特許第5910974号(P5910974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5910974特に医療分野における機器応答を較正して試料を定量化学分析するためのシステム、及び対応する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910974
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】特に医療分野における機器応答を較正して試料を定量化学分析するためのシステム、及び対応する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20160414BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20160414BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20160414BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20160414BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20160414BHJP
   G01N 30/88 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
   G01N27/62 D
   G01N27/62 X
   G01N27/62 G
   G01N30/04 P
   G01N30/06 C
   G01N30/72 C
   G01N30/86 D
   G01N30/86 J
   !G01N30/88 E
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-501795(P2014-501795)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公表番号】特表2014-510923(P2014-510923A)
(43)【公表日】2014年5月1日
(86)【国際出願番号】IB2012051522
(87)【国際公開番号】WO2012131620
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】MI2011A000535
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513240869
【氏名又は名称】フロリディア,マテオ
(73)【特許権者】
【識別番号】513240870
【氏名又は名称】クリストニ,シモーネ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】フロリディア,マテオ
(72)【発明者】
【氏名】クリストニ,シモーネ
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−274352(JP,A)
【文献】 特表2008−536147(JP,A)
【文献】 特表2008−537488(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0255257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 30/04
G01N 30/06
G01N 30/72
G01N 30/86
G01N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(A、A―1、A―2、..A―n)を定量化学分析するための分析システム(10)であって、
―分析される様々な前記試料(A、A―1、A―2、..A―n)中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の量を検出するよう設計された特定の検出機器装備又は装置(30)、ここで該特定の検出装置(30)は次にクロマトグラフィシステム(31)、イオン源(32)、及び特定の質量分析計(33)を含み;
―前記分析試料(A、A―1、A―2、..A―n)中に存在する前記標的分析物([x]、[y]、[z])の前記特定の質量分析計(30)により検出される定量的データ(Q)を受け取り、かつ処理することで、各前記分析試料(A、A―1、A―2、..A―n)中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の最終定量的データ(R)を前記定量的データ(Q)から決定するよう設計されたデータ処理システム(40、44)、;及び
―前記データ処理システム(40)に関連し、前記特定の質量分析計(33)の機器応答を較正かつ補正するよう設計されたデータベース(41)、を含み、
前記分析システム(10)では、前記特定の質量分析計(30、33)により検出される前記定量的データから、前記各分析試料(A、A―1、A―2、..A―n)中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の最終定量的データ(R)を決定するための式において、前記データ処理システム(40)はまた前記データベース(41)に含まれる補正及び/又は制御の係数(K、C、K1)を考慮するよう設計され、
―前記データベース(41)に含まれる前記データ並びに前記補正及び/又は制御の係数(K、C)は、前記分析システム(10)による前記試料(A、A―1、A―2、..A―n)の効果的な定量分析(53―58)に先行する予備段階(51、52)において、所定の較正物質及び標的分析物の市販の標準物質の定量的データを前記特定の質量分析計(33)により検出することで決定され、かつ前記データベース(41)により獲得され、
そのため、前記分析試料(A、A―1、A―2、..A―n)の分析最終定量的データ及び結果(R)は、前記データベース(41)に含まれる補正及び/又は制御のデータ及び係数を考慮しながら、かつ前記各試料の分析前に前記特定の質量分析計(33)を較正することなく、前記特定の質量分析計(33)により検出される定量的データ(Q)を処理することで、前記データ処理システム(40、44)により決定され(53、54、55、56、57、58)、
前記データベース(41)に含まれる前記補正及び/又は制御の係数の第1(K)は、次式:
K=I/I、
により定義され、
式中、Kは前記第1の補正及び/又は制御の係数であり、Iは所定の較正物質に対応する理論上のシグナルであり、かつIは前記試料を分析するために使用されるよう意図された前記特定の質量分析計により前記所定の較正物質をサンプリングかつ定量的に分析することで得られるシグナルであり、
そのため、前記第1の補正及び/又は制御の係数Kは、前記試料を定量的に分析するために使用される特定の前記質量分析計(33)のブランド及びモデルの特徴を示し、また前記特定の質量分析計(30、33)により生成される機器シグナルの経時的な安定性を監視するための基準として見なされるのに適しており、
前記データベース(41)に含まれる前記補正及び/又は制御の係数の第2(C)は、次式:
C=V*(Ix*K)、又はC=V*[Ix*(I/I)]、
で定義され、
式中、Cは前記第2の補正及び/又は制御の係数であり、Vは使用される前記特定の質量分析計(30、33)の特徴を表す機器変数であり、かつIxは前記試料中で定量化される前記標的分析物の市販の標準物質の定量的データを前記質量分析計(30、33)を用いて検出することで得られるシグナルであり、
そのため、前記第2の補正及び/又は制御の係数Cは、前記試料を分析するために使用される前記特定の質量分析計(30、33)、及び前記分析試料(A、A―1、A―2、..A―n)中で定量化される特定の前記標的分析物([x]、[y]、[z])の両方の特徴を示し、
前記分析試料中に存在する前記標的分析物([x]、[y]、[z])の定量分析の前記最終定量的データ又は結果は、次式:
Cp=C1*Ip/Ix、
を用いて前記データ処理システム(40、44)により決定され、
式中、Cpは前記標的分析物([x]、[y]、[z])の決定される未知の濃度に対応し、Ipは前記未知の濃度Cpにより生成されるシグナルの既知の強度であり、かつC1は次式:
C1=K1*C=K1*[V*(K*Ix)]、
Cp=K1*V*K*Ip、を示唆する、
で定義されるさらなる係数であり、
式中、K1はさらなる第3の制御係数であり、それは前記分析試料中のマトリックス効果を評価するのに適しており、及び前記試料の増加する量を分析することで、かつ前記分析試料中に存在する前記標的分析物([x]、[y]、[z])により生成される対応するシグナルをグラフ上にプロットすることで得られる直線の傾きの変化を示しており、
前記制御係数K及びK1が事前に確立された許容範囲内に含まれることを検証した後に、前記未知の濃度Cpは前記データ処理システムにより決定され、
分析される試料(A)は万能希釈溶液(UDS)で元の前記試料(A、A―1、A―2、..A―n)を希釈することで初期の調製段階において調製されて、マトリックスの物理化学的特徴を標準化することで前記マトリックス効果を最小限にし、それ故、前記分析試料中に存在する分析物の定量的データを検出するために使用される前記特定の質量分析計の機器応答も経時的に標準化かつ再現可能とする、分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の分析システム(10)であって、各前記データ処理システム(40)は、次に:
―前記分析試料(A1)中に存在する前記標的分析物([x]、[y]、[z])の前記特定の検出装置(30)により検出される前記定量的データ(Q)を受け取るために、前記特定の検出装置(30)に直接接続されるローカルワークステーション(42)、及び
―特定のコンピューティングプログラム(44、PROSADアルゴリズム)を含むリモートコンピューティングユニット(43)、を含み、
前記ワークステーション(42)は、前記分析試料(A1)中に存在する前記標的分析物の前記特定の質量分析計(30)により検出される前記定量的データ(Q)を前記リモートコンピューティングユニット(43)に送信し、
前記リモートコンピューティングユニット(43)と関連する前記特定のコンピューティングプログラム(44、PROSADアルゴリズム)は、前記データベース(41)に含まれる前記補正データ(K、C、K1)を考慮しながら、前記特定の質量分析計(30)により検出される前記定量的データ(Q)から、前記試料において実施される前記分析の結果(R)、すなわち前記分析試料中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の定量的データを決定し、
前記ローカルワークステーション(42)は、前記特定のコンピューティングプログラム(44、PROSADアルゴリズム)により決定され、前記分析試料中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の量を示す前記結果(R)を、前記リモートコンピューティングユニット(43)から受け取り、それをオペレータに表示する、分析システム。
【請求項3】
請求項1に記載の分析システム(10)であって、前記データ処理システム(40)は、該データ処理システム(40)の機能を増加及び拡大するよう設計された所定の機械学習アルゴリズムを実施することも可能である、分析システム。
【請求項4】
請求項1に記載の分析システム(10)であって、前記万能希釈溶液(UDS)を、例えば900マイクロリットルの100ミリモル重炭酸アンモニウム溶液(NHHCO、100mM)、並びに1000ppmのカフェイン、1000ppmのテストステロン、及び1000ppmのプロゲステロン(それらは化学系の3つの内部較正用物質を構成する)を含む100マイクロリットルの溶液で希釈して調製し、そして1ミリリットルの最終体積を得る、分析システム。
【請求項5】
請求項4に記載の分析システム(10)であって、前記万能希釈溶液(UDS)を、その後適当な割合で凍結乾燥した血漿で再構成し、pH=8で安定化した最終溶液を得て、
前記標的分析物([x]、[y]、[z])を含む元の前記試料(A)を、その後前記万能希釈溶液(UDS)で1:1の比率に希釈し、
前記マトリックス効果を基準化するために、1部のギ酸(FA)を99部の純粋なアセトニトリル(AC)に添加することで希釈溶液を調製し、次に血漿を含む1部の溶液を9部のアセトニトリルベースの溶液で、つまり1:10の希釈率で希釈することで、前記血漿及び元の試料(A)を含むこの溶液中に含まれる高分子量タンパク質は直ちに沈殿し、
その後こうして得られた溶液を遠心分離し、次にその所定量を取り出し、それが前記特定の質量分析計(30)で定量分析かつ検出される予定の前記試料(A)を構成する、分析システム。
【請求項6】
試料(A、A―1、A―2、..A―n)を定量化学分析する方法であって、以下の段階:
―分析される前記試料中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])を定量的に検出するために使用される特定の検出機器装備又は装置(30)を提供する段階、ここで、前記特定の検出装置(30)はクロマトグラフィシステム(31)、イオン源(32)、及び特定の質量分析計(33)を含み;
―前記試料の実際の定量分析の前に、前記特定の質量分析計(30)の機器応答を較正するために使用されるデータ並びに補正及び/又は制御の係数(K、C)を含むデータベース(41)を予備的に定義する段階;及び
―前記データベース(41)に含まれる前記データ並びに補正及び/又は制御の係数(K、C、K1)を考慮しながら、分析試料(A、A1)中の前記標的分析物の前記特定の質量分析計(30、33)により検出される定量的データ(Q)を処理することにより、前記試料の分析結果(R)、すなわち各前記分析試料(A、A1)中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の最終定量的データ(R)を決定する段階、を含み、
前記データ及び前記制御係数(K、C)は、所定の較正物質及び前記標的分析物の市販の標準物質の定量的データを前記特定の質量分析計(33)により検出することで決定され、
そのため、前記試料(A、A―1、A―2、..A―n)の前記分析最終定量的データ及び結果(R)は、各前記試料の分析前に前記特定の質量分析計(33)を較正することなく決定され(53、54、55、56、57、58)、
前記データベース(41)を予備的に定義する段階は、
―次式:
K=I/I、
で定義される第1の補正及び/又は制御の係数(K)を前記データベース(41)により獲得する段階、を含み、
式中、Kは前記第1の補正及び/又は制御の係数であり、Iは所定の較正物質に対応する理論上のシグナルであり、かつIは前記試料を分析するために使用されるよう意図された前記特定の質量分析計により前記較正物質をサンプリングかつ定量的に分析することで得られるシグナルであり、
そのため、前記データベース(41)により獲得された前記第1の補正及び/又は制御の係数Kは、前記試料の分析のために使用される前記特定の質量分析計(30、33)の種類及びモデルの特徴を示し、
また、
―次式:
C=V*(Ix*K)、又はC=V*[Ix*(I/I)]、
で定義される第2の補正及び/又は制御の係数(C)を前記データベース(41)により獲得する段階、を含み、
式中、Cは前記第2の補正及び/又は制御の係数であり、Vは使用される前記質量分析計(30、33)の機器変数であり、かつIxは前記試料中で定量化される前記標的分析物の市販の標準物質の定量的データを前記質量分析計(30、33)を用いて検出することで得られるシグナルであり、
そのため、前記データベース(41)により獲得された前記第2の補正及び/又は制御の係数Cは、前記試料を分析するために使用される前記特定の質量分析計(30、33)、及び前記分析試料(A、A―1A―2、..A―n)中で定量化される特定の前記標的分析物([x]、[y]、[z])の両方の特徴を示し、
前記試料の分析結果(R)を決定する前記段階において、前記分析試料中に存在する標的分析物([x]、[y]、[z])の定量分析の前記最終定量的データ又は結果は、次式:
Cp=C1*Ip/Ix、
を用いて前記データ処理システム(40、44)により決定され、
式中、Cpは前記標的分析物([x]、[y]、[z])の決定される未知の濃度に対応し、Ipは前記未知の濃度Cpにより生成されるシグナルの既知の強度であり、かつC1は次式:
C1=K1*C=K1*[V*(K*Ix)]、
Cp=K1*V*K*Ip、を示唆する、
で定義されるさらなる係数であり、
式中、K1はさらなる第3の制御係数であり、それは前記分析試料中のマトリックス効果を評価するのに適しており、
本方法はまた、
対応するマトリックス効果を最小限にするために、万能希釈溶液(UDS)で元の前記試料(A、A―1、A―2、..A―n)を希釈することで定量分析される前記試料(A)を調製する段階も含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記万能希釈溶液(UDS)を、例えば900マイクロリットルの100ミリモル重炭酸アンモニウム溶液(NHHCO、100mM)、並びに1000ppmのカフェイン、1000ppmのテストステロン、及び1000ppmのプロゲステロン(それらは化学系の3つの内部較正用物質を構成する)を含む100マイクロリットルの溶液で希釈して調製し、そして1ミリリットルの最終体積を得る、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記万能希釈溶液(UDS)を、その後適当な割合で凍結乾燥した血漿で再構成し、pH=8で安定化した最終溶液を得て、
前記標的分析物([x]、[y]、[z])を含む元の前記試料(A)を、その後前記万能希釈溶液(UDS)で1:1の比率に希釈し、
前記マトリックス効果を基準化するために、1部のギ酸(FA)を99部の純粋なアセトニトリル(AC)に添加することで希釈溶液を調製し、次に血漿を含む1部の溶液を9部のアセトニトリルベースの溶液で、つまり1:10の希釈率で希釈することで、前記血漿及び元の試料(A)を含むこの溶液中に含まれる高分子量タンパク質は直ちに沈殿し、
その後こうして得られた溶液を遠心分離し、次にその所定量を取り出し、それが前記特定の質量分析計(30)で定量分析かつ検出される予定の前記試料(A)を構成する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、医療分野だけではないが、通常医療分野における試料を定量化学分析するためのシステム及び装置の分野に関し、より詳細には、様々な分析試料に存在する標的分析物の量を検出するために分析システムで使用される特定の機器装備又は装置の機器応答を較正するよう設計された新規かつ有利な較正システムにより特徴付けられる、試料を定量化学分析するための分析システムに関する。
【0002】
本発明はまた、特に医療分野における、様々な分析試料中に存在する標的分析物の定量的データを検出するために使用される特定の機器装備又は装置の機器応答を較正して試料を定量分析するための対応する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現代の分析化学は、その実際の応用において、有機及び無機の物質及び化合物のますます集中的な定量分析が必要とされている。
【0004】
この状況において、定量分析化学の特定の部門に関連する技術文献及び科学文献並びに特許情報から示されるように、従来技術は分析される試料中に存在する様々な種類及びタイプの有機及び無機の物質、分子、及び化合物の定量分析のために、種々の技術、並びに異なる種類の機器及び装置の使用に基づいて、多岐にわたるシステム、プロセス、及び解決策を提供している。
【0005】
以下の刊行物を例として引用する:
―Cristoni S.et al.Mass Spectrom Rev.2003 Nov−Dec;22(6):369−406;
―Mass Spectrom Rev.2007 Sep−Oct;26(5):645−56。
【0006】
しかしながら、定量的データ、すなわち分析される試料又は様々な試料中に存在する標的分析物の量を検出するために実際に使用される特定の機器装備及び装置とは独立して、これらの定量分析を行うための現在知られている種々のプロセス及びシステムは、共通の段階、特徴、及び要素を有している。
【0007】
特に、試料中に存在する分析物の定量分析のための全ての知られているシステム及びプロセス中に実際に存在し、かつ共通する本質的な操作は、分析試料中の分析物の量を検出するために実際に使用される機器装備及び装置の機器応答の予備較正から構成される。
【0008】
現在知られている定量化学分析システムの他の共通点は、前記予備機器較正は、定量的に分析される試料中に存在する標的分析物を既知の濃度及び組成で再現し、かつ含有する物質及び/又は化合物から成る、市場で入手可能な既知の標的化合物又は市販の分析標準物質を用いて通常実施されることである。
【0009】
前記定量分析において使用される装置及び機器装備の機器応答は、機械が同一のブランド及びモデルで同一の製造業者から製造されても機械により異なるため、このような較正は実際に必要である。
【0010】
言い換えれば、可能な限り正確で信頼性のある試料中の分析物に関連する定量的データを得るために、前記の市販の分析標準物質を用いて使用される特定の機器装備の応答を標準化及び較正することが望ましくかつ多くの場合必要である。
【0011】
この較正は、様々な方法及びシステムで実施可能であり、かつ試料の定量分析のために使用され得る機器装備の機器応答を(この分野における通常の用語に従って)「較正」するよう設計されている。
【0012】
例えば、特定の検出機器装備を用いて、市販の標準物質中に含まれる分析物に関連する一連の定量的データを前記市販の分析標準物質において検出した後に、較正システムはそれらのデータから、x軸に分析物の既知の濃度値、及びy軸に検出機器装備から放出される対応するシグナルの強度値を有するグラフを作成して、較正曲線を作図する。
【0013】
特に、この較正段階で使用される前記標的の標準物質又は化合物中に存在する分析物の濃度の変化の範囲を選択することで、機器装備の応答シグナルの強度と前記分析物の濃度との間に線形比が存在する。
【0014】
その結果として、基準試料又はマトリックス中に含まれる未知の濃度の標的分析物の正確な量は、機器装備を用いて試料を分析し、かつ2つの量を相互に関連付ける前に作成した較正線を用いて、機器装備から放出される対応するシグナルの強度値から試料中に存在する分析物の濃度値を推定することで決定される。
【0015】
より正確には、種々の方法及び変形が開発され、それは試料中に存在する分析物の量を検出するために使用される特定の機器装備の応答の機器較正に関して、以下の2つのカテゴリーA及びBに要約できる。
【0016】
A.連続添加法
この方法は、未知の濃度[x]の標的の化合物又は分析物Xを含む溶液から通常構成される試料Yの直接分析を含み、以下の段階に分けられる。
【0017】
最初に、アナライザは分析物Xに対して強度Iのシグナルを検出し、それをCS(濃度対シグナル)グラフのy軸上にプロットし、x軸上で、ゼロになる、すなわち[x]=0の分析物Xの濃度値[x]と従来対を作る。
【0018】
次に、初期溶液Yの定量分析を得るために、分析物Xの市販の標準物質の既知及び増加する量を初期溶液Yに添加し、特定の分析を各添加において実施し、対応するシグナルの強度を検出する。
【0019】
その後、添加の濃度の様々な値及び分析から得られる対応シグナルの強度値をCSグラフ上に記録する。
【0020】
この時点で、得られたグラフを観察することで確認を行い、アナライザの応答が線形であることを確保する;もしそうである場合、線形補間がグラフ上に示される点で行われるため、線の交点から試料Y中の標的分析物Xの濃度を得ることができる。したがって標的分析物Xの濃度はx軸から得られる。
【0021】
この第1の方法及び手法の主な欠点は、得られた定量的データのエラーが多いことであり、これはこの方法を多くの分析分野、例えば臨床診断分析、法医学的分析、並びに薬剤、農薬、及び他の化合物の定量分析などにおいて不得策なものとしている。
【0022】
B.同位体希釈法
この方法は、質量分析を用いる定量分析の分野において主に使用され、以下の段階に分けられる。
【0023】
最初に、市販の化合物又は標準物質は分析される試料溶液に添加される。試料溶液は標的の化合物又は分析物と同一の化学式を有するが、いくつかの元素は対応する非放射性の同位体で置換され、又は同一の原子番号Zであるが、異なる質量数Aであることを特徴とする元素で置換されている(最も一般的な置換は、水素原子Hを重水素原子Hに交換することである)。
【0024】
標準化合物の分子量はこのように変化する。
【0025】
試料溶液に添加された標準化合物の量も確定されて、前記試料溶液中のその濃度は標的分析物の濃度よりも確実に大きい。
【0026】
このために、置換された化合物は同位体標識を有さない化合物と同様の機器応答を提供するため、それらの間の唯一の差異は質量/電荷比、m/zであることを踏まえて、2つのシグナル強度の間の比を評価する。
【0027】
したがって、標準物質及び標的分析物それぞれの2つの共に溶離されたピークが得られ、第2のピークは、振幅の点で第1のピークよりも確実に低い。
【0028】
次に、前記2つのピークによって定義される2つの領域間の比を計算することで濃度係数が得られ、それから標的分析物のシグナルが置換された標準化合物のシグナルと均等になるまで試料溶液を希釈する。
【0029】
分析物と対応する標準物質との間の濃度の一致を示すこの状況の発生は、2つの同一ピークの出現により実証されるであろう。
【0030】
この時点で、標準物質の既知の濃度を乗じる、2つのピークを等化するために使用される希釈係数は、試料溶液中の標的の化合物又は分析物の実際の濃度を提供する。
【0031】
この第2の方法及び手法の主な欠点は、非常に高価な同位体標準物質の使用を必要とすることであり、それは病院、法医学的分析施設、並びに品質管理及び類似の研究室などの大量の試料を定期的に処理する施設において、前記方法の実際の使用を制限する。
【0032】
明確にするために、図5は上記に示した現在の状況、すなわち従来技術により現在のところ要求される操作及び多数の手動段階を模式的にまとめたものである。それはオペレータは定量分析のための試料を調製し、各試料を分析する前に分析を実施するために使用され得る特定の機器装備を較正し、最後に、較正されると、分析試料の定量的データを得るために試料の実際の分析を機器装備を用いて実施することを行わなければならない。
【0033】
標的分析物[x]を含む試料Yを、予備段階F1において定量的分析に適した試料溶液Y1中で適当に希釈する。
【0034】
再度、予備段階において、試料溶液Y1の定量分析のために使用され得る、特に質量分析計を含む機器装備を、較正段階F2で模式的に示されるように、標的分析物[x]に固有の市販又は工業的な標準物質SI[x]を用いて較正する。
【0035】
次に、段階F3で模式的に示されるように、試料溶液Y1を分析機器装備、すなわち質量分析計で分析し、段階F4に模式的に示されるように、較正後、こうしてオペレータに分析結果、すなわち分析試料Y中に存在する標的分析物[x]の定量的データを提供する。
【0036】
場合によっては、段階F2’に模式的に示されるように、標準物質SI[x]は「イン―マトリックス」較正を実施するために試料溶液Y1に添加することが可能である。
【0037】
分析に使用される機器装備の較正は毎回繰り返さなければならないことを注記することが重要である;言い換えれば、較正は各試料の分析前に実施しなければならず、それはすでに述べたように、従来技術のかなりの欠点を構成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0038】
【非特許文献1】Cristoni S.et al.Mass Spectrom Rev.2003 Nov−Dec;22(6):369−406
【非特許文献2】Mass Spectrom Rev.2007 Sep−Oct;26(5):645−56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
したがって、本発明の主な目的は、医療分野だけではないが、通常医療分野における試料を定量分析するための分析システムを提供かつ実施することである。それは現在既知及び応用されている分析システムに対するかなりの技術革新を意味し、特に、既知のシステムとは異なり、分析される様々な試料中に存在する標的分析物の量を検出するための分析システムで使用される機器装備の応答を較正するために、試料の分析中及び各分析の前に市販の分析標準物質の連続使用を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0040】
前記目的は、独立請求項1及び6それぞれにより定義される特徴を有する試料の定量化学分析のためのシステム及び対応する方法により、完全に達成されるものとみなすことができる。

【0041】
また、本発明の特定の実施形態は従属請求項に記載する。
【0042】
後の記述から明確に示されるように、本発明による試料分析システムの開発を導き、故にその基礎を形成した基本的な概念及び指針を、以下に要約することができる。
【0043】
1)万能マトリックス又は試料溶液、すなわち分析される元の試料を万能希釈溶液中で希釈することで得られるマトリックスの初期調製。マトリックスの物理化学的特徴を標準化してそれを経時的に再現可能とすることで、分析試料中に存在する分析物の定量的データを検出するために使用される機械、機器装備、又は装置の機器応答を経時的に最大化、標準化、及び再現可能とする。
【0044】
2)市販の分析標準物質を用いた、各分析物及びマトリックスに対する機器データの予備的獲得。分析物の定量的検出のための分析物、マトリックス、及び機械から成るシステムの様々な部分を結び付ける特定の応答係数を得る。
【0045】
3)複数の試料の分析中に使用される予定の特に較正データ及びパラメータを含む特別なデータベースの作成。分析システムから得られたデータを処理し、かつシグナル、すなわち分析試料中の標的分析物を検出するために使用される特定の検出装置の機器応答を正確に較正するため、検出装置を較正するための市販の標準物質の連続した高価な使用をもはや必要としない。
【0046】
この点において、各試料の分析前に、毎回前記分析物の定量的検出のために機器装備を較正する必要がないように、分析される試料中に存在する分析物の絶対分子定量のために有用なデータベースからデータを抽出するためにデータベースと連動する、試料の定量化学分析のための装置又はシステムは従来技術にはないことに留意すべきである。
【0047】
したがって、本発明を特徴付ける主な革新は、このような特別なデータベースの有用性及び使用、及び従来の質量分析計と併用したUSIS又はSACIなどのイオン源の使用であり、以下により詳細に説明する。
【0048】
これらの2つのイオン源の使用は、質量分析計の感度を最大化して分析の定量的精度を高めるため、極めて重要である。それは分析感度がより高いとシグナルはより安定化し、その結果、得られる定量的データの質及び精度がより安定化するためである。
【0049】
また、本発明による分析システムは、本質的部分及びさらなる革新として、分析中にいくつかのパラメータを常に監視するよう設計され、それらのパラメータの適合性を確認する制御システムも含み、前記パラメータは「マトリックス効果」、すなわち分析試料の元のマトリックス又は分子組成に由来する分析試料中での効果を示し、かつ分析試料中の分析物の量を検出するために使用される機器装備又は装置の機器応答の変化を示す。
【0050】
より具体的には、本発明による分析システムにおいて監視される種々の変数は、処理されてデータベースに保存される2つの係数を決定する。すなわち:
【0051】
a)分析物を定量的に検出するために、機器装備により生成される機器シグナルの安定性及び変動性を経時的に監視するための基準として使用され得る監視係数K:及び
【0052】
b)分析試料の元のマトリックス又は分子組成に由来する対応するマトリックス効果を分析試料中で評価するために、基準として使用され得る評価係数K1。
【0053】
以下により詳細に説明するように、前記係数K1は試料の増加する量を分析し、かつ分析試料中に存在する標的分析物により生成される対応するシグナルをグラフ上にプロットすることで得られる直線の傾きにおける変化を示す。
【発明の効果】
【0054】
本発明による分析される試料中に存在する化学物質及び化合物を定量分析するためのシステムは、頭文字PROSAD(用語PROgressive Sample Dosageに由来)により特に商業的に特定され得、特に医療分野において、現在既知及び応用されている試料の定量化学分析のための分析システムと比較して多数の重要な利点を有し、それらのいくつかは上記の導入部で明らかにした。
【0055】
本発明による分析システムの様々な態様に相当するこれらの利点のいくつかを、制限されることなく例示により以下に簡潔に示し、かつ現在既知で使用されている分析システムと比較する。
【0056】
最初に、本発明による分析システムは、特に医療分野において、かつ検出機器装備が質量分析計であるとき、分析される様々な試料中の標的分析物の量を検出するのに使用される前記検出機器装備の較正に使用される較正システムに関して、特に有利である。
【0057】
部分的にすでに述べたように、質量分析を使用する全ての現在の分析法の共通点は、質量分析計の機器応答を較正するために、毎回毎回分析の前に、すなわち試料中に存在する特定の分析物又は分析物の種類の分析前に、市販の分析標準物質を使用することである。
【0058】
本発明、すなわちPROSADは、様々な試料の定量分析の実施において前記市販の分析標準物質を継続して使用する必要がなく、かつ様々な試料中に存在する標的分析物の種類が変化するときに、質量分析計の機器応答の標準化を可能とする、すなわち機器応答が経時的に正確で、信頼性があり、かつ再現可能なように開発された。
【0059】
要約すると、PROSADは以下の4つの利点を提供する。
【0060】
経済的利点
第1の利点は経済的なものである。なぜならPROSADシステムを用いると、市販の標準物質は各分析にもはや使用されず、適したデータベースを作成及び構成するために必要なデータを獲得する初期段階においてのみ使用されるからであり、標準物質の費用の相当な節約につながる。
【0061】
構造的利点
構造的利点はすでに述べたように、各市販の標準物質は1つの標的分子にのみ対応するため、分析の可能性を単一分子に限定するという事実に由来する。
【0062】
しかしながら、PROSADシステムは多数の分析物の機器応答を標準化することで、同時に複数の標的分子の定性分析及び定量分析の両方を実施することを可能とする。
【0063】
PROSADはまた、試料の調製のための分析手順を簡素化する要求に応え、現在のところ新たな分析物又は異なるマトリックス中に存在する同一の分析物が監視されるたびに、各化合物に対して特定の調製及び対応する分析方法の開発が通常必要とされている。
【0064】
時間的利点
PROSADにより提供される時間の節約は明らかであり、かつ3つの要素の合計から成る。
【0065】
新たな分析物を分析するたびの特定の方法論の開発及び検証における第1の時間節約、各試料の調製における第2の節約、及び各試料において多数の標的分子を分析するために必要な機械時間の第3の節約がある。
【0066】
PROSADにおいて、単一で、短縮され、かなり簡素化された方法論が分析される試料を調製するために使用され、記述の通り、同時に多数の標的物質を分析することも可能である。
【0067】
質的利点
他のかなりの利益を構成する質的利点は、PROSADにより得られる定量的データの優れた精度に由来する。
【0068】
研究室の技術者により実施される段階及び手動操作、かつ試料当たりの分析数を制限することにより、PROSADは最終データに影響を及ぼす測定及び機器の誤差のかなりの割合を除去するため、より正確となる。
【0069】
さらに、特に質量分析計の感度を最大化することが可能なイオン源を含む、PROSADにより使用される装置の特定の構成及び種類は、得られる分析データの質及び精度を高めるためにさらに役立つ。
【0070】
最後に、さらなる有利な貢献がPROSADに含まれるデータ処理システムの高い精度により与えられる。
【0071】
この点において、PROSADにより得られたデータは、従来の分析方法論で得られたデータよりも平均して10%より正確であることが多数の試験から実証されている。
【0072】
本発明による試料を定量分析するためのシステムのこれら及び他の目的、特徴、及び利点は、添付の図面を参照しながら、例として、しかしそれに制限されることなく与えられるその好ましい実施形態の以下の説明からより明確に示される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1図1は、好ましくは(しかし排他的ではなく)医療分野における、試料の定量化学分析のための本発明による分析システムの主要部分を極めて簡潔に表す機能ブロック図である。
図2図2は、図1に示される試料分析システムの様々な部分をより詳細に表す機能ブロック図である。
図3図3は、分析される試料の調製に特に関連する、図1に示される分析システムの部分のより詳細なブロック図である。
図4図4は、分析試料中に存在する標的分析物を定量的に検出するための、図1及び2に示される本発明による分析システムで使用される特定の検出装置の機器較正の操作を示すフローチャートである。
図5図5は、従来技術による、分析システム及び使用される分析機器装備の対応する機器較正システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
図1は、試料の定量化学分析のための10で示される本発明による分析システムを極めて模式的な形態で示しており、それはまた「PROSAD」と称され、すでに述べたようにPROgressive Sample Dosageの頭文字をとったものである。
【0075】
前記分析システム10は、好ましくは(しかし排他的ではなく)医療分野において、例えば、生体マトリックス中に含まれる標的分析物の定量化学分析を実施するために使用され、それはヒトの尿又は血漿の試料に関する応用の特定の例を用いて以下により詳細に特定される。
【0076】
図2)全体、すなわちPROSADである本発明による分析システム10は、互いに相互作用し、かつ協働する以下の3つの基本部分から実質的に構成されている。すなわち:
【0077】
―ブロック20として模式的に示される第1部分。これは分析システム10で定量的に分析される予定の試料の調製の予備段階に相当する。
【0078】
―ブロック30として模式的に示される第2部分。これは特定の専用検出装置(以下「検出装置」と称する)に相当し、それは分析システム10の範囲内で、検出段階の間に分析試料中に存在する標的分析物の量を検出するよう設計されている。
【0079】
―ブロック40として模式的に示される第3部分。これは、分析の最終結果R、すなわち分析試料中に存在する標的分析物の定量的データを決定するために、処理段階の間に専用装置30で検出される定量的データQを処理する機能を有するデータ処理システムに相当する。
【0080】
以下により詳細に説明するように、データ処理システム40は、概して50で示される、専用検出装置30の機器応答の革新的な較正システムとも関連する。
【0081】
分析システム10の前記3つの部分、20、30、及び40を、次に詳細に説明する。
【0082】
分析される試料を調製する予備段階
記載の通り予備試料調製段階に相当する第1部分20は、図2で模式的に示されAと表示される分析される元の試料において実施されるいくらかの特定の操作を含み、元の試料の特定の分子組成に由来するマトリックス効果を基準化する。
【0083】
マトリックス効果は試料の定量的特性評価においてかなりの問題及び重要な要素を引き起こす可能性がある周知の現象であるため、最終マトリックス効果を標準化可能、再現可能な値に減少するために分析される試料を調製することは、得られた分析データが有効であることを確保するために必要不可欠である(刊行物のCristoni S.ら、Rapid Commun Mass Spectrom.2006;20(16):2376−82を参照のこと)。
【0084】
例えば、分析試料中のマトリックス効果が高い場合、分析誤差は標的データの実際の値の50%超のレベルに到達し得ることが見出されている(Cristoni S.ら、Rapid Commun Mass Spectrom.2006;20(16):2376−82を参照のこと)。
【0085】
詳細には、図3の図面を参照して、試料調製のこの段階に付随する手順は以下の通りである。
【0086】
a)最初に、標準かつあらゆる複合マトリックスに適用可能な万能希釈溶液UDSを、例えば900マイクロリットルの100ミリモル重炭酸アンモニウム溶液(NHHCO、100mM)、並びに1000ppmのカフェイン、1000ppmのテストステロン、及び1000ppmのプロゲステロン(それらは化学系の3つの内部較正用物質を構成する)を含む100マイクロリットルの溶液で希釈して調製し、そして1ミリリットルの最終体積を得る。
【0087】
b)次に、万能希釈溶液UDSを適当な割合で凍結乾燥した血漿で再構成し、pH=8で安定化した最終溶液を得る。
【0088】
c)この時点で、[x]、[y]、及び[z]などの標的分析物を含む元の試料Aを、標準かつあらゆる複合マトリックスに適用可能な万能希釈溶液UDSで1:1の比率に希釈する。
【0089】
その後、マトリックス効果は基準化される。
【0090】
d)この目的のために、1部のギ酸FAを99部の純粋なアセトニトリルACに添加して希釈溶液(99%+1%)を調製する。
【0091】
e)次に、血漿を含む溶液部を9部のアセトニトリルベースの溶液で希釈し(希釈率1:10)、血漿+試料の溶液中に含まれる高分子量タンパク質は直ちに沈殿する。
【0092】
f)こうして得られた溶液を、例えば13,000rpmで1分間遠心分離し、その後例えば200マイクロリットルの上清を取り出し、それが特定の検出装置30で分析される予定の試料溶液Aを構成する。
【0093】
標準又は基準化された分析マトリックスを構成するよう設計されたこの準備手順の主な目的は、分析される溶液の物理化学的性質を標準化及び基準化することであり、それ故異なる種類の元の試料の特定の組成による特異な特定のマトリックス効果を防止することができる。
【0094】
このような基準化は溶液の特性によって可能となり、標的分析物のプロトン化又は脱プロトン化のどちらも支持しないようにpHを中性に近い値(pH=8)に中和することで、かつ装置30で検出されるデータのシステム40による処理の次の段階のために単一の再現可能で予測可能なマトリックス効果を作り出すために、元の試料の特定の組成をマスクすることが可能なマトリックス効果を有する複雑な物理化学的環境を凍結乾燥血漿を用いて形成することで、溶液はこの調製段階20において調製される。
【0095】
上記の段落「d」及び「e」に記載の準備工程の代替手段として、分子遮断フィルタの使用を含む調製を実施することができる。
【0096】
この場合、代替工程は以下の段階を含む。
【0097】
a)最初に、標準かつあらゆる複合マトリックスに適用可能な万能希釈溶液UDSを、例えば900マイクロリットルの100ミリモル重炭酸アンモニウム溶液(NHHCO、100mM)、並びに1000ppmのカフェイン、1000ppmのテストステロン、及び1000ppmのプロゲステロン(それらは化学系の3つの内部較正用物質を構成する)を含む100マイクロリットルの溶液で希釈して調製し、そして1ミリリットルの最終体積を得る。
【0098】
b)次に、万能希釈溶液UDSを適当な割合で凍結乾燥した血漿で再構成し、pH=8で安定化した最終溶液を得る。
【0099】
c)この時点で、[x]、[y]、及び[z]などの標的分析物を含む元の試料Aを、標準かつあらゆる複合マトリックスに適用可能な万能希釈溶液UDSで1:1の比率に希釈する。
【0100】
その後、マトリックス効果は基準化される。
【0101】
d’)そして、得られたUDS溶液を分子遮断フィルタを有するエッペンドルフ試験チューブに導入し、分子遮断フィルタは予め設定した限界(例えば3000Da、5000Da、又は10,000Da)を超える分子量を有する物質がそのメッシュを通過することを防ぐ。この限界は分析マトリックス及び標的分析物の特徴によって課せられる分析条件を参考にしてその都度特定される。
【0102】
f)こうして得られた溶液を、例えば13,000rpmで1分間遠心分離し、その後例えば200マイクロリットルの上清を取り出し、それが特定の検出装置30で分析される予定の試料溶液Aを構成する。
【0103】
試料の分析及び定量的検出のための専用装置
本発明による分析システム10、すなわちPROSADの部分30に相当する専用検出装置は、分析試料中の標的分析物の量を検出するよう設計されており、図2の図面に示されるように、クロマトグラフィシステム31(これを介して分析される試料A1が検出装置30に注入される);分析される試料A1をクロマトグラフィシステムSCから受け取り、それをイオン化するよう設計されたイオン源又はイオン化源32;イオン化源32から生成される試料A1のイオンIを受け取り、それをスペクトル測定試験することで前記試料A1中に存在する標的分析物の量を検出するよう設計された質量分析アナライザ又は質量分析計33、を基本的に含む。
【0104】
その後、質量分析計33により検出された試料A1中に存在する標的分析物[x]、[y]、[z]の定量的データQは、適切に処理されるためにデータ処理システム40に送られ、定量化学分析の最終結果R、すなわち分析試料中に存在する分析物の定量的データを提供する。
【0105】
クロマトグラフィシステム31はHPLCポンプ及びクロマトグラフィカラムから成り、そのサイズは分析要件に基づいてその都度選択される。
【0106】
使用中に、クロマトグラフィシステム31は、分析される試料A1の所定量をイオン化源32に迅速に次々と注入するよう設定されており、分析の迅速な実施を可能とする。
【0107】
イオン源32に関して、PROSADシステムにおける可能な構成は、SACI技術(Cristoni S.らにより出願された国際公開第2004/034011号に開示の表面活性化化学イオン化)又はUSIS技術(Cristoniにより出願された国際公開第2007/131682号に開示のユニバーサルソフトイオン化源)に基づいた、イオン源の使用を含む。
【0108】
最後に、検出装置30に含まれる質量分析アナライザ33は、低分解能の機器(例えばイオントラップ、シングル四重極型、又はトリプル四重極型など;Cristoni S.ら、Mass Spectrom Rev.2003 Nov−Dec;22(6):369−406を参照のこと)、又は高分解能の機器(例えばFTICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴))、TOM(飛行時間)、オービトラップなど;Cristoni S.ら、Mass Spectrom Rev.2003 Nov−Dec;22(6):369−406を参照のこと)であり得る。
【0109】
低分解能のイオントラップ又はトリプル四重極の質量分析アナライザのうち、トリプル四重極型は定量的データ分析におけるそのより優れた正確さと精度のために通常好ましい。
【0110】
好ましい高分解能アナライザはオービトラップアナライザ及び飛行時間アナライザであり、それらの2つのうち、飛行時間アナライザは検出される定量的データの精度及び正確さの点からより優れた性能を提供するため、飛行時間アナライザが好ましい。
【0111】
本発明による分析システム10において使用される検出装置30の付加価値及び利点は、SACI又はUSIS技術に基づいたイオン化源32を使用することで明らかに決定される。
【0112】
特にSACI(表面活性化化学イオン化)技術は、大気圧での化合物のイオン化、すなわちESI(エレクトロスプレーイオン化)及びAPCI(大気圧化学イオン化)に対して今まで主に使用されてきたイオン源に関する以下の2つの重要で有利な変更を導入する。
【0113】
a)金属表面のイオン化チャンバへの挿入。これは化合物のイオン化効率を向上させる。
【0114】
この金属表面は中性溶媒を分極させ、以下の事項によりそのプロトン親和力を変化させ、かつ分析物のイオン化効率を向上させる。
【0115】
b)前記金属表面への低電位(50V)の適用。前記金属表面はアナライザに到達しない溶媒分子を保持するため、化学的ノイズにおける大幅な減少をもたらす。
【0116】
USIS技術はSACI源と同一の原理を利用するが、紫外線の適用を介した偏光板による電子放出のさらなる光電効果も有利に含む。
【0117】
光電効果による前記電子の放出は、非極性、又は無極性、及び極性の化合物のイオン化につながるイオン分子反応を活性化する。
【0118】
したがって、この点において、USISイオン源はSACI源よりも無極性化合物を含む多数の化合物の分析を可能とするため、USISイオン源が好ましい。
【0119】
しかしながら、イオン源の両方の種類(SACI及びUSIS)は、PROSADシステムの効率、すなわち安定した定量的データを提供するための能力を確保するために有用な重要な特性を示す。なぜなら、分析される試料のイオン化が、ESI及びAPCIなどの従来のイオン源で使用される電圧よりも低い電圧(<900V対3000−4000V)で常に行われるためである。
【0120】
これにより、カラム中のクロマトグラフィ溶媒、共溶離剤、及び分析物のキャリアのイオン化収率が低下し、その結果として機器ノイズの減少が生じる。なぜなら、クロマトグラフィ溶液の高いイオン化ポテンシャルへの暴露は、分子の荷電クラスタの形成を発生させ、アナライザに到達した際に化学的機器ノイズを増加させるためである。
【0121】
したがって、SACI源及びUSIS源で達成される背景ノイズの減少は、機器干渉の減少によってより安定したシグナルを得ることを可能とし、かつ定量的データの測定精度を増加させる。
【0122】
一般に、検出装置30の構成及びその構成部分は、実施される分析の特定の要件及び種類に依存する。
【0123】
いずれにしても、PROSADに対して選択かつ採用される如何なる検出装置30の構成も、試料において実施される定量分析から正確、再現可能な結果を得るために、較正段階の間に設定かつ較正されなければならず、それを以下に詳細に記載する。
【0124】
検出装置によって検出される定量的データを処理するためのシステム
本発明による分析システム10のデータ処理システムに相当する部分40は、図2に模式的に示すように、以下を含む:
【0125】
―前記検出装置30で検出される分析試料中に存在する標的分析物の定量的データQを受け取るために検出装置30と関連する、ローカルワークステーション42。
【0126】
―ローカルワークステーション42と協働するよう設計された、リモートコンピューティングユニット43。
【0127】
―リモートコンピューティングユニット43と関連し、様々な分析試料中に存在する標的分析物の定量的データを検出するために使用される検出装置30の機器応答を較正かつ補正するよう設計された、1以上の補正及び制御のデータ及び係数を含む、データベース41。
【0128】
リモートコンピューティングユニット43は、次に「クラウド・コンピューティング」などのコンピューティング資源のより大きなネットワークの一部となり得るため、ローカルワークステーション42の性能に悪影響を及ぼさない。
【0129】
詳細には、リモートコンピューティングユニット43は一般の運転プログラム又はソフトウェアSWを含み、それは次に、特にPROSADのために開発された特定の算出プログラム又はアルゴリズム44を含む。特定の算出プログラム又はアルゴリズム44はデータベース41と協働するよう設計されて、最終分析結果R、すなわち様々な分析試料中に存在する標的分析物の量を決定する。以下により具体的に記載する。
【0130】
有利なことに、データ処理システム40はまた、その機能を増加かつ拡大するために、機械学習又はスーパーベクターマシンアルゴリズム(super vector machine algorithms)を実施することが可能である。
【0131】
操作において、ワークステーション42は、検出装置30により検出される分析試料中に存在する標的分析物[x]、[y]、[z]の定量的データQをリモートユニット43に送信する。
【0132】
同時に、ローカルワークステーション42は、オペレータにより設定されて、コンピューティングユニット43に分析下の試料中に存在する標的分析物の定量化をアクティブにするよう要求する。
【0133】
その要求に応答し、リモートコンピューティングユニット43は分析物の定量の補正のために要求される補正及び制御の係数をデータベース41から抽出し、かつ特定のPROSADアルゴリズム44を用いて、前記補正かつ制御の係数を考慮して、最終分析結果R、すなわち分析試料中に存在する標的分析物の定量的データを算出する。
【0134】
その後、図2に模式的に示されるように、前記結果Rはリモートコンピューティングユニット43からローカルワークステーション42に送信され、ローカルワークステーション42は結果Rをアウトプットにおいてオペレータに表示する。
【0135】
データ処理システムに含まれるデータベース、及び検出装置の機器応答の較正
すでに述べたように、本発明による分析システム10と既知の定量化学分析システムとを区別する分析システム10の特性の1つは、データ処理システム40に含まれるデータベース41、及び検出装置30の機器応答の較正、データ処理システム40により処理されるデータの標準化及び定量化、最後に、最終分析結果Rとして提供される分析試料中に存在する標的分析物の定量的データの最終較正のための、データベース41の特別な内容及び使用である。
【0136】
特に、前記データベース41は、検出装置30の機器応答を較正するのに適した、すなわち前記検出装置30により検出される様々な分析試料中に存在する標的分析物の定量的データを適当に補正するために、1以上の補正及び制御の係数を含む。
【0137】
本発明による定量化学分析システムの主要部分である前記革新的なデータベース41の特徴は、以下の詳細な説明に明確に示され、それは、データベース41が予備的に定義されて、データベース41に含まれるデータ及び情報が決定及び獲得される手順、かつ前記データベース41及び個々のデータは一旦定義されると、分析システム10及び対応するデータ処理システム40において作動及び使用される手順を記載する。
【0138】
1.本発明による分析システム10において、データベース41は、試料の実際の分析に先行して、特定のデータ及び情報に注釈を付けて獲得することで予備段階の間に最初に作成かつ定義される。特定のデータ及び情報は、図2において最初の試料A、そしてA―1、A―2、A―3、...A―nとして模式的に例示かつ示される他の試料を分析するために使用される予定の特定のモデル及び/又はブランドの質量分析計33と直接関連する。
【0139】
2.詳細には、オペレータは市販の較正標準物質(具体的には、実施される特定の応用及び分析の種類に応じて、レセルピン+その都度選択される2つの分子)を用いて、分析計33によりいくつかの予備スペクトルを実施し、こうしてこれらは分析計33の応答におけるその後の評価及び較正に使用するためにデータベース41において獲得かつ保存される。
【0140】
分析計の種々のブランド及びモデルを用いて市販の標準物質を分析して得られた質量スペクトルをデータベース41に入力するために、段落1及び2に記載された同一の操作を実施することも可能であり、それ故、多数の質量分析計のブラント及びモデルに関連するデータのライブラリをデータベース41に作成することができる。
【0141】
3.このようにして、問題の試料を分析する前に、分析計33の機器応答はレセルピンシグナルにおいて最適化及び最大化されて、再現可能なスペクトルを得ることができる。
【0142】
分析計33の機器応答及びその光学の最適化におけるこの段階が常に同一の化合物で実施されるため、市販の標準物質のシグナル強度及び他の質量/電荷比m/zに対応するシグナル強度は常に再現可能であり、濃度は均等である。
【0143】
4.その後、標準物質又は較正分子の質量シグナルの強度の形態で得られたデータを、先に検出されてデータベース41に基準として入力された、使用される機器、すなわち分析計のブランド及びモデルに固有の対応する実験データと比較する。
【0144】
補正係数K=I/Iはこの目的のために算出される;前記係数は使用される分析計のブランド及びモデルに固有であり、較正物質に関連する理論上のシグナルIと分析に使用される特定の質量分析計のブランド及びモデルに関連する試料シグナルIとの間の比によって表される。
【0145】
特に、シグナルIは、段落1及び2に示される手順に従って、データベース41において既に利用可能なシグナルから選択され、かつ種々の分析計のブランド及びモデルから得られる。
【0146】
前記係数Kも獲得されてデータベース41に保存される。
【0147】
計算された係数Kは、スペクトルの類似性、結果としては分析に使用される特定の検出装置30の機器応答の類似性を示す;許容されるために、10%の最大許容偏差、すなわちK=1±0.1のユニタリ値に向かう傾向がなければならない。
【0148】
比率K=I/Iは検出システムを示すパラメータも意味し、それ故各分析において監視されるよう設計されているため、定量的に経時的な機器応答の変動を評価し、かつ必要なときに機器応答を適切に補正することができる。
【0149】
したがって、経時的にKの定常性及びその全ての変化を確認することは、検出装置30の操作の第1チェックポイントを構成している。
【0150】
5.その後、それぞれ1ppmの濃度で対応する市販の標準物質を分析することにより、標的分析物のシグナル強度値をサンプリングする。
【0151】
6.標的分子の標準物質が、シグナル対ノイズの比率S/N<100の特徴があるシグナル強度を示す場合、分析物はPROSADで分析することができないと考えられる。
【0152】
このパラメータは質量分析技術に内在する誤差の割合を制限するため、同時に得られるデータの精度及び正確さを高めるために必要不可欠である。
【0153】
しかしながら、S/N比率が>100である場合、標的分析物のシグナルIと、データベース41により先に算出されて得られた係数Kとの間の比率が計算される。
【0154】
7.これは補正係数C=V*(I*K)=V*[I*(I/I)]を与え、式中Vは使用されるアナライザ機器、すなわち分析計33の特定の変数を表すため、前記係数Cはアナライザ機械及び特定の標的化合物又は分析物の両方の特徴を示し、またデータベース41により獲得かつ保存される。
【0155】
8.この時点で、すなわち係数Cがデータベース41により決定されて獲得されると、分析される試料の定量的データの獲得及び検出を開始することができる。
【0156】
最初の段階として、システムのマトリックス効果は考慮されるべきであり、増加する量の試料(例えば5、10、15、及び20マイクロリットル)の4つの迅速な分析が、この目的のために分析される。
【0157】
9.その後、標的分析物のシグナル強度を、定量分析のためにクロマトグラフィシステム31から質量分析計33に注入された試料の量に従って、グラフ上にプロットする。
【0158】
10.その後、分析システムの特性パラメータを表す線形勾配係数K1を推定する。
【0159】
11.この時点で、PROSADのために開発され、リモートコンピューティングユニット43に含まれる特別なアルゴリズム44は、進行中の分析を監視し、特に係数K1が変化しないことを確認する。
【0160】
この確認を通過した場合、すなわちK1が変化せず、結果的に一定のままである場合、マトリックス効果は分析において選択されたシステムにおいて再現可能であり得る。
【0161】
12.その後、さらなる係数C1=K1*C=K1*[V*(K*I)]が得られ、式中Iは上記に特定したように標的分析物のシグナル強度である。
【0162】
この時点で、PROSADアルゴリズム44が定義された実験的な許容範囲内のK及びK1の適合性を検証する場合、標的分析物の濃度値はIxの値に比例させて計算することができる。
【0163】
実際には、制御係数K及びK1が予め設定された許容範囲内に含まれると仮定して、Cpが決定される標的分析物の未知の濃度であり、Ipが前記未知の濃度により生成されるシグナルの既知の強度である場合、分析物の未知の濃度、すなわち試料中に存在する標的分析物の定量分析の結果は、Cp=C1*Ip/Ixで与えられる。
【0164】
上記の要因に基づいて、データ処理システム40及びより一般的な定量分析システム10の範囲内で、データベース41は特定の検出装置30、すなわち質量分析計33の機器応答を較正するという必須機能を実行しており、それは試料A1中に存在する分析物の定量的データを検出するために分析システム10で実際に使用されていることが明らかである。
【0165】
言い換えれば、前記データベース41において含まれ、かつ定義される補正及び制御のデータ及び係数は、前記検出装置30によって検出される定量的データを較正かつ適切に補正することで、最終分析結果としてオペレータに提供される分析試料中に存在する標的分析物の実際の定量的データを決定するのに使用される。
【0166】
有利なことに、上記の段落1−12に記載の係数は監視されて、例えば10時間おきなどの所定の時間間隔後に定期的に再計算され、その後データベース、すなわちデータべース41に入力される。
【0167】
既知の種類のアルゴリズムに基づいたニューラルネットワークシステム、例えば以下の刊行物:Braisted JC,Kuntumalla S,Vogel C,Marcotte EM,Rodrigues AR,Wang R,Huang ST,Ferlanti ES,Saeed AI,Fleischmann RD,Peterson SN,Pieper R.”The APEX Quantitative Proteomics Tool:generating protein quantitation estimates from LC−MS/MS proteomics results.BMC Bioinformatics”2008 Dec 9;9:529、に記載されたニューラルネットワークシステムは、経時的にこれらの係数の偏差を評価し、さらなる補正係数Crを基礎にして算出式の補正係数に変化及び補正を場合により適用することで、経時的に安定な測定の定量的な正確さ及び精度を維持する。
【0168】
詳細には、標的分析物の濃度に関連するCp値に補正係数を乗じ、上記に特定したようにさらに補正することで、本発明による分析システムにおける定量的な測定誤差の経時的な増加の原因となり得るCp値の前記偏差を補正する。
【0169】
前述の説明のより完全な情報及び追加について、本発明による分析システム10の主要部分であり、かつ質量分析計33の機器応答を較正する機能を実行する較正システム50を、図4のフローチャートにおいて、操作段階51―58の順序又は連続の形態で示す。
【0170】
特に、前記フローチャートに見られるように、段階51及び52は予備段階を示しており、その間、較正システム50は試料を定量するために使用され得る前記特定の検出装置を用いて標的分析物の市販の標準物質を定量的に検出し、かつ、こうして検出された定量的データを使用して、前記特定の装置の機器較正に有用な補正及び制御のデータ及び係数を含むデータベースを予備的に確立する。
【0171】
したがって、段階53、54、及び55は最初の試料の実際の定量分析に関連し、前記最初の試料の分析の最終結果、すなわち最初の試料中に存在する標的分析物の定量的データは、データベースに含まれる補正及び制御のデータ及び係数を考慮して、前記特定の検出装置を用いて試料中で検出された定量的データを処理及び補正することで決定される。
【0172】
最後に、段階56、57、及び58は、図2においてA―1、A―2、A―3、...A―nとして模式的に例示かつ示される後続試料の分析に関連し、前記後続分析の定量結果は、データベース41によって先に決定かつ獲得された補正及び制御のデータ及び係数を用いて得られ、その結果として各分析前に、試料中の分析物を定量的に検出するのに使用され得る装置、すなわち質量分析計を較正せず、また従来技術のように各分析前に前記較正を実施するために分析物の市販の標準物質を連続して使用しない。
【0173】
本発明による分析システムにおける変形及び発展
本発明の基本概念を損なうことなく、前記発明の範囲内になお留まりながら、これまで説明してきた試料の定量化学分析のためのシステムにおいて修正及びさらなる改良を成し得ることは明らかである。
【0174】
例えば、データ処理システム40の範囲において、ワークステーション42及びデータベース41は、図2の破線で示されるように、質量分析計33で検出される定量的データQを補正し、かつ試料の分析から得られた最終定量的データを決定するために使用される補正データ及び係数K、C、K1などのデータ及び情報を交換するために、互いに直接協力することができる。
【0175】
さらに、本発明による分析システムをクロマトグラフィシステムと組み合わせて使用される質量分析計に対する特定かつ好ましい参照を用いて説明してきたが、本発明の一般的な概念の範囲内になお留まりながら、分析試料中に存在する分析物を定量的に検出するよう設計された質量分析計及び対応するクロマトグラフィシステム以外の検出装置を、分析システムにおいて使用することができ、それ故対応する新規のデータベースと関連し得る。
【0176】
最後に、本発明による分析システムは、本発明の基本の概念及び特徴をなお維持する一方で、例えばさらなるデバイス及び装置と関連して様々な方法で実施することができるため、定量的および定性的な両方の面で、本発明による分析システムの性能を向上させ、かつその結果を改善する。
【0177】
本発明による分析システムの応用例
特に医療分野における、試料の定量化学分析のための本発明による分析システム10(PROSAD)の応用におけるいくつかの具体例を、上記の説明を補足するために以下に記載する。
【実施例1】
【0178】
―コカイン及びその代謝産物の分析
この実施例では、PROSAD技術を使用して、尿試料中のコカイン及びその代謝産物であるベンゾイルエクゴニンを定量した。
【0179】
相A)HO+0.05%ギ酸及び相B)CHCN+0.05%ギ酸から成る2成分系クロマトグラフィ勾配を使用した。注入が行われる時間t=0のとき、%Bは15%である。この条件を2分間維持する。この間隔の後、%Bは8分間で70%値まで増加する。次の2分間で初期の条件に戻す。機器アクイジション時間を24分に設定した。ThermolEctron C8 150x1mmクロマトグラフィカラムを使用した。表面電位、エレクトロスプレー電位、及び表面温度は、それぞれ50V、0V、及び110℃であった。噴霧ガスの流量は2L/分であった。
【実施例2】
【0180】
―血漿試料中のテストステロンの分析
PROSADシステムを使用して、ヒトの血漿中に含まれるテストステロンを測定した。
【0181】
相A)HO+0.05%ギ酸及び相B)CHCN+0.05%ギ酸から成る2成分系クロマトグラフィ勾配を使用した。注入が行われる時間t=0のとき、%Bは15%である。この条件を2分間維持する。この間隔の後、%Bは8分間で70%値まで増加する。次の2分間で初期の条件に戻す。機器アクイジション時間を24分に設定した。ThermolEctron C8 150x1mmクロマトグラフィカラムを使用した。表面電位、エレクトロスプレー電位、及び表面温度は、それぞれ50V、0V、及び110℃であった。噴霧ガスの流量は2L/分であった。
【実施例3】
【0182】
―全血試料中のタクロリムスの分析
この実施例では、PROSADシステムを用いて、ヒトの血漿中に含まれるタクロリムス(拒絶反応抑制剤)と称される免疫抑制剤を測定する。
【0183】
相A)HO+0.05%ギ酸及び相B)CHCN+0.05%ギ酸から成る2成分系クロマトグラフィ勾配を使用した。注入が行われる時間t=0のとき、%Bは15%である。この条件を2分間維持する。この間隔の後、%Bは8分間で70%値まで増加する。次の2分間で初期の条件に戻す。機器アクイジション時間を24分に設定した。ThermolEctron C8 150x1mmクロマトグラフィカラムを使用した。表面電位、エレクトロスプレー電位、及び表面温度は、それぞれ50V、0V、及び110℃であった。噴霧ガスの流量は2L/分であった。
【0184】
最後に、完全を期すために、下記の表は、上記に記載した各応用例に対して、本発明によるPROSADシステムを用いた標的分析物の測定における%測定精度誤差及び%機器精度誤差を示している。
【0185】
特に、%機器精度誤差は、線形較正法を用いて試料を定量化することで、かつ試料に添加される化合物として重水素化標準物質を用いることで得られたデータと比較して決定した。
【0186】
【表1】
図3
図1
図2
図4
図5