(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最終鍛造品の形状(各部寸法)は、前鍛造工程に供給される棒状素材相互間の重量や体積にばらつきがあることなどを理由として個体間でばらつき易く、その中でもカップ状部の開口端部は、特にばらつきが大きく現れ易い部位である。そのため、最終鍛造品を、旋削や研削等の仕上げ加工を施すための仕上げ工程、あるいは焼入れを施すための熱処理工程などの後工程に払い出す前には、最終鍛造品のカップ状部の開口端部が所定形状に成形されているか否か(カップ状部の深さ寸法が公差範囲内に収まっているか否か)を検査し、合格品のみを後工程に払い出すようにしている。
【0006】
中間鍛造品、あるいは最終鍛造品におけるカップ状部の開口端部形状は、棒状素材の重量や体積のみならず、前鍛造工程の途中段階で得られる途中製品(最終的に中間鍛造品となる製品)の成形精度によっても左右される。そのため、途中製品あるいは中間鍛造品が所定形状に成形されたか否か、さらに言えば、ワークが前鍛造工程で使用する鍛造金型に倣って適切に塑性変形したか否かを簡便に判定・確認することができれば、煩雑な検査処理を簡便化あるいは省略することができる他、しごき加工後に不良品となる可能性が高い中間鍛造品にわざわざしごき加工を施す必要がなくなるので、外側継手部材の生産性を向上し得る。
【0007】
しかしながら、中間鍛造品を得るための前鍛造工程は、複数の鍛造金型が送り方向に沿って連設された鍛造装置(トランスファープレス)を使用して連続的に実行されるのが一般的である。そのため、途中製品が所定形状に成形されているか否か、すなわち、ワークが鍛造金型に倣って適切に塑性変形したか否かを判定・確認しようとすると、鍛造装置を全停止して抜き取り検査を実行する必要がある。しかし、これでは、外側継手部材の生産性が著しく低下する。また、鍛造装置から抜き取った途中製品を再度鍛造装置に戻すと精度不良が生じ易くなることから、抜き取った途中製品が合格品であったとしても、この途中製品を再度鍛造装置に戻すことはできない。このため、鍛造装置から抜き取った途中製品が合格品であった場合にも、その途中製品は廃棄せざるを得ず、結果として製品歩留の低下を招来する。
【0008】
このような実情に鑑み、本発明は、等速自在継手の一構成部材であって、内径面にトラック溝が設けられたカップ部を有する外側継手部材を製造する最中に、中間鍛造品のカップ状部の開口端部が所定形状に成形されたか否かを簡単にかつ精度良く判定可能とし、これにより外側継手部材、ひいては等速自在継手の生産性や製品歩留の向上に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、一端が開口したカップ部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材の製造方法であって、複数の鍛造金型が連設された鍛造装置を使用して、棒状素材から、内径面にトラック溝が粗成形されたカップ状部を有する中間鍛造品を得る前鍛造工程と、中間鍛造品のカップ状部にしごき加工を施すことで最終鍛造品を得るしごき工程とを含み、
前鍛造工程は、ダイスおよびパンチを有する密閉鍛造金型を用いて実施される据え込み加工により据え込み部を有する途中製品を得るステップと、据え込み部に対して後方押し出し加工を施すことにより中間鍛造品を得るステップとを有し、途中製品を得るステップにおいて、
密閉鍛造金型
のうち少なくともパンチに設けた成形型部により、
据え込み部のうち少なくとも中間鍛造品のカップ状部の開口端面となる部位に、中間鍛造品のカップ状部の開口端部形状の合否を目視判定可能とする目印部を型成形することを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、前鍛造工程の終了後、中間鍛造品のカップ状部に、所定態様の目印部が型成形されているか否かを確認することにより、カップ状部の開口端部が所定形状に成形されたか否か(ワークが複数の鍛造金型に倣って適切に塑性変形したか否か)を判定することができる。特に、最終的に中間鍛造品となる途中製品に上記の目印部を型成形するようにしたことから、成形精度不良が生じ易い鍛造金型に設けた成形型部で目印部を型成形するようにすれば、その鍛造加工段階における成形条件の見直し等を簡便に実行することが可能となる。そのため、前鍛造工程において、鍛造装置を全停止して抜き取り検査を実行する必要がなくなる他、しごき加工後に不良品となる可能性が高い中間鍛造品にしごき加工を施す手間を省略することが可能となる。これらのことから、外側継手部材の生産性や製品歩留の低下問題が生じるのを可及的に回避することができる。
【0011】
上記の構成は、鍛造装置が密閉鍛造金型を有する場合、すなわち複数の鍛造金型の少なくとも一つが密閉鍛造金型で構成された鍛造装置を用いて前鍛造工程を実行する場合に好ましく適用することができる。なお、ここでいう密閉鍛造金型とは、ワーク全体を金型内に密閉した状態で鍛造加工を施すように構成された鍛造金型をいう。本願発明者らの検証によれば、密閉鍛造金型を使用しての鍛造加工段階では、充足不良に起因した成形精度不良が特に生じ易い。そのため、前鍛造工程のうち密閉鍛造金型による途中製品の鍛造加工段階で目印部を型成形するようにすれば、この鍛造加工段階での材料の充足度合いを適切に把握し、外側継手部材の生産性や製品歩留の向上を図るうえで有利となる。
【0012】
上記の目印部は、カップ状部のうち、目視が容易な部位に型成形するのが望ましい。具体的には、途中製品のうち、中間鍛造品のカップ状部の開口端面(開口側の端面)となる部位に、目印部としての端面目印部を型成形することができる。端面目印部の形態は特に問わず、例えば、放射状に複数成形しても良いし、散点状に無数成形しても良いし、あるいは環状に(一又は複数)成形しても良い。また、途中製品のうち、中間鍛造品のカップ状部の開口端面となる部位に替えて、あるいは開口端面となる部位に加え、中間鍛造品のカップ状部の外径面となる部位に目印部としての外径目印部を型成形しても良い。また、これら目印部(端面目印部および外径目印部)は、凹状に形成しても良いし、凸状に形成しても良い。どのような形態の目印部を型成形するにせよ、目印部が最終製品においても残存する場合を考慮して、目印部は作動性等に悪影響が及ばないような形態とするのが望ましい。
【0013】
また、上記の目的を達成するために創案された本発明は、一端が開口したカップ部を有し、カップ部の内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が設けられた等速自在継手用外側継手部材であって、カップ部が鍛造により成形され、かつトラック溝の一部又は全部が、前鍛造後のしごき加工で仕上げ形状に成形されたものにおいて、カップ部の開口端部に、その開口端部形状の合否を目視判定可能な目印部が鍛造金型による型成形により設けれていることを特徴とする。
【0014】
このような構成を有する外側継手部材であれば、上記した本発明に係る外側継手部材の製造方法を採用した場合と同様の効果を奏することができる。
【0015】
上記構成の外側継手部材において、目印部は、カップ部の開口側端面、カップ部の外径面、あるいはこれら両方に設けることができる。
【0016】
本発明は、カップ部の他端から軸方向外方に延びる軸部を一体に有する外側継手部材にも好ましく適用することができる。
【0017】
本発明は、トラック溝が直線状部分のみで構成された外側継手部材、すなわち摺動式等速自在継手用の外側継手部材に適用することができる。適用可能な摺動式等速自在継手としては、トリポード型等速自在継手(TJ)や、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)を挙げることができる。この場合、トラック溝の全部(全域)をしごき加工で仕上げられたものとすることができる。また、本発明は、トラック溝が、相対的にカップ部の一端側(開口端部側)に位置する直線状部分と、相対的にカップ部の他端側(反開口端部側)に位置する円弧状部分とで構成された外側継手部材、すなわち固定式等速自在継手の一種であるアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)用の外側継手部材に適用することもできる。この場合、トラック溝のうちで少なくとも直線状部分はしごき加工で仕上げられたものとすることができる。
【0018】
また、以上に述べた本発明に係る外側継手部材と、そのカップ部内周に収容した継手内部部品とで等速自在継手を構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上に示すように、本発明によれば、等速自在継手の一構成部材であって、内径面にトラック溝が設けられたカップ部を有する外側継手部材を製造する最中に、中間鍛造品のカップ状部の開口端部が所定形状に成形されたか否かを簡単にかつ精度良く判定することが可能となる。これにより、外側継手部材、ひいては等速自在継手の生産性や製品歩留の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下では、便宜上、まず本発明に係る外側継手部材の一実施形態を
図1に基づいて説明し、続いて、本発明に係る外側継手部材の製造方法の一実施形態を
図2〜
図4に基づいて説明する。
【0022】
図1(a)に、本発明の一実施形態に係る等速自在継手用外側継手部材1(以下、単に「外側継手部材1」という)の概略正面図を示し、
図1(b)に同外側継手部材1の概略断面図[
図1(a)のX−X線矢視断面図]を示す。この外側継手部材1は、角度変位および軸方向変位の双方を許容する摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手(TJ)用の外側継手部材であって、一端が開口した有底筒状のカップ部2と、カップ部2の他端から軸方向外方に延びた軸部3とを一体に備える。トリポード型等速自在継手は、この外側継手部材1のカップ部2の内周に、内側継手部材としてのトリポード部材やトルク伝達部材としてのローラなどを組み込むことで構成される。
【0023】
カップ部2の内径面4の周方向等分位置には、軸方向に延びる3本のトラック溝5が形成されている。各トラック溝5は、円周方向で対向する一対のローラ案内面6,6を有し、ローラ案内面6,6も含めて継手軸線と平行に延びた直線状に形成されている。カップ部2の軸直交断面は、大径部と小径部とを周方向で交互に三つずつ配設して構成される花冠状とされ、各大径部の内周にトラック溝5が形成されている。なお、
図1では図示を省略しているが、実際の製品においては、カップ部2の開口部内周縁のトラック溝5,5間領域に継手の角度変位を許容するための入口チャンファが設けられ、また、カップ部2の外径面8の軸方向所定位置にブーツの一端部を嵌着するための環状溝が設けられる。
【0024】
詳細は後述するが、この外側継手部材1は、送り方向に沿って複数の鍛造金型が連設された鍛造装置を使用して、棒状素材から、
図2(d)に示すように、内径面にトラック溝5’が粗成形されたカップ状部2”を有する中間鍛造品1”を得る前鍛造工程と、中間鍛造品1”のカップ状部2”にしごき加工を施すことにより、トラック溝5が仕上がり形状(ここでは最終形状)に成形されたカップ状部2’を備える最終鍛造品1’(
図4中の二点鎖線を参照)を得るしごき工程と、最終鍛造品1’の各部を完成品形状に仕上げる仕上げ工程とを経た後、熱処理を施すことで完成する。
【0025】
上記のとおり、カップ部2のうち、トラック溝5(トラック溝5の溝底面および一対のローラ案内面6,6)は、その全体が
図2(d)に示す中間鍛造品1”のカップ状部2”にしごき加工を施すことで仕上がり形状に成形されている。一方、
図1に示すカップ部2の開口端面7は、中間鍛造品1”のカップ状部2”にしごき加工を施すのに伴って、カップ状部2”の開口端部が自由変形することによって得られた面であり(
図4参照)、旋削等の機械加工により仕上げられた面ではない。従って、図示は省略しているが、カップ部2の開口端面7には多少のうねりがある。
【0026】
カップ部2には、その開口端部形状の合否(カップ部2の開口端部に鍛造金型への不充足に起因したダレがないか/カップ深さがカップ部2の全周に亘って公差範囲内に収まっているか否か)を目視判定可能とするための目印部が設けられている。ここでは、カップ部2の開口端面7に目印部としての端面目印部11が周方向所定間隔で複数設けられ、カップ部2の外径面8の開口側領域に目印部としての外径目印部12が周方向所定間隔で複数設けられている。各端面目印部11は放射状に延びた凹溝状に形成され、各外径目印部12は軸方向に延びた凹溝状に形成されている。そして、これら端面目印部11および外径目印部12が所定態様で形成されていることにより、当該外側継手部材1は、カップ部2の開口端部に鍛造金型への不充足に起因したダレがなく、カップ部2の開口端部が全周に亘って所定形状に成形された(カップ深さがカップ部2の全周に亘って公差範囲内にある)合格品であると判定することができる。
【0027】
具体的に述べると、
図6(a)(b)に示すように、最終的に中間鍛造品1”ひいては最終鍛造品1’となる第3の途中製品M3の外周縁部には、当該第3の途中製品M3を成形するための第3鍛造金型へのワーク(第2の途中製品M2)の不充足に起因したダレが発生する場合があり、このダレは、
図6(c)(d)に示すように、第3の途中製品M3に鍛造加工(後方押し出し加工)を施すことで得られる中間鍛造品1”のカップ状部2”の開口端部(の外周縁部)にそのまま残る。しかしながら、このダレは、目視だけでは許容範囲内であるか否かを判定することが難しい場合が多い。これに対し、目印部としての端面目印部11および外径目印部12を型成形したことにより、前鍛造工程の途中段階でのダレの発生、ひいてはこれに起因した形状精度不良の有無を的確に判定することができる。
【0028】
上記の端面目印部11および外径目印部12は、前鍛造工程の途中段階(本実施形態では、
図3に示す第3鍛造金型30による据え込み加工段階)で型成形される。従って、外側継手部材1のカップ部2に設けられた端面目印部11および外径目印部12の深さ寸法等は、両目印部11,12の型成形後に施される種々の加工により、成形直後の両目印部11,12の深さ寸法等とは異なる場合が多い。
【0029】
以下、本発明に係る外側継手部材の製造方法についての一実施形態であって、以上で述べた外側継手部材1を製造するための方法について説明する。大まかに述べると、外側継手部材1は、
図2(d)に示す中間鍛造品1”を得るための前鍛造工程、
図4中に二点鎖線で示す最終鍛造品1’を得るためのしごき工程、最終鍛造品1’の各部を完成品形状に仕上げる仕上げ工程、および完成品形状に仕上げられた最終鍛造品1’に熱処理を施す熱処理工程を順に経て完成する。
【0030】
前鍛造工程では、棒状素材および途中製品(棒状素材に一又は複数の鍛造加工を施すことで成形され、最終的に中間鍛造品1”となる成形品)を下流側に送りながら、その送り方向に沿って複数の鍛造金型(本実施形態は4つの鍛造金型。以下では、上流側から順に、第1、第2、第3および第4鍛造金型という。)が連設された1つの鍛造装置を使用して、図示しない棒状素材から
図2(d)に示すカップ状部2”を備えた中間鍛造品1”を得る。つまり、工程全体についての図示は省略するが、この前鍛造工程は、第1〜第4鍛造金型が連設された(一の)鍛造装置や、棒状素材および途中製品を順次下流側に移送するための移送手段などを備えたいわゆるトランスファープレスを使用して自動で実行される。
【0031】
前鍛造工程では、まず、鍛造装置に図示しない棒状素材を投入し、第1鍛造金型で棒状素材に据え込み加工を施すことにより、
図2(a)に示すように、棒状素材の一端外周縁部が丸められた第1の途中製品M1を成形する。次いで、第1の途中製品M1を第2鍛造金型に移送・投入し、第2鍛造金型で第1の途中製品M1に前方押し出し加工を施すことにより、
図2(b)に示すように、一端側に相対的に大径の大径部を有すると共に、他端側(外周縁部が丸められた側)に相対的に小径の軸状部3’(最終的に軸部3に仕上げられる部位)を有する第2の途中製品M2を得る。
【0032】
次いで、第2の途中製品M2を、
図3(a)に示す第3鍛造金型30に移送・投入する。第3鍛造金型30は、いわゆる密閉鍛造金型とされる。すなわち、第3鍛造金型30は、
図3(a)および
図3(c)に示すように、相対的に接近および離反移動するパンチ31およびダイス32を備え、両者が相対的に接近移動したとき、両者間には密閉された成形空間が画成される。そして、第3鍛造金型30で第2の途中製品M2の大径部に据え込み加工を施し、大径部を軸方向に圧縮変形させると共に径方向に膨張変形させると、
図2(c)および
図3(c)に示すように、据え込み部22を有する第3の途中製品M3が得られる。
【0033】
詳細は後述するが、第3の途中製品M3は、第3鍛造金型30の下流側に隣接配置された第4鍛造金型で、
図2(d)に示すカップ状部2”を有する中間鍛造品1”に成形される。そして、第3の途中製品M3のうち、中間鍛造品1”のカップ状部2”の開口端面および外径面となる部位(据え込み部22の端面および外径面)には、それぞれ、中間鍛造品1”のカップ状部2”の開口端部形状の合否を目視判定可能とする目印部として、凹溝状の端面目印部11および外径目印部12が周方向所定間隔で複数形成されている。据え込み部22に形成された端面目印部11および外径目印部12の配置態様は、
図1(a)(b)に示したカップ部2に存する両目印部11,12の配置態様と同じである。
【0034】
端面目印部11および外径目印部12は、パンチ31およびダイス32を接離移動させて据え込み部22を成形するのと同時に、パンチ31の下端面31aおよびダイス32の内壁面32aにそれぞれ設けられた凸状の成形型部31b,32bにより型成形される。具体的には、
図3(a)に示すように、第2の途中製品M2をダイス32の内周に配置してからパンチ31をダイス32に対して相対的に接近移動させることにより、第2の途中製品M2の大径部を軸方向に圧縮変形させると共に膨張変形させ[
図3(c)参照]、第2の途中製品M2の大径部をパンチ31の下端面31aおよびダイス32の内壁面32aに沿わせて塑性変形させる。これにより、据え込み部22を有する第3の途中製品M3が成形されるのと同時に、据え込み部22の端面および外径面に、端面目印部11および外径目印部12がそれぞれ型成形される。
【0035】
なお、本実施形態で用いるパンチ31の下端面31aには、
図3(b)に示すように、凸状の成形型部31bが周方向所定間隔で複数(図示例では12個)設けられており、かつ個々の成形型部31bは、パンチ31の下端面31aの外径端部から内径側に向けて放射状に延びている。成形型部31bの高さ寸法は、外側継手部材1のサイズ等に応じて適宜変更されるが、例えば0.1mm〜5.0mmの範囲内に設定される。また、詳細な図示は省略するが、ダイス32の内壁面32aに設けられた凸状の成形型部32bは、パンチ31の成形型部31bと同一ピッチで複数設けられている。成形型部32bの高さ寸法は、外側継手部材1のサイズ等に応じて適宜変更されるが、パンチ31に設けた成形型部31bと同様に、例えば0.1mm〜5.0mmの範囲内に設定される。
【0036】
以上のようにして成形された第3の途中製品M3を第4鍛造金型に移送・投入した後、第4鍛造金型で第3途中製品M3の据え込み部22に対して後方押し出し加工を施すことにより、
図2(d)に示すように、カップ状部2”を有する中間鍛造品1”を得る。後方押し出し加工で据え込み部22がカップ状に成形されるのに伴って、各端面目印部11の内径側部分が消滅する。
【0037】
中間鍛造品1”のカップ状部2”は、完成品としての外側継手部材1のカップ部2に近似した形状を具備する。すなわち、中間鍛造品1”のカップ状部2”は断面花冠状を呈し、その内径面の周方向等分位置には、ローラ案内面6’,6’を有する三本のトラック溝5’が粗成形されている。中間鍛造品1”のカップ状部2”は、
図1に示す外側継手部材1のカップ部2よりも厚肉でかつ軸方向に短寸である。従って、中間鍛造品1”のカップ状部2”の内径面に設けられたトラック溝5’の軸方向寸法は、外側継手部材1のカップ部2の内径面4に設けられるトラック溝5の軸方向寸法よりも短寸である。
【0038】
以上のようにして得られた中間鍛造品1”は、しごき工程に移送される。しごき工程では、
図4に示すように、外周部が
図1に示すカップ部2の内径面4形状に対応したしごきパンチ41と、内径部がカップ部2の外径面8形状に対応したしごきダイス42とを備えた成形金型を用いて中間鍛造品1”のカップ状部2”にしごき加工を施し、同図中の二点鎖線で示すように、トラック溝5が仕上がり形状に成形されたカップ状部2’を有する最終鍛造品1’を得る。
【0039】
最終鍛造品1’は、仕上げ工程に移送される。仕上げ工程では、以上で述べた各種鍛造加工では成形するのが難しい部位(例えば、カップ部2の外径面に設けるべきブーツ嵌着用の環状溝や、軸部3の自由端外径に設けるべきスプライン等)を研削等の機械加工で形成し、最終鍛造品1’の全体を完成品形状に仕上げる。そして、全体が完成品形状に仕上げられた最終鍛造品1’に焼入れ等の熱処理を施すことにより、
図1(a)(b)に示す外側継手部材1が完成する。
【0040】
以上に示したように、本発明では、前鍛造工程において、最終的に中間鍛造品1”となる途中製品(本実施形態では第3の途中製品M3)を成形するのと同時に、その成形用鍛造金型(第3鍛造金型30)を構成するパンチ31およびダイス32に設けた成形型部31b,32bにより、第3の途中製品M3に、中間鍛造品1”のカップ状部2”の開口端部形状の合否を目視判定可能とする目印部としての端面目印部11および外径目印部12を型成形した。このようにすれば、前鍛造工程の終了後、中間鍛造品1”のカップ状部2”に、所定態様の目印部11,12が型成形されているか否かを確認することにより、カップ状部2”の開口端部が所定形状に成形されたか否か、換言すると、第2の途中製品M2が第3鍛造金型30に倣って適切に塑性変形したか否か(第3鍛造金型30への第2の途中製品M2の不充足が生じたか否か)を判定することができる。
【0041】
具体的には、
図5(a)(b)に示すように、据え込み部22の端面および外径面に、
図3に示すパンチ31の成形型部31bおよびダイス32の成形型部32bの形状に正確に倣った端面目印部11および外径目印部12が型成形された第3の途中製品M3が得られれば、この第3の途中製品M3に対して第4鍛造金型により後方押し出し加工を施し、カップ状部2”を備えた中間鍛造品1”を得た場合、この中間鍛造品1”のカップ状部2”の開口端面および外径面には、
図5(c)(d)に示すように、端面目印部11(の外径部分)および外径目印部12がそのまま残る。そのため、中間鍛造品1”のカップ状部2”に所定形状の端面目印部11および外径目印部12が残っていれば、この中間鍛造品1”は、カップ状部2”が所定形状に成形された合格品であることを簡単に判定することができる。
【0042】
一方、
図6(a)(b)に示すように、据え込み部22の端面および外径面のうち、周方向の一部領域に、所定形状の端面目印部11および外径目印部12が型成形されていない第3の途中製品M3が得られた場合、この第3の途中製品M3に対して後方押し出し加工を施したときには、
図6(c)(d)に示すように、カップ状部2”の周方向一部領域に所定形状の端面目印部11および外径目印部12が設けられていない中間鍛造品1”が得られる。そして、このように、カップ状部2”の全域に所定形状の端面目印部11および外径目印部12が存在していなければ、この中間鍛造品1”は、その途中製品(第2の途中製品M2)が第3鍛造金型30に正確に倣わず、カップ状部2”が所定形状に成形されなかった不合格品であると簡単に判定することができる。
【0043】
以上のことから、本発明に係る製造方法を採用すれば、前鍛造工程において、鍛造装置を全停止して抜き取り検査を実行する必要がなくなる他、しごき加工後に不良品となる可能性が高い中間鍛造品1”にしごき加工を施す手間を省略することが可能となる。従って、外側継手部材1の生産性や製品歩留の低下問題が生じるのを可及的に回避し、外側継手部材1の生産性や製品歩留の向上に寄与することができる。特に本実施形態においては、最終的に中間鍛造品1”となる途中製品のうち、成形精度不良が生じ易い密閉鍛造金型で構成した第3鍛造金型30を使用しての鍛造加工段階で目印部11,12を型成形するようにした。そのため、外側継手部材の生産性や製品歩留の向上を図るうえで特に有利となる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に係る外側継手部材1およびその製造方法について説明を行ったが、本発明は、上記の実施形態に限定適用されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
例えば、目印部は、
図7(a)(b)に示すように、第3の途中製品M3のうち、中間鍛造品1”のカップ状部2”の端面となる部位である据え込み部22の端面にのみ型成形しても良いし、
図7(c)(d)に示すように、第3の途中製品M3のうち、中間鍛造品1”のカップ状部2”の外径面となる部位である据え込み部22の外径面にのみ型成形するようにしても良い。
【0046】
また、本発明は、以上で述べたように、据え込み部22の端面が平坦面状をなす第3の途中製品M3を得る場合のみならず、
図8(a)(b)に示すように、端面中央に凹窪部22aが設けられた据え込み部22を有する第3の途中製品M3を得るような場合にも好ましく適用することができる。
【0047】
また、第3の途中製品M3(据え込み部22)の端面に型成形すべき端面目印部11の形態は、以上で述べたものに限定されるわけではない。例えば、端面目印部11は、
図9(a)に示すように、据え込み部22の端面を横断するような放射状に成形しても良いし、
図9(b)(c)に示すように環状に一本又は複数本成形しても良い。また、端面目印部11は、
図9(d)(e)に示すように、散点状に無数成形しても良い。要するに、端面目印部11および/または外径目印部12は、据え込み部22のうちで成形精度不良(型への充足不良)が生じ易い領域で成形精度不良が生じたか否かを、中間鍛造品1”が得られた段階で簡単に判定にすることができるのであれば、特にその形態は問わない。従って、端面目印部11および外径目印部12の何れか一方または双方は、凹状に型成形するようにしても良いし、凸状に型成形するようにしても良い。
【0048】
また、以上では、4工程を経て(4つの鍛造金型が連設された鍛造装置を使用して)外側継手部材1の中間鍛造品1”を得る場合において、密閉鍛造金型である第3鍛造金型30を使用して第3の途中製品M3を成形するのと同時に、第3鍛造金型30のパンチ31およびダイス32に設けた成形型部31b,32bで目印部としての端面目印部11および外径目印部12を型成形するようにしたが、目印部は他の段階(例えば、第2の途中製品M2を成形する段階)で型成形するようにしても良い。また、以上では、4工程を経て外側継手部材1の中間鍛造品1”を得る場合に本発明を適用した場合について説明を行ったが、中間鍛造品1”を3以下又は5以上の工程を得て得る場合にも本発明は好ましく適用し得る。
【0049】
また、以上では、
図1に示した外側継手部材1、すなわち、カップ部2の開口端面7が、中間鍛造品1”のカップ状部2”がしごき加工に伴って自由変形することにより得られた外側継手部材1を製造するに際して、本発明に係る製造方法を適用した場合について説明を行ったが、カップ部2の開口端面7が旋削等の機械加工により仕上げられた外側継手部材1を製造する際にも本発明は好ましく適用し得る。但し、この場合には、外側継手部材1のカップ部2に、端面目印部11および/または外径目印部12は基本的に存在しない。
【0050】
また、以上では、摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手(TJ)用の外側継手部材1、およびこの外側継手部材1を製造するに際して本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明は、その他の摺動式等速自在継手、例えばダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)用の外側継手部材、およびこの外側継手部材を製造する際に適用することも可能である。
【0051】
また、本発明は、以上で述べた摺動式等速自在継手用の外側継手部材のみならず、アンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)などの固定式等速自在継手用の外側継手部材、およびこの外側継手部材を製造する際に適用することも可能である。なお、固定式等速自在継手は、軸方向変位は許容せずに角度変位のみを許容するものであり、これに組み込まれる外側継手部材のトラック溝は、相対的にカップ開口側に位置して継手軸線と平行に延びる直線状部分と、相対的にカップ底側に位置する円弧状部分とで構成される。