特許第5912208号(P5912208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5912208
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/08 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   F02P3/08 301E
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-511851(P2015-511851)
(86)(22)【出願日】2014年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2014065129
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100153914
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 勝己
(72)【発明者】
【氏名】大崎 真吾
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−10471(JP,A)
【文献】 実開平5−66269(JP,U)
【文献】 特開平3−164568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関により駆動される交流発電機からの交流出力を整流する第1の整流素子と、
前記第1の整流素子からの出力電圧で充電される点火用容量素子と、
前記点火用容量素子を放電させることにより、点火コイルを介して、前記内燃機関に設けられた点火プラグに点火する点火用スイッチング素子と、
前記内燃機関の点火タイミングに合わせて前記点火用スイッチング素子をオンに制御する点火制御回路と、
前記交流出力を用いて前記点火制御回路に電源を供給する電源供給回路と、を備え、
前記電源供給回路は、
前記交流出力を整流する第2の整流素子と、
前記第2の整流素子からの出力電圧が一端に供給され、前記第2の整流素子からの出力電圧が第1の抵抗を介して制御端子に供給され、前記電源を他端から供給する第1のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子の他端に接続された第1の容量素子と、
前記電源の電圧が第1電圧以上になった場合に、前記第1のスイッチング素子の制御端子の電圧を固定電圧に低下させるスイッチング素子制御回路と、を有し、
前記スイッチング素子制御回路は、
コレクタが前記第1のスイッチング素子の制御端子に接続され、エミッタが前記固定電圧に接続されたバイポーラトランジスタと、
前記第1のスイッチング素子の他端と前記バイポーラトランジスタのベースとの間の電圧を第2電圧に制限する電圧制限素子と、を有し、
前記第1電圧は、前記バイポーラトランジスタのベース・エミッタ間電圧と前記第2電圧との和である、ことを特徴とする点火装置。
【請求項4】
前記電圧制限素子はツェナーダイオードであり、前記第2電圧はツェナー電圧である、ことを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項5】
前記スイッチング素子制御回路は、前記バイポーラトランジスタのベースと前記電圧制限素子との間に接続された第2の抵抗を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項6】
前記スイッチング素子制御回路は、前記バイポーラトランジスタのベースと前記固定電圧との間に接続された第2の容量素子を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の点火装置。
【請求項8】
内燃機関により駆動される交流発電機からの交流出力を整流する第1の整流素子と、
前記第1の整流素子からの出力電圧で充電される点火用容量素子と、
前記点火用容量素子を放電させることにより、点火コイルを介して、前記内燃機関に設けられた点火プラグに点火する点火用スイッチング素子と、
前記内燃機関の点火タイミングに合わせて前記点火用スイッチング素子をオンに制御する点火制御回路と、
前記交流出力を用いて前記点火制御回路に電源を供給する電源供給回路と、を備え、
前記電源供給回路は、
前記交流出力を整流する第2の整流素子と、
前記第2の整流素子からの出力電圧が一端に供給される第1の抵抗と、
前記第2の整流素子からの出力電圧がコレクタに供給され、前記第1の抵抗の他端がベースに接続され、前記電源をエミッタから供給する第1のNPN型バイポーラトランジスタと、
前記第1のNPN型バイポーラトランジスタのエミッタと固定電圧との間に接続された第1の容量素子と、
コレクタが前記第1のNPN型バイポーラトランジスタのベースに接続され、エミッタが前記固定電圧に接続された第2のNPN型バイポーラトランジスタと、
前記第1のNPN型バイポーラトランジスタのエミッタと前記第2のNPN型バイポーラトランジスタのベースとの間に接続されたツェナーダイオードと、を有する、ことを特徴とする点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火プラグに点火する点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6(a)に示すように、交流発電機ACGのエキサイターコイルL0からの交流出力Vacを電源としたAC−CDI(以下、点火装置と称す)10Xにおいて、安価な構成の単線入力式が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような点火装置10Xでは、交流出力Vacの正側の半波を用いて、点火用容量素子(点火用コンデンサ)C0の充電と、点火制御回路11への電源供給とを行っている。
【0003】
点火制御回路11への電源供給は、図6(b)の制御電源供給回路12Xaにより行われる。即ち、交流出力Vacにより、ダイオードD2X及び抵抗R1Xを介して容量素子C1Xが充電され、容量素子C1Xから電源が供給される。電源の電圧Voutは、ツェナーダイオードZD1Xにより制限される。ここで、点火制御回路11の消費電力が大きい場合に対応するには、制御電源供給回路12Xaの電流制限抵抗R1Xを小さくする必要がある。しかし、これにより制御電源供給回路12Xaのインピーダンスが低くなるため、点火用容量素子C0の充電電圧Vcが低下してしまう。
【0004】
点火用容量素子C0の充電電圧Vcの低下を防止するためには、図6(c)に示すバイポーラトランジスタQ1Xを備える制御電源供給回路12Xbの使用が考えられる。この制御電源供給回路12Xbでは、バイポーラトランジスタQ1Xのベース電圧はツェナーダイオードZD1Xのツェナー電圧になっているので、電源の電圧Voutが一定値以上になった時、バイポーラトランジスタQ1Xはオフし、バイポーラトランジスタQ1Xに流れる電流が遮断される。これにより、内燃機関の回転数が低い時には、エキサイターコイルL0によるキックバック電圧が発生して交流出力Vacが高くなる。加えて、バイポーラトランジスタQ1Xがオフすると、制御電源供給回路12Xbのインピーダンスが高くなるので、充電電圧Vcを高くできる。従って、点火制御回路11の消費電力が大きい場合にも、点火用容量素子C0の充電電圧Vcの低下を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−164568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図6(c)の制御電源供給回路12Xbを用いても、内燃機関の始動直後の低回転数領域において、点火用容量素子C0の充電電圧Vcが十分ではない場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、内燃機関の回転数が低い時に点火用容量素子の充電電圧を高くできる点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る点火装置は、
内燃機関により駆動される交流発電機からの交流出力を整流する第1の整流素子と、
前記第1の整流素子からの出力電圧で充電される点火用容量素子と、
前記点火用容量素子を放電させることにより、点火コイルを介して、前記内燃機関に設けられた点火プラグに点火する点火用スイッチング素子と、
前記内燃機関の点火タイミングに合わせて前記点火用スイッチング素子をオンに制御する点火制御回路と、
前記交流出力を用いて前記点火制御回路に電源を供給する電源供給回路と、を備え、
前記電源供給回路は、
前記交流出力を整流する第2の整流素子と、
前記第2の整流素子からの出力電圧が一端に供給され、前記第2の整流素子からの出力電圧が第1の抵抗を介して制御端子に供給され、前記電源を他端から供給する第1のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子の他端に接続された第1の容量素子と、
前記電源の電圧が第1電圧以上になった場合に、前記第1のスイッチング素子の制御端子の電圧を固定電圧に低下させるスイッチング素子制御回路と、を有する。
【0009】
また、前記点火装置において、
前記スイッチング素子制御回路は、
一端が前記第1のスイッチング素子の制御端子に接続され、他端が前記固定電圧に接続された第2のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子の他端と前記第2のスイッチング素子の制御端子との間の電圧を制限する電圧制限素子と、を有してもよい。
【0010】
また、前記点火装置において、
前記第2のスイッチング素子は、バイポーラトランジスタであり、
前記電圧制限素子は、前記第1のスイッチング素子の他端と前記バイポーラトランジスタのベースとの間の電圧を第2電圧に制限し、
前記第1電圧は、前記バイポーラトランジスタのベース・エミッタ間電圧と前記第2電圧との和であってもよい。
【0011】
また、前記点火装置において、
前記電圧制限素子はツェナーダイオードであり、前記第2電圧はツェナー電圧であってもよい。
【0012】
また、前記点火装置において、
前記スイッチング素子制御回路は、前記第2のスイッチング素子の制御端子と前記電圧制限素子との間に接続された第2の抵抗を有してもよい。
【0013】
また、前記点火装置において、
前記スイッチング素子制御回路は、前記第2のスイッチング素子の制御端子と前記固定電圧との間に接続された第2の容量素子を有してもよい。
【0014】
また、前記点火装置において、
前記第1の抵抗の抵抗値は、前記第1のスイッチング素子のオン時のインピーダンスの10倍以上であってもよい。
【0015】
本発明の他の一態様に係る点火装置は、
内燃機関により駆動される交流発電機からの交流出力を整流する第1の整流素子と、
前記第1の整流素子からの出力電圧で充電される点火用容量素子と、
前記点火用容量素子を放電させることにより、点火コイルを介して、前記内燃機関に設けられた点火プラグに点火する点火用スイッチング素子と、
前記内燃機関の点火タイミングに合わせて前記点火用スイッチング素子をオンに制御する点火制御回路と、
前記交流出力を用いて前記点火制御回路に電源を供給する電源供給回路と、を備え、
前記電源供給回路は、
前記交流出力を整流する第2の整流素子と、
前記第2の整流素子からの出力電圧が一端に供給される第1の抵抗と、
前記第2の整流素子からの出力電圧がコレクタに供給され、前記第1の抵抗の他端がベースに接続され、前記電源をエミッタから供給する第1のNPN型バイポーラトランジスタと、
前記第1のNPN型バイポーラトランジスタのエミッタと固定電圧との間に接続された第1の容量素子と、
コレクタが前記第1のNPN型バイポーラトランジスタのベースに接続され、エミッタが前記固定電圧に接続された第2のNPN型バイポーラトランジスタと、
前記第1のNPN型バイポーラトランジスタのエミッタと前記第2のNPN型バイポーラトランジスタのベースとの間に接続されたツェナーダイオードと、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電源の電圧が第1電圧以上になった場合に第1のスイッチング素子の制御端子の電圧を固定電圧に低下させるようにしているので、内燃機関の回転数が低い時、第1のスイッチング素子がオフすることで発生したキックバック電圧は、第1のスイッチング素子の制御端子の電圧に影響を及ぼさない。これにより、キックバック電圧が発生しても第1のスイッチング素子をより高速にオフさせることができるため、第1のスイッチング素子に流れる電流をより高速に遮断できる。その結果、キックバック電圧をより高くできる。
従って、内燃機関の回転数が低い時に点火用容量素子の充電電圧を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る点火システムの概略構成を示す回路図である。
図2図1の制御電源供給回路の概略構成を示す回路図である。
図3図1の点火装置の各信号の波形図である。
図4図2の制御電源供給回路、図6(b)の制御電源供給回路、又は、図6(c)の制御電源供給回路を用いた点火回路における、充電電圧Vcと内燃機関の回転数Neとの関係を示す図である。
図5】第2の実施形態に係る制御電源供給回路の概略構成を示す回路図である。
図6】(a)は、従来の点火システムの概略構成を示す回路図であり、(b),(c)は、従来の制御電源供給回路の概略構成を示す回路図である。
図7図6(c)の従来の制御電源供給回路を用いた点火装置の各信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る点火システムの概略構成を示す回路図である。この点火システムは、例えば自動二輪車等の車両用の内燃機関(図示せず)に点火するために用いられる。図1に示すように、点火システムは、交流発電機ACGと、ピックアップコイル1と、点火装置10と、点火コイルT0と、点火プラグ2と、を備える。
【0020】
交流発電機ACGは、内燃機関により駆動されて発電する。交流発電機ACGは、一端が接地されたエキサイターコイルL0を有しており、発電された交流出力VacがエキサイターコイルL0の他端から出力される。なお、交流発電機ACGは、内燃機関の始動時には、ユーザによるキックペダルのキックにより発電することもできる。
【0021】
ピックアップコイル1は、内燃機関のクランク軸の回転位置を検出して、その回転位置を表すクランク位置信号を出力する。
【0022】
単線入力式の点火装置10は、交流発電機ACG(即ち、エキサイターコイルL0)からの交流出力Vacを電源として、点火コイルT0を介して点火プラグ2に点火する。
【0023】
点火コイルT0は、イグニッションコイルとも称され、一次側コイルT01と、二次側コイルT02と、を有する。一次側コイルT01は、一端が点火装置10に接続され、他端が接地されている。二次側コイルT02は、一端が点火プラグ2に接続され、他端が接地されている。
【0024】
点火プラグ2は、点火コイルT0の二次側コイルT02と接地との間に接続されている。点火プラグ2は、内燃機関に設けられ、内燃機関に点火する。
【0025】
点火装置10は、第1の整流素子D1と、第3の整流素子D3と、点火制御回路11と、制御電源供給回路(電源供給回路)12と、点火用スイッチング素子SCR1と、点火用容量素子C0と、を備える。
【0026】
第1の整流素子D1は、ダイオードであり、交流発電機ACGからの交流出力Vacを整流する。第1の整流素子D1は、エキサイターコイルL0の他端にアノードが接続され、点火用容量素子C0の一端にカソードが接続されている。
【0027】
第3の整流素子D3は、ダイオードであり、アノードが接地され、カソードが第1の整流素子D1のアノードに接続されている。第3の整流素子D3は、エキサイターコイルL0から負側の半波が点火装置10に入力されないようにすると共に、点火用容量素子C0の放電時に発生する逆起電力の経路となる。
【0028】
点火用容量素子C0は、第1の整流素子D1からの出力電圧で充電される。点火用容量素子C0は、他端が点火コイルT0の一次側コイルT01の一端に接続されている。点火用容量素子C0の一端の電圧を充電電圧Vcと称す。
【0029】
点火用スイッチング素子SCR1は、サイリスタであり、オン時に点火用容量素子C0を放電させることにより、点火コイルT0を介して、内燃機関に設けられた点火プラグ2に点火する。点火用スイッチング素子SCR1は、アノードが第1の整流素子D1のカソードに接続され、カソードが接地され、制御端子が点火制御回路11により駆動される。
【0030】
点火制御回路11は、ピックアップコイル1から供給されたクランク位置信号に応じて、内燃機関の点火タイミングに合わせて点火用スイッチング素子SCR1をオンに制御する。本実施形態では、点火制御回路11はマイコンを用いて構成されているため、消費電力が比較的大きい。
【0031】
制御電源供給回路12は、交流発電機ACG(即ち、エキサイターコイルL0)からの交流出力Vacを用いて点火制御回路11に直流電源を供給する。以下に、より詳しく説明する。
【0032】
図2は、図1の制御電源供給回路12の概略構成を示す回路図である。図2に示すように、制御電源供給回路12は、第2の整流素子D2と、第1のスイッチング素子Q1と、第1の抵抗R1と、第1の容量素子C1と、スイッチング素子制御回路121と、を有する。
【0033】
第2の整流素子D2は、ダイオードであり、アノードに供給された交流出力Vacを整流する。第1の抵抗R1は、第2の整流素子D2からの出力電圧が一端に供給される。
【0034】
第1のスイッチング素子Q1は、第1のNPN型バイポーラトランジスタであり、第2の整流素子D2からの出力電圧がコレクタ(一端)に供給され、第1の抵抗R1の他端がベース(制御端子)に接続され、電源をエミッタ(他端)から点火制御回路11に供給する。つまり、第2の整流素子D2からの出力電圧は、第1の抵抗R1を介して第1のスイッチング素子Q1のベースにも供給される。
【0035】
第1の容量素子C1は、第1のスイッチング素子Q1のエミッタと接地電圧(固定電圧)との間に接続されている。
【0036】
スイッチング素子制御回路121は、電源の電圧Voutが第1電圧以上になった場合に、第1のスイッチング素子Q1のベースの電圧を接地電圧に低下させる。具体的には、スイッチング素子制御回路121は、第2のスイッチング素子Q2と、電圧制限素子ZD1と、を有する。
【0037】
第2のスイッチング素子Q2は、第2のNPN型バイポーラトランジスタであり、コレクタ(一端)が第1のスイッチング素子Q1のベースに接続され、エミッタ(他端)が接地電圧に接続されている。
【0038】
電圧制限素子ZD1は、ツェナーダイオードであり、カソードが第1のスイッチング素子Q1のエミッタに接続され、アノードが第2のスイッチング素子Q2のベース(制御端子)に接続されている。つまり、電圧制限素子ZD1は、第1のスイッチング素子Q1のエミッタと第2のスイッチング素子Q2のベースとの間の電圧をツェナー電圧(第2電圧)に制限する。
【0039】
前述の第1電圧は、第2のスイッチング素子Q2のベース・エミッタ間電圧とツェナー電圧との和である。
【0040】
第1の抵抗R1の抵抗値は、第1のスイッチング素子Q1のオン時のコレクタ・エミッタ間のインピーダンスより高い。第1の抵抗R1の抵抗値は、第1のスイッチング素子Q1のオン時のコレクタ・エミッタ間のインピーダンスの10倍以上であることが好ましい。
【0041】
次に、図3を参照して点火装置10の動作を説明する。
【0042】
図3は、図1の点火装置10の各信号の波形図である。図3は、内燃機関の回転数が低い場合(例えば、1000r/min以下)について、充電電圧Vc、交流出力Vac、電源の電圧Vout、及び、入力電流Iinを示している。
【0043】
時刻t1において、点火用スイッチング素子SCR1がオンして、点火用容量素子C0は放電する。よって、充電電圧Vcは約0Vになる。
【0044】
次に、時刻t2において、交流出力Vacが0Vから上昇すると、第1のスイッチング素子Q1がオンになり、入力電流Iinが第2の整流素子D2及び第1のスイッチング素子Q1を流れる。これにより、第1の容量素子C1が充電され、電源の電圧Voutが上昇する。
【0045】
次に、時刻t3において、電源の電圧Voutが第1電圧以上になると、第2のスイッチング素子Q2がオンして、第1のスイッチング素子Q1のベースの電圧は接地電圧に低下する。これにより、第1のスイッチング素子Q1はオフになり、そのコレクタ電流が遮断される。
【0046】
コレクタ電流が遮断されると、時刻t3以降、エキサイターコイルL0により誘導性のキックバック電圧が発生する。よって、交流出力Vacが上昇するため、充電電圧Vcも上昇する。
【0047】
このとき、キックバック電圧により交流出力Vacが上昇しても、第2のスイッチング素子Q2がオンしているため、第1のスイッチング素子Q1のベースの電圧はほぼ接地電圧に保たれている。よって、キックバック電圧の発生は、第1のスイッチング素子Q1のオフには影響を与えない。
【0048】
また、第1のスイッチング素子Q1がオフすることにより、制御電源供給回路12のインピーダンスが高くなる。第1の抵抗R1の抵抗値は、第1のスイッチング素子Q1のオン時のインピーダンスより高いためである。このことも、交流電圧Vacの上昇に寄与する。
【0049】
この後、電源の電圧Voutは低下していく。電源の電圧Voutが第1電圧未満になると、第2のスイッチング素子Q2はオフになる。
【0050】
次に、時刻t4において、交流出力Vacが再び上昇すると、第1のスイッチング素子Q1がオンになり、再び電源の電圧Voutが上昇する。
時刻t4以降の動作も、時刻t2から時刻t4までの動作と同様である。
【0051】
ここで、本発明者が独自に知得した、図6(c)の従来の制御電源供給回路12Xbを用いた点火装置10Xでは、キックバック電圧を十分に高くできないため、交流出力Vacを十分に高くできないことについて説明する。
【0052】
図7は、図6(c)の従来の制御電源供給回路12Xbを用いた点火装置10Xの各信号の波形図である。図7図3において、横軸及び縦軸のスケールは同一であり、内燃機関の回転数も同一である。
【0053】
図7において、時刻t4X以降、電源の電圧Voutが上昇すると、時刻t5XにおいてバイポーラトランジスタQ1Xがオフするため、キックバック電圧が発生し、交流出力Vacが上昇する。交流出力Vacの上昇により、ツェナーダイオードZD1Xに流れる電流が増加する。これにより、ツェナーダイオードZD1Xのツェナー電圧が高くなるため、バイポーラトランジスタQ1Xが再び弱くオンしてしまう。よって、バイポーラトランジスタQ1Xに再び電流が流れて電源の電圧Voutが更に上昇するため、バイポーラトランジスタQ1Xは再度オフになる。このような動作を繰り返すため、バイポーラトランジスタQ1Xがオフする速さは遅くなる。即ち、入力電流Iinは緩やかに減少する。従って、バイポーラトランジスタQ1Xに流れる電流を高速に遮断できないので、誘導性のキックバック電圧を十分に高くできない。
【0054】
本発明者は、このような独自の知得に基づいて、上述した本実施形態の制御電源供給回路12の構成に至った。
【0055】
図3及び図7を比較すると、本実施形態では、充電電圧Vcが従来技術よりも高くなっていることが分かる。この理由は、本実施形態では、従来技術よりも高いキックバック電圧によって交流出力Vacが高くなっているためである。
【0056】
図4は、図2の制御電源供給回路12、図6(b)の制御電源供給回路12Xa、又は、図6(c)の制御電源供給回路12Xbを用いた点火回路における、充電電圧Vcと内燃機関の回転数Neとの関係を示す図である。
【0057】
図4において、回転数Neが2000r/min以下の範囲では、キックバック電圧による交流出力Vacの上昇と、第1のスイッチング素子Q1がオフしてインピーダンスが高くなることによる交流出力Vacの上昇との両方が生じている。従って、この範囲において、本実施形態では、図6(b),(c)の制御電源供給回路12Xa,12Xbよりも充電電圧Vcが高くなっている。
【0058】
内燃機関のキックスタート時からアイドリング時の始動時においては、回転数Neは、例えば1000r/min以下である。本実施形態では、特にこの範囲において充電電圧Vcを高くできるため、始動時の回転数が低い時に、従来技術よりも確実に内燃機関に着火できる。
【0059】
回転数Neが2000r/minより高い範囲では、回転数Neが高くなるほどエキサイターコイルL0の特性によりキックバック電圧が低くなる。そのため、キックバック電圧による交流出力Vacの上昇は小さくなり、インピーダンスが高くなることによる交流出力Vacの上昇が支配的になる。従って、回転数Neが高くなるほど、本実施形態の充電電圧Vcは、図6(b),(c)の制御電源供給回路12Xa,12Xbの充電電圧Vcに近づいていく。しかし、この範囲においても、本実施形態では、図6(b),(c)の制御電源供給回路12Xa,12Xbよりも充電電圧Vcが高くなっている。
【0060】
以上で説明したように、第1の実施形態によれば、電源の電圧Voutが第1電圧以上になった場合に第1のスイッチング素子Q1のベースの電圧を接地電圧に低下させるようにしている。よって、内燃機関の回転数が低い時、第1のスイッチング素子Q1がオフすることで発生したキックバック電圧は、第1のスイッチング素子Q1のベースの電圧に影響を及ぼさない。これにより、キックバック電圧が発生しても第1のスイッチング素子Q1を図6(c)の従来技術より高速にオフさせることができるため、第1のスイッチング素子Q1に流れる電流をより高速に遮断できる。その結果、キックバック電圧をより高くできる。
【0061】
従って、内燃機関の回転数が低い時に点火用容量素子C0の充電電圧Vcを高くできる。
【0062】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、制御電源供給回路12aのスイッチング素子制御回路121aの回路構成が第1の実施形態と異なる。
【0063】
図5は、第2の実施形態に係る制御電源供給回路12aの概略構成を示す回路図である。図5では、図2と共通する構成部分には同一の符号を付しており、以下では相違点を中心に説明する。
【0064】
図5に示すように、制御電源供給回路12aのスイッチング素子制御回路121aは、図2の第1の実施形態の構成に加え、第2の抵抗R2と、第2の容量素子C2と、を更に備える。
【0065】
第2の抵抗R2は、第2のスイッチング素子Q2のベースと電圧制限素子ZD1のアノードとの間に接続されている。これにより、第2のスイッチング素子Q2のベース電流が大きくなり過ぎないように制限でき、制御電源供給回路12aの信頼性を高めることができる。
【0066】
第2の容量素子C2は、第2のスイッチング素子Q2のベースと接地電圧との間に接続されている。これにより、第2のスイッチング素子Q2のベースの電圧を保持できるため、一旦オンになった第2のスイッチング素子Q2を、電源の電圧Voutが第1電圧未満になるまでの間、より確実にオンに保つことができる。よって、一旦オンになった第1のスイッチング素子Q1を、より確実にオフに保つことができるので、キックバック電圧を低下させることがないようにできる。
【0067】
従って、より確実に、内燃機関の回転数が低い時に点火用容量素子C0の充電電圧Vcを高くできる。
【0068】
なお、第1及び第2の実施形態では、第1から第3の整流素子D1〜D3はダイオードである一例について説明したが、これに限らず、整流機能を有している他の素子でもよい。
【0069】
また、第1及び第2のスイッチング素子Q1,Q2はNPN型バイポーラトランジスタである一例について説明したが、これに限らず、スイッチング機能を有している他の素子でもよい。
【0070】
また、点火用スイッチング素子SCR1はサイリスタである一例について説明したが、これに限らず、スイッチング機能を有しているトランジスタ等の他の素子でもよい。
【0071】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0072】
ACG 交流発電機
L0 エキサイターコイル
1 ピックアップコイル
2 点火プラグ
T0 点火コイル
10 点火装置
11 点火制御回路
12,12a 制御電源供給回路(電源供給回路)
121,121a スイッチング素子制御回路
C0 点火用容量素子
SCR1 点火用スイッチング素子
D1 第1の整流素子
D2 第2の整流素子
D3 第3の整流素子
Q1 第1のスイッチング素子
Q2 第2のスイッチング素子
R1 第1の抵抗
R2 第2の抵抗
C1 第1の容量素子
C2 第2の容量素子
ZD1 電圧制限素子
【要約】
点火装置(10)は、点火用スイッチング素子(SCR1)を制御する点火制御回路(11)と、内燃機関により駆動される交流発電機(ACG)からの交流出力(Vac)を用いて点火制御回路(11)に電源を供給する電源供給回路(12)と、を備える。電源供給回路(12)は、交流出力(Vac)を整流する第2の整流素子(D2)と、第2の整流素子(D2)からの出力電圧が一端に供給され、第2の整流素子(D2)からの出力電圧が第1の抵抗(R1)を介して制御端子に供給され、電源を他端から供給する第1のスイッチング素子(Q1)と、第1のスイッチング素子(Q1)の他端に接続された第1の容量素子(C1)と、電源の電圧が第1電圧以上になった場合に、第1のスイッチング素子(Q1)の制御端子の電圧を固定電圧に低下させるスイッチング素子制御回路(121)と、を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7