml当たり0.1g以上であり且つ80%エタノール可溶部のクエン酸がエキス100ml当たり2.0g以上、リンゴ酸が1.0g以上の濃度で含有し、且つ可食部pHが3.0以下、且つブリックスが6.0以上、且つ酸度が8ml以上であり、且つ色調は黄褐色又は赤褐色であり、且つ食塩を含有しないことを特徴とする果実由来の自己消化食品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を乾燥させた塊状又は粉末状の乾燥食品の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を乾燥させた粉末状の乾燥食品の製造方法。
【請求項5】
野菜、果実、自己消化野菜及び自己消化果実からなる群から選択された1又は複数に対し、請求項1又は2に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を加えて自己消化させたことを特徴とする自己消化食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品、又は請求項5に記載の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を使用した加工食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1若しくは2に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品、又は請求項5に記載の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を使用した化学製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1若しくは2に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品、又は請求項5に記載の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を使用し発酵させた発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラ科に属する植物の果実を自己消化させてペクチンを可溶化させ、また有機酸を新生させた無塩である自己消化果実及びそのエキスと同濃度のペクチン、有機酸を含有する無塩調味液、さらに、これら無塩自己消化果実・無塩自己消化エキス、無塩調味液を使用した野菜及び果実の自己消化物、また、 これら無塩自己消化果実、無塩自己消化エキス、無塩調味液を使用した野菜及び果実の自己消化物を使用した加工食品・化粧品及びこの発酵食品と化粧品に関する。
【0002】
自己消化食品は、素材が有するプロテアーゼやアミラーゼなどの分解酵素によって、素材自身のタンパク質や糖質を分解したものである。また、分解により組織の崩壊を伴うものである。また、本明細書に記載するエタノール濃度は重量%である。
【背景技術】
【0003】
バラ科に属する果実としてアプリコットや梅、桃、サクランボ、カリン、ビワ、リンゴ、梨、マルメロなどがある。これらは主として生食されるが一部はジャムや砂糖漬けで保存される。この他の保存形態としては、梅に代表される塩蔵がある。
【0004】
塩蔵梅は塩蔵後に梅漬けや部分乾燥した梅干として活用されている。しかしながらこれら梅漬けや梅干は食塩濃度が20%前後と非常に高く、そのため酢酸を使用してpHを下げて低塩化した調味梅漬けや調味梅干が製造されている。これら調味梅加工品の食塩濃度は7%前後となっている。
【0005】
調味品より塩分濃度の低い梅加工品が求められていることから、さらに低塩化した梅加工品の梅肉中の有機酸量を3重量%以上で且つ有機酸中の酢酸の量は5重量%以上とし、食塩量を3重量%以下とする技術(特許文献1)や梅の果実を温食塩水に接触させて細胞を死滅させる一方、自己消化酵素を失活させることなく自己消化酵素による分解を起こさせ、その後冷却して食塩の濃度が0.5重量%から15重量%、有機酸の濃度が5重量%以下の保存液中で保存する方法(特許文献2)などが知られている。
【0006】
このように、低塩化による微生物腐敗を防止するためpHを有機酸により下げる方法が一般に用いられている。
【0007】
一方、食塩分0%のものとして食酢に黒砂糖など植物性甘味を加えた液に漬ける酢漬け無塩梅の製法(特許文献3)、梅の漬け込み液として食酢を主成分とすることを特徴とする製法(特許文献4)、冷凍梅を温度50〜65℃の温水に接触させて解凍し、この解凍した梅を加熱した糖溶液中に投入し、その後速やかに上記糖溶液の温度を沸騰点まで上昇させ、上記温度を沸騰点近くに維持して煮詰めと殺菌を行う方法(特許文献5)、 高塩分の梅干しを、酢酸を主成分とするクエン酸を含む溶液に漬け、その梅干しの含有塩分を抜き出し極減塩梅干しや無塩梅干しを製造する技術(特許文献6)、梅の果実だけを容器内に充填し、その梅の果実を充填した容器をムロ内に置き、その後、50℃〜90℃の温度範囲内にして50日以上で90日以内の期間で温めて熟成して、梅の果実を黒色化させる無塩梅加工品 製造方法(特許文献7)、 梅原料を100℃〜350℃の範囲内の温度で加熱することにより乾燥することを特徴とする、梅干しの製造方法 (特許文献8)、梅加工品の梅肉中の有機酸量を3重量%以上とし、且つ食塩量を3重量%以下とする。有機酸中の酢酸の量は5重量%以上とする(特許文献9)などが知られている。
【0008】
このように無塩の梅干では、低食塩の梅加工品よりさらに高濃度の有機酸を使用するか又は100℃〜350℃のような高温での乾燥、あるいは黒色化するまでの乾燥で水分活性を低下させ保存性を付与する方法が行われている。
【0009】
梅果実由来のエキスとしては、青梅を押しつぶして作った絞り汁を2〜3日間煮つめた黄褐色ものや、青梅を長時間煮詰めて作った黒色の梅肉エキスが製造されている。
【0010】
この他の梅エキス製造法やその活用方法としては、梅酒液から漬梅を分取し、この漬梅を95〜100℃の熱水に60〜90分間浸漬してペクチンを含有するエキス分を分取する方法やさらにこの梅エキスを氷結させて梅エキス入りシャーベットを製造する方法(特許文献10)や、完熟梅又は追熟梅を凍結してから50〜65℃の温水に接触して解凍し、解凍した梅に対して糖を添加して加熱し、その加熱温度を沸騰点に維持して撹拌加熱を4〜40分間持続することにより梅から水分を除去しつつペクチンを溶出させてジャム化する 技術(特許文献11)などが知られている。
【0011】
近年、濃縮梅エキスの含まれる機能性成分であるムメフラールが注目されていることから、ムメフラール高含有梅エキス製造方法として製造工程が濃縮工程と加熱工程の2段階を含み、濃縮工程で水分量を低下させ、次に加熱工程でその水分量を維持させながら、ムメフラールを生成させること、また、被加工エキス中の水分量が40質量%以下で、加熱工程中において加圧し、さらに、加熱工程でエキスに仕上げる前に、糖類又はクエン酸を添加することを特徴とする、ムメフラールを高含有梅エキス製造方法(特許文献12)がある。
【0012】
さらに、ペクチンの製造とこれを活用したものとしてはクエン酸濃度が4.0%〜20%(w/v)、pHが5.5〜8.3、温度が40℃〜80℃の条件でクエン酸又はクエン酸塩を使用して果実、果皮、又は果実搾汁粕から製造する方法(特許文献13)や、梅の実を塩漬けにし、固液分離して得られた梅酢を電気透析法などの透析によって脱塩し、得られた液状の低塩性梅酢から水分を蒸発させてゾル状濃縮物を得る健康食品の製造方法(特許文献14)、また梅酒製造で使用した無塩の漬梅を分取し、種子を除いた果肉を大気圧未満で減圧し95〜97℃で加熱するという減圧加熱状態で処理することにより、糖分を55%以上に濃縮しゲル化した無塩ゼリー状食品を製造する技術(特許文献15)も開発されている。
【0013】
一方、梅や梅エキス中に含有される有機酸量やペクチン量に関しては、梅干しや梅加工品の果肉では、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸が有機酸として存在し、その量は最大、果肉100g当たり各々5.9g、3.5g、0.22g、0.79g、0.012g且つクエン酸とリンゴ酸の和は最大5.9gである(非特許文献1、非特許文献2)。一方、これを絞った無濃縮の梅エキス中の有機酸量は報告されていないが、果肉の有機酸量を超えることはない。また、ペクチン量に関しては梅果実では0.37〜0.38%程度である報告(非特許文献3、非特許文献4)などがある。無濃縮の梅エキスのペクチン量に関しては一般的に知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平09−299022号公報
【特許文献2】特開2001−046006号公報
【特許文献3】特開平10−323154 号公報
【特許文献4】特開2008−193902号公報
【特許文献5】特開2010−200648号公報
【特許文献6】特開2010−207132号公報
【特許文献7】特開2012−157310号公報
【特許文献8】特開2009−136279号公報
【特許文献9】特開平09−299022号公報
【特許文献10】特開平08−070810号公報
【特許文献11】特開2010−110231号公報
【特許文献12】特開2004−081014号公報
【特許文献13】特開2008−199990号公報
【特許文献14】特開平11−266833号公報
【特許文献15】特開平11−169129号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌Vol.52,No.10,472−478(2005)
【非特許文献2】日本食品工業学会誌Vol.32,No.9,669−676(1985)
【非特許文献3】栄養学雑誌 32巻1号 p.9−18(昭和49年)
【非特許文献4】調理科学 5(2), 70−79, (1972)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
バラ科果実の保存品として代表されるものはリンゴ等のジャムや砂糖漬け・梅漬け・梅干である。梅漬け・梅干は、食塩で保存性を付与しているため、従来からの製法では食塩分が高く、そのため調味液等を使用した低塩化がこれまで進められてきた。近年、より低塩化したあるいは無塩化した製品製造技術が様々提案されてきた。しかしながらこれらの低塩化あるいは、無塩化技術を用いた梅干・梅漬け製品は、添加物としての有機酸使用や色調の変化を伴い、また高温処理を行うと、梅果実中に含まれる種々の酵素が速やかに活性を失うため、通常の熟成した梅加工品が保有する粘性や高有機酸濃度などの特性が引き出せなかった。
【0017】
また従来の梅エキスは、無塩のものでは青梅の絞り汁を煮詰めて作った黒色の高粘度の液体が主体であり、低塩の場合では酢酸などの有機酸を添加し保存性を付与した低〜中粘度の液体が多く、無塩で有機酸を添加しないエキスは少なかった。梅エキスで酸を添加しない場合、N/10のNaOH滴定による中和量で表される全酸度は 8〜12ミリリットルと低く、この有機酸だけで保存性を保つことは困難であった。
【0018】
さらに、梅にはペクチンが含まれているが、従来の梅エキス中に溶けているペクチンは一部に過ぎずそのため、より多くのペクチンを可溶化するため各種有機酸添加や加熱処理が行われているが、ペクチンを十分に可溶化させることが出来ず、添加物表示も必要となる。
【0019】
こうしたことより、アプリコットなどのバラ科果実、特に梅において無塩で添加物を使用しない且つ梅のペクチンが十分に可溶化され、さらに各種有機酸が豊富な漬け梅や梅干が求められていた。
【0020】
また、無塩で添加物を使用しない且つ梅のペクチンが十分に溶け込み、各種有機酸が豊富な梅エキスも求められていた。
【0021】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、その目的は従来の梅などのバラ科果実の加工品やエキスよりペクチン濃度と有機酸濃度が高い加工品とエキスを提供するとともに、この加工品及びエキスを使用した食品や化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、アプリコットや梅などのバラ科果実を50〜60℃で自己消化酵素を働かせることにより果肉部の糖類の一部が有機酸に変換されるとともに、生成した有機酸がプラスされることによって果実中の有機酸濃度が高まり、果肉部のペクチンの可溶化が進展し、さらに自己消化温度が常温より高いため、ペクチンの可溶化がさらに促進することを新たに見出したことにより、ペクチンと有機酸を豊富に含み無塩である漬け梅・梅干・梅エキスやアプリコット加工品が製造可能であることと、さらに、これらを活用した無塩加工食品が良好な呈味性を保有するだけではなく保存性も具備すること、また化粧品等も製造可能であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明は以下の(1)から()を提供するものである。
(1)バラ科に属する果実由来の自己消化果実である自己消化食品の製造方法であって、果実が黄褐色又は赤褐色となるように且つその黄褐色又は赤褐色を維持するように、前記果実を50〜60℃の自己消化温度で6〜24時間おき、室温で16〜96時間おく処理を繰り返すことにより自己消化させ自己消化果実を得る工程を有し、前記自己消化果実の熱水抽出液にエタノールを加え80%エタノール濃度にしたときに不溶化するペクチン画分が果実可食部100g当たり0.1g以上で平均分子量が5万以上であり且つ80%エタノール可溶部のクエン酸が果実可食部100g当たり2.0g以上、リンゴ酸が1.0g以上の濃度で含有し、且つ可食部pHが3.0以下、且つブリックスが6.0以上であり、且つ色調は黄褐色又は赤褐色であり、且つ食塩を含有しないことを特徴とする。
(2)バラ科に属する果実由来の自己消化果実エキスである自己消化食品の製造方法であって、果実が黄褐色又は赤褐色となるように且つその黄褐色又は赤褐色を維持するように、前記果実を50℃〜60℃の自己消化温度で6〜73日間自己消化させ自己消化果実とし、前記自己消化果実から自己消化果実エキスを得る工程を有し、前記自己消化果実エキスを80%エタノール濃度にしたときに不溶化するペクチン画分がエキス100ml当たり0.1g以上であり且つ80%エタノール可溶部のクエン酸がエキス100ml当たり2.0g以上、リンゴ酸が1.0g以上の濃度で含有し、且つ可食部pHが3.0以下、且つブリックスが6.0以上、且つ酸度が8ml以上であり、且つ色調は黄褐色又は赤褐色であり、且つ食塩を含有しないことを特徴とする。
(3)上記(1)記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を乾燥させた塊状又は粉末状の乾燥食品の製造方法を提供するものである。
(4)上記(2)記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を乾燥させた粉末状の乾燥食品の製造方法を提供するものである。
(5)野菜、果実、自己消化野菜及び自己消化果実からなる群から選択された1又は複数に対し、上記(1)又は(2)に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を加えて自己消化させたことを特徴とする自己消化食品の製造方法を提供するものである。
(6)上記(1)若しくは(2)に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品、又は上記(5)に記載の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を使用した加工食品の製造方法を提供するものである。
(7)上記(1)若しくは(2)に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品、又は上記(5)に記載の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を使用した化学製品の製造方法を提供するものである。
(8)上記(1)若しくは(2)に記載の果実由来の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品、又は上記(5)に記載の自己消化食品の製造方法により得られた自己消化食品を使用し発行させた発酵食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、従来の梅などのバラ科果実の加工品やエキスよりペクチン濃度と有機酸濃度が高い加工品とエキスを提供するとともにこの加工品及びエキスを使用した食品や化粧品を提供することが実現できた。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上述したように本発明者は、常温より高い自己消化温度によってペクチンの可溶化がさらに促進すると同時に、高濃度の有機酸に基づくpHの低下による保存性の向上を新たに見出した。
その工程は、アプリコットや梅などのバラ科果実を65℃以下好ましくは45〜60℃で自己消化酵素を働かせて、果肉部の糖類の一部を有機酸に変換させることである。この際に新たに生成する有機酸によって果実中の有機酸濃度が高まる。この高濃度の有機酸によりpHが低下する。このpH低下により保存性が向上するとともに、果肉部のペクチンの可溶化が促進される。
【0026】
本発明者は、上記の工程を経た果実由来の自己消化食品が、ペクチンと有機酸を豊富に含んでおり、良好な呈味性を保有するだけではなく保存性も具備することも確認した。さらに、この技術によって無塩の漬け梅・梅干・梅エキスやアプリコット加工品が製造可能であることを確認した。またさらに、上記の果実由来の自己消化食品を活用した化粧品等も製造可能であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0027】
本発明の一形態である果実由来の自己消化食品は、上記のとおり自己消化させた自己消化果実である。本発明による自己消化果実は、黄褐色は赤褐色で食塩を含有しないことを特徴とする。自己消化後の果実の熱水抽出液にエタノールを加え80%エタノール濃度にしたときに不溶化するペクチン画分が果実可食部100g当たり0.1g以上であり、好ましくは0.40g以上である。そのペクチンの平均分子量は5万以上であり、好ましくは5万から20万である。80%エタノール可溶部に含まれるクエン酸が果実可食部100g当たり2.0g以上であり、好ましくは4.9g以上である。また、80%エタノール可溶部に含まれるリンゴ酸は1.0g以上であり、好ましくは1.1g以上である。80%エタノール可溶部に含まれる有機酸は、好ましくは、クエン酸とリンゴ酸以外に有機酸としてシュウ酸を0.23g以上、コハク酸を0.80g以上の濃度で含有する。可食部のpHは3.0以下であり、好ましくは2.3から2.9である。また、可食部のブリックスは6.0以上、好ましくは6.7から8.1である。
【0028】
本発明による果実由来の自己消化食品の別の形態は、上記のとおり自己消化させた自己消化果実から得られる自己消化果実エキスである。本発明による自己消化果実エキスは、自己消化果実中の液体部分又は果実自己消化中に果実より流出する液体部分である。この自己消化果実エキスを80%エタノール濃度にしたときに不溶化するペクチン画分がエキス100ml当たり0.1g以上、好ましくは0.40g以上であることを特徴とする。また、80%エタノール可溶部のクエン酸がエキス100ml当たり2.0g以上、好ましくは4.9g以上、リンゴ酸が1.0g以上、好ましくは1.1g以上、又好ましくは、クエン酸とリンゴ酸以外に有機酸としてシュウ酸を0.23g以上、コハク酸を0.80g以上の濃度で含有することを特徴とする。またさらに、可食部pHが3.0以下、好ましくは2.3から2.9、且つブリックスが6.0以上、好ましくは6.7から8.1であり、酸度が8ml以上、好ましくは12ml以上であることを特徴とする。さらに、自己消化果実エキスは、上記の自己消化果実と同様に食塩を含有しないことを特徴とする。
【0029】
また、本発明のさらに別の形態である無塩調味液は、上記の自己消化果実エキスに類似する液体である。本発明による無調味液は、ペクチン製剤と有機酸製剤を調合し、ペクチン濃度を100ml当たり0.1g以上、好ましくは0.40g以上含有し且つ有機酸としてクエン酸・リンゴ酸・シュウ酸・コハク酸のうち少なくとも1種類以上を含み、含有量が3.0g以上、好ましくは6.0g以上で且つpH3.0以下、好ましくは1.8以下とした無塩の調味液である。
【0030】
本発明による果実由来の自己消化食品の原料となる果実は、アプリコットや梅・桃・サクランボ・カリン・ビワ・リンゴ・梨・マルメロ等のバラ科に属する果実であればよいが、梅・アプリコット・マルメロなど果実中に有機酸を多く含むものが好ましい。
【0031】
本発明のさらに別の形態は、乾燥食品であり、本発明の自己消化果実を乾燥させたものである。本発明による自己消化果実を乾燥させると、塊、粉末又はこれらの混合物である塊状又は粉末状の果実由来の自己消化食品が得られる。
【0032】
本発明による乾燥食品の別の形態は、本発明の自己消化果実エキスを乾燥させたものである。本発明による自己消化果実エキスを乾燥させると、粉末状の果実由来の自己消化食品が得られる。
【0033】
本発明のさらに別の形態は、本発明の自己消化果実又は自己消化果実エキスを用いて得られる自己消化食品である。本発明による自己消化食品は、野菜、果実、自己消化野菜及び自己消化果実からなる群から選択された1又は複数に対し、上記の本発明による自己消化果実又は自己消化果実エキスを加えて自己消化させたことを特徴とする。本発明による自己消化食品の原料群中の自己消化果実には、本発明による自己消化果実以外に、別の処理による自己消化果実も含まれる。本発明による自己消化食品には、例えば自己消化果実に本発明の自己消化果実エキスを加えてさらに自己消化させた、ソースやたれなどの調味料が含まれる。
【0034】
本発明のさらに別の形態は、本発明の自己消化果実又は自己消化果実エキス又は自己消化食品を使用した加工食品である。その使用方法は、典型的には加工食品用の原料としての使用である。しかしながら、原料としての使用に限定されるものではなく、加工食品製造において酸性条件下とすることにより抽出や物質変化を起こさせる使用方法も含まれる。さらに別の形態として、本発明の無塩調味液を使用して同様の加工食品を得ることもできる。
【0035】
本発明のさらに別の形態は、本発明の自己消化果実又は自己消化果実エキス又は自己消化食品を使用した化学製品である。本発明による化学製品は、例えば化粧品又は入浴剤などである。これらの化学製品には、化粧水、乳液、美容液、洗顔料、メイク落とし、洗剤、入浴剤、その他の一般的な化粧品及び化学品を含む。さらに別の形態として、本発明の無塩調味液を使用して同様の化学製品を得ることもできる。
【0036】
本発明のさらに別の形態は、本発明の自己消化果実又は自己消化果実エキス又は自己消化食品を発酵させた発酵食品である。本発明による発酵食品は、上記の自己消化果実又は自己消化果実エキス又は自己消化物を使用して発酵させたものであり、例えば、味噌、醤油、みりん、酢、酒、ワイン、焼酎、パン、甘酒や、その他の一般的な発酵食品を含む。さらに別の形態として、本発明の無塩調味液を使用して同様の発酵食品を得ることもできる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)「無塩梅干し」
各種の梅を水洗し、恒温装置内にて55℃で自己消化しながら通風乾燥し、無塩梅干しを作成した。処理条件を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
乾燥した無塩梅干しの分析結果を表2に示す。何れの無塩梅干しも室温2週間の保存で微生物汚染は観察されなかった。
【0041】
【表2】
【0042】
(実施例2)「無塩梅エキス」
各種梅を水洗し、ポリスチレン製のバックに入れて真空パック又は密封して50℃から60℃に設定した恒温槽内で自己消化させて無塩の梅エキスを得た。自己消化条件等を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
取得した無塩の梅エキスの分析結果を表4に示す。何れの無塩梅エキスも室温一ヶ月の保存で微生物汚染は観察されなかった。
【0045】
【表4】
【0046】
(実施例3)「調合無塩調味液」
無塩梅エキス類似の酸味・とろみ・保存性を有する食品添加物を使用した無塩調味液を表5のように調製した。
【0047】
【表5】
【0048】
調合した無塩調味液のpHは、配合番号1が最も高くpH1.8であった。また、何れも良好なとろみを有し、常温で一ヶ月間の保存では微生物汚染は観察されなかった。
【0049】
(実施例4)バラ科果実の無塩自己消化果実
バラ科の果実であるあんず及びプラム、マルメロを水洗し恒温槽内にて55℃で自己消化させながら3日間風乾して部分乾燥自己消化果実を調製した。
【0050】
得られた部分乾燥自己消化果実は、生の状態と比較して赤褐色の色合いが強くなった。また、保存性は常温2週間で微生物汚染は観察されなかった。
【0051】
(実施例5)バラ科果実の無塩自己消化エキス
バラ科の果実であるあんず及びプラム、マルメロを水洗し、ポリスチレン製のバッグに入れて、真空包装又は密封し、恒温槽内にて55℃で自己消化させながら14日間自己消化させて無塩の果実エキスを調製した。
【0052】
マルメロでは原料重量の5%のエキスしか取得できなかったが、あんずとプラムではエキスが30%以上取得され、良好な酸味と原料由来の香りを有していた。
【0053】
(実施例6)「梅干し乾燥粉末」
実施例1の作成番号1の無塩自己消化梅干しの果肉部分100gをミキサーで細断し、55℃から70℃で5日間乾燥し、無塩自己消化梅乾燥物59gを得た。この無塩梅乾燥物20gを乳鉢で粉砕して無塩自己消化梅乾燥粉末を調製した。
【0054】
調製した無塩自己消化梅干し乾燥粉末は、梅の風味があり強い酸味で吸湿性の高い粉末であった。この粉末を37℃で一ヶ月間保存したが、大きな色調の変化もなく良好な保存性を示した。
【0055】
(実施例7)「梅エキス乾燥粉末」
実施例2の作成番号2と4をそれぞれ50ml混合したものにデキストリン15gを混合し、80℃の恒温槽で時々かき混ぜて3日間乾燥し、乾燥品はさらに乳鉢で粉砕して再乾燥して無塩自己消化梅エキス乾燥粉末31gを調製した。
【0056】
調製した無塩自己消化梅エキス乾燥粉末は、強い酸味と梅の香りを有する粉体であった。
【0057】
(実施例8)「無塩梅ケチャップ1」
生トマトを自己消化させながら部分乾燥し、その後細断無塩自己消化梅干し又は無塩自己消化梅エキスを加えて無塩梅ケチャップを調製した。調製条件を表6に示す。
【0058】
【表6】
【0059】
(実施例9)「無塩梅ケチャップ2」
トマトに含まれるペクチンの溶出を促進させるため、生トマトに細断無塩自己消化梅干し又は無塩自己消化梅エキスを加えてトマトを自己消化させながら水分を減少させ無塩梅ケチャップを調製した。調製条件を表7に示す。
【0060】
【表7】
【0061】
実施例8と実施例9の無塩梅ケチャップの分析結果を表8に示す。完成した無塩梅ケチャップは、無塩でありながら旨味と味の濃い良質な調味料であった。ペクチン濃度は梅ケチャップ3・4より梅ケチャップ1・2の方が高いと感じられた。
【0062】
【表8】
【0063】
(実施例10)「無塩めんつゆ」
実施例8記載の25gの無塩梅ケチャップ1にオリーブオイル5g、水70gを加えて麺のつけダレを作成した。風味の良い、つけダレとなった。
【0064】
(実施例11)「無塩加工ショウガ」
生姜の千切り48gに実施例8記載の96gの無塩梅ケチャップ1を加えて55℃で18時間自己消化させて加工ショウガを作成した。完成した加工ショウガは、風味のよい仕上がりとなり、紅ショウガ様の使用が可能であった。
【0065】
(実施例12)「無塩調味とんかつ」
実施例8記載の10gの無塩梅ケチャップ1を豚ロース肉80gに塗り、小麦粉、卵、パン粉を漬けて170℃の油で15分揚げ、とんかつを作成した。とんかつは肉の美味しさが際立つ酸味と旨みが付与されていた。
【0066】
(実施例13)「すし飯」
白米150gを水洗し炊き上げ、実施例2の作成番号3の無塩梅エキス100mlを混ぜ込んですし飯とした。完成したすし飯は、酢酸臭のない酸味のまろやかな美味なすし飯となった。
【0067】
(実施例14)「無塩パスタ」
実施例8記載の100gの無塩梅ケチャップ2にバター14g、白ワイン17g、にんにくみじん切り10g、を合わせてナポリタンソースを作成した。このナポリタンソースに薄切り玉ねぎ50g、輪切りピーマン40gを炒めて加え、ゆでたスパゲッティ160gを合えてナポリタンを作成したところ、良好な風味の無塩ナポリタンとなった。
【0068】
(実施例15)「化粧品」
実施例2記載の梅エキス20g に精製水100g、グリセリン50.0g、フェノキシエタノール0.5gを加えて乳液状の化粧品を調整した。この化粧品を1週間使用したところ、肌なじみがよく、優れた使用感と保湿効果を得られた上、シミの退色も見られ、美白効果も認められた。
【0069】
(実施例16)「化粧水」
実施例2の作成番号2の無塩梅エキス1mlにグリセリン5g、尿素3g、精製水100mlを加えて撹拌し、梅エキス入り化粧水を作成した。完成した化粧水は弱酸性の、保湿力の高い化粧水となった。
【0070】
(実施例17)「無塩味噌」
無塩梅干し・無塩梅エキス・無塩梅ケチャップ・調合無塩調味液を配合し、無塩で酵母発酵させた味噌を調製した。発酵は30℃で60日間行った。配合を表9に示す。
【0071】
【表9】
【0072】
調製した4種類の無塩味噌は腐敗することなく良好な酵母発酵が観察され、味噌風味が少ないが、無塩で旨味の強い調味料であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アプリコットや梅などのバラ科果実を65℃以下好ましくは45〜60℃で自己消化酵素を働かせることにより果肉部の糖類の一部が有機酸に変換されるとともに、生成した有機酸がプラスされることによって果実中の有機酸濃度が高まり、果肉部のペクチンの可溶化が進展し、さらに自己消化温度が常温より高いためペクチンの可溶化がさらに促進し物性が向上し、さらにpHの低下により保存性の向上した無塩の自己消化果実に関するものである。本発明により、無塩自己消化果実、無塩自己消化果実エキスを活用した、良好な呈味性を保有するだけではなく保存性も具備する無塩の加工食品や化粧品・発酵食品の製造が可能となる。
【要約】
【課題】保存性の高い無塩・無糖のアプリコットや梅などのバラ科果実及びそのエキスさらにこれらを活用したものが求められていた。
【解決手段】
果実を65℃以下好ましくは45〜60℃で自己消化させることにより、有機酸濃度が向上するとともにペクチンの可溶化が促進され、物性と保存性の向上した無塩の自己消化果実及びそのエキスの製造が可能となるとともに、同濃度のペクチン及び有機酸を含有する無塩調味料やこれら無塩自己消化果実及び無塩自己消化果実エキスを活用した、無塩の加工食品や化粧品・発酵食品の製造が可能となる。
【選択図】なし