【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るエンジン作業機の上面図である。本実施例ではエンジン作業機の例として、エンジンの駆動力によって前後方向に刃部4の一方又は双方を移動させるヘッジトリマ1の例を示し、ヘッジトリマ1を操作する作業者50の作業位置と右腕、左腕の位置関係を模式的に図示している。ヘッジトリマ1は、エンジンカバー2の内部に収容される小型の2サイクルエンジン(図示せず)を動力源とする。ヘッジトリマ1は後述するフレーム3(
図2参照)を有し、フレーム3の前方には作業者50が例えば左手で把持するフロントハンドル5が取り付けられ、フレーム3の後方には作業者が例えば右手で把持するリアハンドル7が設けられる。フロントハンドル5は、前方側から見た際に上側及び右側において、エンジンの最も外位置よりも外側に位置するように湾曲して形成された棒状部材により構成され、ヘッジトリマ1の右側または左側を下にして載置した際にフロントハンドル5が床にあたるように構成される。リアハンドル7はフレーム3に対して左右方向に90度ずつ回転可能に構成される。
図1に示す作業者の位置は、ヘッジトリマ1の左側に立って作業をする場合の位置であるが、作業位置は左側だけで無くヘッジトリマ1の右側に立って作業をするようにしても良い。右側にて作業をする場合であっても、フロントハンドル5とリアハンドル7の形状が左右対称であるので、同等の作業性を実現できる。
【0018】
エンジンはフロントハンドル5とリアハンドル7の間であって、シリンダが前後方向に延びるように配置され、ピストンが前後方向に往復移動する、いわゆる横置きエンジンである。エンジンの周囲は合成樹脂製のエンジンカバー2によりほぼ全体が覆われ、作業者が誤って高温となるシリンダ等に触れることができないように構成される。エンジンの右側には気化器9とエアクリーナ(図示せず)が設けられ、エアクリーナを収容するエアクリーナ室はクリーナカバー10によって覆われる。エンジンの左側には後述するマフラーが配置され、マフラーの周囲は合成樹脂製のマフラーカバー30によってほぼ全体が覆われる。マフラーカバー30の上面及び左側側面には、強度を向上させるためと、デザイン上の観点から複数のリブ状の凸部34が形成されるが、
図1から理解できるようにマフラーカバー30の上から見える部分には開口部が存在しない。
【0019】
エンジンの前方側には刃部4が前方側に延びるように配置され、フロントハンドル5と
刃部4の間にはハンドガード5aが設けられる。エンジンの後方側であってリアハンドル7の前方側には燃料タンク12が設けられる。燃料タンク12はエンジンの燃料たる混合油を貯蔵するものであり、作業者は燃料キャップ13を開けることによってガソリンとオイルを注入することができる。エンジンの上方であってエンジンカバー2の内側(下側)には手動式始動機であるリコイルスタータが設けられ、エンジンカバー2の上部からリコイルスタータの索引ひもを引くためのスタータハンドル11が設けられる。リアハンドル7の前方上部にはエンジンを運転又は停止するためのスイッチ8が設けられる。
【0020】
図2は本発明の実施例に係るエンジン作業機の側面図である。エンジンはフロントハンドル5とリアハンドル7の間において、フレーム3に保持される。エンジンの下方にはギヤケース6が取り付けられ、ギヤケース6から前方に延びるように刃部4が取り付けられる。ギヤケース6は、エンジンの出力を往復移動に変換して刃部4を駆動するための動力変換機構であって、上下方向に延びるクランク軸(図示せず)の回転駆動力を刃部4の移動刃(図示せず)の前後方向の往復移動に変換する。エンジンはクランク軸が上下方向に延びてシリンダが前後方向に延びるように配置され、図示しないクランク軸の下端側に動力変換機構を構成するギヤケース6が接続され、クランク軸の上端側にシリンダ及び各部の強制空冷用の冷却ファンとマグネトロータとリコイルスタータ(ともに図示せず)等が設けられる。
【0021】
フロントハンドル5の前方側であって、刃部4との間にはハンドガード5aが設けられる。ハンドガード5aは、例えば合成樹脂の一体成形によりフロントハンドル5と一体に構成されるものであって、作業者の手に枝や切断物などがあたらないように保護する役割をする。マフラーに接続される排気管41は、マフラーから下方向に延びて前方側に曲がって、刃部4の延在方向(前後方向)と平行であって、ヘッジトリマ1の前方側に排出されるようにその位置が決定される。このように排気管41による排気方向が前方を向くには、作業者に排気ガスが当たらないようにするためである。排気管41の周囲には、作業者が不意に排気管41にさわらないように排気管ガード43が設けられる。
【0022】
マフラーの周囲には、作業者が高温になったマフラーをさわらないようにするためと、マフラーに冷却ファンで生成された冷却風の一部をあてることによりマフラーを効果的に冷却するためにマフラーカバー30が設けられる。マフラーカバー30は箱状の形状をしており、シリンダに面する側を除いたマフラーのほぼ全面を覆うカバーである。マフラーカバーの前面には複数のスリット開口30aが形成され、下面に複数のスリット開口30bが形成される。また、マフラーカバー30の下部には排気管41を貫通させる開口部30cが設けられ、開口部30cの後方側には一つのスリット開口30dが設けられる。開口部30cは排気管41の大きさに比べて十分大きく形成され、冷却風の排気口としても機能するようにしている。ここで、マフラーカバー30の左側側面および上面には凸部34が設けられるものの、そこにはスリット等の開口部は設けられない。マフラーカバー30には、補強のために上面から側面に連続する4本の凸状のリブ34aと、それらの間であって上面部分のみに配置される3つの凸状のリブ34bが形成され、マフラーカバー30の強度を増してマフラーを外部からの衝撃から守るプロテクタとしても機能するように構成した。
【0023】
図3は
図2のA−A部の断面図である。本実施例のエンジン作業機(ヘッジトリマ1)のエンジン20は、ピストン24によって吸気口25及び排気口26が開閉され、構造がシンプルな2サイクルエンジンが用いられる。エンジン20のシリンダ22部分が前方側に位置し、シリンダ22の側方(左側)であって排気口26付近には2本のボルト44によってマフラー40が取り付けられる。クランクケース23において、クランク軸は上下方向に延びるように配置される。マフラー40の周囲には、作業者が高温になったマフラー40をさわらないようにするためと、マフラー40に冷却ファンで生成された冷却風の一部を効率的に導くためのマフラーカバー30が設けられる。マフラーカバー30にはボルト44を貫通させて締めるための筒部34cが形成される。
【0024】
マフラーカバー30は略直方体の形状をしており、その前面に複数のスリット開口30a(
図2参照)が形成され、下面に複数の3本のスリット開口30bが形成される。マフラーカバー30の下部にはさらに排気管41を貫通させる略長方形の開口部30cが設けられ、開口部30cの後方側には一つのスリット開口30dが設けられる。マフラー40の内部には触媒42が含まれるため、マフラー40を収容するマフラー収納室内の温度は高温になる。そこでマフラーカバー30の前方上方付近には図示しない冷却ファンにて生成された冷却風をマフラー40の収納空間(マフラー収納室)に導くための開口部38が設けられる。開口部38からマフラー収納室の取り込まれた冷却風は、矢印35a、35bのようにマフラー40の外壁に沿ってマフラー室の出口となるスリット開口30a、30b、30c及び開口部30cに向かって流れる。
図3は断面図であるので矢印35a、35bが2次元的で表現されているが、実際には開口部38から排出された空気流は、マフラー40の上面、前面、側面、後面を十分拡散しながら流れてマフラー収納室から外部に排出される。
【0025】
マフラーカバー30の左側側壁は、外壁31と内壁32による2重構造になっており、その間には冷却風を流すことができる空間が存在する。外壁31と内壁32は、高分子樹脂の一体成型で製造され、その間には複数(図では3本。4本に見えるが筒部34cは、ボルト44を貫通させる筒状の部分であって、筒部34cの内部空間と外壁31と内壁32との間の空間とは連通していない)の補強壁33bで接続される。補強壁33bは必ずしも必要なものではないが、マフラーカバー30の左側からの衝撃からマフラー40を守るためのプロテクタの役割を果たすためには、補強壁33bを適宜設ければ強度的に十分なプロテクタとすることができる。マフラー40とシリンダ22及びクランクケース23との間には金属製の遮熱板21が介在され、遮熱板21とマフラーカバー30によってマフラー40を収納する収納空間が画定される。
【0026】
図4は
図3のB−B部の断面図である。ここでファンケース27の内部に配置される図示しない冷却ファンによって生成された冷却風の大部分はシリンダ22の放熱フィンを冷やすように放出され、残りの冷却風は開口部38からマフラー収納室内に導かれ、矢印35a、35bのように流れる。本実施例のマフラーカバー30においては、マフラーカバー30の左側側面が外壁31と内壁32からなる2重壁構造になっており、上端付近において内壁32に開口部39が設けられ、矢印35aの空気の一部が外壁31と内壁32の間の空間側に流れて、矢印37aのように流れて矢印37bのように外部に排出される。図から理解できるように内壁32と外壁31の間の空間の上側は接続されているが、下側は所定の距離を隔てた状態であり開口している。矢印35bの空気のうち大部分は矢印36a、36bから矢印36cのように流れて下側のスリット開口30b、30d等(
図2参照)から外部に排出される。
図4では冷却風の流れを示す矢印は2次元で示しているが、実際にはマフラー40の表面に沿っておおよそ上側から下方向に向かって、開口部に向かってまんべんなく流れるように構成する。
【0027】
マフラーカバー30はプラスチック等の高分子樹脂の一体成形で製造され、作業者50(
図1参照)に面する側、つまり左側面が2重構造となっており、従来例における側壁(内壁32)に加えてその外側に外壁31が形成された形状となる。しかも左側面には開口部が無いため、マフラー収納室内の冷却風が作業者50に向けて排出されることを効果的に防止できる。また、本実施例では2重構造部の内壁32と外壁31が上側の接続部分33aにおいて連結されているが、この接続部分33a付近には内壁32の内側から外側に通じる開口部39が設けられるので、マフラー収納室内の冷却風の一部を効果的に矢印37aのように内壁32と外壁31の間の空間に導くことができる。
【0028】
図5は本発明の実施例に係るエンジン作業機の外観を示す部分斜視図であり、斜め前方下側から見た図である。この図からスリット開口30a、30b、30d及び開口部30cの形状が理解できるであろう。マフラーカバー30の左側側面部には外壁31と内壁32の間の空間を流れた空気が排出されるための開口部30fが形成される。開口部30fは図から理解できるようにマフラーカバー30の前端付近から後端付近まで連続して形成される大きな開口であって、内部には縦方向に延びる3つの補強壁33bが形成される。この図から、マフラー収納室の内部に取り込まれた冷却風は、スリット開口30a、30b、30d、又は、開口部30c、30fのいずれかから外部に排出されるので、マフラー40を冷却した後の熱せられた空気は下方向又は前方向にすべて排出されることになり、作業者50(
図1参照)に向けて排出されることを効果的に防止できる。尚、マフラーカバーの開口の形状は、スリット状、帯状、網状など任意の形状で構成しても良い。
【0029】
以上説明したように、本実施例によればマフラーカバー30を2重構造で且つ一体成形で製造したので、マフラーから伝わる熱を断熱する効果を大幅に向上させることができた。さらに、マフラーとマフラーカバーの間に、冷却ファンで生成された冷却風の一部を流すことで、マフラーからの熱伝達を一層抑えることが可能となった。尚、本実施例では外壁31と内壁32の間は空洞になっているが、その間の空間に冷却風を流すと共に、又は流す代わりにウレタンフォームなどの断熱材を充填してもよい。ウレタンフォームを外壁の内側面に塗布するようにして通気を確保すれば、冷却風を流しつつ断熱効果を高めることができる。また、通気性を確保できる断熱材を充填するようにして、その断熱材を介して冷却風を流すように構成しても良い。
【実施例2】
【0030】
次に
図6を用いて本発明の第2の実施例に係るエンジン作業機について説明する。
図6は本発明の第2の実施例に係るエンジン作業機のマフラーカバー60を示す部分断面図である。第2の実施例でもマフラーカバー60の側壁が2重構造になっている点で第1の実施例と同じであるが、内壁62と外壁61の構造が異なり、内壁62の上側にシリンダ22に近づくように延びた上壁62aが形成され、マフラー80の少なくとも上側面の少なくとも1/4以上を覆うように構成した。マフラー80は遮熱板66を挟むようにしてシリンダ22にボルト留めされる。遮熱板66は金属製の薄い板であってマフラー80のシリンダ側側面をすべて覆うのに十分な大きさを有し、その上端付近はシリンダ22とは反対側(反シリンダ側)に折り曲げられ、折り曲げ部66aが形成される。第2の実施例では内壁62と遮熱板66によってマフラー収納室が形成され、折り曲げ部66aと上壁62aの間の開口部68bがマフラー収納室への冷却風の導入口になる。
【0031】
ファンケースの内部に配置される冷却ファン63によって生成された冷却風の大部分はシリンダ22の放熱フィンを冷やすように放出され、残りの冷却風は開口部68aを通って矢印65aのようにマフラーカバー60の内部空間に導かれる。その冷却風の一部は、矢印65aのように折り曲げ部66aと上壁62aの間の開口部68bからマフラー収納室(マフラー80が収容される空間)内へ流れ、残りは矢印65d、65eのように流れて開口部69を介して外壁61と内壁62の間の空間に流れる。矢印65bのようにマフラー収納室へ流れた冷却風は、マフラー80の表面をまんべんなく流れて下側のスリット開口60b等から矢印65bのように外部に排出される。尚、下側の開口部はスリット開口60bだけで無く
図5で示した開口部30c、スリット開口30dに相当する開口が同様に設けられる。
【0032】
外壁61と内壁62の上端付近には、開口部69が形成され、冷却風が通過できるように構成される。開口部69はマフラーカバー60の側面の前端から後端まで連絡して構成される訳で無く、
図3で示したように連結部分が形成されるので、例えば前後方向に並んだ複数の開口部として形成される。矢印65aのように流れた冷却風は、開口部69を通過して、矢印65fのように外壁61と内壁62の間の空間を上から下方向に流れ、矢印65gのように外部に排出される。尚、
図5では冷却風の流れを示す矢印は2次元で示しているが、実際にはマフラー80の表面に沿っておおよそ上側から下方向に向かって、開口部に向かってまんべんなく流れるように構成する。
【0033】
第2の実施例では、マフラーカバー60の内壁62の内側(マフラー80側)にアルミテープ84等の輻射熱反射部材を貼り付けた。図では奥行きが斜めになっている内壁62にアルミテープ84を貼っている状態を示したので、複層状に貼っているように見えるが、実際にはアルミテープ84の厚さは0.数mm程度のものでも十分であり、合成樹脂製のマフラーカバー60の左側側面部のほぼ全体を覆うように貼ると良い。このように輻射熱反射部材をマフラー収納室の内壁に貼ることにより、マフラー80からの輻射熱を遮ることができ、副次的にはマフラーカバー60自体の耐熱性向上にもなる。尚、輻射熱反射部材の材質はアルミテープだけに限られずに、輻射熱を防御できる部材であればその他の部材であっても良い。また、アルミテープ84を貼る場所は、マフラー80が特に高温になる部分付近に貼るのが好ましいが、マフラーカバー60の上面内側壁、構面内側壁の開口部を除いた部分すべてに貼るように構成しても良い。
【0034】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば上述したエンジン作業機としてチェンソーの例で説明したが、チェンソーだけでなく、刈払機、カッタ、カルチベータ等のその他の2サイクル又は4サイクルの携帯型、可搬型エンジンを用いた作業機にも同様に適用できる。