特許第5912268号(P5912268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912268
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】電子楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/18 20060101AFI20160414BHJP
   G10H 1/28 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   G10H1/18 101
   G10H1/28
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-54688(P2011-54688)
(22)【出願日】2011年3月11日
(65)【公開番号】特開2012-189900(P2012-189900A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2014年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】中川 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 瞬
【審査官】 間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−2393(JP,A)
【文献】 特開2005−37972(JP,A)
【文献】 特開2004−157350(JP,A)
【文献】 特開平7−20865(JP,A)
【文献】 特開2010−79178(JP,A)
【文献】 特開2009−37022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定音高の楽音の発音もしくは消音を指示する演奏情報を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された演奏情報に基づき、所定音高の楽音を発音もしくは消音する楽音生成手段と、
前記入力手段により入力された演奏情報により前記楽音生成手段で発音中の楽音の消音が指示されたとき、消音制御を保留して発音中の楽音をホールドするホールド手段と、
前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上あるとき、最も新しく発音されたホールド楽音のみと、前記入力手段により新たに入力された演奏情報により発音指示された楽音との音高差が所定値以内であるか否かを判定する判定手段と、
前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ない場合は、前記ホールド楽音に対して消音制御を行わない一方、前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ある場合であって且つ前記判定手段により音高差が所定値以内であると判定された場合には、最も新しく発音されたホールド楽音のみに対して消音制御を行い、前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ある場合であって且つ前記音高差が所定値以内でないと判定された場合には、前記ホールド楽音の1つに対して消音制御を行う消音制御手段とを備えた電子楽器。
【請求項2】
前記消音制御手段は、前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ある場合であって且つ前記判定手段により音高差が所定値以内でないと判定された場合には、最も古くに発音されたホールド楽音に対して消音制御を行うものである請求項1記載の電子楽器。
【請求項3】
所定音高の楽音の発音もしくは消音を指示する演奏情報を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された演奏情報に基づき、所定音高の楽音を発音もしくは消音する楽音生成手段と、
前記入力手段により入力された演奏情報により前記楽音生成手段で発音中の楽音の消音が指示されたとき、消音制御を保留して発音中の楽音をホールドするホールド手段と、
前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上あるとき、前記入力手段により新たに入力された演奏情報により発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音があるか否かを判定する判定手段と、
前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ない場合は、前記ホールド楽音に対して消音制御を行わない一方、前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ある場合であって且つ前記新たに発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音があると前記判定手段により判定された場合には、前記音高差が所定値以内のホールド楽音のうちその音高差が最も小さいホールド楽音のみに対して消音制御を行い、前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ある場合であって且つ前記新たに発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音がないと判定された場合には、前記ホールド楽音の1つに対して消音制御を行う消音制御手段とを備えた電子楽器。
【請求項4】
前記消音制御手段は、前記ホールド手段によるホールド楽音が所定数以上ある場合であって且つ前記新たに発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音がないと前記判定手段により判定された場合には、最も古くに発音されたホールド楽音に対して消音制御を行うものである請求項3記載の電子楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器に関し、演奏者のリアルタイムな演奏操作に基づく弦楽器によるアルペジオ奏法の模擬を、容易かつ十分に実現し得る電子楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
シンセサイザ等の電子楽器は、多種類の音色の楽音を発音することができる。電子楽器で自然楽器の演奏を模擬する場合には、音色を自然楽器の音色に忠実に似せるだけでなく、演奏者が、その楽器固有の特徴を踏まえた上で、電子楽器のユーザインタフェイス(例えば、鍵盤、ピッチベンドレバー、モジュレーションレバー、HOLDペダル等)を演奏中に操作しながら演奏する必要がある。そのため、演奏者が電子楽器を用いてある楽器の演奏を模擬しようとする場合には、演奏者は、模擬しようとする楽器の特徴をよく理解する必要があるとともに、その特徴に応じてユーザインタフェイスを演奏中に駆使するといった高度な演奏技術が要求される。
【0003】
例えば、アコースティックギターの奏法の1つとして、複数の弦をそれぞれ響かせながら演奏するアルペジオ奏法がある。このアルペジオ奏法を電子楽器で模擬する場合には、発音している音が途切れないように、HOLDペダルを踏みながら演奏を行い、離鍵された鍵に対応する楽音をホールドさせる(即ち、その楽音に対する消音制御を保留して楽音の発生を継続させる)必要がある。しかし、HOLDペダルを踏みながら演奏した場合、ホールドされた音が多くなり過ぎること、例えば、ギターに張られている弦の数を超える音がホールドされることがあると、却ってギターのアルペジオらしさが損なわれる。そこで、演奏者は、HOLDペダルのオン/オフを適度なタイミングで切替える必要があるため、高度な演奏技術が要求される。
【0004】
特許文献1には、発音チャネルの数が固定数である電子楽器において、共鳴音に割り当て可能な発音チャネルの数を制限し、共鳴音が、その制限された発音チャネル数に既に達している場合には、割り当てられた共鳴音信号のレベルが低い発音チャネルを消音解放し、その発音チャネルを新たな共鳴音に割り当てる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3671545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アコースティックギターのような弦楽器では、楽器の構成上、同一弦が弾かれた場合には、それまで発音されていたその弦の音が消音されるという特徴がある。ホールドさせる音の数が多くなり過ぎないようにするために、特許文献1に記載される技術を適用することも考えられるが、特許文献1の技術は、同一弦が弾かれたときの上記特徴を全く考慮していないので、同一弦で発音可能な音が不自然に重なって発音され、それにより、ギターらしさを損なうという問題点があった。
【0007】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、演奏者のリアルタイムな演奏操作に基づく弦楽器によるアルペジオ奏法の模擬を、容易かつ十分に実現し得る電子楽器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の電子楽器によれば、ホールド手段によってホールドされた楽音(ホールド楽音)が所定数以上ない場合は、ホールド楽音に対して消音制御は行われない。一方、ホールド楽音が所定数以上あるとき、最も新しく発音されたホールド楽音のみと、入力手段により新たに入力された演奏情報により発音指示された楽音との音高差が所定値以内であるか否かが、判定手段によって判定される。このとき、前記音高差が所定値以内であると判定された場合には、消音制御手段により、最も新しく発音されたホールド楽音のみに対して消音制御が行われる。一方で、前記音高差が所定値以内でないと判定された場合には、消音制御手段により、ホールド楽音の1つに対して消音制御が行われる。
【0009】
また、請求項3記載の電子楽器によれば、ホールド手段によってホールドされた楽音(ホールド楽音)が所定数以上ない場合は、ホールド楽音に対して消音制御は行われない。一方、ホールド楽音が所定数以上あるとき、入力手段により新たに入力された演奏情報により発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音があるか否かが、判定手段によって判定される。このとき、新たに発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音があると判定された場合には、消音制御手段により、前記音高差が所定値以内のホールド楽音のうちその音高差が最も小さいホールド楽音のみに対して消音制御が行われる。一方で、発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音がないと判定された場合には、消音制御手段により、ホールド楽音の1つに対して消音制御が行われる。
【0010】
即ち、請求項1又は3に記載の発明によれば、ホールド楽音が所定数以上ある場合には、ホールド楽音の中から1つの楽音が消音制御されて消音される。よって、アコースティックギターなどの弦楽器によるアルペジオ奏法を模擬しようとした場合に、同時に生成される楽音の数(即ち、同時に発音される楽音の数)を、演奏者の演奏技術(例えば、ペダル操作の技術)に依ることなく、模擬対象の弦楽器らしさを保ち得る範囲に抑制できるので、模擬対象の弦楽器らしいアルペジオ奏法を容易に実現できる。
【0011】
また、請求項1記載の電子楽器によれば、最も新しく発音されたホールド楽音のみと、入力手段により新たに入力された演奏情報により発音指示された楽音との音高差が所定値以内である場合には、最も新しく発音されたホールド楽音のみが消音制御の対象とされる。一方、請求項3記載の電子楽器によれば、入力手段により新たに入力された演奏情報により発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音がある場合には、前記音高差が所定値以内のホールド楽音のうちその音高差が最も小さいホールド楽音のみが消音制御の対象とされる。アコースティックギターなどの弦楽器の場合、所定値以下の音高差であれば同一弦が弾かれるという演奏上の傾向があるとともに、同一弦が弾かれた場合には前音が消音されるという構造上の特徴がある。よって、請求項1又は3に記載の電子楽器によれば、アコースティックギターなどの弦楽器における演奏上の傾向及び構造上の特徴が十分に反映されたアルペジオ奏法を実現できる。
【0012】
上述した通り、請求項1又は3に記載の電子楽器によれば、演奏者のリアルタイムな演奏操作に基づく弦楽器(例えば、アコースティックギター)によるアルペジオ奏法の模擬を、容易かつ十分に実現し得るという効果がある。
【0013】
請求項2記載の電子楽器によれば、請求項1が奏する効果に加えて、次の効果を奏する。判定手段により音高差が所定値以内でないと判定された場合には、消音制御手段により、最も古くに発音されたホールド楽音に対して消音制御が行われるので、移弦させて弾いた各楽音が弦を弾いた順(即ち、発音指示がなされた順)に消音するという、弦楽器の一般的な特徴が十分に反映されたアルペジオ奏法を実現できるという効果がある。
【0017】
請求項記載の電子楽器によれば、請求項3が奏する効果に加えて、発音指示された楽音との音高差が所定値以内のホールド楽音がないと判定手段によって判定された場合には、消音制御手段により、最も古くに発音されたホールド楽音に対して消音制御が行われるので、移弦させて弾いた各楽音が弦を弾いた順に消音するという、弦楽器の一般的な特徴が十分に反映されたアルペジオ奏法を実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態である電子楽器の外観図である。
図2】電子楽器の電気的構成を示すブロック図である。
図3】電子楽器のCPUが実行するノートイベント処理を示すフローチャートである。
図4】電子楽器のCPUが実行するペダル監視処理を示すフローチャートである。
図5】第2実施形態のノートイベント処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である電子楽器1の外観図である。図1に示すように、電子楽器1は、複数の鍵2aから構成される鍵盤2を有する電子鍵盤楽器である。演奏者は、電子楽器1の鍵盤2(鍵2a)を押鍵/離鍵操作することにより所望の演奏をすることができる。
【0020】
鍵盤2は、演奏者により操作されるユーザインタフェイスの1つであり、演奏者による鍵2aに対する押鍵/離鍵操作に応じたMIDI(Musical Instrument
Digital Interface)規格の演奏情報としてのノートイベントをCPU11(図2参照)へ出力するものである。具体的に、演奏者により鍵2aが押鍵された場合には、鍵盤2は、鍵2aの押鍵されたことを示す演奏情報であるノートオンイベント(以下「ノートオン」と称する)をCPU11へ出力する。一方で、演奏者により押鍵されていた鍵2aが離鍵された場合には、鍵盤2は、鍵2aが離鍵されたことを示す演奏情報であるノートオフイベント(以下「ノートオフ」と称する)をCPU11へ出力する。
【0021】
電子楽器1は、演奏者が踏むことによって操作されるペダル21を、ペダル接続用のインターフェイスであるI/F14(図2参照)を介して接続することにより、ユーザインタフェイスとして使用できるように構成されている。ペダル21は、演奏者による操作がなければ初期状態(オフ位置)に付勢されており、演奏者が踏み操作を行った場合に踏み込み状態(オン位置)に変化する。
【0022】
電子楽器1はまた、接続されたペダル21に対して所望する機能をアサインすることができるように構成されている。ペダル21にアサインされた機能のオン/オフは、ペダル21の操作状態に応じて切り替えられる。即ち、ペダル21が初期状態にある場合には、アサインされた機能はオフになり、ペダル21が演奏者に踏まれたことにより踏み込み状態にある場合には、アサインされた機能がオンになる。以下の説明では、ペダル21の初期状態を「OFF状態」と称し、踏み込み状態を「ON状態」と称する。なお、本実施形態では、ペダル21に対し、MIDI規格のコントロールナンバ64(ホールド1)をアサインし、それにより、ペダル21をHOLDペダルとして機能させる。よって、電子楽器1は、ペダル21が演奏者の操作によってON状態とされている間、鍵2aが離鍵されても、その離鍵による楽音の停止制御(以下「消音制御」と称する)を保留して、離鍵された鍵2aに対応する楽音の発生を継続させる(楽音をホールドさせる)。
【0023】
詳細は後述するが、本実施形態の電子楽器1は、演奏者が、HOLDペダルとして機能するペダル21を用いてアコースティックギターのアルペジオ奏法を模擬する場合に、高度なペダル操作技術を要することなく容易に、それでいて十分にアコースティックギターらしい演奏を実現できるように構成されている。
【0024】
図2は、電子楽器1の電気的構成を示すブロック図である。図2に示すように、電子楽器1は、CPU11と、ROM12と、RAM13と、I/F14と、音源15とを有しており、これらの各部11〜15及び鍵盤2は、バスライン17を介して互いに接続されている。電子楽器1はまた、デジタルアナログコンバータ(DAC)16を有している。DAC16は、音源15に接続されると共に、電子楽器1の外部に設けられたアンプ31に接続される。
【0025】
CPU11は、ROM12やRAM13に記憶される固定値データや制御プログラムに従って、電子楽器1の各部を制御する中央制御装置である。CPU11は、ノートオン(鍵2aが押鍵されたことを示す演奏情報)を鍵盤2から受信すると、音源15に発音指示を出力することによって、音源15にノートオンに応じた楽音(オーディオ信号)の生成を開始させる。
【0026】
また、CPU11は、HOLDペダルであるペダル21がOFF状態にある場合に、ノートオフ(押鍵されていた鍵2aが離鍵されたことを示す演奏情報)を鍵盤2から受信すると、音源15に消音指示を出力することにより消音制御を行う。これにより、音源15で発生中の楽音が停止される。一方で、HOLDペダルであるペダル21がON状態にある場合に、CPU11がノートオフを鍵盤2から受信したときには、CPU11は、離鍵された鍵2aに対応する消音制御(具体的には、消音指示の出力)を保留する。この消音制御の保留により、音源15は、離鍵された鍵2aに対応する楽音の発生を停止せず、その楽音の発生は継続される(即ち、楽音がホールドされる)。
【0027】
ROM12は、書き替え不能なメモリであって、CPU11に実行させる制御プログラム12aや、この制御プログラム12aが実行される際にCPU11により参照される固定値データ(図示せず)などが記憶される。なお、図3及び図4のフローチャートに示す各処理は、制御プログラム12aにより実行される。
【0028】
RAM13は、書き替え可能なメモリであり、CPU11が制御プログラム12aを実行するにあたり、各種のデータを一時的に記憶するためのテンポラリエリアを有する。RAM13のテンポラリエリアには、HOLDフラグ13aと、HOLD数メモリ13bとが設けられている。
【0029】
HOLDフラグ13aは、楽音がホールドされているか否かを示すフラグであり、各鍵2aに対応するノート毎に設けられている。HOLDフラグ13aがオンに設定されているノートは、そのノートがホールドされていることを示し、HOLDフラグ13aがオフに設定されているノートは、そのノートがホールドされていないことを示す。
【0030】
全てのノートに対するHOLDフラグ13aは、電子楽器1への電源投入時にオフに初期化される。そして、HOLDフラグ13aは、ペダル21がON状態であるときに、押鍵されていた鍵2aが離鍵されると、離鍵された鍵2aに対応するノートに対応する楽音がホールドされるので、そのノートに対応するHOLDフラグ13aがオンに設定される。演奏者がペダル21を踏むことを止めた場合には、ホールドされていた楽音は全て、ホールドが解除される(即ち、保留されていた消音制御が実行される)ので、オンに設定されているHOLDフラグ13aは、全てオフに設定される。
【0031】
また、本実施形態では、ペダル21がON状態である場合に新たな押鍵がされたときに、HOLDフラグ13aがオンに設定されているノートの数が所定数(本実施形態では、4)に達していれば、条件に応じて決まる1つのノートについて、ホールドが解除されるように構成されている。よって、この構成に従ってホールドが解除された場合も、ホールドが解除されたノートに対応するHOLDフラグ13aがオフに設定される。
【0032】
HOLD数メモリ13bは、楽音がホールドされているノート(即ち、HOLDフラグ13aがオンに設定されているノート)の数を計数するためのメモリである。ペダル21がON状態である場合に鍵2aが離鍵されたことにより、離鍵されたノートに対応する楽音がホールドされる(即ち、HOLDフラグ13aがオフからオンに切り替えられる)と、その都度、HOLD数メモリ13bの値に1が加算される。一方で、楽音のホールドが解除されると、即ち、HOLDフラグ13aの設定がオンからオフに切り替えられると、HOLD数メモリ13bの値は、ホールドが解除されたノートの数だけ減算される。
【0033】
I/F14は、ペダル21を接続するためのインターフェイスである。本実施形態では、I/F14は、ペダル21から延びるケーブルの先端のピンプラグを取り外し可能に接続できるピンジャックとして構成されている。
【0034】
音源15は、CPU11から受信した発音指示又は消音指示に基づいて、演奏者が設定した音色の楽音を押鍵された鍵2aに対応する音高で発生したり、発生中の楽音を停止したりするものである。音源15は、CPU11から発音指示を受信すると、その発音指示に応じた音高、音量、音色の楽音(オーディオ信号)を発生する。音源15により発生された楽音は、DAC16に供給されてアナログ信号に変換されて、アンプ31を介してスピーカ32から放音される。一方で、音源15は、CPU11から消音指示を受信すると、その消音指示に従って発生中の楽音を停止する。これに伴い、スピーカ32から放音されていた楽音が消音される。
【0035】
次に、図3及び図4を参照して、上記構成を有する本実施形態の電子楽器1のCPU11が実行する処理について説明する。図3は、CPU11が実行するノートイベント処理を示すフローチャートである。このノートイベント処理は、アコースティックギターの音色が設定されている場合に、CPU11が、鍵盤2からノートイベント(ノートオン又はノートオフ)を受信する毎に実行される。
【0036】
図3に示すように、ノートイベント処理は、まず、I/F14を確認し、ペダル21がON状態であるか否かを判定する(S1)。ペダル21がOFF状態であると判定された場合には(S1:No)、処理をS7へ移行し、鍵盤2から受信したノートイベントに応じた発音/消音処理を実行する(S7)。即ち、受信したノートイベントがノートオンであれば、音源15に対し、受信したノートオンに応じた発音指示を出力し、押鍵されたノートに対応する楽音を発生させ、一方で、ノートオフであれば、音源15に対し、受信したノートオフに応じた消音指示を出力し、離鍵されたノートに対応する楽音の生成を停止させる。S7の処理後、ノートイベント処理を終了する。
【0037】
S1において、ペダル21がON状態であると判定された場合には(S1:Yes)、鍵盤2から受信したノートイベントがノートオンであるか否かを判定する(S2)。S2において、受信したノートイベントがノートオフであると判定された場合には(S2:No)、そのノートオフに基づき、離鍵されたノートに対する消音指示を音源15へ出力することを保留し、離鍵されたノートに対応する楽音をホールドする(S9)。このとき、S9においてホールドされたノートに対応するHOLDフラグ13aをオンに設定する。次いで、HOLD数メモリ13bの値に1を加算し(S10)、ノートイベント処理を終了する。
【0038】
一方、S2において、受信したノートイベントがノートオンであると判定された場合には(S2:Yes)、HOLD数メモリ13bの値が4以上であるか否かを判定する(S3)。HOLD数メモリ13bの値が4未満であると判定された場合には(S3:No)、処理をS7へ移行し、発音/消音処理を実行する(S7)。この場合のノートイベントはノートオンであるので、発音/消音処理(S7)では、音源15に対し、受信したノートオンに応じた発音指示を出力し、押鍵されたノートに対応する楽音を発生させる。
【0039】
S3において、HOLD数メモリ13bの値が4以上であると判定された場合には(S3:Yes)、今回押鍵されたノートと、HOLDフラグ13aがオンに設定されたノート(即ち、ホールド中のノート)のうち、最も新しくに押鍵されたノートとの音高差が2半音以下であるか否かを判定する(S4)。なお、本実施形態では、押鍵されたノートと押鍵時の絶対時刻(電子楽器1の内部で管理される時刻)を記憶することにより押鍵順を区別可能としたテーブル(図示せず)をRAM13内に設け、S4では、このテーブルと各ノートのHOLDフラグ13aとを参照することにより、ホールド中のノート(即ち、HOLDフラグ13aがオンに設定されているノート)のうち、最も新しくに押鍵されたノートを特定するものとする。
【0040】
S4において、音高差が2半音以下であると判定された場合には(S4:Yes)、ホールド中のノートのうち、最も新しくに押鍵されたノートに対する消音指示を音源15へ出力することにより、そのノートのホールドを解除する(S5)。このとき、S5においてホールドが解除されたノートに対応するHOLDフラグ13aをオフに設定する。
【0041】
一方、S4において、音高差が2半音を超えると判定された場合には(S4:No)、ホールド中のノートのうち、最も古くに押鍵されたノートに対する消音指示を音源15へ出力することにより、そのノートのホールドを解除する(S8)。このとき、S8においてホールドが解除されたノートに対応するHOLDフラグ13aをオフに設定する。なお、S8においても、上述したS4と同様に、押鍵順を区別可能としたRAM13内のテーブル(図示せず)と各ノートのHOLDフラグ13aとを参照することにより、ホールド中のノート(即ち、HOLDフラグ13aがオンに設定されているノート)のうち、最も古くに押鍵されたノートを特定するものとする。
【0042】
S5又はS8の処理後、HOLD数メモリ13bの値から1を減算し(S6)、今回のノートイベント(ノートオン)に基づき発音/消音処理を実行する(S7)。即ち、S7において、音源15に対し、受信したノートオンに基づく発音指示を音源15に出力して、押鍵されたノートに対応する楽音を発生させる。
【0043】
上述したノートイベント処理によれば、鍵2aが新たに押鍵された場合に、HOLD数メモリ13bの値が4に達していれば、ホールド中の4つの楽音の中から、1つの楽音のホールドが必ず解除される。その際には、新たに押鍵された鍵2aのノートと、ホールド中のノートのうち、最も新しくに押鍵されたノートとの音高差に応じてホールドを解除するノートが決定される。
【0044】
具体的には、その音高差が2半音を超える場合には、ホールド中のノートのうち、最も古くに押鍵されたノートのホールドが解除される。例えば、ペダル21をON状態としたまま、押鍵(C4)→離鍵(C4)→押鍵(D4)→離鍵(D4)→押鍵(E4)→離鍵(E4)→押鍵(F4)→離鍵(F4)→押鍵(A4)の順で、各ノートが押鍵又は離鍵された場合には、A4の鍵が押鍵されるときには、そのときにホールドされている4つのノート(C4,D4,E4,F4)の中で最も新しくに押鍵されたノートであるF4と、今回押鍵されたノート(A4)との音高差が4半音であるので、ホールド中の4つのノート(C4,D4,E4,F4)のうち、最も古くに押鍵されたノートであるC4のホールドが解除される。
【0045】
一方で、音高差が2半音以下であれば、ホールド中のノートのうち、最も新しくに押鍵されたノートのホールドが解除される。例えば、ペダル21をON状態としたまま、押鍵(C4)→離鍵(C4)→押鍵(D4)→離鍵(D4)→押鍵(E4)→離鍵(E4)→押鍵(F4)→離鍵(F4)→押鍵(G4)の順で、各ノートが押鍵又は離鍵された場合には、G4の鍵が押鍵されたときには、そのときにホールドされている4つのノート(C4,D4,E4,F4)の中で最も新しくに押鍵されたノートであるF4と、今回押鍵されたノート(G4)との音高差が2半音であるので、ホールド中の4つのノート(C4,D4,E4,F4)のうち、最も新しくに押鍵されたノートであるF4のホールドが解除される。
【0046】
図4は、CPU11が実行するホールドオフ処理を示すフローチャートである。ホールドオフ処理は、CPU11がI/F14を監視し、ペダル21がON状態からOFF状態に切り替わったことをI/F14が検出した場合に実行される。
【0047】
図4に示すように、ホールドオフ処理は、まず、ホールド中の全てのノートについて、各ノートに対する消音指示を音源15へ出力することにより、それらのノートのホールドを全て解除する(S21)。このとき、オンに設定されているHOLDフラグ13aを全てオフに設定する。S21の処理後、HOLD数メモリ13bの値をゼロとし(S22)、ホールドオフ処理を終了する。
【0048】
以上説明した通り、本実施形態の電子楽器1によれば、ペダル21がON状態にされたまま鍵2aが押鍵された場合に、ホールド中のノートの数が4に達していれば、ホールド中のノートのうち、1つのノートのホールドを解除する。これにより、ホールドが解除されたノートに対応する楽音の生成が停止される(即ち、消音される)ので、同時に生成される楽音の数(即ち、同時に発音される楽音の数)が、模擬対象であるアコースティックギターらしさを保ち得る範囲(例えば、6弦のアコースティックギターの弦の数である6つ程度の値)に抑制することができ、模擬対象であるアコースティックギターらしさが損なわれることを防止できる。よって、演奏者がアコースティックギターによるアルペジオ奏法を模擬しようとした場合に、模擬対象の弦楽器であるアコースティックギターらしいアルペジオ奏法を、演奏者のペダル操作技術に依ることなく容易に実現することができる。
【0049】
また、ホールドを解除するノートは、新たに押鍵された鍵2aに対応するノート(楽音)の音高と、ホールドされているノートの中で最も新しい押鍵に基づくノートの音高との音高差に応じて決定される。具体的には、この音高差が2半音を超える場合には、ホールドされているノートの中で最も古くに押鍵されたノートのホールドが解除され、その一方で、音高差が2半音以下である場合には、ホールドされているノートの中で最も新しくに押鍵されたノートのホールドが解除される。アコースティックギターのように、同一弦を弾いた場合に前音が消音される弦楽器の場合には、所定の音高差である場合には同一弦で演奏されている傾向があるので、新たに押鍵されたノートとの音高差が所定値以下であるノートを消音制御の対象とすることにより、アコースティックギター、即ち、同一弦を弾いた場合に前音が消音される弦楽器の特徴を十分に反映したアルペジオ奏法を、演奏者がアルペジオ奏法らしく鍵を押鍵するだけで実現することができる。
【0050】
また、アコースティッギターでアルペジオ奏法を行う場合の特徴の1つとして、低音を響かせつつ、より高音を重ねていく弾き方があるが、新たに押鍵されたノートとの音高差が小さい場合に、最近にホールドされた音(高音側の音)が消音されるようにした本実施形態の電子楽器1によれば、先にホールドされた低音の発音が残り易くなるため、低音の発音が先に消音されて演奏者の意図しないアルペジオになることが抑制される。
【0051】
次に、図5を参照して、第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、鍵2aが押鍵されたときに、ホールド中のノートが所定数に達している場合には、押鍵された鍵2a(ノート)と、ホールド中のノートのうち、最も新しくに押鍵されたノートとの音高差に基づいて、ホールドを解除するノートを決定する構成とした。これに対し、第2実施形態では、鍵2aが押鍵されたときに、ホールド中のノートが所定数に達している場合には、押鍵されたノートの音高と、ホールド中の全てのノートとの音高差を比較し、その比較に基づいて、ホールドを解除するノートを決定する。この第2実施形態において、上述した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0052】
図5は、第2実施形態のノートイベント処理を示すフローチャートである。第2実施形態のノートイベント処理もまた、第1実施形態のノートイベント処理(図3参照)と同様に、アコースティックギターの音色が設定されている場合に、CPU11が、鍵盤2からノートイベントを受信する毎に実行される。
【0053】
第2実施形態のノートイベント処理は、図3に示したノートイベント処理におけるS4及びS5の処理が、それぞれ、S4a及びS5aの処理に変更された点で、第1実施形態と相違する。
【0054】
つまり、第2実施形態のノートイベント処理では、S3において、HOLD数メモリ13bの値が4以上であると判定された場合には(S3:Yes)、HOLDフラグ13aがオンに設定されたノート(即ち、ホールド中のノート)の中に、今回押鍵されたノートとの音高差が2半音以下のノートがあるか否かを判定する(S4a)。
【0055】
S4aにおいて、ホールド中のノートの中に、今回押鍵されたノートとの音高差が2半音以下であるノートがあると判定された場合には(S4a:Yes)、ホールド中のノートのうち、予め規定された条件に該当する1つのノートに対する消音指示を音源15へ出力することにより、そのノートのホールドを解除する(S5a)。このとき、S5aにおいてホールドが解除されたノートに対応するHOLDフラグ13aをオフに設定する。S5aの処理後、処理をS6へ移行する。
【0056】
なお、S5aにおいて、「予め規定された条件に該当する1つのノート」としては、今回押鍵されたノートとの音高差が2半音以下であるホールド中のノートが1つである場合には、そのノートが対象となり、複数ある場合には、それらのノート中で、今回押鍵されたノートとの音高差が最も小さいノートが対象となる。あるいは、今回押鍵されたノートとの音高差が2半音以下であるホールド中のノートが複数ある場合に、それらのノートの中で、最も古くに押鍵されたノートを「予め規定された条件に該当する1つのノート」としてもよいし、最も新しくに押鍵されたノートを「予め規定された条件に該当する1つのノート」としてもよい。
【0057】
一方で、ホールド中のノートの中に、今回押鍵されたノートとの音高差が2半音以下であるノートが存在しないと判定された場合には(S4a:No)、処理をS8へ移行して、HOLDフラグ13aがオンに設定されたノートのうち、最も古くに押鍵されたノートに対応するHOLDフラグ13aをオフに設定し、消音指示を音源15へ出力することにより、そのノートのホールドを解除する(S8)。S8の処理後は、第1実施形態と同様、処理をS6へ移行する。
【0058】
以上説明した通り、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、同時に発音される楽音の数を、模擬対象の弦楽器らしさを保ち得る範囲に抑制できるので、模擬対象の弦楽器らしいアルペジオ奏法を、演奏者のペダル操作技術に依ることなく容易に実現することができると共に、新たに押鍵されたノートとの音高差に応じてホールドを解除するノートが決定されるので、アコースティックギターのように、同一弦を弾いた場合に前音が消音される弦楽器の特徴を十分に反映したアルペジオ奏法を、演奏者がアルペジオ奏法らしく鍵を押鍵するだけで実現することができる。
【0059】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0060】
例えば、上記各実施形態では、CPU11が図3図5に示す各処理を実行することにより、演奏者が、アコースティックギターなどの弦楽器によるアルペジオ奏法を容易かつ十分に実現できる構成としたが、図3図5に示す処理に相当する処理を音源15に実行させる構成としてもよい。
【0061】
また、上記各実施形態では、図3及び図5に示す処理は、アコースティックギターの音色が設定されている場合に実行される構成としたが、アコースティックギターに限定されず、アコースティックギターと同様のアルペジオ奏法が実施できる弦楽器の音色であれば同様に適用可能である。
【0062】
また、上記各実施形態では、ノートイベント処理(図3図5)のS3の判断処理において、ホールドされる数が4に達していれば、処理をS4又はS4aに移行する構成としたが、S3の判断処理による閾値(即ち、ホールドされる数の上限)については、設定されている音色の楽器(例えば、アコースティックギター)の音として聴感上違和感のない数であれば特に限定されるものではない。つまり、ノートイベント処理(図3図5)のS3の判断処理による閾値は、そのときに設定されている音色に応じて変更される構成としてもよい。また、ユーザが、S3の判断処理による閾値を適宜変更できる構成としてもよい。
【0063】
また、上記各実施形態では、ペダル21を取り外し可能な電子楽器1を用いる構成としたが、ペダル21が一体化された電子楽器であってもよい。また、ホールドがアサインされる操作子としては、ペダル(ペダル21)形態に限らず、レバーやボタンなどの形態のものであってもよい。また、ペダル21などの操作子に対してアサインされるホールドは、MIDI規格におけるホールド1に限らず、ホールド2などであってもよい。
【0064】
また、上記各実施形態では、鍵盤2が一体化された電子楽器1を用いる構成としたが、本発明の電子楽器は、鍵盤2と同様にノートオン及びノートオフを出力する鍵盤あるいはシーケンサー等を取り外し可能に接続できる音源モジュールの構成であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 電子楽器
2 鍵盤(入力手段)
2a 鍵
11 CPU(ホールド手段、判定手段、消音制御手段)
12 ROM
12a 制御プログラム
13 RAM
13a HOLDフラグ
13b HOLD数メモリ
14 I/F
15 音源(楽音生成手段)
16 DAC
17 バスライン


図1
図2
図3
図4
図5