(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光源等からの光ビームを用いて被測定物体の表面形態や内部形態を表す画像を形成するOCTが注目を集めている。OCTは、X線CTのような人体に対する侵襲性を持たないことから、特に医療分野や生物学分野における応用の展開が期待されている。たとえば眼科分野においては、眼底や角膜等の画像を形成する装置が実用化されている。
【0003】
特許文献1にはOCTを適用した装置が開示されている。この装置は、測定腕が回転式転向鏡(ガルバノミラー)により物体を走査し、参照腕に参照ミラーが設置されており、その出口に計測腕及び参照腕からの光束の干渉光の強度を分光器で分析する干渉器が設けられている。更に、参照腕は、参照光光束位相を不連続な値で段階的に変えるように構成されている。
【0004】
特許文献1の装置は、いわゆる「フーリエドメインOCT(Fourier Domain OCT)」の手法を用いるものである。すなわち、被測定物体に対して低コヒーレンス光のビームを照射し、その反射光と参照光とを重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル強度分布を取得してフーリエ変換を施すことにより被測定物体の深度方向(z方向)の形態を画像化するものである。なお、この手法は、特にスペクトラルドメイン(Spectral Domain)とも呼ばれる。
【0005】
更に、特許文献1に記載の装置は、光ビーム(信号光)を走査するガルバノミラーを備え、それにより被測定物体の所望の測定対象領域の画像を形成するようになっている。この装置は、z方向に直交する1方向(x方向)にのみ光ビームを走査するように構成されている。この装置により形成される画像は、光ビームの走査方向(x方向)に沿った深度方向(z方向)の2次元断層像となる。
【0006】
特許文献2には、信号光を水平方向(x方向)及び垂直方向(y方向)に走査(スキャン)することにより水平方向の2次元断層像を複数形成し、これら複数の断層像に基づいて測定範囲の3次元の断層情報を取得して画像化する技術が開示されている。この3次元画像化としては、たとえば、複数の断層像を垂直方向に並べて表示させる方法や(スタックデータなどと呼ばれる)、スタックデータに基づくボリュームデータ(ボクセルデータ)にレンダリング処理を施して3次元画像を形成する方法などがある。
【0007】
特許文献3、4には、他のタイプのOCT装置が開示されている。特許文献3には、被測定物体に照射される光の波長を走査(波長掃引)し、各波長の光の反射光と参照光とを重ね合わせて得られる干渉光を検出してスペクトル強度分布を取得し、それに対してフーリエ変換を施すことにより被測定物体の形態を画像化するOCT装置が記載されている。このようなOCT装置は、スウェプトソース(Swept Source)タイプなどと呼ばれる。スウェプトソースタイプはフーリエドメインタイプの一種である。
【0008】
また、特許文献4には、所定のビーム径を有する光を被測定物体に照射し、その反射光と参照光とを重ね合わせて得られる干渉光の成分を解析することにより、光の進行方向に直交する断面における被測定物体の画像を形成するOCT装置が記載されている。このようなOCT装置は、フルフィールド(full−field)タイプ、或いはインファス(en−face)タイプなどと呼ばれる。
【0009】
特許文献5には、OCTを眼科分野に適用した構成が開示されている。なお、OCTが応用される以前には、被検眼を観察するための装置として眼底カメラやスリットランプなどが使用されていた(たとえば特許文献6、特許文献7を参照)。眼底カメラは被検眼に照明光を照射し、その眼底反射光を受光することで眼底を撮影する装置である。スリットランプは、スリット光を用いて角膜の光切片を切り取ることにより角膜の断面の画像を取得する装置である。
【0010】
OCTを用いた装置は、高精細の画像を取得できる点、更には断層像や3次元画像を取得できる点などにおいて、眼底カメラ等に対して優位性を持つ。
【0011】
このように、OCTを用いた装置は被検眼の様々な部位の観察に適用可能であり、また高精細な画像を取得できることから、様々な眼科疾患の診断への応用がなされてきている。
【0012】
眼科のみならず医療分野一般において重要なことは、関心領域を的確に画像化することである。特に眼科においては、撮影対象である被検眼は構造が極めて微細であり、また眼球運動を伴うことから、信号光の走査位置を正確に指定することは容易ではない。
【0013】
この走査位置の指定は、近赤外光を用いたリアルタイム動画像(近赤外眼底像)を参照して行われる。たとえば眼底のOCT計測においては、近赤外域のレーザ光で眼底を走査し、各点からの反射強度の2次元分布を画像化する手法(SLO、Scanning Laser Ophthalmoscope)や、近赤外光で照明された眼底を撮影する手法が用いられている。前者によれば、共焦点光学系により高画質が達成されるが、構造が複雑であり高価であるというデメリットがある。一方、後者については、従来の眼底カメラと同様のシンプルな光学系で実現できるが、共焦点性を利用していないため、光学素子や眼底の様々な深さ位置からの反射光(背景成分)が混入し、SLOのような高画質が得られない。そのため、画像のコントラスト調整やガンマ調整を行うなどの工夫がなされている(たとえば特許文献8、9、10を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係る眼底観察装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。この発明に係る眼底観察装置は、OCTを用いて眼底の断層像や3次元画像を形成する。この明細書では、OCTによって取得される画像をOCT画像と総称することがある。また、OCT画像を形成するための計測動作をOCT計測と呼ぶことがある。
【0021】
以下の実施形態では、フーリエドメインタイプのOCTを適用した構成について詳しく説明する。特に、実施形態に係る眼底観察装置は、特許文献5に開示された装置と同様に、眼底のOCT画像及び眼底像の双方を取得可能である。なお、フーリエドメイン以外のタイプのOCTを適用した眼底観察装置に対して、この発明に係る構成を適用することも可能である。
【0022】
〈第1の実施形態〉
[構成]
図1及び
図2に示すように、眼底観察装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含んで構成される。眼底カメラユニット2は、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系を有する。OCTユニット100には、眼底のOCT画像を取得するための光学系が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算処理や制御処理等を実行するコンピュータを具備している。
【0023】
〔眼底カメラユニット〕
図1に示す眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efの表面形態を表す2次元画像(眼底像)を取得するための光学系が設けられている。眼底像には、観察画像や撮影画像などが含まれる。観察画像は、たとえば、近赤外光を用いて所定のフレームレートで形成されるモノクロの動画像である。撮影画像は、たとえば、可視光をフラッシュ発光して得られるカラー画像、又は近赤外光若しくは可視光を照明光として用いたモノクロの静止画像であってもよい。眼底カメラユニット2は、これら以外の画像、たとえばフルオレセイン蛍光画像やインドシアニングリーン蛍光画像や自発蛍光画像などを取得可能に構成されていてもよい。なお、赤外光を用いて撮影された任意の眼底像が、この発明の「撮影画像」に相当する。また、眼底カメラユニット2は、この発明の「撮影部」の一例である。
【0024】
眼底カメラユニット2には、被検者の顔を支持するための顎受けや額当てが設けられている。更に、眼底カメラユニット2には、照明光学系10と撮影光学系30が設けられている。照明光学系10は眼底Efに照明光を照射する。撮影光学系30は、この照明光の眼底反射光を撮像装置(CCDイメージセンサ(単にCCDと呼ぶことがある)35、38。)に導く。また、撮影光学系30は、OCTユニット100からの信号光を眼底Efに導くとともに、眼底Efを経由した信号光をOCTユニット100に導く。
【0025】
照明光学系10の観察光源11は、たとえばハロゲンランプにより構成される。観察光源11から出力された光(観察照明光)は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17、18、絞り19及びリレーレンズ20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、対物レンズ22を経由して眼底Efを照明する。
【0026】
観察照明光の眼底反射光は、対物レンズ22により屈折され、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、合焦レンズ31を経由し、ダイクロイックミラー32により反射される。更に、この眼底反射光は、ハーフミラー40を透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に結像される。CCDイメージセンサ35は、たとえば所定のフレームレートで眼底反射光を検出する。表示装置3には、CCDイメージセンサ35により検出された眼底反射光に基づく画像(観察画像)Kが表示される。なお、撮影光学系のピントが前眼部に合わせられている場合、被検眼Eの前眼部の観察画像Kが表示される。
【0027】
撮影光源15は、たとえばキセノンランプにより構成される。撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。撮影照明光の眼底反射光は、観察照明光のそれと同様の経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりCCDイメージセンサ38の受光面に結像される。表示装置3には、CCDイメージセンサ38により検出された眼底反射光に基づく画像(撮影画像)Hが表示される。なお、観察画像Kを表示する表示装置3と撮影画像Hを表示する表示装置3は、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、被検眼Eを赤外光で照明して同様の撮影を行う場合には、赤外の撮影画像Hが表示される。
【0028】
LCD(Liquid Crystal Display)39は、固視標や視力測定用視標を表示する。固視標は被検眼Eを固視させるための視標であり、眼底撮影時やOCT計測時などに使用される。
【0029】
LCD39から出力された光は、その一部がハーフミラー40にて反射され、ダイクロイックミラー32に反射され、合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投影される。
【0030】
LCD39の画面上における固視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更できる。被検眼Eの固視位置としては、たとえば従来の眼底カメラと同様に、眼底Efの黄斑部を中心とする画像を取得するための位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための位置などがある。
【0031】
更に、眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラと同様にアライメント光学系50とフォーカス光学系60が設けられている。アライメント光学系50は、被検眼Eに対する装置光学系の位置合わせ(アライメント)を行うための視標(アライメント視標)を生成する。フォーカス光学系60は、眼底Efに対してフォーカス(ピント)を合わせるための視標(スプリット視標)を生成する。
【0032】
アライメント光学系50のLED(Light Emitting Diode)51から出力された光(アライメント光)は、絞り52、53及びリレーレンズ54を経由してダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、対物レンズ22により被検眼Eの角膜に投影される。
【0033】
アライメント光の角膜反射光は、対物レンズ22及び上記孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過し、合焦レンズ31を通過し、ダイクロイックミラー32により反射され、ハーフミラー40を透過し、ダイクロイックミラー33に反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に投影される。CCDイメージセンサ35による受光像(アライメント視標)は、観察画像Kとともに表示装置3に表示される。ユーザは、従来の眼底カメラと同様の操作を行ってアライメントを実施する。また、演算制御ユニット200がアライメント視標の位置を解析して光学系を移動させることによりアライメント(オートアライメント)を行ってもよい。
【0034】
フォーカス調整を行う際には、照明光学系10の光路上に反射棒67の反射面が斜設される。フォーカス光学系60のLED61から出力された光(フォーカス光)は、リレーレンズ62を通過し、スプリット視標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65に反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、対物レンズ22により眼底Efに結像される。
【0035】
フォーカス光の眼底反射光は、アライメント光の角膜反射光と同様の経路を通ってCCDイメージセンサ35により検出される。CCDイメージセンサ35による受光像(スプリット視標)は、観察画像とともに表示装置3に表示される。演算制御ユニット200は、従来と同様に、スプリット視標の位置を解析して合焦レンズ31及びフォーカス光学系60を移動させてピント合わせ(オートフォーカス)を行う。また、スプリット視標を視認しつつ手動でピント合わせを行ってもよい。
【0036】
ダイクロイックミラー32の後方には、ミラー41、コリメータレンズ42、及びガルバノミラー43、44を含む光路が設けられている。この光路はOCTユニット100に導かれている。
【0037】
ガルバノミラー44は、OCTユニット100からの信号光LSをx方向に走査する。ガルバノミラー43は、信号光LSをy方向に走査する。これら2つのガルバノミラー43、44により、信号光LSをxy平面上の任意の方向に走査することができる。
【0038】
〔OCTユニット〕
OCTユニット100には、眼底EfのOCT画像を取得するための光学系が設けられている(
図2を参照)。この光学系は、従来のフーリエドメインタイプのOCT装置と同様の構成を有する。すなわち、この光学系は、低コヒーレンス光を参照光と信号光に分割し、眼底Efを経由した信号光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル成分を検出するように構成されている。この検出結果(検出信号)は演算制御ユニット200に送られる。
【0039】
光源ユニット101は広帯域の低コヒーレンス光L0を出力する。低コヒーレンス光L0は、たとえば、近赤外領域の波長帯(約800nm〜900nm程度)を含み、数十マイクロメートル程度の時間的コヒーレンス長を有する。なお、人眼では視認できない波長帯、たとえば1040〜1060nm程度の中心波長を有する近赤外光を低コヒーレンス光L0として用いてもよい。
【0040】
光源ユニット101は、スーパールミネセントダイオード(Super Luminescent Diode:SLD)や、LEDや、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)等の光出力デバイスを含んで構成される。なお、この実施形態では特にスペクトラルドメインタイプについて説明しているが、スウェプトソースタイプを適用する場合には、波長掃引が可能なレーザ光源が光源ユニット101として用いられる。一般に、光源ユニット101の構成としては、光コヒーレンストモグラフィのタイプに応じたものが適宜選択される。
【0041】
光源ユニット101から出力された低コヒーレンス光L0は、光ファイバ102によりファイバカプラ103に導かれて信号光LSと参照光LRに分割される。
【0042】
信号光LSは、光ファイバ104により導光され、コリメータレンズユニット105により平行光束となる。更に、信号光LSは、各ガルバノミラー44、43により反射され、コリメータレンズ42により集光され、ミラー41により反射され、ダイクロイックミラー32を透過し、LCD39からの光と同じ経路を通って眼底Efに照射される。信号光LSは、眼底Efにおいて散乱、反射される。この散乱光及び反射光をまとめて信号光LSの眼底反射光と称することがある。信号光LSの眼底反射光は、同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ103に導かれる。
【0043】
参照光LRは、光ファイバ106により導光され、コリメータレンズユニット107により平行光束となる。更に、参照光LRは、ミラー108、109、110により反射され、ND(Neutral Density)フィルタ111により減光され、ミラー112に反射され、コリメータレンズ113により参照ミラー114の反射面に結像される。参照ミラー114に反射された参照光LRは、同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ103に導かれる。なお、分散補償用の光学素子(ペアプリズム等)や、偏光補正用の光学素子(波長板等)を参照光LRの光路(参照光路)に設けてもよい。
【0044】
ファイバカプラ103は、信号光LSの眼底反射光と、参照ミラー114に反射された参照光LRとを合波する。これにより生成された干渉光LCは、光ファイバ115により導光されて出射端116から出射される。更に、干渉光LCは、コリメータレンズ117により平行光束とされ、回折格子118により分光(スペクトル分解)され、集光レンズ119により集光されてCCDイメージセンサ120の受光面に投影される。
図2に示す回折格子118は透過型であるが、反射型の回折格子を用いてもよい。
【0045】
CCDイメージセンサ120は、たとえばラインセンサであり、分光された干渉光LCの各スペクトル成分を検出して電荷に変換する。CCDイメージセンサ120は、この電荷を蓄積して検出信号を生成する。更に、CCDイメージセンサ120は、この検出信号を演算制御ユニット200に送る。
【0046】
この実施形態ではマイケルソン型の干渉計を採用しているが、たとえばマッハツェンダー型など任意のタイプの干渉計を適宜に採用することが可能である。また、CCDイメージセンサに代えて、他の形態のイメージセンサ、たとえばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどを用いることが可能である。
【0047】
〔演算制御ユニット〕
演算制御ユニット200の構成について説明する。演算制御ユニット200は、CCDイメージセンサ120から入力される検出信号を解析して眼底EfのOCT画像を形成する。そのための演算処理は、従来のフーリエドメインタイプのOCT装置と同様である。
【0048】
また、演算制御ユニット200は、眼底カメラユニット2、表示装置3及びOCTユニット100の各部を制御する。たとえば演算制御ユニット200は、眼底Efの断層像G(
図2を参照)等のOCT画像を表示装置3に表示させる。
【0049】
また、眼底カメラユニット2の制御として、演算制御ユニット200は、観察光源11、撮影光源15及びLED51、61の動作制御、LCD39の動作制御、合焦レンズ31の移動制御、反射棒67の移動制御、フォーカス光学系60の移動制御、各ガルバノミラー43、44の動作制御などを行う。
【0050】
また、OCTユニット100の制御として、演算制御ユニット200は、光源ユニット101の動作制御、参照ミラー114及びコリメータレンズ113の移動制御、CCDイメージセンサ120の動作制御などを行う。
【0051】
演算制御ユニット200は、たとえば、従来のコンピュータと同様に、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、眼底観察装置1を制御するためのコンピュータプログラムが記憶されている。演算制御ユニット200は、CCDイメージセンサ120からの検出信号に基づいてOCT画像を形成する専用の回路基板を備えていてもよい。また、演算制御ユニット200は、キーボードやマウス等の操作デバイス(入力デバイス)や、LCD等の表示デバイスを備えていてもよい。
【0052】
眼底カメラユニット2、表示装置3、OCTユニット100及び演算制御ユニット200は、一体的に(つまり単一の筺体内に)構成されていてもよいし、それぞれ別体として構成されていてもよい。
【0053】
〔制御系〕
眼底観察装置1の制御系の構成について
図3を参照しつつ説明する。
【0054】
(制御部)
眼底観察装置1の制御系は、制御部210を中心に構成される。制御部210は、たとえば、前述のマイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、通信インターフェイス等を含んで構成される。制御部210には、主制御部211と記憶部212が設けられている。
【0055】
(主制御部)
主制御部211は前述の各種制御を行う。特に、主制御部211は、眼底カメラユニット2の走査駆動部70、合焦駆動部80及び光学系駆動部90、更にOCTユニット100の光源ユニット101及び参照駆動部130を制御する。
【0056】
走査駆動部70は、ガルバノミラー43、44の向きを各々独立に変更する。合焦駆動部80は、合焦レンズ31を光軸方向に移動させる。それにより、眼底Efに向かう光の合焦位置が変更される。光学系駆動部90は、眼底カメラユニット2に設けられた光学系を3次元的に移動させる。参照駆動部130は、参照光LRの進行方向に沿って、コリメータレンズ113及び参照ミラー114を一体的に移動させる。
【0057】
また、主制御部211は、記憶部212にデータを書き込む処理や、記憶部212からデータを読み出す処理を行う。
【0058】
(記憶部)
記憶部212は、各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、たとえば、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者に関する情報や、左眼/右眼の識別情報などの被検眼に関する情報を含む。また、記憶部212には、眼底観察装置1を動作させるための各種データが記憶されている。
【0059】
(画像形成部)
画像形成部220は、CCDイメージセンサ120からの検出信号に基づいて、眼底Efの断層像の画像データを形成する。この処理には、従来のフーリエドメインタイプの光コヒーレンストモグラフィと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの処理が含まれている。画像形成部220は、OCT計測で用いられる光学系とともに、「形成部」として機能する。
【0060】
画像形成部220は、たとえば、前述の回路基板を含んで構成される。なお、この明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。
【0061】
(画像処理部)
画像処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種の画像処理や解析処理を施す。たとえば、画像処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の各種補正処理を実行する。また、画像処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施す。
【0062】
画像処理部230は、断層像の間の画素を補間する補間処理などの公知の画像処理を実行して、眼底Efの3次元画像の画像データを形成する。なお、3次元画像の画像データとは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像データを意味する。3次元画像の画像データとしては、3次元的に配列されたボクセルからなる画像データがある。この画像データは、ボリュームデータ或いはボクセルデータなどと呼ばれる。ボリュームデータに基づく画像を表示させる場合、画像処理部230は、このボリュームデータに対してレンダリング処理(ボリュームレンダリングやMIP(Maximum Intensity Projection:最大値投影)など)を施して、特定の視線方向から見たときの擬似的な3次元画像の画像データを形成する。表示部240A等の表示デバイスには、この擬似的な3次元画像が表示される。
【0063】
また、3次元画像の画像データとして、複数の断層像のスタックデータを形成することも可能である。スタックデータは、複数の走査線に沿って得られた複数の断層像を、走査線の位置関係に基づいて3次元的に配列させることで得られる画像データである。すなわち、スタックデータは、元々個別の2次元座標系により定義されていた複数の断層像を、1つの3次元座標系により表現する(つまり1つの3次元空間に埋め込む)ことにより得られる画像データである。
【0064】
画像処理部230は、赤外光を用いた撮影により得られた眼底像を解析して、この眼底像の所定の低周波成分を除去する解析部として機能する。この低周波成分除去処理について説明する。眼底カメラユニット2が検出する光には、眼底Efの表面反射光(信号成分)だけでなく、光学系を構成する光学素子による反射光など(背景成分)が含まれる。なお、信号成分は比較的小さく、背景成分は比較的大きい。よって、眼底像から背景成分を差分することにより、目的である眼底Efの表面形態の画像化に寄与しない成分を除去することができる。一般に、眼底Ef以外からの反射光は、CCDイメージセンサ35、38の受光面に焦点を結ばないため、眼底像の低周波成分(ボケた成分。)を構成する。この実施形態では、このような低周波成分を眼底像から除去する。なお、生体眼は固視微動やフリック等の眼球運動により常に移動しているため、事前に背景成分を効果的に特定することはできない。したがって、得られた眼底像自体を解析して背景成分を除去する必要がある。
【0065】
このような処理を実現するために、画像処理部230には、平滑化処理部231と、差分処理部232と、合成処理部233とが設けられている。なお、画像処理部230又は眼底カメラユニット2は、一般的なデジタルカメラと同様に、CCDイメージセンサ35、38からの画像信号をデジタル信号に変換する処理を行う。このデジタル信号は、たとえば図示しないフレームメモリに一時記憶され、平滑化処理部231以降の処理に供される。
【0066】
(平滑化処理部)
平滑化処理部231は、眼底像に対して平滑化処理を施す。それにより形成される画像を平滑化画像と呼ぶことにする。平滑化処理としては、移動平均フィルタ処理、ガウシアンフィルタ処理、各種空間フィルタ処理、ダウンサンプリングなど、任意の技術を適用することが可能である。
【0067】
(差分処理部)
差分処理部232は、平滑化画像と元の眼底像との差分処理を実行する。それにより形成される画像を差分画像と呼ぶことにする。この差分処理により、眼底Efにおける血管や視神経乳頭の輪郭など、元の眼底像において比較的明瞭に描出されている部分、つまり元の眼底像の高周波成分が抽出される。
【0068】
差分処理を行う前に、平滑化画像及び/又は元の眼底像に所定の重みを乗算するように構成することが可能である。一例として、差分処理部232は、平滑化画像に重みw(たとえば0.7以上0.9以下の値)を乗算し、この重みwが乗算された平滑化画像を元の眼底像から除算することにより差分画像を形成する。なお、重みwは、ぼかしの方法や度合いに応じて適宜に設定される。たとえば、重みwは、事前に設定された値であってもよいし、元の眼底像におけるボケの度合いに基づいて算出された値であってもよい。
【0069】
(合成処理部)
合成処理部233は、元の眼底像と差分画像とを合成することにより、元の眼底像から低周波成分が除去された眼底像(合成画像)を形成する。この合成処理はたとえば加算処理である。前述のように、この合成画像は、元の眼底像から所定の低周波成分を除去した画像である。
【0070】
画像処理部230は、合成処理部233により形成された合成画像に対して輝度調整などの各種画像処理を施して、画質(コントラスト等)の向上を図ることができる。以下、このような画像処理が施された画像についても合成画像と呼ぶことにする。
【0071】
以上のように機能する画像処理部230は、たとえば、前述のマイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、回路基板等を含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をマイクロプロセッサに実行させるコンピュータプログラムが予め格納されている。
【0072】
(ユーザインターフェイス)
ユーザインターフェイス240には、表示部240Aと操作部240Bとが含まれる。表示部240Aは、前述した演算制御ユニット200の表示デバイスや表示装置3を含んで構成される。操作部240Bは、前述した演算制御ユニット200の操作デバイスを含んで構成される。操作部240Bには、眼底観察装置1の筐体や外部に設けられた各種のボタンやキーが含まれていてもよい。たとえば眼底カメラユニット2が従来の眼底カメラと同様の筺体を有する場合、操作部240Bは、この筺体に設けられたジョイスティックや操作パネル等を含んでいてもよい。また、表示部240Aは、眼底カメラユニット2の筺体に設けられたタッチパネルモニタなどの各種表示デバイスを含んでいてもよい。
【0073】
なお、表示部240Aと操作部240Bは、それぞれ個別のデバイスとして構成される必要はない。たとえばタッチパネルモニタのように、表示機能と操作機能とが一体化されたデバイスを用いることも可能である。
【0074】
〔信号光の走査及びOCT画像について〕
ここで、信号光LSの走査及びOCT画像について説明しておく。
【0075】
眼底観察装置1による信号光LSの走査態様としては、たとえば、水平スキャン、垂直スキャン、十字スキャン、放射スキャン、円スキャン、同心円スキャン、螺旋(渦巻)スキャンなどがある。これらの走査態様は、眼底の観察部位、解析対象(網膜厚など)、走査に要する時間、走査の精密さなどを考慮して適宜に選択的に使用される。
【0076】
水平スキャンは、信号光LSを水平方向(x方向)に走査させるものである。水平スキャンには、垂直方向(y方向)に配列された複数の水平方向に延びる走査線に沿って信号光LSを走査させる態様も含まれる。この態様においては、走査線の間隔を任意に設定することが可能である。また、隣接する走査線の間隔を十分に狭くすることにより、前述の3次元画像を形成することができる(3次元スキャン)。垂直スキャンについても同様である。
【0077】
十字スキャンは、互いに直交する2本の直線状の軌跡(直線軌跡)からなる十字型の軌跡に沿って信号光LSを走査するものである。放射スキャンは、所定の角度を介して配列された複数の直線軌跡からなる放射状の軌跡に沿って信号光LSを走査するものである。なお、十字スキャンは放射スキャンの一例である。
【0078】
円スキャンは、円形状の軌跡に沿って信号光LSを走査させるものである。同心円スキャンは、所定の中心位置の周りに同心円状に配列された複数の円形状の軌跡に沿って信号光LSを走査させるものである。円スキャンは同心円スキャンの一例である。螺旋スキャンは、回転半径を次第に小さく(又は大きく)させながら螺旋状(渦巻状)の軌跡に沿って信号光LSを走査するものである。
【0079】
ガルバノミラー43、44は互いに直交する方向に信号光LSを走査するように構成されているので、信号光LSをx方向及びy方向にそれぞれ独立に走査できる。更に、ガルバノミラー43、44の向きを同時に制御することにより、xy面上の任意の軌跡に沿って信号光LSを走査することが可能である。それにより、上記のような各種の走査態様を実現できる。
【0080】
上記のような態様で信号光LSを走査することにより、走査線(走査軌跡)に沿った眼底深度方向(z方向)の断層像を形成することができる。また、特に走査線の間隔が狭い場合には、前述の3次元画像を形成することができる。
【0081】
上記のような信号光LSの走査対象となる眼底Ef上の領域、つまりOCT計測の対象となる眼底Ef上の領域を走査領域と呼ぶ。3次元スキャンにおける走査領域は、複数の水平スキャンが配列された矩形の領域である。また、同心円スキャンにおける走査領域は、最大径の円スキャンの軌跡により囲まれる円盤状の領域である。また、放射スキャンにおける走査領域は、各スキャンラインの両端位置を結んだ円盤状(或いは多角形状)の領域である。
【0082】
[動作]
眼底観察装置1の動作について説明する。
【0083】
〔動作例1〕
図4は、眼底観察装置1の動作の一例を表す。この動作例では、画像処理部230により形成された合成画像を利用してOCT計測を行う場合について説明する。この動作例には、合成画像に基づく被検眼Eと装置光学系との位置合わせ処理と、合成画像に基づく走査領域の設定処理とが含まれる。
【0084】
この位置合わせ処理には、たとえば、OCT計測のためのアライメント(オートアライメント)、ピント合わせ(オートフォーカス)、トラッキング(オートトラッキング)が含まれる。トラッキングとは、被検眼Eの眼球運動に合わせて装置光学系を移動させるものである。トラッキングを行う前にはアライメントとピント合わせが実行される。トラッキングは、装置光学系の位置を眼球運動に追従させることにより、アライメントとピントが合った好適な位置関係を維持する機能である。
【0085】
(S1:リアルタイム近赤外動画像の取得)
まず、観察光源11からの照明光(可視カットフィルタ14により近赤外光となる)で眼底Efを連続照明することにより、眼底Efの近赤外動画像を取得する。この近赤外動画像は、連続照明が終了するまでリアルタイムで得られる。この動画像を構成する各静止画像(フレーム)は、フレームメモリ(記憶部212)に一時記憶され、画像処理部230に逐次送られる。
【0086】
なお、被検眼Eには、アライメント光学系50によるアライメント視標と、フォーカス光学系60によるスプリット視標とが投影されているものとする。よって、近赤外動画像にはアライメント視標とスプリット視標とが描画されている。また、LCD39による固視標も投影されているものとする。被検者は、この固視標を凝視するように指示を受ける。
【0087】
(S2:平滑化処理)
平滑化処理部231は、制御部210から逐次入力されるフレームに対して平滑化処理を施して各フレームの平滑化画像を形成し、差分処理部232に逐次入力する。
【0088】
(S3:差分処理)
差分処理部232は、平滑化処理部231から逐次入力される平滑化画像と、この平滑化画像の元になったフレームとの差分画像を形成する。そして、差分処理部233は、逐次に形成される差分画像を合成処理部233に逐次入力する。
【0089】
(S4:合成処理)
合成処理部233は、差分処理部232から逐次入力される差分画像と、この差分画像の元になったフレームとの合成画像を形成する。そして、合成処理部233は、逐次に形成される合成画像を制御部210に逐次入力する。
【0090】
(S5、S6:オートアライメント、オートフォーカス)
制御部210は、画像処理部230から逐次入力される合成画像に描画されたアライメント視標に基づいて光学系駆動部90と制御することにより、オートアライメントを行う。また、制御部210は、画像処理部230から逐次入力される合成画像に描画されたスプリット視標に基づいて合焦駆動部80を制御することにより、オートフォーカスを行う。
【0091】
(S7:オートトラッキング)
続いて、制御部210は、画像処理部230から逐次入力される合成画像に基づくオートトラッキングを開始する。より具体的には、制御部210は、各合成画像に描画された眼底Efの特徴部位(視神経乳頭、血管、病変部等)を特定し、この特徴部位のフレーム中における位置(座標)が合成画像間において一定になるように光学系駆動部90を移動させる。それにより、眼球運動に起因するフレーム中における画像の動きが抑制され、フレーム中のほぼ同じ位置に特徴部位が描画されることとなる。
【0092】
(S8:走査領域の設定)
制御部210は、現にオートトラッキングが施されている近赤外動画像を表示部240Aにリアルタイムで表示させる。ユーザは、操作部240Bを用いることにより、この近赤外動画像上に走査領域を設定する。設定される走査領域は1次元領域でも2次元領域でもよい。
【0093】
なお、信号光LSの走査態様や注目部位(視神経乳頭、黄斑部、病変部等)が予め設定されている場合などには、これら設定内容と合成画像とに基づいて制御部210が走査領域を設定するように構成することも可能である。
【0094】
また、過去に実施されたOCT計測と同じ走査領域を設定する場合(いわゆるフォローアップ)、制御部210は、この過去の走査領域をリアルタイム近赤外動画像上に再現して設定することができる。その具体例として、制御部210は、過去の検査で設定された走査領域を表す情報(走査態様等)と、この走査領域が設定された近赤外眼底像(静止画、たとえばフレームでよい)とを対応付けて記憶部212に記憶している(実用上は、患者IDや左右眼情報とも対応付けられる)。制御部210は、過去の近赤外眼底像と現在の近赤外動画像のフレームとの位置合わせを行い、過去の近赤外眼底像における走査領域に対応する現在の近赤外動画像中の画像領域を特定する。これにより、過去の検査で適用された走査領域が現在の近赤外動画像に対して設定される。
【0095】
(S9:OCT計測)
制御部210は、光源ユニット101や参照駆動部130を制御するとともに、ステップ8で設定された走査領域に基づいて走査駆動部70を制御することにより、眼底EfのOCT計測を行う。画像形成部220は、得られた検出信号に基づいて眼底Efの断層像を形成する。走査態様が3次元スキャンである場合、画像処理部230は、画像形成部220により形成された複数の断層像に基づいて眼底Efの3次元画像を形成する。以上で、この動作例は終了となる。
【0096】
なお、上記ステップ7、8では、オートトラッキングがなされている近赤外動画像を表示させ、この近赤外動画像上に走査領域を設定しているが、走査領域の設定態様はこれに限定されるものではない。たとえば、近赤外動画像における一のフレームの合成画像(基準合成画像と呼ぶ)を表示させるとともに、そのバックグラウンドでオートトラッキングを実行する。基準合成画像上に走査領域が設定されると、制御部210は、基準合成画像と、現にオートトラッキングに供されている合成画像との間の位置合わせを行うことにより、基準合成画像上に設定された走査領域に対応するリアルタイム近赤外動画像中の画像領域を特定する。この処理によっても上記ステップ7、8と同様にリアルタイム近赤外動画像中に走査領域を設定できる。更に、この方法によれば、静止画像上に走査領域を設定することができるので、現にオートトラッキングされている動画像上に設定する場合よりも作業の容易化や確実化を図ることができる。
【0097】
この動作例において、制御部210、アライメント光学系50、フォーカス光学系60、合焦駆動部80、光学系駆動部90等は、「位置合わせ部」として機能する。また、ガルバノミラー43、44及び走査駆動部70は「走査部」として機能し、制御部210は「設定部」として機能する。
【0098】
〔動作例2〕
画像処理部230は、近赤外眼底像から低周波成分を除去して得られた上記合成画像を解析することにより、この合成画像中の特徴部位を特定することができる。この特徴部位としては、眼底組織や病変部がある。この眼底組織としては、視神経乳頭、黄斑部、血管などがある。この特徴部位特定処理は、従来と同様に、画像の輝度に基づく各種画像処理によって実現される。この動作例の画像処理部230は「特定部」として機能する。
【0099】
また、画像処理部230は、特定された特徴部位に基づいて、病変の名称・有無・程度を判定することができる。その具体例として、病変の名称・有無・程度を判定するための情報を予め記憶部212に記憶しておく。この情報は、たとえば多数の臨床データから統計的に得られた、疾患毎の特徴が記録されている。この特徴は、その疾患の有無や程度が近赤外眼底像にどのように描画されるかを表すものである。画像処理部230は、合成画像を解析することにより、上記特徴に該当しているか否か判定する。それにより、病変の名称・有無・程度を示す情報が得られる。
【0100】
〔動作例3〕
画像処理部230は、近赤外眼底像から低周波成分を除去して得られた上記合成画像を解析することにより、この合成画像の画質を判定することができる。この画質としては、フレアの混入の有無などがある。一般に、近赤外眼底像にフレアが混入している場合、(視神経乳頭以外の)極めて明るい画像領域が存在する。画像処理部230は、このような画像領域が合成画像中に存在するか否か判断することにより、フレアの混入の有無を判定する。なお、視神経乳頭に相当する画像領域は略円形ないし略楕円形であり、また、そこから血管が延びていることから、これら特徴を考慮することにより極めて明るい領域が視神経乳頭に該当するかフレアに該当するか識別することができる。この動作例の画像処理部230は「判定部」として機能する。
【0101】
〔動作例4〕
この動作例では、上記実施形態の要領で合成画像を形成し、かつ、3次元スキャンを行って眼底Efの3次元画像を形成する。この3次元画像は、複数の断層像のスタックデータでもよいし、これに基づくボリュームデータでもよい。画像処理部230は、この3次元画像を眼底Efの深さ方向(z方向)に積算して積算画像を形成する。この積算画像は、眼底Efの表面形態を擬似的に表現した2次元画像である。画像処理部230は、この積算画像と合成画像との位置合わせを行う。この位置合わせは、たとえば、眼底Efの同じ特徴部位に相当する画像領域を両画像中から特定し、特定された特徴部位たちの位置を一致させることにより実行される。
【0102】
これにより、積算画像を介して、近赤外眼底像とOCT画像(3次元画像)とを位置合わせすることができる。また、近赤外眼底像と任意の眼底像との位置合わせを加えることにより、積算画像及び近赤外眼底像を介して、任意の眼底像とOCT画像とを位置合わせすることができる。この動作例の画像処理部230は「画像位置合わせ部」として機能する。
【0103】
上記実施形態及び動作例における合成画像を用いた処理を、以下の第2の実施形態に適用することが可能である。なお、合成画像を用いた処理は上記のものには限定されず、近赤外眼底像を用いた任意の処理を合成画像に置き換えて実行することができる。
【0104】
[効果]
眼底観察装置1の効果について説明する。
【0105】
眼底観察装置1は、赤外光を用いて眼底Efを撮影する構成と、OCTを用いて眼底Efの断層像を形成する構成と、眼底Efの撮影画像(近赤外眼底像)を解析してこの撮影画像から所定の低周波成分を除去する構成とを有する。低周波成分を除去する処理には、平滑化処理、差分処理及び合成処理が含まれている。
【0106】
このような眼底観察装置1によれば、近赤外眼底像から信号成分を効果的に抽出することができ、コントラストを向上させることが可能である。
【0107】
また、眼底観察装置1は、差分処理において、近赤外眼底像及び/又は平滑化画像に所定の重みを乗算してから差分を行うことにより、コントラストの更なる向上を図ることができる。
【0108】
眼底観察装置1は、近赤外動画像の各フレームから低周波成分を除去して合成画像を逐次に形成することにより、低周波成分が除去された近赤外動画像を得る。更に、眼底観察装置1は、低周波成分が除去された近赤外動画像に基づいて、被検眼EとOCT計測用の光学系との位置合わせを行う。それにより、コントラストが向上された合成画像を用いて、より高精度・より高確度で位置合わせを行うことができる。なお、この位置合わせには、アライメント、ピント合わせ及びトラッキングのうちの少なくとも1つが含まれる。
【0109】
また、眼底観察装置1によれば、低周波成分が除去された近赤外動画像に基づいて、信号光LSの走査領域を設定することができる。それにより、コントラストが向上された合成画像を用いて、より高精度・より高確度で走査領域を設定することが可能である。
【0110】
また、眼底観察装置1によれば、低周波成分が除去された近赤外動画像に基づいて、眼底Efの特徴部位を特定することができる。それにより、視神経乳頭等に相当する画像領域の特定や、病変部に相当する画像領域の特定を、コントラストが向上された合成画像を用いて、より高精度・より高確度で行うことが可能である。
【0111】
また、眼底観察装置1によれば、低周波成分が除去された近赤外動画像に基づいて画質を判定することができる。それにより、コントラストが向上された合成画像を用いて、より高精度・より高確度で画質判定を行うことが可能である。
【0112】
また、眼底観察装置1によれば、低周波成分が除去された近赤外動画像と、OCT計測で得られた3次元画像の積算画像との位置合わせを行うことができる。それにより、コントラストが向上された合成画像を用いて、従来よりも高精度・高確度で当該画像位置合わせを行うことが可能である。
【0113】
この実施形態を用いて低周波成分を除去した場合の効果を
図5A及び
図5Bを参照して説明する。
図5Aは、元の近赤外眼底像を表す。
図5Bは、この近赤外眼底像に基づく平滑化画像に重みw=0.8を乗算することで差分処理を実行し、これを1−w=0.2で除算することで合成処理を実行して輝度(コントラスト)を調整した合成画像を表す。両図から明らかなように、
図5Aに示す近赤外眼底像では不明瞭な眼底の形態が、
図5Bに示す合成画像では明瞭になっている。特に、視神経乳頭の輪郭や血管に相当する画像領域が明瞭になっていることが分かる。また、白斑状の病変部についても明瞭になっている。
【0114】
〈第2の実施形態〉
この実施形態では、第1の実施形態とは異なる処理によって近赤外眼底像から低周波成分を除去するように構成された眼底観察装置について説明する。
【0115】
[構成]
この実施形態に係る眼底観察装置は、画像処理部230を除き、第1の実施形態と同様の構成を有する(
図1、
図2を参照)。この実施形態の制御系の構成を
図6に示す。なお、画像処理部230以外の構成についての説明は省略する。
【0116】
(画像処理部)
この実施形態の画像処理部230は、フーリエ変換部234と、マスク処理部235と、逆フーリエ変換部236とを有する。
【0117】
(フーリエ変換部)
フーリエ変換部234は、近赤外眼底像に対して2次元フーリエ変換を施すことにより、周波数空間における画像(スペクトル画像と呼ぶことにする)を形成する。この2次元フーリエ変換は、一般的な2次元フーリエ変換だけでなく、たとえば離散コサイン変換のような2次元画像の周波数を求めることが可能な任意の変換処理であってよい。
【0118】
(マスク処理部)
マスク処理部235は、上記周波数空間において予め設定されたマスク画像をスペクトル画像に合成する。このマスク画像は、たとえば、上記周波数空間における所定の低周波成分を除去するバンドパスフィルタである。より具体的には、このマスク画像は、上記周波数空間における所定の低周波成分のみを除去するハイパスフィルタ、又は、所定の低周波成分と所定の高周波成分とを除去するバンドパスフィルタである。
【0119】
除去される周波数成分の範囲は、実空間における除去対象である低周波成分や、コントラストを向上させる程度などに基づいて適宜に設定される。この周波数成分の除去範囲は、事前に設定された範囲であってもよいし、スペクトル画像を解析して設定された範囲であってもよい。
【0120】
(逆フーリエ変換部)
逆フーリエ変換部236は、マスク処理部235により形成された画像(マスク合成画像と呼ぶことにする)に2次元逆フーリエ変換を施すことにより、実空間において元の近赤外眼底像から低周波成分が除去された画像を形成する。
【0121】
眼底観察装置1は、このようにして低周波成分が除去された近赤外眼底像に基づいて、アライメント、ピント合わせ、トラッキング、走査領域の設定(フォローアップを含む)、特徴部位や病変部の特定、疾患の有無や程度の判定、画質の判定、画像位置合わせなどの各種処理を行うことができる。
【0122】
[効果]
この実施形態に係る眼底観察装置は、赤外光を用いて眼底Efを撮影する構成と、OCTを用いて眼底Efの断層像を形成する構成と、眼底Efの撮影画像(近赤外眼底像)を解析してこの撮影画像から所定の低周波成分を除去する構成とを有する。低周波成分を除去する処理には、フーリエ変換、マスク処理及び逆フーリエ変換が含まれている。
【0123】
このような眼底観察装置1によれば、近赤外眼底像から信号成分を効果的に抽出することができ、コントラストを向上させることが可能である。
【0124】
また、低周波成分が除去された近赤外眼底像に基づいて、アライメント、ピント合わせ、トラッキング、走査領域の設定(フォローアップを含む)、特徴部位や病変部の特定、疾患の有無や程度の判定、画質の判定、画像位置合わせなどの各種処理を行うことにより、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0125】
この実施形態を用いて低周波成分を除去した場合の効果を
図7A〜
図7Cを参照して説明する。
図7Aは、元の近赤外眼底像を表す。
図7Bは、適用されるマスク画像を表す。
図7Cは、このマスク画像を用いて低周波成分が除去された近赤外眼底像を表す。
図7Aと
図7Cから明らかなように、
図7Aに示す近赤外眼底像では不明瞭な眼底の形態が、
図7Cに示す近赤外眼底像では明瞭になっている。特に、視神経乳頭の輪郭や血管に相当する画像領域が明瞭になっていることが分かる。また、白斑状の病変部についても明瞭になっている。
【0126】
[変形例]
以上に説明した構成は、この発明を好適に実施するための一例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形を適宜に施すことが可能である。
【0127】
上記の実施形態においては、眼底を近赤外領域の光で照明する場合について特に詳しく説明したが、可視領域(たとえば緑)の光で眼底を照明する構成を適用することも可能である。この変形例は、たとえばスウェプトソースタイプにおいて用いられる。
【0128】
上記の実施形態においては、参照ミラー114の位置を変更して信号光LSの光路と参照光LRの光路との光路長差を変更しているが、光路長差を変更する手法はこれに限定されるものではない。たとえば、被検眼Eに対して眼底カメラユニット2やOCTユニット100を移動させて信号光LSの光路長を変更することにより光路長差を変更することができる。また、特に被測定物体が生体部位でない場合などには、被測定物体を深度方向(z方向)に移動させることにより光路長差を変更することも有効である。
【0129】
上記の実施形態を実現するためのコンピュータプログラムを、コンピュータによって読み取り可能な任意の記録媒体に記憶させることができる。この記録媒体としては、たとえば、光ディスク、光磁気ディスク(CD−ROM/DVD−RAM/DVD−ROM/MO等)、磁気記憶媒体(ハードディスク/フロッピー(登録商標)ディスク/ZIP等)などを用いることが可能である。また、ハードディスクドライブやメモリ等の記憶装置に記憶させることも可能である。
【0130】
また、インターネットやLAN等のネットワークを通じてこのプログラムを送受信することも可能である。