特許第5912595号(P5912595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5912595-赤外線吸収剤及び保温性樹脂組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912595
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】赤外線吸収剤及び保温性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20160414BHJP
   C01F 5/24 20060101ALI20160414BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160414BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20160414BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   C09K3/00 105
   C01F5/24
   C08L101/00
   C08K3/26
   C08K9/00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-20737(P2012-20737)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-159655(P2013-159655A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390036722
【氏名又は名称】神島化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠二
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−036916(JP,A)
【文献】 特開昭58−096637(JP,A)
【文献】 特開2005−272752(JP,A)
【文献】 特公平03−050791(JP,B2)
【文献】 特開2006−160979(JP,A)
【文献】 特開2004−010730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C01F 5/24
C08K 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が3.7〜15m2/g、平均粒子径が0.5〜2.5μmの合成無水炭酸マグネシウムを主成分とする赤外線吸収剤。
【請求項2】
BET比表面積が5〜15m/g、平均粒子径が0.6〜2μmの合成無水炭酸マグネシウムを主材料とする請求項1の赤外線吸収剤。
【請求項3】
合成無水炭酸マグネシウム100質量%当たり0.1〜5質量%の表面処理剤により、合成無水炭酸マグネシウム粒子の表面が被覆されていることを特徴とする、請求項1または2の赤外線吸収剤。
【請求項4】
合成樹脂100質量%当たり、請求項1〜3のいずれかの赤外線吸収剤1〜50質量%が配合されている保温性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波長5〜10μmで高い赤外線吸収能を示す赤外線吸収剤及び保温性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化マグネシウム等の無機化合物を赤外線吸収剤として合成樹脂に配合し、温室用の農業用フィルム等とすることが行われている。例えば特許文献1(特公平3−50791)は、BET比表面積が2〜15m2/g、2次粒子径が2μm以下の粒子が90%以上の水酸化マグネシウムを赤外線吸収剤とすることを開示している。また特許文献2(特開昭63−149147)は、ハイドロタルサイト(Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O)を配合した農業用フィルムを開示している。さらに特許文献3(特許3933297)は、塩基性炭酸マグネシウム(nMgCO3・Mg(OH)2・mH2O:nは3〜5,mは0〜3)を配合した農業用フィルムを開示している。
【0003】
しかしながら発明者の実験によると、水酸化マグネシウムは波長5〜10μmでの赤外線吸収能が低かった。またハイドロタルサイトと塩基性炭酸マグネシウムは波長5〜10μmである程度の赤外線吸収能を示したが、合成樹脂と混合して200℃程度で成型すると発泡した。このような発泡は農業用フィルム等の保温性樹脂組成物の外観を損ねる。
【0004】
特許文献4(特許4455911)は、無水炭酸マグネシウムをエンジニアリングプラスチックのフィラーとすると、熱伝導性と難燃性を付与できることを開示している。そして無水炭酸マグネシウムは、BET比表面積が1〜15m2/g、平均粒子径が1〜10μmが良いとしている。しかしながら特許文献4は、無水炭酸マグネシウムの赤外線吸収能あるいは保温性樹脂への応用については検討していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−50791
【特許文献2】特開昭63−149147
【特許文献3】特許3933297
【特許文献4】特許4455911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、波長5〜10μmでの赤外線吸収能に優れ、かつ200℃程度で成型しても発泡が少ない赤外線吸収剤及び保温性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、BET比表面積が3.7〜15m2/g、平均粒子径が0.5〜2.5μmの合成無水炭酸マグネシウムを主成分とする赤外線吸収剤にある。なおこの明細書で”〜”は下限以上で上限以下であることを意味し、平均粒子径はレーザー回折法により粒度分布を測定した際の平均値を意味する。”主成分”とは合成無水炭酸マグネシウム以外に表面処理剤等の補助的な成分を含んでいても良いことを意味し、例えばBET比表面積が0.5〜15m2/g、平均粒子径が0.5〜15μmとすると、この範囲の合成無水炭酸マグネシウムを例えば80質量%以上含有することを意味する。
【0008】
この発明の合成無水炭酸マグネシウムは、波長5〜10μmにおいて比較的高い赤外線吸収能を示し、かつ200℃程度の温度で、より具体的には170℃〜230℃で合成樹脂と混合して成型しても発泡が少ない。なお赤外線を吸収する波長は、合成無水炭酸マグネシウムの粒成長が進み、BET比表面積が小さく平均粒子径が大きくなると共に、長波長側にシフトする傾向がある(図1)。
【0009】
合成無水炭酸マグネシウムの平均粒子径が0.5μm未満あるいはBET比表面積が15m/g超では、合成樹脂中で合成無水炭酸マグネシウムが再凝集して、樹脂組成物が外観不良となる。また平均粒子径が15μm超あるいはBET比表面積が0.5m/g未満では、赤外線吸収能が低下する。
【0010】
図1及び表1に示すように、BET比表面積が比較的大きくかつ平均粒子径が比較的小さい場合に、赤外線吸収能が高くなる傾向があり、特に波長6〜9μm、より具体的には波長6.5〜7.5μmでの赤外線吸収能が高くなる。そして波長6.5〜7.5μm等での赤外線吸収能を高くすることにより、波長5〜10μmでの平均的な赤外線吸収能が高くするために、合成無水炭酸マグネシウムはBET比表面積が3.7〜15m2/g、平均粒子径が0.5〜2.5μmとし、BET比表面積が5〜15m/g、平均粒子径が0.6〜2μmがより好ましく、BET比表面積が7〜15m/g、平均粒子径が0.7〜1.5μmが最も好ましい。
【0011】
合成無水炭酸マグネシウムを合成樹脂中に分散させるには、例えば合成無水炭酸マグネシウム100質量%当たり0.1〜5質量%の表面処理剤により、合成無水炭酸マグネシウム粒子の表面を被覆することが好ましい。表面処理剤は、例えば炭素数が8〜26、好ましくは炭素数が10〜22の高級脂肪酸、前記の高級脂肪酸のナトリウム塩等の金属塩、前記の高級脂肪酸のエステル、前記の高級脂肪酸のアマイド、炭素数が例えば5〜26の高級アルコール等であり、高級アルコールはネオペンチルポリオール等の多価アルコールでも良い。硬化油、シランカップリング剤、アルコールリン酸エステル等も表面処理剤として用いることができる。
【0012】
この発明の合成無水炭酸マグネシウムは、中性炭酸マグネシウム(MgCO3・nH2O;nは例えば0〜3)をオートクレーブ中で水熱処理した後に乾燥することにより製造される。
【0013】
この発明の保温性樹脂組成物では、合成樹脂100質量%当たり、この発明の赤外線吸収剤を1〜50質量%配合する。合成樹脂は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンが好ましく、例えばフィルム状あるいはシート状等に成型して、温室用あるいは建築材料用等に用いる。そしてこの発明の保温性樹脂組成物は、波長5〜10μmでの赤外線吸収能が比較的高いので、太陽光中の赤外線等を吸収して保温性を発揮し、200℃等で成型しても発泡しないので、農業用フィルム等の外観に優れている。赤外線吸収剤の配合部数が1質量%未満では赤外線吸収能が不十分で、50質量%超では樹脂組成物の強度・伸び・柔軟性が損なわれる。赤外線吸収能と樹脂組成物の強度・伸び・柔軟性のバランスから、赤外線吸収剤の配合部数は好ましくは2〜20質量%とし、さらに好ましくは5〜10質量%とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例及び比較例の赤外線吸収剤を10質量%配合した樹脂組成物の赤外線吸収スペクトルで、縦軸は透過率Tを、横軸は波長を示す。図中のblankは赤外線吸収剤を配合しない試料の赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下にこの発明の実施例を示し、この発明の実施に際しては、実施例に公知技術を加味して変更を施すことができ、実施例はこの発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0016】
赤外線吸収剤の調製(実施例1)
容量100Lの攪拌機付きオートクレーブに0.3mol/Lの濃度に調製した中性炭酸マグネシウム(MgCO3・3H2O)懸濁液50Lを入れ、攪拌しながら200℃で10時間の水熱処理を行った。得られた懸濁液を脱水後、120℃で10時間乾燥し、平均粒子径12μmでBET比表面積0.5m/gの合成無水炭酸マグネシウムを得た。乾燥温度は例えば100℃〜160℃が好ましい。乾燥後の無水炭酸マグネシウム100質量%に対して、0.5質量%のステアリン酸を添加して、温度100℃にて乾式で表面処理した。なお実施例1は特許請求の範囲には含まれない。
【0017】
赤外線吸収剤の調製(実施例2)
容量100Lの攪拌機付きオートクレーブに1mol/Lの濃度に調製した中性炭酸マグネシウム懸濁液70Lを入れ、攪拌しながら180℃で5時間の水熱処理を行った。得られた懸濁液(炭酸マグネシウムの形態は無水炭酸マグネシウム)をそのままボールミルに入れて5時間粉砕した後、無水炭酸マグネシウムに換算した固形分100質量%に対して、3質量%のステアリン酸ナトリウムを添加して表面処理し、脱水後、120℃で10時間乾燥した。このようにして、平均粒子径0.9μmでBET比表面積14m/gの合成無水炭酸マグネシウムを得た。
【0018】
赤外線吸収剤の調製(実施例3)
140℃で5時間の水熱処理を行い、1質量%のステアリン酸で乾式表面処理をした以外は、実施例1と同様な操作を行って、平均粒子径2.3μmでBET比表面積4m/gの合成無水炭酸マグネシウムを得た。
【0019】
赤外線吸収剤の調製(実施例4)
130℃で8時間の水熱処理を行った後にボールミルにて5時間の粉砕を行い、2質量%のステアリン酸ナトリウムで湿式表面処理をした以外は、実施例2と同様な操作を行って、平均粒子径1.1μmでBET比表面積6m/gの合成無水炭酸マグネシウムを得た。
【0020】
比較例1
マグネサイト鉱を粉砕した無水炭酸マグネシウム粉末(平均粒子径約100μmでBET比表面積0.1m/g)を水に懸濁して1mol/Lの濃度に調製し、ボールミルで2時間粉砕した後、無水炭酸マグネシウム換算の固形分100質量%に対して、1質量%のステアリン酸ナトリウムを添加して表面処理し、脱水後、120℃で10時間乾燥した。このようにして、平均粒子径13μmでBET比表面積6m/gの天然無水炭酸マグネシウムを得た。
【0021】
比較例2
市販のハイドロタルサイト(商品名:DHT-4A「DHT-4A」は協和化学工業株式会社の登録商標)を赤外線吸収剤とした。
【0022】
比較例3
市販の水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5A「キスマ」は協和化学工業株式会社の登録商標)を赤外線吸収剤とした。
【0023】
比較例4
市販の塩基性炭酸マグネシウム(商品名:金星「金星」は神島化学工業株式会社の商品名)を赤外線吸収剤とした。
【0024】
樹脂組成物の調製と赤外線吸収量の評価
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(三井デュポン株式会社製、商品名:EV-180) 100質量%に対し、実施例及び比較例の赤外線吸収剤1〜50質量%、および滑剤(ソルビタン酸モノステアレート) 1質量%を配合し、東洋精機製ラボプラストミルを用いて、200℃で5分間、回転数50rpmで溶融混練した。さらに混練物を200℃でプレス成型して、厚み1mmのシートを作成した。得られたシートを用いて、フーリエ変換型赤外分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製FT-IR/ATR法)にて、波長5〜10μm(波数2000〜1000cm−1)範囲の赤外線吸収量を測定し、赤外線吸収面積を求めた。
【0025】
図1は、実施例及び比較例の赤外線吸収剤を10質量%配合した樹脂組成物の、赤外線吸収スペクトルを示す。なお、図中のblankは赤外線吸収剤を配合しない樹脂のスペクトルである。実施例1は波長8.5〜10μmでの吸収能が高く、実施例2は波長6.5〜7.5μmでの吸収能が著しく高い。これに対して比較例1(天然無水炭酸マグネシウム)は赤外線吸収能が低く、比較例2(ハイドロタルサイト)は6μm強等の一部の波長を除いて実施例1,2よりも赤外線吸収能が低い。また比較例3(水酸化マグネシウム)は赤外線吸収能を示さない。
【0026】
表1は、実施例及び比較例の赤外線吸収剤を1〜20質量%配合した、樹脂組成物の赤外線吸収面積を示す。なお赤外線吸収面積は波長5〜10μmでの吸収率の積分値で、図1での透過率Tに対し吸収率を100-T%として、波長5〜10μmに渡って積分したものである。そしてblankでの赤外線吸収面積は47.1%なので、これとの差が赤外線吸収剤の効果を表している。実施例2は、全ての配合部数でどの試料よりも赤外線吸収面積が大きい。実施例1は、配合部数が1〜10質量%では、比較例1〜4のいずれよりも赤外線吸収面積が大きい。しかし配合部数が20質量%では比較例4よりも赤外線吸収面積が小さく、その原因は合成樹脂中での分散状態等にあるものと考えることができるが、詳細は不明である。また実施例1,2(合成無水炭酸マグネシウム)は、比較例1(天然無水炭酸マグネシウム)よりも大きな赤外線吸収面積を有している。実施例2で実施例1よりも大きな赤外線吸収面積が得られたことから、合成無水炭酸マグネシウムはBET比表面積が3.7〜15m2/g、平均粒子径が0.5〜2.5μmが好ましく、BET比表面積が5〜15m/g、平均粒子径が0.6〜2μmがより好ましく、BET比表面積が7〜15m/g、平均粒子径が0.7〜1.5μmが最も好ましい。
【0027】
【表1】
【0028】
表2は、実施例及び比較例の赤外線吸収剤を1〜20質量%配合した樹脂組成物のシート外観(発泡)評価結果で、外観が良好なものが○、発泡が認められるが顕著でないものを△、発泡が顕著なものを×とした。素材が無水炭酸マグネシウム(実施例1,2,比較例1)あるいは水酸化マグネシウム(比較例3)であれば、20質量%配合しても発泡は生じないが、ハイドロタルサイト(比較例2)あるいは塩基性炭酸マグネシウム(比較例4)では、5質量%以上配合すると問題が生じ、10質量%以上では外観不良となることが分かる。シートの強度、伸び、柔軟性はいずれの場合も赤外線吸収剤の配合量と共に低下したので、合成樹脂100質量%当たりの赤外線吸収剤の配合量は20質量%以下、特に10質量%以下が好ましい。
【0029】
【表2】
図1