(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同一の荷重−変位特性及び荷重−内圧特性を有し、且つ自動車高調整の対象となる一部の左右サスペンションの自動車高調整開始時の一定時間前から終了時の一定時間後までのうち前記自動車高調整の少なくとも一部が間に介在する任意の異なる第1及び第2の時点の各々において測定された第1及び第2の変位並びに第1及び第2の内圧値から、第1及び第2のロール角と前記左右サスペンションによる第1及び第2のロールモーメントとをそれぞれ算出し、前記第1及び第2のロール角並びに前記第1及び第2のロールモーメントから、前記サスペンションを装着した車両固有のロール剛性係数を算出する第1ステップと、
前記第1及び第2の変位並びに第1及び第2の内圧値から、前記ロール剛性係数を所望の精度で算出できない更新禁止状態であるか否かを判定する第2ステップと、
前記第2ステップで前記更新禁止状態ではないと判定したとき、前記第1ステップで算出したロール剛性係数を更新して記憶し、前記第2ステップで前記更新禁止状態であると判定したとき、前記第1ステップで算出したロール剛性係数を更新して記憶しない第3ステップと、
自動車高調整開始後であって前記第3ステップでロール剛性係数を最初に記憶した後の任意の1つの時点において測定された前記左右サスペンションの変位及び内圧値から、ロール角と前記左右サスペンションによるロールモーメントとをそれぞれ算出し、前記サスペンションが示し得る内圧値をパラメータとして予め求めた複数個の荷重−変位特性のうち、前記左右サスペンションの測定内圧平均値に対応する荷重−変位特性を、前記自動車高調整が行われなかった場合の前記左右サスペンションに共通の荷重−変位特性として選択し、前記算出したロール角及びロールモーメントと、前記選択した荷重−変位特性と、前記第3ステップで記憶された最新のロール剛性係数とに基づき、前記自動車高調整が行われなかった場合の前記任意の1つの時点でのロール角を求める第4ステップと、を備えた
ことを特徴とする車両のロール角推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[非連結車両の実施形態:
図1〜
図18]
<構成例:
図1>
図1に示すように、本実施形態に係る車両のロール角推定装置10は、車両1の左後輪2L及び右後輪2R付近にそれぞれ設けたサスペンション(以下、符号3で総称することがあり、またエアバネと称することがある)3L及び3Rの変位Z
L及びZ
Rを検出する変位検出部11L及び11R(以下、符号11で総称することがある)と、サスペンション3L及び3Rの内圧P
L及びP
Rを測定する圧力測定部12L及び12R(以下、符号12で総称することがある)と、内圧P
L,P
Rと変位Z
L,Z
Rとに基づき自動車高調整が行われなかった場合(以下、車高調整非実行時と称することがある)のロール角(φ
2es)を推定すると共に、この推定したロール角(φ
2es)を用いて横転危険度判定装置20内のロール角・ロール角速度検出部21で検出されたロール角φを補正し、補正後のロール角φ
AMDを横転危険度判定部22に対して与える処理部13とを備えている。
【0031】
変位検出部11L及び11Rで検出した変位Z
L及びZ
Rは、車高調整装置30にも入力されており、車高調整装置30は、例えば旋回時、変位Z
L及びZ
Rに基づきサスペンション3L及び3Rの一方の内圧を加圧(エアAPを注入)すると共に他方の内圧を減圧(エアAPを排出)することにより、サスペンション3L及び3Rの荷重−変位特性をそれぞれ強制的に変化させて車両1の左右車高差(Z
L−Z
R)を調整(補正)する。
【0032】
すなわち、車両1においては、サスペンション3L及び3Rのみが車高調整の対象となり、左前輪4
L及び右前輪4R付近にそれぞれ設けたサスペンション5L及び5Rについては何ら車高調整が行われない。従って、以下の説明では、荷重F及び内圧Pはサスペンション3L及び3Rに対する値である。
【0033】
また、処理部13と車高調整装置30とが相互接続されており、処理部13は、車高調整装置30から車高調整の開始タイミング及び終了タイミングをそれぞれ示す信号SG
S及びSG
Fを受信する一方、車高調整装置30に対して車高調整中断指示信号INS1及び再開指示信号INS2を与えて車高調整を中断できるようにしている。
【0034】
なお、処理部13及び横転危険度判定部22は、所定のプログラムが予め記憶されると共に取得及び算出したデータを記憶可能なROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶部や、記憶部から読み出したプログラムに従って処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等を備えたECU(Electronic Central Unit)によって構成される。
【0035】
<横転危険度判定処理:
図2>
次に、横転危険度判定装置20が実行する横転危険度判定・制御処理の一例を、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0036】
図1に示す横転危険度判定装置20は、ロール角・ロール角速度検出部21が検出した車両1のロール角φ及びロール角速度ωに基づき車両1の横転危険度Hを判定すると共に、この横転危険度Hから目標減速度G
targetを算出する横転危険度判定部22と、この目標減速度G
targetに応じてブレーキ制御を行うブレーキコントローラ23とで構成されている。
【0037】
図2は、横転危険度判定装置20とロール角推定装置10の相互動作を示している。
図2に示すように、ロール角・ロール角速度検出部21は、車両1のロール角φ及びロール角速度ωを検出し、ロール角速度ωを横転危険度判定部22に与えるとともに、ロール角φを処理部13に与える(ステップS101)。
【0038】
処理部13は、ロール角φを補正し、補正後のロール角φ
AMDを横転危険度判定部22に対して与える(ステップS102)。
【0039】
次に、横転危険度判定部22は、予め記憶されている
図3に示すようなロール角φとロール角速度ωの関係を示す二次元マップを用い、この二次元マップ中に設けられた2本の境界線T1及びT2の各々からロール角φ及びロール角速度ωによって特定される点Sまでの距離L1及び
L2を、下記の式(1)及び(2)に従って算出する(ステップS103)。ここで、上記の境界線T1及びT2は、車両1に横転する危険性が無いことを示す安定領域R1と、車両1が左に横転する危険性が有ることを示す左横転危険領域R2L及び右に横転する危険性が有ることを示す右横転危険領域R2Rとをそれぞれ区分けするものである。
【0042】
なお、
図3に示す如く、上記の式(1)中のA1及びB1は境界線T1のφ軸切片及びω軸切片であり、上記の式(2)中のA2及びB2は境界線T2のφ軸切片及びω軸切片である。
【0043】
ここで、境界線T1及びT2を基準に左横転危険領域R2L側及び右横転危険領域R2R側をそれぞれ正とし、いずれの場合も、安定領域R1側を負と定めるものとすると、距離L1及び
L2の組み合わせは以下の通りである。
【0044】
(A)L1≦0且つ
L2≦0の場合、横転の危険性無し。
(B)L1>0且つ
L2≦0の場合、左横転の危険性有り。
(C)L1≦0且つ
L2>0の場合、右横転の危険性有り。
(D)L1>0且つ
L2>0の場合、システム・エラー。
【0045】
従って、上記(A)が成立する場合(ステップS104:YES)、横転危険度判定部22は、横転の危険性無し(安
定領域R1内)と判定し、何ら制御を行わない(ステップS107)。
【0046】
一方、上記(B)が成立する場合(ステップS105:YES)、横転危険度判定部22は、左横転の危険性有り(左横転危険領域R2L内)と判定し、距離L1を横転危険度Hとする(ステップS108)。
【0047】
また、上記(C)が成立する場合(ステップS106:YES)、横転危険度判定部22は、右横転の危険性有り(右横転危険領域R2R内)と判定し、距離L2を横転危険度Hとする(ステップS109)。
【0048】
このように、左横転の危険がある場合には距離L1を、右横転の危険がある場合には距離
L2を横転危険度Hの値として採用する。
【0049】
そして、横転危険度判定部22は、横転危険度Hから車両1の横転を防止するために必要な目標減速度G
targetを算出してブレーキコントローラ23に与える(ステップS110)。目標減速度G
targetは、図示のような横転危険度Hに係数Kを乗じて算出するものに限らず、横転危険度Hの増減に応じて変化するものであればよい。
【0050】
ブレーキコントローラ23は、目標減速度G
targetとなるように各車輪に必要なブレーキ圧を演算してブレーキ制御を行う(ステップS112)。
【0051】
また、上記(D)が成立する場合、横転危険度判定部22は、システム・エラーと判定し、横転危険度判定装置20の内部にエラーフラグを記録する(ステップS111)。
【0052】
なお、この横転危険度判定装置20は、横転危険度判定部22が横転危険度Hを外部に出力し、上記のブレーキコントローラ23に代えて、横転危険度Hに応じて警報制御を行う警報装置(図示せず)とすることもできる。この場合も上記の説明は同様に適用される。
【0053】
このように、車両1の走行状態に応じて連続的に変化するロール角及びロール角速度に基づいて横転危険度を判定すると共に、横転危険度に応じたブレーキ制御や警報制御等を行うことができ、以て車両1の横転を防止することが可能となる。
【0054】
また、横転危険度判定装置20が、ロール角補正処理により得られた補正後ロール角φ
AMDを利用して距離L1及びL2を算出するので、車高調整が行われた場合であっても、横転危険度判定装置20は、車両1の横転危険度Hを正確に判定することができる。
【0055】
<ロール剛性係数K
φ13の説明>
次に、ロール剛性係数K
φ13の定義を、
図4を参照して以下に説明する。
【0056】
図4に示す如く車両1に荷物偏積(或いは一定の遠心加速度)によるロールモーメントM
xが生じているとすると、車両1の前輪側(車高調整の対象とならないサスペンション5L及び5R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(3)で表すことができる。
【0058】
上記の式(3)中のK
φ1、φ
1、K
φ12、及びφ
2は、それぞれ、設計条件等によって決定されるサスペンション5L及び5Rに共通の既知の固定ロール剛性係数、サスペンション5L及び5Rの変位差によって生じた未知の(測定しない)ロール角、荷物の材質やその固定状況によって変化する車両フレーム(図示せず)の未知の捩じり剛性係数、及び車高調整の対象となる後輪側のサスペンション3L及び3Rの変位差によって生じた測定可能なロール角である。
【0059】
また、サスペンション3L及び3R側におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(4)で表すことができる。
【0061】
上記の式(4)中のM
x2及びK
φ2は、それぞれ、車高調整に伴ってサスペンション3L及び3Rにより生じた未知のロールモーメント、及び設計条件等によって決定されるサスペンション3L及び3Rに共通の既知の固定ロール剛性係数である。
【0062】
上記の式(3)をロール角φ
1について整理すると、下記の式(5)が得られる。
【0064】
この式(5)を上記の式(4)に更新し、荷物偏積によるロールモーメントM
xについて整理すると、下記の式(6)が得られる。
【0066】
ここで、下記の式(7)に示す如く、ロール剛性係数K
φ1,K
φ2及びフレーム捩じり剛性係数K
φ12による車両固有のロール剛性係数K
φ13を定義し、上記の式(6)で表されるロールモーメントM
xが荷物の積載条件が変化しない限り一定であることに着目すると、車高調整(調整開始時から終了時までの少なくとも一部)が間に介在する任意の2つの時点において、第1の時点(例えば車高調整開始時)におけるサスペンション3L及び3RによるロールモーメントM
x2a及びその変位差によって生じるロール角φ
2aと、第2の時点(例えば車高調整終了時)におけるロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bとには下記の式(8)に示す等号関係が成立する。
【0069】
上記の式(8)をロール剛性係数K
φ13について整理すると、下記の式(9)が得られる。
【0071】
すなわち、フレーム捩じり剛性係数K
φ12が如何なる値であっても、ロールモーメントM
x2a及びM
x2bとロール角φ
2a及びφ
2bとが分かればロール剛性係数K
φ13を求めることができる。
【0072】
ここで、サスペンション3L及び3Rに対する荷重F
La及びF
Raは、第1の時点における内圧P
La及びP
Raから、下記の式(10)に従って算出される。
【0074】
上記の式(10)は、サスペンション3L及び3R自体が共通に呈する荷重−内圧特性を示す線形近似式(k及びmは設計条件等で決定される係数)であり、
図5に示す如く、内圧P
L及びP
Rから荷重F
L及びF
Rがそれぞれ一意に特定される。
【0075】
また、サスペンション3L及び3Rに対する荷重F
Lb及びF
Rbは、第2の時点における内圧P
Lb及びP
Rbから、下記の式(11)に従って算出される。
【0077】
第1の時点におけるサ
スペンション3L及び3RによるロールモーメントM
x2aは、下記の式(12)に従い、上記の式(10)で算出した荷重F
La及びF
Raを用いて算出される。同様に、第2の時点におけるサ
スペンション3L及び3RによるロールモーメントM
x2bは、下記の式(12)に従い、上記の式(11)で算出した荷重F
Lb及びF
Rbを用いて算出される。
【0079】
上記の式(12)中のtrdは、各サ
スペンション3L及び3R−ロールセンタ(図示せず)間の距離(トレッド長)である。
【0080】
第1の時点におけるロール角φ
2aは、下記の式(13)に従い、第1の時点での変位Z
La及びZ
Raを用いて算出される。同様に、第2の時点におけるロール角φ
2bは、下記の式(13)に従い、第2の時点での変位Z
Lb及びZ
Rbを用いて算出される。
【0082】
ロール剛性係数K
φ13は、上記の式(12)で算出したロールモーメントM
x2a及びM
x2bと、上記の式(13)で算出したロール角φ
2a及びφ
2bとを用い、上記の式(9)に従って算出される。
【0083】
<車高調整非実行時のロール角φ
2esの第1の推定方法>
次に、ロール剛性係数K
φ13を用いて車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定する第1の方法について説明する。
【0084】
図4に示した荷物偏積によるロールモーメントM
xは車高調整の前後を問わず一定であるため、車高調整終了時のロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bと、車高調整非実行時のロールモーメント(trd(F
Les−F
Res))及びロール角φ
2esとには下記の式(14)に示す等号関係が成立する。
【0086】
上記の式(14)中のF
Les及びF
Resは、それぞれ、サスペンション3L及び3Rに対する車高調整非実行時の荷重である。
【0087】
上記の式(14)は、下記の式(15)に示すサスペンション3L及び3Rに共通の荷重−変位特性の線形近似式を用い、下記の式(16)で表すことができる。
【0090】
上記の式(16)中のZ
Les及びZ
Resは、それぞれ、車高調整非実行時のサスペンション3L及び3Rの変位である。定数bは変位Z
Les及びZ
Resの差分を取った時に消去されている。
【0091】
また、上記の式(15)中の1次係数a及び定数bは、例えば
図6に示すようにして実験等により予め複数個求めておく。すなわち、実験段階において、基準長のときの内圧PをP
1,P
2,・・・P
7(P
1<P
2<・・・<P
7)にそれぞれ固定して空気を封じ込めた状態でサスペンション3L又は3Rに対する荷重Fを順次変化させ、その時々の変位Zを計測する。これにより同図(1)に点線で示す実際の荷重−変位特性CF1〜CF7がプロットされる。
【0092】
この後、同図(1)に示すように変位特性CF1〜CF7をそれぞれ線形近似して、線形近似式EXP1(荷重F=1次係数a1・変位Z+定数b1)、EXP2(F=a2・Z+b2)、EXP3(F=a3・Z+b3)、EXP4(F=a4・Z+b4)、EXP5(F=a5・Z+b5)、EXP6(F=a6・Z+b6)、及びEXP7(F=a7・Z+b7)を得る。
【0093】
同図(2)に示す表は、内圧Pと、上記の各線形近似式EXP1〜EXP7中の1次係数a1〜a7及び定数b1〜b7の値とをそれぞれ対応付けて記載したものである。図示の如く1次係数a及び定数bは内圧Pにそれぞれ比例する。これをグラフ上に示したものが
図7(1)及び(2)であり、1次係数a及び定数bは、下記の式(17)で表される。
【0095】
上述した通り、車高調整装置30はサスペンション3L及び3Rの一方の内圧を加圧し、その加圧分だけ他方の内圧を減圧する。このため、内圧P
Lb及びP
Rb間の平均値(図示せず)は、第2の時点のサスペンション3L及び3Rの内圧平均値に等しく、内圧P
Lb及びP
Rb間の平均値から第2の時点での1次係数aを
図6(2)のデータ表又は
図6(1)のグラフから一意に特定することができる。
【0096】
なお、第1の時点での内圧P
La及びP
Raを用いて1次係数aを選択してもよい。
【0097】
一方、ロール角φ
2esは、下記の式(18)で表すことができる。
【0099】
この式(18)を上記の式(16)に更新すると、下記の式(19)が得られる。
【0101】
上記の式(19)をロール角φ
2esについて整理すると、下記の式(20)が得られる。
【0103】
上記の式(20)のロール剛性係数K
φ13は、上記の式(9)で算出されるため、車高調整非実行時のロール角φ
2esは、下記の式(21)によって表される。
【0105】
このように、車高調整非実行時のロール角φ
2esは、第1の時点及び第2の時点におけるサスペンション3L及び3RによるロールモーメントM
x2a,M
x2bと、第1の時点及び第2の時点でのロール角φ
2a,φ
2bと、トレッド長trdと、上記の式(17)中の1次係数aとを用いて、上記の式(21)に従って算出される。
【0106】
<車高調整非実行時のロール角φ
2esの第2の推定方法>
次に、ロール剛性係数K
φ13を用いて車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定する第2方法について説明する。
【0107】
上記第1の推定方法では、上記の式(9)に従って算出したロール剛性係数K
φ13を用いて車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定したが、車両の始動から車高調整が開始されるまでの間(始動直後の期間)は、サスペンション3の状態が異なる2つの時点での内圧P及び変位Zを検出することができず、上記の式(9)に従ってロール剛性係数K
φ13を算出し、上記の式(21)に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定することができない。また、積荷重量が軽い空車状態や、積荷重心が左右のほぼ中央である中荷状態や、車高調整中の積荷の荷重状態の変化(荷重変化や積荷崩れなど)によってモーメントMxが変化する積荷移動状態では、上記の式(9)に従って算出されるロール剛性係数K
φ13の精度が低下し、上記の式(21)に従って算出される車高調整非実行時のロール角φ
2esの精度も低下する。さらに、異なる2つの時点でのサスペンション3の状態変化が小さい場合(上記の式(21)の分母((M
x2a−M
x2b)+2×trd
2×a(φ
2b−φ
2a))の絶対値が小さい場合)も、上記の式(21)に従って算出される車高調整非実行時のロール角φ
2esの精度が低下する。
【0108】
第2の推定方法は、第1の推定方法の不都合が生じる上述の各場合においても比較的精度の高いロール角φ
2esを算出するための方法であり、上記の式(9)に従ってロール剛性係数K
φ13を算出せず、これに代えて、予め設定され記憶されたデフォルトのロール剛性係数K
φ13def、或いはデフォルトから更新して記憶されたロール剛性係数K
φ13newを用いて、上記の式(20)に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する。すなわち、上記第1の推定方法では、異なる2つの時点(第1及び第2の時点)でのロールモーメントM
x2a,M
x2b及びロール角φ
2a,φ
2bを用いてロール角φ
2esを算出するのに対し、第2の推定方法では、任意の1つの時点でのロールモーメントM
x2及びロール角φ
2と、これらの検出値を取得する前に記憶されたロール剛性係数K
φ13def或いはK
φ13newとを用いてロール角φ
2esを算出する。すなわち、第2の推定方法の補正ロール角φ
2offは、2つの異なる時点でのロールモーメントM
x2a,M
x2b及びロール角φ
2a,φ
2bではなく、1つの時点でのロールモーメントM
x2及びロール角φ
2と所定のロール剛性係数K
φ13def(又はK
φ13new)と用いて、上記の式(20)に従って算出される。デフォルトのロール剛性係数K
φ13defは、実験やシミュレーションなどによって予め求められ車両毎に記憶される。
【0109】
第1の推定方法では、算出されるロール角φ
2esの信頼性の差がエアサスペンション3の変動状態や積荷の状態変化などの検出環境に起因して生じ易く、好適な検出環境であれば、信頼性の高い高精度なロール角φ
2esを得ることができる。一方、第2の推定方法では、好適な検出環境下での信頼性は第1の推定方法よりも低いが、検出環境に起因した信頼性の差は第1の推定方法よりも生じ難く、信頼性において安定したロール角φ
2esを得ることができる。
【0110】
本発明では、このような2つの方法の特性に鑑み、車高調整非実行時のロール角φ
2esを第1の方法によって所望の精度で求めることが可能な第1状態である場合は、第1の方法に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを求める。一方、車高調整非実行時のロール角φ
2esを第1の方法を用いて所望の精度で求めることが不可能な第2状態である場合は、第2の方法に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを求める。すなわち、第1の方法と第2の方法とを、サスペンション3の変動状態や積荷の状態変化に応じて適宜選択して用いる。
【0111】
<補正後ロール角φ
AMDの算出方法>
次に、補正後ロール角φ
AMDの算出方法について説明する。
【0112】
補正ロール角φ
2offは、下記の式(22)に従い、ロール角φ
2es及び第2の時点でのロール角φ
2bから算出される。なお、補正ロール角φ
2offの初期値には「0」が設定されている。
【0114】
補正後ロール角φ
AMDは、下記の式(23)に従い、検出ロール角φに補正ロール角φ
2offを加算することによって算出される。
【0116】
<ロール角補正処理例[1]:
図8〜
図15>
次に、ロール角推定装置10が実行するロール角補正処理の一例を、
図8〜
図15を参照して説明する。なお、この処理例[1]では、第2の推定方法のみによって車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定する。
【0117】
図8に示すように、処理部13におけるロール角補正処理は、(1)変位検出部11及び圧力測定部12から取得した出力値(測定値)からノイズを除去した結果(変位Z
L,Z
R及び内圧P
L,P
R)を常時更新するフィルタ処理(ステップS1)と、(2)キーON(車両1の始動)直後のロール角φ
2esを推定するキーONモード処理(ステップS2)と、(3)コントロールフラグを設定するフラグ設定処理(ステップS3)と、(4)車高調整モード時のロール角φ
2esを推定する車高調整モード処理(ステップS4)と、(5)推定したロール角φ
2esに基づき上記の補正後ロール角φ
AMDを算出する補正後ロール角算出処理(ステップS5)とから成る。
【0118】
以下、これらの処理(1)〜(5)を順に説明する。
【0119】
(1)フィルタ処理:図9
処理部13は、圧力測定部12により測定された内圧P
L及びP
R並びに変位検出部11により検出された変位Z
L及びZ
R(検出データ)が入力する度毎に、
図3に示すバターワースフィルタ処理を実行する。
【0120】
処理部13は、本処理を開始すると(ステップS10)、検出データ(P
L,P
R,Z
L,Z
R)を取得し(ステップS11)、これらの検出データに対してバターワースフィルタ処理を施し、フィルタ処理後の各検出値(P
Lfilter,P
Rfilter,Z
Lfilter,Z
Rfilter)を、キーONモード処理(ステップS2)以降の補正処理で用いる内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rとして更新して記憶する(ステップS12)。
【0121】
なお、フィルタ処理後の各検出値について、所定のサンプル数を蓄積して記憶し、最新の検出データを取得する度にその平均値を算出し、算出した平均値を補正処理で用いる内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rとして記憶してもよい。
【0122】
(2)キーONモード処理:図10
上記の処理(1)の後、処理部13は、キーONモード処理を実行する。キーONモードとは、車両1の始動から車高調整が開始までのキーONフェーズで設定されるモードである。処理部13は、車両1のエンジンの始動(例えばイグニッションスイッチON)の検出時にキーONモードフラグを「1」に設定し、車高調整開始信号SG
Sの受信時にキーONモードフラグを「0」に設定する。キーONモードでは、車高調整開始前であり、上記第1の推定方法によって車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定することができないため、第2の推定方法によって車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定する。
【0123】
処理部13は、本処理を開始すると(ステップS20)、キーONフェーズか否かを判定する(ステップS21)。具体的には、キーONモードフラグが「1」のときキーONフェーズであると判定し、「0」のときキーONフェースではないと判定する。キーONフェーズではないと判定すると(ステップS21:NO)、本処理を終了する。
【0124】
キーONフェーズであると判定すると(ステップS21:YES)、処理部13は、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを読み込み(ステップS22)、読み込んだ内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rとを用いて、上記の式(10)、式(12)及び式(13)に従ってロールモーメントM
x2及びロール角φ
2を算出する。次に、内圧P
L,P
Rを用いて1次係数aを選択し、上記算出したロールモーメントM
x2及びロール角φ
2と、記憶されているロール剛性係数K
φ13と、選択した1次係数aとを用いて、上記の式(20)に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する(ステップS23)。ロール剛性係数K
φ13は、後述するステップS43において更新して記憶された最新のロール剛性係数K
φ13newを使用する。なお、ステップS36〜S44の更新処理を省略する場合には、予め設定され記憶されたデフォルトのロール剛性係数K
φ13defを使用する。
【0125】
ロール角φ
2と車高調整非実行時のロール角φ
2esとを算出した処理部13は、上記の式(22)に従って、補正ロール角φ
2offを算出し、算出した補正ロール角φ
2offを更新して記憶して(ステップS24)、本処理を終了する。
【0126】
(3)フラグ設定処理:図11〜図13
上記の処理(2)の後、処理部13は、フラグ設定処理を実行する。このフラグ設定処理において、処理部13は、車高調整装置30が車高調整を実行中か否か、及びサスペンション3の荷重−変位特性(バネ特性)が線形近似可能な範囲であるか否か(
図6に示す関係が成立する範囲であるか否か)を判定する。
【0127】
例えば、
図11(1)に示すように、エアサスペンション3のストロークが最大となるフルリバウンドでは、エアサスペンション3のバネ特性が線形近似可能な範囲から外れる。また、
図11(2)に示すように、エアサスペンション3のストロークが最小となるフルバンプでは、バンプラバーBRがアスクルAXLに当接し、バネ上荷重F
Loadは、エアサスペンション3とバンプラバーBRとによって分担して支持される。このため、エアサスペンション3のみによってバネ上荷重F
Loadを支持することを前提として設定された
図6のバネ特性が成立せず、エアサスペンション3のバネ特性が線形近似可能な範囲から外れる。なお、エアサスペンション3がフルリバウンドとなるエアサスペンション3の最大変位Z
Maxとフルバンプとなる最小変位Z
Minとは、車両の設計仕様から予め求めることが可能である。
【0128】
また、例えば、内圧一定の場合のエアサス特性(バネ特性)では、
図12に示すように、サスペンション3の基準長付近では変位Zに対する荷重の値はほぼ一定値となるが、変位Zが大きく伸びると、荷重が一定ではなくなり、線形近似可能な範囲から外れる。
【0129】
また、封じ込めの特性(エアを封じ込めた状態でのバネ特性)では、
図6(1)に示すように(図中、測定値を破線で示し、線形近似直線を実線で示す)、内圧(圧力)Pが高いときの荷重誤差と内圧Pが低いときの荷重誤差とを比較すると、誤差の大きさは両者ともほぼ同等となるため、内圧Pが低いときの方が推定荷重(内圧から推定する荷重)に内在する誤差の割合が大きくなり、結果として、線形近似可能な範囲から外れることになる。また、変位Zが極めて小さい場合や内圧Pが極めて大きい場合も、線形近似直線からの測定値の乖離が大きく、線形近似可能な範囲から外れる。
【0130】
このように、サスペンション3の変位Z又は内圧Pが過大又は過小の場合、サスペンション3のバネ特性が線形近似可能な範囲から外れる傾向を示す。従って、線形近似が不可能となるエアサスペンション3の変位Zの上限閾値Z
High及び下限閾値Z
Lowと、エアサスペンション3の内圧Pの上限閾値P
High及び下限閾値P
Lowとを予め設定することにより、変位Zが所定の上限閾値Z
High以上(Z≧Z
High)或いは所定の下限閾値Z
Low以下(Z≦Z
Low)の場合(変位Zが所定の変位範囲から外れた場合)、又は内圧Pが所定の上限閾値P
High以上(P≧P
High)或いは所定の下限閾値P
Low以下(P≦P
Low)の場合(内圧Pが所定の圧力範囲から外れた場合)に、エアサスペンション3のバネ特性が線形近似可能な範囲から外れた更新禁止状態であると判定することができる。
【0131】
上記第1の推定方法及び第2の推定方法の何れにおいても、エアサスペンション3が線形近似可能な範囲で変形することを前提として、ロール剛性係数K
φ13や車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出するため、左右のサスペンション3の少なくとも一方のバネ特性が線形近似可能な範囲から外れていると、これらの算出値の精度が低下する。
【0132】
このため、バネ特性が線形近似可能な範囲から外れている場合、処理部13は、更新禁止状態であると判定し、コントロールフラグを「0」に設定して、後述するロール剛性係数K
φ13の更新処理や補正ロール角φ
2offの更新処理の実行を禁止する。
【0133】
また、車高調整の非実行時も、コントロールフラグを「0」に設定して、後述するロール剛性係数K
φ13の更新処理や補正ロール角φ
2offの更新処理の実行を禁止する。
【0134】
図13に示すように、処理部13は、本処理を開始すると(ステップS90)、車高調整装置30が車高調整を実行しているか否か(車高調整の開始から終了までの期間内であるか否か)を判定する(ステップS91)。
【0135】
車高調整を実行していないと判定すると(ステップS91:NO)、処理部13は、コントロールフラグを「0」に設定して(ステップS92)、本処理を終了する。
【0136】
車高調整を実行していると判定すると(ステップS91:YES)、処理部13は、フルリバウンド及びフルバンプの何れでもない(非フルリバウンドで且つ非フルバンプ)か否かを判定する(ステップS93)。具体的には、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した変位Z
L,Z
Rを読み込み、読み込んだ変位Z
L,Z
Rがともに最小変位Z
Minを超え且つ最大変位Z
Max未満の範囲内であるとき(Z
Min<Z
L,Z
R<Z
Max)、フルリバウンド及びフルバンプの何れでもないと判定する。
【0137】
フルリバウンド又はフルバンプの何れかであると判定すると(ステップS93:NO)、処理部13は、コントロールフラグを「0」に設定して(ステップS92)、本処理を終了する。
【0138】
フルリバウンド及びフルバンプの何れでもないと判定すると(ステップS93:YES)、処理部13は、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを読み込み、読み込んだ内圧P
L,P
Rがともに下限閾値P
Lowを超え且つ上限閾値P
High未満の範囲内であるか(P
Low<P
L,P
R<P
High)、及び読み込んだ変位Z
L,Z
Rがともに下限閾値Z
Lowを超え且つ上限閾値Z
High未満の範囲内であるか(Z
Low<Z
L,Z
R<Z
High)を判定する。
【0139】
内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rがともに上記範囲内であると判定すると(ステップS94:YES)、処理部13は、コントロールフラグを「1」に設定して(ステップS95)、本処理を終了する。
【0140】
内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rの少なくとも1つが上記範囲外であると判定すると(ステップS94:NO)、処理部13は、コントロールフラグを「0」に設定して(ステップS92)、本処理を終了する。
【0141】
なお、ステップS93の判定とステップS94の判定とにおいて、最大変位Z
Maxが上限値Z
Highよりも大きい場合又は最小変位Z
Minが下限値Z
Lowよりも小さい場合には、ステップS93における変位Z
L,Z
Rと最大変位Z
Max又は最小変位Z
Minとの比較を省略してもよく、反対に、最大変位Z
Maxが上限値Z
Highよりも小さい場合又は最小変位Z
Minが下限値Z
Lowよりも大きい場合には、ステップS94における変位Z
L,Z
Rと上限値Z
High又は下限値Z
Lowとの比較を省略してもよい。また、ステップS93及びステップS94のうち何れか一方のみによって、サスペンション3のバネ特性が線形近似可能な範囲であるか否かを判定してもよい。
【0142】
(4)車高調整モード処理:図14
上記の処理(3)の後、処理部13は、車高調整モード処理を実行する。
【0143】
処理部13は、本処理を開始すると(ステップS30)、コントロールフラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS31)。
【0144】
コントロールフラグが「1」であると判定すると(ステップS31:YES)、処理部13は、コントロールフラグの立ち上がり時であるか否か(ステップS3のフラグ設定処理でコントロールフラグを「1」に設定した直後であるか否か)を判定する(ステップS32)。
【0145】
コントロールフラグの立ち上がり時であると判定すると(ステップS32:YES)、処理部13は、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを、後述するステップS38の処理で用いるために内圧P
La,P
Ra及び変位Z
La,Z
Raとして記憶する(ステップS33)。次に、コントロールフラグの立ち上がり時であるか否かに関わらず、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbとして読み込み(ステップS45)、読み込んだ内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbを用いて、上記の式(11)、式(12)及び式(13)に従ってロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bを算出する。次に、内圧P
Lb,P
Rbを用いて1次係数aを選択し、上記算出したロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bと、記憶されているロール剛性係数K
φ13と、選択した1次係数aとを用いて、上記の式(20)に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する(ステップS34)。このとき使用するロール剛性係数K
φ13は、後述するステップS43において更新して記憶された最新のロール剛性係数K
φ13newである。なお、ステップS36〜S44の更新処理を省略する場合には、予め設定され記憶されたデフォルトのロール剛性係数K
φ13defを使用する。
【0146】
ロール角φ
2bと車高調整非実行時のロール角φ
2esとを算出した処理部13は、上記の式(22)に従って、補正ロール角φ
2offを算出し、算出した補正ロール角φ
2offを更新して記憶して(ステップS35)、本処理を終了する。
【0147】
また、コントロールフラグが「1」ではない(「0」である)と判定すると(ステップS31:NO)、処理部13は、コントロールフラグの立ち下がり時であるか否か(ステップS3のフラグ設定処理でコントロールフラグを「0」に設定した直後であるか否か)を判定する(ステップS36)。
【0148】
コントロールフラグの立ち下がり時であると判定すると(ステップS36:YES)、処理部13は、ロール剛性係数K
φ13の更新処理(ステップS37〜S44)を実行する。
【0149】
ロール剛性係数K
φ13は、上記の式(9)に示されるように、2つの異なる時点のロールモーメントの変化量ΔM(ΔM=M
x2a−M
x2b)とロール角の変化量Δφ(Δφ=φ
2a−φ
2b)とを、K
φ13=ΔM/Δφに代入することによって算出される値である。
【0150】
このため、積荷重量が軽い空車状態や、積荷重心が左右のほぼ中央である中荷状態では、ΔM及びΔφの値がともに小さく、算出されるロール剛性係数K
φ13の値が発散する傾向が強くなり、ロール剛性係数K
φ13の精度が低下する。
【0151】
また、車高調整中に積荷荷重変化や積荷崩れによってモーメントMxが変化する積荷移動状態では、ΔMやΔφの発生要因に荷重移動が含まれてしまうため、算出されるロール剛性係数K
φ13の精度が低下する。
【0152】
さらに、異なる2つの時点でのサスペンション3の状態変化が小さい場合(上記の式(21)の分母((M
x2a−M
x2b)+2×trd
2×a(φ
2b−φ
2a))の絶対値が小さい場合)にも、算出されるロール剛性係数K
φ13の精度が低下する。
【0153】
従って、ステップS23及びステップS35においてロール剛性係数K
φ13を用いて算出される車高調整非実行時のロール角φ
2esの信頼性を維持するため、空車状態や中荷状態や積荷移動状態の場合、或いはサスペンション3の状態変化が小さい場合には、更新禁止状態であると判定してロール剛性係数K
φ13を更新せず、これら以外の場合に限ってロール剛性係数K
φ13を更新する。
【0154】
空車状態か否かの判定(空車判定)では、本判定時(車高調整終了時)の内圧P
Lb,P
Rbを用いて、上記の式(11)に従って左右の後輪に作用する輪荷重F
Lb及びF
Rbを算出する。
【0155】
次に、後輪軸に作用するリヤ軸重F
Rrを、下記の式(24)に従って算出する。
【0157】
リヤ軸重F
Rrが予め設定された所定の閾値B未満の場合(F
Rr<B)は、空車状態であると判定し、リヤ軸重F
Rrが閾値B以上の場合(F
Rr≧B)は、空車状態ではないと判定する。
【0158】
中荷状態か否かの判定(中荷判定・偏積状態判定)では、本判定時の内圧P
Lb,P
Rbを用いて、上記の式(11)及び式(12)に従ってロールモーメントM
x2bを算出する。
【0159】
次に、積荷偏積によるロールモーメントM
xbを、下記の式(25)に従って算出する。式(25)において使用するロール剛性係数K
φ13は、後述するステップS43において更新して記憶された最新のロール剛性係数K
φ13newである。なお、ステップS36〜S44の更新処理を省略する場合には、予め設定され記憶されたデフォルトのロール剛性係数K
φ13defを使用する。
【0161】
ロールモーメントM
xbが予め設定された閾値C未満の場合(M
xb<C)は、中荷状態であると判定し、ロールモーメントM
xbが閾値C以上の場合(M
xb≧C)は、中荷状態ではないと判定する。
【0162】
積荷移動状態か否かの判定(積荷移動判定)では、車高調整開始時の内圧P
La,P
Raと本判定時の内圧P
Lb,P
Rbとを用いて、上記の式(10)〜式(12)に従って2つの時点でのロールモーメントM
x2a及びM
x2bをそれぞれ算出する。
【0163】
次に、車高調整終了時の積荷偏積によるロールモーメントM
xbと車高調整開始時の積荷偏積によるロールモーメントM
xaとの差を、偏積モーメント差ΔM
xとして、ロールモーメントM
x2a及びM
x2bを用いて下記の式(26)に従って算出する。
【0165】
上記の式(26)の偏積モーメント差ΔM
xは、ロールモーメントの変化量ΔM(ΔM=M
x2a−M
x2b)及びロール角の変化量Δφ(Δφ=φ
2a−φ
2b)によって、下記の式(27)として表される。式(26)及び式(27)において使用するロール剛性係数K
φ13は、後述するステップS43において更新して記憶された最新のロール剛性係数K
φ13newである。なお、ステップS36〜S44の更新処理を省略する場合には、予め設定され記憶されたデフォルトのロール剛性係数K
φ13defを使用する。
【0167】
偏積モーメント差ΔM
xの絶対値が予め設定された閾値Dを超えている場合(ΔM
x>D)は、積荷移動状態であると判定し、偏積モーメント差ΔM
xの絶対値が閾値D以下の場合(ΔM
x≦D)は、積荷移動状態ではないと判定する。
【0168】
異なる2つの時点でのサスペンション3の状態変化が大きいか否か(信頼性の高いロール剛性係数K
φ13の算出が可能な程度以上にサスペンション3の状態が変化したか否か)の判定では、上記の式(21)の分母の絶対値(│ΔM+2×trd
2×a×Δφ│)をサスペンション3の所定の状態値として算出し、その算出値が予め設定された所定の閾値Aを超えているか否かを判定する。上記の式(21)の分母の絶対値が閾値Aを超えている場合は、信頼性の高いロール剛性係数K
φ13の算出が可能な程度以上にサスペンション3の状態が変化したと判定し、閾値A以下の場合は、サスペンション3の状態変化が上記程度に達していないと判定する。
【0169】
ロール剛性係数K
φ13の更新処理へ移行すると、処理部13は、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbとして読み込み(ステップS37)、読み込んだ内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbを用いて、上記の式(10)〜式(13)に従ってロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bを算出する。また、直近のステップS33の処理で記憶した内圧P
La,P
Ra及び変位Z
La,Z
Raを用いて、上記の式(10)〜式(13)に従ってロールモーメントM
x2a及びロール角φ
2aを算出する。そして、算出したロールモーメントM
x2a,M
x2b及びロール角φ
2a,φ
2bを用いて、ロールモーメントの変化量ΔM(ΔM=M
x2a−M
x2b)及びロール角の変化量Δφ(Δφ=φ
2a−φ
2b)を算出する(ステップS38)。
【0170】
次に、処理部13は、空車状態であるか否かを判定し(ステップS39)、空車状態ではないと判定すると(ステップS39:NO)、中荷状態であるか否かを判定し(ステップS40)、中荷状態ではないと判定すると(ステップS40:NO)、積荷移動状態であるか否かを判定し(ステップS41)、積荷移動状態ではないと判定すると(ステップS41:NO)、信頼性の高いロール剛性係数K
φ13の算出が可能な程度以上にサスペンション3の状態が変化したか否かを判定する(ステップS44)。
【0171】
空車状態、中荷状態及び積荷移動状態の何れでもなく、信頼性の高いロール剛性係数K
φ13の算出が可能な程度以上にサスペンション3の状態が変化したと判定すると(ステップS44:YES)、処理部13は、ステップS38で算出したロールモーメントの変化量ΔMとロール角の変化量Δφとを、K
φ13=ΔM/Δφに代入することによって、ロール剛性係数K
φ13を算出し、算出したK
φ13を最新のロール剛性係数K
φ13newとして更新して記憶し(ステップS43)、本処理を終了する。なお、初期状態(車両の出荷時)には、デフォルトのロール剛性係数K
φ13defが記憶され、ロール剛性係数K
φ13の最初の更新が実行されるまでの間は、このデフォルト値が最新のロール剛性係数K
φ13newとして使用される。
【0172】
一方、空車状態、中荷状態又は積荷移動状態の何れかである、或いは信頼性の高いロール剛性係数K
φ13の算出が可能な程度以上にサスペンション3の状態が変化していないと判定すると(ステップS39:YES、ステップS40:YES、ステップS41:YES、又はステップS44:NO)、ロール剛性係数K
φ13を更新せずに(ステップS42)、本処理を終了する。
【0173】
また、コントロールフラグの立ち下がり時ではないと判定した場合(ステップS36:NO)、処理部13は、ロール剛性係数K
φ13の更新処理(ステップS37〜S44)を実行せずに、本処理を終了する。
【0174】
なお、上記ロール剛性係数K
φ13の更新処理(ステップS36〜S44)は省略可能である。この場合、ロール剛性係数K
φ13は、デフォルトのロール剛性係数K
φ13defが常時使用される。
【0175】
また、上記の更新判定に代えて又は加えて、ロール角の変化量Δφの絶対値(│φ
2a−φ
2b│)が第1の所定位置以下の場合に、更新禁止状態であると判定してもよく、ロールモーメントの変化量ΔMの絶対値(│M
x2a−M
x2b│)が第2の所定値以下の場合に、更新禁止状態であると判定してもよい。
【0176】
(5)補正後ロール角算出処理:図15
上記の処理(4)の後、処理部13は、補正後ロール角算出処理を実行する。
【0177】
処理部13は、本処理を開始すると(ステップS50)、更新された最新の補正ロール角φ
2offを検出ロール角φに加算することによって補正後ロール角φ
AMDを算出し(ステップS51)、本処理を終了する。このように算出した補正後ロール角φ
AMDは、横転危険度判定部22(
図1に示す)に提供される。また、補正ロール角φ
2offは、ステップS24又はステップS35において更新して記憶された最新の補正ロール角φ
2offが使用される。
【0178】
<ロール角補正処理例[2]:
図16、
図17>
上記のロール角補正処理例[1]では、第2の推定方法のみによって車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定したが、この処理例[2]では、第1の推定方法と第2の推定方法とを併用して、車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定する。
【0179】
すなわち、ロールモーメントM
x2及びロール角φ
2を検出するときのエアサスペンション3の状態(検出環境)が理想的な検出環境であって、算出されるロール角φ
2esの信頼性が高い場合には、第1の推定方法によってロール角φ
2esを算出し、第1の推定方法ではロール角φ
2esを算出できない場合や、算出されるロール角φ
2esの信頼性が低下する場合には、第2の推定方法によってロール角φ
2esを算出する。
【0180】
第1の推定方法によってロール角φ
2esを算出できない場合には、キーON直後(車高調整の開始前)が該当する。また、第1の推定方法によって算出されるロール角φ
2esの信頼性が低下する場合には、空車状態や中荷状態や積荷移動状態の他、異なる2つの時点でのサスペンション3の状態変化が小さい場合(上記の式(21)の分母((M
x2a−M
x2b)+2×trd
2×a(φ
2b−φ
2a))の絶対値が小さい場合)が該当する。
【0181】
処理部13は、処理例[1]と同様に、
図1のステップS1〜S5の処理を実行するが、これらの処理のうち車高調整モード処理(ステップS4)については、
図14に示す処理(ステップS30〜S44)に代えて、
図16及び
図17に示す以下の処理を実行する。
【0182】
処理部13は、本処理を開始すると(ステップS60)、コントロールフラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS61)。
【0183】
コントロールフラグが「1」であると判定すると(ステップS61:YES)、処理部13は、コントロールフラグの立ち上がり時であるか否かを判定する(ステップS62)。
【0184】
コントロールフラグの立ち上がり時であると判定すると(ステップS62:YES)、処理部13は、処理例[1]と同様に、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを内圧P
La,P
Ra及び変位Z
La,Z
Raとして読み込み(ステップS63)、読み込んだ内圧P
La,P
Ra及び変位Z
La,Z
Raを用いて、上記の式(10)、式(12)及び式(13)に従ってロールモーメントM
x2a及びロール角φ
2aを算出し、算出したロールモーメントM
x2a及びロール角φ
2aと記憶されているロール剛性係数K
φ13newとを用いて、上記の式(20)に従って(第2の推定方法によって)、車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する(ステップS64)。このとき、算出したロールモーメントM
x2a及びロール角φ
2aを更新して記憶する。
【0185】
ロール角φ
2aと車高調整非実行時のロール角φ
2esとを算出した処理部13は、上記の式(22)に従って、補正ロール角φ
2offを算出し、算出した補正ロール角φ
2offを更新して記憶して(ステップS65)、本処理を終了する。
【0186】
一方、コントロールフラグの立ち上がり時ではないと判定すると(ステップS62:NO)、処理部13は、フィルタ処理(ステップS1)で記憶した内圧P
L,P
R及び変位Z
L,Z
Rを内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbとして読み込み(ステップS66)、読み込んだ内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbを用いて、上記の式(10)〜式(13)に従ってロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bを算出し、算出したロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bと、直近のステップS64の処理において記憶されたロールモーメントM
x2a及びロール角φ
2aとを用いて、ロールモーメントの変化量ΔM(ΔM=M
x2a−M
x2b)及びロール角の変化量Δφ(Δφ=φ
2a−φ
2b)を算出する(ステップS67)。
【0187】
次に、処理部13は、車高調整開始時と車高調整終了時との間において、信頼性の高いロール角φ
2esの算出が可能な程度以上にサスペンション3の状態が変化したか否か(2つの時点間のサスペンション3の所定の状態値の差が所定の閾値を超えているか否か)を判定する(ステップS68)。具体的には、上記の式(21)の分母の絶対値(│ΔM+2×trd
2×a×Δφ│)を算出し、その算出値が予め設定された所定の閾値Aを超えているか否かを判定する。
【0188】
算出値が閾値Aを超えている場合、処理部13は、空車状態であるか否かを判定し(ステップS69)、空車状態ではないと判定すると(ステップS69:NO)、中荷状態であるか否かを判定し(ステップS70)、中荷状態ではないと判定すると(ステップS70:NO)、さらに積荷移動状態であるか否かを判定する(ステップS71)。なお、空車判定、中荷判定及び積荷移動判定は、処理例[1]のステップS39〜S41と同様に実行されるため、詳細な説明は省略する。
【0189】
式(21)の分母の絶対値(│ΔM+2×trd
2×a×Δφ│)が閾値Aを超えており、且つ空車状態、中荷状態及び積荷移動状態の何れでもないと判定すると(ステップS71:NO)、処理部13は、第1の推定方法によって車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する(ステップS72)。具体的には、ステップS66で読み込んだ内圧P
Lb,P
Rbを用いて1次係数aを選択し、選択した1次係数aと、ステップS67で算出したロールモーメントM
x2b、ロール角φ
2b、ロールモーメントの変化量ΔM及びロール角の変化量Δφと1次係数aとを用いて、上記の式(21)に従ってロール角φ
2esを算出する。
【0190】
ロール角φ
2bと車高調整非実行時のロール角φ
2esとを算出した処理部13は、上記の式(22)に従って、補正ロール角φ
2offを算出し、算出した補正ロール角φ
2offを更新して記憶して(ステップS74)、本処理を終了する。
【0191】
一方、式(21)の分母の絶対値(│ΔM+2×trd
2×a×Δφ│)が閾値A以下であるか、或いは空車状態、中荷状態又は積荷移動状態の何れかであると判定すると(ステップS68:NO、ステップS69:YES、ステップS70:YES、ステップS71:YES)、処理部13は、第2の推定方法によって車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する(ステップS73)。具体的には、ステップS66で読み込んだ内圧P
Lb,P
Rb及び変位Z
Lb,Z
Rbを用いて、上記の式(11)〜式(13)に従ってロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bを算出する。次に、内圧P
Lb,P
Rbを用いて1次係数aを選択し、上記算出したロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bと、記憶されているロール剛性係数K
φ13newと、選択した1次係数aとを用いて、上記の式(20)に従って車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する。
【0192】
ロール角φ
2bと車高調整非実行時のロール角φ
2esとを算出した処理部13は、上記の式(22)に従って、補正ロール角φ
2offを算出し、算出した補正ロール角φ
2offを更新して記憶して(ステップS74)、本処理を終了する。
【0193】
また、コントロールフラグが「1」ではないと判定すると(ステップS61:NO)、処理部13は、コントロールフラグの立ち下がり時であるか否かを判定する(ステップS36)。
【0194】
コントロールフラグの立ち下がり時であると判定すると(ステップS36:YES)、処理部13は、ロール剛性係数K
φ13の更新処理(ステップS37〜S44)を実行する。なお、ロール剛性係数K
φ13の更新処理(ステップS37〜S44)は、処理例[1]と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0195】
また、コントロールフラグの立ち下がり時ではないと判定した場合も(ステップS36:NO)、処理例[1]と同様に、処理部13は、ロール剛性係数K
φ13の更新処理(ステップS37〜S44)を実行せずに、本処理を終了する。
【0196】
<ロール角補正処理例[3]:
図18>
上記のロール角補正処理例[1]及び[2]では、補正後ロール角算出処理(ステップS5)において、補正ロール角φ
2off(ステップS24、S35、S65又はS74で更新された補正ロール角φ
2off)を検出ロール角φに加算することによって、補正後ロール角φ
AMDを算出する(ステップS51)。
【0197】
しかし、空車状態や中荷状態では、積荷がロール角φに与える影響が小さく、検出ロール角φを補正する必要性が乏しい。このため、処理例[3]では、空車状態や中荷状態の場合、ロール角補正が実質的に実行されないように(検出ロール角φがそのまま補正後ロール角φ
AMDとして出力されるように)、補正ロール角φ
2offをゼロに設定する。
【0198】
処理部13は、処理例[1]又は処理例[2]と同様に、
図1のステップS1〜S5の処理を実行するが、これらの処理のうち補正後ロール角算出処理(ステップS5)については、
図15に示す処理(ステップS50及びS51)に代えて、
図18に示す以下の処理を実行する。
【0199】
処理部13は、本処理を開始すると(ステップS80)、処理部13は、空車状態であるか否かを判定し(ステップS82)、空車状態ではないと判定すると(ステップS82:NO)、中荷状態であるか否かを判定し(ステップS82)、中荷状態ではないと判定すると(ステップS82:NO)、処理例[1]及び[2]と同様に、補正ロール角φ
2off(ステップS24、S35、S65又はS74で更新された補正ロール角φ
2off)を検出ロール角φに加算することによって、補正後ロール角φ
AMDを算出して(ステップS84)、本処理を終了する。
【0200】
一方、空車状態又は中荷状態の何れかであると判定すると(ステップS81:YES、ステップS82:YES)、補正ロール角φ
2offの値をゼロに更新して記憶し(ステップS83)、この補正ロール角φ
2offを検出ロール角φに加算することによって補正後ロール角φ
AMDを算出して(ステップS84)、本処理を終了する。すなわち、空車状態や中荷状態の場合、ロール角補正は実質的に実行されず、検出ロール角φが補正後ロール角φ
AMDとして横転危険度判定部22(
図1に示す)に提供される。
【0201】
なお、処理例[2]に処理例[3]を適用する場合、処理例[2]のステップS69及びS70は省略してもよい。また、処理例[2]において、ステップS69で空車状態と判定した場合(ステップS69:YES)、及びステップS70で中荷状態と判定した場合(ステップS70:YES)に、ステップS73へ移行せず、処理例[3]のステップS83と同様に、補正ロール角φ
2offの値をゼロに更新して記憶するように構成してもよい。さらに、処理例[2]において、車両調整モード処理の開始直後(ステップS60とステップS61との間)に空車判定及び中荷判定を実行し、空車状態及び中荷状態の場合には、補正ロール角φ
2offの値をゼロに更新して記憶するように構成してもよい。
【0202】
<ロール角補正処理例[1]〜[3]の連結車両への適用例:
図19及び
図20>
ロール角推定装置10は、
図1に示したような単体車両に限らず連結車両にも適用することができる。以下、連結車両への適用例を、
図19及び
図20を参照して説明する。
【0203】
図19に示す車両1は、左右後輪2L及び2R並びに左右前輪4L及び4R付近にそれぞれサスペンション3L及び3R並びに5L及び5Rを設けたトラクタ100と、このトラクタ100にカプラ(図示せず)等を介して連結され、左右輪6L及び6R付近にそれぞれサスペンション7L及び7Rを設けたトレーラ200から成り、サスペンション3L及び3Rが車高調整(車高調整装置30によるエアAPの注入又は排出)対象となっている。
【0204】
このため、
図1と同様のロール角推定装置10内の変位検出部11L及び圧力測定部12Lをサスペンション3Lに接続し、変位検出部11R及び圧力測定部12Rをサスペンション3Rに接続している。
【0205】
この車両1においても、ロール角推定装置10内の処理部13は、
図1に示す非連結車両と同様に、上述の第1の推定方法及び第2の推定方法によって、車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定して、補正ロール角φ
2off、及び補正後ロール角φ
AMDを算出することができる。
【0206】
これについて、
図20を参照して以下に説明する。
【0207】
すなわち、
図20に示す如く車両1全体に荷重偏積によるロールモーメントM
xが生じているとすると、トラクタ100の前輪側(サスペンション5L及び5R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、上記の式(3)で表すことができる。
【0208】
一方、トラクタ100の後輪側(サスペンション3L及び3R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(28)で表すことができる。
【0210】
ここで、上記の式(28)中のK
φ23及びφ
3は、それぞれ、トレーラ200のフレーム捩じり剛性係数(荷物の材質や固定状況により変化する。)、及びトレーラ200側のサスペンション7L及び7Rの変位差によって生じた未知の(測定しない)ロール角である。
【0211】
また、トレーラ200側(サスペンション7L及び7R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(29)で表すことができる。
【0213】
ここで、上記の式(29)中のK
φ3は、設計条件等によって決定されるサスペンション7L及び7Rに共通の既知の固定ロール剛性係数である。
【0214】
上記の式(28)に、上記の式(5)(式(3)をロール角φ
1について整理したもの)を更新してロール角φ
3について整理すると、下記の式(30)が得られる。
【0216】
上記の式(30)は、下記の式(31)に示す如く定義した係数K
*φ1を用いて下記の式(32)で表すことができる。
【0219】
この式(32)を上記の式(29)に更新し、荷物偏積によるロールモーメントM
xについて整理すると、下記の式(33)が得られる。
【0221】
ここで、上記の式(33)で表されるロールモーメントM
xも上記の単体車両の例と同様に荷物の積載条件が変化しない限り一定であることに着目すると、車高調整開始時におけるサスペンション3L及び3RによるロールモーメントM
x2a及びその変位差によって生じるロール角φ
2aと、車高調整終了時におけるロールモーメントM
x2b及びロール角φ
2bとには下記の式(34)に示す等号関係が成立する。
【0223】
この式(34)に、下記の式(35)に示す如くロール剛性係数K
φ1,K
φ2,K
φ3及びフレーム捩じり剛性係数K
φ12,K
φ23により定義した車両固有のロール剛性係数K
φ13を更新し、係数K
φ13について整理すると、下記の式(36)が得られる。
【0226】
すなわち、ロール剛性係数K
φ13は、上記単体車両の場合(式(7))と同様、車高調整開始時及び終了時におけるロールモーメントM
x2a及びM
x2bとロール角φ
2a及びφ
2bとから求めることができる。
【0227】
また、上記の式(33)は、ロール剛性係数K
φ13を用いて下記の式(37)で表すことができる。
【0229】
上記の式(37)の左辺は同一の積載条件下においては変化せず一定であるため、
図19に示した車両1においても、上記の式(14)に示した車高調整終了時のロール角φ
2b及びロールモーメントM
x2bと、車高調整非実行時のロールモーメント(trd(F
Les−F
Res))及びロール角φ
2esとにロール剛性係数K
φ13を用いた等号関係が成立する。
【0230】
従って、処理部13は、車高調整非実行時のロール角φ
2esを、第1の時点及び第2の時点におけるサスペンション3L及び3RによるロールモーメントM
x2a,M
x2bと、第1の時点及び第2の時点でのロール角φ
2a,φ
2bと、トレッド長trdと、上記の式(17)中の1次係数aとを用いて算出し、補正ロール角φ
2off、及び補正後ロール角φ
AMDを算出することができる。すなわち、上述の第1の推定方法によって、車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定して、補正ロール角φ
2off、及び補正後ロール角φ
AMDを算出することができる。
【0231】
また、上記第1の推定方法と同様の理由から、1つの時点でのロールモーメントM
x2及びロール角φ
2と、これらの検出値を取得する前に記憶されたロール剛性係数K
φ13def或いはK
φ13newとを用いてロール角φ
2esを算出することも可能である。すなわち、上述の第2の推定方法によっても、車高調整非実行時のロール角φ
2esを推定して、補正ロール角φ
2off、及び補正後ロール角φ
AMDを算出することができる。
【0232】
従って、処理部13は、単体車両の場合と同様に、
図8のステップS1〜S5の処理(上記処理例[1]、[2]又は[3])を実行することによって、補正後ロール角φ
AMDを算出することができる。
【0233】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0234】
例えば、上記処理例[1]では、車高調整モード処理において、車高調整開始時にのみロール角φ
2esを算出したが、車高調整中の他の時点(例えば、車高調整開始時から所定時間後など)でロール角φ
2esを算出してもよい。
【0235】
処理例[2]における2つの時点の組み合わせは、車高調整開始時と車高調整終了時に限定されず、第1の時点を車高調整開始前(開始時を含まない)とし、第2の時点を車高調整開始後(調整中、終了時及び終了後を含み、開始時は含まない)としてもよく、第1の時点を車高調整中(開始時を含み、終了時は含まない)とし、第2の時点を第1の時点よりも後(調整中及び終了後を含む)としてもよい。
【0236】
処理例[1]において、ステップS39〜S41の1つ又は複数を省略してもよい。処理例[2]において、ステップS68〜S71の1つ又は複数を省略してもよい。また、処理例[3]において、ステップS81又はステップS82の一方を省略してもよい。
【0237】
バネ特性が線形近似可能な範囲か否かの判定を、コントロールフラグの設定処理に含めず、車高調整モード設定処理(ステップS4)において、ロール剛性係数K
φ13の更新処理前や補正ロール角φ
2offの更新処理前の任意のタイミングで行い、バネ特性が線形近似可能な範囲から外れている場合にこれらの更新処理を禁止してもよい。
【0238】
ロール角推定装置10は、車高調整非実行時のロール角φ
2esを算出する度に、算出したロール角φ
2esを運転者に対して視認可能な状態で報知してもよい。例えば、車室内の運転席前方に表示部を設け、算出したロール角φ
2esを所定の表示態様で表示部に表示してもよい。所定の表示態様は、ロール角φ
2esの数値表示であってもよく、ロール角φ
2esの数値に応じて状態が変化(例えば伸縮、移動、変色等)するインジケータなどであってもよい。