特許第5911761号(P5911761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5911761
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】センサ付車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20160414BHJP
   G01L 5/16 20060101ALI20160414BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20160414BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   G01L5/00 K
   G01L5/16
   F16C19/18
   F16C41/00
【請求項の数】17
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-144458(P2012-144458)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-9953(P2014-9953A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亨
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−181154(JP,A)
【文献】 特開2012−103221(JP,A)
【文献】 特開2007−309711(JP,A)
【文献】 特開2005−140606(JP,A)
【文献】 特開2010−002313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00, 5/16
F16C 19/18,19/52
F16C 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、
この車輪用軸受に取付けられてこの軸受に加わる荷重を検出する複数のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備え、
前記荷重演算処理手段は、定められた軸受の標準的な荷重推定係数である標準荷重推定係数MBから、実際の車両に取付けた状態における荷重推定係数である実状荷重推定係数MCを算出する係数変換処理部と、この係数変換処理部で算出された実状荷重推定係数MCと前記信号ベクトルとから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部とを有し、
前記荷重演算処理手段の前記係数変換処理部は、前記標準荷重推定係数MBから前記実状荷重推定係数MCに変換するための変換係数T(k)が書き込まれた変換係数記憶部と、車両に前記軸受を取付けた状態を指定するパラメータkが書き込まれたパラメータ記憶部とを有するセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項2】
複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、
この車輪用軸受に取付けられてこの軸受に加わる荷重を検出する複数のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備え、
前記荷重演算処理手段は、定められた軸受の標準的な荷重推定係数である標準荷重推定係数MBから、実際の車両に取付けた状態における荷重推定係数である実状荷重推定係数MCを算出する係数変換処理部と、この係数変換処理部で算出された実状荷重推定係数MCと前記信号ベクトルとから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部とを有し、
前記荷重演算処理手段の係数変換処理部は、車輪の左右搭載位置に応じて、前記信号処理手段から荷重演算処理手段の前記荷重演算部に入力される信号ベクトルの配列変換、および係数変換処理部から荷重演算部に与えられる前記実状荷重推定係数MCの配列変換を指令する車輪位置対応変換指令部を有するセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、前記パラメータ記憶部に書き込まれたパラメータkは、車両の種類、前記軸受の搭載位置、およびブレーキのON・OFF状態を指定するもののうち、少なくともいずれか1つを含むセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項2において、前記信号処理手段は、前記車輪位置対応変換指令部からの指令に応じて、信号ベクトルの配列変換を行うスワップ回路を有するセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項5】
複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、
この車輪用軸受に取付けられてこの軸受に加わる荷重を検出する複数のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備え、
前記荷重演算処理手段は、定められた軸受の標準的な荷重推定係数である標準荷重推定係数MBから、実際の車両に取付けた状態における荷重推定係数である実状荷重推定係数MCを算出する係数変換処理部と、この係数変換処理部で算出された実状荷重推定係数MCと前記信号ベクトルとから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部とを有し、
前記荷重演算処理手段の係数変換処理部における前記実状荷重推定係数MCを算出するための一連のシーケンス処理は、初期化処理において実行されるセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記荷重演算処理手段の係数変換処理部における前記実状荷重推定係数MCを算出するための一連のシーケンス処理は、初期化処理において実行されるセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記軸受上にその軸受を特定するID情報が書き込まれたIDメモリが設けられ、前記荷重演算処理手段の係数変換処理部は、初期化処理のときに前記IDメモリからID情報を読み出して記憶するID不揮発メモリを有するセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項8】
請求項7において、前記荷重演算処理手段の係数変換処理部は、前記荷重演算処理手段の電源ONのときに、前記IDメモリからID情報を読み出し、前記ID不揮発メモリが記憶しているID情報との比較を実施して、初期設定で関連付けられた正規の軸受と接続されているかどうかを確認する機能を有するセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記軸受上に前記標準荷重推定係数MBが書き込まれたMBメモリが設けられ、前記荷重演算処理手段の係数変換処理部は、前記MBメモリから前記標準荷重推定係数MBを読み出し可能であるセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記荷重演算処理手段の係数変換処理部には、前記軸受を特定するID情報によって指定される標準荷重推定係数MBのデータファイルが外部から別途供給されるセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、軸受に加わる荷重を検出するセンサを3つ以上設け、前記荷重演算処理手段は、前記3つ以上のセンサの出力信号から、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、および軸方向荷重Fy を演算するものとしたセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、軸受に加わる荷重を検出する前記センサは、前記外方部材と内方部材の間の相対変位を検出するものであるセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、軸受に加わる荷重を検出する前記センサは、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の歪みを検出するものであるセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項14】
請求項13において、前記センサは、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に設けたセンサユニットであり、このセンサユニットは、前記固定側部材の外径面に接触して固定される歪み発生部材と、この歪み発生部材の歪みを検出する1つ以上の歪検出素子とを有するものとしたセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項15】
請求項14において、センサユニットを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部および左面部に円周方向90度の位相差で4つ等配したセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項16】
請求項14において、前記センサユニットは、前記固定側部材の外径面に接触して固定される3つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材と、この歪み発生部材に取り付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上の歪検出素子を有するセンサ付車輪用軸受装置。
【請求項17】
請求項16において、前記歪検出素子を、前記歪み発生部材の隣り合う第1および第2の接触固定部の間、および隣り合う第2および第3の接触固定部の間にそれぞれ設け、隣り合う前記接触固定部の間隔、もしくは隣り合う前記歪検出素子の間隔を、転動体の配列ピッチの{n+1/2(n:整数)}倍に設定したセンサ付車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを備えたセンサ付車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪外径面に歪みゲージを貼り付け、外輪外径面の歪みから荷重を検出するようにしたセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、車輪に設けた複数の歪みセンサの出力信号から、車輪にかかる荷重を推定する演算方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−530565号公報
【特許文献2】特表2008−542735号公報
【特許文献3】特開2010−242902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示の技術のように、歪みセンサを用いて車輪にかかる荷重を推定する場合、環境温度によるセンサのドリフトや、センサの取付けに伴う歪みによる初期ドリフトが問題となる。
【0005】
上記課題を解決するものとして、軸受固定輪に複数のセンサユニットを設け、対向配置されたセンサユニットの出力信号について振幅の差分を求め、その値によって演算を場合分けすることで入力荷重を推定するようにしたセンサ付車輪用軸受装置も提案されている(特許文献3)。また、このようなセンサ付車輪用軸受装置での荷重演算に用いる荷重推定係数を、その演算処理結果に影響を与えるブレーキのON・OFF情報などにより切り替えて演算処理を実行することも可能である。
【0006】
しかし、特許文献3に開示のセンサ付車輪用軸受装置では、荷重演算に用いる荷重推定係数として、以下に述べるように、予め荷重試験機で求めた荷重推定係数から、異なる使用条件における荷重推定係数を求める処理が必要である。
【0007】
試験機による荷重試験の結果から、車輪用軸受に加わる各方向の荷重Fx 、Fy 、Fz 、あるいはモーメント荷重Mx 、Mz 等と、センサ出力信号との対応関係を求めることができる。しかし、試験機で求めた荷重推定係数MBを荷重演算にそのまま用いても、車の走行状態では荷重が正確に求められなかった。その原因は、試験機と実車の場合とで、車輪用軸受の取付け姿勢の違いや、取付け部材周辺の剛性の違いが有ることによる。
【0008】
試験機で様々な取付け姿勢における荷重印加試験を実施することは可能であるが、実車のナックル部材やサスペンション部材の剛性の影響についても再現する必要があり、試験の手間がかかってしまい現実的でないという問題がある。また、同じ軸受を車両の任意の位置に取付けて使用する場合もあり、車の前後左右のどの位置に取付けても荷重を求められることが望まれる。そのため、試験機で取得した標準的な荷重推定係数MBを用いて、実際の使用条件に応じた荷重推定係数MCを算出する処理が必要である。
【0009】
この発明の目的は、車輪用軸受の使用条件に応じた荷重推定係数を用いて、正確な荷重を演算出力することができるセンサ付車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のセンサ付車輪用軸受装置の基本構成は、複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられてこの軸受に加わる荷重を検出する複数のセンサ(20)と、前記各センサ(20)の出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段31と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段32とを備える。
前記荷重演算処理手段32は、定められた軸受の標準的な荷重推定係数である標準荷重推定係数MBから、実際の車両に取付けた状態における荷重推定係数である実状荷重推定係数MCを算出する係数変換処理部33と、この係数変換処理部33で算出された実状荷重推定係数MCと前記信号ベクトルとから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部34とを有する。ここで、上記した定められた標準荷重推定係数MBとは、例えば、車両に取付ける前の軸受に対して行った荷重試験により求められた荷重推定係数である。前記センサ(20)は前記車輪用軸受に取付けられるが、前記信号処理手段31および荷重演算処理手段32は、前記車輪用軸受に取付けられていても、また車輪用軸受から離れて、車両のECUやインバータ装置等に設けられていても良い。
【0011】
この構成によると、車輪用軸受の個体差を含めた特性を試験機で求めて個別の標準荷重推定係数MBを用意しておけば、荷重演算処理手段32の係数変換処理部33において、軸受が固定されるナックル部材の材質や形状、および左右輪の差や軸受取付け姿勢の違いなど、使用条件による特性の違いを変換係数によって補正し、使用条件に応じた実状荷重推定係数MCを算出することができる。そのため、車輪用軸受の使用条件に応じた荷重推定係数を用いて、正確な荷重を演算出力することができる。
【0012】
この発明において、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33は、前記標準荷重推定係数MBから前記実状荷重推定係数MCに変換するための変換係数T(k)が書き込まれた変換係数記憶部35と、車両に前記軸受を取付けた状態を指定するパラメータkが書き込まれたパラメータ記憶部36とを有するものとしても良い。
【0013】
この発明の上記基本構成において、前記係数変換処理部33が前記変換係数記憶部35と前記パラメータ記憶部36とを有する場合に、前記パラメータ記憶部36に書き込まれたパラメータkは、車両の種類、前記軸受の搭載位置、およびブレーキのON・OFF状態を指定するもののうち、少なくともいずれか1つを含むものとしても良い。
【0014】
この発明の上記基本構成において、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33は、車輪の左右搭載位置に応じて、前記信号処理手段31から荷重演算処理手段32の前記荷重演算部に入力される信号ベクトルの配列変換、および係数変換処理部33から荷重演算部に与えられる前記実状荷重推定係数MCの配列変換を指令する車輪位置対応変換指令部を有するものとしても良い。
この構成の場合、軸受が左右対称形状の場合に、車輪位置対応変換指令部からの指令によって、信号ベクトルの配列の入れ替え処理と、実状荷重推定係数MCの配列変換処理とを実施することにより対応できるため、片方の搭載位置の変換係数だけを用意すれば良く、すべての変換係数を用意する必要がないため、メモリ領域を節約することができる。
【0015】
この場合に、前記信号処理手段31は、前記車輪位置対応変換指令部からの指令に応じて、信号ベクトルの配列変換を行うスワップ回路43を有するものとしても良い。
【0016】
この発明の上記基本構成において、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33における前記実状荷重推定係数MCを算出するための一連のシーケンス処理は、初期化処理において実行されるものとしても良い。
【0017】
この発明において、前記軸受上にその軸受を特定するID情報が書き込まれたIDメモリ38が設けられ、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33は、初期化処理のときに前記IDメモリ38からID情報を読み出して記憶するID不揮発メモリ40を有するものとしても良い。
【0018】
この場合に、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33は、電源ONのときに、前記IDメモリ38からID情報を読み出し、前記ID不揮発メモリ40が記憶しているID情報との比較を実施して、初期設定で関連付けられた正規の軸受と接続されているかどうかを確認する機能を有するものとしても良い。前記の「電源ONのとき」は、前記荷重演算処理手段32の電源がONになったときであり、例えば、車両の始動スイッチにおけるアクセサリモードがONとなったときである。
【0019】
この発明において、前記軸受上に前記標準荷重推定係数MBが書き込まれたMBメモリ39が設けられ、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33は、前記MBメモリ39から前記標準荷重推定係数MBを読み出し可能としても良い。
【0020】
この発明において、前記荷重演算処理手段32の係数変換処理部33には、前記軸受を特定するID情報によって指定される標準荷重推定係数MBのデータファイルが外部から別途供給されるものとしても良い。
【0021】
この発明において、軸受に加わる荷重を検出するセンサ(20)を3つ以上設け、前記荷重演算処理手段32は、前記3つ以上のセンサ(20)の出力信号から、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、および軸方向荷重Fy を演算するものとしても良い。
【0022】
この発明において、軸受に加わる荷重を検出する前記センサ(20)は、前記外方部材と内方部材の間の相対変位を検出するものであっても良い。
【0023】
この発明において、軸受に加わる荷重を検出する前記センサ(20)は、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の歪みを検出するものであっても良い。
【0024】
この場合に、前記センサ(20)は、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に設けたセンサユニット20であり、このセンサユニット20は、前記固定側部材の外径面に接触して固定される歪み発生部材と、この歪み発生部材の歪みを検出する1つ以上の歪検出素子とを有するものとしても良い。
【0025】
この場合に、センサユニット20を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部および左面部に円周方向90度の位相差で4つ等配しても良い。
このように4つのセンサユニット20を配置することで、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、軸方向荷重Fy を推定することができる。また、軸受の荷重状態が変化した場合においても、負荷圏側に配置されたセンサユニット20の出力信号から安定して転動体周期を検出でき、荷重推定出力の精度を向上させることができる。
【0026】
また、この場合に、前記センサユニット20は、前記固定側部材の外径面に接触して固定される3つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材と、この歪み発生部材に取り付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上の歪検出素子を有するものとしても良い。
【0027】
この場合に、前記歪検出素子を、前記歪み発生部材の隣り合う第1および第2の接触固定部の間、および隣り合う第2および第3の接触固定部の間にそれぞれ設け、隣り合う前記接触固定部の間隔、もしくは隣り合う前記歪検出素子の間隔を、転動体の配列ピッチの{n+1/2(n:整数)}倍に設定しても良い。
【発明の効果】
【0028】
この発明のセンサ付車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられてこの軸受に加わる荷重を検出する複数のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備え、前記荷重演算処理手段は、定められた軸受の標準的な荷重推定係数である標準荷重推定係数MBから、実際の車両に取付けた状態における荷重推定係数である実状荷重推定係数MCを算出する係数変換処理部と、この係数変換処理部で算出された実状荷重推定係数MCと前記信号ベクトルとから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部とを有するものとし、
前記荷重演算処理手段の前記係数変換処理部が、前記標準荷重推定係数MBから前記実状荷重推定係数MCに変換するための変換係数T(k)が書き込まれた変換係数記憶部と、車両に前記軸受を取付けた状態を指定するパラメータkが書き込まれたパラメータ記憶部とを有し、
または前記荷重演算処理手段の係数変換処理部が、車輪の左右搭載位置に応じて、前記信号処理手段から荷重演算処理手段の前記荷重演算部に入力される信号ベクトルの配列変換、および係数変換処理部から荷重演算部に与えられる前記実状荷重推定係数MCの配列変換を指令する車輪位置対応変換指令部を有し、
または前記荷重演算処理手段の係数変換処理部における前記実状荷重推定係数MCを算出するための一連のシーケンス処理が、初期化処理において実行されるため、
車輪用軸受の使用条件に応じた荷重推定係数を用いて、正確な荷重を演算出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受装置の軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
図2】同軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。
図3】同センサ付車輪用軸受装置におけるセンサユニットの一例の拡大断面図である。
図4図3におけるIV−IV矢視断面図である。
図5】検出系の他の構成例を示すブロック図である。
図6】同じ車輪用軸受を左側車輪へ取付けた場合と右側車輪へ取付けた場合のセンサ出力信号の配列の違いを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受100に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0031】
このセンサ付車輪用軸受装置における車輪用軸受100は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受100は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0032】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには周方向複数箇所にナックル取付用のねじ孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト(図示せず)を前記ねじ孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0033】
図2は、この車輪用軸受100の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ねじ孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0034】
固定側部材である外方部材1の外径面には、荷重検出用センサである4つのセンサユニット20が設けられている。ここでは、これらのセンサユニット20が、タイヤ接地面に対して上下位置および前後位置となる外方部材1の外径面における上面部、下面部、右面部、および左面部に設けられている。
【0035】
各センサユニット20の歪検出素子22は、図1にブロック図で示す検出系ユニット30に接続される。この検出系ユニット30は、前記各センサユニット20の出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段31と、前記信号ベクトルから車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段32とでなる。信号処理手段31および荷重演算処理手段32は、必ずしも検出系ユニット30として一体化しなくても良く、互いに分離して設けて良い。また、これら信号処理手段31や荷重演算処理手段32は車輪用軸受100に搭載しても良く、また車輪用軸受100とは離れて車両に、メインのECU(電気制御ユニット)の近傍等に位置して、あるいはECUの統括制御部の下位制御部等として設置しても良い。
【0036】
この実施形態では、車輪に加わる各方向の荷重を検出するセンサとして、図2図4に一構成例を示した前記センサユニット20が用いられる。各センサユニット20は、後に詳述するように、接触固定部21aで外方部材1に固定された歪み発生部材21と、この歪み発生部材2に取付けられて歪み発生部材2の歪みを検出する歪検出素子22(22A,22B)とでなる(図3図4)。図3図4の構成例では1つのセンサユニット20に2つの歪検出素子22(22A,22B)が用いられているが、1つのセンサユニット20に1つの歪検出素子22を用いた構成であっても良い。
【0037】
荷重検出用のセンサは、上記図2図4の形態のものに限定されるものではなく、例えば、変位センサ(渦電流センサ、磁気センサ、リラクタンスセンサ、など)を、外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材に設置し、検出ターゲットを回転輪に配置して外方部材1と内方部材2間の相対変位量を求め、あらかじめ求めておいた荷重と変位との関係から、印加されている荷重を求めるものとしても良い。すなわち、この実施形態の構成は、軸受の内方部材2と外方部材1間に作用している力を、固定側部材に設けたセンサによって直接的・間接的に検出し、演算によって入力荷重を演算で推定する方式の荷重センサに適用されるものである。
【0038】
なお、X,Y,Z方向の3方向の各荷重Fx 、Fy 、Fz 、あるいはそれぞれの方向のモーメント荷重を算出するためには、少なくとも3つ以上のセンサ情報(センサの出力信号)を用いた演算処理構成が必要となる。すなわち、複数のセンサ信号を必要に応じて加工・信号処理して抽出した信号ベクトルを生成し、これを用いて荷重推定演算処理を実行して入力荷重F(={Fx, Fy, Fz, …} )を求める荷重検出系ユニット30を備えた構成となる。
【0039】
このような構成の荷重検出系ユニット30においては、線形近似が成立する範囲において、各センサ信号の信号ベクトルをSで表すと、この信号ベクトルSを入力とし、次式
F=M・S+Mo……(1)
の関係式を満たすように、数値解析や実験によって演算係数行列MとオフセットMoを決定することにより、荷重推定演算処理が可能になる。荷重入力範囲に対応させて適切に線形近似範囲を設定すれば、荷重推定係数によって幅広い入力荷重を推定することができる。
【0040】
ここで、入力荷重とセンサ信号の信号ベクトルSとの関係は、例えば、荷重を印加する試験機で各方向の荷重Fx 、Fy 、Fz や、各方向のモーメント荷重Mx 、Mz 等の荷重を加え、その荷重に対するセンサ信号を測定することにより求めることができる。ここでは、式(1)における係数MとオフセットMoを合わせて、試験機で求めた標準的な荷重推定係数(以下、標準荷重推定係数と呼ぶ)をMBと表現する。すると、式(1)は、次式、
F=MB・S……(2)
という関係式で表現されることになる。
【0041】
しかしながら、ここで求められた標準荷重推定係数MBを、実際の車両で走行したときに得られるセンサデータに対してそのまま適用した場合には、実際の入力荷重値とは異なった荷重推定値が算出されてしまい、荷重を正確に求めることができない。その原因は、〔発明が解決しようとする課題〕でも説明したように、試験機と実車とでの、車輪用軸受100の取付け姿勢の違いや、軸受100を取付ける周辺部材の剛性の違いによって、軸受100に発生する歪みや変形状態に差が発生してしまうことにある。試験機に実車への取付け状態を再現し、様々な取付け姿勢における荷重印加試験を実施することは可能であるが、実車のナックル部材やサスペンション部材の影響について詳細に再現するためには、複雑なセッティングと大規模な装置が必要で、試験に手間がかかって現実的なキャリブレーションができないという問題がある。
【0042】
そこで、このセンサ付車輪用軸受装置では、図1の荷重演算処理手段32において、試験機で取得した標準荷重推定係数MBに対して、実際の使用条件に応じた変換操作を行い、実際の車両における荷重推定係数(以下、実状荷重推定係数と呼ぶ)MCを算出する係数変換処理部33と、この係数変換処理部33で算出された実状荷重指定係数MCと前記信号処理手段31で生成される信号ベクトルとから車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部34とを設けている。
【0043】
前記係数変換処理部33は、前記標準荷重推定係数MBから前記実状荷重推定係数MCに変換するための変換係数T(k)が書き込まれた変換係数記憶部35と、軸受100の搭載される車両の種類等の情報や、搭載車輪位置、車両に軸受100を取付けた状態などを指定するパラメータkが書き込まれたパラメータ記憶部36と、変換して得られた実状荷重推定係数MCを記憶するMC記憶部37とを有する。変換係数記憶部35、パラメータ記憶部36、およびMC記憶部は不揮発性メモリからなる。前記パラメータkとしては、このほかブレーキのON・OFF状態を指定するものも含まれる。
【0044】
一方、車輪用軸受100上には、その軸受100を特定するID情報が書き込まれたIDメモリ38と、前記標準荷重推定係数MBが書き込まれたMBメモリ39が設けられる。また、荷重演算処理手段32の係数変換処理部33には、これらのID情報および標準荷重推定係数MBを、通信手段により前記IDメモリ38およびMBメモリ39から読み出して記憶するID不揮発メモリ40およびMB不揮発メモリ41が設けられている。
【0045】
荷重演算処理手段32の係数変換処理部33では、軸受100が車両に搭載されて検出系ユニット30と接続された状態になると、まず、次のような初期化処理を実行する。初期化処理では、軸受100上のIDメモリ38およびMBメモリ39からID情報および標準荷重推定係数MBを読み出して、ID不揮発メモリ40およびMB不揮発メモリ41にコピーする。その後、パラメータ記憶部36に書き込まれている車両情報、搭載車輪位置などを指定するパラメータkを用いて、標準荷重推定係数MBを実状荷重推定係数MCに変換する処理を行う。この変換では、変換係数記憶部35に予め書き込まれている変換係数T(k)から、設定された使用条件つまりパラメータkに適合する変換係数T(k)を選択し、標準荷重推定係数MBに変更を加える処理を行う。
【0046】
例えば、次式、
MC=MB+T(k)……(3)
のように変換係数を加算する構成として処理することができる。変換係数T(k)の値は、実車条件で求めたセンサ出力信号の実状荷重推定係数MCと、標準状態の試験条件で求めた標準荷重推定係数MBとを用いて、次式、
T(k)=MC−MB……(4)
などとして求めることができる。
【0047】
なお、図1に示す係数変換処理部33では、実状荷重推定係数MCが1種類しかないような表現となっているが、実際には入力荷重の状態、例えば、旋回内側/外側、車輪の回転速度、ブレーキのON・OFF状態などによって数種類の係数を切り替えて演算処理するため、複数の実状荷重推定係数MCが用意されている。標準荷重推定係数MBについても同様に、入力荷重の状態に応じた複数の標準荷重推定係数MBが設定されている。
【0048】
初期化処理において、係数変換処理部33では、軸受100のMBメモリ39から読み出した標準荷重推定係数MBから、使用条件に合わせ変換された複数の実状荷重推定係数MCを求めてMC記憶部37に記憶する。このようにして、初期化処理を終えた後は、入力されるセンサ出力信号の信号ベクトルに応じて荷重演算部34で推定荷重が求められ、出力される状態となる。
【0049】
上記構成のほか、軸受100上にはID情報を記憶するIDメモリ38だけを搭載しておき、標準荷重推定係数MBのデータ自体は別途データファイルで係数変換処理部33に供給するように構成することも可能である。この場合に、ID情報と対応するデータファイルがネットワーク上などに供給されていれば、IDメモリ38から読み出したID情報に一致する標準荷重推定係数MBのデータを読み込むことができ、軸受100上に標準荷重推定係数MBのための大きなメモリを搭載しておく必要がなくなる。
【0050】
ここで、軸受100上のIDメモリ39から読み出してID不揮発メモリ40に記憶したID情報は、軸受100と検出系ユニット30との接続を確認するために用いることができる。すなわち、電源がONとなった時に、一度ID情報を軸受100上のIDメモリ39から読み出し、この値が初期化処理のときに係数変換処理部33のID不揮発メモリ40に記憶されたID情報と一致するか確認し、異なっている場合には、接続間違いがあったか、あるいは軸受100が変更されている、などと判断できる。そして、この判断結果から、エラー情報を出力して確認を促す、あるいは必要に応じて初期化処理を再度実行するなどの処置を実施することができる。なお、前記の「電源ONのとき」は、前記検出系ユニット30または前記荷重演算処理手段32の電源がONになったときであり、例えば、車両の始動スイッチにおけるアクセサリモードがONとなったときである。
【0051】
図6は、同じ車輪用軸受100を左側車輪へ取付けた場合と右側車輪へ取付けた場合のセンサ出力信号の配列の違いを示したものであり、図6(A)は左側車輪に取付けた場合を、図6(B)は右側車輪に取付けた場合を示す。この例のように、軸受100の取付け姿勢が異なるたけで他の特性が対称である場合には、座標系を変換するだけで荷重推定係数を求めることができる。左側車輪に取付けた場合を示す図6(A)の場合には、車両前方に位置するセンサに対応するセンサ出力信号がS4であり、全センサの出力信号からなる信号ベクトルSでは(S1,S2,S3,S4)と並べられているので、(上、後、下、前)の順にセンサ出力信号が並べられた構成になっている。
これに対して、左側車輪に取付けた場合を示す図6(B)の場合には、車両前方に位置するセンサに対応するセンサ出力信号がS2となるため、全センサの出力信号からなる信号ベクトルSでは(S1,S2,S3,S4)の配列となり、(上、前、下、後)の順に並べられたものとなる。これを並べ替える操作を行って(S1,S4,S3,S2)の配列の信号ベクトルS’とすると、左側車輪に取付け場合の信号ベクトルSと同じ信号構成となり、演算処理にそのまま入力することが可能になる。
【0052】
また、左右反転によって荷重の方向が反転する場合もあるため、軸受100の標準荷重推定係数MBのアフィン変換(符号反転処理など)に相当する演算処理を、前記係数変換処理部33において必要に応じて実施すれば良い。したがって、走行データと試験機でのデータとの比較によって左側車輪の変換係数T(k)を算出しておけば、右側車輪に対してはすべての変換係数T(k)を用意する必要がなく、変換係数のためのメモリ容量を削減することができる。
【0053】
図5では、このような対策を施した検出系ユニット30の構成例を示している。この構成例では、荷重演算処理手段32における係数変換処理部33に、車輪の左右搭載位置に応じて、前記信号処理手段31から荷重演算処理手段32の荷重演算部34に入力される信号ベクトルの配列変換、および係数変換処理部33から前記荷重演算部34に与えられる実状荷重推定係数MCの配列変換を指令する車輪位置対応変換指令部42が設けられている。また、これに対応して、信号処理手段31には、前記車輪位置対応変換指令部42からの指令に応じて、信号ベクトルの配列変換を行うスワップ回路43が設けられている。その他の構成は、図1の構成例の場合と同様である。
【0054】
この構成例の場合にも、先に述べた初期化処理と同様にして、軸受100の標準荷重推定係数MBから、実車の左側車輪用の変換係数T(k)を用いて実車の左側車輪用の実状荷重推定係数MCを算出する。それに引き続いて、前記車輪位置対応変換指令部42でのパラメータ(LtoRtrans )がONに設定されていることにより、右側車輪への変換設定が実施される。これにより、信号処理手段31のスワップ回路43がONとなり、信号ベクトルの配列が右側車輪用の並びに変換されると共に、実状荷重推定係数MCのアフィン変換処理が実施されて、実状荷重推定係数MCの再設定処理が行われる。
【0055】
次に、図1のセンサユニット20の一構成例について、その具体的構造を説明する。図2の4箇所に設けられた各センサユニット20は、図3および図4に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材21の歪みを検出する2つの歪検出素子22(22A,22B)とでなる。歪み発生部材21は、鋼材等の弾性変形可能な金属製で2mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状である。また、歪み発生部材21は、外方部材1の外径面にスペーサ23を介して接触固定される3つの接触固定部21aを有する。3つの接触固定部21aは、歪み発生部材21の長手方向に向けて1列に並べて配置される。2つの歪検出素子22のうち1つの歪検出素子22Aは、図4において、左端の接触固定部21aと中央の接触固定部21aとの間に配置され、中央の接触固定部21aと右端の接触固定部21aとの間に他の1つの歪検出素子22Bが配置される。図3のように、歪み発生部材21の両側辺部における前記各歪検出素子22A,22Bの配置部に対応する2箇所の位置にそれぞれ切欠き部21bが形成されている。切欠き部21bの隅部は断面円弧状とされている。歪検出素子22は切欠き部21b周辺の周方向の歪みを検出する。なお、歪み発生部材21は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット20に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。想定される最大の力は、例えば、その力が作用しても車輪用軸受100は損傷せず、その力が除去されると車輪用軸受100の正常な機能が復元される範囲で最大の力である。
【0056】
前記センサユニット20は、その歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが、外方部材1の軸方向の同寸法の位置で、かつ各接触固定部21aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部21aがそれぞれスペーサ23を介してボルト24により外方部材1の外径面に固定される。前記各ボルト24は、それぞれ接触固定部21aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔25からスペーサ23のボルト挿通孔26に挿通し、外方部材1の外周部に設けられたねじ孔27に螺合させる。このように、スペーサ23を介して外方部材1の外径面に接触固定部21aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材21における切欠き部21aを有する各部位が外方部材1の外径面から離れた状態となり、切欠き部21bの周辺の歪み変形が容易となる。
【0057】
接触固定部21aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。外方部材1の外径面へセンサユニット20を安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記スペーサ23が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
【0058】
このほか、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが固定される3箇所の各中間部に溝(図示せず)を設けることで、前記スペーサ23を省略し、歪み発生部材21における切欠き部21bが位置する各部位を外方部材1の外径面から離すようにしても良い。
【0059】
歪検出素子22としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪検出素子22を金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材21に対しては接着による固定が行なわれる。また、歪検出素子22を歪み発生部材21上に厚膜抵抗体にて形成することもできる。
【0060】
また、図3および図4に示す構成では、固定側部材である外方部材1の外径面の円周方向に並ぶ3つの接触固定部21aのうち、その配列の両端に位置する2つの接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定している。この場合、隣り合う接触固定部21aの中間位置にそれぞれ配置される2つの歪検出素子22A,22Bの間での前記円周方向の間隔は、転動体5の配列ピッチPの略1/2となる。その結果、2つの歪検出素子22A,22Bの出力信号S0 ,S1 は略180度の位相差を有することになる。
【0061】
なお、図3および図4に示す構成では、その配列の両端に位置する接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定し、隣り合う接触固定部21aの中間位置に各1つの歪検出素子22A,22Bをそれぞれ配置することで、2つの歪検出素子22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの略1/2となるようにした。これとは別に、直接、2つの歪検出素子22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2に設定しても良い。
この場合に、2つの歪検出素子22A,22Bの前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの{1/2+n(n:整数)}倍、またはこれらの値に近似した値としても良い。
【0062】
センサユニット20は、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に設けられるので、歪検出素子22A,22Bの出力信号は、センサユニット20の設置部の近傍を通過する転動体5の影響を受ける。また、軸受の停止時においても、歪検出素子22A,22Bの出力信号は、転動体5の位置の影響を受ける。すなわち、転動体5がセンサユニット20における歪検出素子22A,22Bに最も近い位置を通過するとき(または、その位置に転動体5があるとき)、歪検出素子22A,22Bの出力信号は最大値となり、転動体5がその位置から遠ざかるにつれて(または、その位置から離れた位置に転動体5があるとき)低下する。軸受回転時には、転動体5は所定の配列ピッチPでセンサユニット20の設置部の近傍を順次通過するので、歪検出素子22A,22Bの出力信号は、転動体5の配列ピッチを周期として周期的に変化する正弦波に近い波形となる。また、歪検出素子22A,22Bの出力信号は、温度の影響やナックル16と車体取付用フランジ1a(図1)の面間などの滑りによるヒステリシスの影響を受ける。
【0063】
このように構成されたセンサユニット20を荷重検出センサとして用いる場合、例えば信号処理手段31において、前記2つの歪検出素子22A,22Bの出力信号の差分を演算して振幅値となる信号ベクトルを出力するようにしても良い。この場合、上記したように2つの歪検出素子22A,22Bの出力信号は略180度の位相差を有するので、振幅値となる信号ベクトルは2つの歪検出素子22A,22Bの各出力信号に現れる温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。したがって、この信号ベクトルを次段の荷重演算処理手段32の演算での変数として用いることにより、車輪用軸受100やタイヤ接地面に作用する荷重をより正確に演算・推定することができる。
【0064】
この発明の実施形態により得られる効果を整理して次に示す。
・車輪用軸受100の個体差を含めた特性を試験機で求めて個別の標準荷重推定係数MBを用意しておけば、軸受100が固定されるナックル部材の材質や形状、および左右輪の差や軸受取付け姿勢の違いなど、使用条件による特性の違いを変換係数T(k)によって補正し、使用条件に応じた実状荷重推定係数MCを算出することができる。
・試験機で取得した標準荷重推定係数MBを用いて、実際の使用条件に応じた実状荷重推定係数MCを算出できるため、実車に車輪用軸受100を搭載する各条件に対し、すべての軸受100で荷重印加試験を実施する必要がない。
・最低限の試験により効率的なキャリブレーションが可能になり、製造コストを下げることができる。
・車輪用軸受100の出荷時に管理するパラメータは標準荷重推定係数MBだけであり、管理および取扱いが容易になる。その結果、管理コストを下げることができる。
・同種の車輪用軸受100を異なる車輪位置や、異なる車種に取付ける場合であっても、軸受個別のパラメータと車両の使用条件に関するパラメータが別で管理されているため、軸受100に記録された個体情報に基づいて関連付けられた変化処理が自動的に実施され、適切な設定を確実に実現することができる。
図5の構成例では、軸受100が左右対称形状の場合に、入力センサ信号の入れ替え処理と、実状荷重推定係数MCのアフィン変換処理(係数の符号入れ替え処理など)を実施する機能により、片方の搭載位置の変換係数だけを用意すれば良く、すべての変換係数を用意する必要がないため、メモリ領域を節約することができる。
【0065】
このように、このセンサ付車輪用軸受装置によると、軸受100に加わる荷重を検出するセンサとして1つ以上のセンサユニット20設け、各センサユニット20の出力信号Sを信号処理手段31で処理して信号ベクトルを生成し、その信号ベクトルから車輪に加わる荷重を荷重演算処理手段32で演算するものとし、前記荷重演算処理手段32は、定められた軸受100の標準的な荷重推定係数である標準荷重推定係数MBから、実際の車両に取付けた状態における荷重推定係数である実状荷重推定係数MCを算出する係数変化処理部33と、この係数変換処理部33で算出された実状荷重推定係数MCと前記信号ベクトルとから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算部34とを有するものとしたため、軸受100の使用条件に応じた荷重推定係数を用いて、正確な荷重を演算出力することができる。
【0066】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受100の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。図3および図4の構成例では、センサユニット20における歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが、外方部材1に接触固定されているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され易く、その歪みが歪検出素子22A,22Bで感度良く検出される。
【0067】
この実施形態では前記センサユニット20を4つ設け、各センサユニット20を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材1の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で等配しているので、車輪用軸受100に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、軸方向荷重Fy を推定することができる。
【0068】
なお、この実施形態では、外方部材1が固定側部材である場合につき説明したが、この発明は、内方部材が固定側部材である車輪用軸受にも適用することができ、その場合、センサユニット20は内方部材の内周となる周面に設ける。
また、この実施形態では第3世代型の車輪用軸受100に適用した場合につき説明したが、この発明は、軸受部分とハブとが互いに独立した部品となる第1または第2世代型の車輪用軸受や、内方部材の一部が等速ジョイントの外輪で構成される第4世代型の車輪用軸受にも適用することができる。また、このセンサ付車輪用軸受装置は、従動輪用の車輪用軸受にも適用でき、さらに各世代形式のテーパころタイプの車輪用軸受にも適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…外方部材
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
20…センサユニット
21…歪み発生部材
21a…接触固定部
22,22A,22B…歪検出素子
31…信号処理手段
32…荷重演算処理手段
33…係数変換処理部
34…荷重演算部
35…変換係数記憶部
36…パラメータ記憶部
37…MC記憶部
38…IDメモリ
39…MBメモリ
40…ID不揮発メモリ
41…MB不揮発メモリ
42…車輪位置対応変換指令部
43…スワップ回路
100…車輪用軸受
図1
図2
図3
図4
図5
図6