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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910963
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】カプラおよび半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/19 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   H01P5/19 A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-15714(P2012-15714)
(22)【出願日】2012年1月27日
(65)【公開番号】特開2013-157746(P2013-157746A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】西原 信
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−159002(JP,U)
【文献】 特開平11−330813(JP,A)
【文献】 西独国特許出願公開第03640937(DE,A)
【文献】 国際公開第2011/003724(WO,A1)
【文献】 宮内一洋(ほか1名)著,「通信用マイクロ波回路」,コロナ社,1981年10月20日,第63−68頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を分配する分配点または信号を結合する結合点と、
分配された前記信号または結合される前記信号がそれぞれ伝搬する2つの伝送線路と、
前記分配点または前記結合点から第1所定距離において、前記2つの伝送線路間に電気的に接続された第1抵抗と、
前記分配点または前記結合点から第1所定距離より長い第2所定距離において、前記2つの伝送線路間に電気的に接続された第2抵抗と、
を具備し、
前記2つの伝送線路のそれぞれは、前記分配点または結合点と前記第1抵抗と接続される領域との間の2つの第1伝送線路と、前記第1抵抗と接続される領域において、それぞれ前記2つの第1伝送線路の外側に設けられるように前記分配点または前記結合点から前記第1抵抗に至る方向とは反対方向に折り返された2つの第2伝送線路と、を有し、
前記第2抵抗は、前記2つの第1伝送線路と上下で交差することで、前記2つの伝送線路を接続することを特徴とするカプラ。
【請求項2】
前記第1所定距離または前記第2所定距離は、前記信号の波長の1/4であることを特徴とする請求項1記載のカプラ。
【請求項3】
ポートから入出力する信号を伝送する第1伝送線路と、
前記第1伝送線路を伝送した信号を分配する分配点または信号を結合し前記第1伝送線路に出力する結合点と、
分配された前記信号または結合される前記信号がそれぞれ伝搬する2つの第2伝送線路と、
前記分配点または前記結合点から所定距離において、前記2つの第2伝送線路間に電気的に接続された抵抗と、
を具備し、
前記2つの第2伝送線路のそれぞれは、前記第1伝送線路の両側に設けられるように前記第1伝送線路が前記ポートから前記分配点または結合点に至る方向とは反対方向に折り返されており、
前記抵抗は、前記第1伝送線路と上下で交差することで前記2つの第2伝送線路を接続することを特徴とするカプラ。
【請求項4】
前記所定距離は、前記信号の波長の1/4であることを特徴とする請求項3記載のカプラ。
【請求項5】
信号を分配する分配点または信号を結合する結合点と、
分配された前記信号または結合される前記信号がそれぞれ伝搬する2つの伝送線路と、
前記2つの伝送線路それぞれにおいて、前記分配点または前記結合点からの距離が前記信号の波長の1/6の位置に、その両端が前記2つの伝送線路間に電気的に接続された第1抵抗と、
を具備することを特徴とするカプラ。
【請求項6】
前記2つの伝送線路は、それぞれ前記分配点または前記結合点から前記第1抵抗に至る第1部分以外の第2部分が前記第1部分の外側に設けられるように前記分配点または前記結合点から前記第1抵抗に至る方向とは反対方向に折り返されていることを特徴とする請求項5記載のカプラ。
【請求項7】
前記分配点または前記結合点からの距離が前記信号の波長の1/4および1/2の少なくとも一方の位置において、前記2つの伝送線路間にその両端が電気的に接続された第2抵抗を具備することを特徴とする請求項5または6記載のカプラ。
【請求項8】
信号を分配する分配点または信号を結合する結合点と、
分配された前記信号または結合される前記信号がそれぞれ伝搬する2つの伝送線路と、
前記2つの伝送線路それぞれにおいて、前記分配点または前記結合点からの距離が前記信号の波長の1/6および1/2の少なくとも一方の位置に、その両端が前記2つの伝送線路間に電気的に接続された第1抵抗と、
を具備し、
前記第1抵抗は、前記2つの伝送線路の一部と上下で交差していることを特徴とするカプラ
【請求項9】
入力信号を複数に分配する分配器と、
複数に分配された入力信号がそれぞれ入力する窒化物半導体を用いた複数のトランジスタと、
前記複数のトランジスタのそれぞれの複数の出力信号を結合する結合器と、
を具備し、
前記分配器および前記結合器の少なくとも一方は、請求項から8のいずれか一項記載のカプラを含むことを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプラおよび半導体装置に関し、例えば信号を分配するまたは信号を結合するカプラおよび半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号等の信号を複数に分配するまたは複数の信号を結合するために、分配器または結合器等のカプラが用いられている。カプラとしては、例えばウイルキンソン型カプラが知られている(例えば、特許文献1)。ウイルキンソン型カプラにおいては、分配点または結合点から2つの伝送線路が分割されている。分配点または結合点から信号の波長の1/4の距離において、2つの伝送線路間が抵抗により接続される。これにより、2つの信号が入力または出力する一方のポートから他方のポートへのアイソレーション特性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−267862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カプラとしてウイルキンソン型カプラを用いると、実装面積が大きくなってしまう。または、基本波以外の周波数において、アイソレーション特性が悪化する。本発明は、実装面積を小さくすること、または、基本波以外の周波数においてアイソレーション特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、信号を分配する分配点または信号を結合する結合点と、分配された前記信号または結合される前記信号がそれぞれ伝搬する2つの伝送線路と、前記分配点または前記結合点から所定距離において、前記2つの伝送線路間に電気的に接続された抵抗と、を具備し、前記2つの伝送線路のそれぞれは、前記抵抗と接続される領域において、それぞれ前記分配点または前記結合点から前記抵抗に至る方向とは反対方向に折り返されていることを特徴とするカプラである。本発明によれば、実装面積を小さくすることができる。
【0006】
上記構成において、前記所定距離は、前記信号の波長の1/4である構成とすることができる。
【0007】
上記構成において、前記2つの伝送線路のうち、前記分配点または前記結合点から前記抵抗までの間の特性インピーダンスと、前記抵抗から前記分配点または前記結合点とは反対に前記信号の波長の1/4までの間の特性インピーダンスとは等しい構成とすることができる。
【0008】
本発明は、入力信号を複数に分配する分配器と、複数に分配された入力信号がそれぞれ入力する窒化物半導体を用いた複数のトランジスタと、前記複数のトランジスタのそれぞれの複数の出力信号を結合する結合器と、を具備し、前記分配器および前記結合器の少なくとも一方は、上記カプラを含むことを特徴とする半導体装置である。
【0009】
本発明は、信号を分配する分配点または信号を結合する結合点と、分配された前記信号または結合される前記信号がそれぞれ伝搬する2つの伝送線路と、前記2つの伝送線路それぞれにおいて、前記分配点または前記結合点からの距離が前記信号の波長の1/6および1/2の少なくとも一方の位置に、その両端が前記2つの伝送線路間に電気的に接続された第1抵抗と、を具備することを特徴とするカプラである。本発明によれば、基本波以外の周波数においてアイソレーション特性を改善することができる。
【0010】
上記構成において、前記2つの伝送線路は、それぞれ前記分配点または前記結合点から前記第1抵抗に至る方向とは反対方向に折り返されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記分配点または前記結合点からの距離が前記信号の波長の1/4の位置において、前記2つの伝送線路間にその両端が電気的に接続された第2抵抗を具備する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1抵抗は、前記2つの伝送線路の一部と上下で交差している構成とすることができる。
【0013】
本発明は、入力信号を複数に分配する分配器と、複数に分配された入力信号がそれぞれ入力する窒化物半導体を用いた複数のトランジスタと、前記複数のトランジスタのそれぞれの複数の出力信号を結合する結合器と、を具備し、前記分配器および前記結合器の少なくとも一方は、上記カプラを含むことを特徴とする半導体装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実装面積を小さくすること、または、基本波以外の周波数においてアイソレーション特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)は、比較例1に係るカプラの平面図、図1(b)は、比較例2に係るカプラの平面図である。
図2図2(a)は実施例1に係るカプラの平面図、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
図3図3は、実施例1の変形例に係るカプラの平面図である。
図4図4は、実施例2に係る半導体装置の平面図である。
図5図5(a)から図5(c)は、実施例3に係るカプラの平面図である。
図6図6(a)から図6(d)はシミュレーションに用いた回路図である。
図7図7は、周波数に対するポートP2とP3間のアイソレーション特性を示すシミュレーション結果である。
図8図8は、実施例4に係るカプラの平面図である。
図9図9(a)は、実施例5に係るカプラの平面図、図9(b)は、図9(a)のA−A断面図である。
図10図10(a)は、実施例6に係るカプラの平面図、図10(b)は、図10(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、比較例について説明する。図1(a)は、比較例1に係るカプラの平面図、図1(b)は、比較例2に係るカプラの平面図である。図1(a)に示すように、誘電体層20上に金属層13からなる信号線路が形成されている。誘電体層20の裏面には不図示のグランド金属層が形成されている。誘電体層20を挟んだ信号線路とグランド金属層とで伝送線路12が形成されている。伝送線路12はマイクロストリップ線路である。
【0017】
比較例1に係るカプラは、ポートP1から入力する信号を分配点10において2つの信号に分配しポートP2およびP3に出力する。または、ポート2およびP3から入力した2つの信号を結合点10において結合し、ポート1に出力する。以下の比較例および実施例については、主に、ポートP1から入力した信号をポートP2およびP3に分配する場合を例に説明する。
【0018】
比較例1においては、2つの伝送線路12の特性インピーダンスを100Ωとすることにより、ポートP1から分配点10をみたインピーダンスを50Ωにできる。例えばポートP1から分配点10までの伝送線路11の特性インピーダンスを50Ωとする。これにより、ポートP1から入力した入力信号は、分配点10において分配され、2つの伝送線路12を伝搬した後、ポートP2およびP3から出力される。この場合、出力インピーダンスは100Ωである。
【0019】
しかしながら、比較例1に係るカプラは、ポートP2とP3との間のアイソレーション特性が悪い。例えば、ポートP3から入力した信号の一部がポートP2に出力されてしまう。このような問題を解決するのが比較例2に係るウイルキンソン型カプラである。
【0020】
図1(b)に示すように、比較例2に係るカプラは、分配点10から信号の波長λの1/4の距離L1において2つの伝送線路12間に抵抗14を電気的に接続する。これにより、ポートP3から入力した信号のうち、抵抗14を介した信号と、分配点10を介した信号と、の位相を反転できる。よって、ポートP3から入力した信号は、抵抗14を介した信号と分配点10を介した信号とで打ち消し合い、ポートP2に出力されない。このように、ポートP2とP3との間のアイソレーション特性を向上できる。さらに、分配点10と抵抗14との間の伝送線路12a(λ/4線路)の特性インピーダンスを例えば70.7Ωとする。これにより、λ/4線路によりインピーダンスを100Ωから50Ωに変換できる。抵抗14からポートP2またはP3までの伝送線路12dの特性インピーダンスは例えば50Ωとする。その他の構成は、比較例1と同じであり説明を省略する。
【0021】
しかしながら、比較例2においては、λ/4線路(伝送線路12a)を設けるため実装面積が大きくなってしまう。
【実施例1】
【0022】
図2(a)は実施例1に係るカプラの平面図、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。図2(a)に示すように、2つの伝送線路12は、抵抗14と接続される領域において、それぞれ分配点10から抵抗14に至る方向とは反対方向に折り返されている。抵抗14からポートP2またはP3までの伝送線路12が伝送線路12bである。伝送線路12bは、分配点10から抵抗14までの伝送線路12aとは反対の方向に信号が伝搬するように延伸している。2つの伝送線路12bの長さをそれぞれL2とする。
【0023】
図2(b)のように、酸化アルミニウム等の誘電体層20の下面にはCuまたはAu等の金属層22が全面に形成されている。誘電体層20の上面には、CuまたはAu等の金属層13が形成されている。誘電体層20を挟む金属層13と22とにより伝送線路12が形成される。伝送線路12の金属層13同士が抵抗14により接続されている。抵抗14は、例えば誘電体層20上に形成されたTaN等の薄膜抵抗である。
【0024】
実施例1によれば、分配点または結合点10から所定距離L1において、2つの伝送線路12間に電気的に接続された抵抗14を具備するカプラにおいて、2つの伝送線路12のそれぞれを、抵抗14と接続される領域において、それぞれ分配点または結合点10から抵抗14に至る方向とは反対方向に折り返す。これにより、比較例2の図1(b)に比べカプラを短くでき、実装面積を削減することができる。
【0025】
また、分配点または結合点10から、抵抗14までの所定距離L1を、信号の波長の1/4とする。これにより、ポートP2とP3との間のアイソレーション特性を向上できる。
【0026】
図3は、実施例1の変形例に係るカプラの平面図である。2つの伝送線路12bとポートP2またはP3との間にそれぞれ伝送線路12cが電気的に接続されている。伝送線路12cは、伝送線路12bとは反対の方向に信号が伝搬するように延伸している。例えば、伝送線路12aと12bとの特性インピーダンスを同じとする(例えば70.7Ωとする)。伝送線路12aと12bとの長さをそれぞれ信号における波長λの1/4とする。すなわち、分配点10から抵抗14までの間(伝送線路12a)と、抵抗14から分配点10とは反対に信号の波長の1/4までの間(伝送線路b)との特性インピーダンスとを等しくする。これにより、伝送線路12aと12bとを合わせた長さはλ/2となる。よって、伝送線路12bと伝送線路12cとの境界から伝送線路12cをみたインピーダンスと、分配点10から1つの伝送線路12aをみたインピーダンスを同じにできる。例えば、伝送線路12cの特性インピーダンスは100Ωでよい。
【0027】
実施例1の変形例(図3)の構成にすることで、例えば、比較例1(図1)の伝送線路12の特性インピーダンスは変更せず(例えば100Ω)とも、アイソレーション特性の良好なカプラを用いることができる。
【実施例2】
【0028】
実施例2は、実施例1に係るカプラを用いた半導体装置の例である。図4は、実施例2に係るカプラの平面図である。パッケージは、導電性基板52と絶縁性枠体50を備えている。絶縁性枠体50の対向する辺内の導電性基板52上に2つの絶縁性部材53が設けられている。2つの絶縁性部材53上には金属膜からなるそれぞれ入力端子54と出力端子55とが形成されている。入力端子54および出力端子55は、パーケージ外のリードと電気的に接続されている。
【0029】
導電性基板52上に、基板34、36、42および44並びに半導体チップ40が搭載されている。半導体チップ40は、例えば窒化物半導体を用いたトランジスタ(例えば電界効果トランジスタ)である。窒化物半導体とは、例えばGaN、InN、AlN、InGAN、AlGaN、InAlN、InAlGaNを含む半導体である。半導体チップ40は複数搭載されている。基板34と42には入力整合回路が形成されている。基板36と44には例えば出力整合回路が形成されている。基板42および44はそれぞれ半導体チップ40に対応し設けられている。入力整合回路は、トランジスタの入力インピーダンスを整合させる回路である。出力整合回路は、トランジスタの出力インピーダンスを整合させる回路である。
【0030】
基板34は、誘電体層からなり、入力した信号を各基板42に分配するためのパターン31が形成されている。パターン31と入力端子54とはボンディングワイヤ56により電気的に接続されている。入力端子54を介し基板34に入力された信号は分配器30により2つの分配される。分配器30は例えば実施例1に係るカプラである。信号はその後さらに半導体チップ40の数に対応する数に分配される。基板36は、誘電体層からなり、基板44から出力された複数の信号を結合するためのパターン33が形成されている。基板44から出力された信号は結合され、結合器32により2つの信号が結合される。パターン33と出力端子55とはボンディングワイヤ56により電気的に接続されている。結合器32により結合された信号は出力端子55を介し外部に出力される。基板34、基板42、半導体チップ40、基板44および基板36は、ボンディングワイヤ48により電気的に接続されている。
【0031】
このように、実施例2によれば、入力信号を複数に分配する分配器30と、複数に分配された入力信号がそれぞれ入力する窒化物半導体を用いた複数のトランジスタと、複数のトランジスタのそれぞれの複数の出力信号を結合する結合器32と、を備えている。窒化物半導体を用いた複数のトランジスタにおいては、利得が大きいため、トランジスタ、分配器30および結合器32を通過するループが形成されると、発振が生じ易くなる。そこで、分配器30および結合器32の少なくとも一方に、実施例1に係るカプラを含ませる。これにより、トランジスタ、分配器30および結合器32を通過するループが形成されにくくなる。よって、発振の発生を抑制できる。
【実施例3】
【0032】
図5(a)から図5(c)は、実施例3に係るカプラの平面図である。図5(a)に示すように、比較例2の図1(b)に対し、分配点10から信号の波長の1/6の距離L3の領域において、2つの伝送線路12が抵抗16aにより接続されている。図5(b)に示すように、分配点10から信号の波長の1/2の距離L4の領域において、2つの伝送線路12が抵抗16bにより接続されている。図5(c)に示すように、分配点10から信号の波長の1/6の距離L3および1/2の距離L4の領域において、2つの伝送線路12がそれぞれ抵抗16aおよび16bにより接続されている。その他の構成は比較例2の図1(b)と同じであり、説明を省略する。
【0033】
実施例3によれば、2つの伝送線路12それぞれにおいて、分配点または結合点10からの距離が信号の波長の1/6および1/2の少なくとも一方の位置に、2つの伝送線路12間に抵抗16a、16b(第1抵抗)の両端が電気的に接続されている。これにより、信号の3/2の周波数および1/2の周波数の少なくとも一方の周波数におけるポートP2とP3との間のアイソレーションを向上できる。例えば実施例2のように窒化物半導体を用いたトランジスタにおいては利得が大きいため、基本波の周波数の3/2および1/2の周波数の非線形成分が発生する。実施例3によれば、このような非線形性分のアイソレレーション特性を向上できる。
【0034】
分配点10から入力信号の波長の1/4の距離L1において、2つの伝送線路12間に電気的に接続された抵抗14(第2抵抗)は、設けられていなくともよい。基本波におけるポートP2とP3との間のアイソレーション特性を向上させるためには、抵抗14を設けることが好ましい。また、実施例3では、実施例1のように、2つの伝送線路12は、それぞれ分配点または結合点10から抵抗16aに至る方向とは反対方向に折り返されていてもよい。これにより、カプラの実装面積を削減できる。
【0035】
比較例1、比較例2および実施例3のアイソレーション特性をシミュレーションした。図6(a)から図6(d)はシミュレーションに用いた回路図である。図6(a)は比較例1に対応する回路図である。伝送線路12を線路Z0とする。図6(b)は比較例2に対応する回路図である。伝送線路12aを線路Z1、伝送線路12dを線路Z0、抵抗14の抵抗値をR1とする。図6(c)は実施例3の図5(a)に対応する回路図である。分配点10と抵抗16a間の伝送線路12を線路Z2、抵抗16aと抵抗14との間の伝送線路12を線路Z3、抵抗14からポートP2またはP3までの伝送線路12を線路Z0とする。抵抗R16aの抵抗値をR2、抵抗14の抵抗値をR3とする。図6(d)は実施例3の図5(c)に対応する回路図である。分配点10と抵抗16a間の伝送線路12を線路Z2、抵抗16aと抵抗14との間の伝送線路12を線路Z3、抵抗14から抵抗16bとの間の伝送線路12を線路Z4、抵抗R16bとポートP2またはP3までの伝送線路12を線路Z0とする。抵抗R16aの抵抗値をR4、抵抗14の抵抗値をR5、抵抗16bの抵抗値をR6とする。
【0036】
表1に、シミュレーションに用いた各線路の4GHzにおける特性インピーダンスおよび電気長、並びに各抵抗の抵抗値を示す。各抵抗値は、アイソレーション特性が向上するように、調整した値である。
【表1】
【0037】
図7は、周波数に対するポートP2とP3間のアイソレーション特性を示すシミュレーション結果である。図7において、比較例1は点線、比較例2は1点鎖線、実施例3の図5(a)は実線、実施例3の図5(c)は破線で示している。図7に示すように、比較例1では、アイソレーション特性は悪い。比較例2では、基本波の周波数f0である4GHzにおいてはアイソレーション特性がよいが、他の周波数(例えば、f0/2、3f0/2)においては、アイソレーション特性が悪い。実施例3の図5(a)においては、周波数3f0/2付近のアイソレーション特性を改善できる。実施例3の図5(c)においては、周波数f0/2および3f0/2付近のアイソレーション特性を改善できる。
【実施例4】
【0038】
図8は、実施例4に係るカプラの平面図である。図8に示すように、実施例1の変形例の図4と比較し、抵抗16aが設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0039】
実施例4は、実施例1のように、2つの伝送線路12は、それぞれ分配点または結合点10から抵抗16aに至る方向とは反対方向に折り返されていてもよい。さらに、2つの伝送線路12は、実施例1の変形例のように、それぞれ分配点または結合点10から抵抗16aに至る方向に延伸していてもよい。これにより、カプラの実装面積を削減できる。
【実施例5】
【0040】
図9(a)は、実施例5に係るカプラの平面図、図9(b)は、図9(a)のA−A断面図である。図9(a)に示すように、実施例1の変形例の図3と比較し、抵抗16aおよび16bが設けられている。図9(b)のように、抵抗16bと伝送線路12とは絶縁層24を介し交差している。交差することで、カプラの実装面積を削減できる。絶縁層24としては、例えばポリイミドまたは酸化シリコンを用いることができる。また、絶縁層24を設けず、抵抗16bと伝送線路12とは空間を介し交差していてもよい。その他の構成は、図4と同じであり説明を省略する。
【0041】
実施例5のように、抵抗16a、16bおよび14の少なくとも1つは、2つの伝送線路12の一部と上下で交差していてもよい。これにより、伝送線路12を折り返した場合も、2つの伝送線路12間に抵抗を接続することができる。
【実施例6】
【0042】
図10(a)は、実施例6に係るカプラの平面図、図10(b)は、図10(a)のA−A断面図である。図10(a)に示すように、伝送線路11がポートP1と分配点10との間に設けられている。伝送線路12は、伝送線路11の両側に伝送線路11の信号の伝搬方向とは逆方向に信号が伝搬するように設けられている。図10(b)に示すように、2つの伝送線路12間を接続する抵抗16aおよび14と、伝送線路11とは、絶縁層24を介し交差している。絶縁層24としては、例えばポリイミドまたは酸化シリコンを用いることができる。また、絶縁層24を設けず、抵抗16bと伝送線路12とは空間を介し交差していてもよい。
【0043】
実施例6のように、抵抗16a、16bおよび14の少なくとも1つは、伝送線路11の一部と交差していてもよい。これにより、伝送線路11の両側に伝送線路12を設けた場合も場合も、2つの伝送線路12間に抵抗を接続することができる。
【0044】
実施例3から実施例6のカプラを、実施例2の半導体装置の分配器30および結合器32の少なくとも一方に適用することができる。
【0045】
実施例1から実施例6において、カプラにより分配または結合する信号は例えば高周波信号とすることができる。信号の波長の1/4、1/6または1/2の距離は、カプラにより分配または結合する信号の周波数を基準の周波数とすることができる。また、各伝送線路の特性インピーダンスは、カプラにより分配または結合する信号の周波数を基準の周波数とすることができる。また、基準の周波数は、実施例1、3〜6に係るカプラが用いられる装置、例えば増幅装置等の帯域内のいずれか周波数とすることができる。さらに、基準の周波数は、上記装置の帯域の中心付近の周波数とすることもできる。
【0046】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 分配点または結合点
11 伝送線路
12 伝送線路
13 金属層
14 抵抗
16a、16b 抵抗
20 誘電体層
40 半導体チップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10