特許第5912036号(P5912036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912036
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】車椅子用クッション
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/00 20060101AFI20160414BHJP
   A47C 27/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   A61G5/00 503
   A47C27/00 A
   A47C27/00 Q
   A47C27/00 K
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-265146(P2011-265146)
(22)【出願日】2011年12月2日
(65)【公開番号】特開2013-116227(P2013-116227A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138244
【氏名又は名称】株式会社モルテン
(74)【代理人】
【識別番号】100154195
【弁理士】
【氏名又は名称】丸林 敬子
(74)【代理人】
【識別番号】100171826
【弁理士】
【氏名又は名称】丸林 啓介
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】梶原 隆司
(72)【発明者】
【氏名】三村 真季
(72)【発明者】
【氏名】大西 洋
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 秀和
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−043429(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3094375(JP,U)
【文献】 特開平09−103341(JP,A)
【文献】 特開平09−108267(JP,A)
【文献】 特表2000−513591(JP,A)
【文献】 実開平06−044535(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/00
A47C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子の座面に載置される車椅子用クッションであって、表面が前半部分の左側領域と右側領域と後半部分の左側領域と右側領域との4つの領域に分けられたクッション本体を備え、4つの領域のそれぞれには左右方向の外側の第1セルと左右方向の内側の第2セルと第1・第2セルを左右に隣り合うように第1・第2セル間に配置されたスリットと第1・第2セル間の連通路とが個別に設けられ、4つの領域はそれぞれに設けられた第1セルと第2セルとに封入されたビンガム流体又はチキソトロピー流体からなる流体を4つの領域間で移動不能にする構成であり、4つの領域におけるスリットは第1セルに封入された流体と第2セルに封入された流体とを互いに移動不能にする構成であり、後半部分の左側領域における左のスリットと右側領域における右のスリットとの間隔は使用者がクッションに座った際に第1セルと第2セルとで座骨を包み込んで支えるようにクッション本体の表面の中央の側から後端の側に向かって広がっており、前半部分の左側領域における左のスリットと右側領域における右のスリットとの間隔は使用者がクッションに座った際に第1セルと第2セルとで太腿を包み込んで支えるようにクッション本体の表面の中央の側から前端の側に向かって広がっており、4つの領域における連通路は4つの領域における第1セルに封入された流体と第2セルに封入された流体とを互いに移動可能としかつ第1セルと第2セルとを互いに繋ぎ止める役割を担うとともに4つの領域におけるスリットの延びる方向に所定の間隔をあけて設けられたことを特徴とする車椅子用クッション。
【請求項2】
クッション本体の表面の前半部分の左側領域と右側領域における第1セルと第2セルとスリットと連通路とがクッション本体の表面の前半部分の左側領域と右側領域との境を前後方向の対称軸とした線対称として構成され、クッション本体の表面の後半部分の左側領域と右側領域における第1セルと第2セルとスリットと連通路とがクッション本体の表面の前半部分と後半部分との境を左右方向の対称軸とした線対称として構成されたことを特徴とする請求項1記載の車椅子用クッション。
【請求項3】
クッション本体の下に発泡材からなる第1クッションプレートを配置し、第1クッションプレートの表面の後半部には車椅子用クッションに座る使用者の臀部を受けるための第1凹状湾曲面が設けられ、第1クッションプレートの表面の前半部には車椅子用クッションに座る使用者の大腿部を受けるための左右に分かれた第2凹状湾曲面と左右の第2凹状湾曲面の間で第2凹状湾曲面より上方に盛り上がった隆起面とが設けられたことを特徴とする請求項1記載の車椅子用クッション。
【請求項4】
クッション本体及び第1クッションプレートがクッションカバーにより包み込まれ、第1クッションプレートの上面には溝部が第1クッションプレートの上面の中央の側から後端まで連続するとともに上方および後端に開口するように設けられ、クッション本体には貫通孔が複数のセルを避けるとともに第1クッションプレートの溝部の上方の開口に対向する位置に設けられたことを特徴とする請求項3記載の車椅子用クッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子の座面に載置して使用者が座る車椅子用クッションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車椅子の座面には、使用者の臀部に床ずれが発生しないようにクッションを載置することがある。例えば、特許文献1に開示されている車椅子用クッションは、使用者の座骨及び尾骨周辺から大腿骨の付け根側周辺を支えるように配置された複数のセルを備え、該各セルには、当該各セルへの空気量を調節する制御装置が接続されている。そして、上記各セルは、座面に対応する面積を小さくすることで上下方向及び水平方向に変形し易くなっていて、床ずれが発生し易い座骨周辺の体圧分散性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−195616号公報(段落0011〜0021欄、図1及び図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の研究では、使用者が座るクッションを単純に柔らかくして体圧分散性を高めただけでは、臀部がクッションに深く沈み込んでしまうことで結果的にハンモックのように突出した部分に余計な圧力がかかるといった、所謂ハンモック現象を引き起こすことが知られている。したがって、特許文献1のように、各セルの座面に対応する面積を小さくすることでクッションの座骨周りを柔らかくしても、体圧分散性は高まるものの、上述のハンモック現象により、座ったときに座骨周辺に大きな圧力がかかってしまい、使用者の床ずれを防止できないおそれがある。
【0005】
また、特許文献1では、各セルの空気量を調節するためにクッション内部に制御装置が配設されているので、その分だけクッション全体の重量が重くなってしまう。したがって、クッションを車椅子の座面に載置すると車椅子全体の重量も重くなってしまい、車椅子を移動させる際に介護者等への負担が大きくなってしまう。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、使用者の座骨周辺の床ずれを抑えるとともに、クッション全体の重量を軽くして介護者等への負担を減らして使用感が良好な車椅子用クッションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、流体が封入された複数のセルをクッション内部に配置し、座骨周辺を2つのセルで包み込んで支えるようにしたことを特徴とする。
【0008】
具体的には、車椅子の座面に載置して使用者が座る車椅子用クッションにおいて、次のような解決手段を講じた。
【0009】
本発明は、車椅子の座面に載置される車椅子用クッションであって、表面が前半部分の左側領域と右側領域と後半部分の左側領域と右側領域との4つの領域に分けられたクッション本体を備え、4つの領域のそれぞれには左右方向の外側の第1セルと左右方向の内側の第2セルと第1・第2セルを左右に隣り合うように第1・第2セル間に配置されたスリットと第1・第2セル間の連通路とが個別に設けられ、4つの領域はそれぞれに設けられた第1セルと第2セルとに封入されたビンガム流体又はチキソトロピー流体からなる流体を4つの領域間で移動不能にする構成であり、4つの領域におけるスリットは第1セルに封入された流体と第2セルに封入された流体とを互いに移動不能にする構成であり、後半部分の左側領域における左のスリットと右側領域における右のスリットとの間隔は使用者がクッションに座った際に第1セルと第2セルとで座骨を包み込んで支えるようにクッション本体の表面の中央の側から後端の側に向かって広がっており、前半部分の左側領域における左のスリットと右側領域における右のスリットとの間隔は使用者がクッションに座った際に第1セルと第2セルとで太腿を包み込んで支えるようにクッション本体の表面の中央の側から前端の側に向かって広がっており、4つの領域における連通路は4つの領域における第1セルに封入された流体と第2セルに封入された流体とを互いに移動可能としかつ第1セルと第2セルとを互いに繋ぎ止める役割を担うとともに4つの領域におけるスリットの延びる方向に所定の間隔をあけて設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、後半部分の左側領域における左のスリットと右側領域における右のスリットとの間隔は使用者がクッションに座った際に第1セルと第2セルとで座骨を包み込んで支えるようにクッション本体の表面の中央の側から後端の側に向かって広がったことで、使用者がクッションに座った際、後半部分における第1セルと第2セルとで座骨を包み込んで支えるので、座骨に集中的に圧力が加わるような所謂ハンモック現象が抑制され、クッションに座った使用者の床ずれを防ぐことができる。また、前半部分の左側領域における左のスリットと右側領域における右のスリットとの間隔は使用者がクッションに座った際に第1セルと第2セルとで太腿を包み込んで支えるようにクッション本体の表面の中央の側から前端の側に向かって広がったことで、使用者がクッションに座った際、前半部における第1セルと第2セルとで太腿を包み込んで支えるので、大腿骨に対して集中的に圧力が加わるのを防ぐことができる。また、4つの領域における各セルは、封入された流体により弾性が付与されているため、特許文献1の如き制御装置を接続して空気量を調整する複雑な構成に比べてクッション全体の重量が軽くなり、車椅子を移動させる際に介護者等の負担が軽減して使用感を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態1に係る車椅子用クッションを座面に載置した車椅子の斜視図である。
図2】本発明の実施形態1に係る車椅子用クッション内部の分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態1に係るクッション本体の平面図である。
図4図1のA−A線における断面図である。
図5図3のB−B線における断面図である。
図6】実施形態2に係る図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態に係る車椅子用クッション1が座面10aに載置された車椅子10を示す。上記クッション1は、平面視で略矩形状をなしていて、図2乃至図4に示すように、使用者がクッション1に座った際に臀部の形状に対応して変形するクッション本体2を備えている。
【0027】
該クッション本体2は、真空成形により成形されたポリウレタン製であり、図2及び図3に示すように、ベース部3との間に空間を有する12個のセル4が上記座面10a全体に亘って沿うように並設されている。上記クッション本体2の略中央には、上下に貫通する貫通孔(連通部)3aが形成され、上記各セル4には、図5に示すように、チキソトロピー流体の特性を有するワセリン8が封入されている。
【0028】
一般的に、上記チキソトロピー流体やビンガム流体は、所定の応力が加わらないと流動を起こさない性質を有する流体である。
【0029】
即ち、水や低級アルコールのような粘性の低い流体は、加わる応力が低くても流動するので、例えば上述の各セル4に粘性の低い流体を封入すると、使用者がクッション1に座った時のフワフワ感が大きくなって使用感が損なわれるが、上記チキソトロピー流体やビンガム流体は、臀部から所定の体圧を受ける前や加わる応力が低い場合には適度の粘性を有するので流動せず、臀部から所定の体圧を受けると流動して臀部の形状に沿って窪むので体圧分散性が高く、しかも、臀部に沿った形状を保持するので、安定感が増して長時間座っても使用者は疲れない。
【0030】
本発明のチキソトロピー流体は、無害・無臭で取り扱いが容易なものが好まれ、ワセリン、パラフィン、ポリエチレングリコール、グリース、非乳化型シリコーンゲル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が例示される。
【0031】
上記の具体的な商品としては、一般に知られている白色ワセリンや黄色ワセリン、株式会社松村石油研究所製の「モレスコフードマシンルブFPG−1」、花王株式会社製の「エマノーンCH−25,CH−40、CH−60」(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、三洋化成工業株式会社製の「マクロゴール1500」(ポリエチレングリコール1500)、「エマルミンNL−80,90,100、110」(ポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテル)、「ラウロ、アクロゴール100」(ポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテル)、「ニューデッドPE−85」(ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール)、ライオン株式会社製の「PEG#1500」(ポリエチレングリコール)、リンデン社の「KSG−15」「KSG−16」「KSG−1610」(ジメチコン/ビニルジメチコン)、「KSG−18A」(ジメチコン/フェニルビニルジメチコン)、「KSG−41、42、43,44」(ビニルジメチコン/ラウリルジメチコン)等が適用できる。
【0032】
上記クッション本体2は、図2乃至図4に示すように、使用状態で座面10a後半部分の左側領域X1及び右側領域X2と、座面10a前半部分の左側領域X3及び右側領域X4との4つの領域に分けられ、これら4つの領域X1〜X4間でワセリン8が移動不能に上記各セル4内に封入されている。
【0033】
上記領域X1には、上記12個のセル4のうちの3つのセル4が左右に並設され(以下、図3右から4a(第2セル)、4b(第1セル)、4cと呼ぶ)、3つのセル4a〜4cのうちの中央のセル4bは、使用状態で座面10a後側が先細の二等辺三角形状をなしている。
【0034】
上記セル4aは、使用状態で座面10a前側が先細の直角三角形状をなし、その斜辺が上記セル4b側を向くように当該セル4bに隣設され、上記セル4aとセル4bとの間には、スリットS1が形成されている。
【0035】
上記セル4aとセル4bとの間には、当該セル4a及びセル4bの互いの内部を上記ワセリン8が移動可能に連通する連通路5が上記スリットS1の延びる方向に所定の間隔をあけて一対設けられている。
【0036】
尚、上記連通路5は、セル4aとセル4bとの間のワセリン8の移動を可能とするだけでなく、使用者がクッション1に座った際に、セル4aとセル4bとが離れ過ぎないように、セル4a及びセル4bを互いに繋ぎ止める役割も担っている。また、上記連通路5の断面積は、狭すぎるとワセリン8が移動し難くなる一方、広すぎるとワセリン8が一度に片方のセル4に移動してクッション1表面が臀部の形状に沿わなくなるおそれがあるので、0.1〜100cmが好ましい。
【0037】
また、上記セル4cは、使用状態で座面10aの前後方向に延びる略三角形状をなし、その三辺のうち一番長い一辺が上記セル4b側を向くように当該セル4bに隣設され、上記セル4bとセル4cとの間には、使用者の臀部後側側方の輪郭に沿うスリットS2が形成されている。
【0038】
そして、上記セル4bとセル4cとの間には、当該セル4b及びセル4cの互いの内部を上記ワセリン8が移動可能に連通する連通路5が上記スリットS2の延びる方向に所定の間隔をあけて一対設けられ、上記スリットS1、S2は、平面視でV字状をなしている。
【0039】
上記領域X2におけるクッション本体2の構造は、平面視で座面10aの左右方向中央を中心として上記領域X1におけるクッション本体2の構造と対称となっている。
【0040】
つまり、上記領域X1及び領域X2に位置する両セル4bは、座面10a後半部分で左右に離間していて、両セル4bの間には、2つのセル4aが位置している。さらに、上記2つのスリットS1は、着座する使用者の座骨に沿って逆V字状をなし、上記両セル4a間には、スリットS3が使用者の尾骨に対応して座面10aの前後方向に延びている。
【0041】
したがって、使用者がクッション1に座った際、スリットS1両側のセル4aとセル4bとで座骨を包み込んで支えるので、座骨に集中的に圧力が加わる、所謂ハンモック現象が抑制され、使用者の床ずれを確実に防ぐことができる。
【0042】
また、使用者がクッション1に座った際に、スリットS3両側の2つのセル4aで尾骨を包み込んで支えるので、尾骨へのハンモック現象が抑制され、使用者の床ずれ対策がさらに向上する。
【0043】
一方、上記領域X3におけるクッション本体2の構造は、平面視で座面10aの前後方向中央を中心として上記領域X1におけるクッション本体2の構造と対称となっていて、上記領域X4におけるクッション本体2の構造は、平面視で座面10aの前後方向中央を中心として上記領域X2におけるクッション本体2の構造と対称となっている。
【0044】
そして、上記領域X3及び領域X4のそれぞれに形成されたスリットS1、S2は、着座する使用者の大腿骨周辺の体形に沿うようにV字状に延びている。したがって、上記領域X3及び領域X4の各々のセル4bで各大腿骨周辺の体圧分散性を高めるとともに、上記領域X3及び領域X4の各々のセル4a、4cで太腿を包み込んで支えるので、各大腿骨に対して集中的に圧力が加わるのを防ぎ、しかも、各太腿がしっかりとクッション1に固定され、使用者の座り心地を良くすることができる。
【0045】
また、上記領域X3及び領域X4に位置する各セル4内のワセリン8の量は、上記領域X1及び領域X2に位置する各セル4内のワセリン8の量に対して約半分に設定されている。したがって、クッション性を十分に確保することが必要な臀部に対応する領域X1、X2に比べて、太腿に対応する領域X3、X4のセル4内のワセリン8の量を減らしても臀部ほどクッション性が必要でない太腿には支障がないので、臀部のクッション性を確保したまま、クッション1全体の重量を軽くできる。
【0046】
上記クッション本体2の下方には、上層61がウレタンフォームで下層62がポリエチレンフォームからなる2層の略矩形板状の第1クッションプレート6が配置されている。
【0047】
該第1クッションプレート6表面の座面10a後半部分には、第1凹状湾曲面6aが使用者の臀部に対応する位置に湾曲形成され、上記第1クッションプレート6表面の座面10a前半部分には、上記第1凹状湾曲面6aに連続する一対の第2凹状湾曲面6bが使用者の両大腿骨周辺のそれぞれに対応する位置に湾曲形成されていて、上記第1凹状湾曲面6a及び2つの第2凹状湾曲面6bにより、第1クッションプレート6表面の左右両端縁及び後端縁に立壁部6eが形成されるようになっている。
【0048】
そして、上記両第2凹状湾曲面6bの間には、当該両第2凹状湾曲面6bより上方に盛り上がった隆起面6dが使用者の両太腿の間に対応する位置に形成され、上記第1凹状湾曲面6aは、上記第2凹状湾曲面6bより下方に位置している。したがって、使用者がクッション1に座った際、使用者の臀部及び大腿骨周辺に対応するクッション本体2下方が第1クッションプレート6の第1凹状湾曲面6a及び第2凹状湾曲面6bの形状に沿って沈み込み、使用者の座る位置がずれ難くなるので、クッション1に座った使用者が車椅子に対して前後左右にずれ難くなり、使用感を良くすることができる。
【0049】
また、上記第1クッションプレート6上面には、座面10a中央から座面10a後端まで真っ直ぐに延びる溝部6cが形成され、上記第1クッションプレート6上方に上記クッション本体2を載置した状態で、上記貫通孔3aが上記溝部6cに対応するようになっている。
【0050】
また、上記第1クッションプレート6の下方には、略矩形板状のウレタンフォームからなる第2クッションプレート7が配置されていて、該第2クッションプレート7は、一端縁から他端縁に向かって厚みが次第に薄くなっている。そして、上記第2クッションプレート7は、上記第1クッションプレート6下方に取り付け・取り外し可能となっていて、例えば、本発明の実施形態のように、一端縁を座面前端縁に一致させるとともに他端縁を座面後端縁に一致させるように取り付けると、クッション1の座面が前方に向かって緩やかに傾斜するようになる。したがって、上記第2クッションプレート7を取り付けることでクッション1の表面が4方向に傾くので、例えば、使用者が前後左右に傾いて座る癖のある場合に使用者の傾きを抑制して姿勢を安定させることができる。また、使用者が足を使って車椅子10を前進させたいような場合に使用者を前傾姿勢にできる等、使用者の用途に応じてクッション1の表面の傾きを任意に変更することができる。
【0051】
尚、本発明の実施形態1では、第2クッションプレート7の厚みが一端縁から他端縁に向かって次第に薄くなっているが、厚みを一定にして使用者の座る高さを変更するためだけに使用する構成であってもよい。
【0052】
そして、上記クッション本体2、第1クッションプレート6及び第2クッションプレート7は、上下に重ね合わされて樹脂製クッションカバー1aで包み込まれるようになっている。
【0053】
以上より、本発明の実施形態1によると、各セル4は、封入されたワセリン8により弾性が付与されているため、特許文献1の如き制御装置を接続して空気量を調節する複雑な構成に比べてクッション1全体の重量が軽くなり、車椅子を移動させる際の介護者等の負担が軽減して使用感を良くすることができる。
【0054】
また、使用者がクッション1に座った際、各領域X1〜X4内のセル4間においてワセリン8が移動するので、使用者の荷重に対してクッション1表面が適度に沈み込み、クッション性を十分に確保できる。一方、各領域X1〜X4間のセル4間では、ワセリン8が移動しないので、ある一つの領域の各セル4内のワセリン8が他の領域の各セル4内に多く移動してしまって、クッション1表面が大きく傾いてしまい、使用者の座る姿勢が不安定になるといったことを防止することができる。
【0055】
また、本発明では、セル4内に封入する流体にワセリン8を使用しているので、使用者がクッション1に座るとクッション1表面が臀部の形状に沿って窪み、その形状を保持するので、クッション1に座った際の安定感が増して、使用者の座り心地を良くすることができる。また、クッション1表面が柔らかくなって体圧分散性が高まるので、使用者が長時間座っても疲労が少ない。さらに、チキソトロピー流体は水のような粘性の低いものと比べると流動し難いので、座った際のフワフワ感を抑制して使用感を良好にできる。
【0056】
また、本発明では、セル4内に封入する流体にワセリン8を使用しているので、使用者の座り心地を良くするために必要な流動性を得ることができる。
【0057】
また、使用者がクッション1に座ると、使用者の臀部の動きに連動した第1クッションプレート6の溝部6cの変形や、臀部とクッション1内部との間の温度差により、クッションカバー1aとクッション本体2との間から貫通孔3aを介して溝部6cに向かう空気の流れが発生する。したがって、使用者がクッション1に長時間座った際に発生する使用者の汗などによる湿気が、上記クッションカバー1aとクッション本体2との間に留まることなく上記貫通孔3aを介して上記溝部6cに流れ出て、使用者の蒸れを防止して使用感を良好にできる。
《発明の実施形態2》
図6は、本発明の実施形態2に係る車椅子用クッション1におけるセル4内部を示す。この実施形態2では、各セル4内部のワセリン8に多数の発泡ビーズ9が混合されている点が実施形態1と異なるだけでその他は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分のみを説明する。尚、図6に記載する発泡ビーズ9は誇張して記載している。
【0058】
上記各セル4内のワセリン8に多数の発泡ビーズ9を混合すると、ワセリン8が各発泡ビーズ9の周りにまとわりつく状態となるので、上記ワセリン8が流動する際、各発泡ビーズ9はワセリン8内に均等に分散された状態のままワセリン8とともに流動する。
【0059】
即ち、水や低級アルコールのような粘性の低い流体に多数の発泡ビーズ9を混合すると、流体が各発泡ビーズ9の周りにまとわりつかないので、流体だけが流動して流体内で各発泡ビーズ9に偏りが生じ、流動性が低下して体圧分散性を低下させてしまうが、上記ワセリン8に多数の発泡ビーズ9を混合しても、各発泡ビーズ9はワセリン8内で偏らず、体圧分散性を低下させない。
【0060】
上記各発泡ビーズ9は、ポリスチレンフォームで形成され、その粒径は0.5mm〜1.0mmのものを使用している。尚、上記発泡ビーズ9の粒径は、大きすぎると流動する際に発泡ビーズ9がワセリン8内を流動し難くなってしまい、使用者が座った際に臀部の形状に沿わなったり、異物感を感じて座り心地が悪くなったりするので、6.0mm以下であることが好ましい。
【0061】
また、上記各発泡ビーズ9は、発泡倍率が6〜30倍であるものを使用している。尚、発泡ビーズ9の発泡倍率が低すぎるとクッション1全体の重量が重くなる一方、発泡倍率が高すぎると各発泡ビーズ9が柔らかすぎて使用者が座った際に臀部の形状に沿わなくなるので、上記発泡倍率は4〜40倍であるものが望ましい。
【0062】
さらに、上記各セル4内部のワセリン8及び全発泡ビーズ9の体積比は(ワセリン:発泡ビーズ=1:4.5)としている。尚、ワセリン8に対して全発泡ビーズ9の体積比が少な過ぎると、クッション1全体の重量が重くなる一方、ワセリン8に対して発泡ビーズ9の体積比が多過ぎると、流動する際に各発泡ビーズ9がワセリン8内を流動し難くなってしまい、使用者がクッション1に座った際に臀部の形状に沿わなくなるので、上記ワセリン8及び全発泡ビーズ9の体積比は(ワセリン:発泡ビーズ=1:1〜1:100)とするのが良く、特に(ワセリン:発泡ビーズ=1:2〜1:50)であることが好ましい。
【0063】
尚、上記各発泡ビーズ9は、ポリスチレンフォームで形成されたものでなくてもよく、例えば、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム及びポリウレタンフォームで形成したものが上記ビンガム流体と相性が良く、幅広く使用される取り扱い易い材料であるので好ましい。
【0064】
また、上記各発泡ビーズ9の粒径や発泡倍率は、全て同じ値のものを使用する必要はなく、上述の範囲に含まれる数種の発泡ビーズ9を混合して使用してもよい。
【0065】
以上より、本発明の実施形態2によると、発泡ビーズ9は樹脂でできているので、ワセリン8よりも比重が軽く、上記発泡ビーズ9をワセリン8に含ませることでクッション1全体を軽くできる。
【0066】
尚、本発明の実施形態1、2では、各セル4内部にチキソトロピー流体を封入しているが、これに限らず、ビンガム流体であってもよい。尚、本発明で使用するビンガム流体は、生成した油脂を乳化させた加工品、すなわちマーガリン等が例示される。また各セル4内部に空気等のような気体を封入してもよいし、水等の液体を封入してもよい。さらに、全てのセル4内に同じ気体や液体を内包しなくてもよい。
【0067】
また、クッション本体2は、ウレタンフォームとポリエチレンフォームとで形成されているが、ポリ塩化ビニル、シリコンゴムなどを用いて形成してもよい。上記クッション本体2の厚みは限定されるものではないが、3〜5cmが使用上望ましい。
【0068】
また、各セル4は、平面視で三角形状をなしているが、その他の形状であってもよい。
【0069】
また、本発明の実施形態1では、座面10a前半部分の各セル4内のワセリン8の量を座面10a後半部分の各セル4内のワセリン8の量の約半分としているが、これに限らず、座面10a前半部分の各セル4内のワセリン8の量を後半部分の各セル4内のワセリン8の量より少なく設定していればよい。
【0070】
尚、上述の発泡ビーズ9を混合したチキソトロピー流体及びビンガム流体は、上記車椅子用クッション1のみならず、寝具用クッションの内部に封入することで、寝具用クッション全体を軽くでき、しかも、クッション表面が柔らかくなって体圧分散性が高まるので使用者が長時間寝そべった際の疲労を少なくできる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、車椅子の座面に載置して使用者が座る車椅子用クッションに適している。
【符号の説明】
【0072】
1 車椅子用クッション
1a クッションカバー
2 クッション本体
3a 貫通孔(連通部)
4 セル
4a セル(第2セル)
4b セル(第1セル)
4c セル
5 連通路
6 第1クッションプレート
6a 第1凹状湾曲部
6b 第2凹状湾曲部
6c 溝部
7 第2クッションプレート
8 ワセリン(チキソトロピー流体)
9 発泡ビーズ
10 車椅子
10a 座面
S1、S2、S3 スリット
X1、X2、X3、X4 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6