特許第5912461号(P5912461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912461
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】管路の補修方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/00 20060101AFI20160414BHJP
   F16L 55/18 20060101ALI20160414BHJP
   F16L 1/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   F16L55/00 C
   F16L55/18 B
   F16L1/00 J
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-263545(P2011-263545)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-117235(P2013-117235A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392008884
【氏名又は名称】芦森エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 克彦
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 京太郎
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−303535(JP,A)
【文献】 特開2002−357083(JP,A)
【文献】 特開2004−183760(JP,A)
【文献】 特開2008−185058(JP,A)
【文献】 特開平11−280950(JP,A)
【文献】 特開2000−265539(JP,A)
【文献】 特開2012−184811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/00
F16L 55/18
F16L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が流れる既設管路において、所定の補修区間よりも上流側の位置に止水装置を設置して前記管路内の水を堰き止める止水工程と、
前記止水装置の止水位置から前記補修区間を通ってその下流側の位置まで排水ホースを設置するホース設置工程と、
前記止水装置によって堰き止められた水を、前記補修区間内に設置された前記排水ホースにより下流側に排出しつつ、前記補修区間において前記管路の内面全周を内張り材で被覆する内張り工程を備え、
前記ホース設置工程において、前記補修区間内に前記管路の長さ方向に移動可能な2つのホース支持装置を設置し、前記排水ホースが前記管路の下部から離れるように前記2つのホース支持装置により前記排水ホースの一部分を持ち上げて支持し、
前記内張り工程において、前記2つのホース支持装置を前記管路の長さ方向に移動させつつ、前記2つのホース支持装置によって持ち上げられている前記排水ホースの一部分の直下の前記管路内面を内張り材で被覆することにより、前記補修区間の長さ方向全域にわたって前記管路下部の内張りを行うことを特徴とする管路の補修方法。
【請求項2】
前記止水工程において、前記補修区間よりも下流側の位置にも前記止水装置を設置することを特徴とする請求項1に記載の管路の補修方法。
【請求項3】
前記ホース支持装置は、前記管路内面を走行する複数の車輪を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の管路の補修方法。
【請求項4】
前記ホース支持装置は、支持フレームと、この支持フレームに回転自在に支持され、前記排水ホースが載せられる複数のローラを有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の管路の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道管等の水が流れる既設管路の内面を補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、老朽化した既設管路の内面を内張り材で被覆して補修することが行われている。ここで、補修対象となる既設管路が下水道管等の水の流れる管路である場合に、作業者が補修作業を行う空間に水が流れ込む環境では、作業性が非常に悪くなる。そこで、作業空間に水が流れ込まない工法として、例えば、本願出願人は以下のような工法を提案している。
【0003】
特許文献1では、管路内の、補修作業を行う区間の上流側と下流側の位置にそれぞれ堰を設置し、この補修区間に水が入り込まないように堰き止めている。同時に、補修区間よりも上流側と下流側を地上に設置された排水ホースによって接続し、同じく地上に設置されたポンプによって、補修区間の上流側で堰き止められた水を下流側に排出する。これにより、管路内の水の流れを止めることなく、補修区間内を水の存在しないドライな環境に保つことができる。
【0004】
特許文献2では、管路内の補修区間の上流側に、弁機能を備えた止水プラグを設置して管路内の水を堰き止めた状態で、この止水プラグの下流側の端部に筒体を取り付ける。この筒体の取り付け後に止水プラグを閉状態から開状態にすることで、止水プラグよりも上流側の水が、止水プラグの下流端部に取り付けられた筒体の内部を通って補修区間を下流側に流れていく。このとき、筒体と管路の内面との間には、水の存在しない隔離空間(隔離領域)が形成される。そして、この隔離空間において筒状の内張り材(ライニングユニット)を組み立てるとともに、下流側に順次移動させて互いに連結することにより、補修区間の全長にわたる内張り構造を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3855096号公報(図10
【特許文献2】特開2001−82673号公報(図14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、補修区間内で管路内面の補修を行っている間、補修区間の上流側で堰き止められた水を、地上に設置された排水ホースやポンプによって、補修区間の下流側に送っていることから、地上の道路等を長時間専有することになり、交通の妨げとなる。
【0007】
また、特許文献2では、止水プラグに筒体を取り付けてこの筒体内に水を通すことで、筒体の外側に水から隔離された空間を確保している。しかし、実際に作業する空間が水から隔離されるとしても、筒体から先では水が流れ続けていることから、補修空間の大部分は水が存在するウェットな環境となり、作業性がよいとは言えない。また、内張り材の組立を行う、筒体外側の隔離空間はかなり狭い空間であるために、この隔離空間における組立作業そのものの作業性も悪い。さらに、特に下水道管においては、下水に混入した異物が上流から流れてくることがあり、このような異物が補修区間内を流れていると、異物が補修作業の邪魔になるなど作業に支障が出る。
【0008】
そこで、上述した問題点を解決するために、本願出願人は、補修区間の上流側において水を堰き止めるとともに、上流側から下流側へ水を送る排水ホースを、特許文献1のように地上に設置するのではなく、管路の補修区間内に通して排水する工法を検討している。ところで、補修区間内に排水ホースを通した場合に、この排水ホースは、補修区間の全長にわたって管路の下部に載置されることになる。一方で、管路の補修は、内面全周で行うのが普通であり、排水ホースと接する管路の下部の内張りを行うには排水ホースを持ち上げて管路内面から離す必要がある。しかし、排水ホースは、上流側に堰き止められる水を下流側に速やかに排水できるように、比較的大径のホースを使用することが求められ、さらに、その内部を水が流れている状態では重量はかなり大きなものとなる。そのため、排水ホースを持ち上げながら管路の下部を補修することは、大変な労力を要する作業となる。
【0009】
本発明の目的は、補修区間の上流側に堰き止められた水を下流側に排出する排水ホースを補修区間内に通しつつも、補修区間において管路の内面全周の内張りを容易に行うことができる、管路の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
第1の発明の管路の補修方法は、水が流れる既設管路において、所定の補修区間よりも上流側の位置に止水装置を設置して前記管路内の水を堰き止める止水工程と、前記止水装置の止水位置から前記補修区間を通ってその下流側の位置まで排水ホースを設置するホース設置工程と、前記止水装置によって堰き止められた水を、前記補修区間内に設置された前記排水ホースにより下流側に排出しつつ、前記補修区間において前記管路の内面全周を内張り材で被覆する内張り工程を備え、
前記ホース設置工程において、前記補修区間内に前記管路の長さ方向に移動可能な2つのホース支持装置を設置し、前記排水ホースが前記管路の下部から離れるように前記2つのホース支持装置により前記排水ホースの一部分を持ち上げて支持し、前記内張り工程において、前記2つのホース支持装置を前記管路の長さ方向に移動させつつ、前記2つのホース支持装置によって持ち上げられている前記排水ホースの一部分の直下の前記管路内面を内張り材で被覆することにより、前記補修区間の長さ方向全域にわたって前記管路下部の内張りを行うことを特徴とするものである。

【0011】
本発明によれば、まず、管路内の所定の補修区間よりも上流側において止水装置を設置して水を堰き止めた後に、排水ホースを止水位置から補修区間を通ってその下流側の位置まで設置する。そして、上流側において堰き止められた水を、補修区間内に設置された排水ホースによって下流側に排出しながら、補修区間内の管路内面を内張り材で被覆する。これによれば、補修区間内が、水の存在しないドライな環境に保たれることから、内張り工程の作業性が向上する。
【0012】
また、本発明では、ホース支持装置によって排水ホースの一部を持ち上げ、このホース支持装置を管路の長さ方向に移動させて、ホースの持ち上げられる位置をずらしつつ、ホース支持装置によって持ち上げられた排水ホースの直下の管路内面の内張りを行う。これにより、補修区間の長さ方向全域にわたって、排水ホースが接する管路下部の内張りを容易に行うことができる。
【0013】
第2の発明の管路の補修方法は、前記第1の発明において、前記止水工程において、前記補修区間よりも下流側の位置にも前記止水装置を設置することを特徴とするものである。このように、補修区間よりも下流側の位置にも止水装置を設置することで、排水ホースによって下流側に送られた水が、補修区間に逆流してくることを確実に防止できる。
【0014】
第3の発明の管路の補修方法は、前記第1又は第2の発明において、前記ホース支持装置は、前記管路内面を走行する複数の車輪を備えていることを特徴とするものである。これによれば、ホース支持装置を管路の長さ方向に容易に移動させることができる。
【0015】
第4の発明の管路の補修方法は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記ホース支持装置は、支持フレームと、この支持フレームに回転自在に支持され、前記排水ホースが載せられる複数のローラを有することを特徴とするものである。これによれば、ホース支持装置が管路の長さ方向に移動する際に、排水ホースが載せられた複数のローラがそれぞれ転動するため、ホース支持装置を排水ホースに対して管路の長さ方向にスムーズに移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】補修済みの管路の、長さ方向を含む鉛直面に沿った断面図である。
図2図1に断面で示される筒状の内張り材を拡大した図であり、上半分は内張り材を内側から見た図、下半分は内張り材を外側から見た図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4図3のA部拡大図である。
図5図2の内張り材を構成する補強材を示す図である。
図6】内張り材を設置する直前の状態における管路の断面図である。
図7】止水装置の側面図である。
図8】支持台車を示す図であり、(a)は支持台車の側面図、(b)は支持台車が配された管路内を長さ方向から見た図である。
図9】管路下部に内張りを行っている途中状態における管路の断面図である。
図10】管路下部の内張りが完了した状態における管路の断面図である。
図11】補修後の管路の断面図である。
図12】変更形態に係る、内張りを行っている途中状態における管路の断面図である。
図13】別の変更形態の支持台車の図8(b)相当図である。
図14】さらに別の変更形態の、内張り材を設置する直前状態における管路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、地中に埋設された既設の下水道管(以下、既設管路、あるいは、単に管路ともいう)の内面を内張り材で被覆して補修する場合に、本発明を適用した一例である。図1は、補修がなされた下水道管の、管路長さ方向を含む鉛直面に沿った断面図である。本実施形態では、管径が1.5m〜2m程度の大径の下水道管を対象としており、図1に示される、マンホールHから管路P内に各種部材を搬入して内張り材1を組立て、管路P内の所定の補修区間において、内張り材1により管路Pの内面全周を被覆することによって補修を行う。
【0018】
まず、内張り材1の構造について説明する。図2は、図1に断面で示される筒状の内張り材を拡大した図であり、上半分は内張り材を内側から見た図、下半分は内張り材を外側から見た図である。また、図3は、図2のIII-III線断面図、図4は、図3のA部拡大図である。尚、後述するように、内張り材1が設置された後に、管路Pの内面と内張り材1の外面との間に硬化性充填材が充填されるのであるが(図11参照)、図2はその硬化性充填材が充填される前の状態(管路P内に内張り材1が設置された直後の状態)を示している。図2図4に示すように、内張り材1は、管路Pの長さ方向に沿って複数配設されたリング状の補強材2と、補強材2の内側に取り付けられた内面部材3とを有する。
【0019】
図5は、図2の内張り材1を構成する補強材2を示す図である。図3に示すように、リング状の補強材2は、図3における、管路Pの内面の左側部、右側部、及び、下部に沿ってそれぞれ配される3つの補強部材2a,2b,2cからなり、これら3つの補強部材2a〜2cは、図5に示される結合部材11によって周方向に連結されている。尚、補強部材2a〜2cは、それぞれ、炭素鋼、ステンレス鋼、硬質合成樹脂等の剛性の高い材料で形成されている。また、図2図5に示すように、複数のリング状の補強材2が管路Pの長さ方向に互いに間隔を空けて配設されるとともに、互いに隣り合う補強材2同士がパイプ状の複数の連結部材12によって連結されている。これにより、複数のリング状補強材2が一体化されて筒状の補強枠体を構成している。
【0020】
図3図4に示すように、補強材2(円弧状の補強部材2a〜2c)の内側には、複数の凹部13が周方向に間隔を空けて形成され、これら複数の凹部13には複数の嵌合部材4がそれぞれ嵌合されている。さらに、補強材2の内面には複数の内面部材3が周方向に並べて配されており、図4のように、1つの嵌合部材4に、周方向に隣接する2つの内面部材3の端部が接した状態で嵌合することで、複数の内面部材3が補強材2の内面に固定されている。
【0021】
尚、嵌合部材4及び内面部材3の材質は、耐腐食性に優れ、軽量で施工性にも優れ、かつコストも安価なポリエチレン樹脂をはじめとするオレフィン系等の熱可塑性樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂とすることが好ましいが、より強度の高い繊維強化プラスチック、難燃性を有する熱可塑性樹脂、ステンレス鋼をはじめとする金属とすることもできる。
【0022】
また、内面部材3、及び、この内面部材3を補強材2に取り付ける嵌合部材4は、それぞれ管路Pの長さ方向に複数本連結されており、これによって内面部材3が補修区間の全長にわたって管路Pの内面を覆うようになっている。複数の内面部材3や嵌合部材4を管路Pの長さ方向に連結する方法の詳細については説明を省略するが、例えば、特開2002−310378号公報や特開2009−14092号公報に記載されているように、1つの連結材の両端部に、2つの内面部材3(嵌合部材4)の端部をそれぞれ挿入して両者を連結する方法を採用することができる。
【0023】
次に、上記内張り材1を用いた管路Pの補修方法について説明する。図6は、管路P内に内張り材1を設置する直前の状態を示す図である。図6に示すように、まず、マンホールHから管路P内へ止水装置20を搬入して、この止水装置20を管路P内の補修区間よりも上流側の位置に設置し、管路P内の水を堰き止める(止水工程)。さらに、止水装置20に排水ホース22を接続するとともに、この排水ホース22を、管路P内の補修区間を通ってその下流側の位置まで設置する(ホース設置工程)。
【0024】
止水装置20は、管路Pの止水を行うだけでなく、これに接続される排水ホース22によって上流側に堰き止めた水を下流側に排出することが可能に構成されている必要がある。例えば、止水装置20が、管路P内の下部を塞ぐ堰のような簡単な構造であって、その堰の上を乗り越えるように排水ホース22が設置されてもよい。但し、この場合には、上流側の水量が多くなったときには、堰を越えて補修区間内に水が浸入する虞があることから、管路P内を完全に封止できる構造のものを採用することが好ましい。
【0025】
例えば、図7に示すように、小径部30aと大径部30bとを有する異径筒状袋体30にパイプ31が挿通され、両端部の小径部30aにおいて袋体30がパイプ31に固定されたものを使用できる。この図7の止水装置20を用いる場合には、異径筒状袋体30内に流体を注入して大径部30bを膨張させ、管路Pの内面に密着させることにより、管路Pの止水を行う。また、パイプ31の一端部に排水ホース22を接続することにより、袋体30による止水状態を維持しつつ、袋体30の他端側に堰き止められている水をパイプ31を通して排水ホース22に流すことができる。
【0026】
あるいは、止水装置20が、排水ホース22に挿通(貫通)されるものであってもよい。この場合には、排水ホース22が挿通される挿通孔と排水ホース22との間に、水が漏れ出すことを防止するためのシール部材が設けられる。
【0027】
尚、下水道管Pの補修作業は、通常、降水量が少なく、流れる下水量が少ない時期に行うのが一般的であるが、水量が想定よりも多少増えても十分に対応できるように、余裕を見て排水ホース22は大径のものを選定する。具体的には、200〜500mmの径のものを使用することが好ましい。
【0028】
そして、止水装置20によって堰き止められた、補修区間よりも上流側に堰き止められた水を、補修区間内に設置された排水ホース22によって、補修区間よりも下流側に排出する。尚、図6に示すように、補修区間よりも下流側の位置においても止水装置21を設置してもよい。下流側に設置する止水装置21としては、上流側の止水装置20と同じ構造のものを使用できるが、必ずしも同じ構造とする必要はない。このように、下流側にも止水装置21を設置する場合には、補修区間内を通した排水ホース22を下流側止水装置21に接続し(あるいは、挿通し)、補修区間の上流側に設置された止水装置20によって堰き止められた水を、排水ホース22によって、下流側に設置された止水装置21よりもさらに下流に排出する。このように、下流側にも止水装置21を設置することにより、排水ホース22によって補修区間の下流側に送られた水が、補修区間に逆流することを確実に防止できる。
【0029】
上記のように、補修区間上流側の水を、補修区間内に設置された排水ホース22によって下流側に排出することによって、補修区間内は水が存在しないドライの作業環境に保たれる。この状態で、上述した内張り材1を補修区間内に設置し、管路Pの内面を被覆する(内張り工程)。
【0030】
ところで、補修区間内を通された排水ホース22は、管路Pの下部に載置されるが、管路Pの補修(内張り)はその内面全周について行うため、管路Pの下部の補修については、排水ホース22を持ち上げながら行う必要がある。しかし、上述したように排水ホース22そのものが大径である上、その内部を水が流れているため、排水ホース22はかなり重量の大きなものとなっており、このような排水ホース22を持ち上げながら補修作業を行うことは容易ではない。
【0031】
そこで、本実施形態においては、図6に示すように、ホース設置工程において、管路Pの長さ方向に走行可能な2つの支持台車23(ホース支持装置)を設置し、これら2つの支持台車23によって排水ホース22の一部分を持ち上げて、管路Pの下部から離した状態で、管路Pの下部の内張りを行う。
【0032】
図8は、支持台車23を示す図であり、(a)は支持台車23の側面図、(b)は支持台車23が配された管路P内を長さ方向から見た図である。図8に示すように、支持台車23は、支持フレーム24と、この支持フレーム24の下端部に設けられた4つの車輪26と、支持フレーム24の上部に回転自在に支持された6つのローラ25とを有する。4つの車輪26は管路Pの下部内面を走行可能であり、支持台車23が管路P内をその長さ方向に容易に移動できるようになっている。また、自由回転する6つのローラ25の上に排水ホース22が載せられて支持される。さらに、支持フレーム24には、支持台車23の走行方向と平行な2枚の規制板27が6つのローラ25よりも上方に突出して設けられており、ローラ25に載せられた排水ホース22が2枚の規制板27の間に挟まれることで、排水ホース22が支持台車23から落下することが防止される。
【0033】
また、図6に示すように、支持台車23にはワイヤ33が連結されており、このワイヤ33が地上に設置された巻上げ機34で巻上げられることにより、支持台車23がワイヤ33で牽引されて図中右側から左側へ走行するようになっている。また、図6では、2つの支持台車23がワイヤ等の連結部材35によって連結され、2つの支持台車23が一体的に走行するようになっている。尚、2つの支持台車23にそれぞれワイヤ33を連結して個別に牽引し、2つの支持台車23を別々に走行させるようにしてもよい。
【0034】
このように、2つの支持台車23によって排水ホース22の一部分が持ち上げられた状態で、前記一部分の直下の、管路Pの下部の内面を内張り材1で被覆する。図3で説明したように、本実施形態の内張り材1は、3つの円弧状補強部材2a〜2cからなる補強材2を有する。そして、排水ホース22の一部分が持ち上げられて管路P内面から離れた状態で、図8(b)に示すように、その直下の位置において、管路Pの下部の内面に円弧状補強部材2cを管路Pの長さ方向(図8(b)の紙面直交方向)に間隔を空けて複数設置する。尚、図8(b)から明らかなように、管路Pの下部の内面に対応する補強部材2cの円弧長さは、この補強部材2cを支持台車23の両側の車輪26の間に通すことができるような長さに設定される。さらに、管路Pの長さ方向に並べて配された複数の補強部材2cを連結するとともに、これら補強部材2cに嵌合部材4、及び、内面部材3を取り付けて管路Pの下部の内張りを完了する。尚、内張り作業中に支持台車23が勝手に移動しないように、支持台車23に車輪止めを取り付けておくことが好ましい。
【0035】
排水ホース22の持ち上げられている部分の直下における管路Pの内面の内張りが完了すると、図9に示すように、巻上げ機34でワイヤ33を巻き上げることによって、2つの支持台車23を管路Pの長さ方向(図中左方)に牽引して、次に内張りを行う位置まで走行させる。このとき、排水ホース22が、支持台車23の6つのローラ25に載せられているため、支持台車23が管路Pの長さ方向に走行する際の、支持台車23の間の排水ホース22に対する抵抗が軽減されている。そのため、排水ホース22に対して支持台車23を管路Pの長さ方向にスムーズに移動させて、持ち上げる位置を簡単にずらすことができる。そして、支持台車23が新しく移動した位置において排水ホース22の直下の管路内面の内張りを行う。
【0036】
即ち、図9のように、支持台車23を管路Pの長さ方向に移動させて、排水ホース22が持ち上げられる位置をずらしつつ、その持ち上げられている排水ホース22の一部分の直下の管路P内面を被覆していくことで、図10に示すように、補修区間の長さ方向全域にわたって管路Pの下部の内張りを行う。
【0037】
その後、管路Pの内面の、排水ホース22と接する管路下部以外の部分についても内張りを行う。即ち、図3に示されるリング状補強材2を構成する3つの円弧状補強部材2a〜2cのうちの、残り2つの補強部材2a,2bを管路Pの上部の左右にそれぞれ沿うように設置して、管路Pの下部に設置済みの補強部材2cと連結する。また、補強部材2a,2bも、補強部材2cと同様に、管路Pの長さ方向に間隔を空けて複数設置し互いに連結する。さらに、これら補強部材2a,2bに、嵌合部材4、及び、内面部材3を取り付ける。これにより、図1図3のように、補修区間において、管路P内面の全周に沿って筒状の内張り材1が配置される。さらに、内張り材1と管路Pの内面の間に硬化性充填材100を充填して硬化させる。図11は、補修後の管路Pの断面図である。尚、硬化性充填材100としては、セメントミルク、モルタル、コンクリート等のセメント系材料や、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を好適に使用できる。また、硬化性充填材100の充填は、補修区間の端部に妻型枠を設置して行ってもよいし、内面部材3に充填口を設けることによって行ってもよい。
【0038】
以上説明した本実施形態の管路Pの補修方法によれば、補修区間の上流側に堰き止められた水を下流側に排出する排水ホース22を、補修区間内に設置することから、地上に排水ホースを引き回す場合のように、地上の交通を妨げるといった問題は生じない。その一方で、補修区間内が、水の存在しないドライな環境に保たれることから、内張り工程の作業性が向上する。
【0039】
また、支持台車23によって排水ホース22の一部分を持ち上げながら、支持台車23を管路Pの長さ方向に移動させつつ、支持台車23によって持ち上げられた排水ホース22の直下の管路内面の内張りを行う。即ち、排水ホース22を持ち上げる位置を変更しつつ、その持ち上げられた排水ホース22の直下の内張りを行うことによって、補修区間の長さ方向全域にわたって、排水ホース22と接する管路Pの下部の内張りを容易に行うことができる。
【0040】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0041】
1]前記実施形態では、図9図10に示すように、補修区間の長さ方向全域にわたって、管路Pの下部の内張りを行ってから、下部以外の部分についての内張りを行う例を挙げた。しかし、図12に示すように、支持台車23によって排水ホース22を持ち上げて、管路Pの下部の内張り作業を行いつつ、下部の内張りが完了した後方区間において、この下部以外の部分についての内張り作業を同時に進行させてもよい。
【0042】
2]支持台車23の数は前記実施形態の2つに限られるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。即ち、この台車23の数は、管路下部の内張り作業を行うために1回に持ち上げる排水ホースの長さに応じて、適宜変更すればよい。
【0043】
3]前記実施形態では、支持台車23をワイヤ33で牽引することにより管路Pの長さ方向に移動させていたが(図9)、支持台車23が、車輪26を駆動するモータ等の駆動源を備えており、管路P内を自走できるように構成されていてもよい。
【0044】
4]図13に示すように、支持台車23が、2以上の複数本の排水ホース22を支持可能に構成された上で、補修区間内に複数本の排水ホース22を同時に設置してもよい。この場合、管路P内の水が少量であるときには1本の排水ホース22のみを使用し、上流側の水量が多くなった場合には他の排水ホース22も同時に使用することで、作業中に水量が急激に増えた場合でも速やかに対応することができる。あるいは、複数本の排水ホース22のうち、使用していない一部のホースを予備としておくことで、使用中の排水ホース22に損傷等が生じて突然使用不能になった場合でも、予備のホースに切り換えることで補修作業を継続して行うことができる。
【0045】
5]下水道管は上流から下流に向けて水が自然に流れるように、長さ方向に若干傾斜がつけられているのが普通である。従って、上流において豪雨が発生した場合など、水量がかなり多い場合を除けば、排水ホース22によって補修区間の下流側に排出した水が補修区間に逆流してくる可能性は低く、また、逆流したとしてもその水量は少量である。そこで、補修区間の下流側の止水装置21は省略してもよい。あるいは、設けるとしても、下流側の止水装置21は、上流側の止水装置20ほど高い止水性は必要ないため、前記実施形態で挙げた止水装置(例えば図7)と同じ構造を採用する必要はなく、図14に示すように、堰程度の簡単な構造のものであってもよい。
【0046】
尚、以上の説明では、既設管路としての下水道管に本発明を適用した場合を例に挙げたが、本発明の適用対象は下水道管に限られるものではなく、管路内を水が流れるものであれば、他の既設管路(例えば、上水道管や農業用水管など)にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 内張り材
20,21 止水装置
22 排水ホース
23 支持台車
24 支持フレーム
25 ローラ
26 車輪
P 管路
図1
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