(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5911916
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】合成ガス供給システム
(51)【国際特許分類】
C10J 3/46 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
C10J3/46 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-130798(P2014-130798)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2016-8281(P2016-8281A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179176
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 寛
(72)【発明者】
【氏名】中川 賢剛
(72)【発明者】
【氏名】講武 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岩見 紀征
(72)【発明者】
【氏名】坂田 進
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健司
(72)【発明者】
【氏名】大平 一騎
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−120445(JP,A)
【文献】
特開2000−303855(JP,A)
【文献】
特開2015−224727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガスユーザーに合成ガスを供給する複数のガス化炉を備える合成ガス供給システムであって、
複数の前記ガス化炉が接続されたヘッダー配管と、
前記ヘッダー配管と前記ガスユーザーを接続するガス分配配管と、
前記ガス分配配管上に設置されたガス分配バルブと、
前記ガス分配配管上であって、前記ヘッダー配管と前記ガス分配バルブの間に設置された流量検出手段と、
前記流量検出手段で検出された値に応じて前記ガス分配バルブの開度を制御可能なように前記流量検出手段と前記ガス分配バルブに接続された制御装置と、を備え、
前記制御装置は予め設定された時間帯において、前記流量検出手段で検出された前記合成ガスの合計供給量が前記合成ガスの最大供給量を超過しそうになった場合、一部の前記ガス分配バルブの開度を絞ることで、常に前記合成ガスの前記合計供給量が前記合成ガスの前記最大供給量を下回るよう制御し、前記ガス化炉での負荷変動をある一定の範囲内に収めることを特徴とする合成ガス供給システム。
【請求項2】
前記ガスユーザーに供給する合成ガスの供給量が予め設定された前記ガスユーザーごとの最小供給量を下回りそうになった場合、前記制御装置は他の前記ガスユーザーに接続されている前記ガス分配配管上の前記ガス分配バルブの開度を絞る制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の合成ガス供給システム。
【請求項3】
前記制御装置は前記ガス化炉での合成ガス製造量を制御可能なように前記ガス化炉に接続され、
前記制御装置は予め設定した時間帯に前記ガス化炉からの合成ガス製造量を増加させると同時に前記最大供給量を増加させる制御を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の合成ガス供給システム。
【請求項4】
前記ガス化炉で生成される合成ガスは石炭を原料とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の合成ガス供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を原料として製造される合成ガスを供給する合成ガス供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油および天然ガスの価格上昇に伴い安価でかつ幅広い地域に存在する石炭の利用が見直されている。
【0003】
ここで石炭を固体のまま発電プラントに利用する従来の方法では天然ガスを燃料とするコンバインドサイクルに比べて発電効率は20%程度低くなる。
【0004】
また石炭も固体のまま利用する従来の利用方法では発電プラントあるいは製鉄プラントなどの利用に留まり、石油あるいは天然ガスのような石油化学プラントの原料としての利用は困難である。
【0005】
そのため石炭を更に効率よく利用できる発電効率の高いコンバインドサイクルを備える発電プラントに利用するため、あるいは石炭の新たな用途として石油化学プラントへ原料として利用するために、石炭をガス化し合成ガスを製造するガス化炉が開発されている。
【0006】
現在のガス化炉の連続運転時間は最長でも2〜3千時間程度であるため、発電プラントの燃料用、あるいは2年ないし4年の連続運転が通常の石油化学プラントの原料用とした場合は連続運転時間が短く、そのため連続運転時間の短さを補うガス化炉の複数設置は必須である。
【0007】
更にガス化炉に投入する石炭の性状も常に一定とは限らないので、石炭の性状の変化による運転状態の変化によりガス化炉の出力が不安定化することもある。
【0008】
またガス化炉を発電プラントの燃料として使用する場合、発電出力が一日の間でも大きく変動するのでガス化炉からの合成ガス供給が追従しきれず、一時的にせよガス化炉からの合成ガスの安定供給が損なわれる可能性がある。
【0009】
そのため負荷変動があってもガス化炉を安定した状態に保つための特許文献1のような方法およびプラントが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−22485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで現在のガス化炉は連続運転時間において発電プラントや石油化学プラント等のガスユーザーの連続運転時間のレベルには達していない。現在のガス化炉は2〜3千時間ごとに運転を停止しメンテナンスを必要としているため、2年ないし4年といった石油化学プラントに対して原料を安定して継続的に供給するためにはガス化炉の複数設置は必須条件である。
【0012】
またガス化炉の連続運転時間も投入される石炭の性状や、ガス化炉の運転負荷変動によって短縮される場合があり、ガス化炉の連続運転時間の短縮化はそのままガス化炉の設置基数の増加につながり初期投資費用を増大させる原因となる。
【0013】
ここで特許文献1に記載の石炭ガス化発電方法及び発電プラントでは、ガス化炉の大きな負荷変動を許容することとしているが、ガス化炉の連続運転時間の短縮化の原因となり結果としてガス化炉の初期投資費用が増大する可能性があるという課題がある。
【0014】
本発明はこの課題に鑑み、ガス化炉の連続運転時間を可能な限り長く保つためにガス化炉の負荷変動を極力抑えつつ、ガスユーザーに安定して合成ガスを供給することを可能とする合成ガス供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1) 本発明に係る合成ガス供給システムは、複数のガスユーザーに合成ガスを供給する複数のガス化炉を備える合成ガス供給システムであって、複数の前記ガス化炉が接続されたヘッダー配管と、前記ヘッダー配管と前記ガスユーザーを接続するガス分配配管と、前記ガス分配配管上に設置されたガス分配バルブと、前記ガス分配配管上であって、前記ヘッダー配管と前記ガス分配バルブの間に設置された流量検出手段と、前記流量検出手段で検出された値に応じて前記ガス分配バルブの開度を制御可能なように前記流量検出手段と前記ガス分配バルブに接続された制御装置と、を備え、前記制御装置は前記流量検出手段で検出された合成ガスの合計供給量が予め設定された合成ガスの最大供給量を常に下回るように前記ガス分配配管の開度を制御することを特徴とする。
【0016】
(2) また本発明に係る合成ガス供給システムは、(1)に記載の合成ガス供給システムにおいて前記ガスユーザーに供給する合成ガスの供給量が予め設定された前記ガスユーザーごとの最小供給量を下回りそうになった場合、前記制御装置は他の前記ガスユーザーに接続されている前記ガス分配配管上の前記ガス分配バルブの開度を絞る制御を行うことを特徴とする。
【0017】
(3) また本発明に係る合成ガス供給システムは、(1)または(2)に記載の合成ガス供給システムにおいて、前記制御装置は前記ガス化炉での合成ガス製造量を制御可能なように前記ガス化炉に接続され、前記制御装置は予め設定した時間帯に前記ガス化炉からの合成ガス製造量を増加させると同時に前記最大供給量を増加させる制御を行うことを特徴とする。
【0018】
(4)また本発明に係る合成ガス供給システムは、(1)から(3)のいずれかに記載の合成ガス供給システムにおいて、前記ガス化炉で生成される合成ガスは石炭を原料とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
(1)に記載の合成ガス供給ガスシステムによれば、ガスユーザーへの合成ガスの合計供給量は予め設定された最大供給量を超えることはなく、ガス化炉の負荷変動をある一定の範囲に収めつつ、ガスユーザーへも最大限、合成ガスを供給することが可能となる。
【0020】
(2)に記載された合成ガス供給システムによれば、ガスユーザーに供給する合成ガスの供給量は最小供給量を下回ることがないので、ガスユーザー側の設備の緊急停止を回避することが可能となる。
【0021】
(3)に記載の合成ガス供給システムによれば、ガスユーザーでの需要に合わせてより柔軟に合成ガスをガスユーザーに供給することが可能となる。
【0022】
(4)に記載の合成ガス供給システムによれば、安価で安定的に入手可能な石炭を合成ガスの原料とすることで安価な合成ガスを安定的にガスユーザーに供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第一実施形態に係る合成ガス供給システムの模式図である。
【
図2】第一実施形態での合成ガス供給の供給量の経時変化の模式図である。
【
図3】第二実施形態に係る合成ガス供給システムの模式図である。
【
図4】第二実施形態での合成ガス供給の供給量の経時変化の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。かかる実施形態は発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお本明細書及び図面において実質的に同一の機能、構成を有する要素については同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0026】
図1は第一実施形態に係る合成ガス供給システム100の模式図である。
【0027】
まず合成ガス供給システム100の構成について説明する。
【0028】
合成ガス供給システム100はガス化炉10a〜10dを4基備えており、ガス化炉10a〜10dはヘッダー配管12にそれぞれガス供給配管14a〜14dによって接続されている。
【0029】
ガス供給配管14a〜14dにはガス供給バルブ16a〜16dが設置されており、ガス供給バルブ16a〜16dを必要に応じて閉めることで運転を停止しているガス化炉をヘッダー配管12と遮断することが可能である。
【0030】
ヘッダー配管12はガス分配配管18Aおよび18Bによって第一ガスユーザー20A、第二ガスユーザー20Bと接続されており、ガス分配配管18Aおよび18Bには、ガス分配バルブ22Aおよび22Bが設置されている。
【0031】
ガス分配配管18Aおよび18B上であって、ヘッダー配管12とガス分配バルブ22Aおよび22Bの間にはガスユーザーそれぞれへの合成ガスの供給量を検出する流量検出手段24Aおよび24Bが設置されている。
【0032】
また流量検出手段24Aおよび24Bで検出された値を基に、ガス分配バルブ22Aおよび22Bの開度を制御する制御装置26が設置されている。
【0033】
次に
図1に示す合成ガス供給システム100の動作について説明する。
【0034】
まず合成ガスの原料として石炭がガス化炉10a〜10dに投入され、ガス化炉で製造された合成ガスはガス供給配管14a〜14dを通ってヘッダー配管12へ送られる。
【0035】
この際、停止中のガス化炉がある場合、ガス供給バルブは閉となっており、ヘッダー配管12と遮断される。
図1ではガス化炉10dが停止中であり、ガス供給バルブ16dが閉となっている。
【0036】
ヘッダー配管12に送られた合成ガスはガス分配配管18Aおよび18Bを通って第一ガスユーザー20Aおよび第二ガスユーザー20Bに供給される。
【0037】
各ガスユーザーへ供給される合成ガスの量は流量検出手段24Aおよび24Bで検出され、制御装置26に検出結果が送られる。
【0038】
制御装置26では流量検出手段24Aおよび24Bで検出された流量に応じて、ガス分配バルブ22Aおよび22Bの開度を制御し、各ガスユーザーへの合成ガス供給量を調整する。
【0039】
この第一実施形態での制御装置26による合成ガスの供給量の調整について
図2を参照しながら説明する。
【0040】
図2は縦軸に合成ガスの供給量を示し、横軸には一日の時間経過を示している。
【0041】
図2のUSER1用と記載されているのは第一ガスユーザー20A用に供給された合成ガスの量であり、USER2用と記載されているのは第二ガスユーザー20Bに供給された合成ガスの量であり、それぞれ流量検出手段24Aおよび24Bで検出された値である。
【0042】
それぞれのガスユーザーに供給された合成ガス量の経時変化は制御装置26によって逐次、演算され合計供給量が算出されている。
【0043】
制御装置26には予め合成ガスの最大供給量が設定されており、例えば
図2に示すように12時頃から18時頃の間に第一ガスユーザーに対する合成ガスの供給量が増加し、合計供給量が最大供給量を超過しそうになった場合、制御装置26は第二ガスユーザー20Bに対する合成ガスの供給量を削減するためガス分配バルブ22Bの開度を絞る制御を行う。
【0044】
これにより制御装置26は常に合成ガスの合計供給量が最大供給量を下回るように制御する。
【0045】
この結果、ガス化炉での負荷変動をある一定の範囲内に収め、ガス化炉の運転時間の短縮化を防止することが可能となる。
【0046】
ここでガスユーザーそれぞれには最小供給量が設定されていることがある。例えば石油化学プラントではある程度の負荷変動は許容できるが、しかし供給される合成ガスの量が最小供給量を下回るとプラント全体が緊急停止する場合がある。
【0047】
そのため制御装置26には必要に応じてガスユーザーそれぞれに最小供給量が設定されている。
【0048】
例えば
図2で12時頃から18時頃の間に第一ガスユーザー20Aに対する合成ガス供給量が増加した結果、ガス分配バルブ22Bの開度を絞ることで第二ガスユーザー20Bに対する合成ガスの供給量を削減するが、制御装置26に第二ガスユーザー20Bに対する最小供給量が設定されている場合には、第二ガスユーザー20Bに対する合成ガスの最小供給量を下回らないよう、もう一方のガス分配バルブ22Aの開度を絞る制御を行う。
【0049】
この制御により第一実施形態に係る合成ガス供給システム100はガス化炉の負荷変動を極力抑えつつ、かつ各ガスユーザーへの合成ガスの供給量が予め設定された最小供給量を下回ることなく安定して合成ガスを供給することが可能という顕著な効果を有する。
(第二実施形態)
【0050】
図3は第二実施形態に係る合成ガス供給システム200の模式図である。
【0051】
第一実施形態と構成が異なる点は、制御装置26はガス化炉10a〜10dそれぞれの合成ガスの製造量を制御可能なように接続されている点である。
【0052】
この第二実施形態での制御装置26による合成ガスの供給量の調整について
図4を参照しながら説明する。
【0053】
図4の縦軸、横軸は
図2と同じであり、
図1と異なっているのは最大供給量が一日の中で変化している点である。
【0054】
つまり夏の平日で日中のピーク時間帯などの合成ガスの需要が多い時間帯に限って制御装置26に最大供給量を増加させるように予め設定し、制御装置26は予め設定された時間帯にガス化炉10a〜10dのうち合成ガスの製造に余力のあるガス化炉に対して合成ガスの製造量を増加させる制御と同時に、増加させた製造量に見合った分の最大供給量も増加させる。これにより各ガスユーザーに対して可能な限りの合成ガス供給を行う。
【0055】
例として
図4では制御装置26は予め設定された時間帯にガス化炉に対して合成ガスの製造量を増加させると同時に製造量の増加分に見合った最大供給量も増加させ、増加された最大供給量の範囲内で制御装置26は各ガスユーザーに対する合成ガスの合計供給量を制御する。
【0056】
この第二実施形態に係る合成ガス供給システム200では制御装置26がガス化炉の製造量を制御し、最大供給量が一日の間で変化する点を除けば、第一実施形態に係る合成ガス供給システム100と同じ制御である。
【0057】
この制御により第二実施形態に係る合成ガス供給システム200は第一実施形態での効果に加え、ガス化炉を可能な範囲で稼働率を高め各ガスユーザーへ安定して合成ガスを供給することが可能という顕著な効果を有する。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明した。
【0059】
当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範囲内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、石炭を原料として製造される合成ガスを供給する合成ガス供給システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
100:合成ガス供給システム、200:合成ガス供給システム、10a〜10d:ガス化炉、12:ヘッダー配管、14a〜14d:ガス供給配管、16a〜16d:ガス供給バルブ、18A〜18B:ガス分配配管、20A:第一ガスユーザー、20B:第二ガスユーザー、22A〜22B:ガス分配バルブ、24A〜24B:流量検出手段、26:制御装置