特許第5911301号(P5911301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5911301
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   F16H61/14 601J
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-288209(P2011-288209)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137059(P2013-137059A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】金中 克行
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−128437(JP,A)
【文献】 特開2003−343718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関が出力する駆動力をトルクコンバータを介して変速機に入力し車軸に伝達するようにしたものにおいて、
アクセルペダルが踏み込まれていないクリープ中にトルクコンバータのロックアップクラッチを滑り摩擦状態としつつ、実車速が目標車速を上回っているときにはロックアップクラッチの締結を強め、実車速が目標車速を下回っているときにはロックアップクラッチの締結を緩める制御を実行することを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関が出力する駆動力をトルクコンバータを介して変速機に入力し車軸に伝達する態様の車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、実用燃費のさらなる向上を目的として、内燃機関や駆動系における機械的損失の低減や、これらを搭載した車両の軽量化、走行抵抗の低減等が図られている。他方、内燃機関及びトルクコンバータの出力性能は従来から変わらず、または寧ろ向上している。
【0003】
上記の結果、クリープ現象(例えば、下記特許文献を参照)によるクリープ力が相対的に高まり、車両のクリープ走行の速度が上昇してきている。クリープ速度が徒に高いと、道路の渋滞時や車庫入れ時等における使い勝手が悪くなる。
【0004】
クリープ速度を抑制するための手立てとしては、
(i)内燃機関のアイドル回転数を低下させる
(ii)トルクコンバータのトルク容量係数を引き下げるように設計変更を行う
(iii)車両の各部における機械的損失を増す
(iv)変速機における最もローギヤ寄りの変速段の減速比(最大減速比)を小さくする
が考えられる。
【0005】
(i)は、実現できるならば理想的である。だが、機関のアイドル回転数は既に限界近くまで抑えられており、これ以上アイドル回転数を下げることはエンジンストールの頻発を招くこととなりかねず、困難を伴う。
【0006】
(ii)は、車両の発進時等において、機関の出力トルクがダイレクトに変速機及び車軸に伝達されなくなるきらいがあり、エンジン回転数が上昇してその分だけ燃料消費が増す。加えて、トルクコンバータの新規設計及び作製のコストも無視できない。
【0007】
(iii)は、そもそも燃費性能を悪化させるので本末転倒と言える。
【0008】
(iV)は、車軸に伝わるクリープ力を小さくできる一方で、再発進時の加速性能や登坂性能を弱めることになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−331463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、クリープ現象による車両のクリープ走行の速度を適切に抑制することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、機関が出力する駆動力をトルクコンバータを介して変速機に入力し車軸に伝達するようにしたものにおいて、アクセルペダルが踏み込まれていないクリープ中にトルクコンバータのロックアップクラッチを滑り摩擦状態としつつ、実車速が目標車速を上回っているときにはロックアップクラッチの締結を強め、実車速が目標車速を下回っているときにはロックアップクラッチの締結を緩める制御を実行することを特徴とする制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クリープ現象による車両のクリープ走行の速度を適切に抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関の全体構成を示す図。
図2】同実施形態における駆動系の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。この火花点火式内燃機関は、筒内直接噴射式のものであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ10と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを還流させる外部EGR装置2とを具備している。
【0015】
気筒1の燃焼室の天井部には、点火プラグ13を取り付けてある。点火プラグ13は、点火コイル12にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル12は、半導体スイッチング素子であるイグナイタ11とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0016】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、電子スロットルバルブ33、サージタンク34、吸気マニホルド35を、上流からこの順序に配置している。
【0017】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパスバルブであるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号lを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0018】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0019】
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。外部EGR通路の入口は、排気通路4におけるタービン52の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ33の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク34に接続している。外部EGR通路上にも、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0020】
図2に、車両が備える駆動系の例を示す。この駆動系は、トルクコンバータ7及び自動変速機8を具備する。内燃機関が出力する回転トルクは、内燃機関のクランク軸からトルクコンバータ7の入力側のポンプインペラ71に入力され、出力側のタービンランナ72に伝達される。タービンランナ72の回転は、これに連結している自動変速機8の入力軸に伝わり、自動変速機8による変速(減速)を経て自動変速機8の出力軸を回転させる。自動変速機8の出力軸の回転は、出力ギヤ101に伝達される。出力ギヤ101は、デファレンシャル装置のリングギヤ102と噛合し、デファレンシャル装置を介して車軸103及び駆動輪(図示せず)を回転させる。
【0021】
トルクコンバータ7は、ロックアップ機構を備える。ロックアップ機構は、この分野では既知のもので、トルクコンバータ7の入力軸と出力軸とを相対回動不能に締結するロックアップクラッチ73と、ロックアップクラッチ73を断接切換駆動するための油圧を制御するロックアップソレノイドバルブ(図示せず)とを要素とする。ロックアップソレノイドバルブは、制御信号oを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
【0022】
一般的に、ロックアップ機構は、自動変速機8による変速比の変更を伴わない状況において、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを締結する。ロックアップ時、ロックアップクラッチ73はトルクコンバータカバー74に押し付けられ、トルクコンバータカバー74と一体となって回転する。ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側(のドライブプレート)に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からロックアップクラッチ73を経由してトルクコンバータ7の出力側、自動変速機8の入力軸に直接伝達される。ロックアップ時、トルクコンバータ7の出力側回転数の入力側回転数に対する比である速度比は1となる。
【0023】
翻って、非ロックアップ時には、ロックアップクラッチ73がトルクコンバータカバー74から離反する。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からポンプインペラ71、タービン72へと伝わり、自動変速機8の入力軸に伝達される。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の速度比は1よりも小さくなる。
【0024】
自動変速機8は、例えば、遊星歯車機構等を用いた有段変速機である。有段自動変速機8もまた、この分野では既知のものであり、有段変速機8自身に前後進切換機能、即ち変速機8の出力軸の回転方向(正回転または逆回転)ひいては車軸103の回転方向を切り替える機能が付帯している。自動変速機8として、ベルト式CVTの如き無段変速機を採用することも考えられる。この場合、トルクコンバータ7とベルト式CVTとの間に、前後進切換装置を介設する。
【0025】
本実施形態の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0026】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるエンジン回転信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ33の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気温及び吸気圧(または、過給圧)を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、シフトレバーのレンジを知得するためのセンサ(または、シフトポジションスイッチ)から出力されるシフトレンジ信号g等が入力される。
【0027】
出力インタフェースからは、点火プラグのイグナイタ11に対して点火信号i、EGRバルブ22に対して開度操作信号j、スロットルバルブ33に対して開度操作信号k、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号l、インジェクタ10に対して燃料噴射信号m、ロックアップ機構のロックアップソレノイドバルブに対して開度制御信号o、自動変速機8に対して変速比制御信号p等を出力する。
【0028】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、gを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、EGR量(または、EGR率)、エアコンディショナのコンプレッサのON/OFF、トルクコンバータ7のロックアップを行うか否か、自動変速機8の変速比といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。しかして、ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、o、pを出力インタフェースを介して印加する。
【0029】
本実施形態のECU0は、シフトポジションが前進レンジまたは後進レンジであり、アクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下であり、内燃機関がアイドリングまたはこれに近い状態で稼働して、機関の出力トルクがトルクコンバータ7及び自動変速機8を介して車軸103に伝達されるクリープ中において、トルクコンバータ7のロックアップクラッチ73を滑り摩擦状態とする制御を実行する。
【0030】
トルクコンバータ7のトルク容量係数をC、トルクコンバータ7の入力側回転数即ちエンジン回転数をNe、トルクコンバータ7の出力側トルクの入力側トルクに対する比であるトルク比をtとおくと、トルクコンバータ7の出力側に伝達されるトルクTは、
T=C・Ne2・t
と表すことができる。クリープ中は、自動変速機8の変速比を最もローギヤ寄り(減速比が最大)に制御している。自動変速機8を介して車軸103に伝わるクリープ力を低減し、車両のクリープ走行速度を低下させるためには、上式における容量C、エンジン回転数Neまたはトルク比tの何れかを小さくする必要がある。トルク比tを小さくすることは、速度比を上げることと同義である。
【0031】
そこで、本実施形態のECU0は、クリープ中に敢えてロックアップクラッチ73を締結する一方、ロックアップソレノイドバルブの開度を調整することでロックアップクラッチ73をトルクコンバータカバー74に押し付ける油圧の大きさを調節し、ロックアップクラッチ73をトルクコンバータカバー74に対して滑らせる滑り摩擦状態とする。これにより、トルクコンバータ7の速度比が1に近づくように増大し、トルク比が減少し、伝達トルクTが小さくなって、車軸103に伝わるクリープ力が低減する。
【0032】
ロックアップクラッチ73の締結の強さ、即ちロックアップクラッチ73をトルクコンバータカバー74に押し付ける油圧の強さは、クリープ走行時の車速が所望の値(または、所望の範囲)をとるように制御することが好ましい。油圧の強さは、ロックアップソレノイドバルブの開度を操作することで制御することが可能である。
【0033】
ECU0は、例えば、クリープ走行中の車速を計測し、この実車速と所望の目標車速との偏差を縮小する方向にロックアップソレノイドバルブの開度を操作するフィードバック制御を実施する。実車速が目標車速を上回っているときには、ロックアップクラッチ73の締結を強めてトルクコンバータ7の速度比を上げ、トルク比を下げる。逆に、実車速が目標車速を下回っているときには、ロックアップクラッチ73の締結を緩めてトルクコンバータ7の速度比を下げ、トルク比を上げるのである。
【0034】
本実施形態では、機関が出力する駆動力をトルクコンバータ7を介して変速機8に入力し車軸103に伝達するようにしたものにおいて、アクセルペダルが踏み込まれていないクリープ中にトルクコンバータ7のロックアップクラッチ73を滑り摩擦状態とする制御を実行することを特徴とする制御装置0を構成した。
【0035】
本実施形態によれば、クリープ現象による車両のクリープ走行の速度を適切に抑制することができる。また、停車中においても、クリープ力が適度に抑えられることから、ブレーキ踏力がより小さくて済むようになり、使い勝手が向上する。
【0036】
上述の(ii)や(iii)の手法と比較して、実用燃費が悪化しない面で有利である。加えて、内燃機関やトルクコンバータ7、変速機8等のハードウェアに改変を加える必要がなく、低コストにて実現可能である。
【0037】
クリープ走行からアクセルペダルが踏み込まれて再加速する際には、ロックアップクラッチ73の締結を緩め、解除する方向に操作を行うので、大きなトルクショックが発生することはない。
【0038】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、車両に搭載される駆動系のトルクコンバータの制御に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
0…制御装置(ECU)
7…トルクコンバータ
73…ロックアップクラッチ
8…自動変速機
103…車軸
図1
図2