(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記浄化槽部が汚水処理室と、該汚水処理室の上流側に位置する沈殿室と、貯水槽部から給水を受けるための給水弁とを具備し、通常時において補助貯水槽として機能するとともに、災害時において、貯水槽部より給水を受けて汚物処理施設として機能することを特徴とする、請求項1に記載の災害用中下水処理施設。
前記貯水槽部は、流入管を通じて雨水が流入する流入槽と、該流入槽の下流側で溢流壁を間に挟んで該流入槽と隣接した流出槽とを有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の災害用中下水処理施設。
前記流出槽の一部に、雨水の流出を抑制して該流出槽内に雨水を一時的に貯留する流出抑制手段を設けたことを特徴とする、請求項3又は4に記載の災害用中下水処理施設。
プレキャストコンクリート、場所打ちコンクリート、又はこれらを併用して前記貯水槽部及び浄化槽部を一体に形成したことを特徴とする、請求項1乃至5の何れか一項に記載の災害用中下水処理施設。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の貯水施設と簡易トイレにはそれぞれつぎのような課題がある。
<1>従来の貯水施設は水を貯留するための専用施設であって、汚物の処理機能を有しておらず、汚物の処理に転用することができない。
<2>従来の貯水施設は、貯留水の移動性が悪いために雑菌が繁殖し易く、衛生面で問題がある。
衛生面に配慮して電気式の浄水装置を具備した貯水施設も提案されているが、その稼働に専用電源を必要とするだけでなく、電源を失うとまったく機能しなくなるといった問題がある。
<3>簡易トイレはタンクの容量が小さいために、頻繁に汚物を回収し、空になったタンク内に薬剤等を投入セットしなければならず、簡易トイレの維持管理が面倒である。
殊に、避難期間が長期化するほど、簡易トイレの維持管理の負担が大きくなる。
<4>大規模地震が予測される現在、大勢の避難者が長期間に亘って生活し得る避難環境の拡充が切望されている。特に電源や水道を喪失した場合でも大勢の避難者に対応可能な汚物処理施設の開発が喫緊の課題となっている。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは通常時においては雨水の貯留又は流出抑制施設として機能し、災害時においては汚物処理施設として機能する複合的な災害用中下水処理施設を提供することにある。
さらに本発明の他の目的は、豪雨時において雨水の貯留量を増大できる災害用中下水処理施設を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、地中に埋設しておき、通常時において雨水の貯留又は流出抑制施設として機能し、災害時において汚物処理施設として機能する災害用中下水処理施設であって、雨水の貯留又は流出抑制をする貯水槽部と、該貯水槽部の一部に隣接して形成し、災害時に前記貯水槽部より給水を受けて汚物処理施設として機能する浄化槽部とを具備し、貯水槽部内の雨水を浄化槽部内へ給水可能なように、前記貯水槽部と浄化槽部の間を遮水する壁の一部に手動式で常時閉式の給水弁を設け、前記貯水槽部内の雨水を浄化槽部内へ流出入可能なように、前記貯水槽部と浄化槽部の間を、手動式で常時開式の排出弁付きの連通路で接続し、前記給水弁及び排出弁の弁操作により、前記浄化槽部を補助貯水槽、又は汚物処理施設に切り替え可能に構成したことを特徴とする。
【0007】
前記浄化槽部は汚水処理室と、該汚水処理室の上流側に位置する沈殿室と、貯水槽部から給水を受けるための給水弁とを具備し、通常時において補助貯水槽として機能するとともに、災害時において、貯水槽部より給水を受けて汚物処理施設として機能する。
前記貯水槽部は、流入管を通じて雨水が流入する流入槽と、該流入槽の下流側で溢流壁を間に挟んで該流入槽と隣接した流出槽とを有する。
前記流入槽の一部に
流入方向に対して直交する方向へ向けて単数又は複数の垂下壁を垂下して設けると流入槽内を流れる雨水を撹拌して、雑菌の繁殖や水の腐食を効果的に防止できる。
又、前記流出槽の一部に、雨水の流出を抑制して該流出槽内に雨水を一時的に貯留する流出抑制手段を設けて、流出槽に貯水し得るようにすると、貯水槽部全体の貯留水量が大幅に増大する。
災害用中下水処理施設を構成する前記貯水槽部及び浄化槽部は、プレキャストコンクリート、場所打ちコンクリート、又はこれらを併用して一体に形成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る災害用中下水処理施設は通常時においては雨水の貯留又は流出抑制施設として活用できるとともに、災害時においては大量の汚物を長期間に亘って処理可能な汚物処理施設として有効活用をすることができる。
殊に、貯水槽部を浄化槽部に隣接させたことで、浄化槽部へ大量の給水が可能となるため、電源や水道を喪失した場合でも大勢の避難者から生じる大量の汚物を長期間に亘って処理することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
[構成]
まず本発明に係る災害用中下水処理施設10(以下「処理施設10」という)の構成について説明する。
説明に際し、水の流れに対し供給側を「上流側」、排出側を「下流側」と定義して説明する。
【0012】
<1>処理施設の概要
図1に本発明に係る処理施設10の全体図を示し、
図2にその平面概要図を示し、
図3,4に処理施設10の縦断面図を示し、
図5〜7に処理施設10の横断面図を示す。
【0013】
図1,2に示すように、本発明に係る処理施設10は、雨水Aを貯留する貯水槽部20と、該貯水槽部20の一部に隣接して形成し、災害時に前記貯水槽部20より給水を受けて浄化槽として機能する浄化槽部30とを具備する。
【0014】
本例では処理施設10を複数のプレキャストコンクリートで形成する場合について示すが、場所打ちコンクリート、又はこれらを併用して形成してもよい。
処理施設10を複数のボックスカルバートで構成する場合には、処理施設を複数に区割りし、各区に応じて各ボックスカルバートの内部に後述する各種の壁体を予め一体に形成してユニット化しておくと施工性の面で優れる。要は貯水槽部20と浄化槽部30が一体構造であればよい。
以下に本例で示した処理施設10について詳述する。
【0015】
<2>貯水槽部
図1,2を参照して説明すると、貯水槽部20は、雨水Aを取り込んで貯水する流入槽21と、該流入槽21の下流側で溢流壁22を間に挟んで該流入槽21と隣接して形成した流出槽23とを有する。
流入槽21と流出槽23の容積は貯水量等を考慮して適宜選択可能である。
【0016】
流入槽21の上流側の壁面には雨水Aの流入管11が接続し、流出槽23の下流側の壁面には排水管12が接続している。
流入槽21の上流側と浄化槽部30との間は共有壁26で空間が遮断され、流入槽21の下流側と流出槽23との間は溢流壁22の上方空間を通じて連通構造となっている。
【0017】
本例では貯水槽部20の平面形状が鉤形(L字形)を呈する場合について示すが、流入槽21の一部に浄化槽部30が隣接した形態であれば、貯水槽部20の平面形状は図示した形態に限定されず、任意の形状を適用できる。
【0018】
<2.1>流入槽
図2,3に示すように、流入槽21は常時一定量の雨水Aを貯留するための貯水槽であり、流入槽21の上流側は共有壁26を間に挟んで浄化槽部30と隣接し、流入槽21の下流側は溢流壁22を間に挟んで流出槽23と隣接する。
流入槽21の底面には、槽の横断方向へ向けて複数の突条21aが並設してあって、水流を乱すことで砂等の異物の沈殿をし難くしている。
【0019】
<2.1.1>共有壁
図2,5に示すように、共有壁26は流入槽21の上流側と浄化槽部30との間を遮水する共有の仕切壁である。
【0020】
<2.1.2>垂下壁
図2,3に示すように、流入槽21の一部には、槽の横断方向へ向けた単数又は複数の垂下壁25が垂下していて、該垂下壁25の下端と槽底面との間に通水が可能な隙間を形成している。
垂下壁25は流入槽21内を流れる雨水Aを撹拌して、雑菌の繁殖や水の腐食を防止するためと、垂下壁25の下端の隙間から雨水Aを下入れして上出しすることにより、雨水Aの入れ替えをするために機能する。
【0021】
<2.1.3>溢流壁
図2,4,6に示すように、流入槽21の下流側と流出槽23との境界部には溢流壁22が立設してある。
溢流壁22は流入槽21内に雨水Aを貯留するための壁体で、最大で溢流壁22の起立高さまでの貯水が可能である。
【0022】
溢流壁22の一部には、常時閉式の連通弁V
2が設けてあり、連通弁V
2を開弁することで、流入槽21内の異物を流出槽23へ排出可能である。
【0023】
<2.2>流出槽
流出槽23は流入槽21と協働して雨水Aの貯留、又は流出を抑制する機能と、浄化槽部30から放出される汚水の排水路としての機能を併有する。
【0024】
図2,4に示すように、流出槽23の一側は溢流壁22を隔てて流入槽21と隣接し、流出槽23の上流側は浄化槽部30と隣接している。
流出槽23の最下流側の壁面に排水管12が接続している。
【0025】
<2.2.1>雨水の流出抑制手段
図2,4,10に示すように、流出槽23の下流側には、雨水Aの流出を抑制して雨水Aを一時的に貯留する雨水Aの流出抑制手段が設けられている。
本例では流出抑制手段を、流出槽23の下流側の底面に槽の横断方向に沿って溢流壁22とほぼ同じ高さに立設した堰壁27と、堰壁27の下部に開設した雨水Aの流出抑制機能(オリフィス)を有する小口径の導口27aとにより構成する場合について示す。
【0026】
<2.2.2>他の流出抑制手段
他の雨水Aの流出抑制手段としては、ハイドロブレーキ等の名称で知られている公知のボルテックスバルブを適用してもよい。
このボルテックスバルブは、水量が多いときに増大した流速によりバルブ内に旋回流(渦流)を生成して、円周面に沿った領域でしか流れなくなることで流量を規制し、反対に流量が少ないときには旋回流を生成せずに直線流として流量規制がなくなる構造を有する。
ボルテックスバルブの適用にあたっては、前記堰壁27の一部に設けるか、或いは堰壁27を省略して排水管12の端部に直接設ける。
【0027】
<3>浄化槽部
図2,4,7を参照して説明すると、浄化槽部30は、共有壁26を間に挟んで流出槽23の上流側に隣接した汚水処理室33と、汚水処理室33の上流側に位置する沈殿室36と、貯水槽部20から給水を受けるための常時閉式の給水弁V
1とを具備している。
【0028】
沈殿室36と流出槽23との間は常時開式の排出弁V
3付きの連通路37を通じて連通可能に接続されているとともに、汚水処理室33と沈殿室36との間は常時開式の補助排出弁V
4を通じて連通している。
【0029】
浄化槽部30は、通常時等において流出槽23より給水を受けることで補助貯水槽として機能し、災害時において貯水槽部20より給水を受けることではじめて浄化槽として機能する。
【0030】
<3.1>汚水処理室
図7を基に詳しく説明すると、汚水処理室33は浄化槽部30の底面に槽の横断方向へ向けて立設した一対の起立壁31,32で区画されていて、上方が開放されている。
【0031】
<3.1.1>起立壁の起立高さ
汚水処理室33の下流側の起立壁32の起立高さは、上流側の起立壁31より低くなっている。
汚水処理室33の起立壁31,32に高低差を設けたのは、汚水処理室33内で水頭差を生じさせて汚水を上流側から下流側へ向けて自然に流下させるためである。
【0032】
<3.1.2>垂下壁
汚水処理室33内には、槽の横断方向へ向けて単数又は複数の垂下壁35を垂下していて、沈殿室36を経て汚水処理室33内へ流入した汚水が汚水処理室33内に収容した固形又は液状の塩素剤等の消毒剤34との接触時間を長く確保できるようになっている。
【0033】
<3.1.3>他の浄化方式
汚水処理室33の構成は本例に限定されず、上記した以外に、公知の分離接触方式、嫌気ろ床接触方式、標準活性汚泥方式等を適用できる。
要は無電源であっても浄化槽部30で汚水の消毒処理又は浄化処理ができればよく、浄化原理や浄化構造については特に制約を受けず、公知の消毒方式又は浄化方式が適用可能である。
【0034】
<3.2>沈殿室
沈殿室36は豪雨時、又は通常時に貯水槽として機能し、災害時に浄化槽として機能する兼用貯槽である。
沈殿室36の底面にコンクリートを場所打ちする等してその上流側から下流側へ向けて下り勾配をつけておくことが望ましい。
【0035】
<3.2.1>連通路
汚水処理室33を構成する起立壁31,32の間には連通路37が形成してあって、連通路37を通じて沈殿室36と流出槽23の間が連通可能となっている。
沈殿室36と流出槽23との間を連通構造としたのは、流出槽23から雨水を流入させて浄化槽部30を補助貯水槽として機能させるためである。
【0036】
<3.2.2>排出弁
連通路37の一端には常時開式の排出弁V
3が設けてある。排出弁V
3は通常は開弁して沈殿室36と流出槽23の間の連通状態を維持し、災害時に浄化槽として用いるときは地上側から制御杆18を操作して手動で閉弁し得るようになっている。
【0037】
<3.2.3>補助排出弁
汚水処理室33を構成する上流側の起立壁31には常時開式の補助排出弁V
4が設けてあって、この補助排出弁V
4を通じて沈殿室36と汚水処理室33の間が連通した構造となっている。
沈殿室36と汚水処理室33の間を連通させるのは、流出槽23内の水を流入させて汚水処理室33を貯水槽として機能させるためと、清掃時に汚水処理室33内の汚水を一旦沈殿室36へ排出し、その後に連通路37を通じて流出槽23へ放出するためである。
このように補助排出弁V
4は、通常時は開弁していて沈殿室36と汚水処理室33のとの間を連通し、災害時に地上側から制御杆19を操作して手動で閉弁し得るようになっている。
尚、補助排出弁V
4は、必須ではなく省略する場合もある。
【0038】
<3.3>給水弁
共有壁26の一部には、災害時に流入槽21内の雨水Aを浄化槽部30内へ給水するための給水弁V
1を有している。
給水弁V
1は、通常時は閉弁していて流入槽21の上流側と浄化槽部30との間を遮断し、災害時に地上側から制御杆14を操作して手動で開弁し得る常時閉式の手動開閉弁である。
【0039】
給水弁V
1は双方向の流れを許容する開閉弁でもよいが、沈殿室36から流入槽21へ向けた逆流を防止する一方向弁(逆止弁)であることが望ましい。
給水弁V
1に逆止弁機能を付与するのは、開弁時に流入槽21内の雨水Aの汚染を防止するためであり、公知の一方向弁を適用することができる。
【0040】
<4>汚水管
図8に汚水管13の基端部を示す。
本例では汚水管13に簡易トイレ17を接続する場合について説明する。
地上近くまで延伸させた汚水管13には、複数の分岐管15を接続しておき、通常時に異物が入り込まないように分岐管15の上口を蓋16で閉鎖しておく。
災害時に処理施設10を浄化槽として利用するときに蓋16を取り外し、公知の可搬型の簡易トイレ17を据え付けて、各簡易トイレ17から発生する汚物を各分岐管15へ排出できるように接続する。
【0041】
<5>マンホール
図2,4に示すように、流出槽23及び浄化槽部30の上部にはマンホール40,41が設けてあって、地上から流出槽23、又は浄化槽部30内への出入りが可能である。
【0042】
尚、
図4において、給水弁V
1、排出弁V
3及び補助排出弁V
4に接続した各制御杆14,18,19はマンホール41から離隔した位置に設けてもよいが、マンホール41内に位置させることが望ましい。
【0043】
つぎに処理施設10を雨水の貯留又は流出抑制施設、若しくは汚物処理施設として使用する場合について説明する。
【0044】
[雨水の貯留又は流出抑制施設としての使用]
通常時において、処理施設10は以下に説明するように雨水Aの貯留、又は流出抑制施設として機能する。
【0045】
<1>流入槽における貯水
流入管11を通じて貯水槽部20の流入槽21内に流入した雨水Aは、流入槽21の上流側から下流側へ向けて流下する際、垂下壁25により強制的に撹拌されるとともに、底面に隆起して形成した複数の突条21aにより砂等の異物の沈殿が抑制される。
【0046】
雨水Aの流入に伴い流入槽21内の水位が上昇し、水位が溢流壁22の高さに達することで流入槽21内が満水となり、流入槽21内に定量の雨水Aが貯水される。
【0047】
<2>流出槽における貯水
流入槽21の水位が溢流壁22を越えると、流入槽21内の雨水Aが隣接する流出槽23へ流入する。
流出槽23内に流入する雨水Aの流入量が、導口27aを通じた放水量を越えた状態が続くと、流出槽23内に水位が徐々に上昇する。
雨水Aの流入に伴い水位が堰壁27の高さに達することで流出槽23内が満水となり、流出槽23内に定量の雨水Aが一時的に貯留される。
流出槽23内の水位が堰壁27を越えると、溢流した雨水Aが排水管12を通じて排水される。
【0048】
<3>浄化槽部における貯水
沈殿室36と流出槽23との間が開弁状態の排出弁V
3及び連通路37を介して連通構造となっている。
さらに、沈殿室36と汚水処理室33との間も開弁状態の補助排出弁V
4を介して連通構造となっている。
そのため、流出槽23内の水位が緩やかに上昇した場合には、流出槽23内の雨水Aが、連通路37を通じて沈殿室36へ流入した後、補助排出弁V
4を通じて沈殿室36から汚水処理室33内へ流入して、沈殿室36及び汚水処理室33内の水位が均等に上昇する。
このときの浄化槽部30における最大水位は、汚水処理室33の下流側の起立壁32の高さと等しくなる。
【0049】
集中豪雨等によって、流出槽23内の水位が急速に上昇した場合には、起立壁31,32を乗り越えて雨水Aが沈殿室36及び汚水処理室33内に浸水する。
このときの浄化槽部30における最大水位は、溢流壁22の起立壁32の高さと等しいか、或いはそれ以上となる。
このように、本発明に係る処理施設10では、貯水槽部20を構成する流入槽21及び流出槽23だけでなく、浄化槽部30においても定量の雨水Aを一時的に貯水することが可能である。
【0050】
<4>雨水の貯水量について
本発明に係る処理施設10は、最低でも流入槽21の容積分の雨水Aを常時貯水することができる。
処理施設10の最大貯水量は、貯水槽部20の貯水量に浄化槽部30の貯水量を加えた水量となる。
特に、集中豪雨時においては、浄化槽部30を補助貯水槽として大量の雨水Aの貯留、又は流出抑制を行うことが可能となって、処理施設10全体としての貯水容量が増大する。
【0051】
貯水槽部20内に貯留した雨水Aは、
図4に示すマンホール40等を通じて地上へ取水して各種用途に活用する。
【0052】
[汚物処理施設としての使用]
災害時において、処理施設10は以下に説明するように汚物処理施設としても機能する。
【0053】
<1>簡易トイレの設置
図8に示すように、汚水管13から分岐した各分岐管15の蓋16を取り外して、地上に簡易トイレ17を据え付け、各簡易トイレ17から分岐管15へ汚物の排出が可能なように接続する。
【0054】
<2>浄化槽部の準備作業
図4に示した制御杆18を地上から操作して排出弁V
3を閉弁して、沈殿室36と流出槽23との間を遮断する。
同様に制御杆19を地上から操作して補助排出弁V
4を閉弁操作して、沈殿室36と汚水処理室33のとの間を遮断する。
ドライ状態の汚水処理室33内には所定の消毒剤34をセットして汚物処理施設としての準備作業を完了する。
【0055】
<3>沈殿室への給水
地上から制御杆14を操作して共有壁26の給水弁V
1を開弁して、流入槽21内の雨水Aを沈殿室36内に給水する。
【0056】
補助排出弁V
4が閉弁しているので、流入槽21の水位と等しくなるまで沈殿室36内の水位が上昇する。
沈殿室36内の水位上昇が、沈殿室36に面した上流側の起立壁31を越えないときは、汚水処理室33内はドライ状態のままとなる。
又、沈殿室36内の水位上昇が、上流側の起立壁31を越えたときは、沈殿室36内の雨水Aが溢流して汚水処理室33内へ流入する。
【0057】
浄化槽部30への給水にあたり、貯水槽部20内に貯留してある大量の雨水Aを活用できるから、浄化槽部30を大容量に設計しても、電気を使わずに浄化槽として機能するだけの十分な給水が可能である。
【0058】
<4>沈殿室における汚物の貯留と固液分離
汚水管13を通じて供給された汚物は沈殿室36内で貯留され、貯留中に汚物が固液分離される。固形物は沈殿室36の底部に沈降する。
沈殿室36が大容積を有しているので、長期間に亘って大量の汚物の受け入れが可能である。
【0059】
<5>汚水処理室における消毒処理
汚物の供給に伴い沈殿室36内の水位が上昇する。
沈殿室36内における汚水の水位が、沈殿室36に面した上流側の起立壁31の高さを越えると、汚水の上澄み水が溢流して汚水処理室33内へ流入する。
【0060】
予め汚水処理室33内がドライ状態であるときは、上流側の起立壁31を溢流した汚水の上澄み水が流入することで、汚水処理室33内の水位が漸増して満水となり、それ以降は流入量と同量の水が汚水処理室33から流出槽23へ向けて溢水する。
又、予め汚水処理室33内が雨水Aで満水状態にあるときに、上流側の起立壁31を溢流した汚水の上澄み水が汚水処理室33内に流入すると、同様に流入量と同量の水が汚水処理室33から流出槽23へ向けて溢水する。
【0061】
汚水処理室33を通過する際、汚水の上澄み水が垂下壁35を経て汚水処理室33内を強制的に上下に撹拌されて自然に流下する。
汚水処理室33内を通過する際、汚水の上澄み水は塩素剤等の消毒剤34と接触して所定の消毒処理がなされる。
特に本発明では、汚水処理室33の上流側と下流側の水頭差を利用することで、電源を用いずに汚水の上澄み水を一方向へ向けて流下させることができる。
【0062】
<6>汚水の排水
消毒済みの上澄み水は、下流側の起立壁32を溢流して流出槽23へ順次自然排水される。
流出槽23へ排水された消毒済みの上澄み水は、堰壁27の導口27aと排水管12を通じて外部へ排水される。
【0063】
<7>汚物処理施設の特性
本発明に係る処理施設10を汚物処理施設として使用する場合は、電源を喪失した状況下において、給水弁V
1、排出弁V
3及び補助排出弁V
4の弁操作を行うだけの簡易な操作で以て浄化槽の準備作業を行えるだけでなく、さらに、汚物の浄化処理にあたり、浄化槽部30の沈殿室36内で貯留中の汚物を固液分離する工程、分離した汚水の上澄み水を汚水処理室33内へ供給する工程、汚水処理室33内で汚水の上澄み水を消毒する工程、消毒処理した上澄み水を排水する工程までの一連の浄化工程を、電源を用いず行うことができる。
【0064】
汚物は簡易トイレ17に貯留せずに、汚水管13を通じて浄化槽部30へ導入して浄化処理するので、簡易トイレ17の維持管理が容易となる。
【0065】
[他の実施例1]
以下図面を参照しながら本発明の他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0066】
以上は浄化槽部30の片側に流入槽21を形成した場合について説明したが、浄化槽部30の両側に流入槽21を形成してもよい。
浄化槽部30の両側に流入槽21を形成すると、浄化槽部30の両側から給水できるので、安定した給水と長期に亘る浄化が可能となる。
【0067】
[他の実施例2]
先の実施例では、貯水槽部20と浄化槽部30の各槽の内部空間の断面形状が略矩形を呈する場合について示したが、各槽の内部空間の断面形状はその他に多角形、円形、又は楕円形等であってもよく、形状的な制約は特にない。
【0068】
[他の実施例3]
本発明に係る処理施設10は、新規に構築してもよいが、既設の貯水槽部20を対象に浄化槽部30を一体化させて増設してもよい。
浄化槽部30を増設する場合は、既設の貯水槽部20を有効活できて、工事期間やコストの負担を軽減できる。
【0069】
[他の実施例4]
先の実施例では浄化槽部30と流出槽23の間を連通構造に形成する場合について説明したが、浄化槽部30と流出槽23の間を隔壁で遮断して、浄化槽部30を密封構造とする場合もある。
本例にあっては隔壁に常時閉式の開閉弁を設けておき、災害時にのみ開弁して浄化処理した水を流出槽23へ排水し得るようにする。
【0070】
[他の実施例5]
簡易トイレ17は処理施設10の真上に設置してもよい。
特に浄化槽部30の真上に簡易トイレ17を設けると、汚水管13の配管全長を短くできるといった利点がある。