【実施例】
【0039】
(抗ウイルス剤の作成)
(実施例1)
0.5mmolのHAuCl
4・4H
2Oを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液に基体としてのジルコニア粉末を5g加えて1時間攪拌した。その後、混合物を固液分離し、減圧乾燥して、窒素雰囲気下、200℃で4時間乾燥、粉砕し金ナノ微粒子担持抗ウイルス剤を得た。得た抗ウイルス剤のTEM画像を
図2に示す。画像解析で分析した結果、金ナノ微粒子の平均粒子径は4.4nmであった。
【0040】
(実施例2)
実施例1において、NaOH水溶液でpH4.8に調製する代わりに、pH5.5に調製し、ジルコニア粉末の代わりにチタニア粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手順でサンプルを調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は4.0nmであった。
【0041】
(実施例3)
実施例1において、NaOH水溶液でpH4.8に調製する代わりに、pH5.0に調製し、ジルコニア粉末の代わりにγ-アルミナ粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手順でサンプルを調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は3.6nmであった。
【0042】
(実施例4)
実施例1において、NaOH水溶液でpH6.0に調製する代わりに、pH4.0に調製し、ジルコニア粉末の代わりにセリア粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手順でサンプル調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は3.8nmであった。
【0043】
(実施例5)
実施例1において、NaOH水溶液でpH4.8に調製する代わりに、pH8.0に調製し、ジルコニア粉末の代わりに酸化コバルト(II,III)粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手段でサンプルを調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は4.5nmであった。
【0044】
(比較例1)
5mmolのHAuCl
4・4H
2Oを50mlの水に溶解させた水溶液(100mmol/l)にハイドロキシアパタイト(サンギ製SP-1)10gを加えて1時間攪拌した。その後、混合物を固液分離し、100℃で4時間乾燥、粉砕し金担持ハイドロキシアパタイトを得た。なお、本比較例1のような含浸法で形成された金粒子の形状は接合界面周縁部のない球体状になる。
【0045】
(赤血球凝集反応によるウイルス吸着性評価)
ウイルス吸着性を評価した。対象ウイルスとして、MDCK細胞を用いて培養し、精製したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。各物質と接触させたインフルエンザウイルスの赤血球凝集反応(HA)の力価(HA価)を定法により判定した。
【0046】
具体的には、まず、各実施例および比較例1における物質を、各々リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと記載)にて懸濁液濃度を1質量%、0.5質量%、および0.1質量%に希釈した試料を準備した。3種類の濃度の試料各100μLに、前記のHA価1024のウイルス液100μLをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら、室温で60分間反応させた。コントロールは、PBS100μLに前記のHA価1024のウイルス液100μLを加え、各試料と同様に、マイクロチューブローテーターを用いて60分間攪拌したものとした。
【0047】
その後、超小型遠心機により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。このサンプル液のPBSでの2倍希釈系列を各々50μL準備し、その各々に0.5%ニワトリ血球浮遊液を50μL混合し、4℃の環境下で60分静置後にHA価を測定した。測定結果を表1に示した。なお、各実施例における物質は、試料に等量のウイルス液を加えて反応していることから、反応液中における物質濃度は各々0.5質量%、0.25質量%、および0.05質量%となっている。
【0048】
【表1】
【0049】
上記結果より、本発明の抗ウイルス剤は、どの実施例においても1.0質量%で検出限界値である99.61%以上のウイルスを吸着、捕集することが確認できた。また0.10質量%という低濃度でも、実施例5では75.0%以上、実施例1〜4では87.5%以上のウイルスを吸着、捕集することが確認できた。
【0050】
(インフルエンザウイルスに対する不活化効果による抗ウイルス性評価)
次に、上記のウイルスを用いて、各物質と接触させたインフルエンザウイルスに対する不活化効果を定法により判定した。
【0051】
具体的には、まず各実施例および比較例1を、懸濁液濃度が1.0質量%、10.0質量%になるように各々PBSにて希釈した試料を用意した。2種類の濃度の試料各100μLに、前記のウイルス液100μLをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら室温にて10分間または60分間反応させた。コントロールは、PBS100μLに前記のウイルス液100μLを加え、各試料と同様に、マイクロチューブローテーターを用いて10分間または60分間攪拌したものとした。所定時間攪拌後、ウイルスと各サンプル中の化合物との反応を停止させるために20mg/mLのブイヨン蛋白を1800μl加えた。その後、超小型遠心機により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。
【0052】
各反応サンプルが10
-2〜10
-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行い(10段階希釈)、MDCK細胞に100μl、反応後のサンプル液を接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、インフルエンザウイルスは72時間、34℃、5%CO
2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1 mL,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出することで、抗ウイルス性を評価し、表2に結果を示した。
【0053】
【表2】
【0054】
上記の結果より、粉末濃度10.0質量%の場合、実施例4、5において、10分という短時間で検出限界値以下(不活化率99.997%以上)となり、残りの実施例においても不活化率99.97%以上となった。粉末濃度1.0質量%の低濃度でも、実施例1では60分間で検出限界値以下(不活化率99.95%以上)となり、他の実施例においても不活化率99.75%以上いう結果と、本発明の抗ウイルス剤の効果の高さが確認できた。なお、ここでいう不活化率は下記の式で定義された値を言う。なおブランクのウイルス感染価には、コントロールのウイルス感染価を用いて計算した。
【0055】
【数1】
【0056】
(本発明の抗ウイルス剤を担持した繊維構造体の作成)
さらに、別の実施例として、抗ウイルス剤を担持した繊維構造体の実施例および比較例を作成し、ウイルスに対する不活化効果を調べた。
【0057】
(実施例6)
反応性ホットメルト接着剤として積水フーラー株式会社製のTL-0511を、ノードソン株式会社製ALTA400シグレチャースプレーガンより糸状に吐出させ、粘着性を有する繊維構造体を作製した。次に、実施例1の抗ウイルス剤を接触させて、粘着性を有する反応性ホットメルト接着剤からなる繊維構造体の繊維表面に付着させ、湿度60%、50℃の環境で4時間反応させて反応性ホットメルト接着剤を硬化させ、抗ウイルス性を有する繊維構造体を得た。
【0058】
(実施例7)
無機微粒子として、チタニア微粒子をメタノールに対して10.0質量%、シランモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを無機微粒子に対して5.0質量%加えてpHを3.0に塩酸で調製した後、ビーズミルにより平均粒子径18nmに粉砕分散した。その後、凍結乾燥機により固液分離して120℃で加熱し、シランモノマーをチタニア微粒子の表面に脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。得られた表面処理されたチタニア微粒子をメタノールに10.0質量%に調製し、ビーズミルにより平均粒子径16nmに再度粉砕分散した。
【0059】
また、PET製不織布を、上記粉砕分散溶液に浸漬させ、エアーブロアーで余剰分を除去した後、120℃、3分間乾燥した。次に、チタニア微粒子分散液を塗布したPET製不織布に電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、チタニア微粒子をシランモノマーのグラフト重合によりPET製不織布に結合させた前駆体を得た。
【0060】
続いて、0.5mmolのHAuCl
4・4H
2Oを100mlの水に溶解させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH5.5に調製し、上記前駆体を浸漬させ、1時間攪拌した。その後、水溶液からPET製不織布を取り出し、減圧乾燥して、窒素雰囲気下、100℃で4時間加熱し、PET製不織布に結合しているチタニア微粒子表面に接合界面周縁部を有する金ナノ微粒子を析出させ、抗ウイルス性繊維構造体を得た。
【0061】
(比較例2)
実施例1の抗ウイルス剤を混合しない以外は実施例6と同じ方法で作成したホットメルト不織布を比較例2とした。
【0062】
(比較例3)
表面に何も担持しないPET製不織布を比較例3とした。
【0063】
(抗ウイルス性繊維構造体の抗ウイルス性評価)
実施例6および実施例7の抗ウイルス性フィルター(抗ウイルス性繊維構造体)並びに比較例2、3を4cm×4cmにカットし、プラスチックシャーレにいれ、ウイルス液0.1 mlを滴下し、室温で60分間作用させた。このとき試験品の上面をPPフィルム(4cm×4cm)で覆うことで、ウイルス液と試験品の接触面積を一定にし、試験を行った。60分間作用させたのち、20mg/mlのブイヨン蛋白液を900μlを添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10
-2〜10
-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞にサンプル液100μLを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO
2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。その測定結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
以上の結果より、本発明の抗ウイルス剤を担持した繊維構造体においても高いウイルス不活化作用が認められた。その効果は60分間で不活化率99.999%以上という非常に高い作用であり、これらの抗ウイルス性繊維構造体を用いることで、ウイルスへの感染リスクが低減された環境を提供することができる。