【実施例】
【0065】
実施例1:乳房連鎖球菌のSrtA変異体の生産および評価
方法および材料
細菌株および試薬
最初にUKにおけるウシ乳腺炎の臨床例から単離された乳房連鎖球菌株0140Jを、本試験にわたって使用した。該細菌は、常法通り日常的にTodd HewittまたはBrain Heart Infusion培養液において培養した。
【0066】
スキムミルクは、Institute for Animal Healthの乳牛群内の数匹の乳牛から無菌で回収した未処理の牛乳から生産した。ミルクは乳腺内感染していない動物から回収した。遠心分離(3,000×g、10分)後、上部脂肪層および沈降した細胞のペレットから、スキムミルクを注意深く取り出した。スキムミルクの無菌性を、アエスクリン(1.0%、w/v、ABA)を含む血液寒天培地上に直接、500μlのミルクを置き、5mlのミルクおよび等容量のTodd Hewitt培養液で集積培養し、次にABA上の単一コロニーの単離を行うことにより決定した。両方の場合において、プレートを37℃で18時間インキュベートした。スキムミルクを4℃で保存し、72時間以内に使用した。
【0067】
他の細菌株および試薬を、テキストに記載されているとおりに使用した。
【0068】
遺伝子型選択によるsrtA変異体の単離
以前に記載されているもの(Taylor, D. L. et al, 2003. J Bacteriol 185:5210-5219; Ward, P. N. et al 2001 Infect Immun 69:392-399)と同様のプロトコールにしたがって乳房連鎖球菌0140J pGhost9::ISS1変異体バンクのPCRスクリーニング後に、srtA(Sub0881)変異体を単離した。簡単に言うと、個々の96−ウェルプレートから一晩培養物を集め、ゲノムDNAを、ローカス特異的プライマーP261(srtA)およびISS1特異的プライマー、P247またはP250を含むPCR増幅反応において鋳型として使用するために調製した。増幅は、35サイクル(95℃20秒、54℃1分および72℃3分)を使用して実施し、AmpliTaq Gold master mix(ABI)で実施した。産物をゲル電気泳動、臭化エチジウムでの染色およびUV光でのトランスイルミネーションにより可視化した。プレート同定後、ウェル位置を、標的プレートのカラムおよび列から集められたゲノムDNAを使用して同様に同定した。変異体クローンの単離後、プラスミドベクターの切除を、抗生物質選択なしに許容温度(28℃)での培養により促進させた。pGhost9ベクターの喪失およびISS1の維持を、以前に記載されているサザンブロット法(Ward, P. N. et al 2001 Infect Immun 69:392-399)により確認した。srtAにおける挿入物の存在を、オープン・リーディング・フレームのPCR増幅およびISS1と破壊されたORFとの間の接合部にわたる得られた産物のシーケンシングにより確認した。使用されたPCRプライマーは以下の表1に示されるとおりである。
【表1】
表1:PCRプライマー。P247 ISS1 fwd(配列番号:16);P250 ISS1 rev(配列番号:17);P261(配列番号:18);P409(配列番号:19);P410(配列番号:20);P615(配列番号:21);P630(配列番号:22);P480(配列番号:23);P481(配列番号:24);P621(配列番号:25)。
【0069】
乳房連鎖球菌から染色体DNAの抽出
ゲノムDNAは、以前に記載されているHill and Leighの方法の変法を使用して調製した(Hill, A. W. et al 1994 FEMS Immunol Med Microbiol 8:109-117)。簡単に言うと、1.5mlの一晩培養物を10,000×gで2分遠心分離し、細胞ペレットを500μlの10mM Tris−Cl、5mM EDTA、pH7.8で洗浄した。細菌細胞壁を、30単位/mlのムタノリシンおよび10mg/mlのリゾチーム(両方ともSigma-Aldrich, St Louis, MO, USAから)を含む375μlの10mM Tris−Cl、5mM EDTA pH7.8中でのに再懸濁により崩壊させ、次に37℃で30分インキュベーションした。全細胞溶解を、最終濃度150μg/mlに20μlのSDS溶液(20%w/v 50mM Tris−Cl、20mM EDTA、pH7.8)およびプロテイナーゼK(Sigma)の添加により達成し、37℃で1時間さらにインキュベーションした。細胞壁物質を、200μlの飽和NaClの添加による沈降、次に12,000×gで10分の遠心分離により除去した。上清をフェノール・クロロホルムで抽出し、DNAを2容量の無水エタノールの添加により沈澱させた。DNAペレットを、70%水性エタノールで洗浄し、空気乾燥させ、20μg/mlのRNAase−A(Sigma)を含むTEバッファーに再懸濁した。
【0070】
泌乳期乳牛への乳房連鎖球菌0140JおよびSrtA変異体での抗原投与
感染原因におけるSrtAの役割を、乳牛の乳腺内感染モデルにおいて、株0140JおよびSrtAを欠いている変異体(srtA変異体)の毒性比較により決定した。細菌は、Todd Hewitt 培養液において18時間37℃で培養した。細胞を遠心分離(10,000×g、10分)により回収し、発熱物質−非含有塩水(Sigma)に懸濁し、必要な細胞密度を提供するように同じもので希釈した。それぞれの株の懸濁液を、抗原投与動物に使用するまで氷上に保持した。それぞれの懸濁液の同一のアリコートにおける生菌数を抗原投与前後に数えた。
【0071】
第1の泌乳から2−10週以内の6匹の乳牛を、抗原投与のためにInstituteの乳牛群から選択した。選択のための基準は以下のものである。乳腺炎の徴候の非存在、抗原投与前にミルクサンプルにおける細菌の非存在、現在の泌乳中に乳腺炎の病歴がない、および出産7および14日後に得られたミルクサンプルにおいて乳腺内感染の証拠がない。動物に対し、1mlの乳房連鎖球菌を含む発熱物質−非含有塩水(Sigma)の注入により乳房区に抗原投与した。2匹の動物に対し、全4つの乳房区に6.0×10
2cfuの株0140Jを抗原投与し、さらに4匹の動物に対し、全8つの乳房区に類似の用量のsrtA変異体を抗原投与した。抗原投与後、動物を1日に2回(07:00時および15:30時)搾乳および検査し、臨床的エンドポイントのあらかじめ決められた基準(凝固し変色したミルクおよび/または乳房区腫大または触診において誘発する不快感)に達したものを、
図2で概説された規定された基準にしたがって、商標登録された(proprietary branded)抗生物質で処置した。ミルクサンプルを取り、下記のとおりに細菌および体細胞に関して分析した。
【0072】
ミルクサンプルの分析
存在する生菌数を、ABA上に1mlおよび100μlのそれぞれのミルクサンプルを直接置くことにより概算した。また、サンプルを塩水で希釈し、50μlのそれぞれの希釈物をABA上に直接置いた。それぞれの場合において、乳房連鎖球菌の存在および/または数を測定し、回収された単離物の遺伝子型を、以下に記載されているとおり、染色体DNAの制限酵素切断フラグメント長多型(RFLP)およびsrtA遺伝子座の増幅を含むことにより、決定した。ミルクサンプル中に存在する体細胞数を、コールターカウンター(Beckman Coulter, Ltd)を使用して測定した。
【0073】
メタノールクロロホルム沈降による細菌増殖培地由来のタンパク質の調製
細菌を、BHI(200ml)中で培養培地でOD600nmで約0.5に増殖させ、遠心分離(16,000×g、20分、4℃)により回収し、細菌増殖培地を0.22μMフィルター(Millipore)を介してフィルター滅菌した。1×濃度で完全プロテアーゼ阻害剤(Roche)の添加後、細菌増殖培地を、10kDaの分子量排除でAmicon遠心濾過機(Millipore)を使用して、約100倍に濃縮した。タンパク質を沈殿させるために、600μlのメタノールおよび150μlのクロロホルム(両方ともBDH)を、200μlの濃縮された細菌増殖培地に加えた。調製物をボルテックスし、450μlのMilliQ水を加え、遠心分離(16,000×g、1分)した。上相を注意深く取り出して捨て、450μlのメタノールを残りの物質に加え、これをボルテックスし、遠心(16,000×g、2分)した。上清を除去し、残りのペレットを空気乾燥させ、SDS−ローディングバッファーに再懸濁した。
【0074】
界面活性剤での非固定化タンパク質の抽出
上記培養物由来の細菌ペレットを40mlのPBSで3回洗浄し、500μlのヒアルロニダーゼを含むPBS(100U/ml、Sigma−Aldrich)に再懸濁した。細胞を2時間37℃でインキュベートし、加水分解された莢膜物質を遠心分離(8000×g、6分、4℃)により除去した。細胞を40mlのPBSで3回洗浄し、200μlのPBS中の0.1%(v/v) NonIdet P−40(NP−40)に再懸濁した。遠心分離(16,000×g、10分、4℃)による細菌細胞の除去後に、界面活性剤抽出物を回収した。
【0075】
組換えSub1154およびSub1370タンパク質の生産および精製
乳房連鎖球菌0140J ゲノムDNAから、スブチラーゼ様セリンプロテアーゼと相同性を有する推定srtA基質であるSub1154の予測される成熟コード配列(すなわち、N−末端シグナル配列を欠いている)を増幅するために、プライマーp409およびp410(上記表、参照)を設計した。3.4kbのアンプリコンを、Phusion
TM高忠実度ポリメラーゼ(New England Biolabs)を使用して産生し、MinElute PCR Purification Kit(Qiagen)を使用して精製し、方向性(directional)クローニングを容易にするために、KpnI(New England Biolabs)で処理した。プラスミドpQE1(Qiagen)を、PvuII、KpnIおよびAntarcticホスファターゼ(全てNew England Biolabs)を使用して製造し、構築物を製造業者の指示にしたがって一晩20℃でライゲーションした(T4 DNAリガーゼ、New England Biolabs)。20マイクロリットルのライゲーション混合物を、Atrazhev and Elliottの方法(Atrazhev, A. M., and J. F. Elliott. 1996 Biotechniques 21:1024)を使用して、脱塩した。約10ngの脱塩されたライゲーション混合物で、大腸菌 M15 pREP4(Qiagen)を形質転換させ、組換えクローンをLB Kan25μg/ml Amp50μg/mlの寒天プレートで選択した。残基Asp34で開始する組換え(6×Hisタグ)Sub1154タンパク質を、50μg/mlのアンピシリンおよび25μg/mlのカナマイシンを含む1600mlのLB培養液への一晩培養物の希釈(1/30)により精製し、2時間撹拌なしで20℃で培養した。組換えSub1370を、プライマーP480およびP481を使用することにより、同様に製造し、800mlの培養培地で同様に増殖した。タンパク質発現をIPTGの添加により最終濃度0.2mMに誘導した。培養物をさらに2−4時間インキュベートし、次に8,000×gで20分遠心し、細菌細胞を回収した。それぞれ、約1mgおよび0.3mgの可溶性6×HisタグSub1154およびSub1370タンパク質を、製造業者の指示にしたがって、CelLyticおよびHisSelect高流量カートリッジ(両方ともSigma)を使用して、プロテアーゼ阻害剤(完全−EDTAフリー;Roche)の存在下で精製した。
【0076】
ウサギにおけるSub1154およびSub1370抗血清の生産および免疫ブロット
約50μgのフリーズドライされた精製された組換えSub1154およびSub1370タンパク質の5つのアリコートを、ウサギにおける血清生産のためにDavids Biotechnologie(Germany)に提供した。抗血清(50ml)は、フィルター滅菌され、保存剤として0.02%のアジ化ナトリウムを含んで、提供された。
【0077】
野生型乳房連鎖球菌およびSrtA変異体の培養物由来の界面活性剤および培地抽出物を、10%ドデシル硫酸ナトリウム ポリアクリルアミド(SDS−PAGE)ゲルで分離し、次に、免疫検出のためにニトロセルロース膜(Amersham)に移すか、あるいはInstantBlue (Novexin)を使用してクマシー染色した。転写は、25mMのTris−base、192mMのグリシンおよび20%(v/v)のメタノール、pH8.1−8.4からなる転写バッファーでTransblot装置(Biorad)において、170mAで1時間で行った。転写後、膜をPBS中の1%のスキムミルク粉末のブロッキング溶液中で4℃で一晩インキュベートした。膜を、0.1%のTween 20(PBST)を含むPBSで5分間で3回洗浄し、次にブロッキング溶液中における、1/12,000希釈(Sub1154抗血清の場合)および1/16,000希釈(Sub1370抗血清の場合)のウサギ抗血清と共に1時間インキュベートした。膜をPBST中で5分間、3回洗浄し、次に1/1,000希釈のHRPに複合体化させたヤギ抗−ウサギ免疫グロブリンG(Southern Biotech)と共に1時間インキュベートした。膜を、上記のとおりに再び洗浄し、HRP複合体を、16.7%のメタノールおよび0.00015%(v/v)のH
2O
2を含むPBS中の4−クロロナフトール(0.5mg/ml)の溶液を使用して検出し、暗下で1時間インキュベートし、膜をPBSで洗浄し、乾燥させた。
【0078】
srtA変異体の単離および遺伝的特性化
乳房連鎖球菌0140Jの完全ゲノムの分析によって、単一のソルターゼ相同体であるソルターゼA(srtA)の存在を確認した(Ward, P.N. et al (2008年提出) BMC Genomics)。変異体クローンを、逆方向性において、ソルターゼコード配列の塩基対248と249間に挿入されたISS1エレメントで単離した。この変異srtA遺伝子の翻訳産物は、srtA ORFにおいてコードされる252アミノ酸の最初の82残基と終始コドンに達する前のISS1エレメントにおけるさらなる18残基からなった。
【0079】
ウシ乳腺における実験的抗原投与後の野生型およびsrtA変異体乳房連鎖球菌の感染性および毒性
野生型株と比較したsrtA変異体の感染性および毒性を、多くの乳牛のウシ乳腺に抗原投与することにより測定した。600cfuの野生型乳房連鎖球菌を与えた動物の全抗原投与乳房区は感染し、抗原投与48−60時間後までに、約10
6から10
7cfu/mlで細菌を流出した(
図1A)。類似の用量のsrtA変異体を4匹の動物における8つの乳房区に抗原投与後、全てが感染の証拠を示し、srtA変異体が、抗原投与24時間以内に野生型のものと類似のレベルで、ミルク中で検出された。しかしながら、その後の細菌コロニー形成は、抗原投与24時間後までの最大10
4cfu/mlミルクから減少し、その結果、実験の終わり(抗原投与の7日後)までに存在する平均細菌数が約10cfu/mlになった(
図1B)。この時点まで、8つの乳房区のうち2つだけが細菌を流出し続け、残りは感染を解消した(<1cfu/ml ミルク)。
【0080】
感染に応答した乳腺への細胞浸潤は、両方の動物群において同一であり、抗原投与株に依存していなかった。それぞれの場合において、これは、このモデルにおいて以前に報告されているものと類似であり、抗原投与の48−60時間後までに最大約10
7細胞/mlミルクに達した。野生型株で抗原投与された動物において、これは、乳腺炎の急性臨床徴候の外観と一致し(
図2および
図1C)、これは感染を解消し、疾患の徴候を緩和するために抗生物質治療の投与を必要とした。全く対照的に、srtA変異体を投与された動物は、たとえあったとしても、乳腺炎の徴候をほとんど示さなかった(
図2および
図1C)。
【0081】
図1に示される結果は、乳房連鎖球菌が、該細菌による毒性の完全発現のために、srtAによってコードされるソルターゼタンパク質を必要とすることを証明する。SrtAを欠いている変異体は、最初に野生型乳房連鎖球菌と同様にウシ乳腺にコロニーを作ることができるが、最大細菌数が野生型株を抗原投与された動物由来のミルクにおいて検出されたものよりも約1000倍低く維持されるので、高レベルで該腺にコロニーを作ることができなかった。これは、srtA変異体が疾患の進行性臨床徴候を誘導できないことと一致した。
【0082】
srtAは、高レベルのコロニー形成および/または症候性疾患と関連する重度の炎症応答の誘導のために、毒性に関与する1つ以上のタンパク質を細菌の表面に固定すると理解することができる。
【0083】
乳房連鎖球菌におけるソルターゼ固定化タンパク質の検出
ソルターゼにより乳房連鎖球菌の細胞壁に固定されたタンパク質を同定するために、野生型乳房連鎖球菌の細胞壁タンパク質を乳房連鎖球菌のSrtA変異体のものと比較した。
【0084】
固定された細胞壁タンパク質のトリプシンペプチドを単離するために使用される方法論は、以下のとおりである。細菌培養物を、THBまたはBHIのいずれかにおいて指数増殖期および静止期の両方まで増殖させた。指数増殖培養物を、OD550nmで0.6の光学濃度まで1.5リットルの培養液において増殖させ、静止期培養物を一晩1リットルの培養液において増殖させた。細菌細胞ペレットを遠心分離(16,000×g、10分、4℃)により回収し、PBS、PBS中の0.1%(v/v) Nonidet P40(NP40)およびPBSで連続洗浄し、上記のとおりの遠心分離により回収した。細胞ペレットを、1×完全プロテアーゼ阻害剤(Roche)を含むPBSに再懸濁し、0.1mmのジルコニア/シリカビーズを含むねじぶた付きマイクロチューブ中で、氷上の散在された休息期間を有する5×1分間隔で最大速度でビーズ破砕することにより、破壊した。破壊されていない細胞およびビーズを遠心分離(8,000×g、10分、4℃)2回により除去し、次に上清を高速遠心分離(125,000×g、30分)に付した。得られたペレットを4%のSDS/PBSに再懸濁し、80℃で4時間加熱し、次に遠心した(200,000×g 30分)。得られたペレットを30℃でMilliQ水で4回洗浄し、上記のとおりに遠心した。次にペレットを1μgのプロテオミクスグレードトリプシン(Sigma)を含む50mMの重炭酸アンモニウムに再懸濁し、一晩37℃で撹拌してインキュベートした。遠心分離(16,000×g、10分)後に上清からペプチドを回収し、消化を最終濃度0.1%でのギ酸の添加により停止させた。
【0085】
ペプチドを、逆相液体クロマトグラフィー系を使用するナノLC−MS/MSにより、分離して分析した。MS/MSデータの解釈および提示は、乳房連鎖球菌0140Jに関して生産されたゲノムデータベースを使用してMascotソフトウェア(Matrixscience, London, UK)を使用して行われる探索で、公開ガイドラインにしたがって行った。
【0086】
存在するタンパク質を同定するために、トリプシンペプチドの配列を、乳房連鎖球菌の翻訳ゲノム配列とアラインした。
【0087】
図4およびBに挙げられている9つのタンパク質は、乳房連鎖球菌0140Jから調製された細胞壁上に存在するが、乳房連鎖球菌の同系srtA欠失変異体の培養物から作られた同等調製物に非存在であることが見出され、該タンパク質がソルターゼ固定化タンパク質であることが証明された。
【0088】
9つのソルターゼ固定化タンパク質の配列は、
図6Aから6Iに挙げられている。
図6Jから6Oは、プロテオミクスにより同定された推定ソルターゼ固定化タンパク質の配列である。
【0089】
野生型およびSrtA変異体乳房連鎖球菌のタンパク質抽出物におけるSub1154およびSub1370タンパク質の検出
乳房連鎖球菌ソルターゼ固定化タンパク質の2つの例である組換えSub1154および組換えSub1370は、両方とも、増幅させたゲノム乳房連鎖球菌DNAから産生し、該産物をpQE1ベクターを使用する大腸菌でクローニングし、これはそれぞれのタンパク質のN−末端で6×Hisタグを組み込んでいた。組換えタンパク質を、6×Hisタグを利用して精製し、抗血清の生産のために使用した。
【0090】
次に、ウサギ抗−Sub1154および抗−Sub1370を使用して、乳房連鎖球菌0140JおよびsrtA変異体の界面活性剤および培地抽出物の免疫ブロット法により、Sub1154およびSub1370タンパク質を検出した。BHIにおいて培養されたSub1154およびSub1370変異体由来の培地抽出物も、抗血清で調べた。Sub1154の検出を、srtA界面活性剤抽出物およびSub1154変異体培地抽出物において確認した。後者の場合において、タンパク質の予測される切断形を検出した(
図5A)。Sub1370に対応するタンパク質は、srtA変異体から得られた増殖培地のみで検出された(
図5B)。srtA変異体由来の抽出物のみにおけるSub1154およびSub1370タンパク質の存在は、野生型株において、該タンパク質がソルターゼにより乳房連鎖球菌の細胞壁に固定されていることを示す。
【0091】
実施例2:乳房連鎖球菌の毒性における特異的ソルターゼ固定化タンパク質の必要性に関する調査
ソルターゼ固定化タンパク質の同定後、これらをコードするそれぞれの遺伝子で野生型株を変異させた。それぞれ個々のソルターゼ固定化タンパク質を欠いている変異体を、毒性を評価するために、乳牛における抗原投与モデルにおいて使用した。毒性の減少または除去を示すものから欠失しているタンパク質は、疾患の病因/病理に関与する。のこれらのタンパク質のいずれか、好ましくは全てに対する中和免疫(抗体)応答の誘導は、野生型株での感染後の疾患を減少させるであろう。したがって、毒性において役割を有すると同定されたタンパク質のいずれか、好ましくは全てを含むワクチンは、畜牛における乳腺炎の予防において有用であろう。
【0092】
方法論
SrtA固定化タンパク質(Sub0135、Sub0145、Sub0207、Sub0241、Sub0826、Sub0888、Sub1095、Sub1154、Sub1370、Sub1730)を欠いている乳房連鎖球菌の変異体株の生産および単離
挿入的に不活化された変異体は、以前に記載されている(Taylor, D. L. et al, 2003. J Bacteriol 185:5210-5219; Ward, P. N. et al 2001 Infect Immun 69:392-399)ものと同様のプロトコールにしたがって、乳房連鎖球菌0140J pGhost9::ISS1変異体バンクのPCRスクリーニングにより、ランダム挿入変異体バンク内に位置していた。簡単に言うと、個々の96−ウェルプレートから一晩培養物を集め、ゲノムDNAを、それぞれの興味ある遺伝子に対するローカス特異的プライマーを含むPCR増幅反応において、鋳型として使用するために調製し、ISS1に特異的なプライマーと共に使用した。変異体クローンの単離後、プラスミドベクターの切除を、抗生物質選択なしに許容温度(28℃)での培養により促進させた。pGhost9ベクターの喪失およびISS1の維持を、以前に記載されているサザンブロット法(Ward, P. N. et al 2001 Infect Immun 69:392-399)により確認した。適当なORFにおける挿入物の存在を、オープン・リーディング・フレームのPCR増幅およびISS1と破壊されたORFの接合部にわたる得られた産物のシーケンシングにより確認した。
【0093】
SUB1154コード配列のほぼ開始点付近に位置するISS1を有する0140Jランダム変異体バンクから挿入変異体を単離する試みは、不成功であることが証明された。標的欠失戦略を、SUB1154遺伝子産物の生産を除去するために使用した。簡単に言うと、3432塩基対オープン・リーディング・フレームのいずれかの末端に位置する2つのフラグメントを、ゲノムDNAから増幅した。該2つのフラグメントを精製し、次にさらなるPCR増幅反応において均等な割合で鋳型として使用して、3432塩基対のSUB1154コード配列から3169塩基対を欠いている単一のΔ1154産物を産生した。このアンプリコンを、低コピー・pG
+h9温度感受性プラスミドのマルチクローニングサイトにサブクローニングした。プラスミド構築物を、200μg/μlのエリスロマイシン上で37.5℃での選択を用いる大腸菌 TG1 RepAの形質転換により増幅し、次に精製したプラスミド10ngを使用して、1μg/mlのエリスロマイシン上で28℃での選択により乳房連鎖球菌0140Jをさらに形質転換した。乳房連鎖球菌0140J/pG
+h9::Δ1154形質転換体を、28℃でTodd Hewitt培養液中でOD
5500.5まで培養し、次に培養温度を37.5℃の非許容プラスミド複製温度まで上昇させて、単一の交差染色体組み込みをさせた。組み込み体を1μg/mlでEryを含むTHA上で37℃で選択し、次に抗生物質を欠いているTHB中で28℃で培養して、第2の交差事象によりpG
+h9レプリコンの切除を促進させた。得られた細菌をTHA上に置き、37℃で一晩培養後に、コロニーを採取した。Sub1154遺伝子座の欠失は、Sub1154遺伝子座のPCR増幅により決定した。
【0094】
乳房連鎖球菌での泌乳期乳牛への抗原投与
毒性のための個々のSrtA基質の必要性を、乳牛においてよく確立した乳腺内感染モデルにおいて、実験的抗原投与により決定した。細菌は、Todd Hewitt 培養液において18時間37℃で培養した。細胞を遠心分離(10,000×g、10分)により回収し、発熱物質−非含有塩水(Sigma)に懸濁し、必要な細胞密度(500−1500cfu/ml)を提供するように同じものに希釈した。それぞれの株の懸濁液を、動物に抗原投与するために使用するまで氷上に保持した。それぞれの懸濁液の同一のアリコートにおける生菌数を抗原投与前後に数えた。
【0095】
第1の泌乳から2−10週以内の、乳牛を抗原投与のために選択した。選択のための基準は以下のものであった。乳腺炎の徴候の非存在、抗原投与前にミルクサンプルにおいて細菌の非存在、現在の泌乳中に乳腺炎の病歴がない、および出産7および14日後に得られたミルクサンプルにおいて乳腺内感染の証拠がない。500−1500cfuの乳房連鎖球菌を含む1mlの発熱物質−非含有塩水(Sigma)の注入により、動物の乳房区に抗原投与した。
【0096】
抗原投与後、動物を1日に2回(07:00および15:30)4日間、搾乳および検査した。臨床的エンドポイントのあらかじめ決められた基準(凝固し、変色したミルクおよび/または乳房区腫大または触診において誘発する不快感)に達したものを、商標登録された抗生物質で処置した。ミルクサンプルをそれぞれの搾乳時に採取し、下記のとおりに細菌および体細胞の存在に関して分析した。
【0097】
ミルクサンプルの分析
存在する生菌数を、ABA上に50μlのそれぞれのミルクサンプルを直接置くことにより概算した。また、サンプルを塩水で希釈し、50μlのそれぞれの希釈物をABA上に直接置いた。それぞれの場合において、乳房連鎖球菌の存在および/または数を測定し、回収された単離物の遺伝子型を、適当な遺伝子座の増幅により決定した。ミルクサンプル中に存在する体細胞数を、製造業者の指示にしたがって、DeLaval携帯型細胞カウンターを使用して測定した。
【0098】
結果
Sub0145、Sub1095またはSub1154の1つを欠いている変異体を、該変異が乳房連鎖球菌の主要な減毒をもたらすか否かを決定するために、乳房区に抗原投与するために使用した。全ての場合において、株を抗原投与後のミルクから回収し、それぞれを、正確に変異した遺伝子の存在を示すために遺伝子型分析した。株(sub1095、sub0145またはsub1154のいずれかを欠いている)での抗原投与は、実験の期間中に比較的乏しいコロニー形成をもたらし(
図7)、野生型株と対照的にこれらのいずれの株も疾患の臨床徴候を誘導することはできなかった。結果として、感染原因におけるこれらのタンパク質の機能は、必須であると考えることができる。これらのタンパク質のいずれか、好ましくは全てに対する中和免疫(抗体)応答の誘導は、野生型株での感染後の疾患を減少させると予期される。