(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野において、血液凝固に要する時間(以下、「凝固時間」ともいう)を測定することにより、被験者の血液凝固因子の異常などを調べる検査が知られている。一般的な血液凝固能の臨床検査の一つに、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の測定がある。APTTとは、出血時に血液が陰性荷電を有する異物と接触することにより開始される内因系凝固経路の機能を反映する凝固時間である。APTTの測定は、内因系凝固因子の欠乏および異常のスクリーニング検査、ヘパリン療法のモニタリングなどに利用されている。
【0003】
APTTの測定には一般的な手法が確立されており、陰性荷電を有する活性化剤と、血小板第3因子の代替物であるリン脂質と、カルシウムイオンを供給するためのカルシウム塩とを用いてAPTTを測定する。その測定原理は、次のとおりである。まず、活性化剤により、血漿中の接触因子系が活性化される。ここにカルシウム塩を添加すると、活性化した接触因子系およびリン脂質の作用により凝固反応が促進されて、最終的に血漿中にフィブリンが析出する。APTTの測定では、フィブリンの析出をもって凝固とみなし、それまでの凝固時間が測定される。
【0004】
上記のAPTTの測定は、ループスアンチコアグラント(LA)の検出にも利用されている。LAは抗リン脂質抗体症候群の責任抗体の一種である。LAが被験者の血液中に存在する場合、LAが血液凝固に必要なリン脂質を阻害するので、凝固時間が延長することが知られている。この凝固時間の延長を、APTTの測定によって確認することで、血漿中のLAを検出することが可能となる。
【0005】
これまでに、上記のような凝固時間の測定を可能にする種々の試薬が販売されている。そのような試薬には、インビトロでの血液凝固を促進させるために上記の活性化剤が含まれている。活性化剤としては、エラグ酸、セライト、カオリンなどが知られているが、それらの中でもエラグ酸は、金属イオンとキレートを形成することで強力な活性化作用を示すので、凝固時間測定用試薬によく用いられている。
【0006】
しかしながら、エラグ酸は、凝固時間測定用試薬に通常用いられる水性媒体に溶解しにくいという性質を有するので、エラグ酸を含む試薬ではエラグ酸の沈殿が生じやすいという問題がある。エラグ酸の沈殿が生じると、凝固反応に使用されるエラグ酸が不足するので、凝固反応の進行が遅くなり、結果として凝固時間が延長してしまう。このような問題を解決するために、特許文献1には、フェノールを用いてエラグ酸を試薬中に可溶化させることが開示されている。現在、活性化剤としてエラグ酸を含む試薬に、沈殿防止剤としてフェノールを添加することが主流となっている。
【0007】
しかしながら、環境負荷物質であるフェノールの使用に対する規制が厳しくなっているので、微量であってもフェノールの使用を避けることが望まれている。
【0008】
また、特許文献2には、試薬の安定性を向上させるために、APTT測定用試薬に、アラニン、グリシン、およびバリンを含有させる技術が知られている。しかしながら、特許文献2には、エラグ酸の沈殿を抑制することについては全く考慮されていないので、特許文献2に開示される試薬では、エラグ酸の沈殿が発生するおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1]凝固時間測定用試薬
本発明の凝固時間測定用試薬(以下、単に「試薬」ともいう)は、活性化剤としてのエラグ酸、および、エラグ酸の沈殿防止剤としての、芳香環を有するアミノ酸を含む。
【0017】
本発明の試薬において活性化剤として用いられるエラグ酸は、当該技術において、内因系凝固経路に関与する接触因子系(プレカリクレイン、高分子キニノゲン、第XII因子および第XI因子)を活性化する作用を有することが知られている。
【0018】
本発明の実施形態において、エラグ酸は特に限定されず、天然由来もしくは合成されたエラグ酸またはその塩を用いることができる。エラグ酸の塩としては、例えばエラグ酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
エラグ酸は、金属イオンとキレートを形成することで強力な活性化作用を示す。したがって、本発明の試薬中において、エラグ酸は、Zn
2+、Mn
2+、Al
3+などの金属イオンとキレートを形成した状態にあることが好ましい。
【0019】
本願明細書において、「芳香環を有するアミノ酸」とは、芳香族に属する環を側鎖に有するアミノ酸をいう。そのような芳香環としては、例えばベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン芳香環および複素芳香環が挙げられる。アミノ酸中の芳香環の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。アミノ酸が複数の芳香環を有する場合、それらの芳香環は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、芳香環を有するアミノ酸はα-アミノ酸である。より好ましくは、芳香環を有するアミノ酸は、タンパク質中に見出される種類のアミノ酸およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。そのようなアミノ酸としては、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、および、それらの誘導体が挙げられる。上記した誘導体とは、上記したアミノ酸に含まれる芳香環における水素原子または水酸基が、適切な置換基により任意に置換された化合物である。なお、そのような置換基は、血液凝固反応およびエラグ酸の可溶化もしくは分散化を妨げない置換基であれば特に限定されない。芳香環を有するアミノ酸は、上記したアミノ酸の中でも、フェニルアラニンおよびチロシンが好ましく、フェニルアラニンが特に好ましい。なお、芳香環を有するアミノ酸は、L-体、D-体およびそれらの混合物のいずれであってもよい。また、芳香環を有するアミノ酸は、天然由来のアミノ酸であってもよいし、合成アミノ酸であってもよい。
【0021】
従来の凝固時間測定用試薬では、エラグ酸の沈殿防止剤としてフェノールを添加している。本発明の試薬においては、上記の芳香環を有するアミノ酸によってエラグ酸の沈殿を防止することができるので、試薬にフェノールは必要ではない。すなわち、本発明の実施形態において、凝固時間測定用試薬は、活性化剤としてのエラグ酸と、その沈殿防止剤としての、芳香環を有するアミノ酸とを含み、且つフェノールを含まない。
【0022】
本発明の試薬はリン脂質をさらに含むことが好ましい。そのようなリン脂質としては、血液凝固能の臨床検査に通常用いられるリン脂質から適宜選択できるが、例えばホスファチジルエタノールアミン(以下、「PE」ともいう)、ホスファチジルコリン(以下、「PC」ともいう)およびホスファチジルセリン(以下、「PS」ともいう)が挙げられる。本発明の実施形態において、凝固時間測定用試薬は、PE、PCおよびPSから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、リン脂質は、天然由来のリン脂質であってもよいし、合成リン脂質であってもよい。天然由来のリン脂質としては、例えばウサギ脳、ウシ脳、ヒト胎盤、大豆、卵黄などに由来するリン脂質が挙げられる。それらの中でも、ウサギ脳由来リン脂質および大豆由来リン脂質が好ましい。なお、リン脂質の脂肪酸側鎖は特に限定されず、例えばパルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸などが挙げられる。それらの中でも、オレイン酸が特に好ましい。
【0023】
本発明の試薬は、エラグ酸以外の公知の活性化剤をさらに含んでいてもよい。そのような活性化剤は、上記の接触因子系を活性化できる物質であれば特に限定されないが、例えばカオリン、セライト、コロイダルシリカ、無水ケイ酸などが挙げられる。
【0024】
本発明の試薬に用いられる水性媒体としては、血液凝固能の臨床検査に通常用いられる水性媒体から適宜選択できるが、例えば水および生理食塩水が挙げられる。また、本発明の試薬のpHとしては6〜8が好ましく、7〜7.6がより好ましい。本発明の実施形態において、試薬のpHは、凝固時間測定用試薬に通常用いられる緩衝剤を添加することにより調整できる。そのような緩衝剤としては、pH5〜9、好ましくはpH6〜8にて緩衝作用を有する緩衝剤を好適に用いることができ、例えばHEPES、Tris、MOPSなどが挙げられる。
【0025】
本発明の試薬は、その保存性および安定性を向上させるための添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物としては、凝固時間測定用試薬に通常用いられる添加剤であればよく、例えば防腐剤、抗酸化剤、安定化剤などが挙げられる。防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、公知の抗生物質などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えばブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられる。安定化剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の試薬は、活性化剤としてのエラグ酸を含むので、APTTの測定に好適に用いることができる。また、本発明の試薬をLA検出用試薬として用いることもできる。なお、本発明の試薬の使用方法は、従来の凝固時間測定用試薬と同様である。
【0027】
本発明の試薬は、エラグ酸の沈殿防止剤として、フェノールに替えて、芳香環を有するアミノ酸を用いること以外は従来の凝固時間測定用試薬の製造方法と同様にして製造することができる。本発明の試薬の製造方法の一例を挙げると、まず、適当な塩基を含む水性媒体にエラグ酸を溶解させて、エラグ酸の水性溶液を調製し、該水性溶液に芳香環を有するアミノ酸を添加する。そして、得られた混合物のpHを調整することにより、本発明の試薬を得ることができる。必要に応じて、得られた試薬に上記のリン脂質、添加物などをさらに加えてもよい。
【0028】
本発明の実施形態においては、試薬を1〜30℃の温度下で適切に保管していた場合、該試薬の製造日から少なくとも1ヶ月の間はエラグ酸の沈殿が発生しない。ここで、「エラグ酸の沈殿が発生しない」とは、エラグ酸の沈殿が目視によって確認されないことを示す。
【0029】
本発明の実施形態においては、一般的な凝固時間の測定条件下で、試薬をカルシウム塩の溶液とともに適切に使用した場合、従来の凝固時間測定用試薬と同程度の測定結果を得ることができる。より具体的には、本発明の凝固時間測定用試薬を用いて、所定の正常血漿(例えば、シスメックス株式会社製のコアグトロールIX)を検体として測定した場合、凝固時間が25〜35秒の範囲内となることが望ましい。また、所定の異常血漿(例えば、シスメックス株式会社製のコアグトロールIIX)を検体として測定した場合、凝固時間が60〜100秒の範囲内となることが望ましい。
【0030】
[2]凝固時間測定用試薬キット
本発明の凝固時間測定用試薬キット(以下、単に「試薬キット」ともいう)は、活性化剤としてのエラグ酸、および、エラグ酸の沈殿防止剤としての、芳香環を有するアミノ酸を含む第1試薬と、カルシウム塩を含む第2試薬とを含む。
【0031】
本発明の試薬キットは、本発明の試薬と同様、APTTの測定およびLAの検出に好適に用いることができる。また、本発明の試薬キットの使用方法は、従来の凝固時間測定用試薬キットと同様である。
【0032】
本発明の実施形態においては、第1試薬として、上記の本発明の試薬を好適に用いることができる。したがって、第1試薬に含まれる芳香環を有するアミノ酸、およびエラグ酸については、上記のとおりである。また、第1試薬は、上記のリン脂質をさらに含むことが好ましい。本発明の実施形態において、第1試薬は、上記の緩衝剤、活性化剤および添加物から選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0033】
なお、第1試薬中のエラグ酸の濃度は、凝固時間の測定条件などに応じて当業者が適宜設定できるが、通常0.01〜0.5 mMであり、0.05〜0.2 mMが好ましい。また、第1試薬中の芳香環を有するアミノ酸の濃度は、当該アミノ酸の種類および第1試薬に含まれるエラグ酸の濃度に応じて当業者が適宜設定できるが、通常0.001〜10 w/v%であり、0.01〜1.0 w/v%が好ましい。
【0034】
さらに、第1試薬中のリン脂質の濃度は、リン脂質の種類および凝固時間の測定条件などに応じて当業者が適宜設定できるが、通常30〜2000μg/mLであり、100〜600μg/mLが好ましい。この場合において、リン脂質がPE、PCおよびPSであるとき、第1試薬中のPE濃度は通常10〜700μg/mLであり、30〜300μg/mLが好ましい。PC濃度は通常20〜1000μg/mLであり、30〜500μg/mLが好ましい。PS濃度は通常3〜300μg/mLであり、5〜150μg/mLが好ましい。
【0035】
第2試薬に含まれるカルシウム塩は、血液凝固能の臨床検査に通常用いられるカルシウム塩であればよく、カルシウムと無機酸または有機酸との塩から選択できる。そのようなカルシウム塩としては、例えば塩化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、酒石酸カルシウムなどが挙げられ、それらの中でも塩化カルシウムが特に好ましい。第2試薬に含まれるカルシウム塩の濃度は、カルシウム塩の種類および凝固時間の測定条件などに応じて当業者が適宜設定できるが、通常15〜50 mMであり、好ましくは20〜30 mMである。カルシウム塩として塩化カルシウムを用いる場合、その濃度は15〜30 mMが好ましく、20〜25 mMがより好ましい。
【0036】
本発明の試薬キットは、凝固時間の測定に通常用いられる試薬などを、その他の試薬としてさらに含んでいてもよい。そのような試薬としては、例えば希釈用水性媒体、参照用血漿などが挙げられる。希釈用水性媒体としては、例えば、第1試薬を希釈するための生理食塩水および緩衝液が挙げられる。例えば、本発明の試薬キットでLAを検出する場合、そのような希釈用水性媒体で、リン脂質を含む第1試薬を希釈して、互いにリン脂質濃度の異なる2種類の第1試薬を調製して用いることが好ましい。
【0037】
上記の参照用血漿としては、例えば正常血漿、精度管理用血漿などが挙げられる。本発明の試薬キットでLAを検出する場合は、参照用血漿として、各種の凝固因子が欠乏した血漿およびLA陽性血漿をさらに含むことが好ましい。
【0038】
[3]凝固時間測定方法
本発明の凝固時間測定方法(以下、単に「測定方法」ともいう)は、血液試料と、活性化剤としてのエラグ酸、および、エラグ酸の沈殿防止剤としての、芳香環を有するアミノ酸を含む第1試薬とを混合する第1混合工程と、
第1混合工程で得られた試料と、カルシウム塩を含む第2試薬とを混合する第2混合工程と、
第2混合工程で得られた試料の凝固時間を測定する工程と
を含むことを特徴とする。
【0039】
血液試料としては、血液または該血液から得た血漿が用いられる。本発明の好ましい実施形態においては、血液試料として、被験者から採取した血液から得た血漿(以下、「被験血漿」ともいう)、上記の参照用血漿およびそれらの混合物が用いられる。なお、血液から血漿を得る方法は当該技術において公知である。例えば、血液を溶血させないように遠心分離して血球成分を除くことにより、血漿を得ることができる。また、被験者から採取した血液には、血液凝固能の臨床検査に通常用いられる公知の抗凝固剤が添加されていてもよい。そのような抗凝固剤としては、例えばクエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0040】
LAの検出を目的とする場合は、血液試料として、LAが存在する可能性のある被験血漿と正常血漿との混合物をさらに用いることが好ましい。被験者が凝固因子を欠損している場合、このような正常血漿との混合により凝固時間の延長が防止されて、検査の感度が向上する。なお、被験血漿と正常血漿との混合割合(体積比)は、通常8:2〜2:8であり、好ましくは5:5である。
【0041】
第1混合工程においては、上記の血液試料と第1試薬とを混合する。ここで、第1試薬としては、上記の本発明の試薬または試薬キットの第1試薬を好適に用いることができる。なお、LAの検出を目的とする場合は、リン脂質を含む第1試薬を希釈して、互いにリン脂質濃度の異なる2種類の第1試薬を調製して用いることが好ましい。
【0042】
第1混合工程における血液試料と第1試薬との混合割合(体積比)は、通常8:2〜2:8であり、好ましくは6:4〜4:6であり、より好ましくは5:5である。また、第1混合工程では、インキュベーションを行なうことが好ましい。インキュベーション時間は、通常1〜10分間であり、好ましくは3〜5分である。温度条件は、通常25〜45℃であり、好ましくは35〜38℃である。
【0043】
第2混合工程においては、上記の第1混合工程で得られた試料と第2試薬とを混合する。ここで、第2試薬としては、上記の本発明の試薬キットの第2試薬を好適に用いることができる。該試料と第2試薬との混合割合(体積比)は、通常8:2〜5:5であり、好ましくは7:3〜6:4であり、より好ましくは2:1である。また、温度条件は、第1混合工程と同様である。
【0044】
凝固時間を測定する工程では、上記の第2混合工程で得られた試料の凝固時間を測定する。凝固時間の測定装置としては、一般的なAPTT測定で用いられる公知の装置であれば特に限定されない。例えば、上記試料から得られる光学的情報を測定する装置により凝固時間を測定することができる。そのような光学的情報としては、透過光の変化、散乱光の変化などが挙げられる。また、測定装置としては、光学的情報検出部を備える市販の血液凝固測定装置を好適に用いることができ、例えば、シスメックス社製のCS−2000iおよびCS−2100iが挙げられる。
【0045】
LAの検出を目的とする場合は、被験血漿および正常血漿のそれぞれについて、リン脂質を含む第1試薬およびこれを希釈した試薬と、第2試薬とを用いることが好ましい。また、LAの検出は、上記の2種類の第1試薬を用いて被験血漿から得た凝固時間に基づいて得られる値と、後述する閾値とを比較し、比較結果に基づいて行われることが好ましい。
【0046】
上記の閾値としては、例えばループス比(以下、「LR値」ともいう)およびロスナーインデックスのような、正常血漿の凝固時間に対する被験血漿の凝固時間の比に基づいて判定を行うことがより好ましい。
ここで、LR値とは、以下の式(I)により算出される値である。
式(I):LR値 =(b/a)/(d/c)=bc/ad
(式(I)中、a、b、cおよびdは、それぞれ次の測定値を表す。a:被験血漿と第1試薬とを用いて得たAPTT、b:被験血漿と希釈した第1試薬とを用いて得たAPTT、c:正常血漿と第1試薬とを用いて得たAPTT、d:正常血漿と希釈した第1試薬とを用いて得たAPTT)
【0047】
正常血漿の場合、LR値は1程度である。また、血液凝固因子欠損患者、ワーファリン投与患者またはヘパリン投与患者から得た血漿の場合、正常血漿と比べて凝固時間は延長されるものの、結果としてLR値は1程度となる。これに対して、LA陽性患者から得た血漿の場合、LR値は1より大きい。したがって、被験血漿と正常血漿とのLR値の比較結果より、被験血漿中のLAを検出できる。
【0048】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
実施例1: 芳香環を有するアミノ酸の添加によるエラグ酸の沈殿の防止効果の検討
(1-1)凝固時間測定用試薬の調製
APTTの測定原理に基づく各種の凝固時間測定試薬を、以下のとおり調製した。以下、「%」は「w/v%」を示す。
<試薬A>
試薬Aとして、活性化剤としてのエラグ酸を含むが、フェノールおよび芳香環を有するアミノ酸を含まない試薬を調製した。試薬Aは、50 mM HEPES(分子量:238.30、株式会社同仁化学研究所)、25 mM Tris(分子量:121.14、ナカライテスク株式会社)、1%グリシン(分子量:75.07、ナカライテスク株式会社)、0.05% ポリビニルピロリドンK-30(分子量: 約40,000、キシダ化学株式会社)および1% ポリエチレングリコール6000(分子量:約9,000、ナカライテスク株式会社)の組成の溶液に、活性化剤として0.1 mMエラグ酸(分子量:338.22、東京化成工業株式会社)と、リン脂質として140μg/mLホスファチジルエタノールアミン(分子量:744.04、Avanti Polar Lipids, Inc.)、160μg/mLホスファチジルコリン(分子量:786.15、Avanti Polar Lipids, Inc.)および20μg/mLホスファチジルセリン(分子量:810.03、Avanti Polar Lipids, Inc.)と、抗酸化剤として3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール(分子量:180.25、ナカライテスク株式会社)とを含有させた試薬である。
【0050】
<試薬B>
試薬Bとして、エラグ酸およびその沈殿防止剤としてのフェノールを含む従来の試薬を調製した。試薬Bは、上記の試薬Aに0.35% フェノール(分子量:94.11、キシダ化学株式会社)を含有させた試薬である。
【0051】
<試薬C>
試薬Cとして、エラグ酸および芳香環を有するアミノ酸(フェニルアラニン)を含むが、フェノールを含まない試薬を調製した。試薬Cは、上記の試薬Aに0.1 % フェニルアラニン(分子量:165.19、SIGMA-ALDRICH)を含有させた試薬である。
<試薬D>
試薬Dとして、エラグ酸および芳香環を有するアミノ酸(チロシン)を含むが、フェノールを含まない試薬を調製した。試薬Dは、上記の試薬Aに0.01 % チロシン(分子量:181.19、キシダ化学株式会社)を含有させた試薬である。
【0052】
なお、上記の試薬A〜DのpHはいずれも7.4に調整された。また、これらの試薬には、ZnCl
2およびAlCl
3が添加されており、金属イオンとキレートを形成した状態のエラグ酸が含まれている。
【0053】
(1-2)エラグ酸の沈殿の確認
上記(1)で調製した試薬A〜Dを4℃または室温にて1ヶ月間静置した後、各試薬におけるエラグ酸の沈殿の有無を目視により確認した。結果を以下の表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、フェノール、および、芳香環を有するアミノ酸のいずれも含まない試薬Aでは、エラグ酸の凝集による沈殿が発生していたが、従来品と同様にフェノールを含む試薬Bでは沈殿は確認されなかった。また、芳香環を有するアミノ酸を含む試薬Cおよび試薬Dでも沈殿が生じないことが確認された。このことから、エラグ酸の沈殿防止剤として、フェノールに替えて芳香環を有するアミノ酸を試薬に添加することで、エラグ酸の沈殿を防止できることが示された。
【0056】
実施例2: 芳香環を有するアミノ酸の添加によるAPTTの測定能への影響の検討
(2-1)被験血漿
正常血漿としてコアグトロールIX(シスメックス株式会社)、異常血漿としてコアグトロールIIX (シスメックス株式会社)を用いた。
【0057】
(2-2)第1試薬および第2試薬
第1試薬として、実施例1で調製した試薬A〜Dを用いた。また、第2試薬として、25 mM塩化カルシウム溶液を用いた。
【0058】
(2-3)凝固時間の測定
上記の2種の血漿(各50μL)を37℃で1分間加温した後、それぞれ第1試薬(50μL)と混合して3分間さらに加温した。その後、血漿と第1試薬の混合物と、第2試薬(50μL)とを混合して、凝固時間を測定した。凝固時間の測定には、全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(シスメックス株式会社製)を用いて行った。なお、測定は、正常血漿および異常血漿ともに2回ずつ行った。測定結果(平均値)を以下の表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2より、エラグ酸の沈殿防止剤として芳香環を有するアミノ酸を含む試薬Cおよび試薬Dによる凝固時間は、正常血漿および異常血漿のいずれの検体でも規格内であった。これらの結果は、フェノールを含む試薬Bによる凝固時間と同程度であった。したがって、本発明の試薬は、従来の凝固時間用試薬と同程度の測定能を有していることが示された。