【文献】
大村高弘,広い温度範囲における各種測定方法による断熱材の熱伝導率比較,ニチアス技術時報,2007年11月28日,No.351,Page.6-15
【文献】
大村高弘, 富村寿夫,有効熱伝導率推定方法に関する研究,日本機械学会関東支部・精密工学会山梨講演会講演論文集,日本,2005年10月21日,Vol.2005,Page.103-104
【文献】
熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法−第一部:保護熱板法(GHP法),JIS A 1412−1:1999,日本,1999年 8月31日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る熱伝導率測定方法(以下、「本方法」という。)において使用される熱伝導率測定装置(以下、「本装置1」という。)の一例について、その主な構成の断面を示す説明図である。
図2は、本装置1の一例について、その一部を構成する部材を斜視で示す説明図である。
図3は、
図1に示す一点鎖線IIIで囲まれた本装置1の一部を拡大して示す説明図である。
【0019】
図1〜
図3に示すように、本装置1は、試験体10の一方側及び他方側にそれぞれ配置される熱板100及び冷却板200を備えた熱伝導率測定装置である。すなわち、本装置1において、試験体10は、熱板100と冷却板200とに挟持される。
【0020】
熱板100は、試験体10の一方側の表面(以下、「高温表面11」という。)を加熱する。冷却板200は、試験体10の他方側の表面(以下、「低温表面12」という。)を高温表面11の温度より低い温度に保つ。
【0021】
具体的に、例えば、熱板100は、試験体10の高温表面11を第一の温度で加熱する高温側ヒータであり、冷却板200は、当該試験体10の低温表面12を当該第一の温度より低い第二の温度で加熱する低温側ヒータである。
【0022】
熱板100は、試験体10の中央部分を加熱する主熱板110と、当該主熱板110を囲むように配置された保護熱板120とを有している。主熱板110と保護熱板120との間には、これらの間の熱伝導を抑制するための断熱層130(いわゆるギャップ)が形成されている。
【0023】
本装置1は、試験体10、熱板100及び冷却板200の外周を囲むように配置された外周ヒータ300をさらに備えている。外周ヒータ300は、試験体10、熱板100及び冷却板200の外周側を加熱する。
【0024】
また、
図1〜
図3に示す例において、本装置1は、熱板100の試験体10と反対側に配置された断熱材400、当該断熱材400の当該熱板100と反対側に配置されて、その温度が主熱板110の温度と等しくなるように制御される補償ヒータ410、当該補償ヒータ410の当該断熱材400と反対側に配置された断熱材420、冷却板200の当該試験体10と反対側に配置された断熱材430、これらの外周を囲むように配置され、その外周を外周ヒータ400で囲まれる断熱材440をさらに備えている。
【0025】
熱伝導率の測定時には、試験体10の高温表面11を第一の温度に保ち、当該試験体10の低温表面12を当該第一の温度より低い第二の温度に保つ。このとき、高温表面11と低温表面12との温度差(第一の温度と第二の温度との差)に基づいて、主に当該高温表面11から当該低温表面12に向けて、試験体10内に熱流が生じる。
【0026】
また、保護熱板120の温度を、主熱板110の温度と等しくなるように制御することによって、試験体10の中央13から外周端14に向かう幅方向Fwの熱流を抑制する。
【0027】
さらに、熱板100の試験体10と反対側に断熱材400を配置し、さらに、補償ヒータ410の温度を、主熱板110の温度と等しくなるように制御することによって、当該主熱板110から当該試験体10と反対側に熱流が生じることを抑制し、当該主熱板110から冷却板200への効率的な熱流を実現する。
【0028】
本方法及び本装置1において測定の対象となる試験体10は、熱板100と冷却板200との間に挟持できるものであれば特に限られない。すなわち、試験体10としては、例えば、断熱材、プラスチック、木材、石膏ボード及びセメントが挙げられる。
【0029】
断熱材としては、例えば、繊維質断熱材、多孔質断熱材及び真空断熱材が挙げられる。繊維質断熱材としては、例えば、ロックウール断熱材、グラスウール断熱材、アルミナファイバーウール断熱材、アルミナ系繊維質断熱材及びアルミナシリカ系繊維質断熱材が挙げられる。多孔質断熱材としては、例えば、ケイ酸カルシウム断熱材、発泡ゴム、発泡ウレタン及び発泡スチロールが挙げられる。断熱材は、例えば、断熱材と金属又はガラスとを積層して形成された断熱構造体等の複合断熱材であってもよい。
【0030】
試験体10の形状は、熱板100と冷却板200との間に挟持できる範囲であれば特に限られず、例えば、
図1〜
図3に示すように、平板状であることが好ましい。
【0031】
本装置1は、例えば、GHP法又は熱流計法による熱伝導率の測定に使用することができ、特にGHP法による測定に好ましく使用することができる。なお、
図1〜
図3に示す例では、熱板100の一方側にのみ試験体10が配置されているため、熱伝導率の測定は、いわゆる1枚法により行うこととなる。ただし、本方法及び本装置1による熱伝導率の測定は、これに限られず、例えば、2つの試験体10を熱板100の一方側及び他方側にそれぞれ配置して(すなわち、当該2つの試験体10で熱板100を挟持して)、いわゆる2枚法により行うこともできる。
【0032】
GHP法では、試験体10を熱板100で加熱することにより、当該試験体10の内部において、当該熱板100から冷却板200に向かう厚さ方向(
図3に示す矢印Ftの指す方向)(すなわち、高温表面11から低温表面12に向かう方向)に一次元定常熱流を生じさせる。
【0033】
ここで、従来は、上述のとおり、試験体10の内部において熱は主熱板110から冷却板200に向かう厚さ方向Ftに一次元的に流れると仮定し、下記式(I)に示す見かけ熱伝導率λaを、試験体10の熱伝導率として求めていた。
【数2】
【0034】
なお、上記式(I)において、Qmは主熱板110からの熱流量(主熱板110の発熱量)であり、dは試験体10の厚さであり、Δθtは厚さ方向Ftにおける温度勾配であり、Sは厚さ方向Ftにおける試験体10の伝熱面積である。
【0035】
しかしながら、実際には、
図3に示すように、主熱板110を発熱させることにより試験体10の高温表面11を加熱すると、当該主熱板110からの熱流の一部は、試験体10の内部を厚さ方向Ftに流れ、当該熱流の他の一部は、当該試験体10の内部を幅方向Fwにも流れる。
【0036】
すなわち、例えば、試験体10が断熱材である場合、当該試験体10の外周端14の温度が均一であって且つ主熱板110の温度と冷却板200の温度との平均温度になっていれば、当該試験体10の外周端14の厚さ方向Ft中心を境に主熱板110からの熱流量と冷却板200からの熱流量とが相殺され、当該主熱板110で発生した熱を厚さ方向Ftに一次元的に流すことが可能である。
【0037】
しかしながら、逆にいえば、たとえ試験体10が断熱材であったとしても、当該試験体10の外周端14の温度が、当該外周端14の全域で均一であって且つ主熱板110の温度と冷却板200の温度との平均温度になっていなければ、幅方向Fwの熱流が発生してしまうことになる。この点、現実には、試験体10の外周端14の温度を均一にし、且つ当該温度を正確に制御することは難しい。
【0038】
したがって、本発明の発明者は、試験体10の熱伝導率を正確に測定する(測定精度を向上させる)ためには、後述するように、当該試験体10の内部における幅方向Fwの熱流を考慮する必要があると考えた。
【0039】
すなわち、実際には、下記式(II)で示されるように、主熱板10からの熱流量Qmは、試験体10内部を厚さ方向Ftに流れる熱流量Qtと、幅方向Fwに流れる熱流量Qwとに分けられる。
【数3】
【0040】
このとき、試験体10の厚さ方向Ftの熱伝導率をλtとすると、下記式(III)が成立する。
【数4】
【0041】
なお、厚さ方向Ftの温度勾配Δθtは、例えば、試験体10の高温表面11の温度θhと、当該試験体10の低温表面12の温度θcとの差(Δθt=θh−θc)として求められる。
【0042】
温度θhは、試験体10の高温表面11の主熱板110と接している部分(当該高温表面11の中央部分)の温度としてもよく、また、主熱板110の試験体10側の表面101の温度としてもよい。また、温度θcは、試験体10の低温表面12の主熱板110の位置に対応する部分(当該低温表面12の中央部分)の温度としてもよく、また、冷却板200の試験体10側の表面201の主熱板110と対向する部分(当該表面201の中央部分)の温度としてもよい。温度の測定には、熱電対が好ましく使用される。
【0043】
さらに、試験体10の幅方向Fwにおける温度勾配をΔθwとすると、当該幅方向Fwにおける熱流量(当該試験体10の外周端14を介して流入又は流出する熱流量)Qwは、下記式(IV)のように示される。なお、下記式(IV)において、Hは係数である。
【数5】
【0044】
一方、見かけの熱伝導率λaは、下記式(V)を変形して得られる上記式(I)により求められる。
【数6】
【0045】
したがって、式(III)、式(IV)及び式(V)を式(II)に代入すると、下記式(VI)が得られ、これを変形すると下記式(VII)が得られる。
【数7】
【数8】
【0046】
さらに、下記式(VIII)のように定数aを規定し、下記式(IX)のように無次元温度Θを規定すると、上記式(VII)は、下記式(X)のようになる。
【数9】
【数10】
【数11】
【0047】
したがって、
図4に示すように、横軸に無次元温度Θ、縦軸に上記式(I)により求められる見かけ熱伝導率λaをとり、当該無次元温度Θに対する当該見かけ熱伝導率λaをプロットすれば、当該無次元温度Θと当該見かけ熱伝導率λaとの相関関係を示す直線関係が得られる。そして、
図4に示すように、試験体10の厚さ方向Ftの熱伝導率λ
tは、こうして得られた直線の切片として求められる。
【0048】
なお、無次元温度Θを変化させるには、例えば、試験体10の外周端14を囲むように配置された外周ヒータ300(
図1参照)の温度を変化させて、幅方向Fwにおける温度勾配Δθwを変化させればよい。また、このとき、厚さ方向Ftの温度勾配Δθtも変化させることとしてもよい。
【0049】
具体的に、所定の温度T℃における熱伝導率λtを測定する場合について説明する。まず、無次元温度Θと見かけ熱伝導率λaとの相関関係を求めるための複数回の測定のうち、1回目の測定では、高温表面11の温度θhを所定の温度Th(℃)に設定し、低温表面12の温度θcを所定の温度Tc(℃)に設定し、外周ヒータ300の温度を第一の温度Ts1(℃)に設定したとする。このとき、高温表面11を温度Th(℃)に保つために必要な主熱板110からの熱流量Qmは、所定値Q1(W)であったとする。
【0050】
次に、2回目の測定では、外周ヒータ300の温度を上げて第一の温度Ts1(℃)より高い第二の温度Ts2(℃)に設定したとする。このとき、高温表面11を1回目と同じ温度Th(℃)に保つために必要な主熱板110からの熱流量Qmは、1回目のQ1(W)より小さいQ2(W)になる。
【0051】
こうして、外周ヒータ300の温度を変化させると、幅方向Fwにおける温度勾配Δθwが変化し、その結果、主熱板110からの熱流量Qmも変化することとなる。また、外周ヒータ300の温度を変化させることで、厚さ方向Ftの温度勾配Δθt(=θh−θc)も変化することとしてもよい。この場合であっても、上記式(X)では変数が無次元温度Θ(Δθw/Δθt)であるため、例えば、高温表面11の温度θh及び/又は低温表面12の温度θcの変動は、測定誤差をもたらさない。
【0052】
本方法では、試験体10の高温表面11から低温表面12までの範囲の任意の位置(例えば、高温表面11、低温表面12又は試験体10の内部において幅方向Fwに延びる仮想平面)における幅方向Fwの温度勾配Δθwについて、上記式(X)が成立する。さらに、仮に、上記式(X)における係数aが温度勾配Δθwに依存して変化した場合であっても、
図5に示すように、直線の傾き(当該係数a)は変化するものの、切片である熱伝導率λtは変化せず一定となる。
【0053】
したがって、本方法によれば、試験体10の厚さ方向Ftの任意の位置における幅方向Fwの温度勾配Δθwに基づいて、無次元温度Θ及び見かけ熱伝導率λaの測定を繰り返し、上記式(X)に示す相関関係を求めることにより、当該試験体10の厚さ方向Ftの熱伝導率λtを得ることができる。
【0054】
次に、幅方向Fwにおける温度勾配Δθwを決定する方法について説明する。温度勾配Δθwを測定する平面(例えば、高温表面11、低温表面12又は試験体10の内部において幅方向Fwに延びる仮想平面)内において、
図3に示すように、断熱層130の位置に相当する位置を原点に決定し、当該平面内の温度分布を関数f(x)で表すこととする。なお、原点の位置は特に限られず、例えば、
図3に示す例では、断熱層130の幅方向Fwにおける中央を原点としている。
【0055】
図6には、温度分布関数f(x)の一例を示す。
図6に示す例において、温度分布関数f(x)は、原点(0)よりマイナス側(主熱板110側)に所定の距離x
mだけ離れた位置(−x
m)から、当該原点よりプラス側(保護熱板120側)に所定の距離x
eだけ離れた位置(x
e)、すなわち試験体10の外周端14までの温度分布を表わす関数である。
【0056】
図3に示す例において、原点から試験体10の外周端14までの範囲(プラス側)における平均温度θeは、下記式(XI)で表される。
【数12】
【0057】
一方、原点から試験体10の中央13側の任意の位置(x
m)までの範囲(マイナス側)における平均温度θmは、下記式(XII)で表される。ただし、ここでは、位置(−x
m)よりもさらに試験体10の中央13側では、温度は一定になっていると仮定している。
【数13】
【0058】
したがって、上記式(XI)及び式(XII)より、幅方向Fwの温度勾配Δθwは下記式(XIII)で求められる。すなわち、この温度勾配Δθwは、断熱層130より主熱板110側における試験体10の平均温度θmと、当該断熱層130より保護熱板120側における当該試験体10の平均温度θeと、の差として求められる。
【数14】
【0059】
ここで、
図3に示す例では、試験体10の低温表面12上の5箇所に熱電対Pc1〜Pc5を設置し、当該5箇所で温度θcを測定する。そして、横軸に原点からの距離x、縦軸に測定された温度θcをとって、当該距離xに対する温度θcをプロットし、当該プロットを最小二乗法により二次曲線で近似して、温度分布関数f(x)を求める。
【0060】
したがって、関数f(x)を下記式(XIV)とおいて、上記式(XI)及び式(XII)より、下記式(XV)及び式(XVI)を得る。
【数15】
【数16】
【数17】
【0061】
なお、温度分布関数f(x)は、二次曲線に限られず、例えば、一次直線、三次曲線、四次曲線等の多項式、指数関数等、任意の関数で近似することができる。
【0062】
次に、試験体10の厚さdを変化させることで、幅方向Fwにおける熱流を考慮しつつ、当該試験体10の厚さ方向Ftにおける熱伝導率λtを求める場合について説明する。この場合、幅方向Fwの熱流量Qwは、試験体10の外周端14の面積に比例するため、当該試験体10の外周長をLとし、比例係数をKとすると、当該熱流量Qwは、下記式(XVII)で表される。
【数18】
【0063】
上記式(II)に、上記式(III)、式(V)及び式(XVII)を代入すると、下記式(XVIII)が得られ、これを変形すると下記式(XIX)が得られる。
【数19】
【数20】
【0064】
ここで、試験体10の厚さdを変化させても、ΔθwとΔθtとの比が一定となるように温度を制御すれば、下記式(XX)のように定数bを規定することで、下記式(XXI)が得られる。なお、このような精密な温度制御は、例えば、ペルチェヒータを使用することで実現できる。
【数21】
【数22】
【0065】
したがって、この場合、横軸に試験体10の厚さdの二乗である変数d
2をとり、縦軸に測定された見かけ熱伝導率λaをとって、当該変数d
2に対して当該見かけ熱伝導率λaをプロットすれば、当該変数d
2と当該見かけ熱伝導率λaとの相関関係を示す直線関係が得られる。そして、厚さ方向Ftの熱伝導率λtは、この直線の切片として求められる。
【0066】
なお、例えば、試験体10の厚さdを変化させると、厚さ方向Ftにおける温度勾配Δθtも変化する場合には、d
2/Δθtを変数として決定し、上記式(XIX)に基づき、当該変数と見かけ熱伝導率λaとの直線関係を得ることとしてもよい。
【0067】
また、例えば、試験体10の厚さ方向Ftにおける伝熱面積Sの逆数(1/S)を含む変数を決定し、当該伝熱面積Sを変化させながら見かけ熱伝導率λaを測定し、上記式(XIX)に基づき、当該変数と当該見かけ熱伝導率λaとの直線関係を得ることとしてもよい。
【0068】
このように、本方法は、幅方向Fwにおける熱流量Qwを変化させる測定条件を含む変数を決定すること、及び当該変数と、上記式(I)で示される見かけ熱伝導率λaとの相関関係を求めること、を含む熱伝導率測定方法である。
【0069】
すなわち、本方法においては、幅方向Fwにおける熱流量Qwを変化させる測定条件を含む変数と、見かけ熱伝導率λaとの相関関係に基づき、試験体10の厚さ方向Ftにおける熱伝導率λtを求める。
【0070】
より具体的には、変数に含まれる測定条件を変化させながら、見かけ熱伝導率λaを測定し、当該測定により得られた当該変数と当該見かけ熱伝導率λaとの相関関係に基づき、試験体10の熱伝導率λtを求める。
【0071】
変数に含まれる測定条件は、例えば、上述のとおり、幅方向Fwにおける温度勾配Δθw、試験体10の厚さd及び当該試験体10の厚さ方向Ftにおける伝熱面積Sからなる群より選択される1つ以上であることとしてもよい。
【0072】
幅方向Fwにおける温度勾配Δθwを測定する場合、本装置1は、
図3に示すように、幅方向Fwにおける温度分布を測定するためのセンサーPを備える熱伝導率測定装置であることとしてもよい。
【0073】
ここで、上述のとおり、従来の熱伝導率測定においては、幅方向Fwにおける熱流量Qwを無視していた。このため、従来の熱伝導率測定装置は、幅方向Fwにおける温度分布を測定するためのセンサーPを備えていなかった。すなわち、幅方向Fwにおける温度分布を測定するためのセンサーPを備えた本装置1は、幅方向Fwにおける熱流量Qwを考慮して厚さ方向Ftにおける熱伝導率λtを測定するために特化した従来にない熱伝導率測定装置である。
【0074】
幅方向Fwの温度勾配Δθwは、上述のとおり、試験体10の当該幅方向Fwにおける複数の位置で温度を測定することにより得られる。そこで、本装置1は、
図3に示すように、試験体10の幅方向Fwにおける複数の位置に配置された複数のセンサーPを備える。
【0075】
より具体的に、本装置1は、
図3に示すように、試験体10の低温表面12又は冷却板200の当該試験体10側の表面201における複数の位置で温度を測定するための複数のセンサーPc1〜Pc5を備えることとしてもよく、試験体10の高温表面11又は熱板100の当該試験体10側の表面101における複数の位置で温度を測定するための複数のセンサーPh1〜Ph5を備えることとしてもよく、試験体10の内部(高温表面11と低温表面12との間の範囲)において外が方向Fwに延びる仮想平面上の複数の位置で温度を測定するための複数のセンサーPi1〜Pi5を備えることとしてもよい。
【0076】
また、試験体10が薄い場合、及び/又は試験体10が小さい場合には、センサー(例えば、熱電対)の存在が、表面(例えば、試験体10の高温表面11及び低温表面12、熱板100の表面101、冷却板200の表面201)における温度の測定に与える影響が大きくなるため、当該表面における温度勾配Δθwを正確に測定できないことがある。
【0077】
この場合、例えば、上述のとおり、ΔθwとΔθtとの比(Δθw/Δθt)を一定となるように制御すれば、試験体10の厚さdを変化させながら見かけ熱伝導率λaを測定することで、上記式(XXI)に基づき、変数(d
2)と当該見かけ熱伝導率λaとの直線関係から、厚さ方向Ftの熱伝導率λtを求めることができる。
【0078】
また、少なくとも幅方向Fwの温度勾配Δθwを一定に制御すれば、上記式(XIX)に基づき、変数(d
2/Δθt)と見かけ熱伝導率λaとの直線関係から、厚さ方向Ftの熱伝導率λtを求めることができる。
【0079】
なお、本方法は、上述した例に限られない。すなわち、例えば、本方法は、上記式(XIX)の右辺第二項に含まれるパラメータ(L、d
2、S、Δθw及びΔθt)の少なくとも一つを含む変数を決定すること、前記変数を変化させながら、左辺の見かけ熱伝導率λaを上記式(I)により測定すること、当該変数と当該見かけ熱伝導率λaとの直線関係を得ること、及び当該直線関係に基づいて右辺第一項の熱伝導率λtを求める方法であることとしてもよい。また、熱伝導率λtを測定する温度は特に限られず、例えば、−170℃以上、100℃以下の温度における熱伝導率λtを測定することとしてもよく、100℃以上、1500℃以下の温度における熱伝導率λtを測定することとしてもよい。
【0080】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0081】
図1〜
図3に示すような本装置1を使用して、1枚方式のGHP法により、200℃、400℃、500℃、600℃、700℃及び800℃における、アルミナ−シリカ系繊維質断熱材の厚さ方向Ftの熱伝導率λtを測定した。
【0082】
すなわち、まず、上記式(IX)で示される無次元温度Θを変数として決定した。次いで、外周ヒータ300の温度を変えることで無次元温度Θ(特に、幅方向Fwの温度勾配Δθw)を変化させながら、上記式(I)により見かけ熱伝導率λaを測定した。
【0083】
なお、温度勾配Δθwは、
図3に示すように、断熱材(試験体10)の低温表面12の5箇所に配置したセンサー(熱電対)Pc1〜Pc5、又は当該断熱材の厚さ方向Ft中央の5箇所に配置したセンサー(熱電対)Pi1〜Pi5により測定した温度に基づき、上記式(XIII)により求めた。また、厚さ方向Ftの温度勾配Δθtは、高温表面11の主熱板110に接する部分の温度θh及び低温表面12の当該部分に対応する位置の温度θcをセンサー(熱電対)により測定し、当該温度θhと当該温度θcとの差として求めた(Δθt=θh−θc)。
【0084】
そして、各測定温度について、無次元温度Θに対して見かけ熱伝導率λaをプロットし、当該プロットを最小二乗法で直線近似することにより、
図2に示すような直線関係が得られた。得られた直線の切片の値を熱伝導率λtとして得た。また、比較のため、周期加熱法による熱伝導率測定装置を使用して、同様に断熱材の熱伝導率を測定した。
【0085】
図7に、各温度において断熱材の熱伝導率λtを求めた結果を示す。
図7において、横軸は熱伝導率λtを測定した温度(℃)を示し、縦軸は各温度で測定された熱伝導率λt(W/(m・K))を示す。
【0086】
図7において、白抜き四角印は、試験体10の低温表面12における温度分布を使用して求められた熱伝導率λtを示し、白抜き三角印は、試験体10の厚さ方向Ftにおける中央における温度分布を使用して求められた熱伝導率λtを示し、黒塗り丸印は、周期加熱法により求められた熱伝導率を示す。また、
図7において、2本の破線で囲んだ領域は、周期加熱法による測定結果との誤差がプラス10%(+10%)〜マイナス10%(−10%)である範囲を示している。
【0087】
図7に示すように、本装置1を使用した本方法により求められた熱伝導率λtは、周期加熱法により求められた熱伝導率とほぼ一致していた。すなわち、本装置1及び本方法によれば、幅方向Fwの熱流を考慮することにより、厚さ方向Ftの熱伝導率λtを高い精度で測定できることが確認された。