特許第5911330号(P5911330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5911330
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】放射線検出器およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   G01T1/20 L
   G01T1/20 E
   G01T1/20 G
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-37014(P2012-37014)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-171012(P2013-171012A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100180976
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】榛葉 勇一
(72)【発明者】
【氏名】本間 克久
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−076576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けたアレイ基板と、
前記アレイ基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように設けられて放射線を蛍光に変換するシンチレータ膜と、
ハット形状の金属箔又は薄板からなり、外縁に前記アレイ基板から離れる方向に突出した突起が形成されて前記シンチレータ膜を包囲する防湿体と、
前記防湿体の外周部と前記アレイ基板とを接着する接着層と、
を具備することを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けたアレイ基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように放射線を蛍光に変換するシンチレータ膜を設ける工程と、
第1面および第2面を持つ金属板の一部に前記シンチレータ膜よりも広くかつ前記シンチレータ膜の前記アレイ基板からの突出高さよりも深い前記第1面から前記第2面に向かって窪んだ窪み部を形成し、前記窪み部の外周に設けられた鍔部の外縁よりも外側をその内側に対して相対的に前記第1面から前記第2面に向かう方向に変位させるせん断加工で切断して防湿体を形成する工程と、
前記第1面が前記アレイ基板に対向し前記防湿体で前記シンチレータ膜を包囲するように前記防湿体の外周部と前記アレイ基板とを接着剤で接着する工程と、
を具備することを特徴とする放射線検出器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、概して、放射線を検出する放射線検出器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面型のX線検出器が開発されている。このX線検出器は、照射されたX線を検出してX線撮影像あるいはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。このX線検出器では、X線をシンチレータ膜により可視光すなわち蛍光に変換させ、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオードあるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子で信号電荷に変換することで画像を取得している。
【0003】
シンチレータ膜の材料としては、一般的にヨウ化セシウム(CsI):ナトリウム(Na)、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、あるいは酸硫化ガドリニウム(GdS)などが用いられる。シンチレータ膜は、ダイシングなどにより溝を形成したり、柱状構造が形成されるように蒸着法で堆積したりすることで、解像度特性を向上させることができる。シンチレータの材料としては、上述の通り種々のものがあり、用途や必要な特性によって使い分けられる。
【0004】
蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するため、シンチレータ膜の上部に反射膜を形成する場合がある。この場合、シンチレータ膜で発光した蛍光のうち光電変換素子側に対して反対側に向かう蛍光を反射膜で反射させて、光電変換素子側に到達する蛍光を増大させる。
【0005】
反射膜は、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属層をシンチレータ膜上に成膜する方法や、TiO2などの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る光散乱反射性の反射膜を塗布形成する方法などで形成される。また、反射膜をシンチレータ膜上に形成するのではなく、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ膜に密着させてシンチレータ光を反射させる方式も実用化されている。
【0006】
シンチレータ膜や反射膜あるいは反射板などを外部雰囲気から保護して湿気などによる特性の劣化を抑えるための防湿構造は、検出器を実用的な製品とする上で重要な構成要素となる。特に湿気による劣化の大きい材料であるCsI:Tl膜やCsI:Na膜をシンチレータ膜とする場合には高い防湿性能が要求される。防湿構造としては、たとえばアルミニウム箔などの防湿層を周辺部で基板と接着封止して防湿性能を保つ構造や、アルミニウム箔や薄板などの防湿層と基板とを周囲のリング状構造物を介して接着封止する構造などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−128023号
【特許文献2】特開平5−242841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
平面型のX線検出器は、ガラス板にTFTやフォトダイオードの画素を形成した基板を有している。このX線検出器には、防湿体としてハット形状の金属箔又は薄板を用い、ハット鍔部と基板表面を接着封止して防湿構造とするものがある。
【0009】
防湿体は、金属の箔または薄板を裁断した後、プレス加工でハット形状に加工される。金属切断面には不要な突起(バリ)が生じることがある。鍔の接着層側にバリが発生した防湿体を基板と接着封止した場合、バリが基板側に押されるため、基板金属配線と防湿体バリ部が電気的に短絡する危険が生じる。また、圧着されたバリのスプリングバックによって、接着層が破壊される危険もある。接着層が破壊されると、防湿性能が著しく低下してしまう。
【0010】
そこで、実施形態は、信頼性の高い防湿構造を備えた放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、一実施形態によれば、放射線検出器は、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けたアレイ基板と、前記アレイ基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように設けられて放射線を蛍光に変換するシンチレータ膜と、ハット形状の金属箔又は薄板からなり、外縁に前記アレイ基板から離れる方向に突出した突起が形成されて前記シンチレータ膜を包囲する防湿体と、前記防湿体の外周部と前記アレイ基板とを接着する接着層と、を具備する。
【0012】
また、一実施形態によれば、放射線検出器の製造方法は、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が配列された光電変換素子層を設けたアレイ基板の表面に前記光電変換素子層を覆うように放射線を蛍光に変換するシンチレータ膜を設ける工程と、第1面および第2面を持つ金属板の一部に前記シンチレータ膜よりも広くかつ前記シンチレータ膜の前記アレイ基板からの突出高さよりも深い前記第1面から前記第2面に向かって窪んだ窪み部を形成し、前記窪み部の外周に設けられた鍔部の外縁よりも外側をその内側に対して相対的に前記第1面から前記第2面に向かう方向に変位させるせん断加工で切断して防湿体を形成する工程と、前記第1面が前記アレイ基板に対向し前記防湿体で前記シンチレータ膜を包囲するように前記防湿体の外周部と前記アレイ基板とを接着剤で接着する工程と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態による放射線検出装置の模式的斜視図である。
図2】一実施形態による放射線検出器の回路図である。
図3】一実施形態による放射線検出装置のブロック図である。
図4】一実施形態による放射線検出器の一部拡大断面図である。
図5】一実施形態による放射線検出器の上面図である。
図6】一実施形態による放射線検出器の側面図である。
図7】一実施形態による防湿体の鍔部近傍の拡大断面図である。
図8】一実施形態による防湿体の製造過程の一部を示す断面図である。
図9】接着層側に向かって突出したバリが形成された防湿体を用いた放射線検出器の鍔部近傍の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、一実施形態による放射線検出器を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれに限定されない。
【0015】
図1は、一実施形態による放射線検出装置の模式的斜視図である。
【0016】
本実施形態の放射線検出器11は、放射線像であるX線画像を検出するX線平面センサであり、たとえば一般医療用途などに用いられる。放射線検出装置10は、この放射線検出器11と、支持板31と、回路基板30と、フレキシブル基板32とを有している。放射線検出器11は、アレイ基板12とシンチレータ膜13とを有している。放射線検出器11は、入射したX線を検出して蛍光に変換し、その蛍光を電気信号に変換する。放射線検出装置10は、放射線検出器11を駆動し、放射線検出器11から出力された電気信号を画像情報として出力する。放射線検出装置10が出力した画像情報は、外部のディスプレイなどに表示される。
【0017】
アレイ基板12は、ガラス基板16を有している。ガラス基板16の表面には、複数の微細な画素20が正方格子状に配列されている。それぞれの画素20は、薄膜トランジスタ22とフォトダイオード21とを有している。また、ガラス基板16の表面には、画素20が配列された正方格子の行と同数のゲートライン18が各画素20の間を延びている。さらに、ガラス基板16の表面には、画素20が配列された正方格子の列の数と同数のデータライン19が各画素20の間を延びている。シンチレータ膜13は、アレイ基板12の画素20が配列された領域の表面に形成されている。
【0018】
シンチレータ膜13は、アレイ基板12の表面に設けられ、X線が入射すると可視光領域の蛍光を発生する。発生した蛍光は、アレイ基板12の表面に到達する。
【0019】
シンチレータ膜13は、たとえばヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを真空蒸着法で柱状構造に形成したものである。CsI:Tlの柱状構造結晶の柱(ピラー)の太さは、最表面でたとえば8〜12μm程度である。あるいは、酸硫化ガドリニウム(GdS)蛍光体粒子をバインダ材と混合し、アレイ基板12上に塗布して焼成および硬化し、ダイサによりダイシングするなどで溝部を形成して四角柱状に形成してシンチレータ膜13を形成してもよい。これらの柱間には、大気、あるいは酸化防止用の窒素(N)などの不活性ガスが封入され、あるいは真空状態としてもよい。
【0020】
アレイ基板12は、シンチレータ膜13で発生した蛍光を受光して電気信号を発生する。その結果、入射したX線によってシンチレータ膜13で発生した可視光像は、電気信号で表現された画像情報に変換される。
【0021】
放射線検出器11は、シンチレータ膜13が形成された面の反対側の面と支持板31とが接触するように、支持板31に支持されている。回路基板30は、支持板31の放射線検出器11に対して反対側に配置されている。放射線検出器11と回路基板30との間は、フレキシブル基板32で電気的に接続されている。
【0022】
図2は、本実施形態による放射線検出器の回路図である。
【0023】
それぞれのフォトダイオード21は、スイッチング素子である薄膜トランジスタ22を介してゲートライン18およびデータライン19に接続されている。また、それぞれのフォトダイオード21には、蓄積キャパシタ27が並列に接続されている。なお、蓄積キャパシタ27は、フォトダイオード21の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。
【0024】
フォトダイオード21およびそれに並列に接続された蓄積キャパシタ27は、薄膜トランジスタ22を介してデータライン19に接続されている。薄膜トランジスタ22のゲート電極は、ゲートライン18に接続されている。
【0025】
配列の同じ行に位置する画素20の薄膜トランジスタ22は、同一のゲートライン18に接続されている。配列の同じ列に位置する画素20の薄膜トランジスタ22は、同一のデータライン19に接続されている。
【0026】
各薄膜トランジスタ22は、フォトダイオード21への蛍光の入射にて発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ22は、結晶性を有する半導体材料である非晶質半導体としてのアモルファスシリコン(a−Si)、あるいは多結晶半導体であるポリシリコン(P−Si)などの半導体材料にて少なくとも一部が構成されている。
【0027】
なお、図1および図2において、画素は5行5列あるいは4行4列分しか記載していないが、実際にはもっと多く、解像度、撮像面積に応じて必要な画素が形成されている。
【0028】
図3は、本実施形態による放射線検出装置のブロック図である。
【0029】
放射線検出装置10は、放射線検出器11と、ゲートドライバー39と、行選択回路35と、積分アンプ33と、A/D変換器34と、並列/直列変換器38と、画像合成回路36とを有している。ゲートドライバー39は、放射線検出器11の各ゲートライン18に接続されている。ゲートドライバー39は、各薄膜トランジスタ22の動作状態、すなわちオンおよびオフを制御する。積分アンプ33は、放射線検出器11の各データライン19に接続されている。
【0030】
行選択回路35は、ゲートドライバー39に接続されている。並列/直列変換器38は、積分アンプ33に接続されている。A/D変換器34は、並列/直列変換器38に接続されている。A/D変換器34は、画像合成回路36に接続されている。
【0031】
積分アンプ33は、たとえば放射線検出器11と回路基板30とを接続するフレキシブル基板32上に設けられている。その他の素子は、たとえば回路基板30上に設けられている。
【0032】
ゲートドライバー39は行選択回路35からの信号を受信して、ゲートライン18の電圧を順番に変更していく。行選択回路35は、X線画像を走査する所定の行を選択するための信号をゲートドライバー39へと送る。積分アンプ33は、放射線検出パネル21からデータライン19を通じて出力される極めて微小な電荷信号を増幅し出力する。
【0033】
図4は、本実施形態による放射線検出器の一部拡大断面図である。
【0034】
アレイ基板12の表面には、フォトダイオード21および薄膜トランジスタ22などの検出素子、並びに、ゲートライン18(図1参照)およびデータライン19(図1参照)などの金属配線を覆う絶縁性の保護膜28が形成されている。シンチレータ膜13は、保護膜28の表面に、画素20が配列された領域を覆うように形成されている。
【0035】
シンチレータ膜13の表面には、反射膜14が設けられている。反射膜14は、シンチレータ膜13で発生した蛍光のうちアレイ基板12から遠ざかっていくものをアレイ基板12側へ反射させる。これにより、フォトダイオード21に到達する蛍光光量が増大する。
【0036】
反射膜14は、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属をシンチレータ膜上に成膜する方法で形成される。あるいは、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ膜13に密着させたもの、TiOなどの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る拡散反射性の反射膜14を塗布形成してもよい。なお、反射膜14は、放射線検出器11に求められる解像度、輝度などの特性により、必ずしも必要ではない。
【0037】
放射線検出器11には、シンチレータ膜13および反射膜14を包囲するように、防湿体15が設けられている。
【0038】
図5は、本実施形態による放射線検出器の上面図である。図6は、本実施形態による放射線検出器の側面図である。
【0039】
防湿体15は、中央部が盛り上がったハット状に形成されている。防湿体15の周辺部分は、平坦な帯状の鍔部50となっている。鍔部50は、アレイ基板12の表面のシンチレータ膜13が形成された領域の外側を取り囲む帯状に形成される。鍔部50の内側には、天板部51が形成されている。天板部51は、シンチレータ膜13よりも若干大きい平板状の部分である。鍔部50と天板部51との間には、斜面部52が形成されている。
【0040】
鍔部50は、アレイ基板12と対向している。鍔部50とアレイ基板12との間は接着されている。アレイ基板12上に形成されたシンチレータ膜13(図4参照)および反射膜14(図4参照)は、防湿体15の天板部51および斜面部52で覆われている。防湿体15は、シンチレータ膜13および反射膜14を外気や湿度から保護する。
【0041】
防湿体15は、たとえば厚さ0.1mmのアルミニウム合金箔で形成されている。防湿体15は、A1N30−O材などのアルミニウム合金箔やアルミニウム箔で形成される。鍔部50の幅は、たとえば5mmである。
【0042】
アレイ基板12には、ゲートライン18(図1参照)およびデータライン19(図1参照)のそれぞれの端部が露出した端子群26が設けられている。端子群26は、アレイ基板12の辺に沿って配列されている。ゲートライン18につながる端子群26と、データライン19につながる端子群26は、異なる辺に沿って配列されている。これらの端子群26は、フレキシブル基板32(図1参照)を介して、回路基板30(図1参照)と電気的に接続されている。
【0043】
図7は、本実施形態による防湿体の鍔部近傍の拡大断面図である。
【0044】
防湿体15の鍔部50とアレイ基板12との間には、接着層40が介在している。接着層40は、鍔部50に沿って、アレイ基板12の表面のシンチレータ膜13が形成された領域の外側を取り囲む帯状に設けられている。したがって、鍔部50の少なくとも一部は、ゲートライン18(図1参照)あるいはデータライン19(図1参照)からアレイ基板12の外周に設けられた端子群26まで延びる配線29に保護膜28および接着層40を挟んで対向している。
【0045】
接着層40の内縁、すなわち、アレイ基板12の表面のシンチレータ膜13が形成された領域に近い方の縁は、全周にわたって鍔部50の内縁よりも内側に位置している。接着層40は、加熱硬化型または紫外線硬化型のエポキシ系の接着剤で形成されている。
【0046】
防湿体15の外縁、すなわち鍔部50の斜面部52に対して反対側の辺には、バリ53が形成されている。このバリ53は、アレイ基板12から離れる方向に突出している。
【0047】
次に、本実施形態の放射線検出器の製造方法について説明する。
【0048】
まず、ガラス基板16の表面に、フォトダイオード21、薄膜トランジスタ22、ゲートライン18およびシグナルライン19などを形成して、アレイ基板12を得る。次に、このアレイ基板12上に、シンチレータ膜13および反射膜14を順次形成する。また、別途、防湿体15を製造する。
【0049】
図8は、本実施形態による防湿体の製造過程の一部を示す断面図である。
【0050】
防湿体15は、たとえばAL合金箔のロール材から製造される。まず、このロール材を所定の長さに裁断する。これにより矩形の金属板73が得られる。この金属板73を第1面71側から第2面72側を押し込む方向にプレスして、天板部51および斜面部52を形成する。
【0051】
その後、鍔部50が所定の幅となるように金属板73を裁断する。この外形加工によって防湿体15が得られる。この外形加工には、第1の型81と第2の型82とを用いる。第1の型81は金属板73の第1面71に押し付けられ、第2の型82は金属板73の第2面72に押し付けられる。第1の型81には防湿体15の外形とほぼ同じ形状の穴74が形成されている。第2の型82の外形は、第1の型81に形成された穴74よりも若干小さい。外形加工の際には、第2の型82を第1の型81の穴74に押し込んで、金属板73を裁断する。つまり、金属板73は、切り取られる部分が鍔部50となる部分に対して、第1面71側から第2面72側に向かう方向に相対的に移動するようにしてせん断される。その結果、防湿体15の外縁には、第1面71側から第2面側に向かう方向に突出したバリが形成される。
【0052】
次に、防湿体15の窪んだ部分すなわち斜面部52および天板部51で囲まれる空間に、シンチレータ膜13および反射膜14が収納されるように、アレイ基板12と防湿体15とを接着する。
【0053】
防湿体15の鍔部50のアレイ基板12と対向する面、すなわち第1面72に紫外線硬化型の接着剤を塗布する。接着剤は、鍔部50の全周にわたって塗布される。次に、接着剤が塗布された防湿体15を減圧雰囲気下でアレイ基板12に押し付けて両者を圧着する。この圧着の際の雰囲気は、たとえば0.1気圧程度の減圧雰囲気である。
【0054】
この際、鍔部50の第1面71側がアレイ基板12と対向するように配置される。防湿体15の外縁に形成されたバリ53は、鍔部50の端縁の第1面71側から第2面72側に向かって突出している。このため、バリ53は、アレイ基板12から離れる方向に突出していることになる。
【0055】
このようにして、防湿構造を形成することによって、放射線検出器11が完成する。この放射線検出器11のゲートライン18、データライン19の各端子群26にTAB接続により配線を繋いで、アンプ以降の回路に接続し、さらに筐体に組み込んで放射線検出装置10が完成する。
【0056】
図9は、接着層側に向かって突出したバリが形成された防湿体を用いた放射線検出器の鍔部近傍の拡大断面図である。
【0057】
接着層40側に向かって突出したバリ83が形成された防湿体80を用いた場合、バリ83が接着層40およびアレイ基板12上に形成される配線保護膜(絶縁膜)を突き破る可能性がある。つまり、金属製の防湿体80のバリとアレイ基板12上の金属配線とが電気的に短絡する危険が生じる。また、防湿体80の圧着時に変形したバリ83が元の形状に戻ろうとスプリングバックし、その結果、接着層40が破壊する可能性もある。このように、AL合金箔をハット状に加工する際に生じるバリ83が、接着層40側に生じている場合、電気的短絡と接着層破壊といった致命的な不良が発生してしまう可能性が高い。
【0058】
そこで、防湿体の作製段階で、バリ取りを行ってこれらの不良の発生を抑制する方法が考えられる。バリ取りの方法としては、潰す・削るといった機械的除去法と、化学研磨、電解研磨による除去方法がある。この場合、バリ取りによる工数増加というデメリットに加え、削りカスや研磨薬液によるALハットの汚染も懸念される。
【0059】
しかし、本実施形態によれば、AL合金箔をハット状に加工する際に発生するバリ53の方向を、接着層40と反対側になるように管理する。その結果、防湿体15の外縁には、接着層40およびアレイ基板12に対して逆側にバリが生じた構造となる。この構造では、バリ53と基板金属配線の電気的短絡は発生せず、また、バリ部のスプリングバックによる応力が接着層を剥がす方向には働かないため接着層破壊も発生しない。よって、バリ取り工程を増やす事なく、バリ53により発生しうる不良を回避することができる。
【0060】
以上のように、高い防湿性能を有するハット形状の金属箔あるいは金属板で形成された防湿体15の外縁に生じるバリ53の方向を接着層40と逆側になるように管理することで、バリ53が接着層40に対して逆側に形成された構造となる。このため、アレイ基板12の金属配線との電気的短絡や接着剤圧着後のバリ53のスプリングバックによる接着層破壊といった欠陥発生を防止することができる。その結果、電気的・強度的に安定した、信頼性の高い防湿構造を備えた放射線検出器11が得られる。
【0061】
また、防湿体15の材質はALやAL合金に限定されず、他の金属材料を用いた場合も同様である。ALあるいはAL合金箔材の場合には、金属材料としてはX線吸収係数が小さいため防湿体15内でのX線吸収ロスを抑える事ができる点でメリットが大きく、ハット状に加工する場合にも加工性に優れる。
【0062】
減圧雰囲気で防湿体15のアレイ基板12への接着を行うことは、飛行機輸送を想定した減圧下での機械的強度に優れた防湿構造を形成できる点でも有効である。減圧雰囲気下で封止した場合は、ALハットが外部大気圧で押されるため、接着層破壊のリスクは増大する。本実施形態によれば、バリのスプリングバックによる接着層破壊リスクをなくす事ができるため、減圧雰囲気下で封止した場合の、接着部信頼性向上にも繋がる。
【0063】
本実施形態において、防湿体15は、天板部51および斜面部52のプレス加工の後に、外形のせん断加工を行っているが、外形加工の後にプレス加工を行ってもよい。あるいは、たとえばロール材の両辺をそのまま外縁として用いる場合などには、外形のせん断加工をプレス加工の前および後に行うこととなってもよい。
【0064】
本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10…放射線検出装置、11…放射線検出器、12…アレイ基板、13…シンチレータ膜、14…反射膜、15…防湿体、16…ガラス基板、18…ゲートライン、19…データライン、20…画素、21…フォトダイオード、22…薄膜トランジスタ、26…端子群、27…蓄積キャパシタ、28…保護膜、30…回路基板、31…支持板、32…フレキシブル基板、33…積分アンプ、34…A/D変換器、35…行選択回路、36…画像合成回路、38…並列/直列変換器、39…ゲートドライバー、40…接着層、50…鍔部、51…天板部、52…斜面部、53…バリ、71…第1面、72…第2面、73…金属板、80…防湿体、83…バリ
図1
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図9