(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5911350
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】排ガス浄化方法および装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/86 20060101AFI20160414BHJP
B01D 53/90 20060101ALI20160414BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20160414BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20160414BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20160414BHJP
F23J 15/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
B01D53/86 222
B01D53/90
F01N3/08 GZAB
F01N3/10 A
B01J23/30 A
F23J15/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-78116(P2012-78116)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-202600(P2013-202600A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 弘樹
【審査官】
松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−162487(JP,A)
【文献】
特開2001−193443(JP,A)
【文献】
特開2010−261331(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0050614(US,A1)
【文献】
特開昭56−141837(JP,A)
【文献】
特開平08−215544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86−53/90
53/94,53/96
B01J 21/00−38/74
F01N 3/00,3/02
3/04− 3/38
9/00−11/00
F23J 13/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素を還元剤として燃焼排ガス中に供給して、脱硝触媒の存在下に排ガス中の窒素酸化物を接触還元する排ガス浄化方法であって、
排ガス温度が150〜250℃の範囲にある場合において、排ガス温度が一定である場合の尿素供給量を基準として、排ガス温度の時間微分値が大きいほど、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さいほど、尿素供給量を増加させるように尿素供給量を制御する排ガス浄化方法。
【請求項2】
尿素を還元剤として燃焼排ガス中に供給して、脱硝触媒の存在下に排ガス中の窒素酸化物を接触還元する排ガス浄化装置であって、
排ガス温度の検知手段および排ガス中に尿素水を添加する尿素水供給装置を備え、
排ガス温度が150〜250℃の範囲にある場合において、排ガス温度の時間微分値を計算し、この値に応じて、排ガス温度が一定である場合の尿素供給量を基準として、排ガス温度の時間微分値が大きいほど、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さいほど、尿素供給量を増加させるように尿素供給量を求める演算手段を備え、
前記尿素水供給装置が、前記演算手段により求められた尿素供給量の尿素水を排ガス中に添加するように構成されている排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記脱硝触媒が、酸化チタン担体にバナジウムおよびタングステンを担持してなるものである請求項2に記載の排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素を還元剤として燃焼排ガス中に供給して、脱硝触媒の存在下に排ガス中の窒素酸化物を接触還元する排ガス浄化方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)は、人間の健康および環境を損なう恐れがあることから、極力低減することが求められている。燃焼排ガス中の窒素酸化物の除去方法として、排ガスにアンモニアを添加し、酸化チタン担体にバナジウムを担持した触媒に通じて、窒素酸化物とアンモニアとを反応させて窒素として無害化する方法が知られている(特許文献1)。この方法は、アンモニアを還元剤とする選択接触還元法(アンモニア脱硝法)として、火力発電所や都市ゴミ焼却場などで幅広く用いられている。
【0003】
アンモニアは臭気が強く、有害性もあることから、大量に漏洩した場合には災害につながる恐れがある。そこで、小規模の施設にも適用できる、より安全な還元剤が求められ、水溶液の状態では安定であり、高温の排ガス中では速やかに分解してアンモニアを生成する尿素を還元剤とする尿素脱硝法が開発された(非特許文献1)。これにより、コージェネレーションなどの分散型発電装置でもアンモニアを還元剤とする選択接触還元法が普及しつつある。
【0004】
尿素は、式1の加水分解反応により、尿素1分子から2分子のアンモニアと1分子の二酸化炭素を生成する。しかし実用的に許される時間内で尿素が完全に分解するには、気相では400℃以上の温度が必要である(非特許文献1、2)。触媒上ではこれよりも低い温度で分解することも知られているが、低温ではその速度は非常に遅くなって実用的な脱硝性能が得られないことから、200℃以下では尿素水の噴霧を停止して、脱硝を行わないようにしているのが現実である(特許文献2)。
【0005】
(NH
2)
2CO+H
2O→2NH
3+CO
2(式1)
【0006】
一般に内燃機関の排ガスでは、排ガス温度が200℃以下となることは少ないのに対し、工業炉などでは、運転条件によっては排ガス温度が低くなる場合がある。近年は、産業分野の省エネルギーと炭酸ガス排出削減の観点から工業炉の排熱回収は極限まで進んでおり、排ガス温度が200℃以下となる場合もある。このような低温の排ガスに尿素脱硝法を適用するための方策は確立されていないのが実情である。
【0007】
還元剤としてアンモニアを用いる場合において、起動時に適正な脱硝効果を得るために、脱硝装置に流入する排ガスの温度を測定する温度センサと、前記温度センサによる測定温度が、前記脱硝装置が所定の脱硝性能を発揮するのに必要な温度である性能温度以上になると前記脱硝装置を起動する処理手段とを備えた脱硝装置の制御装置は知られている(特許文献2)。しかし、この文献は、200℃以下の温度領域で尿素を還元剤として脱硝を行う際の上述の問題点に対する対策を、何ら教示するものとはなっていない。
【0008】
アンモニアが脱硝触媒上に吸着することを踏まえて、排ガス量や温度の変動に応じて、触媒上の吸着アンモニアまで考慮して還元剤の供給量を制御する方法についても、いくつか提案されている(特許文献3〜6)。しかし、これらも触媒上の吸着アンモニア量が、低温ほど大きくなるという知見に基づくのみで、200℃以下の温度領域で尿素を還元剤として脱硝を行う際の上述の問題点や対策については、何ら教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−51966号公報
【特許文献2】特開2009−119306公報
【特許文献3】特開平9−75665号公報
【特許文献4】特開2002−177741号公報
【特許文献5】特開2002−186833号公報
【特許文献6】特開2003−10645号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】舘隆広・加藤明・山下寿生、日本化学会誌、8号812ページ(1992)
【非特許文献2】O.Kroecher、studies in surface science and catalysis、171巻 261ページ(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、従来は、実質的に200℃以下の低温において尿素を還元剤として窒素酸化物の接触還元を行う方法は確立していない。
発明者は、実験的および理論的検討を進めたところ、200℃以下の低温でも、触媒上に吸着した尿素は徐々に分解するため、尿素水を用いて窒素酸化物を接触的に還元できることを見出した。ただし、その分解速度がきわめて遅く、かつ分解速度の温度依存性が大きいために、温度が変動する条件では、リークアンモニアが増大したり、脱硝率が著しく低下したりする問題がある。
【0012】
すなわち、従来の排ガス浄化方法は、尿素の反応性が高い高温域の排ガスに適用した場合に有効に働くと考えられるが、尿素の反応性が低い低温域の排ガスに尿素を添加しても、直ちには有効な脱硝効率が得られず、しかも、排ガスの温度が上昇すると、アンモニアが未反応のまま放出されることがあるという問題点があった。
【0013】
そこで、本発明は、たとえば200℃以下の低温においても、尿素を還元剤として窒素酸化物の接触還元を行う際に、排ガス温度や排ガス流量などの運転条件が変動する場合でも、十分な脱硝率を得るとともに、未反応のまま放出されるアンモニア(リークアンモニア)を極力低減することのできる排ガスの浄化方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが上述の問題点について解析を進めたところ、次のような状況があきらかになった。
【0015】
排ガス温度(あるいは触媒の表面温度)が一定であれば、触媒上に一定の尿素が堆積していき、その分解による減少量と供給量が均衡する尿素堆積量に達した時点で脱硝率は一定となる。
ここで、排ガスの温度が低い場合、尿素の分解速度が減少するため、還元剤となるアンモニアの生成量が不足して、脱硝率が低下する。
この状態が維持されると、時間の経過とともに、低下後の温度において分解による減少量と供給量が均衡する量まで尿素堆積量が増加する。
【0016】
このことから、排ガス温度が低下しても、触媒上における尿素の堆積により、やがて脱硝率は回復するものの、尿素の堆積を待つ期間は、脱硝率が低下して、尿素を添加しても直ちには充分な脱硝が行えないことになる。
【0017】
一方、触媒上における尿素の堆積量が増加した状態から排ガス温度が上昇した場合には、尿素分解速度が急激に増しはじめ、触媒に堆積した尿素が急激に分解を開始して、窒素酸化物との反応に必要な量以上のアンモニアが生成することになる。
【0018】
すなわち、このようにして生成したアンモニアは、脱硝反応に寄与しないため排ガス温度の上昇がリークアンモニアの発生につながっていたのである。
【0019】
具体的な実例で説明すると、市販のアンモニア脱硝触媒(TiO
2担体に活性成分として酸化バナジウムおよび酸化タングステンが担持されている)を用いた場合の、尿素の分解速度は
図1の通りであつた。250℃では、2分以内に尿素は分解するが、200℃では11分、170℃では45分程度を要することになる。すなわち、170℃および200℃においては、それぞれ45分間および11分間の尿素供給量に相当する尿素が堆積して、脱硝率が平衡に達することになる。したがって、排ガス温度が170℃から200℃に数分間で上昇した場合には、大量のアンモニアがリークする。一方、排ガス温度が200℃から170℃に数分間で下降した場合には、数10分間は脱硝率が低下した状態が継続することになる。
【0020】
〔構成1〕
以上の知見に基づいて完成された前記目的を達成するための本発明の排ガス浄化方法の特徴構成は、
尿素を還元剤として燃焼排ガス中に供給して、脱硝触媒の存在下に排ガス中の窒素酸化物を接触還元する排ガス浄化方法であって、
排ガス温度が150〜250℃の範囲にある場合において、排ガス温度が一定である場合の尿素供給量を基準として、排ガス温度の時間微分値が大きいほど、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さいほど、尿素供給量を増加させるように尿素供給量を制御する点にある。
【0021】
〔作用効果1〕
この発明によれば、排ガス温度が150〜250℃の低温領域であるから尿素が堆積されやすい状況にある。この状況から排ガス温度の時間微分値が大きくなると、排ガス温度が上昇傾向になっていることになるから、触媒上に堆積していた尿素が急激に分解し始めアンモニアの生成量が増加し始める。このタイミングで尿素供給量を減少させれば、触媒上に堆積した尿素から発生するアンモニアの増加分と添加される尿素から発生するアンモニアの減少分を相殺することができ、排ガス温度上昇に伴う尿素分解速度の増加によるリークアンモニアの増加を抑制できる。
【0022】
また、逆に、排ガス温度の時間微分値が小さくなると、排ガス温度が下降傾向になっていることになるから、尿素の分解速度が低下して、触媒上に尿素が堆積し始め、アンモニアの生成量が減少することになる。このタイミングにおける尿素供給量を増加すれば、添加される尿素からのアンモニア生成量の増加によって、分解速度の低下に伴うアンモニア生成量の減少を補うことができ、脱硝率の低下を抑制することができるようになる。
【0023】
なお、排ガス温度の時間微分値が大きいほど、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さいほど、尿素供給量を増加させることとする場合、排ガス温度の時間微分値に対して尿素供給量を一次関係式にしたがって直線的に増加、減少させてもよいし、二次以上の曲線的に変化させるようにしてもよい。また、段階的に変動させてもよい。また、温度領域や、時間微分値の正負、絶対値等に応じて関係式を異ならせてもよい。
【0024】
〔構成2〕
また、本発明の排ガス浄化装置の特徴構成は、
尿素を還元剤として燃焼排ガス中に供給して、脱硝触媒の存在下に排ガス中の窒素酸化物を接触還元する排ガス浄化装置であって、
排ガス温度の検知手段および排ガス中に尿素水を添加する尿素水供給装置を備え、
排ガス温度が150〜250℃の範囲にある場合において、排ガス温度の時間微分値を計算し、この値に応じて、排ガス温度が一定である場合の尿素供給量を基準として、排ガス温度の時間微分値が大きい場合には、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さい場合には、尿素供給量を増加させる
ように尿素供給量を求める演算手段を備え
、
前記尿素水供給装置が、前記演算手段により求められた尿素供給量の尿素水を排ガス中に添加するように構成されている点にある。
【0025】
〔作用効果2〕
上記排ガス浄化装置は、排ガス温度の検知手段および排ガス中に尿素水を添加する尿素水供給装置を備えるから排ガス温度に基づき尿素水の供給量を設定することができる。
【0026】
この際、排ガス温度が150〜250℃の範囲にある場合において、排ガス温度の時間微分値を計算し、この値に応じて、排ガス温度が一定である場合の尿素供給量を基準として、排ガス温度の時間微分値が大きい場合には、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さい場合には、尿素供給量を増加させるように前記尿素水の供給量を設定することにより、上記排ガス浄化方法を実行することができ、前記供給量を演算手段によって求めて制御することで、燃焼排ガスの温度の変化に追従して上記排ガス浄化方法を行うことができる。
【0027】
〔構成3〕
なお、前記脱硝触媒が、酸化チタン担体にバナジウムおよびタングステンを担持してなる脱硝触媒であってもよい。
【0028】
〔作用効果3〕
上記脱硝触媒は、尿素を還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元する能力が高く、上記排ガス浄化方法によって高い脱硝効率を発揮させやすい。
【発明の効果】
【0029】
したがって、低温領域の排ガスであっても、尿素を還元剤として窒素酸化物の接触還元を行う際に、排ガス温度や排ガス流量などの運転条件が変動する場合に、十分な脱硝率を得るとともに、リークアンモニアを低減することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図4】
図3における排ガス温度変化に対する尿素水供給量無制御での脱硝率変化を示すグラフ
【
図5】
図3における排ガス温度変化に対する尿素水供給量制御形態を示すグラフ
【
図6】
図3における排ガス温度変化に対する
図5の尿素水供給量制御を行った場合の脱硝率変化を示すグラフ
【
図8】排ガス温度変化に対する尿素水供給量制御による脱硝率変化を示すグラフ、破線は無制御での脱硝率変化を示し、実線は
図5の制御を行った場合の脱硝率変化を示す
【
図9】排ガス温度変化に対する尿素水供給量無制御での脱硝率変化を示すグラフ
【
図10】排ガス温度変化に対する尿素水供給量制御を行った場合の脱硝率変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の排ガス浄化方法および装置を説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0032】
〔排ガス浄化装置〕
排ガス浄化装置は、
図2に示すように、燃焼装置1からの排ガスを排出するための排ガス路2に設けられ、前記排ガス路2に流通する排ガスに尿素水を供給する尿素水供給装置3と、前記尿素水に含まれる尿素の分解反応によって生じたアンモニアを前記排ガス中に含まれる窒素酸化物と反応させ無害化するための脱硝触媒4を備えるとともに、前記脱硝触媒4に供給される排ガスの温度を検知する検知手段としての温度センサ5と、前記温度センサ5からの出力に基づき排ガス温度の時間微分値を計算し、この値に応じて、排ガス温度が一定である場合の尿素供給量を基準として、排ガス温度の時間微分値が大きいほど、尿素供給量を減少させ、排ガス温度の時間微分値が小さいほど、尿素供給量を増加させる尿素供給量を求める演算手段61を備えるとともに、求められた尿素供給量に基づいて尿素水の供給量を制御する制御装置6を備える。
【0033】
〔燃焼装置〕
本発明が対象とする燃焼排ガスは、燃料の種類や燃焼装置1の種類を問わないが、天然ガスや液化石油ガスなどの気体燃料を燃料とする燃焼装置1の排ガスであることが好ましい。これは、250℃以下の低温域における脱硝反応を行う際に、排ガス中のSOx濃度が高いと酸性硫安(NH
4HSO
4)の析出による触媒の閉塞が発生する可能性があるためであり、この点で気体燃料は燃料中のS分が少なく懸念が少ないためである。
燃焼排ガス中のSOx濃度は、3ppm以下である必要があり、好ましくは1ppm以下である。
燃焼排ガス中の酸素濃度は、あまりに低いと脱硝反応の進行が遅くなることから、体積基準で1%以上であることが好ましく、通常は2〜15%の範囲である。
【0034】
〔脱硝触媒〕
本発明で用いる脱硝触媒4は、好適には、酸化チタン担体にバナジウムおよびタングステンを活性金属として担持してなる脱硝触媒を用いる。なお、担体や活性金属、さらに付加的に添加される添加成分については、種々公知のものを適用することができる。触媒の形状は、ペレットやハニカムなどその形状を問わないが、圧力損失を低減する上では、ハニカム形状が好ましい。このような脱硝触媒4としては、市販のアンモニア脱硝用の触媒を用いることができる。
【0035】
〔尿素水供給装置〕
尿素水供給装置3は、尿素水を貯留する尿素水タンク31を備えるとともに、前記排ガス路2に尿素水を噴霧する噴霧部32を備え、前記尿素水タンク31から前記噴霧部32に尿素水を供給する供給路33に供給弁34を設けるとともに、前記供給弁34を制御装置6からの制御信号に基づき開度調整制御可能に構成してある。
【0036】
還元剤として用いる尿素は、尿素水の形で脱硝触媒4よりも上流側の排ガスの流路に供給される。尿素水中の尿素濃度は、高すぎると固化して流路を閉塞する恐れがあり、低すぎると必要量が多くなって経済性が低下するので、質量基準で10〜40%程度とするのが好ましい。
基準となる尿素の供給量(排ガス温度の変動がない場合の供給量)A(モル/秒)は、排ガス流量および排ガス中の窒素酸化物濃度から求められる単位時間あたりの窒素酸化物流量B(モル/秒)に対して、30〜45%の値とする。この値を大きくするほど、脱硝率は向上するが、アンモニアのリーク量が増大する懸念がある。
【0037】
〔検知手段〕
排ガス温度の測定は、排ガス流路に挿入した熱電対などの温度センサ5に行うことができる。温度センサ5は、できるだけ脱硝触媒4に近接して設けるのが好ましく、脱硝触媒4の中に挿入してもよいが、脱硝触媒4の層の直前または直後に設けてもよい。
【0038】
〔制御装置〕
前記制御装置6は、温度センサ5の出力を受け取りその経時変化から排ガス温度の時間微分値を算出するとともに、あらかじめ記憶している排ガス温度の時間微分値と尿素水供給量との関係式から尿素水供給量を求める演算手段61を備え、求められた尿素水供給量に基づき前記供給弁34の開度を調整する制御を行う構成となっている。
【0039】
以下に前記尿素水供給量の変更制御による脱硝率の変動抑制効果について説明する。
【0040】
〔尿素水供給量の制御〕
なお、以下の例では、脱硝触媒4の量は、脱硝反応を完結させるに足る十分な量が存在するものとして、尿素分解により生じたアンモニアの量に応じて定量的に窒素酸化物が低減されるとともに、窒素酸化物の量より多い過剰のアンモニアはリークアンモニアとして放出されるものとし、尿素の分解速度は
図1に従うものとする。
【0041】
排ガス中に含まれる窒素酸化物流量Bに対する尿素供給量Aの割合を35%とすると、定常状態における脱硝率は70%となる。ここで、排ガス流量および排ガス中の窒素酸化物濃度は一定でも、排ガス温度が
図3に示すように変動した場合、脱硝率は
図4に示すように大きく変動する。これは、排ガス温度が下降する過程では、触媒上に蓄積した尿素の分解速度が遅くなることから、アンモニアの生成量が減少すること、および、排ガス温度が上昇する過程では、触媒上に蓄積した尿素の分解速度が速まることから、アンモニアの生成量が増大することによる。
【0042】
これに対して、排ガス温度の変動に応じて、尿素供給量を
図5に示す通り変化させる場合について考える。
図5の実線は温度変化の時間微分値に対する尿素供給量を示し、通常は、全範囲にわたって、一定の尿素供給量(0.35:排ガス温度が一定である場合(温度変化の時間微分値が0の場合)に脱硝率として70%を達成する値)を維持するところ、尿素供給量を、温度変化の時間微分値が小さいほど多く、大きいほど少なくなるように供給する制御を行う場合を想定する。即ち、排ガス温度が毎分2℃の速度で低下する場合は、排ガス中の窒素酸化物流量に対する尿素供給量の割合(モル比)を52%とし、排ガス温度が毎分2℃の速度で上昇する場合は、排ガス中の窒素酸化物流量に対する尿素供給量の割合(モル比)を18%などとする。
【0043】
なお、尿素供給量の変化率は、小さく変化させるほど(
図5における傾きが小さいほど)、排ガス温度低下時の脱硝率の低下抑制効果が不十分になりやすく、かつ、排ガス温度の上昇時にリークアンモニアの抑制効果が不十分になりやすい。逆に、大きく変化させるほど(
図5における傾きが大きいほど)、排ガス温度低下時の脱硝率の低下を抑制することになるが、大きくし過ぎると、触媒上における尿素吸着量が急増するとともに、排ガス温度の復帰時に、アンモニア発生量が急増するのでリークアンモニアの問題が生起しやすくなる。そのため、尿素供給量の変化率は、尿素供給量の変化率が負の場合に脱硝率の低下抑制に充分な変化量を確保するとともに、尿素供給量の変化率が正の場合に、リークアンモニアの発生しにくい変化量を設定することが望ましい。
【0044】
なお、
図5は一例を示したまでで、排ガス温度に応じて、その傾き(排ガス温度の時間微分値に対する尿素供給量の変動幅)を変えてもよく、その場合は、排ガス温度が高くなるほど傾きを小さくするのが適当である。
【0045】
図5に示す温度変化の時間微分値に対する尿素供給量の変化を行った場合、脱硝率の変化は
図6の通りとなる。この結果より、無制御の場合(
図4)、脱硝率が40%よりも低下する場合があるのに対して、脱硝率が低下してもほとんど40%を下回らず、排ガス温度低下時においても充分な脱硝率を維持できていることがわかる。また、排ガス温度の復帰時にもリークアンモニア(グラフの40分時点における脱硝率100%超分がリークアンモニアに相当する)がほとんど発生していない。これらから、本発明の制御方法によると、排ガス性状を良好に維持できていることがわかった。
【0046】
排ガス温度がさらに複雑な変化をする場合でも、本発明の方法は有効である。排ガス温度が
図7に示す通りに変化した場合に、尿素供給量を一定で制御した場合と、本発明の方法にしたがって
図5の通り変化させた場合の脱硝率の変化を
図8に示す。尿素供給量を一定に維持した場合(図中破線)、排ガス温度の上昇時には、リークアンモニア濃度が大きくなり、最大で排ガス中の窒素酸化物濃度の50%にも達する。また排ガス温度の下降時には、脱硝率が低下して、最も低いところでは27%となった。これに対し、本発明の方法にしたがって尿素供給量を制御した場合(図中実線)、リークアンモニア濃度は、最大で排ガス中の窒素酸化物濃度の3%にとどまり、脱硝率も38%を下回ることはなかった。このことから、本発明の制御方法によると、排ガス温度が不安定な場合であっても十分に対応可能であることがわかった。
【0047】
以下に具体的な実験例により本発明の効果を示す。
【0048】
比較例
都市ガス燃料の燃焼炉の排ガス(流量:135Nm
3/h、NOx濃度120ppm、酸素濃度8%)に20%尿素水を1.6g/分の流量で添加し、チタニア担体にバナジウムおよびタングステンを担持した脱硝触媒(堺化学工業製SCN.207)45リットルに通じた。
【0049】
触媒入口で測定した排ガス温度は、当初200℃であった(0〜8分)が、約20分かけて170℃まで低下(8〜28分)し、その後約20分間170℃付近を維持(28〜48分)した後、約20分かけて200℃まで復帰(48〜68分)した。このときの排ガス温度と触媒出口のNOx濃度の推移を
図9に示す。当初は10ppm強であったNOx濃度は徐々に上昇し、排ガス温度が170℃の間は、多少の変動は見られたものの約40ppm(脱硝率67%程度)で推移した。排ガス温度が上昇に転じるとNOx濃度は急速に低下した。
【0050】
実施例
20%尿素水の流量を温度降下中は2.4g/分、温度上昇中は0.8g/分とした他は比較例と同様に1.6g/分の尿素水を添加して触媒出口側のNOx濃度を測定した。具体的には、排ガス温度が安定して200℃であった初期には、1.6g/分の尿素水を添加、ついで、排ガス温度が徐々に170℃まで低下する8分〜28分には2.4g/分、排ガス温度が170℃で安定している28分から48分までの間は、1.6g/分、その後、排ガス温度が上昇して200℃に復帰するまでの48分から68分までの間は、0.8g/分で尿素水を添加する制御を行った。結果を
図10に示す。比較例の場合とは異なり、NOx濃度はピークでも30ppm(脱硝率75%程度)にとどまり、脱硝効率が高く維持されていることがわかった。また、この際リークアンモニアは検出されず、本発明の方法にしたがって尿素供給量を制御することで、脱硝率を安定に維持できる効果が得られることがあきらかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の排ガス浄化方法は、たとえば、ガスエンジン、ボイラ等の排ガス中に含まれる窒素酸化物を低減するための排ガス浄化装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 :燃焼装置
2 :排ガス路
3 :尿素水供給装置
31 :尿素水タンク
32 :噴霧部
33 :供給路
34 :供給弁
4 :脱硝触媒
5 :温度センサ
6 :制御装置
61 :演算手段