特許第5912687号(P5912687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5912687熱可塑性樹脂チューブの溶着装置及び溶着方法
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  • 特許5912687-熱可塑性樹脂チューブの溶着装置及び溶着方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912687
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂チューブの溶着装置及び溶着方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20160414BHJP
   B23K 26/32 20140101ALI20160414BHJP
   B23K 26/06 20140101ALI20160414BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20160414BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20160414BHJP
【FI】
   B29C65/16
   B23K26/32
   B23K26/06
   B23K26/073
   B29L23:00
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-52967(P2012-52967)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-184437(P2013-184437A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】803000045
【氏名又は名称】株式会社キャンパスクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 晏夫
(72)【発明者】
【氏名】舘 修二
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0099470(US,A1)
【文献】 特開2001−191412(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0215963(US,A1)
【文献】 特開2006−205515(JP,A)
【文献】 特開2012−030559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/16
B23K 26/06 − 26/073
B23K 26/32
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異径の熱可塑性樹脂チューブである外側チューブと内側チューブとを密着するように嵌め合わせた嵌合体を赤外線レーザー光を用いて加熱溶着する装置であって、
前記嵌合体を支持する支持部材と、
前記外側チューブの外周側に接触するように配置される赤外線透過性の固体ヒートシンクと、
前記内側チューブの内周に接するように内側チューブ内に挿入される金属棒又は金属チューブと、
前記固体ヒートシンク側に配置され、当該固体ヒートシンクを通して前記嵌合体に赤外線レーザー光を照射するレーザー光源とを具備することを特徴とする熱可塑性樹脂チューブの溶着装置。
【請求項2】
前記固体ヒートシンクとレーザー光源との間に、前記嵌合体に照射される赤外線レーザー光の断面積を規定するマスクが介設されることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂チューブの溶着装置。
【請求項3】
前記嵌合体に照射される赤外線レーザー光の直径が、前記外側チューブの直径以上に設定されることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂チューブの溶着装置。
【請求項4】
前記外側チューブの外径が3mm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂チューブの溶着装置。
【請求項5】
2つの異径の熱可塑性樹脂チューブである外側チューブと内側チューブとを密着するように嵌め合わせて嵌合体を構成する工程と、
前記内側チューブの内側にそれの内周に接するように金属棒又は金属チューブを挿入する工程と、
前記嵌合体を支持部材上に支持する工程と、
前記外側チューブの外周側に接触するように赤外線透過性の固体ヒートシンクを配置する工程と、
前記固体ヒートシンク側のレーザー光源から当該固体ヒートシンクを通して前記嵌合体に赤外線レーザー光を照射する工程とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂チューブの溶着方法。
【請求項6】
前記固体ヒートシンクとレーザー光源との間に、前記嵌合体に照射される赤外線レーザー光の断面積を規定するマスクを介設する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂チューブの溶着方法。
【請求項7】
前記嵌合体に照射される赤外線レーザー光の直径が、前記外側チューブの直径以上に設定されることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂チューブの溶着方法。
【請求項8】
前記外側チューブの外径が3mm以下であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂チューブの溶着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂製チューブの溶着方法に関するものであり、さらに詳しくは、内外二重に嵌め合わされた2つの熱可塑性樹脂製のチューブを赤外線レーザー光の照射により溶着する装置と溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線レーザー光による熱可塑性樹脂部材の溶着方法として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この方法は、支持体の上に2つの熱可塑性樹脂部材を重ね合せ、さらにその上に赤外線透過性固体を重ね合せて重合群を形成し、この重合群に対して赤外線透過性固体側から赤外線レーザー光を照射するものである。この場合、赤外線透過性固体と接触する熱可塑性樹脂部材の境界温度が相対的に低くなり、浸透した赤外線エネルギーにより、その内部でより高温となった領域を発現し得る。その結果、熱可塑性樹脂部材の赤外線レーザー光照射側の表層での熱損傷による表面性状の悪化が抑制される一方、2つの熱可塑性樹脂部材の境界温度が相対的に高くなって、短時間のうちにこの境界部分に溶着層を得ることができる。この方法は、透明な樹脂部材同士の溶着にも適用できる。
【0003】
また、特許文献2にはこの方法の各種樹脂部材への適用実験例が示されており、樹脂チューブ溶着への応用として、軟質ポリオレフィンチューブとポリオレフィン成形体の嵌合部を回転機構を用いて溶着した実験例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−101560号公報
【特許文献2】特許第4279674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2つの異径の合成樹脂チューブ同士を嵌め合わせて赤外線レーザー光を照射して溶着するためには、チューブの回転機構やレーザースキャン機構などによりチューブの外周全体に赤外線レーザー光を照射することと、赤外線レーザー光照射による外挿チューブ表面の損傷を防ぐために固体ヒートシンクをチューブ回転に同期して移動させる付帯装置などが必要である。特に、極小チューブへ適用する場合には、精密なチューブ回転機構および固体ヒートシンク移動保持機構が必要となりコスト高となるなどの問題があった。
【0006】
レーザー光照射による溶着以外の方法としては、接着剤による接着方法と、超音波振動の摩擦加熱による溶着方法があるが、前者は接着剤の化学的性質による用途の制限があり、後者は樹脂の種類、形状による制限があると共に、加工に比較的長時間を要する難点がある。
【0007】
したがって、本発明は、レーザー光の吸収を高めるためにチューブを着色することなく、透明樹脂チューブ同士の溶着を可能とし、比較的小径の透明樹脂チューブについて、複雑なチューブ回転機構や高価なレーザースキャン機構を用いることなく、簡単な機構により、短時間で加工できる溶着装置と、それによる溶着方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の溶着装置は、2つの異径の熱可塑性樹脂製チューブである外側チューブ1と内側チューブ2とを嵌め合わせた嵌合体3を支持する支持部材6と、外側チューブ1の外周側に接触するように配置される赤外線透過性の固体ヒートシンク7と、内側チューブ2の内周に接するように内側チューブ2内に挿入される金属棒又は金属チューブ5と、固体ヒートシンク7側に配置され、当該固体ヒートシンク7を通して嵌合体3に赤外線レーザー光4を照射するレーザー光源11とを具備する。
【0009】
また、本発明の溶着方法は、2つの異径の熱可塑性樹脂チューブである外側チューブ1と内側チューブ2とを嵌め合わせて嵌合体3を構成する工程と、小径チューブ2の内側にそれの内周に接するように金属棒又は金属チューブ5を挿入する工程と、嵌合体3を支持部材6上に支持する工程と、外側チューブ1の外周側に接触するように赤外線透過性の固体ヒートシンク7を配置する工程と、固体ヒートシンク7側のレーザー光源11から当該固体ヒートシンク7を通して嵌合体3に赤外線レーザー光4を照射する工程とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内側チューブの内周に接触する金属棒または金属チューブが、樹脂を透過してきた赤外線レーザー光により加熱され、この熱を内外チューブの全周へ瞬間的に伝えることにより、内外チューブを短時間のうちに溶着できる。本発明によれば、チューブの回転または赤外線レーザー光をチューブ全周へスキャン照射する機構などを設けること無く、1点照射によるチューブの全周溶着を短時間で完了できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】合成樹脂製チューブの溶着時の嵌合状態を示す概略的斜視図である。
図2】合成樹脂製チューブの溶着装置の概略的縦断正面図である。
図3図2の溶着装置の概略的縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、溶着しようとする異径の2つの熱可塑性樹脂製チューブ1,2を嵌め合わせて嵌合体3を構成した状態を示す。矢印は、赤外線レーザー光4の照射位置を示す。
【0013】
図2、3は、レーザービーム径と比較して小径の、外径3mm程度以下の熱可塑性樹脂チューブ1,2を内外二重に嵌め合わせた嵌合体3に、レーザー光源11から赤外線レーザー光4を照射して溶着するときのモデル図である。
【0014】
チューブ1,2は、別の場所で冶具等を用いて、互いに密着するように嵌め合わされる。チューブ1,2の嵌合体3における内側チューブ2の内側に、それの内周面に密着するように、金属棒または金属チューブ5が挿入される。
【0015】
支持部材6上に、チューブ1,2の嵌合体3が配置され、赤外線レーザー光4の照射位置下に位置決めされる。ガラスのような赤外線透過性の固体ヒートシンク7が、赤外線レーザー光の照射前に、外側チューブ1へ接触するように位置調整機構8で位置決めされる。チューブ1と固体ヒートシンク7の接触面積により、赤外線レーザー加熱時のチューブ1から固体ヒートシンク7への放熱量が決まる。固体ヒートシンク7のチューブ1との接触部の形状は、平面、またはチューブ1の外径に適合した曲率カーブを持つ曲面である。固体ヒートシンク7の材質は、照射する赤外線レーザー光の波長を十分に透過させる透過率を有する光学固体材料を用いる。
【0016】
固体ヒートシンク7の上部には、マスク9が配置される。マスク9は、赤外線レーザー4のビーム径とチューブ1の径のとの差を調整し、レーザー光照射域を最適化するためのスリット9aを有する。
【0017】
赤外線レーザー光4の強度、照射時間は、チューブ1,2の内部が溶融し、樹脂の組織結合が行われ、溶着域が得られる最適値に調整される。
【0018】
赤外線レーザー光の照射が始まると、発熱部10の領域で、チューブ1,2の樹脂に吸収された赤外線レーザー光のエネルギーに比例して温度上昇が始まると共に、樹脂を透過した赤外線レーザー光のエネルギーは金属棒5に吸収される。赤外線レーザー光の波長と金属棒5の材質、表面処理の状態により、金属棒5に吸収される光エネルギーは異なるが、一般的には、金属に吸収された光エネルギーは、比熱および質量に比例して金属の温度上昇を引き起こす。そして、金属の高い熱伝導率(樹脂の熱伝導率に比較すると、例えばアルミニウム(Al)の場合、約100倍)で金属棒5の全体へ熱伝導し、全周が瞬時に温度上昇する。この金属棒5の熱により、チューブ1,2に対する赤外線レーザー光照射部以外の部位の樹脂も加熱溶着が可能となる。
【0019】
赤外線レーザー光の一点照射によって全周溶着が可能な上記した熱伝導バランスは、熱可塑性樹脂チューブ1,2の外径、肉厚および樹脂材料により適宜調整して見出すことができる。
【0020】
赤外線レーザー光としては、半導体レーザー(発信周波数1μm、波長2.8、μm)、ファイバーレーザー(発信周波数1.92μm)、YAGレーザー(発信周波数2.8μm)、COレーザー(発信周波数5.5μm)、及びCOレーザー(発信周波数10.6μm)等を用いることができ、被溶着樹脂材料により適宜選択できる。
【実施例1】
【0021】
チューブ1,2の樹脂材料:PA12(ナイロン)溶融温度 178℃
外側チューブ1:外径0.88mm、厚さ0.04mm
内側チューブ2:外径0.7mm、厚さ0.04mm
金属棒5:材質SUS、外径0.67mm
(チューブ1,2及び金属棒5がそれぞれ密着するよう金属棒の径を選択する。溶着後、金属棒は力学的に容易に抜き取ることができる。)
ファイバーレーザー:波長1.9μm、強度20W、照射時間2.5秒、スポット径 4.4mm
結果:チューブ1,2の接触部全体がチューブの軸方向1.3mmの範囲で溶融一体化した。
【実施例2】
【0022】
チューブ1,2の樹脂材料:PFA(フッソ樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体) 、融点310℃
外側チューブ1:外径:0.7mm、厚さ0.08mm
内側チューブ2:外径:0.5mm、厚さ0.08mm
金属棒5:材質SUS、外径0.3mm
(チューブ1,2及び金属棒5がそれぞれ密着するよう金属棒の径を選択する。溶着後、金属棒は力学的に容易に抜き取ることができる。)
ファイバーレーザー:波長1.9μm、強度37.5W、照射時間2.5秒、スポット径 4.4mm
結果:チューブ1,2の接触部全体がチューブの軸方向1.1mmの範囲で溶融一体化した。
【符号の説明】
【0023】
1 外側チューブ
2 内側チューブ
3 チューブの嵌合体
4 赤外線レーザー光
5 金属棒
6 支持部材
7 固体ヒートシンク
8 位置調整機構
9 マスク
9a スリット
10 発熱部
図1
図2
図3