(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、別紙図面を参照しつつ非限定的且つ非排他的な構成に関し説明する。図中、同様の又は掃除的な部材には諸図を通じ同様の参照符号を付してある。
【0027】
これから例示する環境はグルコース濃度観察用センサやインシュリン投与システムを備える環境であり、血中グルコース濃度を反映する計測結果に基づき閉ループ式注入システムが身体への注液速度を調節する構成を採っている。その具体例は、電流センサ等の血中グルコースセンサから得られる信号等、患者身体からグルコース濃度を計測した結果に全面的又は部分的に基づき、インシュリンやグルカゴンの体内への注入速度を調節する構成である。そうしたシステムは、例えば膵臓のβ細胞をモデルにして構築することができる。体内における血中グルコース濃度の変化に応答させうるのであれば、この種のシステムで注入装置を制御し、万全に機能するヒトβ細胞で生じるであろう濃度プロファイルと同様の又はそれを近似する濃度ファイルにて、患者の体内にインシュリンを解き放つことができよう。即ち、その閉ループ式注入システムによって、血中グルコース濃度に対する身体の自然なインシュリン応答を模すことができよう。更に、インシュリンには代謝効果及び細胞分裂誘起効果があるため、インシュリン使用の効率化だけでなく他の身体機能の
向上にも役立ちうる。
【0028】
本発明の実施形態のなかには、こうした閉ループ式注入システムが病院環境内に設置され、患者体内におけるグルコース濃度やインシュリン濃度等の観察・制御に使用される形態がある。その場合、病院内手順又は医療施設内手順の一環として、介護者、付添人等が閉ループ式注入システムとのやりとりに関わること、例えば血中グルコースセンサから得られた血中グルコース濃度計測値のキャリブレーションに使用す
る血中グルコース濃度基準計測サンプルを制御装置に入力する作業、装置にマニュアル調節を施す作業、療法に変更を加える作業等をはじめとする諸作業を受け持たされることがある。本発明の実施形態のなかには、また、本明細書で説明する閉ループ式注入システムが非病院環境内に設置され、患者体内におけるグルコース濃度やインシュリン濃度の観察や制御に使用される形態もある。その場合、その閉ループ式注入システムとのやりとりは患者をはじめとする非医療従事者が受け持つことになる。
【0029】
とはいえ、閉ループグルコース制御システムが稼働するので、医療従事者、非医療従事者、患者等による手落ちはさほど多くならない。これは、閉ループグルコース制御システムが高血糖症患者の健康ひいては生存に関し責任の一端を負う、ということである。患者の血中グルコース濃度をより正確に制御するため、閉ループ式注入システムには、現在の血中グルコース濃度に関する情報が供給される。そうした情報を供給可能にする手法としては、血中グルコースセンサを設ける手法、例えば閉ループ式注入システム内にグルコースセンサを1個又は複数個設ける手法がある。
【0030】
閉ループ式注入システムは、その又はそれらのグルコースセンサからグルコースセンサ信号、即ち現時点又はそれに近い時点での血中グルコース濃度を正確に表しているはずの信号を、一通り又は複数通り取得する。そのグルコースセンサ信号が血中グルコース濃度過剰を示している場合、閉ループ式注入システムでは血中グルコース濃度を低下させる動作が実行される。逆に、グルコースセンサ信号が血中グルコース濃度不足を示している場合、閉ループ式注入システムでは血中グルコース濃度を上昇させる動作が実行される。このように、患者の血中グルコース濃度を制御し患者の健康を守るため閉ループ式注入システムで実行される諸動作は、グルコースセンサから得られたグルコースセンサ信号に全面的又は部分的に基づくものである。
【0031】
残念なことに、得られたグルコースセンサ信号が患者の血中グルコース濃度の現状値を示す信号として信頼に足るとはいえない場合がある。例えば、受け取ったセンサ信号に不純部分があり、体内で現出している血中グルコース濃度がわかりにくい場合である。そうした不純部分が生じるのは、例えば、センサ配設部位への局所的加減圧、過度のセンサ水
和、炎症反応等が原因でセンサによる血中グルコース濃度計測値が不正確になった場合や、血中グルコース濃度の計測後にセンサ信号が雑音その他の影響を受けた場合や、それらが併発した場合等である。それに代え又は加え、現状での血中グルコース濃度を正確に計測することが徐々に不可能になっていく等、グルコースセンサの応答性はゆっくりと不安定化していく。これらの場面を含め様々な場面で、閉ループ式注入システムのコントローラに届くグルコースセンサ信号の信頼性は、患者の生命及び健康を託し制御権を委ねるに足らない水準になることがある。
【0032】
そこで、以下の説明で述べる諸実施形態では、患者の血中グルコース濃度を正確に反映する能力に関し且つある種の指標又は指標群に全面的又は部分的に基づき、一通り又は複数通りのセンサ信号に備わる信頼性を閉ループ式注入システムにて評価するようにしている。その指標としては、例えば、患者の血中グルコース濃度を示すセンサ信号又は信号群の非生理学的異常又は異常群に関しその性質を示唆する指標を使用する。或いは、患者の血中グルコース濃度に対するセンサ信号又は信号群の応答性の経時変化に関しその背景トレンドを示唆する指標を使用する。以下、これらの例を含め諸実施形態について説明する。
【0033】
図1に、本発明の一実施形態に係る閉ループグルコース制御システム5のブロック構成を示す。本実施形態では、図示の通り、グルコースセンサシステム10、コントローラ12、インシュリン投与システム14、グルカゴン投与システム15等が設けられている。本実施形態では、身体20における血中グルコース濃度18を示すセンサ信号16がグルコースセンサシステム10で生じ、そこからコントローラ12へと供給される。コントローラ12は、その信号16に応じ投与システム14,15に対するコマンド22を発行する。インシュリン投与システム14は、そのコマンド22に応じ身体20にインシュリン24を注入する。同様に、グルカゴン投与システム15は、そのコマンド22に応じ身体20にグルカゴン
25を注入する。
【0034】
グルコースセンサシステム10には、例えば、グルコースセンサ、そのグルコースセンサに給電してセンサ信号16を発生させるセンサ用電気部品、その信号16をコントローラ12へと伝達させるセンサ用通信システム、それらセンサ用電気部品及びセンサ用通信システムのうち一方又は双方を保持、被覆又は内蔵するセンサシステムハウジング、或いはその組合せ等が備わっている。
【0035】
コントローラ12は、例えば、投与システム14,15に対するコマンド22を全面的又は部分的にセンサ信号16に基づき発行できるよう、相応の電気部品、その他のハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア等で構成されている。信号16の受信や投与システム14,15へのコマンド22の送信に使用可能なコントローラ用通信システムを、コントローラ12に設けてもよい。データ入力デバイスやデータ出力デバイスを有するユーザ又はオペレータインタフェース、例えば
図9中の対人インタフェースをコントローラ12に設けることもできる。データ出力デバイスとしては、アラーム発生の引き金となる信号を発生させる手段を設けることや、コントローラ12の状態、患者の生命兆候、観察履歴データ等を個別的又は同時的に出力可能なディスプレイ又はプリンタを設けることができる。データ入力デバイスとしては、ダイアル、ボタン、ポインティングデバイス、マニュアルスイッチ、英文字キー、タッチスクリーンディスプレイ等や、それらを組み合わせたものをはじめ、装用者やオペレータによる入力を受け付けうるデバイスを設けることができる。なお、これらがユーザインタフェース又はオペレータインタフェースの一部となりうる入力デバイス及び出力デバイスの例に過ぎないこと、並びに本発明の技術的範囲がこれらとの関連で限定されるものではないことをご理解頂きたい。
【0036】
インシュリン投与システム14は、身体20にインシュリン24を注入するための注入装置や注入管を備えている。同様に、グルカゴン投与システム15は、身体20にグルカゴン
25を注入するための注入装置や注入管を備えている。これに代え、身体20へのインシュリン24の注入とグルカゴン
25の注入とに同一の注入管を使用するようにしてもよい。或いは、病院をはじめとする医療環境等で患者への注液に使用される静脈注入(IV)システムを用い、インシュリン24やグルカゴン
25を注入するようにしてもよい。IVシステムを使用すれば、体内の血流への
インシュリン24の直接注入を、間質組織へのグルカゴン
25の注入に代え又は加え実行することができる。そして、閉ループグルコース制御システム5を、インシュリン投与システム14を備えるがグルカゴン投与システム15を備えない構成や、その逆の構成にすることも可能であるので、その点をご理解頂きたい。
【0037】
図1では個別図示を省略しているが、注入装置は、例えば、コマンド22に従い注入用モータを作動させる注入用電気部品、コントローラ12からそのコマンド22を受け取るための注入装置用通信システム、注入装置を保持、被覆、内蔵等する不図示の注入装置ハウジング等を使用又は併用することで実現することができる。
【0038】
本実施形態では、コントローラ12の収容先をその注入装置ハウジング内とし、注入装置用通信システム内の電極又はワイヤを用いコントローラ12から注入装置にコマンド22が伝達されるようにしている。コントローラ12の収容先をセンサシステムハウジング内とし、センサ用通信システム内の電極又はワイヤを用いセンサ用電気部品からコントローラ用電気部品にセンサ信号16が伝達されるようにしてもよい。コントローラ12の収容先を専用のハウジング内とすることや補助装置内とすることも可能である。或いは、コントローラ12の収容先を、注入装置及びセンサシステムのそれと共通且つ同一のハウジング内にしてもよい。そして、センサ、コントローラ、注入装置用通信システム又はそのうち幾つかで、電極に代え、ケーブル、ワイヤ、光ファイバ、又は無線周波数、赤外線若しくは超音波の送信機、受信機若しくは送受信機、或いはそれに類するものを使用することも可能である。
【0039】
[システム例概観]
図2〜
図6に、一実施形態に係るグルコース制御システムを示す。
図2は、本実施形態での閉ループ構成部材の体上配置を例示する正面図である。
図3a〜
図4は、本実施形態で使用されるグルコースセンサシステムの諸部分を諸方向から描いた図である。
図5は、本実施形態で使用される注入装置を示すリザーバドア開扉時頂面図である。
図6は、本実施形態で使用される注入セットを示す挿入針抜出時側面図である。
【0040】
本実施形態では、センサ26、センサセット28、テレメトリ式特性観察器30、センサケーブル32、注入装置34、注入管36及び注入セット38が、全て又は部分的に、
図2に示す通り装用者即ち患者の身体20上に装着される。
図3a及び
図3bに示す通り、テレメトリ式特性観察器30は、観察器ハウジング31、それによって支持される印刷回路基板33、1個又は複数個の電池35、不図示のアンテナ、不図示のセンサケーブルコネクタ等で構成されている。センサ26の検知端40にある露出した電極42は、
図3d及び
図4に示す通り、装用者身体20の皮下組織44へと皮膚46越しにその電極42を挿入することができる。電極42は、一般に皮下組織44全体に存する間質液(ISF)に接している。
【0041】
図3c及び
図3dに示す通り、センサ26の位置はセンサセット28によって保持されており、そのセット28は装用者の皮膚46に接着固定されている。センサセット28にはセンサ26のコネクタ端27が現れており、その端27をセンサケーブル32の第1端29に接続することができる。そのケーブル32の第2端37は観察器ハウジング31に連結されている。電池35はそのハウジング31内にあり、センサ26及び印刷回路基板33上の電気部品39への給電を担っている。その部品39は、
図1に示したセンサ信号16をサンプリングし、ディジタルセンサ値Dsigとしてメモリ内に格納する。このセンサ値Dsigはそのメモリから注入装置内のコントローラ12へと定期的に供給される。
【0042】
図2及び
図5、更には
図1に示す通り、コントローラ12は、そのディジタルセンサ値Dsigを処理し、
図1等に示すコマンド22を注入装置34向けに発行する。この装置34はそのコマンド22に応じ動作し、自装置34内にあるリザーバ50から
図1等に示すインシュリン24が吐出されるようプランジャ48を動作させる。グルコースの注入も、コマンド22に応じ且つ同様の又は類似する不図示の装置を用いリザーバから行うことができる。患者にグルコースを経口投与する形態にすることもできる。
【0043】
本実施形態では、そのリザーバ50の連結端54が注入装置ハウジング52越しに延びており、そこに注入管36の第1端51が装着されている。その管36の第2端53には、
図2,
図6等に示す通り注入セット38が接続される。
図6、更には
図1に示す通り、
図1等に示すインシュリン24は、注入管36を介しセット38内、更には
図1等に示す身体20に注入される。そのセット38は装用者の皮膚46に接着固定されている。セット38の一部であるカニューラ56は皮膚46越しに皮下組織44まで延び、
図5等に示すリザーバ50と装用者身体20の組織44との間を結ぶ流路を形成している。
【0044】
本実施形態の閉ループ式注入システムは、先の記述に従い、病院依拠グルコース管理システムに組み込むことができる。非特許文献1等に記載の通り、被験者が以前から高血糖症を患っていたか否かを問わず、集中治療中のインシュリン療法によって創傷治癒を劇的にはやめ血流感染、腎不全及び多発性神経障害による死亡を劇的に減らせることが明らかであるので、本実施形態の閉ループ式注入システムを病院環境で使用することで、集中治療を受けている患者の血中グルコース濃度を好適に制御することができる。その場合、ICU等の集中治療環境にいる間に患者の腕にIVフックアップを埋め込むことが可能であるので、既存のIVラインを通じ閉ループグルコース制御を実行することができる。即ち、病院その他医療施設依拠システムにてIV液の迅速供給を目的に使用される患者脈管系直結型のIVカテーテルを、血液サンプリングの実施や、例えばインシュリン、グルコース、抗凝固薬等の物質を血管内空間に直接注入する際にも役立てることができる。
【0045】
更に、グルコースセンサをIVライン越しに挿入し、血流からのリアルタイムグルコース濃度検知等を行うことができる。従って、その病院又は医療施設依拠システムの種類にもよるが、グルコース管理システムに組み込むに当たり、上述した閉ループ式注入システムの構成部材全てを組み込む必要はない。例えば、センサ26、センサセット28、テレメトリ式特性観察器30、センサケーブル32、注入管36、注入セット38等を省略することができる。その代わりに、標準的な血中グルコースメータや血管内グルコースセンサ、例えば係属中の特許文献5(米国特許出願第12/121647号,発明者:Gottlieb, Rebecca et al.,名称:マルチルーメンカテーテル(MULTILUMEN CATHETER),出願日:2008年5月15日)に記載のもので血中グルコース濃度を検知して注入ポンプを制御し、既存のIVラインを通じインシュリンを患者に投与すればよい。このほか、本明細書や別紙図面に記載されているものとは別の個数又は種類の部材を用いる形態での実施も可能である。
【0046】
[システム的・環境的遅延の例]
次に、システム的・環境的遅延の例について説明する。まず、センサ及びそれと連携する部材又は諸部材は、本来、制御システムで制御対象とされているパラメタ、例えば血中グルコース濃度をリアルタイムに無雑音で計測することが可能なものであるのが望ましい。しかし、現実世界の装置では、生理学的、化学的、電気的、アルゴリズム的等々の時間遅延要因が存在し、センサ計測が現存値に後れをとるのが普通である。また、これから説明するように、センサ信号に適用される雑音フィルタリングの度合い等によってもそれに類する遅延が生じることがある。
【0047】
図7に、身体20に対するセンサセット及び注入セットの装着形態例をその断面で示す。この装着形態では、図示の通り、血漿420・ISF間グルコースに費やされる時間が原因で生理学的遅延が発生する。ここではその遅延422を丸囲い両矢印で示してある。センサ26の端部即ち検知端40の付近には、
図3a〜
図4等に示した電極42が1個又は複数個設けられているので、
図2〜
図6を参照して説明した通り、センサを身体20の皮下組織44内に挿入すると電極42がISFに接する。しかし、計測したいパラメタは血中グルコース濃度である。
【0048】
グルコースは血漿420によって体中に運ばれる。グルコースは、拡散プロセスを通じ、血漿420から皮下組織44のISF内へ、或いはその逆へと移動する。
図1等に示した血中グルコース濃度18が変化するとISF内グルコース濃度も変化する。しかし、身体の働きで血漿420・ISF間にグルコース濃度平衡が成立するまでに時間がかかるため、ISF内グルコース濃度は血中グルコース濃度18に比し遅れて変化する。血漿・ISF間グルコース移動遅延については、例えば0〜30分内の値を採りうるとの研究結果も示されている。この血漿・ISF間グルコース移動遅延に対し個別に又は他のパラメタと協働して影響するパラメタとしては、例えば個々人の代謝、現在の血中グルコース濃度、グルコース濃度の増減の別等がある。
【0049】
同図中にセンサ26の先端を囲む円424で示す通り、センサ26の応答時間による化学反応遅延424も発生する。
図3a〜
図4等に示したセンサ電極42が、その電極42をISFで濡れた状態に保ち、グルコース濃度を抑え且つ電極表面上でのグルコース濃度変動を抑える保護膜で覆われているからである。グルコース濃度が変化すると、この保護膜はISF・電極表面間グルコース交換速度を低下させる。加えて、グルコースがグルコースオキシダーゼ(GOX)と反応して過酸化水素が生じる反応に要する時間や、過酸化水素が還元され水、酸素及び自由電子が生じる反応をはじめ二次的な反応に要する時間による化学反応遅延も存在する。
【0050】
このように、インシュリンの投与遅延は拡散による遅延、即ち組織内に注入されたインシュリンが血流中に拡散するのに要する時間が原因で発生する。このほか、例えば、インシュリン注入コマンドの到着から体内へのインシュリンの注入までに投与システムで費やされる時間、インシュリンが血流中に入ってから循環系で拡散されるまでにかかる時間等、他の機械的、電気的、電子的又は生理学的要因も単独で又は連携してインシュリンの投与遅延をもたらす。更に、インシュリン投与システムから体内へとインシュリン調合物が注入されているさなかでも、身体ではインシュリンの排出が実行されている。身体の働きで血漿中のインシュリンが継続的に排出されるので、血漿へのインシュリン調合物注入が低速過ぎる場合や遅延している場合は、その調合物は、残らず血漿に到達しきる前に部分的に又は大々的に排出されることとなろう。従って、血漿内インシュリン濃度プロファイルが、仮に遅延がないとしたら生じるであろう所与ピークに達することも所与プロファイルを辿ることもあり得ない。
【0051】
更に、アナログセンサ信号Isigからディジタルセンサ値Dsigへの変換に伴う処理遅延も発生する。これは、例えば、アナログセンサ信号Isigを1分間に亘り積分し、その結果を計数値に変換する構成で生じる。アナログディジタル(A/D)変換に要する時間が原因であるので、その場合の処理遅延は平均30秒である。1分値を平均して5分値にし
図1等に示したコントローラ12に供給する構成でも処理遅延が生じる。生じる遅延の平均は平均期間の1/2に当たる2.5分となる。構成によっては、これとは違う積分時間ひいては遅延時間になろう。
【0052】
また、アナログセンサ信号を電流値Isigから電圧値Vsigへと継続的に変換し、その電圧値VsigをA/Dコンバータにて10秒毎にサンプリングする構成でも処理遅延が生じる。この構成では、1分値を得るに当たり10秒値6個がプレフィルタリング及び平均される。その1分値5個をプレフィルタリング及び平均することで5分値が導出されるのであるから、平均して2.5分の処理遅延となる。その他の種類のセンサから到来した他種センサ信号を適宜ディジタルセンサ値Dsigへと変換し、そのセンサ値Dsigを他のデバイスに供給する構成でも処理遅延が生じうる。更に、使用する電気部品、サンプリング速度、変換手法、遅延周期又はその組合せが異なる構成でも処理遅延が生じうる。
【0053】
[システム構成例]
図8a〜
図8dに、一実施形態に係るグルコース制御システムで使用される一体型又は多体型の装置及びその構成部材を示す。これらの図では、先に説明したタイプのコントローラで使用可能な構成部材を示してあるが、これは例示的なものである。構成部材の種類、その配置、その組合せ方等は、本発明の技術的範囲内で様々に改変することができる。
【0054】
まず、
図1等に示したコントローラ12に入力として供給されるのに先立ち、センサ信号16には、例えばプレフィルタリング、フィルタリング、キャリブレーション等の信号調整を施すことができる。プレフィルタ、1個又は複数個のフィルタ、キャリブレータ、コントローラ12等といった構成部材は、別々に設けるだけでなく、例えば
図8aに示す通り物理的に同居させることも、テレメトリ式特性観察器30内送信機、注入装置34、補助装置等に組み込むことも可能である。
【0055】
図8bに示す例では、プレフィルタ、フィルタ又はフィルタ群及びキャリブレータがテレメトリ式特性観察器30内送信機に組み込まれ、コントローラ例えば12が注入装置34に組み込まれている。
図8cに示す例では、プレフィルタが観察器30内送信機に組み込まれ、フィルタ、キャリブレータ及びコントローラが注入装置34に組み込まれている。
図8dに示す例では、プレフィルタが観察器30内送信機に組み込まれ、フィルタ及びキャリブレータが補助装置41に組み込まれ、コントローラが注入装置34に組み込まれている。
【0056】
センサシステムで生成されるメッセージには、例えば、ディジタルセンサ値、プレフィルタリング済ディジタルセンサ値、フィルタリング済ディジタルセンサ値、キャリブレート済ディジタルセンサ値、コマンド等、センサ信号に基づく情報が組み込まれる。メッセージ内に他種情報、例えばシリアル番号、IDコード、チェックコード、他種検知パラメタ値、ダイアグノーシス信号、他種信号等を組み込むことも可能である。例えば、ディジタルセンサ値Dsigをテレメトリ式特性観察器30内送信機にてフィルタリングし、フィルタリング済のセンサ値Dsigをメッセージに組み込んで注入装置34に供給し、その装置34でのキャリブレーションを経てコントローラで使用するようにしてもよい。或いは、フィルタリング及びキャリブレーションを施した上でセンサ値Dsigを注入装置34内のコントローラに供給するようにしてもい。更には、フィルタリング及びキャリブレーションを施したセンサ値Dsigに基づきコントローラがコマンド22を発行し、そのコマンド22を観察器30内送信機から注入装置34へと送信するようにしてもよい。
【0057】
付加的な構成部材、例えばポストキャリブレーションフィルタ、ディスプレイ、レコーダ、血中グルコースメータ等を他の任意な構成部材と共に装置に組み込むことや、そうした付加的構成部材をスタンドアロンで使用することも可能である。血中グルコースメータを装置に組み込み、例えばキャリブレータ入りの装置内にそれを同居させることも可能である。その他、
図8a〜
図8dに示したものや先に説明したものとは部材の個数や種類が異なる構成にすることも可能である。
【0058】
テレメトリ式特性観察器30内送信機や注入装置34といった構成部材を1個又は複数個備える装置間の通信には、例えば無線周波数テレメトリを使用することができる。それ以外の通信媒体が装置間通信に使用される構成、例えば無線ワイドエリアネットワーク(WAN)、その一例であるセルラ通信、WiFi(登録商標)、ワイヤ、ケーブル、赤外信号、レーザ信号、光ファイバ、超音波信号等が使用される構成にすることも可能である。
【0059】
[グルコースセンサ信号安定性解析手法例]
図9に、一実施形態に係る閉ループ式注入システムとして、センサ信号を通じたグルコース濃度フィードバックに基づき1個又は複数個のコントローラを動作させることでインシュリンやグルカゴンを注入し血中グルコース濃度を制御するシステム900を模式的に示す。本実施形態では、閉ループ式の制御システムによって体内にインシュリンを注入することで、β細胞の機能不全を補うようにしている。図中の血中グルコース濃度基本目標値G
Bは身体別の値である。その血中グルコース濃度基本目標値G
Bと血中グルコース濃度現状推定値Gとの間の差であるグルコース濃度誤差値G
Eが補正対象である。本実施形態では、
図9に示す通り、その誤差値G
Eがコントローラ12に入力として供給される。この例では、その全体又は一部が比例積分微分(PID)コントローラとして働くコントローラ12が使用されているが、別の形態でコントローラ12を実現することもできる。
【0060】
グルコース濃度誤差値G
Eが正、即ち血中グルコース濃度現状推定値Gが血中グルコース濃度基本目標値G
Bより大きい場合、コントローラ12は、コマンド22を発行してインシュリン投与システム34を駆動し身体20にインシュリン24を注入させる。このシステム34は
図1等に示したインシュリン投与システム14の一例である。同様に、誤差値G
Eが負、即ち推定値Gが目標値G
Bより小さい場合、コントローラ12は、コマンド22を発行してグルカゴン投与システム35を駆動し身体20にグルカゴン22を注入させる。このシステム35は
図1等に示したグルカゴン投与システム15の一例である。
【0061】
本システム900には、更に対人インタフェース65又はそれとの通信手段が備わっている。そのインタフェース65の例としては、出力デバイスとの関連で
図1を参照し説明したものがある。図示の通り、インタフェース65はコントローラ12から1個又は複数個のコマンド22を受け取る。そのコマンド22の例は、視覚的形態、音響的形態、触覚的形態、その併用形態等で患者、介護者等の人物と情報をやりとりするためのコマンドである。やりとりされる情報の例は、データ、アラートその他の通知55である。インタフェース65は、例えば、画面、スピーカ、振動機構等を使用又は併用する構成である。従って、コントローラ12からコマンド22が到来すると、インタフェース65から利用者へと、画面、スピーカ、振動機構等を介し一通り又は複数通りの通知55が示されることとなる。
【0062】
論題としている制御ループの性質上、グルコース濃度誤差値が正の場合はインシュリン濃度が不足しているはずである。センサ26は、身体20におけるISF内グルコース濃度を検知してセンサ信号16を発生させる。本実施形態では、その制御ループ上にフィルタ/キャリブレーションユニット456や補正アルゴリズムユニット454が1個又は複数個設けられている。なお、これは一例に過ぎず、本発明の技術的範囲がそれによって制限されるものではない。そのユニット456では、センサ信号16にフィルタリングやキャリブレーションを施すことで、血中グルコース濃度現状推定値452が導出される。図では別体に描かれているが、フィルタ/キャリブレーションユニット456がコントローラ12と一体化されている構成も本発明の技術的範囲に包含される。更に、フィルタ/キャリブレーションユニット456がコントローラ12の一部として実現されている構成や、その逆の構成も、本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
本実施形態では、血中グルコース濃度現状推定値Gが補正アルゴリズムユニット454で調整を受け、その調整を経た推定値と血中グルコース濃度基本目標値G
Bとの比較によって新たなグルコース濃度誤差値G
Eが算出され、ループ的な処理がその誤差値G
Eに基づき再実行される。また、付添人、介護者、患者等が血中グルコース濃度の基準計測値、例えばグルコース検査ストリップでの検査結果を患者の血液から得ている場合がある。そうした血液サンプリング計測値を利用しISF依拠センサ計測値にキャリブレーションを施すこと、例えば2005年5月17日発行の特許文献6で開示されている手法をはじめとする諸手法でそれを実行することも可能である。図では別体に描かれているが、補正アルゴリズムユニット454がコントローラ12と一体化されている構成も本発明の技術的範囲に包含される。更に、補正アルゴリズムユニット454がコントローラ12に組み込まれている構成や、その逆の構成も、本発明の技術的範囲に包含される。同様に、推定値G及び目標値G
Bから誤差値G
Eを算出する手段例えば差分ユニットがコントローラ12の一部として実現されている構成も本発明の技術的範囲に包含される。
【0064】
本実施形態ではコントローラ12がPID型であるので、グルコース濃度誤差値G
Eが負、即ち血中グルコース濃度現状推定値が血中グルコース濃度基本目標値G
Bより小さい場合、誤差値G
Eに現れている積分要素応答が依然正であるか否かに応じ、コントローラ12がインシュリンの投与を減量又は停止させる。後述の通り、誤差値G
Eが負の場合にコントローラ12がグルカゴン22の注入を開始させる構成にしてもよい。誤差値G
Eが0、即ち血中グルコース濃度現状推定値が目標値G
Bと等しい場合等には、インシュリン24又はグルカゴン22を注入せよとのコマンドを、コントローラ12が微分要素応答(グルコース濃度が上昇しているか否か)や積分要素応答(グルコース濃度が目標値G
Bをどれだけの期間及び分量に亘り上回り又は下回っているか)に応じ適宜発行する。
【0065】
こうした制御ループに対し身体が及ぼす影響をより明瞭に理解するには、インシュリンがISF内グルコース濃度に対し及ぼす生理学的効果の例についてより詳細に考察すべきである。本実施形態の場合、
図3a〜
図4,
図6等に示す通り、インシュリン投与システム34によってインシュリンが身体20の皮下組織44にあるISFに注入される。同様に、投与システム34又は他の注入装置例えばグルカゴン投与システム35によって、グルコースやグルカゴンが組織44内ISFに注入されることもある。注入されたインシュリン24は、カニューラ付近のISFから血漿内に拡散し、主循環系内の血流47等を通じ身体20の隅々まで運ばれていく。運ばれたインシュリン24は、身体20のほぼ全ての個所で血漿からISF内に拡散していく。
【0066】
このとき、体内ではインシュリン24が身体組織の細胞上にある膜受容体タンパク質と結合しそれを活性化させる。これにより、活性化細胞内へのグルコース浸透が可能となる。身体20を構成する組織はこうした仕組みでISFからグルコースを摂取する。その結果ISF内グルコース濃度が低下するけれども、グルコースが血漿からISF内へと拡散するのでグルコース濃度平衡は保たれる。ISF内グルコースは、センサ26上のセンサ膜にも浸透しセンサ信号16を変化させる。
【0067】
更に、インシュリンは肝臓でのグルコース産生に対し直接的な影響や間接的な影響を及ぼす。インシュリン濃度が高まると肝臓でのグルコース産生量が減少する、といった具合である。従って、インシュリン応答を先鋭且つ即時的にすることで、身体によるグルコースの摂取を効率化することや、肝臓によるグルコースの血流内解放を略停止させることができる。先に述べた通り、インシュリンやグルコースをISFにではなく血流内により直に注入する構成、例えば静脈、動脈、腹腔等に注入する構成にすることもできる。そうした構成にすることで、インシュリンやグルコースがISFから血漿に移動することに由来する時間遅延を削減することができる。また、グルコースセンサがISFではなく血液その他の体液に接触する構成や、体外式グルコースセンサでグルコースを非侵襲検知する構成にしてもよい。血中グルコース濃度現状値・血中グルコース濃度計測値間の時間遅延が上掲のものとは異なるグルコースセンサを使用する構成にしてもよい。
【0068】
そのセンサ26が例えば連続グルコース計測センサ(CGMS)である場合、ISF内グルコース濃度の検知に応じ、比例的な電流信号が出力される。その電流信号isigは、血中グルコース濃度基準値BGに対し線形的な対応関係を呈する。従って、この場合、勾配及び切片といった二種類のパラメタを伴う線形モデルに従い且つセンサ26からの信号isigに基づき、グルコース濃度検出値SGを導出することができる。
【0069】
このとき、コントローラ利得又はその組合せが相応に定められていれば、身体20へのインシュリン24の注入を注入装置34に指令するコマンドが、所要速度で発行されることとなる。例えば、万全に機能するヒトβ細胞が身体における血中グルコース濃度に対し呈するであろう濃度プロファイルと同様の濃度プロファイルを、血中インシュリン濃度が辿ることとなるような速度である。同様に、コントローラ利得又はその組合せが適宜定められていれば、インシュリン排出に応じ身体20にグルカゴン22を注入するよう注入装置34に指令するコマンドが、所要速度で発行されることとなる。コントローラ利得のうち少なくとも一部は、例えば、健康で正常に機能するβ細胞を有していて正常グルコース耐性(NGT)のある数人に関しインシュリン応答を調べることで定めるのが望ましい。
【0070】
本実施形態のシステムには、更に通信ユニット458が備わっている。このユニット458は、例えば、無線広域通信モジュール、その一例であるセルラモデム、送信機、受信機若しくは送受信機、WiFi(登録商標)若しくはBluetooth(登録商標)のチップ若しくは無線機等を使用又は併用する構成である。ユニット458は、例えば、フィルタ/キャリブレーションユニット456からの信号、センサ26に発するセンサ信号16、コントローラ12に発するコマンド22、その任意の組合せ等から信号を受け取りうる構成である。
図9では具体的に描写されていないが、ユニット458を他のユニット、例えば補正アルゴリズムユニット454、投与システム34,35、対人インタフェース65等から信号を受け取りうる構成にすることもできる。また、ユニット458を
図9中の他ユニット、例えばコントローラ12、フィルタ/キャリブレーションユニット456、インタフェース65等に信号を送信可能な構成にすることもできる。ユニット458を他のユニット、例えばコントローラ12やフィルタ/キャリブレーションユニット456と一体化させる等してその一部にすることもできる。
【0071】
通信ユニット458には、付加的な処理や格納、例えばリモートテレメトリ向けのそれを担うリモートデータセンタへと、キャリブレーション出力、キャリブレーション不具合アラーム、制御アルゴリズム状態、センサ信号アラート等をはじめ生理学的、ハードウェア的又はソフトウェア的なデータ例えば診断データを送信する機能がある。こうした送信は、例えば、不調が発見・検知された、自動実行条件が成立した、リモートデータセンタから要求される等して半自動実行条件が成立した、患者からマニュアル操作で要求された、といった条件やその任意の組合せに係る条件の下で実行される。送信されたデータは、その後、要求に応じリモートクライアント、例えば携帯電話、医師のワークステーション、患者のデスクトップコンピュータ、その任意の組合せ等に配信される。また、ユニット458には、別の場所から種々の情報を受け取る機能、例えばキャリブレーション情報、命令群、動作パラメタ、その他の制御情報、それらの組合せ等を取得する機能もある。ユニット458は、取得した制御情報を他のシステム内ユニット、例えばコントローラ12やフィルタ/キャリブレーションユニット456に供給する。
【0072】
図10に、本実施形態にて使用されるコントローラ12、特に非生理学的異常判別器1008や応答性判別器1010を有するセンサ信号信頼性解析器1002に該当する部分を模式的に示す。図示の通り、このコントローラ12に備わるセンサ信号信頼性解析器1002は、コントローラ12内外で生成されたサンプル群1004に基づき一通り又は複数通りのアラート信号1006を発生させる。
【0073】
本実施形態では、そのサンプル群1004が、この図のほか
図1,
図9等に示したセンサ信号16から様々な時点でサンプリングされた複数個のサンプルで構成されている。即ち、サンプル群1004は一通り又は複数通りのセンサ信号例えば16から得られた複数個のサンプルを含有しており、患者の血中グルコース濃度等を表している。
【0074】
センサ信号信頼性解析器1002は、サンプル群1004を一通り又は複数通りの切り口から検討することで、センサ信号に備わる一通り又は複数通りの信頼性側面を評価する。その評価結果に全面的又は部分的に基づき、解析器1002は一通り又は複数通りのアラート信号1006を発生させる。即ち、センサ信号の信頼性が十分でないため、そのセンサ信号に基づく閉ループグルコース制御下での決定に患者の健康を委ね得ないことが、その評価結果からわかるときに、アラート信号1006を発生させる。本実施形態では、その信号1006が、この図のほか
図1,
図9にも示したコマンド22を含むかたちで発生する。発生した信号1006は、例えば、
図9等に示した対人インタフェース65や
図9等に示したインシュリン投与システム34に供給される。これに代え又は加え、アラート信号1006を他の部材・ユニット、例えばコントローラ12内部材・ユニットに供給するようにしてもよい。
【0075】
図中のコントローラ12では、そのセンサ信号信頼性解析器1002内に非生理学的異常判別器1008や応答性判別器1010が設けられている。本実施形態では、非生理学的異常判別器1008が、サンプル群1004を一通り又は複数通りの切り口から検討することで、センサ信号に備わる一通り又は複数通りの純度側面を解析する。センサ信号の純度が十分でなく、血中グルコース濃度の真値導出を妨げる外見的な揺らぎを呈していることが、その解析結果からわかるときには、アラート信号1006を発生させる。例えば、患者の血中グルコース濃度との対応関係や代替関係のない外見的な変動である非生理学的異常が、一通り又は複数通りのセンサ信号一通り又は複数通り発生しているときである。そうした状況下でその又はそれらの非生理学的異常の性質を調べるには、センサ信号一通り又は複数通りから得たサンプル群に基づき、その又はそれらのセンサ信号の外見的な変化を検知すればよい。非生理学的異常判別器1008の具体例については、
図11〜
図13Bを参照して後に詳述することにする。
【0076】
本実施形態では、応答性判別器1010が、サンプル群1004を一通り又は複数通りの切り口から検討することで、センサ信号に備わる一通り又は複数通りの安定性側面を解析する。センサ信号の安定性が十分でなく、その原因の一端が血中グルコース濃度の真値からの経時的乖離であることが、その解析結果からわかるときには、アラート信号1006を発生させる。例えば、同患者の血中グルコース濃度に対しセンサ信号又は信号群が呈する応答性の変化が原因で、その又はそれらのセンサ信号と患者の血中グルコース濃度との差が時間経過につれ徐々に増大していく傾向の潜在的乖離が、サンプル群1004の背景トレンドに現れているときである。応答性判別器1010の具体例については、
図14〜
図16Cを参照して後に詳述することにする。
【0077】
図11に、本実施形態で使用される非生理学的異常判別器1008及びその一部たるセンサ信号純度解析器1104を模式的に示す。図示の通り、この判別器1008ではサンプル群1004、量的乖離指標導出器1102、センサ信号純度解析器1104及びアラート発生器1106が利用されている。指標導出器1102は量的乖離指標1108を推定する。純度解析器1104では一通り又は複数通りの純度しきい値1110が使用される。
【0078】
本実施形態では、サンプル群1004が量的乖離指標導出器1102に供給される。このサンプル群1004は
図9,
図10等に示したセンサ信号一通り又は複数通りから得られたものであり、その又はそれらのセンサ信号は
図9等に示した皮下グルコースセンサ1個又は複数個で捉えられたものである。大略、指標導出器1102は、患者の血中グルコース濃度と一通り又は複数通りのセンサ信号との間の量的乖離を示唆する指標を一通り又は複数通り導出する。
【0079】
より具体的には、量的乖離指標導出器1102は、全面的又は部分的にサンプル群1004に基づき算出、推定、確認、その組合せ等を行うことで、患者の血中グルコース濃度を示すセンサ信号一通り又は複数通りに対する非生理学的異常又は異常群の影響を示唆する量的乖離指標例えば1108を、一通り又は複数通り導出する。その又はそれらの指標1108には、例えば1個又は複数個の皮下グルコースセンサによって生成、捕捉された一通り又は複数通りのセンサ信号に備わる外見的信頼性が反映される。或いは、その又はそれらのセンサ信号における雑音レベルや偽像レベルが反映される。その指標1108は例えば指標導出器1102からセンサ信号純度解析器1104へと供給される。
【0080】
量的乖離指標1108に反映されるのは、例えば、センサ信号が雑音、センサ偽像、信号急落、モーション由来偽像、伝送抜け、その組合せ等の非生理学的異常の影響を受けているか否や、その影響の度合いである。指標1108がセンサ信号の変動や微分に関連する指標となることもある。例えば、信号やそのサンプルにおける乱数要因の変動を示す成分を含む指標である。その別例としては、主成分分析(PCA)で生じる残差部分空間で表された変動を示す成分を含む指標がある。但し、これらは量的乖離を示唆する指標の例に過ぎず、本発明の技術的範囲がそれらによって限定されるわけではない。
【0081】
センサ信号純度解析器1104は、量的乖離を示唆する指標例えば量的乖離指標1108に全面的又は部分的に基づき、一通り又は複数通りのセンサ信号に関する一通り又は複数通りの純度評価を実行する。例えば、指標1108と一通り又は複数通りの純度しきい値1110(例えば所定値)との間の比較を一通り又は複数通り伴う純度評価である。患者の血中グルコース濃度を示すセンサ信号に非生理学的異常又は異常群が悪影響を及ぼしその信号の純度が損なわれている場合、この解析器1104はアラート発生器1106に指令しアラート信号1006を発生させる。
【0082】
図12に、グルコースセンサ信号中に生じる非生理学的異常を取り扱うべく本実施形態にて実行される手順1200を示す。図示の通り、この手順1200は5個のステップ1202〜1210で構成されている。図面及び以下の説明ではステップ1202〜1210の実行順序をある特定の順序としてあるが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく別の順序、別の形態、別のステップ数等で手順を実行することも可能であるので、その点をご理解頂きたい。また、本手順1200を構成するステップのうち1個又は複数個は、他のステップと全面的又は部分的に並行して実行することができる。更に、以下の説明では、他の諸図に記載のある構成及び部材を参照するが、それ以外の構成や部材で同様の手順を実行することもできる。
【0083】
本実施形態では、ステップ1202にて、患者の血中グルコース濃度に応答するセンサ信号からサンプル群が取得される。ステップ1204では、患者の血中グルコース濃度を示す一通り又は複数通りのセンサ信号に対する非生理学的異常又は異常群の影響を識別すべく、その又はそれらのセンサ信号から得られたサンプル群に全面的又は部分的に基づき一通り又は複数通りの指標が導出される。
【0084】
ステップ1206では、その患者の血中グルコース濃度を示す信号としてのその又はそれらのセンサ信号の信頼性が、全面的又は部分的にその指標又は指標群に基づき評価される。ステップ1208では、その又はそれらの指標が一通り又は複数通りある所定のしきい値と比較され、その結果に応じアラート信号が生成される。例えば、そのサンプル群が得られた期間の全体又は一部に亘りその又はそれらのセンサ信号をもたらしたセンサがうまく機能していなかったことを示す信号が、アラートとして、血中グルコース濃度コントローラ向けに発せられる。或いは、そのサンプル群が得られた期間の全体又は一部に亘りその又はそれらのセンサ信号をもたらしたセンサがうまく機能していなかったことを示す人間可知覚情報が、アラートとして一通り又は複数通り提示される。
【0085】
ステップ1210では、その又はそれらのセンサ信号の信頼性に関する評価の結果に全面的又は部分的に基づき、その患者向けのインシュリン注入処置に改変が施される。患者向けインシュリン注入処置の改変形態としては、インシュリン注入量の増減、インシュリン注入の停止、追加サンプル取得までの注入先送り、別のセンサへの切替、マニュアルモードへの切替、1個又は複数個の所与センサ又はそこから得られるサンプルに課す相対荷重の変更、その任意の組合せ等がある。
【0086】
本実施形態では、グルコース酸化酵素の助力でグルコースを局所的に酸化することによって、CGMSを用いたISF内グルコース濃度計測を行っている。そのセンサ出力は、ISF内グルコース濃度に正比例する値の電流信号isig(nA)である。このセンサ電流には、免疫反応、モーション偽像、検知面加圧、グルコースの局所的欠乏等が原因となり、患者における実際の血中グルコース濃度変動と必ずしも対応しない見かけ上の急変も現れうる。そうした見かけ上のセンサ動態はセンサ雑音やセンサ偽像で組成され又はそれに関係があるものとして分類される。
【0087】
そうしたセンサ雑音やセンサ偽像の検知には幾通りかの手法を使用可能である。その一例として、動的PCA(DPCA)によるフォールト検出を通じたセンサ雑音やセンサ偽像の検知に関し説明する。PCAは多変量統計の一種であり、原データをより低次元の空間上に投射してその次元数を減らす仕組みを採っている。PCAでは、相互相関が生じないよう原変数群を新変数群に変換する線形変換が実行される。
【0088】
ここでは、一例としてデータベクトルxを考える。即ち、次の式
に示す通り、センサ電流の経時的なサンプル群からなるベクトルxを考える(但しt:最新のサンプリング点)。このベクトルxを、その平均値x
AVGでセンタリングし標準偏差x
STDでスケーリングすると、次の式
に示すベクトルとなる(但しx
LB:x
STDの下限,x
UB:x
STDの上限)。
【0089】
そのデータベクトルx
−同士を次の要領
【数1】
でスタックすると動的行列Zが得られる。この行列Zの共分散Sを特異点分解によって分解すると
になり、固有ベクトルを含み負荷行列とも称される行列Pと、固有値を成分とする対角行列Λとが得られる。
【0090】
これを利用し変換するとデータは次の式
但し
に示す形態となる。
【0091】
原データをより少数の主成分で表せるのはデータに冗長性があるためである。冗長性があると固有値のうち1個又は複数個が0又はそれに近い値になりうる。従って、他の固有値及び固有ベクトルを省き、冒頭k個例えば2個の固有値及びそれに対応する固有ベクトルでPCAモデルを構築することができる。スケーリングを経た新たな主成分は次の式
で表すことができる。
【0092】
PCAモデル及びそれに対応する残差空間で使用される統計量は、それぞれホッテリングのT
2検定値及びQ検定値でチェックされる。T
2検定値は、モデルの質を表すと共に、モデル内部分空間における正規化分散を説明する量である。Q検定値は、残差部分空間の広さや、その残差部分空間で表現されるランダムな雑音・偽像の分散を表す量である。
【0093】
ホッテリングのT
2検定値は次の式
で得ることができる。Q検定値は、時点毎且つ残差部分空間毎に一値ずつある値であり、次の式
で求めることができる。その又はそれらのQ検定値が所定のしきい値例えば純度しきい値Q
THを上回ると、ランダムなセンサ雑音又はセンサ偽像が発生しセンサ信号を信頼できないレベルになっていることを示すアラートが一通り又は複数通り発せられる。
【0094】
こうしたことから、本実施形態では、センサ信号一通り又は複数通りから得られたサンプル群に全面的又は部分的に基づきその又はそれらのセンサ信号の残差部分を確認し、その残差部分に係る一通り又は複数通りの値を導出することで、一通り又は複数通りの指標を導出するようにしている。
【0095】
或いは、センサ信号一通り又は複数通りから得られたサンプル群に全面的又は部分的に基づき、その又はそれらのセンサ信号の主成分一通り又は複数通りを確認するようにしてもよい。その場合、残差部分の確認は、確認された一通り又は複数通りの主成分に全面的又は部分的に基づきその又はそれらのセンサ信号の残差部分を確認することで、行うことができる。更に、その残差部分に係る一通り又は複数通りの値の導出は、その又はそれらのセンサ信号の残差部分に係る部分空間にて表現されたランダム雑音の特性を推定すること、例えばその平均に対してデータがどのように分布しているかを示す一通り又は複数通りの値を推定することで行うことができる。
【0096】
図13A及び
図13Bに、第1及び第2のセンサでの非生理学的異常と関連で、本実施形態で得られるセンサ信号値及び血中グルコース濃度計測値の対照例1300,1350を示す。図示例のうち例1300は第1のセンサに関するグラフ1302,1304等で表されている。例1350は第2のセンサに関するグラフ1352,1354で表されている。
【0097】
これらの例1300,1350に係るデータの導出に際しては、閉ループ臨床実験で得られたデータを対象に遡及的センサフォールト解析を実行した。使用したセンサは2個、それを装用した被験者はI型高血糖症患者、データ収集にかけた時間は36時間である。そして、センサからの電流信号isigと、グルコース解析器(別称YSI)から得られる補間済の血中グルコース濃度(BG)とをプロットした。
【0098】
図示の通り、4個あるグラフ1302,1304,1352,1354のいずれでも、横軸は200〜2000(分)の範囲に亘る時間軸である。グラフ1302,1352の左縦軸は0〜40(nA)の範囲に亘るisig軸、右縦軸は0〜300(mg/dL)の範囲に亘るBG軸である。グラフ1304,1354の縦軸は順に0〜3,0〜2の範囲に亘るQ検定値軸である。グラフ1304,1354を横方向によぎる破線はQ=Q
TH(この例では1)の線である。
【0099】
グラフ1302,1352中の実線はセンサからの電流信号isigを、破線は血中グルコース濃度BGを表している。グラフ1304,1354中の実線はQ検定値を表している。グラフ1302,1352中の円及びドットはQ検定値が所定のしきい値Q
TH(この例では1)を超過する時点を表している。グラフ1304,1354中でQ検定値が高めの時点例えばQ
TH=1の破線よりQ検定値が高い時点を、グラフ1302,1352中の対応する実線に照らしてみると、Q検定値が高い時点が、センサ信号不純による実線・破線間乖離急拡大時点に対応していることがわかる。閉ループ臨床実験の際に、グラフ1300に示したセンサ1の方がグラフ1350に示したセンサ2よりも高雑音であったこともわかる。
【0100】
図14に、本実施形態で使用される応答性判別器1010及びその一部たるセンサ信号安定性解析器1404を模式的に示す。図示の通り、この判別器1010ではサンプル群1004、背景トレンド指標導出器1402、センサ信号安定性解析器1404及びアラート発生器1406が利用されている。指標導出器1402では背景トレンド指標1408が推定される。安定性解析器1404では一通り又は複数通りの安定性しきい値1410が使用される。
【0101】
本実施形態では、サンプル群1004が背景トレンド指標導出器1402に供給される。このサンプル群1004は
図9,
図10等に示したセンサ信号一通り又は複数通りから得られたものであり、その又はそれらのセンサ信号は
図9等に示した皮下グルコースセンサ1個又は複数個で捉えられたものである。
【0102】
背景トレンド指標導出器1402は、同患者の血中グルコース濃度に対し一通り又は複数通りのセンサ信号が呈する応答性の経時変化を識別するため、全面的又は部分的にサンプル群1004に基づき算出、推定、確認、その組合せ等を行うことで、背景トレンドを示唆する背景トレンド指標例えば1408を、一通り又は複数通り導出する。その指標1408は例えば指標導出器1402からセンサ信号安定性解析器1404へと供給される。
【0103】
背景トレンド指標1408に反映されるのは、例えば、センサ信号が不安定なセンサ、例えば患者の血中グルコース濃度に対する応答性が経時変化したセンサの影響を受けているか否や、その影響の度合いである。例えば、グルコースセンサの出力は、ドリフト等が原因で真のグルコース濃度から上方又は下方へと経時的に乖離していく。指標1408としては、例えば、センサ出力やそこから得られたサンプル値の基調的トレンド、長期的トレンド、総合的トレンド等に関するものを使用することができる。背景トレンドを示唆する指標の例としては、サンプル群から求まる単調曲線、トレンドを表す反復成長項、その組合せ等がある。背景トレンドを示唆する指標の別例としては、サンプル群に適用される回帰直線の勾配、単調曲線に適用される回帰直線の勾配、その組合せ等がある。但し、これらは背景トレンドを示唆する指標の例に過ぎず、本発明の技術的範囲がそれらによって限定されるわけではない。
【0104】
センサ信号安定性解析器1404は、背景トレンドを示唆する指標例えば背景トレンド指標1408に全面的又は部分的に基づき、一通り又は複数通りのセンサ信号に関する一通り又は複数通りの安定性評価を実行する。例えば、指標1408と一通り又は複数通りの安定性しきい値1410(例えば所定値)との間の比較を一通り又は複数通り伴う安定性評価である。その安定性評価に際しては、例えば、背景トレンドを示唆する一通り又は複数通りの指標が所定の第1しきい値及び第2しきい値を含め複数通りのしきい値と比較される。
【0105】
所定の第1及び第2しきい値を用い安定性評価を実行する際には、例えば、一通り又は複数通りのセンサ信号に備わる信頼性を、第1状態例えば安定状態、第2状態例えば不安定ドリフト状態、第3状態例えば不安定滅失状態、といった具合に評価する。例えば、その背景トレンドを示唆する一通り又は複数通りの指標と所定の第1しきい値との比較結果に応じ、その又はそれらのセンサ信号に備わる信頼性を第1状態と評価する。その背景トレンドを示唆する一通り又は複数通りの指標と所定の第1及び第2しきい値との比較結果に応じ、その又はそれらのセンサ信号に備わる信頼性を第2状態と評価する。その背景トレンドを示唆する一通り又は複数通りの指標と所定の第2しきい値との比較結果に応じ、その又はそれらのセンサ信号に備わる信頼性を第3状態と評価する。
【0106】
センサ信号の応答性が変化しつつあると評価された場合、センサ信号安定性解析器1404はアラート発生器1406に指令しアラート信号1006を発生させる。これに代え、非生理学的異常判別器1008及び応答性判別器1010が同一のアラート発生器を共有する構成、例えば
図11中のアラート発生器1106がアラート発生器1406と共に単一のアラート発生器を形成する構成にしてもよい。
【0107】
図15に、患者の血中グルコース濃度に対するグルコースセンサ信号の応答に現る外見的変化を取り扱うべく本実施形態で実行される手順1500を示す。図示の通り、この手順1500は5個のステップ1502〜1510で構成されている。図面及び以下の説明ではステップ1502〜1510の実行順序をある特定の順序としてあるが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく別の順序、別の形態、別のステップ数等で手順を実行することも可能であるので、その点をご理解頂きたい。また、本手順1500を構成するステップのうち1個又は複数個は、他のステップと全面的又は部分的に並行して実行することができる。更に、以下の説明では、他の諸図に記載のある構成及び部材を参照するが、それ以外の構成や部材で同様の手順を実行することもできる。
【0108】
本実施形態では、ステップ1502にて、患者の血中グルコース濃度に応答するセンサ信号一通り又は複数通りからサンプル群が取得される。ステップ1504では、その患者の血中グルコース濃度に対する応答性の経時変化が、その又はそれらのセンサ信号に現れているか否かを識別するため、その又はそれらのセンサ信号から得られたサンプル群に全面的又は部分的に基づき一通り又は複数通りの背景トレンド指標が導出される。
【0109】
ステップ1506では、同患者の血中グルコース濃度に対しその又はそれらのセンサ信号が呈する応答の信頼性が、その背景トレンド指標に全面的又は部分的に基づき評価される。例えば、その又はそれらの指標が所定のしきい値一通り又は複数通りと比較される。ステップ1508では、その又はそれらの指標と所定のしきい値一通り又は複数通りとの比較結果に応じアラート信号が生成される。
【0110】
ステップ1510では、その又はそれらのセンサ信号に備わる信頼性の評価結果に全面的又は部分的に基づき、その患者向けのインシュリン注入処置に改変が施される。患者向けインシュリン注入処置の改変形態としては、インシュリン注入量の増減、インシュリン注入の停止、追加サンプル取得までの一時的な注入先送り、別のセンサへの切替、マニュアルモードへの切替、1個又は複数個の所与センサ又はそこから得られるサンプルに課す相対荷重の変更、その任意の組合せ等がある。
【0111】
また、本実施形態では、体液内グルコース濃度の計測に皮下グルコースセンサが使用される。電気化学的なセンサであるので、グルコースセンサの出力はnAレベルの電流となる。その振幅が体液内グルコース濃度に応じ変化するので、この電流からグルコース濃度を求めることができる。設計次第では、グルコースセンサを、体内に例えば数日に亘り留まらせることもできる。残念なことに、そうしたセンサからもたらされる信号には緩やかな下方又は上方ドリフト、即ち電流レベルのゆっくりな下降又は上昇が生じうるし、最終的にはセンサ不具合、環境的要因等の問題によって信号自体が滅失してしまうこともある。従って、センサフォールト検出に当たっては、その信号のドリフトが原因でセンサからの信号を信頼できなくなったか否かの判別、即ち患者の血中グルコース濃度の実際の生理学的挙動に対するその信号の乖離が進んでいるか否かの判別がつきものとなる。
【0112】
図16Aに、本実施形態に関し、下方ドリフト中のセンサ信号1600を生理学的挙動と共に示す。血中グルコース濃度が下降しているわけではないのにセンサから得られる信号1600全体が下方ドリフトしているため、生理的挙動に対するセンサの応答が不安定又は滅失と認められる状態になっている。即ち、実際の血中グルコース濃度に対する信号1600の乖離が、時間を経るにつれ大きくなってきている。
【0113】
本実施形態では、センサ信号に現れるこうした乖離・ドリフトの検知が2個のフェーズで実行される。それらのうち第1フェーズは、トレンド推定を通じセンサ信号の背景トレンド、例えば基調的トレンド、長期的トレンド、総合的トレンド等を判別するフェーズである。第2フェーズは、背景トレンドの推定結果がセンサ信号のドリフトを表しているか否かを判別すべく評価、例えば安定性解析を実行するフェーズである。
【0114】
信号の背景トレンドは様々な手法で推定することができる。以下に述べるのは、そうしたトレンド推定手法のうち三例、即ちEMD法、ウェーブレット分解法及び反復的トレンド推定法である。EMD法では、例えば、センサ信号一通り又は複数通りから得られたサンプル群をスプライン関数を適用して分解し、その又はそれらのセンサ信号から高周波成分を除去することで、一通り又は複数通りの背景トレンド指標が導出される。ウェーブレット分解法では、例えば、センサ信号一通り又は複数通りから得られたサンプル群を1回又は複数回のDWTを通じ分解し、その結果として得られる一通り又は複数通りの近似係数から平滑信号を再構築することで、一通り又は複数通りの背景トレンド指標が導出される。反復的トレンド推定法では、例えば、センサ信号一通り又は複数通りから得られたサンプル群内の複数サンプルにて、先行サンプルにおけるトレンド推定結果と成長項とに全面的又は部分的に基づきトレンド推定結果を反復的に更新することで、一通り又は複数通りの背景トレンド指標が導出される。
【0115】
まず、EMD法の一例について説明する。EMD法は、ヒルベルト・ホアン変換(HHT)の導入部を基礎とする手法である。そのHHTは、非線形、非静的信号の周波数を「瞬時」推定可能な変換である。EMD法はそのHHTにおける信号分解に使用される。EMD法では、スプライン関数を適用し原信号の細部がゆっくりと除去される。この処理は、極値を呈する点が高々1個の曲線例えば単調曲線になるまで反復される。得られた単調曲線例えば滑らかな曲線は、背景トレンドの推定結果の一例とも、信号の背景トレンド指標の一例とも認めうる。その単調曲線に対しては線形回帰を適用することができる。それにより得られる回帰直線の勾配はセンサ信号のトレンドTrを示す量的計測値であり、背景トレンド指標導出結果の一例と認めうる。
【0116】
次に、ウェーブレット分解法の一例について説明する。ウェーブレット分解法では、DWTを通じ信号を様々なディテールレベルまで分解することができる。信号が最も滑らかになるディテールレベルのことを近似信号レベルと呼び、このレベルの信号即ち近似信号はDWTで算出された近似係数から再構築することが可能である。それら近似係数から再構築された滑らかな信号は、背景トレンドの推定結果の一例とも、信号の背景トレンド指標の一例とも認めうる。近似信号については線形回帰を適用することができる。それにより得られる回帰直線の勾配はセンサ信号のトレンドTrを示す量的計測値であり、背景トレンド指標導出結果の一例と認めうる。
【0117】
図16B及び
図16Cに、本実施形態に関し、複数通りのグルコース信号、並びにそれに対応しており使用した信号トレンド解析手法が異なる単調基本信号トレンドの例1630,1660を示す。例1630はEMD法で得られたものであり、例1660はウェーブレット分解法で得られたものである。
【0118】
グラフ1632a,1634a,1636a及びグラフ1662a,1664a,1666aに示したのは、グルコースセンサから得られる信号の例である。グラフ1632b,1634b,1636bに示したのは、ある種のEMD法によって求まる単調基本信号トレンドの例である。グラフ1662b,1664b,1666bは、近似係数を用いた平滑信号再構築を通じ、ある種のウェーブレット分解法で求まる単調基本信号トレンドの例である。
【0119】
背景トレンドを示唆する指標は、例えば、センサ信号一通り又は複数通りから得られるサンプル群に全面的又は部分的に基づき回帰直線の勾配を導出する処理を通じ、一通り又は複数通り導出することができる。或いは、センサ信号一通り又は複数通りから得られるサンプル群を変換して単調曲線を導出し、その単調曲線に全面的又は部分的に基づき回帰直線の勾配を算出することで、背景トレンドを示唆する指標を一通り又は複数通り導出するようにしてもよい。
【0120】
そして、反復的トレンド推定法の一例について説明する。反復的トレンド推定法では、個々の信号サンプルnにおけるトレンドを、先行する信号サンプルn−1におけるトレンドに基づき反復的な処理で算出する。初期トレンドは線形回帰で推定する。即ち、回帰直線の勾配を以て初期トレンドTr(0)とする。回帰直線の切片を以て初期成長項Gr(0)とする。個々の点におけるトレンドは次の式
に従い推定する。
【0121】
式(9)中のGr(n)は成長項、Wgは経験的に求まる成長パラメタである。この成長項Gr(n)も次の式
に従い反復的な処理で更新可能である(但しWt:経験的に求まるトレンドパラメタ)。
【0122】
信号の背景トレンドを推定する第1フェーズは、このように、上述したEMD法、ウェーブレット分解法、反復的トレンド推定法等で実行することができる。背景トレンドの推定結果がセンサ信号のドリフトを示唆しているか否かを判別する第2フェーズは、本実施形態では次に示す手法等で実行される。
【0123】
本実施形態では、第2フェーズにて、信号サンプルnにおけるトレンドTr(n)の推定結果が同患者の血中グルコース濃度に対しその又はそれらのセンサ信号が呈する応答性の変化(ドリフト等)を示唆しているか否かを判別すべく、一通り又は複数通りの評価が実行される。トレンドTr(n)としては、先に例示した三手法やその組合せを含め様々な手法を使用することができる。
【0124】
第2フェーズでは、具体的には、正値を有する二通りの安定性しきい値T1,T2即ち第1及び第2の所定しきい値を用いドリフトが検知され(但しT1<T2)、該当先カテゴリが三通りのカテゴリ、即ち通常動作、ドリフト及び滅失のうちいずれであるかが画定される。無論、二通りではなく一通りの安定性しきい値でドリフト有無の判別を行う構成も、本発明の技術的範囲に包含される。トレンドTr(n)の絶対値がT1未満の場合は、センサのトレンドが通常動作の範囲内であると判別される。即ち、この状況では、ドリフトが見当たらない、センサが一見して安定している、と判別される。ドリフト係数Fは、この場合例えば0値にセットされる。
【0125】
トレンドTr(n)の絶対値がT1とT2の間である場合、センサのトレンドが通常動作の範囲を逸脱している、センサが一見して不安定でドリフトしている、と判別される。即ち、ドリフトありと判別される。このドリフトの厳しさは、次の式
に示すドリフト係数F等で測ることができる。ドリフト係数Fは、0値と1値で挟まれた範囲内の値を採るようセットされる。ドリフト係数Fが大きいほど、一見してドリフトが厳しいということである。なお、ドリフト係数を他の形態で算出する形態も本発明の技術的範囲に包含される。本実施形態は、同患者の血中グルコース濃度に対し一通り又は複数通りのセンサ信号が呈する経時的な乖離の厳しさを示す一通り又は封数通りの値を、背景トレンドを示唆する一通り又は複数通りの指標並びに所定の第1及び第2しきい値に全面的又は部分的に基づき確認する構成の一種である。また、トレンドTr(n)の絶対値がT2超の場合、センサが一見して不安定であり、厳しいドリフトによって滅失していると見なすことができる。その場合、ドリフト係数Fが例えば1値にセットされる。
【0126】
図17に、本実施形態にて使用され入力データ1710に基づき出力情報1712をもたらすコントローラ12の仕組み1700を模式的に示す。図示の通り、このコントローラ12には1個又は複数個のプロセッサ1702及び1個又は複数個のメモリ1704が備わっている。本実施形態ではそのメモリ1704に命令群1706やセンササンプルデータ1708が格納又は実装されている。センササンプルデータ1708とは、例えば
図10,
図12,
図14等に示したサンプル群1004等、血中グルコースセンサでの計測結果のことである。
【0127】
この図に示すコントローラ12は、
図1、
図9及び
図10に示したコントローラ12に対応するものである。入力データ1710に該当するのは、ISF電流センサから得られるものをはじめ、センサによる計測の結果等である。出力情報1712に該当するのは、1個又は複数個のコマンドやその一部を構成する通知情報等である。データ1710として入力されるデータのうち、電流センサによる計測の結果に当たるのは、
図1,
図9,
図10等に示したセンサ信号16やそこから得られるサンプル値等である。情報1712として出力されるコマンドに当たるのは、
図1,
図9,
図10等に示したコマンド22、例えば
図10,
図12,
図14等に示した一通り又は複数通りのアラート信号1006に応じ生成された命令群その他の情報を含むコマンド等である。
【0128】
本実施形態では、入力データ1710がコントローラ12に供給される。コントローラ12は、その入力データ1710に基づき出力情報1712を発生させる。電流センサによる計測の結果は、データ1710として入力されセンササンプルデータ1708として保存される。コントローラ12は、命令群1706に従い、種々のアルゴリズム、関数、メソッド等を実行し、種々の属性、特徴等を具現化させ、といった具合に、本明細書での記載に従い構成されている。例えば、
図10,
図11,
図14等に示した非生理学的異常判別器1008や応答性判別器1010に関わる上述の機能を体現するよう構成されている。コントローラ12は、そのため、接続先の血中グルコースセンサ1個又は複数個から、そのセンサによる計測の結果を示す一通り又は複数通りの信号を受け取る。
【0129】
コントローラ12に備わる1個又は複数個のプロセッサ1702は、命令群1706を実行することで、そのコントローラ12を専用の情報処理デバイスとして働かせ、本明細書での記載に従い、種々のアルゴリズム、関数、メソッド等の実行や種々の属性、特徴等の具現化を担わせている。その又はそれらのプロセッサ1702としては、マイクロプロセッサ、ディジタル信号プロセッサ(DSP)、用途特化集積回路(ASIC)、プログラマブル論理デバイス(PLD)、コントローラ、マイクロコントローラ、その組合せ等を使用することができる。1個又は複数個のプロセッサで実行可能な命令群1706が格納されている1個又は複数個の記録媒体例えば1個又は複数個のメモリで物品を構成することもできる。
【0130】
特に明示のない限り、またこれまでの説明から自明な通り、「処理」、「計算」、「算出」、「判別」、「評価」、「推定」、「識別」、「取得」、「表現」、「受信」、「送信」、「格納」、「解析」、「計測」、「検知」、「制御」、「遅延」、「動作」、「導出」、「実行」、「生成」、「改変」等の語を用いた説明は、本明細書の全体を通じ、具体的な装置例えば専用コンピュータ、専用情報処理装置、それに類する専用の電子的情報処理デバイス等で全面的又は部分的に実行可能な動作、プロセス等のことである。従って、本明細書での説明中に登場する専用コンピュータ又はそれに類する専用の電子的情報処理デバイスなら、その専用コンピュータ、電子的情報処理デバイス等を構成するメモリ、レジスタ、その他の情報記録デバイス、伝送装置、表示装置等で一般に物理的な電子量、磁性量等として表現される信号を操作又は伝送することができる。そうした専用コンピュータ又はそれに類する装置は、例えば1個又は複数個のプロセッサが命令群に従い動作し一通り又は複数通りの機能を体現する形態で実現することができる。即ち、専用コンピュータとは、信号形態を採るデータを処理又は保存する能力のあるシステム又は装置のことである。更に、特に明示のない限り、本明細書中でフローチャート等を参照して説明したプロセスや方法は、専用コンピュータによって全体的又は部分的に実行又は制御することができる。
【0131】
ご理解頂けるように、上述した諸実施形態は単なる例であり、本発明はその技術的範囲内で様々な形態を採り実施することができる。これもまたご理解頂けるように、上述したシステム、方法、装置、デバイス、プロセス等の順序、配置等は単なる例であり、本発明の技術的範囲がそうした順序、配置等で限定されるわけではない。更に、注記すべきことに、本明細書中で説明したシステム、デバイス、方法、装置、プロセス等は、1個又は複数個の情報処理プラットフォームを用い実現、実行することができる。
【0132】
加えて、本明細書中で説明した方法、プロセス等を実現するための命令群は、一通り又は複数通りの機械可読命令群として記録媒体上に格納することができる。その機械可読命令群を実行させることで、情報処理プラットフォームに一通り又は複数通りの動作を実行させることができる。本明細書でいうところの「記録媒体」とは
、例えば1個又は複数個のプロセッサを内蔵するマシン上で使用又は実行される情報又は命令群を保存可能な媒体のことである。例えば、機械可読命令群や情報を保存可能な記録用物品や記録用デバイスを1個又は
複数個備える媒体がこれに該当する。それら、記録用物品、記録用デバイス等は、磁気記録媒体、光学記録媒体、半導体記録媒体、その組合せ等、様々な形態を採りうる。また、1個又は複数個の情報処理プラットフォーム等を、本明細書中で説明した方法、プロセス等をはじめ本発明の技術的範囲に属する一通り又は複数通りのプロセス、方法等を実行可能な構成にすることができる。但し、これらは記録媒体及び情報処理プラットフォームの例に過ぎず、本発明の技術的範囲がそうした側面から限定されるものではない。
【0133】
以上、現下で最適と思われる構成に関し描写及び説明してきたが、本件技術分野で習熟を積まれた方々(いわゆる当業者)にはご理解頂ける通り、本発明の技術的範囲を逸脱することなく、説明にない様々な形態で改良や均等物置換を施すことが可能である。更に、本明細書で説明した主要な概念から逸脱することなく、且つ本発明の要旨に関する教示に従いつつ、個別の状況に適合するよう多様な変形を施すことが可能である。つまるところ、ここでいいたいのは、本発明の技術的範囲が上述した具体例に限定されるべきではない、別紙特許請求の範囲に記載されている諸実施形態やそれに対し均等な形態も本発明の技術的範囲に包含される、ということである。