(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る
農業用シートの使用方法及びそれに用いる農業用シートの実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る
農業用シートの使用方法に用いられる農業用シート1は、農業用の温室内に配設される農業用のシート部材であって、温室内に設置された農作物の畝や苗床の周囲近傍等に配設され、農業用シート1で覆った空間領域を所定の温度や湿度が保たれるようにし、また、当該領域への太陽光の入射光量を調整・制御するのに用いられるものである。
例えば温室内に同一又は異なる種類の農作物を所定の区画単位や畝単位で配設・定植する場合に、各畝単位や区画単位で農作物を取り囲むように農業用シート1を配置することにより、同一(単一)の温室において農業用シート1で覆われた領域・区間内の温度や湿度・入射光量を制御できるようにするものである。
【0015】
[温室]
本実施形態に係る農業用シート1が使用される温室は、例えばガラス温室やビニールハウス等、外気環境が遮蔽・遮断された室内において、所定の温度を維持・制御することで野菜や果物等の農作物を育成・栽培するための建物(ハウス)の一種であり、単に「ハウス」とも呼ばれる場合もある。
一般に、温室は、農作物を多数栽培可能な一定の広さの土壌・耕地の周囲空間を外気から遮蔽・遮断する簡易な建物・小屋によって構成される。
例えば、ガラス温室の場合、H鋼等の鋼材を柱・骨組みとして、その外面をガラスで被覆した構造となっており、一定の間隔で奥行き方向に柱を設置することで奥行き方向の長さ(広さ)を任意に設定することが可能となっている。
また、ビニールハウスは、木材や鋼材、鋼管等を躯体とし、合成樹脂のフィルムで外壁を被覆したもので、具体的には、所定の大きさ・形状に組まれた骨組みに対して、農業用ポリ塩化ビニル(農ビ)や、農業用ポリオレフィン(POフィルム)、耐候性に優れたフッ素フィルム(硬質フィルム)等を被覆する構造となっている。
【0016】
なお、ビニールハウスを単に「ハウス」と呼び、ガラス温室を「温室」と呼ぶことがあるが、本実施形態において「温室」という場合、ガラス温室、ビニールハウス、ハウスのいずれも含むものである。
また、温室,ハウスには、建物の全てをガラス、フィルムで覆う場合と、降雨による農作物への影響を防ぐためにハウス上面だけを覆う場合があるが、本実施形態に係る農業用シート1を使用する温室は、いずれの場合であっても良い。
また、温室,ハウスには、単体で独立した内部空間を形成する単棟型と、単棟型のハウスを横方向に連接して内部空間を共通化した連棟型とがあるが、本実施形態に係る農業用シート1が使用される温室は、いずれの場合であっても良いことはいうまでもない。
温室内での農業用シート1の配置態様については、
図5を参照して後述する。
【0017】
[農業用シート]
次に、上記のような温室内に設置されて使用される本実施形態の農業用シート1の構成について具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る農業用シートの構成を示す斜視図であり、同じく
図2も、本発明の一実施形態に係る農業用シートの他の構成を示す斜視図である。
これらの図に示すように、本実施形態に係る農業用シート1は、長尺帯状のシート材により形成されるシート本体10と、このシート本体10に重ねて配置される機能性シート20とを備えている。
そして、本実施形態では、シート本体10を構成する積層気泡シートのキャップフィルム12側(キャップ11側)に機能性シート20が重ねて配置されるとともに、矩形状のシート本体10の四辺のうち少なくとも一辺の縁部において機能性シート20が固着され、かつ、当該固着辺と対向する他の一辺において機能性シート20がシート本体10に固着されることなく開放されるようになっている。
【0018】
[シート本体]
シート本体10は、中空構造の積層気泡シートによって構成された例えば矩形状に形成・裁断されたシート部材である。
具体的には、シート本体10は、後述する
図6に示すように、中空状に膨出する多数のキャップ11が形成されたキャップフィルム12と、キャップフィルム12のキャップ開口側に積層されるバックフィルム13とを備える二層の積層気泡シートからなっている。
【0019】
このような積層気泡シートは、多数の気泡により保温性・断熱性に優れ、農作物の保温や温度制御に好適となる。
そして、積層気泡シートは、キャップフィルム12が備える多数の気泡(キャップ11)の間に空間が存在しており、この気泡間の空間に、機能性シート20によって吸水・吸湿された水分が滞留・移動可能となり、気泡間の空間を伝って水分がシート外に排出される雨樋効果を果たすことができる。
また、積層気泡シートは、軽量かつ柔軟で、一定の剛性や強度を有し、また、ハサミやカッターで裁断・加工も容易で、農作物の畝や区画に合わせた配置が簡単に行える。
【0020】
ここで、キャップフィルム12に形成されるキャップ11(気泡)の形状としては、キャップ平面視で円形,三角形,四角形,楕円形,多角形等、任意の形状とすることができ、キャップ間の空間による雨樋効果に適した形状を選択することができる。
また、キャップ11の外形は、キャップの平面形状に対応した円筒形・角筒形の立体形状となるが、その立体形状はキャップ頂部に向かって細くなるテーパ形状、例えば切頭円錐台や切頭角錐台形状、半球形状、半楕円球形状等とすることができる。このようにキャップの外形が頂部に向かって細くなるテーパ形状をなすことにより、キャップ間の空間にある水分がより流れやすくなり、上述した雨樋効果をより効率的に発揮させることができるようになる。
なお、キャップフィルム12のキャップの形状(平面形状・外形)は、後述する成形ロールのキャビティ孔の形状に応じて(
図7参照)、上記のような任意の形状に成形することができる。
以上のような二層式の積層気泡シートの詳細については、
図6〜7を参照して更に後述する。
【0021】
[機能性シート]
機能性シート20は、シート本体10に重ねて配置されるシート部材であり、
図1及び
図2に示すように、シート本体10とほぼ同形,同大の矩形状等に形成・裁断されたシート部材となっている。
機能性シート20は、吸湿性を有するシート、遮光性を有するシート、また、吸湿性及び遮光性の双方を有するシート部材によって形成される。
具体的には、本実施形態に係る機能性シート20は、不織布、布、又は紙によって構成されている。一般に、不織布や布、紙(例えば和紙)は、吸湿性に優れており、また、不透明であり遮光性にも優れることから機能性シート20を構成するシート部材として好ましい。
また、不織布や紙,布からなる機能性シート20は、軽量かつ柔軟で、ハサミやカッターで裁断・加工も容易で、農作物の畝や区画に合わせた配置が簡単に行えることからも、様々な形状,面積等に使用される農業用シートに対応可能なシート材として好適である。
【0022】
本実施形態に係る機能性シート20としては、不織布を用いることが好ましい。
不織布は、布(織編物)や紙と比較して、構成繊維間の空隙が大きく、吸湿性が良好であり、水蒸気を繊維間空隙に保持しやすいためである。
また、不織布は、同じ目付の布(織編物)や紙と比較したとき、繊維間空隙が大きく保温性が良好であるため、軽量化が図れ、取り扱いに優れるためである。
【0023】
ここで、不織布の目付は、10〜100g/m
2程度が好ましい。
10g/m
2以上とすることにより、適度な強度を付与することができ、また、100g/m
2以下とすることにより軽量化が図れるうえコストを抑えることができるからである。
また、光透過性がより良好なものを得たい場合は、目付が10〜30g/m
2程度の不織布を用いるとよい。さらに、吸湿性(結露の防止)がより良好なものを得たい場合は、30〜70g/m
2程度の目付のものを用いるとよい。
【0024】
また、不織布は、耐候性を有するものが好ましく、不織布を構成する繊維が耐候剤を含んでいるものを好ましく用いることができる。
また、不織布には、親水性油剤が付与されているものを好ましく用いことができる。不織布が吸湿あるいは保持した水蒸気が気温低下に伴って液体化した際に、その水分を繊維間に保持し易いためである。
また、機能性シートとして用いる不織布としては、連続繊維によって構成されるスパンボンド不織布を好ましく用いることができ、なかでも熱エンボス加工により多数の熱圧着部を有するスパンボンド不織布を好ましく用いることができる。
【0025】
不織布を構成する繊維としては、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部にポリエチレンが配された芯鞘型複合繊維によって構成される不織布を用いることが好ましい。なぜなら、この不織布は、シート本体10と固着させる際に、ヒートシーラ(
図8参照)により容易に固着させることができるためである。
また、固着においては、鞘部のポリエチレンが接着剤として寄与し、芯部のポリエチレンテレフタレートはヒートシール加工による熱の影響を受けず繊維形態を維持しているため、固着された個所の強度を保持することができる。
なお、本実施形態においては、機能性シート20として、芯鞘型複合繊維によって構成されるスパンボンド不織布であるユニチカ株式会社製の商品名「エルベス」、商品名「パスライト」を好ましく用いることができる。
【0026】
また、機能性シート20としては、上記のような不織布以外にも、布や紙(例えば和紙)によって形成することができる。
機能性シート20は、シート本体10に重ねられて農作物に対する吸湿性や遮光性を発揮するものであり、布や紙も不織布と同様に吸湿性に優れ、また、不透明で遮光性にも優れることから機能性シート20を構成するシート部材として用いることができる。
なお、機能性シート20として布や紙を用いる場合、目付量については上述した不織布の場合に準じて設定することが好ましい。
【0028】
そして、以上のようなシート本体10及び機能性シート20を備えてなる本実施形態の農業用シート1は、シート本体10を構成する積層気泡シートのキャップフィルム12(キャップ11)側に、不織布等からなる機能性シート20が重ねて配置されるとともに、矩形状のシート本体10の四辺のうち少なくとも一辺の縁部において機能性シート20が固着され、かつ、当該固着辺と対向する他の一辺において機能性シート20がシート本体10に固着されることなく開放されるようになっている。
図1に示す農業用シート1では、機能性シート20がシート本体10の一辺の縁部において固着され(固着部30)、同じく
図2に示す農業用シート1では、機能性シート20がシート本体10の三辺の縁部において固着されるようになっている(固着部30a,30b,30c)。
【0029】
上記
図1及び
図2で示したいずれの場合においても、機能性シート20はシート本体10に対して縁部においてのみ固着され、シートの大部分を占める面状部分はシート本体10に対して固着されず、従って、機能性シート20とシート本体10の間は離間した状態となっている。
また、このようにシート縁部においてのみ固着されるシート本体10と機能性シート20は、固着辺と対向する一辺においては、両シートが固着されることなく開放されるようになっている(開放部31)。
なお、シート本体10と機能性シート20は、少なくともシートの一辺において形成される固着部30と、これと対向する他の一辺において設けられる開放部31を備えていれば、
図1,2に示す以外にも、例えば機能性シート20とシート本体10とがシートの二辺において固着されるようにしても良い。
【0030】
より具体的には、機能性シート20は、シート本体10と重ねられた一辺(又は二辺又は三辺)の縁部において、当該縁部が連続する方向に沿って線状・帯状にシート本体10に固着されるようになっている(固着部30)。
この機能性シート20とシート本体10との固着・接合は、ヒートシーラ等を使用した融着(
図8,
図9参照)や、接着剤による接着、又は縫製によって行うことができる。
この機能性シート20とシート本体10をヒートシーラを用いて融着する場合については、
図8,
図9を参照しつつ後述する。
【0031】
以上のような構成を取ることによって、本実施形態に係る業用シート1は、機能性シート20の吸湿特性により温室内における農作物周囲の水分が吸収され、農作物に対する湿度制御が行え、また、機能性シート20の遮光性能により農作物に対する入射光量を調整・制御することができる。
特に、シート本体10と機能性シート20とは、シートの大部分を占める面状部分同士は固着されることなく互いに離間した状態となるため、上述した従来の農業用シートのように機能性シート20の吸水性がシート本体10によって損なわれることがなく、機能性シート20により農作物及びその周辺の水分や湿度を効率よく吸収することができるようになる。すなわち、機能性シート20は、シート本体10に対してシートの一辺(二辺,三辺)の縁部においてのみ接合されることで、機能性シート20がシート本体10と面状に密着することがなくなり、機能性シート20は、シート本体10に対して自由度を持った状態で取り付けられることになる。従って、従来の農業用シートのようにシート本体10が機能性シート20に密着して機能性シート20の吸水特性が損なわれるようなことがなくなる。
【0032】
そして、機能性シート20によって吸収された水分は、機能性シート20と対向して位置しているシート本体10を構成する積層気泡シートのキャップフィルム12によって吸収・保持され、シート外部に排出されることになる。上述のように、キャップフィルム12には多数の気泡が形成されており、各気泡の間には空間が存在している。このため、キャップフィルム12に重ねて配置される機能性シート20によって吸収された水分は、キャップフィルム12の気泡間の空間に移動・滞留し、その後、気泡間の空間を伝って雨樋効果によってシート下方に移動する。
【0033】
従って、シート本体10と機能性シート20の両シート縁部が固着されずに開放されている辺を下方(地面)に向けて農作物周囲に配置することで、上述したシート本体10のキャップフィルム12の雨樋効果により、機能性シート20が吸収した水分は、キャップフィルム12を経由してシート外部(下方)に落下・排出させることができるようになる。
これによって、シート本体10と離間している機能性シート20は吸水性・吸湿性を十分に果たすことができ、かつ、機能性シート20が吸収した水分は、シート本体10を介してシート外部に排出(落下)させることができ、水分が農作物に付着・落下することがなく、農作物を汚染水等の害から保護することができるようになる。
【0034】
さらに、シート本体10と機能性シート20とが一辺(又は二辺)において固着される場合においては、シート本体10又は機能性シート20を、固着部30を支点として固着されていない辺側からめくり上げることができ、両シートを展開させた状態とすることができる。これによって、後述する
図4に示すように、農業用シート1をシート本体10のみ、又は機能性シート20によって農作物を覆うように使用することが可能となる。
すなわち、機能性シート20が、シート本体10と一辺(又は二辺)の縁部においてのみ固着されることで、機能性シート20をシート本体10に対して展開させることが可能となり、両シートを展開及び重ね合わせのいずれの状態でも使用が可能となる。
これによって、シート本体10と機能性シート20を重ね合わせてシート本体10の保温性能及び機能性シート20の保湿性能や遮光性能を同時に使用し、また、シート本体10と機能性シート20を展開させてシート本体10又は機能性シート20のいずれか一方のみを使用することができるようになる。
【0035】
また、このような固着部30を形成することにより、二層のフィルムからなるシート本体10が一辺縁部において剛性が高まり、後述するように温室内に配置した支柱に農業用シート1を取り付ける際に、支柱に固着部30を簡単に巻き付けることができ、シート固定用の金具等の装着も容易となり、農業用シート1の設置作業が容易に行えるようになる(
図3〜5参照)。
また、このとき、固着部30がシートの支柱巻付側を示す目印ともなり、農業用シート1の取付作業性が更に向上する。
【0036】
また、このような固着部30を備えることで、農業用シート1を廃棄する際、固着部30に沿ってシート本体10と機能性シート20とを容易に引き剥がしたり切断することができるようになり、固着部30において固着されているシート本体10と機能性シート20とを簡単に分離させることができ、リサイクルの際のシート本体10と機能性シート20の分離・分別作業も容易に行えるようになる。
一辺縁部において線状・帯状にのみシート本体10と接合される機能性シート20は、その固着部を容易に剥離することができ、シート本体10から簡単に剥離・分離させることができ、廃棄の際の分別・リサイクル作業がきわめて容易に行えるようになる。
【0037】
さらに、以上のような固着部30を備えることでシートの剛性が高まることを利用して、例えば固着部30に紐止め用の貫通孔などを形成することもできる。
二層のフィルムが積層されて多数の気泡が形成される積層気泡シート自体には、紐を通すための孔などを形成することは困難であるが、積層気泡シートに機能性シート20を固着するために形成された固着部30に対しては、そのような貫通孔を形成することが可能となる。
そこで、そのような固着部30の特性を利用して、紐止めのための紐状部材を挿通可能な貫通孔を固着部30に形成することができる。そのような貫通孔を設けると、貫通孔に紐部材を挿通して温室内に設置された支柱等に縛って吊り下げたり固定したりすることができ、また、2枚の農業用シート1を貫通孔に挿通した紐部材で連結させて、2枚の農業用シート1を同時に配置・使用するようなことができ、シートの汎用性・拡張性を高めることができる。
【0038】
なお、そのような貫通孔は、機能性シート20も貫通するように形成されるものであるが、機能性シート20を構成する不織布や和紙,布の目が粗いため、機能性シート20自体には貫通孔が貫通していなくても紐状部材の挿通は可能となる。従って、そのような場合には、貫通孔は機能性シート20に対して貫通させるよう形成しなくても良いことになる。
また、固着部30に形成した貫通孔には、例えばはとめ,スリーブなどを装着することができ、このようにすると貫通孔10bに対する紐部材の挿通がより容易に行えるようになる。
【0039】
[使用方法]
次に、以上のような構成からなる本実施形態の農業用シート1の具体的な使用方法について、
図3〜5を参照しつつ説明する。
まず、
図3に示すように、本実施形態に係る農業用シート1は、温室に設置される支柱に吊り下げたり引っ掛けて設置・使用することができる。
図3(a)に示す例では、一枚の農業用シート1をシート本体10の上縁部の固着部30を形成した側を支柱100に巻装して、開放部31を下側(地面側)に向けて吊り下げて、巻装部分に留め具101を装着して固定している。シート本体10の固着部30は積層気泡シートと機能性シート20とが圧着・固化されており、支柱100への巻装、留め具101の装着が容易に行えるようになる。
【0040】
これにより、農業用シート1は、開放部31を下側(地面側)に向けた状態で支柱100からカーテン状に吊り下げられるようになり、農作物の周囲に所望の配置で設置することができる(
図5参照)。
従って、農作物の周囲に配置された農業用シート1の開放部31は、農作物や農作物の土壌から外れた位置の地面に向けて配置されることになり、機能性シート20で吸収された水分をシート本体10を介してシート下端の開放部31から排出させて、農作物や農作物の土壌に落下・付着させることなく、それ以外の地面や排水路等に排水することができるようになる。
【0041】
図3(b)に示す例では、一枚の農業用シート1を支柱100に引っ掛けるようにして、又は二枚の農業用シート1をシート本体10の上縁部の固着部30を形成した側同士を重ねて支柱100に巻装して、開放部31を下側(地面側)に向けて吊り下げて、巻装部分に留め具101を装着して固定している。
このようにすると、大判の一枚の農業用シート1を屋根状・傘状に設置して使用したり、複数枚(二枚)の農業用シート1を連結した大きさで使用でき、より広い面積に対して農業用シート1を配置でき、例えば支柱100に巻装されている部分を頂点とした屋根状,傘状に農業用シート1を設置することができる。
なお、この場合、農作物と対向する面側に機能性シート20が向くように農業用シート1を配置する。具体的には、
図3(b)に示すように、屋根状,傘状の農業用シート1の内側に機能性シート20が配置されるようにする。
【0042】
また、農業用シート1は、
図4(a)に示すように、複数の支柱100の間に掛け渡して設置することもできる。
同図に示す例では、水平方向に配置した二本の支柱100の一方に農業用シート1を固定し、他方の支柱に農業用シート1の反対側を掛けるようにして配置してある。
また、農業用シート1は、シート本体10と機能性シート20との固着部30がシートの一辺縁部にのみ形成されている場合(
図1参照)には、シート本体10と機能性シート20が重ね合わされた状態から、両シートを展開させた状態で使用することができる。すなわち、この場合には、上述した
図4(a)では、農業用シート1のシート本体10と機能性シート2を重ね合わせた状態で農作物を覆うことができるが、この状態から、
図4(b)に示すように、シート本体10をめくり上げて展開させることで、機能性シート20のみ又はシート本体10のみで農作物を覆うようにすることができる。
【0043】
以上のように設置できる農業用シート1の温室内の配置例を
図5において模式的に示す。
同図(a)に示す例では、農業用シート1を農作物の左右を覆うカーテン状に吊り下げて配置してある。
同図(b)に示す例では、上記(a)で示した配置に対して、更に農作物の上面を覆うように農業用シート1を配置してある。
また、同図(c)に示す例では、農作物の上面及び左右をハウス状に覆うようにして農業用シート1を配置している。
同図に示すように、農業用シート1は農作物の周囲に配置されており、農業用シート1の下端側は、農作物の土壌から外れた位置にあり、機能性シート20で吸収された水分はシート本体10を介してシート下端から排出されて、農作物や農作物の土壌に落下・付着することはない。
【0044】
なお、上記(a)〜(c)の各場合において、農業用シート1は、機能性シート20が農作物と対向する面側に位置するように配置する。これによって、シート本体10と機能性シート20を重ね合わせた状態で農作物を覆うことができるとともに、シート本体10をめくり上げて展開させることで、機能性シート20のみで農作物を覆うようにすることもできる。
また、特に図示しないが、温室内では農業用シート取付用の支柱が高さ方向に複数設置されることがあり、そのような場合に、農業用シート1はシート本体10と機能性シート20とが一辺縁部においてのみ固着されているため、シート本体10と機能性シート20を高さ方向に複数配設された支柱の両側に分けて垂らすように配置することもできる。これによって機能性シート20の吸湿性・吸水性をより効果的に発揮させることが可能となる。
【0045】
[積層気泡シート]
次に、以上のような本実施形態の農業用シート1を構成する積層気泡シートについて説明する。
本実施形態に係る農業用シート1は、シート本体10の全ての部分が、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)を含むポリオレフィン製のフィルムからなる積層気泡シートを用いて形成されるようになっている。
ここで、ポリエチレンフィルムを用いて積層気泡シートを形成する場合、積層気泡シートを構成するポリエチレンフィルムの材料となるポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)、エチレン−酢酸ビニル重合体などが例示できる。また、これらの材料を任意に混合して用いてもよい。
また、ポリエチレンフィルムの材料となる樹脂組成物には、農業用シート1の用途に応じて、非ハロゲン系の高級脂肪酸、高級脂肪族アミド、金属せっけん、グリセリンエステル等の滑剤、等のアンチブロッキング剤、フェノール系、りん系、BHT等の酸化防止剤、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、HALS等の紫外線吸収剤、タルク、珪藻土、マイカ等の無機・有機充填剤、帯電防止剤、界面活性剤などを添加することができる。
【0046】
農業用シート1のシート本体10を、このようなポリエチレンフィルムからなる積層気泡シートを用いて形成することで、農業用シート1のシート本体10によって仕切られた空間が連続する積層気泡シートによって覆われることになり、積層気泡シートの保温性により空間内の気温が保たれ、風等も防がれるとともに、半透明や有色透明,不透明の積層気泡シートによって遮光効果も得られる。
また、積層気泡シートは、軽量で柔軟性,可撓性に優れ、保管,運搬等が容易で、農業用シート1の非使用時にはロール状に巻いた状態で保管,運搬等が可能できわめて便利である。
【0047】
なお、農業用シート1で覆う空間の遮光性を高める場合には、積層気泡シートを不透明に形成することができる。その場合、例えば後述するキャップフィルム12やバックフィルム13(
図6参照)が不透明となるように彩色することにより、不透明な積層気泡シートを形成することができる。
また、積層気泡シートの後述するキャップフィルム12やバックフィルム13(
図6参照)の表面には、文字や絵,模様等を印刷等で表示することができ、例えば農業用シート1を使用する農家や業者名,農園名,土地名,農作物名等の文字を表示したり、農作物等を示す絵や図柄や模様などを表示させることができる。
【0048】
また、全体が積層気泡シートで形成される農業用シート1のシート本体10は、ハサミやカッター等で裁断することができ、設置する温室内のスペースや形状、農業用シート1で覆う高さや面積等に応じて、シート本体10を適宜裁断・加工することができ、汎用性,拡張性に優れた農業用シートを提供することができる。
なお、積層気泡シートはミシン目や切れ込み,ノッチ等の加工を施すことも容易であり、積層気泡シートで構成された農業用シート1の任意の箇所にミシン目や切れ込み,ノッチ等を形成することができる。これにより、形成したミシン目や切れ込み,ノッチに沿って積層気泡シートを容易かつ正確に切断することができ、農業用シート1の裁断性を向上させることができる。例えば、固着部30に沿って固着部30が形成された縁部とそれ以外のシート本体部分との間にミシン目や切れ込み,ノッチ等を形成することができ、これによって、固着されている機能性シート20を容易にシート本体10から切り離すことができるようになる。
さらに、全体が積層気泡シートからなる農業用シート1のシート本体10は、使用後においては、包装用材,緩衝材等に流用できる他、機能性シート20と分離したシート本体10はそのままリサイクルすることができ、分別作業や焼却処分等する必要もない。
【0049】
図6は、本実施形態に係る農業用シート1のシート本体10を構成するポリエチレンフィルムからなる積層気泡シートの例を模式的に示す説明図であり、二層気泡シートの概略要部斜視図である。
本実施形態に係る農業用シート1のシート本体10は、
図6に示すように二層気泡シートを用いている。
同図に示すように、二層気泡シート(シート本体)10は、中空状に膨出する多数のキャップ11が形成されたキャップフィルム12と、キャップフィルム12のキャップ開口側に積層されるバックフィルム13とを備えた二層構造の積層気泡シートである。
【0050】
このように、本実施形態では二層式の気泡シートを農業用シート1のシート本体10として用いており、シート本体10は、キャップフィルム12のバックフィルム13を積層した面と反対側の面にキャップ11が露出・膨出するようになっており、このキャップフィルム12のキャップ膨出側に、上述した機能性シート20が重ねられて配置されるようになっている。
そして、キャップシート12のキャップ11が露出する面に機能性シート20を対向配置することで、機能性シート20で吸収された水分が複数のキャップ間の隙間に取り込まれて滞留・移動し、キャップ間の隙間を伝わって水分が落下することになる。
このようにして、本実施形態の二層式の積層気泡シートにより、機能性シート20の吸湿性・吸水性が損なわれることなく、かつ、積層気泡シートによる保温性が損なわれることなく、機能性シート20によって吸収された水分を積層気泡シートを介してシート外部に排出させることができるようになる。
【0051】
[農業用シートの製造方法]
次に、以上のような本実施形態に係る農業用シート1の製造方法について、
図7〜9を参照して説明する。
図7は、農業用シート1のシート本体10を構成する積層気泡シートの製造装置の一例を示す説明図である。本実施形態の農業用シート1のシート本体10に用いる積層気泡シートは、この図に示すような製造装置5を用いて製造することができる。
【0052】
同図に示す製造装置5は、
図6に示した二層の積層構造の気泡シートを製造するための装置である。
積層気泡シートの各層の材料の一例を挙げると、例えば下記のものを用いることができる。但しこれらに限定されるものではない。
キャップフィルム12:約30%のHDPE、残りはLDPE及び/又はLLDPE
バックフィルム13:約30%のHDPE、残りはLDPE及び/又はLLDPE
【0053】
製造装置5は、二つのフラットダイ51,52と、成形ロール55と押圧ロール56を備えている。
二つのフラットダイ51,52は、それぞれ前述した樹脂材料を所定の厚みで押し出すことによって、フラット状のキャップフィルム12及びバックフィルム13が連続的に供給される。
キャップフィルム用のフラットダイ51から供給されたフラット状のキャップフィルム12は、成形ロール55に供給される。
【0054】
成形ロール55には、外周面に多数のキャビティ孔551が設けられている。
各キャビティ孔551は、図示しない真空ポンプにつながっており、キャビティ孔551を真空吸引することにより、キャップフィルム12に中空状に膨出する多数のキャップ11が形成される。
ここで、キャップ11を形成するキャビティ孔551は、孔内に装着するプラグを着脱・交換することにより孔形状を変更することができ、キャップ11を所望の形状に形成することができる。従って、上述したように、キャップ11の形状を平面視円形,三角形,四角形,楕円形,多角形等、任意の形状とすることができ、また、キャップの外形をキャップ頂部に向かって細くなるテーパ形状、例えば切頭円錐台や切頭角錐台形状、半球形状、半楕円球形状等とすることができ、キャップフィルム12による水分の雨樋機能を効果的に発揮させるようにすることができる。
【0055】
キャップ11が形成されたキャップフィルム12は、成形ロール55と押圧ロール56との間で、バックフィルム用のフラットダイ52から供給されるバックフィルム13と積層され、熱融着により一体化される。
これにより、農業用シート1のシート本体10の製造に用いる原反状態の積層気泡シートが得られる。
【0056】
図8は、本実施形態の農業用シート1を構成するシート本体10に対して、機能性シート20を重ね合わせて一辺縁部側を固着して固着部30を形成して農業用シート1を製造する製造工程の一例を示す説明図である。
同図に示すように、シート本体10と機能性シート20とが一辺側の縁部において固着・接合される農業用シート1は、原反状態のシート本体(積層気泡シート)10と機能性シート(不織布シート)20がそれぞれ用意され、これら二つ(2枚)のシート10,20が、それぞれ短手方向の端部及び長手方向の両縁部が位置合わせされた状態で重ね合わされる。このとき、シート本体10のキャップフィルム12のキャップ膨出側に機能性シート20が対向するようにして重ね合わされる。
そして、この重ね合わされた状態の2枚のシート材(シート本体10,機能性シート20)に対して、エンドレスシーラー6a,6bによってシート材長手方向の一方の縁部が連続的にヒートシールされる。
【0057】
エンドレスシーラー6a,6bは、
図8に示すように、重ね合わされた2枚のシート材(シート本体10,機能性シート20)の長手方向縁部を連続的に融着できるように、シート材の長手方向と平行に配設された1本一対の加熱部(ヒーター等)が備えられている。このエンドレスシーラー6a,6bによってシート本体10,機能性シート20の重ね合わされた一側縁部が挟持,加熱されることで、シート本体10,機能性シート20の長手方向縁部に沿って一本の連続する融着部となる固着部30が形成される。これにより、シート本体10と機能性シート20が重ね合わされた状態で固着・接合されて農業用シート1となる。
なお、このシート本体10と機能性シートの融着用のシーラーとしては、エンドレスタイプ以外の間欠的・バッチ的に融着処理が行われるタイプのシーラーを使用することも可能である。
【0058】
その後、以上のように形成された農業用シート1は、長手方向(固着部30が連続する方向)が所定の長さとなるように固着部30を形成した方向と直交する方向で裁断され、あるいは裁断されずにロール状に巻かれて出来上がる。
なお、裁断されていない農業用シート1に対して、所定箇所において裁断し易いように一定の間隔等で易裁断加工(例えばノッチやミシン目加工等)を施しておくことができる。
ロール状に巻かれた農業用シート1は、ロール状のまま搬送,出荷,保管等されたり、ロールから所定の長さに引き出されて裁断された農業用シート1が個別に搬送,出荷,使用等されることになる。
【0059】
図9は、
図8で示した工程でシートの一辺に固着部30が形成された農業用シート1に対して、他の一辺又は二辺に固着部30を形成する製造工程の一例を示す説明図である。
同図に示すように、固着部30をシートの二辺又は三辺に形成する場合には、シート本体10と機能性シート20とが一辺側の縁部において固着・接合される固着部30が形成された農業用シート1に対して、固着部30が形成されたシート長手方向と直交するシート短手方向に対して、所定間隔でヒートシールが行われる。
シーラー7a,7bは、
図9に示すように、重ね合わされた2枚のシート材(シート本体10,機能性シート20)の短手方向に、シート材の短手方向の長さとほぼ同じ長さの固着部30を所定間隔で融着形成できるように、シート材の長手方向と直交して配設された1本一対の加熱部(ヒーター等)が備えられている。
【0060】
このシーラー7a,7bによってシート本体10,機能性シート20が重ね合わされた状態で挟持,加熱されることで、シート本体10,機能性シート20の長手方向に沿って、当該長手方向と直交する方向に所定間隔で融着部となる固着部30が形成され、シートの二辺又は三辺に固着部30が形成された農業用シート1が製造される。
なお、このシート本体10と機能性シートの融着用のシーラーとしては、間欠的・バッチ的に融着処理が行われるタイプのシーラーを使用する。
その後は、
図8で示した場合と同様、農業用シート1は、シート長手方向と直交して形成された固着部30が各シートに含まれるように、所定間隔でシート長手方向と直交する方向で裁断され、あるいは裁断されずにロール状に巻かれて出来上がる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の
農業用シートの使用方法及びそれに用いられる農業用シート1によれば、保温性用のシートとなるシート本体10と保湿性や遮光性用のシートとなる機能性シート20の双方を備えつつ、シート本体10と機能性シート20とは一辺(又は二辺又は三辺)縁部においてのみ固着・接合されており、シート本体10と機能性シート20とが面状に密着することはなく、両シートは互いに自由度を持ったまま吊り下げ等されることになる。
これによって、シート本体10が機能性シート20に密着することによって機能性シート20の吸水特性が損なわれるようなことがなくなり、シート本体10と機能性シート20双方の機能を有効に発揮させることができる。
【0062】
また、機能性シート20によって吸収された水分は、機能性シート20と対向して位置しているシート本体10を構成する積層気泡シートのキャップフィルム12によって吸収・保持され、シート外部に排出されるようになる。シート本体10のキャップフィルム12には多数の気泡が形成され各気泡の間には空間が存在しており、機能性シート20によって吸収された水分はキャップフィルム12の気泡間の空間に移動・滞留し、その後、気泡間の空間を伝って雨樋効果によってシート下方に移動する。
そして、シート下方に位置する一辺は、シート本体10と機能性シート20の両シート縁部が固着されずに開放された開放部31となっており、この開放部31から機能性シート20が吸収した水分をシート外部に排出されることになる。
このようにして、シート本体10のキャップフィルム12の雨樋効果により、機能性シート20が吸収した水分は、キャップフィルム12を経由してシート外部(下方)に落下・排出させることができ、水分を農作物に付着・落下させることなく地面に排水でき、農作物を汚染水等の害から保護することができる。
【0063】
また、シート本体10と機能性シート20とは一辺縁部においてのみ固着・接合されている場合には、シート本体10と機能性シート20とは重ね合わせた状態から両シートを展開させた状態とすることができ、展開及び重ね合わせが自由に行えるようになる。
このため、シート本体10と機能性シート20を重ね合わせた状態で、シート本体10の保温性能及び機能性シート20の保湿性能や遮光性能を同時に使用することができ、また、シート本体10と機能性シート20を展開させることで、シート本体10又は機能性シート20のいずれか一方のみを使用することもできる。このように、本実施形態の農業用シート1は、シート本体10及び機能性シート20を同時にも選択的にも使用することが可能であり、農業用シートとしての利便性,汎用性,拡張性等を大幅に向上させることができる。
【0064】
さらに、シートの縁部においてのみ固着・接合されているシート本体10と機能性シート20は、シート縁部の固着部を剥離することにより、また、シート縁部の固着部のみを切断することにより、両シート10,20をきわめて容易に分離することができる。
このように、本実施形態に係る農業用シート1では、材質の異なる2枚のシート10,20が容易に分離可能となっており、廃棄の際の分別作業がきわめて容易となり、リサイクル性にも優れた農業用シートを提供することができる。
【0065】
以上、本発明の
農業用シートの使用方法及びそれに用いる農業用シートについて、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係る
農業用シートの使用方法及び農業用シートは、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることは言うまでもない。