特許第5912072号(P5912072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912072
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】動吸振器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   F16F15/14 B
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-197106(P2012-197106)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-52038(P2014-52038A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2014年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠
(72)【発明者】
【氏名】木下 友則
(72)【発明者】
【氏名】吉川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 篤
(72)【発明者】
【氏名】小川 亜樹
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124682(JP,A)
【文献】 特開2012−145190(JP,A)
【文献】 特表2001−500957(JP,A)
【文献】 特開2000−310275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F15/00−15/315
15/32−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸線を中心に回転するとともに周方向に沿って複数の転動室が設けられてなる動吸振器本体を備え、前記転動室にはその径方向外側の縁部に沿って転動可能な転動体が収容されてなる動吸振器において、
前記径方向外側の縁部は、
径方向において最も外側に位置する最外部位を周方向における中央として同最外部位から周方向に離れるに連れて曲率半径が次第に大きくなる第1の領域と、
前記第1の領域の周方向外側の部位に連続するとともに、同周方向外側の部位の曲率半径よりも小さい曲率半径で形成される第2の領域と、を有する
ことを特徴とする動吸振器。
【請求項2】
前記第1の領域の前記最外部位の曲率半径を第1の曲率半径とし、前記第2の領域の曲率半径を第2の曲率半径としたとき、前記第2の曲率半径を前記第1の曲率半径以下とする
請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
前記第1の領域の周方向両側に、前記第2の領域をそれぞれ設ける
請求項1又は請求項2に記載の動吸振器。
【請求項4】
前記第1の領域を、同第1の領域に沿って移動する前記転動体の重心の移動軌跡が懸垂曲線形状となるように形成する
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の動吸振器。
【請求項5】
前記転動体には軸線方向における両側に突出する一対の軸部が設けられており、
前記動吸振器本体の軸線方向における両側に配置され、前記転動体を、前記軸部を介して転動自在に支持する一対の支持部材と、
前記転動体の軸線方向への移動を制限する制限手段と、をさらに備える
請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の動吸振器。
【請求項6】
前記制限手段は、
前記径方向外側の縁部に、同縁部の延びる方向に沿うように設けられる突条部と、
前記転動体の周面の全周に渡って設けられるとともに、前記突条部の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部と、を含んでなり、
前記溝部の深さ寸法を、前記突条部の高さ寸法よりも長くする
請求項5に記載の動吸振器。
【請求項7】
前記転動体の軸線方向における幅は、前記動吸振器本体の軸線方向における幅よりも広くなっており、
前記制限手段は、前記転動体の周面に全周に渡って設けられるとともに、前記動吸振器本体の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部を含んでなる
請求項5に記載の動吸振器。
【請求項8】
前記制限手段は、
前記転動体の周面の全周に渡って設けられる環状の突条部と、
前記径方向外側の縁部に、同縁部の延びる方向に沿うように設けられるとともに、前記突条部の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部と、を含んでなり、
前記溝部の深さ寸法を、前記突条部の高さ寸法よりも短くする
請求項5に記載の動吸振器。
【請求項9】
前記制限手段は、
前記転動体の周面の全周に渡って設けられる環状の突条部と、
前記径方向外側の縁部に、同縁部の延びる方向に沿うように設けられるとともに、前記突条部の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部と、を含んでなり、
前記溝部の深さ寸法を、前記突条部の高さ寸法よりも長くする
請求項5に記載の動吸振器。
【請求項10】
前記転動体は、軸線方向における内側に向かうに連れて次第に肉厚又は肉薄となるように構成され、前記径方向外側の縁部は、前記転動体の周面に対応した形状となっており、
前記転動体の周面及び前記径方向外側の縁部により、前記制限手段が構成される
請求項5に記載の動吸振器。
【請求項11】
前記制限手段は、前記両支持部材に設けられるとともに、同支持部材の側面と前記転動体の側面との間に隙間が介在した状態で前記軸部の先端が当接する当接部を含んでなる
請求項5に記載の動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンなどの動力源から入力されるトルク変動に伴う振動を減衰させる動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、動吸振器は、周方向に沿って複数の転動室が配置されている動吸振器本体を備え、各転動室には円盤状をなす転動体が転動自在な状態で収容されている。そして、動吸振器本体が一定速度で回転する場合、転動体は、転動室の外側の縁部(以下、「外側縁部」ともいう。)の最外部位に当接した状態で動吸振器本体と一体回転するようになっている。なお、ここでいう「外側縁部の最外部位」とは、外側縁部において最も径方向外側に位置する部位のことである。
【0003】
その一方で、動吸振器にトルク変動が入力されると、動吸振器本体の回転速度が変化する。この際、転動体が最外部位から外側縁部に沿って動吸振器本体に対して相対的に移動する。こうした転動体の相対移動によって動吸振器本体の回転速度の変化が抑制され、トルク変動に伴う振動が減衰される。
【0004】
なお、特許文献1に記載の動吸振器では、外側縁部の曲率半径は略楕円形状をなしている。そのため、こうした外側縁部に沿って移動体が移動する際には、この移動体の重心と最外部位の曲率中心とを結ぶ直線距離が、最外部位から移動体が周方向に離れるに従って次第に長くなるようになっている。
【0005】
ところで、外側縁部の形状としては、特許文献1に記載される動吸振器の外側縁部の形状とは異なる種々の形状が考えられる。こうした外側縁部の一例としては、曲率半径を最外部位から周方向に離れるに従い次第に大きくするものが挙げられる。これによれば、動吸振器本体へのトルク変動の入力によって転動体が外側縁部に沿って動吸振器本体に対して揺動する場合、外側縁部が円弧状をなす場合よりも、転動体を動吸振器本体に対して大きく相対移動させることが可能となる。そのため、トルク変動に伴う振動の減衰効率の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−18329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トルク変動に伴う振動の減衰効率をさらに高める方法としては、転動体の使用数を増やす第1の方法と、重量の重い転動体を使用する第2の方法とが挙げられる。
第1の方法を採用するためには、動吸振器本体に周方向に沿って設けられる転動室の数を増やすこととなる。しかしながら、外側縁部を最外部位から周方向に離れるに従い曲率半径が次第に大きくなる形状とすると、転動室の周方向における幅は、外側縁部が一定曲率の円弧状に形成される場合と比較して広くなる。すなわち、一つの転動室を設けるために広いスペースが必要となる。そのため、動吸振器本体に設けることのできる転動室の数が減る可能性があり、転動体の使用数が減ってしまうおそれがある。
【0008】
また、第2の方法を採用するためには、大きい転動体を用いることとなるため、周方向で互いに隣り合う各転動室の間隔を広げることが好ましい。しかしながら、上述したように、上記構成の転動室の周方向における幅が広いため、転動室同士の間隔を広げることにより、動吸振器本体に設けることのできる転動室の数が減るおそれがある。この場合、重量の重い転動体を用いたとしても転動体の使用数が減少するため、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高くできるとは言い難い。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高めることができる動吸振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用について記載する。
本発明の一態様は、所定の軸線を中心に回転するとともに周方向に沿って複数の転動室が設けられてなる動吸振器本体を備え、転動室にはその径方向外側の縁部に沿って転動可能な転動体が収容されてなる動吸振器を前提としている。そして、径方向外側の縁部は、径方向において最も外側に位置する最外部位を周方向における中央としてこの最外部位から周方向に離れるに連れて曲率半径が次第に大きくなる第1の領域と、この第1の領域の周方向外側の部位に連続するとともに、この周方向外側の部位の曲率半径よりも小さい曲率半径で形成される第2の領域と、を有することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、径方向外側の縁部の全体が、最外部位から周方向に離れるに連れて曲率半径が次第に大きくなる形状である場合と比較して、第2の領域を設ける分、一つの転動室の周方向における幅を狭くすることができる。その結果、周方向に沿って配置される転動室、即ち使用できる転動体の数を増やしたり、周方向で互いに隣り合う各転動室の間の間隔を広げることにより大きい転動体を、その使用数を減らすことなく用いたりすることが可能となる。したがって、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高めることができるようになる。
【0012】
上記構成において、第1の領域の最外部位の曲率半径を第1の曲率半径とし、第2の領域の曲率半径を第2の曲率半径としたとき、第2の曲率半径を第1の曲率半径以下とすることが好ましい。これにより、第2の曲率半径が第1の曲率半径よりも大きい場合と比較して、一つの転動室の周方向における幅を狭くすることができる。
【0013】
また、第1の領域の周方向両側に、第2の領域をそれぞれ設けることが好ましい。これにより、第1の領域の周方向における一方にのみ第2の領域を設ける場合と比較して、一つの転動室の周方向における幅を狭くすることができる。
【0014】
なお、第1の領域の形状としては、この第1の領域に沿って移動する転動体の重心の移動軌跡が懸垂曲線形状となるような形状とすることが好ましい。
また、転動体には、軸線方向における両側に突出する一対の軸部を設けてもよい。この場合、動吸振器は、動吸振器本体の軸線方向における両側に配置され、転動体を、軸部を介して転動自在に支持する一対の支持部材と、転動体の軸線方向への移動を制限する制限手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、転動体の軸方向への移動が制限手段によって制限されることにより、転動体の側面と、支持部材の側面との摺接が抑制される。その結果、動吸振器にトルク変動が入力された際に、転動体を動吸振器本体に対して大きく相対移動させることができ、ひいてはトルク変動に伴う振動の減衰効率を高くすることができるようになる。
【0016】
なお、制限手段としては、転動室の径方向外側の縁部に、この縁部の延びる方向に沿うように設けられる突条部と、転動体の周面の全周に渡って設けられるとともに、突条部の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部と、を含んだ構成であってもよい。これにより、転動体の軸方向への移動が制限され、転動体の側面と支持部材の側面との摺接を抑制することが可能となる。
【0017】
そして、こうした構成にあっては、溝部の深さ寸法を、突条部の高さ寸法よりも長くすることが好ましい。これにより、転動体が縁部に沿って相対移動する場合に、突条部の先端と溝部の底面との摺接が回避される。その結果、突条部の先端が溝部の底面と摺接する場合と比較して、トルク変動の入力によって動吸振器本体の回転速度が変化するときには、この動吸振器本体に対して相対移動する転動体が動吸振器本体に対して効率的に力を付与することができ、動吸振器本体の回転速度の変化を抑えやすくすることができる。したがって、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高くすることができるようになる。
【0018】
また、転動体の軸線方向における幅が、動吸振器本体の軸線方向における幅よりも広くなっている場合、制限手段は、転動体の周面に全周に渡って設けられるとともに、動吸振器本体の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部を含んだ構成であってもよい。これにより、転動体の溝部内に径方向外側の縁部が位置することになり、この縁部と溝部との係合によって転動体の軸方向への移動が制限され、転動体の側面と支持部材の側面との摺接を抑制することが可能となる。
【0019】
また、制限手段は、転動体の周面の全周に渡って設けられる環状の突条部と、径方向外側の縁部に、同縁部の延びる方向に沿うように設けられるとともに、突条部の軸線方向における幅よりも広い幅を有する溝部と、を含んだ構成であってもよい。これにより、転動体の突条部が転動室の径方向外側の縁部に設けられた溝部内に位置することになり、突条部と溝部との係合によって転動体の軸方向への移動が制限され、転動体の側面と支持部材の側面との摺接を抑制することが可能となる。
【0020】
そして、こうした構成にあっては、溝部の深さ寸法を、突条部の高さ寸法よりも短くしてもよい。これにより、転動体が縁部に沿って相対移動する場合に、突条部の先端が溝部の底面に摺接する一方で、転動体の周面において突条部の両側に位置する部位と縁部との摺接が回避される。その結果、転動体の周面において突条部の両側に位置する部位も縁部と摺接する場合と比較して、トルク変動の入力によって動吸振器本体の回転速度が変化するときには、この動吸振器本体に対して相対移動する転動体が動吸振器本体に対して効率的に力を付与することができ、動吸振器本体の回転速度の変化を抑えやすくすることができる。したがって、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高くすることができるようになる。
【0021】
また、溝部の深さ寸法を、突条部の高さ寸法よりも長くしてもよい。これにより、転動体が縁部に沿って相対移動する場合に、突条部の先端が溝部の底面に摺接しない一方で、転動体の周面において突条部の両側に位置する部位が縁部に摺接する。その結果、突条部の先端もまた溝部の底面に摺接する場合と比較して、トルク変動の入力によって動吸振器本体の回転速度が変化するときには、この動吸振器本体に対して相対移動する転動体が動吸振器本体に対して効率的に力を付与することができ、動吸振器本体の回転速度の変化を抑えやすくすることができる。したがって、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高くすることができるようになる。
【0022】
また、転動体は、軸線方向における内側に向かうに連れて次第に肉厚又は肉薄となるように構成され、転動室の径方向外側の縁部は、転動体の周面に対応した形状となっていることがある。この場合、転動体の周面及び径方向外側の縁部により、制限手段が構成されることとなる。こうした構成を採用することにより、転動体の軸方向への移動を制限することができ、転動体の側面と支持部材の側面との摺接を抑制することが可能となる。
【0023】
また、制限手段は、両支持部材に設けられるとともに、同支持部材の側面と転動体の側面との間に隙間が介在した状態で軸部の先端が当接する当接部を含んだ構成であってもよい。これにより、転動体が軸線方向に移動しようとしても、転動体の側面が支持部材の対向面に当接する前に軸部の先端が当接部に当接し、さらなる転動体の軸線方向への移動が規制される。その結果、転動体の側面と支持部材の対向面との摺接を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の動吸振器の一実施形態を示す平面図。
図2図1における2−2線矢視断面図。
図3】動吸振器の一部を拡大した拡大図。
図4】比較例の動吸振器本体を示す平面図。
図5】実施形態の動吸振器本体を示す平面図。
図6】(a)は別の実施形態の動吸振器の一部を示す拡大図、(b)は図6(a)の6−6線矢視断面図。
図7】(a)は別の実施形態の動吸振器の一部を示す拡大図、(b)は図7(a)の7−7線矢視断面図。
図8】(a)は別の実施形態の動吸振器の一部を示す拡大図、(b)は図8(a)の8−8線矢視断面図。
図9】(a)は別の実施形態の動吸振器の一部を示す拡大図、(b)は図9(a)の9−9線矢視断面図。
図10】(a)は別の実施形態の動吸振器の一部を示す拡大図、(b)は図10(a)の10−10線矢視断面図。
図11】(a)は別の実施形態の動吸振器の一部を示す拡大図、(b)は図11(a)の11−11線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を具体化した一実施形態について、図1図5に基づき説明する。なお、軸線Sの延びる方向を、「軸線方向」というものとする。
図1に示すように、本実施形態の動吸振器21は、図1にて紙面と直交する軸線Sを中心に回転する平面視略円環状の動吸振器本体22を備えている。本実施形態の動吸振器本体22は、比較的肉厚の一枚の板材で構成されている。こうした動吸振器本体22には、周方向に沿って略等間隔に配置される複数の転動室23が形成されている。これら各転動室23は、動吸振器本体22の内周縁221側に開口している。そして、周方向において互いに隣り合う各転動室23の間には、各転動室23を区画する区画壁24が設けられている。
【0026】
また、図1及び図2に示すように、本実施形態の動吸振器21は、転動室23で転動する転動体の一例としてのコロ30を備えている。コロ30は、平面視円形状をなしており、動吸振器本体22よりも肉厚に構成されている。なお、本実施形態のコロ30は、一枚の板材から構成してもよいし、複数枚の板材を積層した構成であってもよい。
【0027】
こうしたコロ30の周面31において軸線方向における中央には、全周に渡る環状の溝部32が設けられている。この溝部32の幅寸法(即ち、軸線方向における長さ寸法)は、動吸振器本体22の厚み寸法(即ち、軸線方向における長さ寸法)よりも僅かに大きい。そして、転動室23の径方向外側の縁部(以下、「外側縁部25」ともいう。)の少なくとも一部が溝部32内に位置している。こうした外側縁部25と溝部32との係合によって、コロ30の軸線方向への移動が制限される。したがって、本実施形態では、外側縁部25と溝部32とにより、「転動体の軸線方向への移動を制限する制限手段」が構成される。
【0028】
なお、コロ30の軸方向にほぼ直交する両側面301からは、その中央から軸部33が軸線方向に突出している。
動吸振器本体22の軸線方向における両側には、支持部材の一例としてのガイド部材40がそれぞれ設けられている。これら一対のガイド部材40は、円環状をなすとともに、動吸振器本体22に対して一体回転するように固定されている。こうしたガイド部材40の外周側には、コロ30の軸部33を支持する支持部41が形成されている。すなわち、一対のガイド部材40は、軸部33を介してコロ30を転動室23内で転動自在に支持している。
【0029】
なお、ガイド部材40の側面401は、コロ30の側面301と隙間を介在させた状態で対向している。本実施形態では、コロ30の軸線方向への移動が外側縁部25と溝部32との係合によって制限されているため、コロ30の側面301とガイド部材40の側面401との摺接が回避されている。
【0030】
次に、外側縁部25の形状について図3を参照して詳述する。
図3に示すように、外側縁部25は、複数の領域51,52が周方向に沿って連続するようにして構成されている。すなわち、外側縁部25において周方向における中央は、径方向において最も外側に位置する最外部位P1である。そして、この最外部位P1を含む第1の領域51は、最外部位P1から周方向に離れるに連れて曲率半径が次第に大きくなるように形成されている。本実施形態の第1の領域51は、コロ30の重心Cの移動軌跡が懸垂曲線形状となるように形成されている。
【0031】
また、第1の領域51の周方向における両側に位置する第2の領域52は、一定の曲率で形成される円弧形状となっている。具体的には、最外部位P1での曲率半径を「第1の曲率半径」とするとともに、第2の領域52での曲率半径を「第2の曲率半径」とし、さらに、第1の領域51の周方向において最も外側となる位置P3での曲率半径を「第3の曲率半径」とする。本実施形態では、第2の曲率半径が、第1及び第3の曲率半径よりも小さくなっている。これにより、一つの転動室23の周方向における幅が狭くなる。
【0032】
ここで、比較例の動吸振器本体22Aと本実施形態の動吸振器本体22とを、図4及び図5を参照して比較する。
図4に示す比較例の動吸振器本体22Aでは、外側縁部25Aが、最外部位P1から周方向に離れるに連れて次第に曲率半径が大きくなるように形成されている。すなわち、外側縁部25Aには、第2の領域に相当する領域が形成されていない。この場合、本実施形態の場合と比較して、一つの転動室23Aの周方向における幅が広くなってしまう。
【0033】
その結果、図4及び図5からも明らかなように、比較例の動吸振器本体22Aにおいて周方向に沿って配置できる転動室23Aの数は、本実施形態の動吸振器本体22において周方向に沿って配置できる転動室23の数よりも少なくなる。言い換えると、本実施形態では、周方向において互いに隣り合う各転動室の間隔を変更しなくても、周方向に沿って配置できる転動室23の数を増やすことが可能となる。これにより、本実施形態の動吸振器21で使用できるコロ30の数は、比較例の動吸振器で使用できるコロ30の数よりも多くなる。
【0034】
次に、本実施形態の動吸振器21の作用について説明する。
動吸振器21へのトルクの入力によって、動吸振器本体22が一定速度で回転している場合、コロ30は、自身に作用する遠心力によって外側縁部25の最外部位P1近傍に位置し、動吸振器本体22とほぼ一体回転する。この状態でトルク変動が動吸振器21に入力されると、動吸振器本体22の回転速度が変動する。
【0035】
この際、コロ30は、外側縁部25に沿って動吸振器本体22に対して相対的に移動することとなる。すなわち、コロ30は、外側縁部25において曲率半径の小さい位置に摺接するようになる。その結果、コロ30の揺動範囲が広くても、コロ30と、外側縁部25におけるコロ30との接触部位との間で滑りが発生しにくくなり、コロ30は、外側縁部25が一定曲率である場合と比較して外側縁部25に沿って移動し易くなる。そのため、トルク変動に伴う振動が効果的に減衰される。
【0036】
また、本実施形態のようにコロ30の使用数が増えたことにより、トルク変動に伴う振動の減衰効率はさらに向上することとなる。
以上説明したように、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
【0037】
(1)比較例の場合と比較して、第1の領域51の周方向における外側に第2の領域52を設ける分、一つの転動室23の周方向における幅を狭くすることができる。その結果、周方向に沿って配置される転動室23、即ちコロ30の使用数を増やすことができる。したがって、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高めることができるようになる。
【0038】
(2)本実施形態では、第2の曲率半径が第1の曲率半径よりも小さくなるように転動室23が形成されている。そのため、第2の曲率半径が第1の曲率半径よりも大きくなるように転動室23を形成する場合と比較して、一つの転動室23の周方向における幅を狭くすることができる。
【0039】
(3)また、本実施形態の外側縁部25は、第1の領域51の周方向両側に第2の領域52をそれぞれ設けた構成となっている。そのため、第1の領域51の周方向における一方にのみ第2の領域52を設ける場合と比較して、一つの転動室23の周方向における幅を狭くすることができる。
【0040】
(4)さらに、本実施形態では、コロ30の周面31に、外側縁部25を収容できるような形状の溝部32を全周にわたって設けることにより、コロ30の軸線方向への移動が制限される。その結果、コロ30の側面301とガイド部材40の側面401との摺接を回避することができる。これにより、トルク変動の入力によってコロ30が外側縁部25に沿って動吸振器本体22に対して相対移動する際に、コロ30の相対移動を妨げるような摩擦力を小さくすることができる。そのため、コロ30を外側縁部25に沿って大幅に揺動させることが可能となり、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高めることができるようになる。
【0041】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
図6(a)に示すように、動吸振器は、円盤状の動吸振器本体122を備えた構成であってもよい。この場合、転動室123は、動吸振器本体122に形成された貫通孔で構成されることとなる。こうした転動室123であっても、外側縁部25は、第1の領域51と、第1の領域51の周方向における外側に位置する第2の領域52とを有してなる。
【0042】
図6(a),(b)に示すように、動吸振器本体122の外側縁部25には、この外側縁部25に沿って延びる突条部61を、軸線方向における中央に設けてもよい。この場合、コロ30の周面31には、突条部61を係合可能な環状の溝部62を全周に渡って設けてもよい。これにより、コロ30の軸線方向への移動が制限される。すなわち、突条部61と溝部62とにより、「制限手段」が構成される。
【0043】
また、突条部61の高さ寸法H1を、溝部62の深さ寸法H2よりも短くしてもよい。このような構成を採用すると、突条部61の先端が溝部62の底面に当接しなくなる。その結果、コロ30は、直径の大きい部分で動吸振器本体122に当接する一方で、直径の小さい部分で動吸振器本体122に当接しなくなる。このような構成を採用することにより、コロ30において直径の異なる複数箇所が動吸振器本体122に当接する場合と比較して、コロ30の外側縁部25に沿った移動時における動吸振器本体122に対するコロ30の滑りを抑制することができる。すなわち、コロ30の相対移動に伴う力を動吸振器本体122に効率良く伝えることができるようになる。したがって、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高めることができるようになる。
【0044】
なお、図6に示す別の実施形態において、突条部61の高さ寸法H1を、溝部62の深さ寸法H2よりも長くしてもよい。
・また、図7(a),(b)に示すように、コロ30の周面31の軸線方向における中央に、環状の突条部66を全周に渡って設けるとともに、外側縁部25に突条部66を収容可能な溝部67を設けてもよい。この場合、突条部66と溝部67とにより、「制限手段」が構成される。そして、突条部66の高さ寸法H3を、溝部67の深さ寸法H4よりも長くしてもよい。
【0045】
なお、図8(a),(b)に示すように、突条部66の高さ寸法H3を、溝部67の深さ寸法H4よりも短くしてもよい。
・コロ30を、軸線方向における内側に向けて次第に肉厚となるように構成するとともに、外側縁部25を、コロ30の周面に対応した形状としてもよい。
【0046】
例えば、図9(a),(b)に示すように、周面131の断面形状がテーパ状をなすようにコロ30を構成するとともに、外側縁部25をコロ30の周面131に対向した形状としてもよい。
【0047】
また、図10(a),(b)に示すように、周面131の断面形状が円弧状をなすようにコロ30を構成するとともに、外側縁部25をコロ30の周面131に対向した形状としてもよい。
【0048】
これらのように構成しても、コロ30の軸線方向への移動を制限することができる。この場合、コロ30の周面131と外側縁部25とにより、「制限手段」が構成される。
・コロ30を、軸線方向における内側に向けて次第に肉薄となるように構成するとともに、外側縁部25を、コロ30の周面に対応した形状としてもよい。
【0049】
図11(a),(b)に示すように、ガイド部材40には、コロ30の軸部33の先端に当接する当接部70を設けてもよい。これにより、コロ30の側面301とガイド部材40の側面401との間に隙間が介在する状態が保持されるようになる。この場合、当接部70が、「制限手段」として機能する。
【0050】
・外側縁部は、第1の領域51の周方向における一方側にのみ第2の領域52を設けた構成であってもよい。
・第2の曲率半径が第1の曲率半径と同一値となるように第2の領域52を構成してもよい。
【0051】
・また、第2の曲率半径が第3の曲率半径よりも小さいのであれば、第2の曲率半径が第1の曲率半径よりも大きくなるように第2の領域52を構成してもよい。このように構成しても、比較例の動吸振器と比較して、転動室23の周方向における幅を狭くすることができる。その結果、周方向で互いに隣り合う各転動室23の間隔を広くすることができ、径の大きいコロ、即ち重量の重いコロを使用することが可能となる。この場合、トルク変動に伴う振動の減衰効率を高めることができるようになる。
【符号の説明】
【0052】
21…動吸振器、22,122…動吸振器本体、23,123…転動室、25…制限手段を構成する外側縁部(径方向外側の縁部)、30…転動体としてのコロ、301…側面、31…周面、32…制限手段を構成する溝部、33…軸部、40…支持部材としてのガイド部材、401…側面、51…第1の領域、52…第2の領域、61…制限手段を構成する突条部、62…制限手段を構成する溝部、66…制限手段を構成する突条部、67…制限手段を構成する溝部、70…制限手段としての当接部、131…制限手段を構成する周面、C…重心、P1…最外部位、S…軸線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11