特許第5912061号(P5912061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912061
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】回転伝達装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/21 20160101AFI20160414BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20160414BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20160414BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   H02K11/00 B
   H02K7/116
   H02K15/02 Z
   G01D5/245 110L
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-113401(P2012-113401)
(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公開番号】特開2013-240251(P2013-240251A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101352
【氏名又は名称】アスモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山下 友騎
【審査官】 安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−034207(JP,A)
【文献】 特開2006−060937(JP,A)
【文献】 特開平03−253250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/21
G01D 5/245
H02K 7/116
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と従動軸の間に介装されて前記駆動軸の回転力を前記従動軸に伝達する樹脂製の回転体を有し、前記回転体の回転状態を検出するためのセンサマグネットが前記回転体に対してインサート成形により一体形成されてなる回転伝達装置の製造方法であって、
前記センサマグネットをインサート品として金型に配置する際に、該金型に設けられた位置決め凸部を前記センサマグネットの内周面に形成された位置決め凹部に嵌め込むことで、該センサマグネットを回転方向に位置決めし、
その後、前記金型に樹脂を充填して前記回転体を成形し、
前記回転体の成形後、前記位置決め凹部を前記センサマグネットの磁極の境界部として前記センサマグネットに着磁することを特徴とする回転伝達装置の製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の回転伝達装置の製造方法において、
前記位置決め凸部は、前記位置決め凹部内の空間が一部残るように該位置決め凹部に嵌め込まれ、
前記位置決め凹部における前記位置決め凸部が嵌め込まれていない残りの部位に、前記回転体を構成する樹脂の一部を入り込ませることを特徴とする回転伝達装置の製造方法。
【請求項3】
請求項又はに記載の回転伝達装置の製造方法において、
前記センサマグネットは、前記回転体を構成する樹脂と同種の樹脂をバインダとするプラスチックマグネットよりなり、
前記センサマグネットと前記回転体とを溶融接合させることを特徴とする回転伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転伝達装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1のモータは、モータ部の回転軸(駆動軸)と一体回転するセンサマグネットと、そのセンサマグネットの近傍に配置された磁気検出素子(ホール素子や磁気抵抗素子等)とを備えている。センサマグネットは、その外周面にN極とS極が回転方向(周方向)に交互に現れるように構成されている。磁気検出素子は、センサマグネットの回転に伴った磁界の変化を検出し、回転軸の回転数や回転速度等の回転状態を検出する。また、特許文献1のモータでは、モータ部の回転軸と減速機構のウォーム軸とが回転伝達装置を介して連結されており、その回転伝達装置は回転軸と連結される樹脂製の駆動側回転体を有している。そして、前述のセンサマグネットは、駆動側回転体の内部にインサート成形により埋設されている。これにより、カバー等を別途設けずとも、センサマグネットの割れによる破片の飛散を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−160161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなモータのセンサマグネットにおいて、磁力強化のためにセンサマグネットに極異方性磁石を用いることが考えられる。極異方性磁石は、磁極に応じた材料の配向(結晶方位)を有している。センサマグネットの成形時においては、センサマグネットの材料の配向を磁極に応じた向きで成形する。つまり、センサマグネットには、材料の配向が外径側を向く部位と内径側を向く部位とが回転方向において交互に成形される。その後、センサマグネットは材料の配向に応じた磁極に着磁される。このとき、着磁コイルをセンサマグネットの外周に配置し、その着磁コイルからの磁界によってセンサマグネットに磁性が付与されるが、N極の磁性を付与する着磁コイルとS極の磁性を付与する着磁コイルとをセンサマグネットの材料の配向に応じた位置に配置しなければならない。このため、着磁の際に、センサマグネットの回転方向の位置を把握する必要があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、極異方性磁石よりなるセンサマグネットがインサート成形される構成において、センサマグネットの回転方向の位置決めが可能な回転伝達装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項に記載の発明は、駆動軸と従動軸の間に介装されて前記駆動軸の回転力を前記従動軸に伝達する樹脂製の回転体を有し、前記回転体の回転状態を検出するためのセンサマグネットが前記回転体に対してインサート成形により一体形成されてなる回転伝達装置の製造方法であって、前記センサマグネットをインサート品として金型に配置する際に、該金型に設けられた位置決め凸部を前記センサマグネットの内周面に形成された位置決め凹部に嵌め込むことで、該センサマグネットを回転方向に位置決めし、その後、前記金型に樹脂を充填して前記回転体を成形し、前記回転体の成形後、前記位置決め凹部を前記センサマグネットの磁極の境界部として前記センサマグネットに着磁することを特徴とする。
【0012】
この発明では、位置決め凹部にてセンサマグネットの回転方向の位置が把握できるため、着磁の際、着磁コイルをセンサマグネットの材料の配向に応じた位置に配置して、センサマグネットに磁性を付与することが可能となる。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の回転伝達装置の製造方法において、前記位置決め凸部は、前記位置決め凹部内の空間が一部残るように該位置決め凹部に嵌め込まれ、前記位置決め凹部における前記位置決め凸部が嵌め込まれていない残りの部位に、前記回転体を構成する樹脂の一部を入り込ませることを特徴とする。
【0014】
この発明では、回転体を構成する樹脂が位置決め凹部の一部(位置決め凸部が嵌め込まれていない残りの部位)に入り込み、その位置決め凹部に入り込んだ樹脂が成形後のセンサマグネットの回り止めの役割を果たす。このため、位置決め凹部に対する位置決め凸部の位置を設定するだけで、センサマグネットの回り止めをする回り止め部を回転体に形成することができる。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項又はに記載の回転伝達装置の製造方法において、前記センサマグネットは、前記回転体を構成する樹脂と同種の樹脂をバインダとするプラスチックマグネットよりなり、前記センサマグネットと前記回転体とを溶融接合させることを特徴とする。
【0016】
この発明では、センサマグネットのバインダに回転体を構成する樹脂と同種の樹脂を用いることで、インサート成形時にセンサマグネットと回転体とが溶融接合される。このため、センサマグネットと回転体との固定を強固にすることができる。
【発明の効果】
【0019】
従って、上記記載の発明によれば、極異方性磁石よりなるセンサマグネットが回転伝達装置の回転体にインサート成形される構成において、センサマグネットの回転方向の位置決めが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態のモータの断面図。
図2】同形態のモータを部分的に示す断面図。
図3】同形態のクラッチの分解斜視図。
図4】(a)同形態の駆動側回転体の正面図、(b)同図(a)のA−A断面図。
図5】同形態の駆動側回転体の断面図。
図6】同形態のモータの製造方法を説明するための模式図。
図7】同形態のモータの製造方法を説明するための模式図。
図8】別例のセンサマグネットを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す本実施形態のモータは、例えばパワーウインド装置の駆動源として用いられるものである。このモータは、モータ部1、減速部2及びクラッチ3(回転伝達装置)を備えている。
【0022】
[モータ部]
モータ部1を構成する有底筒状のヨークハウジング(以下、単にヨークという)4の内周面には、一対のマグネット5が互いに対向するように固着されるとともに、マグネット5の内側には電機子6が配置されている。電機子6は、ヨーク4の中央部に配置される回転軸7(駆動軸)を備えている。回転軸7の基端部(図1において上側の端部)は、ヨーク4の底部中央に設けられた軸受8にて軸支されるとともに、同回転軸7の先端側の部位には、円筒状の整流子9が固定されている。また、回転軸7の先端部には、円柱形状から平行に面取りした二面幅形状の連結部7aが形成されるとともに、連結部7aの先端部は曲面状(球面の一部)をなしている。
【0023】
ヨーク4の開口部には、外側に向かって延設されたフランジ部4aが形成されるとともに、同ヨーク4の開口部にはブラシホルダ10が嵌合されている。このブラシホルダ10は、ヨーク4の開口部を閉塞する形状のホルダ本体10aと、ヨーク4の径方向外側に突出するコネクタ部10bとが一体に形成されてなる。ホルダ本体10aは、図示しない配線でコネクタ部10bと接続され前記整流子9と摺接する一対のブラシ11を保持している。また、ホルダ本体10aの中央には軸受12が設けられるとともに、該軸受12は、回転軸7における整流子9と連結部7aとの間の部位を軸支している。そして、コネクタ部10bを介してブラシ11に供給された外部電源が、整流子9を介して電機子6に供給されると、これにより電機子6(回転軸7)が回転駆動、即ちモータ部1が回転駆動されるようになっている。
【0024】
[減速部]
前記減速部2は、樹脂製のギヤハウジング21内に減速機構22等を収容して形成されている。ギヤハウジング21は、モータ部1と軸方向に対向する部位(図1において上側の端部)に、該ギヤハウジング21をモータ部1に固定するための固定部21aを備えている。固定部21aは、ヨーク4のフランジ部4aの外形と同様の外形を有するとともに、同固定部21aには、ヨーク4の内側に開口する嵌合凹部21bが形成されている。そして、嵌合凹部21b内にブラシホルダ10のホルダ本体10aが嵌合された状態で、固定部21aと該固定部21aに当接したフランジ部4aとが螺子23にて固定されることにより、ギヤハウジング21にヨーク4が固定され、モータ部1と減速部2とが一体化されている。
【0025】
ギヤハウジング21には、嵌合凹部21bの底部中央にクラッチ収容凹部21cが軸方向に凹設されるとともに、該クラッチ収容凹部21cの底部中央から回転軸7の軸線方向に沿って延びるウォーム軸収容部21dが凹設されている。また、ギヤハウジング21には、ウォーム軸収容部21dの側方(図1において右側)に、ホイール収容部21eが凹設されている。このホイール収容部21eと前記ウォーム軸収容部21dとは、ウォーム軸収容部21dの軸方向(長手方向)の中央部で繋がっている。
【0026】
前記ウォーム軸収容部21dには、略円柱状のウォーム軸24が収容されている。ウォーム軸24は、金属材料よりなり、その軸方向の中央部には螺子歯状のウォーム部24aが形成されている。そして、ウォーム軸24は、ウォーム軸収容部21dの軸方向の両端部にそれぞれ配置された金属製で円筒状をなす一対の軸受25,26によってその軸方向の両端部が軸支されている。ウォーム軸収容部21d内のウォーム軸24は、軸受25,26にて軸支されることにより、前記回転軸7と同軸上に配置、即ち回転軸7の中心軸線L1とウォーム軸24の中心軸線L2とが一直線上となるように配置されている(図2参照)。
【0027】
前記ホイール収容部21eには、ウォーム軸24のウォーム部24aと噛合する円板状のウォームホイール27が回転可能に収容されている。ウォームホイール27は、ウォーム軸24と共に減速機構22を構成している。また、ウォームホイール27の径方向の中央部には、同ウォームホイール27の軸方向(図1において紙面垂直方向)に延び同ウォームホイール27と一体回転する一体回転する出力軸28が設けられている。この出力軸28には、車両のウインドガラスを昇降させるための公知のウインドレギュレータ(図示略)が駆動連結される。
【0028】
[クラッチ(回転伝達装置)]
前記クラッチ収容凹部21cの内部には、前記回転軸7とウォーム軸24とを連結するクラッチ3が収容されている。図2及び図3に示すように、クラッチ3は、クラッチハウジング31、駆動側回転体32、サポート部材33、転動体34、従動側回転体35及びセンサマグネット36を備えている。
【0029】
クラッチハウジング31は、円筒状をなすとともに、同クラッチハウジング31の軸方向の一端部には、径方向外側に延びる鍔状の固定フランジ部31aが形成されている。クラッチハウジング31における円筒状の部位の外径はクラッチ収容凹部21cの内径と略等しく形成されるとともに、固定フランジ部31aの外径はクラッチ収容凹部21cの内径よりも大きく形成されている。図2に示すように、クラッチハウジング31は、固定フランジ部31aが嵌合凹部21bの底面に当接するまでクラッチ収容凹部21c内に挿入されている。そして、固定フランジ部31aは、ギヤハウジング21に形成された複数の固定凸部21fと熱かしめによって固定されている。これにより、クラッチハウジング31は、ギヤハウジング21に対して軸方向に移動不能且つ周方向に回転不能に構成される。尚、ギヤハウジング21に固定されたクラッチハウジング31は、回転軸7及びウォーム軸24と同軸上に配置されている。
【0030】
駆動側回転体32は、センサマグネット36が樹脂成形部40にインサート成形されてなる。樹脂成形部40は、略円筒状の駆動軸連結部41を有し、この駆動軸連結部41の中央部の駆動軸挿入孔42に回転軸7の連結部7aが圧入固定されることで、駆動側回転体32と回転軸7とが一体回転可能に連結される。
【0031】
図2図3及び図4(a)(b)に示すように、駆動軸連結部41の外周部には、センサマグネット36が設けられている。センサマグネット36は、回転軸7の中心軸線L1を中心とする円環状をなし、径方向に沿う断面形状が矩形状をなしている。つまり、センサマグネット36の内周面36a及び外周面は、軸方向から見て回転軸7の中心軸線L1を中心とする円形をなし、センサマグネット36の軸方向両端面は、軸線L1と直交する平面状をなしている。このセンサマグネット36は、その外周面が露出するように樹脂成形部40に埋設されている。詳しくは、樹脂成形部40は、駆動軸連結部41から径方向外側に延出形成された一対の鍔部43,44を有している。一対の鍔部43,44は、回転軸7の軸方向に並設されており、この一対の鍔部43,44の間にセンサマグネット36が埋設されている。各鍔部43,44は外周面が軸線L1を中心とする円形状をなし、各鍔部43,44の軸方向両端面は、軸線L1と直交する平面状をなしている。また、鍔部43,44は互いに同径をなしている。
【0032】
このセンサマグネット36は、磁性体粉末を含む樹脂材料(バインダ)にて成形されたプラスチックマグネットよりなり、センサマグネット36の樹脂材料には、駆動側回転体32の樹脂成形部40と同種の材料が用いられている。そして、センサマグネット36は、その軸方向両端面が鍔部43,44の軸方向内側端面とそれぞれ溶融接合されるとともに、内周面36aが駆動軸連結部41の外周と溶融接合されている。この溶融接合は、センサマグネット36をインサート品とした樹脂成形部40の成形時になされる。
【0033】
図2及び図3に示すように、駆動軸連結部41における減速部2側の軸方向の端部(図2において下端部)には、駆動軸挿入孔42と連通された従動軸挿入孔45と、その従動軸挿入孔45の径方向外側に位置する一対の転動体解除部46とが形成されている。転動体解除部46は、樹脂成形部40とは別のエラストマ等の弾性を有する材料よりなる。転動体解除部46は、周方向に180°間隔に形成されるとともに、軸方向に沿って駆動軸連結部41と反対側に延びている。
【0034】
駆動側回転体32の下段に配置されたサポート部材33は、樹脂材料にて形成されている。サポート部材33を構成する円環状のリング部51は、その外径が、前記駆動側回転体32の鍔部43,44の外径と等しく形成されている。このリング部51は、駆動側回転体32(樹脂成形部40)の鍔部44と、クラッチハウジング31の固定フランジ部31aとに軸方向に挟まれている。また、サポート部材33には、リング部51から軸方向に延びる一対の転動体保持部52が形成されている。転動体保持部52は周方向に180°間隔に形成されている。この各転動体保持部52には、円柱状の転動体34が収容されている。
【0035】
転動体34は円柱状をなし、その中心軸線が回転軸7の軸線L1と平行となるように配置されている。そして、転動体34は、軸線L1と平行な中心軸線を中心として回転可能に構成されている。なお、転動体34は、周方向において等角度間隔(本実施形態では180°間隔)で保持されている。
【0036】
このサポート部材33と駆動側回転体32とを組み付けた状態では、転動体解除部46はリング部51の内側に挿通されるとともに、一対の転動体保持部52の周方向の間に配置される。この転動体解除部46と転動体保持部52との周方向の間には間隙が設定されている。そして、駆動側回転体32が回転すると、転動体解除部46が転動体保持部52に対して周方向に当接するように構成されている。
【0037】
図2に示すように、駆動側回転体32の駆動軸連結部41及びセンサマグネット36は、クラッチハウジング31の外部(詳しくは、クラッチハウジング31とブラシホルダ10との間)に配置されている。一方、転動体解除部46、サポート部材33の転動体保持部52及び転動体34は、クラッチハウジング31の内部に挿入されている。転動体34は、その外周面がクラッチハウジング31の内周面に接触可能に構成されている。
【0038】
従動側回転体35は、前記ウォーム軸24の基端部に一体に形成されている。従動側回転体35の外周面には、軸方向と平行な平面状をなす一対の制御面35aが形成されている。この一対の制御面35aは互いに平行をなしている。この従動側回転体35は、サポート部材33の転動体保持部52の間に挿通されるとともに、その先端部が駆動側回転体32の従動軸挿入孔45に挿入されている。この従動側回転体35の制御面35aは、サポート部材33の内側に位置するとともに、それぞれ対応する転動体34と当接可能に構成されている。これにより、転動体34は、制御面35aとクラッチハウジング31の内周面との間に介在されるようになっている。尚、従動側回転体35の先端部は、駆動側回転体32の内部で回転軸7の連結部7aの先端部と軸方向に当接している。
【0039】
上記のクラッチ3では、モータ部1の停止時、即ち回転軸7及び駆動側回転体32の非回転駆動時に、負荷側(即ちウインドガラス側)から出力軸28に荷重がかかると、その荷重により従動側回転体35(ウォーム軸24)が回転しようとする。このとき、従動側回転体35の制御面35aとクラッチハウジング31の内周面との間に配置された転動体34の干渉により従動側回転体35(ウォーム軸24)の回転が阻止されるようになっている。
【0040】
一方、モータ部1の駆動時、即ち回転軸7及び駆動側回転体32の回転駆動時には、駆動側回転体32の転動体解除部46がサポート部材33の転動体保持部52に回転方向に当接(押圧)する。すると、転動体34がクラッチハウジング31の内周面と制御面35aとの間から押し出されて転動体34によるロック状態が解かれる。この状態では、回転軸7、駆動側回転体32、サポート部材33及び従動側回転体35(ウォーム軸24)が一体回転する。このようにして、回転軸7の回転がウォーム軸24に伝達されるようになっている。
【0041】
上記したクラッチ3の駆動側回転体32において、図4(b)及び図5に示すように、センサマグネット36の内周面36aには一対の切り欠き部36b(位置決め凹部)が形成されている。切り欠き部36bは、センサマグネット36の軸方向(回転軸7の軸方向と一致)から見て径方向外側に凸となる円弧状をなすとともに、センサマグネット36の軸方向一端面から他端面にかけて軸方向に沿って形成されている。
【0042】
各切り欠き部36bには、駆動側回転体32の樹脂成形部40の一部が入り込んでいる。詳しくは、駆動軸連結部41の外周面から径方向外側に突出する回り止め凸部40aが入り込んでいる。回り止め凸部40aの軸方向基端部(図5において上端部)は鍔部43と繋がっており、軸方向先端部は切り欠き部36bの軸方向中心位置まで延びている。なお、切り欠き部36bにおいて、回り止め凸部40aが入り込んでいない部位(図5において回り止め凸部40aの下方の空間)は、樹脂成形部40の成形時に後述する位置決めピン61(図7参照)が配置された箇所である。また、前述のように、センサマグネット36のバインダと樹脂成形部40とが同種の樹脂よりなるため、切り欠き部36bと回り止め凸部40aとの境界面、即ち、切り欠き部36bの内面と回り止め凸部40aの外面とは溶融接合されている。
【0043】
センサマグネット36は、周方向等間隔の4つの磁極で構成されている。つまり、N極とS極が交互に90°間隔で構成されている。このセンサマグネット36は極異方性磁石よりなり、磁極に応じた材料の配向(結晶方位)を有している。詳しくは、図4(b)において矢印方向で示すように、センサマグネット36の材料の配向は、N極では径方向外側を向き、S極では径方向外側を向くように設定されている。そして、前述の一対の切り欠き部36bは、周方向等間隔(180°間隔)に形成されるとともに、N極とS極の境界部Bに位置するように形成されている。尚、本実施形態では、磁極の境界部Bが4カ所存在するが、そのうちの2つに切り欠き部36bが形成されている。
【0044】
このようなセンサマグネット36に対し、前記ブラシホルダ10には、図2に示すように、センサマグネット36の近傍に位置する部位にホール素子や磁気抵抗素子等の磁気検出素子13が設けられている。尚、本実施形態では、磁気検出素子13がセンサマグネット36に対して回転軸7の軸線L1方向に対向するように構成されている。磁気検出素子13は、センサマグネット36の回転に伴った磁界の変化を検出し、回転軸7(駆動側回転体32)の回転数や回転速度等の回転状態を検出するために設けられている。
【0045】
次に、駆動側回転体32の製造方法について図6及び図7に従って説明する。
まず、プラスチックマグネットよりなるセンサマグネット36を上記した形状に成形する。ここで、図6において、センサマグネット36の材料(磁性体)の配向(結晶方位)を矢印で示している。同図に示すように、後にN極に着磁される部位の材料の配向は径方向外側を向き、後にS極に着磁される部位の材料の配向は径方向内側を向いている。また、一対の切り欠き部36bは、後にN極に着磁される部位とS極に着磁される部位との境界部に形成される。
【0046】
次に、センサマグネット36のインサート成形工程を行う。この工程では、まず、着磁前のセンサマグネット36を第1金型60に配置する。このとき、第1金型60に立設された円柱状の位置決めピン61は、センサマグネット36の切り欠き部36bに軸方向に挿入され、その位置決めピン61の外周の略半分が切り欠き部36b内に嵌り込む。これにより、センサマグネット36は第1金型60に対し、周方向(回転方向)及び軸直交方向(図6における紙面方向)に位置決めされる。また、図7に示すように、この位置決めピン61の先端部は、切り欠き部36bの軸方向中心位置まで挿入され、この状態でセンサマグネット36が第1金型60に設けられた支持部(図示略)にて軸方向に支持される。
【0047】
次に、第1金型60の上方に第2金型62に配置し、その第1金型60と第2金型62とで形成されるキャビティ内に樹脂材料を充填して、その後、固化させることにより樹脂成形部40が成形される。このとき、切り欠き部36bの残留部位36c(位置決めピン61が挿入されていない部位であって、図7において切り欠き部36bの上側半分)に樹脂材料が入り込んで回り止め凸部40aが成形される。
【0048】
また、センサマグネット36のバインダは、樹脂成形部40と同種の材料(溶融温度が略同等の材料)よりなるため、樹脂成形部40の充填後、センサマグネット36の樹脂成形部40との接触面(境界面)が固化前の樹脂成形部40の熱によって溶融する。これにより、センサマグネット36と樹脂成形部40との境界面が溶融接合される。より詳しくは、センサマグネット36の軸方向端面と鍔部43,44との境界面、センサマグネット36の内周面36aと駆動軸連結部41の外周面との境界面、及び切り欠き部36bと回り止め凸部40aとの境界面が溶融接合される。
【0049】
尚、樹脂成形部40の転動体解除部46は、樹脂成形部40の主な部分を成形した後の2次成形で形成される。
上記のインサート成形工程後、樹脂成形部40と一体成形されたセンサマグネット36に対する着磁工程を行う。この着磁工程では、センサマグネット36に対して図示しない着磁コイルによって着磁する。このとき、センサマグネット36に対しN極の磁性を付与する着磁コイルとS極の磁性を付与する着磁コイルとを、センサマグネット36の材料の配向に合わせて該センサマグネット36の外周に配置する。ここで、上記したインサート成形工程の時点で、樹脂成形部40に対するセンサマグネット36の回転方向の相対位置が決まっているため、センサマグネット36の材料の配向に合わせて着磁コイルを配置することが可能となっている。その後、各着磁コイルに磁界を発生させ、その磁界によってセンサマグネット36にN極及びS極の磁性を付与する。
【0050】
次に、本実施形態の作用について説明する。
センサマグネット36のインサート成形工程において、切り欠き部36bに嵌め込まれる第1金型60の位置決めピン61によってセンサマグネット36が回転方向に位置決めされる。これにより、センサマグネット36の回転方向の位置が把握できるため、着磁の際、着磁コイルをセンサマグネット36の材料の配向に応じた位置に配置して、センサマグネット36に磁性を付与することが可能となる。
【0051】
また、位置決めピン61は、切り欠き部36bの一部(軸方向の半分)が残るように該切り欠き部36bに嵌め込まれる。そして、樹脂成形部40の射出成形の際に、切り欠き部36bの残留部位36cに樹脂を入り込ませている。これにより、切り欠き部36bに入り込んだ樹脂(回り止め凸部40a)が成形後のセンサマグネット36の回り止めの役割を果たす。このため、切り欠き部36bに対する位置決めピン61の位置(位置決めピン61の長さ)を設定するだけで、センサマグネット36の回り止めをする回り止め凸部40aを樹脂成形部40に形成することができるようになっている。
【0052】
また、切り欠き部36bが形成された箇所では、センサマグネット36の他の箇所に比べて径方向長さが短くなるために磁束の量が減少するが、本構成のようにセンサマグネット36の磁極(N極・S極)の境界部Bに切り欠き部36bを形成することで、磁束のピーク(磁極の周方向中心の磁束)の低下が極力抑えられている。このため、センサマグネット36と磁気検出素子13との間隔が離れている場合等、磁束のピークを確保したい場合に有利な構成となっている。
【0053】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)回転軸7(駆動軸)と一体回転する駆動側回転体32の回転状態を検出するための極異方性磁石よりなるセンサマグネット36が、駆動側回転体32(樹脂成形部40)に対してインサート成形により一体形成される。そして、センサマグネット36には、該センサマグネット36を回転方向に位置決めするための切り欠き部36b(位置決め凹部)が形成されるため、切り欠き部36bにてセンサマグネット36を回転方向に位置決めすることが可能となる。これにより、切り欠き部36bにてセンサマグネット36の回転方向の位置が把握できるため、着磁の際、着磁コイルをセンサマグネット36の材料の配向に応じた位置に配置して、センサマグネット36に磁性を付与することが可能となる。その結果、クラッチ3(回転伝達装置)に一体成形されたセンサマグネット36を極異方性磁石で構成できる。
【0054】
(2)駆動側回転体32の樹脂成形部40には、切り欠き部36bに入り込む回り止め凸部40a(回り止め部)が形成される。このため、センサマグネット36が樹脂成形部40に一体形成された状態において、センサマグネット36の回転方向の位置がずれてしまうことを防止することができる。また、成形時のセンサマグネット36の位置決めに用いる切り欠き部36bを、成形後の回り止めにも利用することで、構成の簡素化を図ることができる。
【0055】
(3)センサマグネット36は、樹脂成形部40と同種の樹脂をバインダとするプラスチックマグネットよりなり、センサマグネット36と樹脂成形部40とが溶融接合される。つまり、センサマグネット36のバインダに樹脂成形部40と同種の樹脂を用いることで、インサート成形時にセンサマグネット36と回転体とを溶融接合させることができ、センサマグネット36と樹脂成形部40との固定を強固にすることができる。
【0056】
(4)センサマグネット36をインサート品として第1金型60に配置する際に、第1金型60に設けられた位置決めピン61(位置決め凸部)をセンサマグネット36の切り欠き部36bに嵌め込むことで、該センサマグネット36を回転方向に位置決めする。その後、第1金型60と第2金型62とで形成されるキャビティに樹脂を充填して樹脂成形部40を成形する。これにより、樹脂成形部40に対するセンサマグネット36の回転方向の相対位置が決まるため、樹脂成形部40に一体成形された状態においてもセンサマグネット36の回転方向の位置が把握できる。このため、着磁の際、着磁コイルをセンサマグネット36の材料の配向に応じた位置に配置して、センサマグネット36に磁性を付与することが可能となる。
【0057】
(5)位置決めピン61は、切り欠き部36b内の空間が一部残るように該切り欠き部36bに嵌め込まれ、樹脂成形部40の射出成形の際に、切り欠き部36bにおける位置決めピン61が嵌め込まれていない残りの部位(残留部位36c)に樹脂を入り込ませる。これにより、切り欠き部36bに入り込んだ樹脂が成形後のセンサマグネット36の回り止めの役割を果たす。このため、切り欠き部36bに対する位置決めピン61の位置を設定するだけで、センサマグネット36の回り止めをする回り止め凸部40aを樹脂成形部40に形成することができる。
【0058】
(6)切り欠き部36bがセンサマグネット36の磁極の境界部Bに形成される。このため、センサマグネット36の磁束のピーク(磁極の周方向中心の磁束)の低下を抑えることができる。これにより、センサマグネット36と磁気検出素子13との間隔が離れている場合等、磁束のピークを確保したい場合に有利な構成となる。
【0059】
(7)切り欠き部36bがセンサマグネット36の内周面36aに形成されるため、センサマグネット36の外周側の磁束の低下を抑えた好適な構成となる。
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、センサマグネット36の磁束のピークを重視した構成、つまり、切り欠き部36bをセンサマグネット36の磁極の境界部Bに形成したが、これに特に限定されるものではなく、切り欠き部36bを境界部B以外の箇所(即ち、磁極の周方向中間部)に形成してもよい。例えば、図8に示す例では、切り欠き部36bがS極の周方向中心部に形成されている。このような構成によれば、磁極の切り替わり部分における磁束の低下が抑えられるため、磁極の切り替わり位置を高精度に検出することができる。この構成は、センサマグネット36と磁気検出素子13との間隔が十分狭い場合等、磁束のピークが確保されている構成において特に有効である。
【0061】
尚、図8に示す例では、切り欠き部36bがS極の周方向中心部に形成されているが、これ以外に例えば、N極の周方向中心部に形成してもよく、また、磁極の周方向中心部から周方向にずれた位置に形成してもよい。
【0062】
・上記実施形態における切り欠き部36b(位置決め凹部)の個数や形状等の構成は適宜変更してもよい。例えば、上記実施形態では、切り欠き部36bがセンサマグネット36の内周面36aに形成されているが、センサマグネット36の軸方向端面や外周面等に形成してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、切り欠き部36bにおいて位置決めピン61が占める領域と、回り止め凸部40aが占める領域とを切り欠き部36bの軸方向の半分ずつとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、回り止め凸部40aが占める領域の方が大きくなるように位置決めピン61の長さを設定してもよい。また、例えば、位置決めピン61の長さを切り欠き部36bの軸方向長さと同等にして、回り止め凸部40aを省略した構成としてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、位置決めピン61を円柱状とし、切り欠き部36bの軸方向視の形状を円弧状としたが、これに限定されるものではなく、例えば断面矩形状としてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、位置決めピン61は従動側(従動軸挿入孔45側)の第1金型60に設けられたが、これに限定されるものではなく、駆動側(駆動軸挿入孔42側)の第2金型62に設けてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、インサート成形工程後に、センサマグネット36への着磁工程を行うが、これ以外に例えば、インサート成形前にセンサマグネット36への着磁を行ってもよい。この場合においても、切り欠き部36bにてセンサマグネット36の回転方向の位置が把握できるため、着磁コイルをセンサマグネット36の材料の配向に応じた位置に配置して、センサマグネット36に磁性を付与することができる。
【0067】
・上記実施形態では、センサマグネット36がプラスチックマグネットで構成されたが、これ以外に例えば、焼結磁石としてもよい。また、センサマグネット36の形状等の構成は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜変更してもよい。
【0068】
・上記実施形態では、センサマグネット36の外周面が樹脂成形部40から露出される構成としたが、これに限定されるものではなく、センサマグネット36の上面(軸方向の磁気検出素子13側の端面)を樹脂成形部40から露出させてもよい。また、上記実施形態の構成に加えてセンサマグネット36の外周面も樹脂成形部40で覆うように構成してもよい。
【0069】
・上記実施形態では、磁気検出素子13がセンサマグネット36に対して回転軸7の軸線L1方向に対向するように構成されているが、これに限定されるものではなく、センサマグネット36に対して径方向に対向するように構成してもよい。
【0070】
・上記実施形態では、回転伝達装置としてのクラッチ3は、回転軸7の回転をウォーム軸24に伝達する一方、ウォーム軸24からの入力を回転軸7に伝達することを阻止するものであったが、作動はこれに限定されるものではなく、回転軸7の回転をウォーム軸24に伝達する構成であれば特にその構成は問わない。
【0071】
・上記実施形態では、パワーウインド装置用のモータに具体化したが、他の装置用のモータに具体化してもよい。また、モータ以外でも、駆動軸の回転力を回転体を介して従動軸に伝達する回転伝達装置を備えていれば、他の装置に具体化してもよい。
【0072】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ) 記切り欠き部は、前記センサマグネットの磁極の境界部に形成されていることを特徴とする。
【0073】
これにより、センサマグネットの磁束のピーク(磁極の周方向中心の磁束)の低下を抑えることができる。このため、センサマグネットと磁気検出素子との間隔が離れている場合等、磁束のピークを確保したい場合に有利な構成とすることができる。
【0074】
(ロ) 記切り欠き部は、前記センサマグネットの磁極の周方向中間部に形成されていることを特徴とする。
【0075】
これにより、磁極の切り替わり部分における磁束の低下が抑えられるため、磁極の切り替わり位置を高精度に検出することができる。尚、この構成は、センサマグネットと磁気検出素子との間隔が十分狭い場合等、磁束のピークが確保されている構成において特に有効である。
【符号の説明】
【0076】
1…モータ部、2…減速部、3…クラッチ(回転伝達装置)、7…回転軸(駆動軸)、13…磁気検出素子、22…減速機構、24…ウォーム軸(従動軸)、32…駆動側回転体(回転体)、35…従動側回転体、36…センサマグネット、36b…切り欠き部(位置決め凹部)、40…樹脂成形部、40a…回り止め凸部(回り止め部)、60…第1金型、61…位置決めピン(位置決め凸部)、62…第2金型。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8