【実施例】
【0089】
1.タンパク質とコロミン酸の定量
レゾルシノール試薬を用いたポリシアル酸(シアル酸として)の量的評価を、他の文献[Gregoriadisら、1993年、FernandesとGregoriadis、1996年、1997年]に記載されているようなレゾルシノール法[Svennerholm、1957年]により実施した。タンパク質は、BCA比色法又は280nmでのUV吸収法によって測定した。
【0090】
2.コロミン酸の活性化
新たに調製した0.02Mメタ過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO
4)溶液(8倍モル過剰)を20℃でCAと混合し、この反応混合物を暗所で15分間磁気攪拌した。次いで、2倍体積のエチレングリコールをこの反応混合物に添加して過剰NaIO
4を消費し、この混合物を20℃でさらに30分間攪拌した。酸化コロミン酸(CAO)を、4℃で、0.01%炭酸アンモニウムバッファー(pH7.4)に対して長時間(24h)透析した(分画分子量3.5kDa透析チューブ)。限外濾過(分画分子量3.5kDa)を使用して透析チューブからのCAO溶液を濃縮した。所定の体積まで濃縮した後、濾液を凍結乾燥し、次に使用するまで−40℃で保管した。あるいは、CAOをエタノールを用いた沈殿(2回)によって反応混合物から回収した。
【0091】
3.CA及び誘導体の酸化状態の決定
2,4ジニトロフェニルヒドラジン(2,4−DNPH)を用いてコロミン酸の酸化度の質的評価を実施した。2,4ジニトロフェニルヒドラジンは、カルボニル化合物との相互作用で難溶性の2,4ジニトロフェニルヒドラゾンを生じる。非酸化物(CA)/酸化物(CAO)を2,4−DNPH試薬(1.0ml)に添加し、それぞれの溶液を振とう
した後、結晶状の沈殿が認められるまで37℃で静置した[Shrinerら、1980年]。CAの酸化の程度(量的)を、アルカリ溶液中でフェリシアン化物イオンが還元されるとフェロシアン化鉄(プルシアンブルー(Persian blue))になることに基づく方法[ParkとJohnson、1949年]を用いて測定し、次いで630nmで測定した。この例では、グルコースを標準として使用した。
【0092】
4.ゲル浸透クロマトグラフィー
コロミン酸の試料(CAとCAO)を、NaNO
3(0.2M)、CH
3CN(10%、5mg/ml)に溶解し、屈折率を検出する2×GMPWXLカラムでクロマトグラフィーによる分離を行った(GPCシステム:VE1121 GPC溶媒ポンプ、VE3580 RI検出器及びTrisec3ソフトウェア(Viscotek Europe Ltd)を使った照合)。各試料(5mg/ml)は0.45μmナイロン膜で濾過し、移動相として0.2M NaNO
3とCH
3CN(10%)を使って0.7cm/分で移動させた。
【0093】
5.コロミン酸の安定性
PEG化の化学反応のルールは、ポリシアリル化には適用することができない。なぜならば、これら分子では物理化学的特性が異なるからである。PSAは酸に不安定なポリマーであり、中性pH付近において数週間安定である(
図3)。
図3の結果は、pH6.0及び7.4においてCAOが8日間安定であること、pH5.0ではゆっくりと分解する(48時間後には最初の分子量の92%)こと、pH4.0でもゆっくりと分解する(48時間後には最初の分子量の70%)ことを示している。ポリシアル酸は高度に親水性であるが、PEGは両親媒性分子である。PEG化に使う条件を用いてポリシアリル化を実施すると、多くの場合タンパク質の凝集及び沈殿が見られる。
【0094】
6.製剤添加剤を用いたN末端タンパク質−CA複合体の調製
6.1 インスリン−CA複合体の調製(N末端法)
インスリン(5804Da)を白色固体として供給した。このインスリンを最小量の100mM HClで溶解し、次いで所定のpHに調整して氷の上に置いた。複合化のために添加すべきCAOの量は、下式に基づいて算出した。
CAOの重量={タンパク質の量(g)/(タンパク質の分子量)}×(CAOの分子量)×(CAOのモル過剰)
必要量のCAOを秤量した。CAOをpH6.0の10mM NaOAcに可溶化し、全CAOが溶解するまでこの混合物を穏やかにボルテックスで撹拌し、次いですべての凝集/沈殿物を除去すべく濾過して新しい容器に入れた。必要量のインスリンタンパク質溶液をこのCAO溶液に添加して7.5モル過剰(小規模)及び5モル過剰(大規模)のCAOを得、その反応混合物を4±1℃の穏やかな振とう機に置いておくことによって穏やかに混合した。100mg/ml NaCNBH
3溶液を添加して最終反応混合物において8mg/mlとなるようにし、穏やかに混合した後、最終反応混合物のpHを確認し、場合によって、4±1℃で0.5M NaOH/HClを用いてpHを6.0に調整した。最後に、pH6.0の10mMのNaOAcを用いて反応混合物の体積を調整し、反応混合物中のタンパク質濃度を1mg/mlとした。チューブを密封し、所望の温度(4±1℃)で24時間攪拌した。適当な方法(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンバッファー、pH7.4)によって反応を停止し、SDS−PAGE(18%トリスグリシンゲルを使用)、SE−HPLC(Superose 12カラム)用に試料を取り出し、反応混合物のpHを確認した。すべての沈殿物を取り除くために、SE−HPLC分析及び精製の前に、反応混合物を13000rpmで5分間遠心した。SE−HPLC用の好ましいバッファーは、0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.9)であった。
【0095】
6.2 最適化
N末端誘導体化及び無作為誘導体化のために、インスリン上に一定範囲の分子量を有するCAO(10〜30kDa)を用いて還元的アミノ化を実施した。複合化反応のためのプロセス変数の範囲を調べた。CAO10〜20(小規模)及び5〜10(大規模)モル過剰。試薬=50〜100mM NaCNBH
3、反応用バッファー=10mM NaOAc pH5.5〜6.5、温度=4±1℃、時間=16〜24時間など。
【0096】
最適反応条件は以下の通りであることが分かった。CAO=7.5(小規模)及び5(大規模)モル過剰、試薬=50mM NaCNBH
3、反応用バッファー=10mM NaOAc pH5.5、温度=4±1℃、時間=24時間。
【0097】
6.3 インスリン−CA複合体(N末端法)の精製及び特性評価
前記混合物から遊離CAOを除去するために、HIC(HiTrap Butyl FF)を使用した。インスリン反応混合物を、濃縮(NH
4)
2SO
4(例えば3M)、20mM Na
2HPO
4(pH7.4)を用いた最小限の体積で希釈してローディング溶液を調製し、ローディング溶液の(NH
4)
2SO
4濃度を0.8Mとする。pHが7.4であるかどうか確認するか、0.5M HCl/NaOHで調整する。このローディング溶液は0.2μm膜フィルターで濾過する必要がある。
【0098】
この溶液を、予めHICバッファーB(20mMリン酸ナトリウム+0.8M(NH
4)2SO
4、pH7.4)で平衡化したHICカラム(流速=0.5ml/分)にローディングする。ローディング画分を回収して(各画分1.5カラム体積)標識し(L1〜Lx)、次いでカラムをHICバッファーBで洗浄し(少なくとも5カラム体積、流速=0.5ml/分、1.5カラム体積画分)、画分を回収して標識した(W1〜Wx)。HICバッファーA(10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4)(流速=5ml/分)で生成物を溶出して、画分を回収して(1カラム体積画分、6カラム体積)標識した(E1〜Ex)。連続した2つの画分がタンパク質を含んでいない場合(UV280nm)には、次の工程を実施した。精製の間、試料は氷の上で保持した。タンパク質濃度をUV(280nm)で分析した(インスリン1mg/mlの吸光係数は280nmで約1.043であった)。SDS−PAGE及びSE−HPLC用に試料を取った。
【0099】
タンパク質画分を含有するHIC画分を、IECバッファーA(20mMリン酸バッファー、pH7.4)で洗浄する。硫酸アンモニウムが存在していれば、Vivaspin20(MW:5Kd)で除去する。pHを確認し、必要であればpH7.4に調整する。予めIECバッファーAで平衡化しておいたIECカラムにロードする。下記のようにしてグラジエントシステムを適用した。
【0100】
ローディング:IECバッファーA中の注入試料を0.25ml/分でロード、3CVで洗浄
洗浄:グラジエントシステム:IECバッファーA:90%、AEXバッファーB(20mMリン酸バッファー+1M NaCl、pH7.4):10%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:68%、IECバッファーB:32%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:35%、IECバッファーB:65%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:0%、IECバッファーB:100%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
精製複合体を含有するIEC画分を合わせ、バッファーをPBSバッファーに変えて洗浄し塩を除去する。塩除去後のpHを7.4に調整する。次いで、溶液を4±1℃で濃縮し、タンパク質濃度をUV分光法(280nm)で分析した。複合体を滅菌濾過し、活性
測定用及びSDS−PAGEとSE−HPLCによる特性評価用に試料を取った。必要に応じて、アリコートをタンパク質定量及びCA定量用に取り除いた。残りは、再び使用するまで、またSE−HPLCによる物理的安定性を調べるまで4±1℃で保管した。
【0101】
溶液中のインスリンの安定性に及ぼす様々なプロセスの影響及び誘導体化の程度を調べた。
【0102】
6.4 インスリン−14kDaCA複合体(単分散)の調製
インスリン(5808Da)を白色固体として供給した。このインスリンを、最小限量の100mM HClを添加して溶解し、所与のpHに調整して、氷上に置いた。複合化のために添加する14kDa CAの量は、下式に基づいて算出した。
14kDaCAOの重量={タンパク質の量(g)/(タンパク質の分子量)}×(CAOの分子量)×(CAOのモル過剰)
14kDa CAOの必要量を秤量した。14kDa CAOを、10mMリン酸バッファー、pH6.0に可溶化し(最終反応体積の20%体積をここで使用した)、すべての14kDa CAOが溶解するまでこの混合物を穏やかにボルテックス撹拌し、次いですべての凝集/沈殿物を除去すべく濾過して新しい容器に入れた。必要量のインスリンタンパク質溶液をこの14kDa CAO溶液に添加して7.5モル過剰(小規模)及び5モル過剰(大規模)の14kDa CAOを得、その反応混合物を4±1℃の穏やかな振とう機に置いておくことによって穏やかに混合した。100mg/ml NaCNBH
3溶液を添加して最終反応混合物において63.5mM又は4mg/mlとなるようにし、穏やかに混合した後、最終反応混合物のpHを確認し、場合によって、4±1℃の0.5M NaOH/HClでpHを6.0に調整した。最後に、pH6.0の10mMのNaOAcを使って反応混合物の体積を調整し、反応混合物中のタンパク質濃度を1mg/mlとした。チューブを密封し、所望の温度(4±1℃)で24時間攪拌した。適当な方法によって反応を停止し、SDS−PAGE(18%トリスグリシンゲルを使用)、SE−HPLC(Superose 12カラム)用に試料を取り出し、反応混合物のpHを確認した。すべての沈殿物を取り除くために、SE−HPLC分析及び精製の前に、反応混合物を13000rpmで5分間遠心した。SE−HPLC用の好ましいバッファーは、0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.9)であった。
【0103】
6.5 最適化
N末端誘導体化及び無作為誘導体化のために、インスリン上に一定範囲の分子量を有するCA(10〜30kDa)を用いて還元的アミノ化を実施した。複合化反応のためのプロセス変数の範囲を調べた。CAO 10〜20(小規模)及び5〜10(大規模)モル過剰。試薬=50〜100mM NaCNBH
3、反応用バッファー=10mMリン酸バッファー、pH5〜7.4、温度=4〜37±1℃、時間=16〜24時間など。
【0104】
最適反応条件は以下の通りであることが分かった。CAO=7.5(小規模)及び5(大規模)モル過剰、試薬=63.5mM NaCNBH
3(4mg/ml)、反応用バッファー=10mM NaOAc pH6.0、温度=4±1℃、時間=24時間。
【0105】
6.6 インスリン−CA複合体(N末端法)の精製及び特性評価
混合物から遊離CAOを除去するために、HICを使用した。インスリン反応混合物を、濃縮(NH
4)
2SO
4(例えば3M)、20mM Na
2HPO
4(pH7.4)を使った最小限の体積で希釈してローディング溶液を調製し、ローディング溶液の(NH
4)
2SO
4濃度を0.8Mとする。pHが7.4であるかどうか確認し、7.4でなければ0.5M HCl/NaOHで調整する。このローディング溶液は0.2μm膜フィルターで濾過する必要がある。
【0106】
この溶液を、予めHICバッファーB(20mMリン酸ナトリウム+0.8M(NH
4)2SO
4、pH7.4)で平衡化したHICカラム(流速=0.5ml/分)にロードする。ローディング画分を回収して(各画分1.5カラム体積)標識する(L1〜Lx)。次いでカラムをHICバッファーBで洗浄し(少なくとも5カラム体積、流速=0.5ml/分、1.5カラム体積画分を回収)、画分を回収して標識する(W1〜Wx)。HICバッファーA(10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4)(流速=5ml/分)で生成物を溶出して、画分を回収して(1カラム体積画分、6カラム体積)標識する(E1〜Ex)。連続した2つの画分がタンパク質を含んでいない(UV280nm)場合には、次の工程を実施した。精製の間、試料は氷の上で保持した。タンパク質濃度をUV(280nm)で分析した(1mg/mlのインスリンの吸光係数は280nmで約1.043であった)。SDS−PAGE及びSE−HPLC用に試料を取った。
【0107】
タンパク質画分を含有するHIC画分を、IECバッファーA(20mMリン酸バッファー、pH7.4)で洗浄する。硫酸アンモニウムが存在していれば、Vivaspin
20(MW:5Kd)で除去する。pHを確認し、必要であればpH7.4に調整する。予めIECバッファーAで平衡化しておいたIECカラムにロードする。下記のようにしてグラジエントシステムを適用した。
【0108】
ローディング:IECバッファーA中の注入試料を0.25ml/分でロード、3CVで洗浄
洗浄:グラジエントシステム:IECバッファーA:90%、AEXバッファーB(20mMリン酸バッファー+1M NaCl、pH7.4):10%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:68%、IECバッファーB:32%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:35%、IECバッファーB:65%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:0%、IECバッファーB:100%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
精製複合体を含有するIEC画分を併せ、バッファーをPBSバッファーに変えて洗浄し塩を除去する。塩除去後のpHを7.4に調整する。次いで、溶液を4±1℃で濃縮し、タンパク質濃度をUV分光法(280nm)で分析する。複合体を滅菌濾過し、活性測定用及びSDS−PAGEとSE−HPLCによる特性評価用に試料を取った。必要に応じて、アリコートをタンパク質定量及びCA定量用に取り除いた。残りは、再び使うまで、またSE−HPLCによる物理的安定性を調べるまで4±1℃で保管した。
【0109】
溶液中のインスリンの安定性に及ぼす様々なプロセスの影響及び誘導体化の程度を調べた。
【0110】
6.7 インスリン製剤のSE−HPLC
4℃で冷蔵されたJasco AS−2057 plusオートサンプラー、Jasco UV−975 UV/VIS検出器を装備したLiquid Chromatograph(JASCO)でHPLCを実施した。データは、IBM/PCでEZchrom
Eliteソフトウェアを使って記録した。SEC試料を、0.1Mリン酸ナトリウム、pH6.9の均一濃度の移動相を用いて、Superose 12カラムで分析した(
図8)。
図8は、インスリンに起因すると考えられる、RT=75.408におけるただ1つのピークを示す。
【0111】
6.8 SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動とウェスタンブロット
18%トリグリインゲル(triglyine gel)を用いてSDS−PAGEを行った。試料を
還元又は非還元バッファーのいずれかで希釈し、タンパク質5.0μgを各ウェルにロードした。ゲルをトリグリセリン緩衝系で泳動し、クーマシーブルーで染色した(
図5及び7)。抗PSA抗体を使ってウェスタンブロットを行った。
図4は、インスリン製剤(部位特異的、N−末端)のSDS−PAGEを示す。
【0112】
6.9 27及び13kDaCAO−インスリンの等電点電気泳動(IEF)ゲル
Novex(登録商標)IEFゲルを用いて、インスリンとCAO−インスリン複合体等電点の差を測定した。試料を溶解して0.5mg/ml濃度とした。5μlの試料を5μlのNovex IEF試料バッファー、pH3〜10で希釈した後、タンパク質試料をゲルにロードした。
【0113】
6.10 安定性の研究
滅菌インスリン複合体をPBSバッファー中、4℃で、6週間保管した。試料の未変性PAGEを毎週行った。
【0114】
6.11 インスリン製剤のin vivoでの有効性
インスリン製剤のin vivoでの有効性を、雌CD−1マウス、7〜8週齢で調べた。0.3 IUのタンパク質量(同一の活性)をマウスに皮内注射した。マウスは4匹ずつ7群に分け、インスリン製剤を、各群の各マウスに下記のように投与した。インスリン(0.3 IU/マウス)、Lantus(Aventis)インスリン−PSA複合体(14kDa)、PBS。各マウスから血液1滴を取り、血中グルコースをアキュチェックアクティブ(ACCU−CHEK Active)(Roche Diagnostics)で測定した。
【0115】
結果
CAの活性化及び酸化度の測定
N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)残基の線状α−2,8結合ホモポリマーであるコロミン酸(CA)を使用した。20mM過ヨウ素酸塩を用いて、コロミン酸の酸化曝露を室温で15分間実施した。過ヨウ素酸塩処理後の内部α−2,8結合Neu5Ac残基の完全性を、ゲル浸透クロマトグラフィーで分析し、酸化(CAO)物質に関して得られたクロマトグラフを、未酸化CAのクロマトグラフと比較した。酸化CA及び未酸化CAはほぼ一致した溶離プロファイルを呈していることが分かったが、連続する酸化工程がポリマー鎖の著しい開裂を引き起こしているという証拠はない。
【0116】
グルコースを標準として使い、アルカリ溶液中でフェリシアン化物イオンを還元してフェロシアン化物(プルシアンブルー)[ParkとJohnson、1949年]とすることによって、CAの酸化状態の定量を行った。コロミン酸が、化学量論(>100%)量の還元剤より多くの量の還元剤、すなわち還元末端ヘミケタールと導入アルデヒド(もう一方の末端)の還元力を併せた還元力を含む、112mol%の見かけのアルデヒド含量を有していることが分かった。
【0117】
ポリシアル化反応の最適化
温度、反応剤モル比、及び鎖長を変えながら、CAOとrh−インスリン1mgを使ってポリシアル化条件を最適化した。結果を
図5〜12に示す。4℃は、CAOとインスリンの反応の間の安定性に関して最適な温度であるように思われる。しかし、これより高い温度では、複合化がより大きくなり、CAOのインスリンに対するモル比が7.5:1でより効果的になることができる。
【0118】
表1は、モル比がポリシアリル化に及ぼす影響を示す。
【0119】
【表1】
【0120】
PBSコントロールの影響下、
図9で使用した複合体の中では、21.5kdのCAO−インスリンがマウスの血中グルコースの低下に最も有意な影響を及ぼした。
【0121】
表2は、異なる鎖長を有するCAO−インスリン複合体のin vivo有効性についてのt検定(統計解析、対応のある検定)を示す。
【0122】
【表2】
【0123】
アスタリスクは、Trisバッファーに対して群間の差が生じる確率を示す。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001
【0124】
【表3】
【0125】
アステリスクは、PBSバッファーに対して群間の差が生じる確率を示す。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001
15kDa CAO−インスリンのin vivo有効性に及ぼすpHの影響から、pH6.0の方がpH7.4よりもより有効であることが分かった。したがって、以後の実験はpH6.0で実施した。ペプチドマッピング及びエドマン分解からのデータによって、pH6.0のポリシアル化条件で得られた複合体が、インスリンB鎖においてN末端で特異的にブロックされることが確認された。
【0126】
インスリン複合体の調製、精製及び特性評価
単分散CAO−インスリンをうまく複合化することができ、高度に純粋な複合体をスケールアップHIC及びIECによって精製することができた。精製効率は、
図10に明示するようなIEC及びHICを分取HPLC機器と組み合わせた装置によって向上した。
【0127】
低pH値(pH6.0)、4±1℃の温度で反応を行うことによって、N末端選択的な方法でインスリンのコロミン酸(CA)複合体を調製及び精製する手順については、先に詳しく述べている。この手順は、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下で複合化し、次いで疎水的相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて精製することで遊離CAを除去し(
図11)、その後イオン交換クロマトグラフィー(IEC)によってインスリンを除去する(
図12)というものである。インスリンB鎖のN末端(PheB1)における選択的誘導体化に有利なように、また、反応時のインスリンの凝集を最小限に抑えるために、低pHとした。最終反応バッファーの組成は、pH6.0の10mM NaOAc中、1mg/mlインスリン、8mg/ml NaCNBH
3、及び5モル過剰CAOであった。
【0128】
図13の、13Kda及び27Kda CAO−インスリン複合体の等電点電気泳動(IEF)ゲルは、ポリシアリル化インスリンが一定の等電点(pI)を有していないことを示している。
【0129】
インスリン−CAO複合体の形成及び安定性は、SE−HPLC(インスリンと比較したインスリン−PSAの保持時間の変化、両部分の共溶出)、イオン交換クロマトグラフィー(複合体をIECカラムに結合する)及びポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE、高分子量種を含むバンドをシフトさせる)により確認された。
【0130】
in vivo効率(CD−1マウス、平均25g)で使用したインスリン複合体は、インスリンに比べて優れたin vivoでの有効性(延長)及び平滑(ピークが見られないプロファイル)を示した。
図14で明らかなように、複合体の血中グルコース低減能の延長は、製剤で用いたポリマーの鎖長に比例していた。
【0131】
27kDa CAO−インスリン複合体の安定性調査では、未変性PAGEによる観察に基づき、4℃で40日間の保管の間に分解がなかったことが示された。
【0132】
スケールアップ調製及び精製による14kDa−インスリン複合体の特性評価
700mgの出発反応物としてのインスリンの例では、スケールアップカラム精製を使って230mgの14kDa CAO−インスリン(タンパク質重量)を得た。
【0133】
クロマトグラムを比較すると、
図15のアミノ酸量の変化によって、N末端のアミノ酸が明らかになる。pH7.4のPBS中の1mg/mL水性試料を水で100倍に希釈した。この希釈溶液2μLを分析用に取った。結論として、配列G−I−V−Eは、インスリンA鎖であると同定される。アミノ酸Phe/Val/Asn/Glnが欠けていることによって、インスリンB鎖がN末端でブロックされていることが示された。
【0134】
in vivo活性検定において、PSA複合体が活性であることが判明した。in vivo有効性の調査によれば、PSA−インスリン複合体がインスリンよりはるかに優れていることは明らかである。
【0135】
参考文献
【0136】
【表4】