【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザーマーキング用ポリエステル樹脂組成物は、レーザーによるマーキングが容易で、レーザーマーキングによる印字性(コントラスト)に優れ、さらに、マーキングされたマークの耐光性及び成形品外観にも優れる。
このため、本発明のレーザーマーキング用ポリエステル樹脂組成物は、例えば、電気電子機器の筐体、もしくは、照明用機器の口金、素子基板又は筐体等に特に好適に使用できる。
そして、本発明のポリエステル樹脂組成物を成形した成形体の表面にレーザーマーキングにより施されたマークは、耐光性に優れるので、安定した印字や記号を鮮明に維持することができ、長期に亘って製品の識別・管理・利用を行うことができる。
【0011】
本発明のこのような効果を発現する機構については、以下のように推察している。
すなわち、臭素化ポリスチレン(B)は、他の臭素系難燃剤に比べレーザーマーキング性に優れることが判明した。
また、特に、滴下防止剤(H)であるポリテトラフルオロエチレン等を配合した場合は、これらと臭素化ポリスチレン(B)が凝集しやすく、凝集物となって成形品中に存在し、成形品外観が低下するという問題が発生する場合がある。さらに、レーザーマーキング性を向上させる目的でカーボンブラックを配合した場合も、凝集物がより目立ち易くなる場合がある。このような場合、ポリカーボネート(D)やタルク(E)を配合することにより、これらが分散剤として働き、臭素化ポリスチレン(B)が凝集しにくくなり、凝集物がなく外観に優れる成形品が得られると考えられる。
【0012】
[1.発明の概要]
本発明のレーザーマーキング用ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、臭素化ポリスチレン(B)を5〜30質量部及びアンチモン化合物(C)を1〜20質量部含有することを特徴とする。
【0013】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
以下に記載する各構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0014】
[2.熱可塑性ポリエステル樹脂(A)]
本発明のポリエステル樹脂組成物の主成分である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0015】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1、5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2、2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3、3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4、4’−ジカルボン酸、1、2−ビス(フェノキシ)エタン−4、4’−ジカルボン酸、アントラセン−2、5−ジカルボン酸、アントラセン−2、6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4、4’−ジカルボン酸、ピリジン−2、5−ジカルボン酸等が挙げられ、中でも、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0016】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用しても良い。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0017】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパン−1、3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン−1、4−ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1、3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合せしめてもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0018】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0019】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、即ち樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0020】
なかでも好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートである。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分及び1.4−ブタンジオール又はエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、主成分がポリブチレンテレフタレートであることが特に好ましい。
【0021】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、0.5〜2dl/gであるのが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。なお、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0022】
[3.臭素化ポリスチレン(B)]
本発明のポリエステル樹脂組成物が含有する臭素化ポリスチレン(B)としては、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を含有する臭素化ポリスチレンが挙げられる。
【0023】
【化1】
(式(1)中、tは1〜5の整数であり、nは繰り返し単位の数である。)
【0024】
なお、前記一般式(1)において、臭素化ベンゼンが結合したCH基はメチル基で置換されていてもよい。また、臭素化ポリスチレンは、他のビニルモノマーが共重合された共重合体であってもよい。この場合のビニルモノマーとしてはスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、ブタジエンおよび酢酸ビニル等が挙げられる。また、臭素化ポリスチレンは単一物あるいは構造の異なる2種以上の混合物として用いてもよく、単一分子鎖中に臭素数の異なるスチレンモノマー由来の単位を含有していてもよい。
【0025】
臭素化ポリスチレンの具体例としては、例えば、ポリ(4−ブロモスチレン)、ポリ(2−ブロモスチレン)、ポリ(3−ブロモスチレン)、ポリ(2,4−ジブロモスチレン)、ポリ(2,6−ジブロモスチレン)、ポリ(2,5−ジブロモスチレン)、ポリ(3,5−ジブロモスチレン)、ポリ(2,4,6−トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5−トリブロモスチレン)、ポリ(2,3,5−トリブロモスチレン)、ポリ(4−ブロモ−α−メチルスチレン)、ポリ(2,4−ジブロモ−α−メチルスチレン)、ポリ(2,5−ジブロモ−α−メチルスチレン)、ポリ(2,4,6−トリブロモ−α−メチルスチレン)およびポリ(2,4,5−トリブロモ−α−メチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(2,4,6−トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5−トリブロモスチレン)および平均2〜3個の臭素基をベンゼン環中に含有するポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレンが特に好ましく用いられる。
【0026】
臭素化ポリスチレンは、通常、ポリスチレンを臭素化することにより製造される。例えば、臭素又は塩化臭素等とポリスチレンを、ルイス塩基酸触媒の存在下、塩化炭化水素溶媒(例えば、塩化メチレン、ジクロロエタン等)中で反応させることで製造される。
また、一方、臭素化スチレンモノマー(例えば、2,4−ジブロモスチレン、2,6−ジブロモスチレン、2,5−ジブロモスチレン、3,5−ジブロモスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレン、2,3,5−トリブロモスチレン等)を重合することにより製造することも可能である。
本発明における臭素化ポリスチレンは、上記臭素化反応によるもの或いは重合法によるものの何れであってもよいが、芳香環以外への臭素化反応の問題や遊離の臭素(原子又は化合物)の含有量が少なく、またその後の加熱や成形の過程で発生する遊離の臭素(原子又は化合物)が少ないので、重合法による臭素化ポリスチレンの方が好ましい。
【0027】
臭素化ポリスチレンは、上記一般式(1)における繰り返し単位の数n(平均重合度)が30〜1,500であることが好ましく、より好ましくは150〜1,000、特に300〜800のものが好適である。平均重合度が30未満ではブルーミングが発生しやすく、一方1,500を超えると、分散不良を生じやすく、機械的性質が低下しやすい。また、臭素化ポリスチレンの質量平均分子量(Mw)としては、10,000〜200,000程度であることが好ましく、より好ましくは10,000〜100,000、さらに好ましくは10,000〜70,000である。
特に、上記したポリスチレンの臭素化物の場合は、質量平均分子量(Mw)は50,000〜70,000であることが好ましく、重合法による臭素化ポリスチレンの場合は、質量平均分子量(Mw)は10,000〜30,000程度であることが好ましい。なお、質量平均分子量(Mw)は、GPC測定による標準ポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0028】
臭素化ポリスチレン(B)は、臭素濃度が52〜75質量%であることが好ましく、56〜73質量%であることがより好ましく、57〜70質量%であることがさらに好ましい。臭素濃度をこのような範囲とすることにより、レーザーマーキング性及び難燃性を良好に保つことが容易である。
【0029】
臭素化ポリスチレン(B)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、5〜30質量部である。臭素化ポリスチレン(B)の含有量が、5質量部を下回ると、レーザーマーキング性及び難燃性が低下する傾向であり、30質量部を上回ると、機械的物性が低下する傾向である。臭素化ポリスチレン(B)の好ましい含有量は、10〜25質量部であり、より好ましくは12〜20質量部である。
【0030】
[4.アンチモン化合物(C)]
本発明のポリエステル樹脂組成物が含有するアンチモン化合物(C)としては、酸化アンチモン又は酸化アンチモンと他の金属の複塩を使用することができる。具体的には、例えば、三酸化アンチモン(Sb
2O
3)、四酸化アンチモン(Sb
2O
4)、五酸化アンチモン(Sb
2O
5)等の酸化物或いはアンチモン酸ナトリウム等のアンチモン酸塩等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、臭素化ポリスチレンとの相乗効果の点から三酸化アンチモンが好ましい。
【0032】
アンチモン化合物(C)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、1〜20質量部である。アンチモン化合物(C)の含有量が、1質量部を下回ると、レーザーマーキング性及び難燃性が低下し、20質量部を上回ると、機械的物性が低下する。アンチモン化合物(C)の好ましい含有量は、2〜15質量部であり、より好ましくは3〜10質量部である。
【0033】
臭素化ポリスチレン(B)及びアンチモン化合物(C)は、ポリエステル樹脂組成物中の臭素化ポリスチレン(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量濃度が、両者の合計で5〜16質量%となるように含有させることが好ましく、6〜15質量%がより好ましい。5質量%未満であると、レーザーマーキング性、難燃性が低下する傾向があり、16質量%を超えると機械的強度が低下する場合がある。また、臭素原子とアンチモン原子の質量比(Br/Sb)は、0.3〜5であることが好ましく、0.3〜4であることがより好ましい。
【0034】
[5.ポリカーボネート(D)及び/又はタルク(E)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリカーボネート(D)及び/又はタルク(E)を含有することが好ましい。
前記したように、臭素化ポリスチレン(B)は、臭素化ポリスチレン同士が凝集する場合があり、特に、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤(H)を配合した場合には、これらとの凝集により、凝集物となって成形品中に存在しやすい。また、カーボンブラックを配合した場合は、凝集物がより目立ち易い傾向となる。ポリカーボネート(D)やタルク(E)は、分散剤として働き、臭素化ポリスチレン(B)は凝集しにくくなり、凝集物の発生が顕著に少なくなるという効果を発現させるものである。
【0035】
[5.1 ポリカーボネート(D)]
ポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲンと反応させる界面重合法や、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法により製造されているが、本発明では何れの製造法のものも用いることができる。エステル交換法では末端封止剤を反応させて末端OH基濃度を調節することがあるが、この処理を経たものも用いることができる。ポリカーボネート(D)としては、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネートが好ましい。
【0036】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)が主として用いられているが、他の芳香族ジヒドロキシ化合物、例えばテトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−P−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルなどを用いることもできる。また難燃性を付与するため、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが結合した化合物や、シロキサン構造を有し且つ両末端にフェノール性OH基を有するポリマーやオリゴマーを併用することもできる。
【0037】
本発明においては、市販の代表的なポリカーボネートであるビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートが好ましく使用できるが、他のポリカーボネート、例えばビスフェノールAと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される共重合ポリカーボネートを用いることもできる。また2種以上のポリカーボネートを併用してもよい。
【0038】
ポリカーボネート(D)の分子量は、制限はないが、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度20℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは10,000〜40,000、より好ましくは12,000〜32,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、得られるポリエステル樹脂組成物の成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られやすい。ポリカーボネート(D)の最も好ましい分子量範囲は14,000〜30,000である。
なお、本発明において、ポリカーボネート(D)の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、20℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10
−4Mv
0.83
【0039】
また、ポリカーボネート(D)として、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートを使用することも好ましい。
【0040】
臭素化ポリカーボネートとしては、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。その末端構造は4−t−ブチルフェニル基や2,4,6−トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6−トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
また、臭素化ポリカーボネートにおける、カーボネート繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、通常、2〜30である。カーボネート繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時にポリエステル樹脂の分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎてもポリカーボネートの溶融粘度が高くなり、成形品内の分散不良を引き起こし成形品外観、特に光沢性が低下する場合がある。よってこの繰り返し単位数の平均は、中でも3〜15、特に3〜10であることが好ましい。
【0041】
ポリカーボネート(D)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜5質量部であることが好ましい。ポリカーボネート(D)の含有量が、0.1質量部を下回ると、臭素化ポリスチレンの分散性が低下する傾向であり、5質量部を上回ると、機械的物性や成形性が低下する傾向である。ポリカーボネート(D)のより好ましい含有量は、0.3〜3質量部であり、さらに好ましくは0.6〜2.5質量部、特に好ましくは1〜2質量部である。
【0042】
[5.2 タルク(E)]
タルク(E)は、周知のとおり、層状構造を持つ含水ケイ酸マグネシウムであって、化学式は代表的には4SiO
2・3MgO・H
2Oで表され、通常はSiO
2を58〜66質量%、MgOを28〜35質量%、H
2Oを約5質量%含んでいる。その他少量成分としてFe
2O
3が0.03〜1.2質量%、Al
2O
3が0.05〜1.5質量%、CaOが0.05〜1.2質量%、K
2Oが0.2質量%以下、Na
2Oが0.2質量%以下等を含有しているのが一般的である。
【0043】
タルク(E)としては、平均粒子径が0.1〜10μmであるものが好ましく、0.3〜8μm、特に0.7〜5μmであれば更に好ましい。平均粒子径を0.1μm以上とすることでポリエステル樹脂組成物の熱安定性がより向上する傾向にあり、また平均粒子径を10μm未満とすることでポリエステル樹脂組成物の成形品外観や剛性がより向上する傾向にある。なお、タルク(E)の平均粒子径は、レーザー回折法により求めることができる。
【0044】
また、タルク(E)は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)との親和性を高めるために、表面処理が施されていることが好ましい。表面処理剤としては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコール類、トリエチルアミン等のアルカノールアミン、オルガノポリシロキサン等の有機シリコーン系化合物、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等の炭化水素系滑剤、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸、ポリグリセリン及びそれらの誘導体、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0045】
タルク(E)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜5質量部であることが好ましい。タルク(E)の含有量が、0.1質量部を下回ると、臭素化ポリスチレンの分散性が低下する傾向であり、5質量部を上回ると、機械的強度や靱性が低下する傾向である。タルク(E)のより好ましい含有量は、0.3〜4質量部であり、さらに好ましくは0.4〜3質量部、特に好ましくは0.5〜2.5質量部である。
なお、タルク(E)とポリカーボネート(D)と併用する場合は、それぞれを熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜5質量部配合することが好ましいが、タルク(E)とポリカーボネート(D)の合計量として、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.5〜6質量部とすることがより好ましく、1〜4質量部とすることがさらに好ましく、1.3〜3.5質量部とすることが特に好ましい。
【0046】
[6.酸化チタン(F)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、酸化チタン(F)を含有することが好ましい。
酸化チタン(F)は、成形品の白度や印字コントラストなどを向上させる様に機能する。酸化チタン系添加剤に用いられる酸化チタンは、製造方法、結晶形態および平均粒子径などは、特に限定されるものではない。
【0047】
酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型があるが、耐光性の観点からルチル型の結晶形態のものが好適である。酸化チタン(F)の平均粒子径は、通常0.1〜0.7μm、好ましくは0.1〜0.4μmである。なお、酸化チタンの平均粒子径は、レーザー回折法により測定することができる。
【0048】
なお、酸化チタン(F)は、アルミナ系表面処理剤、珪酸水和物、オルガノシロキサン系等の表面処理剤で表面処理することも好ましい。オルガノシロキサン系の表面処理剤としては、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン化合物が好ましい。アルミナ系表面処理剤としてはアルミナ水和物が好適に用いられる。このような表面処理を施すことにより、熱安定性を改善することが出来る他、樹脂組成物中での均一分散性および分散状態の安定性をも向上させやすい傾向となる。
【0049】
酸化チタンの表面処理剤による表面処理法には(1)湿式法と(2)乾式法とがある。湿式法は、表面処理剤と溶剤との混合物に酸化チタンを加え、撹拌した後に脱溶媒を行い、更にその後100〜300℃で熱処理する方法である。乾式法は、酸化チタンと表面処理剤とをヘンシェルミキサーなどで混合する方法、酸化チタンに表面処理剤の有機溶液を噴霧して付着させ、100〜300℃で熱処理する方法などが挙げられる。表面処理剤の量は、特に制限されるものではないが、酸化チタンの反射性、樹脂組成物の成形性などを勘案すると、酸化チタンに対し、通常1〜5質量%の範囲である。
【0050】
酸化チタン(F)の好ましい含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲である。酸化チタン(F)の配合量が0.1質量部未満の場合は、樹脂組成物から得られる成形品の反射率が不十分となりやすく、20質量部を超える場合は樹脂組成物の耐衝撃性が不十分となりやすい。酸化チタン(F)のより好ましい配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.3質量部以上、特に好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは18質量部以下、特に好ましくは15質量部以下である。なお、酸化チタン(F)の質量は、アルミナ水和物、珪酸水和物、オルガノシロキサン系等の表面処理剤によって表面処理されている場合は、これらの処理剤も含めた全質量を意味する。
【0051】
[7.ガラス繊維(G)]
本発明のポリエステル樹脂組成物には、ガラス繊維(G)を含有させてその機械的特性を向上させることができる。ガラス繊維(G)としては常用のものをいずれも用いることができる。
ガラス繊維(G)の平均繊維径は特に制限されないが、例えば1〜100μmの範囲で選ぶことが好ましく、より好ましくは2〜50μm、更に好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmである。平均繊維径が1μm未満のガラス繊維は、製造が容易でなく、コスト高になる恐れがあり、一方100μmを超えると、ガラス繊維の引張強度が低下する恐れがある。
また、ガラス繊維(G)の平均繊維長は特に限定されないが、例えば0.1〜20mmの範囲で選ぶことが好ましく、0.3〜5mmであることがより好ましい。平均繊維長が0.1mm未満であると、補強効果が十分に発現しない恐れがあり、20mmを超えると、得られるポリエステル樹脂組成物の成形が困難になる恐れがある。
【0052】
ガラス繊維(G)は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることが好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れる傾向にあり好ましい。
【0053】
表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤が好ましく挙げられる。
これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
【0054】
また、表面処理剤として、ノボラック型等のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂等も好ましく挙げられる。中でも、ノボラック型のエポキシ樹脂がより好ましい。
シラン系表面処理剤とエポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いても複数種で用いてもよく、両者を併用することも好ましい。
【0055】
本発明においては、ガラス繊維(G)は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、10〜100質量部、中でも15〜80質量部を含有させることが好ましい。
【0056】
[8.滴下防止剤(H)]
本発明のポリエステル樹脂組成物には、滴下防止剤(H)を含有させることも好ましい。滴下防止剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、フィブリル形成能を有し、樹脂組成物中に容易に分散し、かつ樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものがより好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの具体例としては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より市販されている商品名「テフロン6J」又は「テフロン30J」、ダイキン工業(株)より市販されている商品名「ポリフロン」あるいは旭硝子(株)より市販されている商品名「フルオン」等が挙げられる。
滴下防止剤の含有割合は、好ましくは、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1〜5質量部である。滴下防止剤が0.1質量部未満では難燃性が不十分になりやすく、5質量部を超えると凝集物が発生しやすくなり、外観が悪くなりやすい。滴下防止剤の含有割合は、より好ましくは、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.3〜3.5質量部であり、さらに好ましくは0.5〜2.5質量部である。
【0057】
[9.カーボンブラック(I)]
本発明のポリエステル樹脂組成物には、カーボンブラック(I)を含有させてレーザーマーキング時の印字性を向上させることができる。カーボンブラックとしては常用のものをいずれも用いることができ、一般に、樹脂組成物の着色に用いられているカーボンブラックの中から、適宜選択すればよい。
カーボンブラックの平均一次粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは13nm以上であり、また好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。また、カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは30cm
3/100g以上、より好ましくは45cm
3/100g以上であり、また好ましくは500cm
3/100g以下、より好ましくは130cm
3/100g以下である。なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径により求めることができる。また、DBP吸油量は、カーボンブラック100gが吸収するジブチルフタレート(DBP)量(JIS K6221に準拠)により測定することができる。
【0058】
またカーボンブラックは、その製法の違いによりファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラックなどに、また、原料の違いによりアセチレンブラック、オイルブラック、ガスブラック等に分類されるが、これらのいずれも使用できる。また、高導電性のカーボンブラックであるケッチェンブラックも使用可能である。中でも分散性、樹脂組成物の着色性、作業性(経済性)などの点から、好ましくはファーネスブラックである。
本発明においては、カーボンブラックは、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.0001〜0.1質量部、中でも0.0005〜0.01質量部を含有させることが好ましい。含有量が0.0001質量部未満であると、レーザーマーキング性が低下する傾向にある。
【0059】
[10.安定剤(J)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、さらに安定剤(J)を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性及び色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
【0060】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物又は有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0061】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R
1O)
3−nP(=O)OH
n
(式中、R
1は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を示す。)
で表される化合物である。より好ましくは、R
1が炭素原子数8〜30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8〜30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0062】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましく、このものはADEKA社の商品名「アデカスタブ AX−71」として、市販されている。
【0063】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、好ましくは、下記一般式:
R
2O−P(OR
3)(OR
4)
(式中、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、R
2、R
3及びR
4のうちの少なくとも1つは炭素数6〜30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0064】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0065】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R
5−P(OR
6)(OR
7)
(式中、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基であり、R
5、R
6及びR
7のうちの少なくとも1つは炭素数6〜30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0066】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0067】
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
リン系安定剤としては、前述したように、優れた相溶性を発揮し、伸びや薄肉靭性を飛躍的に向上させるオクタデシルアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0068】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ネオペンチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0069】
安定剤(J)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜1質量部であることが好ましい。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。リン系安定剤の含有量は、より好ましくは0.001〜0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005〜0.5質量部である。
【0070】
[11.離型剤(K)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、更に、離型剤(K)を含有することが好ましい。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、金属膜密着性を阻害しにくいという点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましい。
【0071】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、質量平均分子量が、700〜10,000、更には900〜8,000のものが好ましい。
【0072】
脂肪酸エステル系化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられ、中でも、炭素数11〜28、好ましくは炭素数17〜21の脂肪酸で構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン−12−ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。
【0073】
また、シリコーン系化合物としては、ポリエステル樹脂との相溶性等の点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端及び/又は片末端に有機基を導入したシリコーンオイル等が挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等が挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0074】
離型剤(K)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜2質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、レーザーマーキング性が低下する場合がある。一方、2質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、また成形品表面に曇りが見られる場合がある。離型剤の含有量は、より好ましくは0.07〜1.5質量部、更に好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0075】
[12.その他含有成分]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0076】
また、本発明におけるポリエステル樹脂組成物には、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えばポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0077】
[13.樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、熱可塑性ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、ガラス繊維等の繊維状のものを用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフイーダーから供給することも好ましい。
【0078】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220〜300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0079】
[14.成形体]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して成形体として用いる。成形体の形状、模様、色、寸法等に制限はなく、その成形体の用途に応じて任意に設定すればよい。
成形体の製造方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。本発明においては、汎用性の点から射出成形法を採用することが好ましい。
【0080】
[15.レーザーマーキング]
得られた成形体はレーザーによるマーキングが容易であり、レーザーマーキングにより文字、標識、バーコード、QRコード、図、パターン等が施される。
レーザーマーキングの方法は、公知であり、各種の方法を適用することができる。
レーザーマーキング方法で用いるレーザー光としては、レーザー発振波長532〜1,064nmのものが好ましい。具体的には、樹脂への発色印字をするアプリケーションでは、一般的にYAG波長(1,064nm)レーザーマーカーが使用されている。ネオジウム変性イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、又はネオジウム変性イットリウム−四酸化バナジウム(Nd:YVO
4)等の結晶に高出力の光を与えてレーザーを発生させ、さらにミラーの往復反射で増幅させ、Qスイッチ機器によりパルスレーザにする方式のレーザーマーカーを用いることもできる。また、近年の主流となりつつあるファイバー方式(イットリビウムが注入されたファイバーに複数のレーザーダイオード(LD)を低出力で使用し、レーザー光を発生・増幅させる方式のもの)のレーザーマーカーも用いることができる。
【0081】
なお、レーザーマーカーとしては、レーザービームはシングルモードでもマルチモードでもよく、またビーム径が20〜40μmのように絞ったもののほか、ビーム径が80〜100μmのように広いものについても用いることができるが、シングルモードで、ビーム径が20〜40μmの方が、良好なコントラストでマーキングを行えることから好ましい。
【0082】
本発明のポリエステル樹脂組成物を用いレーザーマーキングに供される成形体は、例えば、電気電子機器の筐体、もしくは、照明用機器の口金、素子基板又は筐体等に特に好適である。