(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から
図19を参照して、工作機械の制御装置および工作機械について説明する。工作機械としては、主軸が鉛直方向に延びている立形マシニングセンタを例示する。以下の実施形態では、第1の回転工具はエンドミルであり、第2の回転工具はフライスカッタである。ここでは、フライスカッタの底刃を用いて板状部材の側面の加工を行う。
【0018】
図1は、数値制御式の工作機械の概略図である。工作機械10には、加工を行う回転工具としてフライスカッタ20が取り付けられている。被加工物としてのワーク1は、テーブル14に固定されている。
【0019】
工作機械10は、工場等の床面に設置されるベッド12と、ベッド12に固定されているコラム13とを備える。工作機械10は、フライスカッタ20とワーク1とを相対移動させる移動装置を備える。
【0020】
ベッド12の上面には、X軸ガイドレール25が配置されている。X軸ガイドレール25は、X軸方向(
図1において左右方向)に延びている。X軸ガイドレール25には、サドル15が係合している。サドル15は、X軸ガイドレール25に沿ってX軸方向に移動可能に形成されている。サドル15には、旋回装置である回動台16が取り付けられている。回動台16は、回動軸16aを介してテーブル旋回台17を支持している。回動軸16aは、Y軸方向に延びている。回動台16は、矢印101に示すように、回動軸16aの周りにテーブル旋回台17を回動させることができるように形成されている。テーブル14は、テーブル旋回台17に固定されている。
【0021】
テーブル14の上面には、C軸の周りにワーク1を回転させるための数値制御式のロータリテーブル18が配置されている。ロータリテーブル18には、ワークを保持するための保持部材19を介してワーク1が固定されている。
【0022】
移動装置が駆動することにより、テーブル14は、サドル15および回動台16と共にX軸方向に移動する。このために、ワーク1がX軸方向に移動する。テーブル旋回台17が回動することにより、フライスカッタ20に対するワーク1の向きを変更できる。更に、ロータリテーブル18が駆動することにより、ワーク1をC軸周りに回転させることができる。
【0023】
コラム13には、Y軸方向(
図1における紙面に垂直な方向)に延びるY軸ガイドレール26が配置されている。Y軸ガイドレール26には、主軸台27が係合している。主軸台27は、Y軸ガイドレール26に沿ってY軸方向に移動可能に形成されている。
【0024】
主軸台27には、Z軸方向(
図1における上下方向)に延びるZ軸ガイドレール29が取り付けられている。Z軸ガイドレール29には、主軸ヘッド30が取り付けられている。主軸ヘッド30は、Z軸ガイドレール29に沿ってZ軸方向に移動可能に形成されている。
【0025】
主軸ヘッド30には、主軸31が回転可能に支持されている。フライスカッタ20は、主軸31に取り付けられている。主軸31には、フライスカッタ20を回転させるためのモータが接続されている。このモータが駆動することにより、フライスカッタ20は、主軸31の中心軸を回転軸として回転する。
【0026】
移動装置が駆動することにより、コラム13に対して主軸台27がY軸方向に移動する。このために、フライスカッタ20がY軸方向に移動する。更に、移動装置が駆動することにより、主軸台27に対して主軸ヘッド30がZ軸方向に移動する。このために、フライスカッタ20がZ軸方向に移動する。
【0027】
このように、移動装置は、複数の移動軸を含み、複数の移動軸は、直線送り軸としてのX軸、Y軸およびZ軸と、回転送り軸としてのC軸を含む。テーブル14に支持されたワーク1に対してフライスカッタ20を相対的に直線移動させることができる。更に、ロータリテーブル18を駆動することにより、ワーク1に対してフライスカッタ20を相対的に回転移動させることができる。
【0028】
図2に、フライスカッタ20とワーク1との概略断面図を示す。
図3に、フライスカッタ20の概略下面図を示す。
図2および
図3を参照して、フライスカッタ20は、本体部22と、ワーク1を切削する切削部23とを含む。フライスカッタ20の本体部22は、円柱状に形成されている。切削部23は、本体部22の底面22aの周方向に沿って配置されている。複数個の切削部23が、互いに離れて配置されている。切削部23は、チップと称される。切削部23は、取り替え可能に形成されている。
【0029】
フライスカッタ20は、回転軸24を回転中心として回転する。本体部22が回転することにより、切削部23が、矢印103に示す方向に回転する。
図2を参照して、回転するフライスカッタ20を、ワーク1の表面に接触するように配置する。ワーク1の表面が加工面になる。切削部23が、ワーク1に接触する。フライスカッタ20が回転している状態で、矢印102に示すようにワーク1に対して相対的に移動することにより、ワーク1の表面を加工することができる。
【0030】
図2に示す例では、ワーク1の表面の法線方向に対して回転軸24が傾くようにフライスカッタ20が配置されている。すなわち、本体部22の底面22aがワーク1の表面に対して傾斜している。矢印102に示す進行方向の前側の切削部23は、ワーク1の表面から離れた状態で移動する。進行方向の後側に配置される切削部23は、ワーク1の表面に接触して切削を行っている。このように、フライスカッタ20は、ヒール部にて切削加工を行っている。
【0031】
図4に、加工後のワーク1の概略平面図を示す。
図5に、加工後のワーク1の側面図を示す。ワーク1は、板状の部材である。ワーク1は、側面1a,1b,1c,1dと、面積が最大になる面積最大面1eとを有する。それぞれの側面1a,1b,1c,1dは、ワーク1の面積最大面1eよりも面積が小さくなるように形成されている。切削加工では、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工を行う。ここでの例では、側面の鏡面加工を行う。
【0032】
図2を参照して、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工を行うために、側面laと本体部22の底面22aとが互いに対向するように、フライスカッタ20を配置する。ワーク1に対してフライスカッタ20を相対移動することにより、ワーク1の側面la,1b,1c,1dの加工を行なうことができる。
【0033】
図6に、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工を行なうときの工作機械の状態を説明する概略図を示す。ワーク1は、側面1a,1b,1c,1dがフライスカッタ20に対向するように配置する必要がある。このために、回動台16を駆動して、矢印101に示すように、テーブル旋回台17を90°回転させる。ワーク1の側面1a,1b,1c,1dのうち、一つの側面を上側に配置することができる。
【0034】
ワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工では、4つの側面1a,1b,1c,1dの加工を連続して行う。次に、ワーク1の加工方法について説明する。
【0035】
図7に、ワーク1の加工方法の第1工程の概略図を示す。以下の
図7から
図13においては、ワーク1に対するフライスカッタ20の相対的な移動が示されている。また、一点鎖線で示されるフライスカッタ20は、前回の工程において配置されているフライスカッタ20を示している。この例においては、側面1a,1b,1c,1dのうち、面積の小さな側面1aから切削を開始している。加工方法においては、この形態に限られず、面積の大きな側面1b,1dから切削を開始しても構わない。
【0036】
第1工程では、ワーク1の側面1aの側方に、フライスカッタ20を配置する。このときに、Y軸方向にフライスカッタ20を移動させることにより、側面1aの切削が行なわれる位置にフライスカッタ20を配置する。側面1aに向かってフライスカッタ20を移動する。この例では、加工が開始される位置よりも前の位置からワーク1に対するフライスカッタ20の相対移動を行っている。すなわち、エアカットを行っている。
【0037】
図8に、ワーク1の加工方法の第2工程の概略図を示す。フライスカッタ20により側面1aの加工を開始する。フライスカッタ20を、矢印111に示すように、ワーク1の側面1aに沿って相対的に移動させることにより、ワーク1の側面1aの切削を行う。ワーク1の角部まで加工を行う。
【0038】
図9に、ワーク1の加工方法の第3工程の概略図を示す。側面1aの端部まで加工が完了した後に、曲面状の角部を形成するために、ワーク1をC軸周りに回転させる。矢印112に示すように、回転軸2の周りにワーク1を回転させる。フライスカッタ20に対してワーク1を相対的に回転移動させながら切削することにより、曲面状の角部を形成することができる。
【0039】
図10に、ワーク1の加工方法の第4工程の概略図を示す。
図10は、ワーク1の1番目の角部の形成が完了したときの状態を示している。ワーク1の角部が形成されるまで、フライスカッタ20に対してワーク1を回転させる。フライスカッタ20の本体部22の底面22aがワーク1の側面1bと対向する。
【0040】
図11に、ワーク1の加工方法の第5工程の概略図を示す。次に、矢印113に示すように、フライスカッタ20を側面1bに沿って相対的に移動させることにより、側面1bを加工する。同様に、ワーク1に対するフライスカッタ20の直線移動と、回転移動とを組み合わせることにより側面1c,1dを形成することができる。
【0041】
図12に、ワーク1の加工方法の第6工程の概略図を示す。
図12は、フライスカッタ20がワーク1の側面を1周して、側面1aの端部に戻ったときの状態を示している。このように、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dを連続的に切削することができる。
【0042】
図13に、ワーク1の加工方法の第7工程の概略図を示す。側面1a,1b,1c,ldの加工後に、再び側面1aに沿って加工を行う。矢印114示すように、側面1aに沿ってフライスカッタ20を移動させる。このときに、側面1aの加工が終了している位置を越えて直線移動を継続する。すなわち、ワーク1からフライスカッタ20を離す。このように動作させることにより、側面1aの加工精度が劣化することを抑制することができる。
【0043】
このように、ワーク1に対してフライスカッタ20を用いて側面1a,1b,1c,1dの加工を行なうことにより、高精度の加工を行なうことができる。たとえば、側面1a,1b,1c,1dの鏡面仕上げの加工を行うことができる。
【0044】
ここで、比較例として、第1の回転工具としてのエンドミルを用いて、板状の部材の側面を切削する加工方法について説明する。比較例では、回転工具の側刃を用いて加工する。ここで、回転工具の側刃とは、回転工具の回転軸に平行な方向に延びる面の刃を示す。また、回転工具の底刃とは、回転工具の回転軸に垂直な方向に延びる端面の刃を示す。
【0045】
図14に、比較例の加工方法の概略図を示す。比較例の加工方法においては、第1の回転工具としてのエンドミル41を用いてワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工を行う。エンドミル41の軸方向が側面1a,1b,1c,1dと平行になる様に、エンドミル41を配置する。
図1を参照して、工作機械10は、フライスカッタ20の代わりにエンドミル41を装着することができる。ワーク1の側面1a,1b,1c,1dがエンドミル41の軸方向と平行になるように回動台16を制御する。この後にワーク1の側面に沿ってエンドミル41を相対移動することによりワーク1を加工することができる。
【0046】
図14を参照して、エンドミル41による加工においては、エンドミル41の回転中心である工具先端点41aがワーク1の外形に沿って移動する。矢印115および矢印116に示すように、エンドミル41を移動させることにより、エンドミル41の側刃によりワーク1の側面1aを加工する。同様に、矢印117,118,119に示すように、側面1b,1c,1dに沿ってエンドミル41を移動させることにより、側面1b,1c,1dを加工する。更に、矢印116,120に示すようにエンドミル41を移動させることにより、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工が完了する。
【0047】
比較例のように、エンドミル41の側刃で加工を行う場合には、加工面に接触する部分の回転半径は、エンドミル41の半径に相等する。このために、切削する部分の回転半径が小さくなる。加工面のカスプ高さを小さくするためには、エンドミル41の工具径を大きくする必要があるが、工作機械も大型になる。また、エンドミルを高速回転させた場合には、エンドミルの主軸が振れたり、振動が生じたりして、加工面に悪影響を与える場合がある。
【0048】
本実施の形態のように、フライスカッタの底刃にて加工を行なうことにより、切削部が回転するときの回転半径が大きくなる。
図3を参照して、フライスカッタ20は、矢印103に示すように回転するために、フライスカッタ20の切削する部分の回転半径は、刃先半径Rtであり、エンドミルに比べて回転半径が大きくなる。また、切削部23の加工速度を速くすることができて、高精度の表面加工を容易に行なうことができる。また、底刃23aの切削面の曲率半径が大きくなるためにエンドミル等にて加工するよりも加工精度が向上する。
【0049】
更に、フライスカッタ20の底刃にワーク1が接触するために、フライスカッタ20の主軸の振れや振動を抑制することができる。主軸の振れや振動が加工面に悪影響を与えることを抑制できる。さらに、フライスカッタでは、ダイヤモンド等の貴重な材質を用いた工具を使わなくても鏡面加工を行うことができる。
【0050】
加工方法においては、ワーク1の加工面の法線方向に対して、フライスカッタ20の回転軸24が傾くように配置している。すなわち、ワーク1の加工面に対してフライスカッタ20の底面が傾斜した状態で加工を行っている。この構成により、高精度の加工を行うことができる。たとえば、鏡面加工を容易に行うことができる。上記の実施の形態では、フライスカッタ20のヒール部にて切削加工を行っているが、この形態に限られず、フライスカッタ20の進行方向の前側の端部にて加工を行っても構わない。すなわち、フライスカッタ20のトウ部にて加工を行っても構わない。
【0051】
ところで、多くの加工の場合には板状のワーク1の側面を加工するための工具として、比較例のエンドミル41が選択される。CAM装置などにおいては、エンドミル41を用いた場合の工具経路が出力される。工作機械10の制御装置55は、ワーク1の外形に沿ったエンドミル41の工具経路を含む入力情報を読み取る。次に、読み取った入力情報を変換してフライスカッタ20の底刃を用いて、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dの加工を行う工具経路を生成する。
【0052】
図15に、工作機械10と、工作機械10に入力する入力数値データ54を生成する装置を備える加工システムの概略図を示す。CAD(computer aided design)装置51にてワーク1の形状を設計する。CAD装置51は、ワーク1の形状データ52をCAM(computer aided manufacturing)装置53に供給する。
【0053】
CAM装置53においては、形状データ52に基づいて、工作機械10の制御装置55に入力するための入力情報としての入力数値データ54が生成される。入力数値データ54は、第1の回転工具としてのエンドミル41の側刃を用いてワーク1の側面を加工するときの数値データである。入力数値データ54は、エンドミル41を用いたときの工具先端点の経路を示すデータを含む。エンドミル41の工具先端点は、底面の回転中心点になる。入力数値データ54は、X軸、Y軸およびZ軸の座標値によって構成されている。
【0054】
数値制御式の工作機械10は、制御装置55を備える。制御装置55は、演算処理装置を含む。演算処理装置は、演算処理等を行うマイクロプロセッサ(CPU)、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、およびその他の周辺回路を有する。
【0055】
制御装置55は、入力数値データ54を用いて、出力数値データ62を生成する。制御装置55は、入力情報読取部として機能する数値データ読取部56と、経路設定部60とを含む。数値データ読取部56は、入力数値データ54を読込む機能を有する。数値データ読取部56により、入力数値データ54を読み込む。数値データ読取部56は、座標値列を出力する。ここでの座標値列は、X軸、Y軸およびZ軸の座標値およびC軸の回転角度によって構成されている。
【0056】
経路設定部60は、読み込んだ入力数値データ54に基づいて出力数値データ62を生成する。経路設定部60は、フライスカッタ20の底刃にて加工を行うための工具経路を設定する。経路設定部60は、ワーク1に対するフライスカッタ20の傾斜角度等に基づいて、フライスカッタ20の工具経路を設定する。出力数値データ62には、ワーク1に対してフライスカッタ20を相対移動させる数値データが含まれている。すなわち、出力数値データ62は、フライスカッタ20を用いたときの移動装置に対する指令が含まれている。
【0057】
経路設定部60にて出力された出力数値データ62は、例えば、X軸、Y軸およびZ軸のフライスカッタ20の工具先端点の座標と、C軸におけるワーク1とフライスカッタ20との相対的な角度により設定することができる。
【0058】
出力数値データ62は、数値制御部63に入力される。数値制御部63は、出力数値データ62に基づいて移動装置の各軸サーボモータ64を駆動する。各軸サーボモータ64には、X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータおよびC軸サーボモータ等が含まれる。これにより、ワーク1とフライスカッタ20との相対移動を行なうことができる。
【0059】
次に、経路設定部60において、フライスカッタ20の底刃にて加工を行うための工具経路を生成する制御について説明する。
【0060】
入力数値データ54には、
図14に示す比較例のエンドミル41を用いた場合の工具経路が設定されている。経路設定部60は、エンドミル41を用いた場合の工具経路を用いて、ワーク1の輪郭を通る経路に変換する。
【0061】
図16に、ワーク1の輪郭を通る経路を説明する概略図を示す。矢印121は、ワークに対して、工具が進入することを示している。矢印122から矢印129は、ワーク1の側面1a,1b,1c,1dを通る経路を示している。さらに、矢印122および矢印130は、工具がワークから離れることを示している。矢印122から矢印129に囲まれる形状は、加工後のワーク1の輪郭に相等する。例えば、矢印122はワーク1の側面1aに対応し、矢印124は側面1bに対応する。
【0062】
ワーク1の輪郭を通る経路は、たとえば、
図14に示すエンドミル41の工具経路からエンドミル41の半径分を内側に移動することにより算出することができる。すなわち、エンドミル41の半径に対応する長さでオフセットさせる演算を行う。
【0063】
次に、ワーク1の輪郭を通る経路に基づいて、フライスカッタ20の底刃で加工を行なうための工具経路を生成する。下記の例では、ワーク1の面積最大面1eの重心位置を原点とするワーク座標系にて示しているが、機械座標系を用いても構わない。
【0064】
ワーク1の輪郭を通る経路を示す点列であるベクトルPnは、次の式(1)で示される。この点列は、X軸の座標およびY軸の座標により表すことができる。変数nは、経路上に含まれる点の番号を示している。この例では、工具経路を算出するための点がN個設定されている。
【数1】
【0065】
経路設定部60の出力の指令値であるベクトルQnは、次の式(2)で示される。経路設定部60の出力の指令値は、Y軸の座標とZ軸の座標と、C軸周りの回転角度により設定することができる。工具経路設定部60は、式(1)の点列を用いて式(2)の指令値としてのベクトルQnを出力する。
【数2】
【0066】
図17に、フライスカッタ20の工具経路を算出するための変数を説明するフライスカッタ20とワーク1との拡大断面図を示す。
図17は、ワーク1にフライスカッタ20が接触している部分の拡大概略断面図である。なお、
図17では、理解しやすいように、底刃23aの曲率半径を実際のフライスカッタよりも小さくして記載しており、また、リード角θを実際のリード角よりも大きくして記載している。
【0067】
切削部23は、底刃23aを有する。フライスカッタ20の底面は、ワーク1の加工面と対向する。底刃23aは、断面形状が円弧になるように形成されている。底刃23aには、頂点23bが含まれる。工具コーナ半径Rcは、切削部23の底刃23aにおける曲率半径である。点Bcは、工具コーナ半径Rcの中心点である。頂点23bは、点Bcを通る回転軸24と平行な直線を引いたときに底刃23aと交わる点である。
【0068】
リード角θは、ワーク1の加工面に対するフライスカッタの傾斜角度である。例えば、リード角θは、本体部22の底面22aとワーク1の加工面とがなす角度である。または、リード角θは、ワーク1の加工面の法線方向と回転軸24とがなす角度である。リード角θは、例えば1°以下の小さな角度が採用される。この例では、リード角θとして0.05°が採用されている。
【0069】
本体部22の底面には、工具先端点Tcが設定される。本発明におけるフライスカッタ20の工具先端点とは、フライスカッタ20の回転軸24とフライスカッタ20の底面とが交わる点である。刃先半径Rtは、工具先端点Tcと頂点23bとのフライスカッタ20の径方向の距離である。接点Dは、切削部23がワーク1と接触している点である。なお、この例では、リード角θが小さく、また、工具コーナ半径Rcが大きいために、接点Dと頂点23bとは、同一位置であると近似することもできる。
【0070】
図18に、フライスカッタ20を用いた場合の工具経路を算出するための説明図を示す。n番目の点PであるベクトルPnにおける進行方向を算出する。n番目の点Pから(n+1)番目の点までの移動を示すベクトルΔPnは、次の式(3)で算出される。また、n番目の点Pから(n+1)番目の点Pまでの移動距離Lnは、次の式(4)で算出される。
【数3】
【0071】
次に、n番目の点Pから(n+1)番目の点Pまで移動するときの正規化された進行方向として、ベクトルU1
nを式(5)により算出する。さらに、(n−1)番目の点Pからn番目の点Pまで移動するときの進行方向であるベクトルU1
n−1を求める。この後に、n番目の点Pに対する前後の点について平均化した進行方向U2
nを式(6)により求める。
【数4】
【0072】
ここで、上記の例では、n番目の点Pの進行方向を正確に算出するために、n番目の点Pの前後の進行方向を考慮しているが、曲線部分に進入する直前の直線部分では、n番目の点Pの前後の進行方向を考慮する必要はない。すなわち、直前の直線移動の部分のみを考慮すればよい。曲線部分から直線部分に移行する場合も同様に、直線移動の部分のみを考慮すればよい。
図18に示すように、直線移動の部分では点Pの移動距離が大きく、曲線部分では点Pの移動距離が小さく設定される。この例では、長さ閾値Tを設定し、点Pの前後の移動距離と長さ閾値Tに基づいて進行方向U3
nを次の式(7)により求めることができる。長さ閾値Tとしては、直線部分の移動距離と曲線部分の移動距離とに基づいて設定することができる。
【数5】
【0073】
次に、式(7)では、最初の点(n=0)と最後の点(n=N)とが計算されていないために、最初の点と最後の点の進行方向を設定する。全ての点における正規化された進行方向は、次の式(8)のベクトルVnにて示される。
【数6】
【0074】
次に、切削部の接点Dから工具先端点TcまでのオフセットベクトルとしてのベクトルOnを算出する。ベクトルOnは、次の式(9)にて示される。
【数7】
【0075】
ここで、変数Bxおよび変数Byは、次の式(10)から算出される。変数Drは、ワーク1の回転方向を示す。例えば、ワーク1の回転方向が時計回りの場合は、変数Drは1に設定され、ワーク1の回転方向が反時計回りの場合は、変数Drが(−1)に設定される。変数Bxおよび変数Byは、点Pの位置に関わらずに同一の値になる。このために、予め算出しておいて、複数の点Pの進行方向を計算する度に引用しても構わない。
【数8】
【0076】
次に、点Pの進行方向であるベクトルVnと、オフセットベクトルとしてのベクトルOnに基づいて、式(11)により指令値としてのベクトルQnを算出する。
【数9】
【0077】
式(11)において、関数(atan2)は、数値のアークタンジェント(逆タンジェント)を計算する関数である。関数(atan2)は、式(12)にて表される。
【数10】
【0078】
指令値であるベクトルQnには、工具先端点TcのY軸の座標およびZ軸の座標と、ワーク1のC軸周りの回転角度が示されている。切削部23の接点Dに対する工具中心Tcの相対位置と、接点Dの進行方向とに基づいて、指令値を算出することができる。このように、経路設定部60は、ワーク1に対するフライスカッタ20の相対位置を設定することができる。すなわち、フライスカッタ20の工具経路を設定することができる。
【0079】
ここで、この加工方法の効果を更に詳細に説明すると、フライスカッタ20の底刃にて加工を行なうと、ワーク1の加工を行う部分の曲率半径が大きくなる。たとえば、比較例のエンドミルとしては、直径が10mm以上16mm以下である。このときのワーク1の加工を行う部分の曲率半径は、5mm以上8mm以下になる。これに対して、上記の例のフライスカッタの切削部23の底刃23aの曲率半径になる工具コーナ半径Rcは、約100mmである。このように、ワーク1の加工を行う部分の曲率半径が大きくなるために高精度の加工を行うことができる。
【0080】
また、フライスカッタの底刃を用いて加工を行うことにより、切削部が回転するときの回転半径が大きくなる。切削部が回転するときの回転半径は、刃先半径Rtに相等する。上記の実施例では、刃先半径Rtは、約37mmである。これに対して、エンドミル41の切削する部分の回転半径は、エンドミル41の半径に相等する。たとえば、エンドミル41の回転半径は、5mm以上8mm以下である。このように、フライスカッタ20は、エンドミル41よりも切削する部分の回転半径を大きくすることができる。このために、ワーク1に対する切削部の加工速度を速くすることができて、高精度の表面加工を行なうことができる。
【0081】
上記の実施の形態では、制御装置55が、CAM装置53にて生成された入力数値データ54を用いてフライスカッタ20の工具経路を生成しているが、この形態に限られず、CAD装置から出力されるワーク1の形状データを数値データ読取部56で読み取って、フライスカッタ20の工具経路を生成しても構わない。ワーク1の輪郭を通る経路は、ワーク1の形状に基づいて生成することができる。この制御を行うことにより、ワークの輪郭等のワークの外形の情報と回転工具の刃先の情報のみを入力することにより高精度の切削加工を行うことができる。たとえば、ワークの外形の座標と、切削部23の工具コーナ半径Rcおよび刃先半径Rtとを入力することにより、高精度の加工を行うことができる。この時のリード角などの変数は、予め設定された値を使用することができる。
【0082】
入力情報読取部が読み取る入力情報は、ワークの外形に沿った第1の回転工具の側刃で加工する工具経路を含む情報を採用することができる。たとえば、入力情報は、第1の回転工具の工具経路を含む第1の加工プログラムであっても構わない。回転工具の工具経路が直接的に記載されている入力数値データは、ワークに対する回転工具の相対位置がそれぞれの点列の座標値で示される。これに対して、加工プログラムは、例えば、使用者が読み取ったり作成したりし易い様に、マクロコード等が含まれる。入力情報読取部は、このような加工プログラムを読み込んでも構わない。また、同様に、経路設定部は、フライスカッタの底刃にて加工を行う工具経路を含む第2の加工プログラムを出力情報として出力しても構わない。
【0083】
図1を参照して、工作機械10は、ワーク1の向きを変更するための回動台16およびテーブル旋回台17を備えるが、この形態に限られず、工具の底刃にて加工を行うことができる任意の工作機械を用いることができる。
【0084】
図19に、他の工作機械10の概略斜視図を示す。他の工作機械10の移動装置は、ロータリワークヘッド71を備える。ワーク1は、保持部材72を介してロータリワークヘッド71に支持されている。ロータリワークヘッド71が駆動することにより、ワーク1をA軸73の周りに回転させることができる。フライスカッタ20は、矢印103に示すように回転するように形成されている。フライスカッタ20は、Y軸およびZ軸の方向に移動可能に形成されている。このような工作機械においても、上記の実施の形態と同様のワーク1の側面の加工を行うことができる。
【0085】
上記の実施の形態においては、第1の回転工具はエンドミルであり、第2の回転工具はフライスカッタであるが、この形態に限られず、回転軸周りに回転しながら加工を行う回転工具を用いることができる。
【0086】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、請求の範囲に示される変更が含まれている。