(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912542
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】車体のパネル構造
(51)【国際特許分類】
B60J 5/10 20060101AFI20160414BHJP
B62D 25/02 20060101ALI20160414BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
B60J5/10 Z
B62D25/02 A
B62D29/04 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-2391(P2012-2391)
(22)【出願日】2012年1月10日
(65)【公開番号】特開2013-141877(P2013-141877A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(72)【発明者】
【氏名】志水 勝司
【審査官】
岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−023874(JP,A)
【文献】
特開2011−037378(JP,A)
【文献】
特開2000−264272(JP,A)
【文献】
特開平06−340221(JP,A)
【文献】
特開2011−148463(JP,A)
【文献】
特開2009−067167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00 − 5/10
B62D 25/02
B62D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金製のインナパネルと、樹脂製のアウタパネルとが接合された車体のパネル構造であって、
所定領域に集約して配設され前記インナパネルに前記アウタパネルを固定する固定部と、
前記インナパネルと前記アウタパネルとがスライド可能に接合された縁辺部と、
前記縁辺部に配設され前記インナパネルと前記アウタパネルとを液密にシールするシール部材と、を備え、
前記固定部は、前記インナパネル及び前記アウタパネルの中央部の領域に集約して配設されていることを特徴とする車体のパネル構造。
【請求項2】
前記シール部材は、前記縁辺部において、前記インナパネルと前記アウタパネルとをスライド可能に接合する軟性のシール部材であることを特徴とする請求項1に記載の車体のパネル構造。
【請求項3】
前記シール部材は、前記縁辺部において、前記インナパネル或いは前記アウタパネルの何れか一方に保持されて他方に摺接されていることを特徴とする請求項1に記載の車体のパネル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板金製のインナパネルと樹脂製のアウタパネルとが接合された車体のパネル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リヤゲートドア等を構成する各種車体パネルは、板金製のインナパネルと、アウタパネルとを有する。これらインナパネルとアウタパネルは、例えば、プレス成型等によって所望の形状に成型された後、これらを補剛するリンフォースメント等とともにヘミング結合や溶接等によって結合され、中空の閉断面構造をなす車体パネルを構成する。
【0003】
ところで、近年においては、車体表面の空気抵抗の改善や外観の向上等を目的として、アウタパネルを、造形の自由度の高い樹脂パネルによって構成することが検討されている。このように樹脂化したアウタパネルをインナパネルに対して結合するための技術として、例えば、特許文献1には、アウタパネル上の各部を、インナパネル(インナ部材)に対し、ボトルを介して締結固定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−247148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂製のアウタパネルは、板金製のインナパネルに比べ、気温の変化に伴う熱変形量(膨張収縮量)が大きい。従って、上述の特許文献1に開示された技術のように、アウタパネル上の各部をインナパネルに締結固定した場合、両者の熱変形量の差に起因して車体パネル上に歪み等が発生する虞がある。特に、リヤゲートドア等のような大型の車体パネルにおいては、アウタパネル側とインナパネル側との間のトータルとしての熱変形量の差が大きくなるため、車体パネル上の歪み等が無視できないレベルとなる虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、板金製のインナパネルに対して樹脂製のアウタパネルを好適に接合することができる車体のパネル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による車体のパネル構造は、板金製のインナパネルと、樹脂製のアウタパネルとが接合された車体のパネル構造であって、所定領域に集約して配設され前記インナパネルに前記アウタパネルを固定する固定部と、前記インナパネルと前記アウタパネルとがスライド可能に接合された縁辺部と、前記縁辺部に配設され前記インナパネルと前記アウタパネルとを液密にシールするシール部材と、を備え
、前記固定部は、前記インナパネル及び前記アウタパネルの中央部の領域に集約して配設されているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車体のパネル構造によれば、板金製のインナパネルに対して樹脂製のアウタパネルを好適に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】リヤゲートドア本体の縁辺部の要部を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、
図1は車体の外観を示す斜視図、
図2はリヤゲートドア本体を示す分解斜視図、
図3は
図1のIII−III線に沿う要部断面図、
図4は
図3の変形例を示す要部断面図、
図5はリヤゲートドア本体の縁辺部の要部を示す分解斜視図、
図6は
図5の変形例を示す分解斜視図である。
【0011】
図1に示す車両1は、例えば、ワゴンタイプの車両である。この車両1を構成する車体2の後部において、左右のリヤピラー10の間には、リヤゲート開口部11が開口され、このリヤゲート開口部11にはリヤゲート12が設けられている。
【0012】
リヤゲート12は、車体2を構成するパネル(車体パネル)としてのリヤゲート本体16を有する。このリヤゲート本体16の上端部は、リヤゲート開口部11の上縁部に揺動自在に支持されている。また、リヤゲート本体16の上部寄りにはリヤゲート窓17が開口され、このリヤゲート窓17は、リヤゲート窓ガラス18によって閉塞されている(
図2,3参照)。
【0013】
図2に示すように、リヤゲート本体16は、例えば、インナパネル20とアウタパネル21とが互いに接合された閉断面構造をなす車体パネルによって構成されている。
【0014】
インナパネル20は、例えば、アルミニウム合金等をプレス加工等することによって形成された板金部材によって構成されている。このインナパネル20の上端部には、例えば、一端部がリヤゲート開口部11の上縁部に固設されたヒンジ(図示せず)の他端部を取り付けるためのヒンジ取付部25が設けられている。また、インナパネル20の上部寄りには、リヤゲート窓17を構成するための窓開口部26が開口されている。また、インナパネル20の車幅方向略中央部であって、且つ、窓開口部26の直下方には、複数(例えば、4個)のボルト挿通孔27が設けられている。
【0015】
さらに、例えば、
図3に示すように、インナパネル20の外縁部、及び、内縁部(すなわち、窓開口部26の内縁部)には、後方に指向して突出する突条部28,29が周設されている。これら突条部28,29は、例えば、インナパネル20の外縁に沿った縁辺部(外側縁辺部)、及び、窓開口部26の内縁に沿った縁辺部(内側縁辺部)を後方(アウタパネル21側)に折曲することによって形成されている。
【0016】
アウタパネル21は、例えば、樹脂成型品によって構成されている。このアウタパネル21の上部寄りには、リヤゲート窓17を構成するための窓開口部31が、インナパネル20の窓開口部26に対応して開口されている。また、アウタパネル21の車幅方向略中央部であって、且つ、窓開口部31の直下方には、インナパネル20の各ボルト挿通孔27に対応する複数(例えば、4個)のボルト締結穴32が設けられている。
【0017】
さらに、例えば、
図3に示すように、アウタパネル21の外縁に沿った縁辺部(外側縁辺部)、及び、窓開口部31の内縁に沿った縁辺部(内側縁辺部)には、インナパネル20に形成された突条部28,29の先端部を受容するための溝部33,34が周設されている。
【0018】
このように構成されたアウタパネル21は、インナパネル20の突条部28,29を溝部33,34に受容した状態で対向配置される。そして、アウタパネル21の各ボルト締結穴32に対し、インナパネル20の各ボルト挿通孔27に挿通された各ボルト35が螺合されることにより、アウタパネル21はインナパネル20に締結固定されている。
【0019】
すなわち、本実施形態において、板金製のインナパネル20と樹脂製のアウタパネル21との接合体であるリヤゲート本体16は、インナパネル20にボルト35を介してアウタパネル21を固定するための固定部36を、リヤゲート本体16の所定領域(具体的には、例えば、車幅方向略中央であって、且つ、リヤゲート窓17の直下方の領域)に集約された状態で有する。そして、このようにリヤゲート本体16の内方に固定部36が集約した状態で配設されることにより、リヤゲート本体16の縁辺部(リヤゲート本体16の外縁に沿った外側縁辺部、及び、リヤゲート窓17の内縁に沿った内側縁辺部)において、インナパネル20とアウタパネル21とがスライド可能に接合されている。
【0020】
さらに、アウタパネル21の溝部33内には、軟性を有するシール部材37が充填されている。そして、このシール部材37に対し、インナパネル20に周設された突条部28,29の先端部が埋設されることにより、スライド可能に接合されたインナパネル20とアウタパネル21との縁辺部は液密にシールされている。
【0021】
このような実施形態によれば、板金製のインナパネル20に対して樹脂製のアウタパネル21を固定するための固定部36を所定領域に集約して配設し、縁辺部においてインナパネル20とアウタパネル21とがスライド可能となるよう構成することにより、両パネル20,21間で気温の変化に伴う熱変形量が相違する場合にも、両者の熱変形量の差を縁辺部において吸収することができる。そして、このように熱変形量の差を吸収可能に構成した縁辺部にシール部材37を配設することにより、両パネル20,21間を液密にシールすることができる。従って、樹脂製のアウタパネル21を用いた場合にも、板金製のインナパネル20との熱変形量の差に起因する歪み等がリヤゲート本体16上に発生することを的確に防止して、両パネル20,21を好適に接合することができる。
【0022】
この場合において、インナパネル20及びアウタパネル21の中央部の領域(具体的には、例えば、リヤゲート本体16の車幅方向略中央であって、且つ、リヤゲート窓17の直下方の領域)に固定部を集約して設定することにより、特に、インナパネル20の外側縁辺部とアウタパネル21の外側縁辺部との間のスライド量を均斉化することができる。従って、両パネル20,21の縁辺部の相対変位を軟性のシール部材37によって好適に吸収することができ、両パネル20,21間の高いシール性を実現することができる。
【0023】
ここで、リヤゲート本体16の縁辺部におけるインナパネル20とアウタパネル21との接合は、例えば、クリップ止め等によって実現することも可能である。この場合、例えば、
図4,5に示すように、インナパネル20の縁辺部にはフランジ部41が形成され、これらフランジ部41の要所には、インナパネル20の内外方向に延在する長孔43が穿設されている。
【0024】
一方、アウタパネル21には、長孔43に対応する位置に、クリップ保持部45が形成され、このクリップ保持部45よりも内側には、シール保持溝46が周設されている。
【0025】
クリップ保持部45は、例えば、一側が開放された矩形の収容室45aを有して構成されている。また、クリップ保持部45のインナパネル20との対向面には、一側が開放された軸孔45bが穿設されている。
【0026】
クリップ保持部45に保持されるクリップ50の基端部には、収容室45a内に保持される矩形の平板部50aが設けられている。また、平板部50aには軸部50bが設けられ、この軸部50bは、軸孔45bを介して収容室45aの外部に突出されている。さらに、軸部50bの先端部には複数の係止片50cが設けられている。これら係止片50cは、軸部50bの先端側から基端側に向けて相互の距離が拡開するよう傾斜した状態で保持されている。このように構成されたクリップ50の軸部50bは、例えば、ワッシャ51に挿入された後、インナパネル20の長孔43に挿入される。その際、係止片50cは、弾性変形しながらワッシャ51及び長孔43内を通過した後、元の形状に復元される。これにより、クリップ50は、インナパネル20の縁辺部に対し、アウタパネル21の縁辺部をスライド可能に接合する。
【0027】
また、このような接合に際し、シール保持溝46内には、樹脂製のシール部材52が収容される。そして、このシール部材52がインナパネル20のフランジ部41に摺接されることにより、インナパネル20とアウタパネル21の縁辺部は液密にシールされている。なお、
図4,5には、アウタパネル21側に保持したシール部材52をインナパネル20側に摺接させる構成の一例について説明したが、逆に、インナパネル20側に保持したシール部材をアウタパネル21側に摺接するよう構成することも可能である。
【0028】
他の変形例として、例えば、
図6に示すように、リヤゲート本体16の縁辺部におけるインナパネル20とアウタパネル21との接合は、例えば、アウタパネル21に配設したボルト締結穴55にボルト56を締結することによって実現することも可能である。この場合、図示のように、長孔43に代えて、ボルト56の軸部よりも大径の丸孔57をインナパネル20のフランジ部41に穿設することも可能である。
【0029】
なお、本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。例えば、上述の実施形態の構成及び各変形例を適宜組み合わせてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 … 車両
2 … 車体
10 … リヤピラー
11 … リヤゲート開口部
12 … リヤゲート
16 … リヤゲート本体(車体パネル)
17 … リヤゲート窓
18 … リヤゲート窓ガラス
20 … インナパネル
21 … アウタパネル
25 … ヒンジ取付部
26 … 窓開口部
27 … ボルト挿通孔
28,29 … 突条部
31 … 窓開口部
32 … ボルト締結穴
33,34 … 溝部
35 … ボルト
36 … 固定部
37 … シール部材
41 … フランジ部
43 … 長孔
45 … クリップ保持部
45a … 収容室
45b … 軸孔
46 … シール保持溝
50 … クリップ
50a … 平板部
50b … 軸部
50c … 係止片
51 … ワッシャ
52 … シール部材
55 … ボルト締結穴
56 … ボルト
57 … 丸孔