(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、車両として、エンジンと回転電機とを搭載するハイブリッド車両を述べるが、これは説明のための例示であって、回転電機を搭載する車両であればよい。例えば、エンジンを搭載しない電気自動車であっても構わない。また、ハイブリッド車両の動力装置として、エンジンと1台の回転電機とその間に設けられる動力伝達機構を有する構成を説明するが、これも説明のための例示である。ここでは、ハイブリッド車両としてエンジンと回転電機を有するものであればよく、エンジンの出力と回転電機の出力との間の関係は、車両の仕様に応じ、適宜変更が可能である。また、車両に搭載される回転電機を1台として説明するが、これも例示であって、複数の回転電機が車両に搭載される場合であってもよい。例えば、1台の回転電機を駆動用に、もう1台の回転電機を発電用に用いる構成としてもよく、前輪駆動用と後輪駆動用で別々の回転電機としてもよい。
【0022】
また、以下では、回転電機を冷却する冷媒として潤滑油としても用いられるATFを説明するが、これは例示であって、これ以外の冷却用流体でもよい。これに伴い、冷媒を循環する冷媒ポンプにオイルポンプの表記を用いるが、これもATFを用いる場合に合わせたものである。
【0023】
また、電動オイルポンプの駆動回路の電源としては、回転電機の電源装置とは独立の低電圧電源として説明するが、これは説明のための例示である。例えば、回転電機の電源装置から低電圧に電圧変換された電力を電動オイルポンプの駆動回路に供給するものとしてもよい。
【0024】
また、以下では、回転電機と動力伝達機構とが1つのケース体に収納され、そのケース内とオイルポンプユニットとの間で冷媒が循環するものとして説明するが、これは説明のための例示である。例えば、1つのケースにまとめずに、回転電機と動力伝達機構とオイルポンプユニットの間を冷媒が循環する構成としてもよい。
【0025】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0026】
図1は、ハイブリッド車両についての車両制御システム10の構成を示す図である。この車両制御システム10は、ハイブリッド車両に搭載される回転電機20の冷却構造12と、制御装置80を含むシステムである。
【0027】
冷却構造12は、ハイブリッド車両の駆動源である動力装置14として、エンジン16と
図1ではM/Gとして示される回転電機20を含み、回転電機20に接続されるM/G駆動回路30とその電源である高電圧電源32を含む。冷却構造12は、さらに、回転電機20を内部に含むケース体24の内部に冷媒26を循環供給するオイルポンプユニット40を含む。オイルポンプユニット40は、
図1ではMOPとして示される機械式オイルポンプ42と、EOPとして示される電動オイルポンプ44を含んで構成される。
【0028】
動力装置14は、エンジン16と、回転電機20と、この間に設けられる動力伝達機構18を含んで構成される。エンジン16は、内燃機関である。また、回転電機20は、ハイブリッド車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、M/G駆動回路30から電力が供給されるときはモータとして機能し、エンジン16による駆動時、あるいはハイブリッド車両の制動時には発電機として機能する三相同期型回転電機である。
【0029】
回転電機20に設けられる温度検出器27は、回転電機20の温度θ
Mを検出する回転電機温度検出手段である。温度検出器27の検出データは、図示されていない適当な信号線を用いて、制御装置80に伝送される。
【0030】
動力伝達機構18は、ハイブリッド車両に供給する動力をエンジン16の出力と回転電機20の出力との間で分配する機能を有する機構である。かかる動力伝達機構18としては、エンジン16の出力軸、回転電機20の出力軸、図示されていない車軸への出力軸の3つの軸に接続される遊星歯車機構を用いることができる。
図1で動力伝達機構18とエンジン16とを接続する軸がエンジン16の出力軸22である。この出力軸22は、接続軸70を介して機械式オイルポンプ42の駆動軸に接続され、機械式オイルポンプ42の駆動に用いられる。
【0031】
M/G駆動回路30は、高電圧電源32の直流電力と回転電機20を駆動するための交流電力との間の電力変換を行うインバータを含む回路である。インバータは、複数のスイッチング素子のオンオフタイミングを適切に調整するPWM(Pulse Width Modulation)制御によって三相駆動信号を生成して、回転電機20に供給する回路である。PWM制御は、回転電機20の回転周期に応じた周期を有する基本波信号と、鋸歯状波形を有するキャリア信号との比較で、パルス幅を変調する制御である。インバータは、このPWM制御によって、回転電機20の出力を所望の動作状態とする。
【0032】
高電圧電源32は、充放電可能な高電圧用二次電池である。具体的には、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池で構成することができる。組電池は、単電池または電池セルと呼ばれる端子電圧が1Vから数Vの電池を複数個組み合わせて、上記の所定の端子電圧を得るようにしたものである。高電圧電源32としては、その他に、ニッケル水素組電池、大容量キャパシタ等を用いることができる。
【0033】
ケース体24は、動力伝達機構18と回転電機20とを内部に含む筐体である。ケース体24の内部空間には、動力伝達機構18と回転電機20の可動部分の潤滑と、動力伝達機構18および回転電機20の冷却を行うための冷媒26が貯留される。冷媒としては、ATFと呼ばれる潤滑油を用いることができる。
【0034】
ケース体24に設けられる温度検出器28は、冷媒26の温度θ
Cを検出する冷媒温度検出手段である。温度検出器28の検出データは、図示されていない適当な信号線を用いて、制御装置80に伝送される。
【0035】
オイルポンプユニット40は、機械式オイルポンプ42と、電動オイルポンプ44を含むユニットで、ケース体24の内部空間に冷媒26を循環供給する冷媒ポンプユニットである。冷媒排出路60は、ケース体24において重力方向に沿った下方側、つまりケース体24の底部に近い箇所に設けられる冷媒排出口と、オイルポンプユニット40を結ぶ冷媒流通パイプである。冷媒供給路62は、オイルポンプユニット40と、ケース体24において重力方向に沿った上方側、つまりケース体24の天井部に近い箇所に設けられる冷媒供給口とを結ぶ冷媒流通パイプである。オイルクーラ50は、冷媒26の温度を空冷あるいは水冷によって低下させる熱交換器である。
【0036】
機械式オイルポンプ42は、駆動軸が接続軸70を介してエンジン16の出力軸22に接続される機械式冷媒ポンプで、エンジン16が動作するときに駆動される。すなわち、エンジン16の始動に伴って機械式オイルポンプ42は駆動が開始され、エンジン16が停止すると機械式オイルポンプ42の駆動が終了する。
【0037】
電動オイルポンプ44は、制御装置80からの制御信号の下でEOP駆動回路72によって駆動される電動冷媒ポンプである。EOP駆動回路72には、低電圧電源74から直流電力が供給される。低電圧とは、高電圧電源32の電圧に比較して低電圧という意味で、例えば約12Vから16Vの電圧を用いることができる。電動オイルポンプ44の駆動軸を回転させるモータとしては、三相同期型モータを用いることができる。この場合には、EOP駆動回路72は、直流交流変換機能を有するインバータを含んで構成される。また、インバータのPWM制御におけるオン・オフデューティを変更することによって、電動オイルポンプ44の出力を可変することができる。
【0038】
なお、三相同期型モータの代わりに単相交流モータを用いることもでき、あるいは直流モータを用いることもできる。電動オイルポンプ44の駆動軸を回転させるモータとして用いられるモータ形式に応じて、EOP駆動回路72の内容が変更される。
【0039】
機械式オイルポンプ42と電動オイルポンプ44とは、冷媒排出路60と冷媒供給路62の間に、互いに並列の関係で接続される。逆止弁46は、機械式オイルポンプ42とケース体24の冷媒供給口との間で冷媒26が逆流しないように設けられる弁である。同様に逆止弁48は、電動オイルポンプ44と、ケース体24の冷媒供給口との間で冷媒26が逆流しないように設けられる弁である。
【0040】
制御装置80は、上記の各要素を全体として制御する機能を有するが、特にここでは、ハイブリッド車両の走行条件を経済性優先か出力優先かのいずれかに選択でき、その選択に応じて電動オイルポンプ44の作動を制御する機能を有する。かかる制御装置80は、ハイブリッド車両搭載に適したコンピュータで構成することができる。
【0041】
ここで、ハイブリッド車両の走行条件を経済性優先とすることとは、エンジン16についていえば燃料の経済性である燃費を向上させることを優先とし、回転電機20についていえば電力の経済性である電費を向上させることを優先とすることである。経済性優先とすることで、例えば、高電圧電源32の1回の充電によって可能な走行距離を延ばすことができる。住宅地走行、市街地走行等の安定走行のときには経済性優先とすることが好ましい。
【0042】
また、ハイブリッド車両の走行条件を出力優先とすることとは、動力装置14の出力を大きくして、車両加速性等を増大させることを優先することである。登坂走行、高速道路での追越等のときには、出力優先とすることが好ましい。
【0043】
制御装置80に接続される走行モードスイッチ110は、ハイブリッド車両の運転者等のユーザによって操作される操作子で、ハイブリッド車両の走行条件を経済性優先とし、または出力優先とすることができる選択決定手段である。走行モードスイッチ110の操作によって、ハイブリッド車両の走行モードが選択されると、その走行モードに応じて、電動オイルポンプ44の作動が自動的に制御される。かかる走行モードスイッチ110は、車室内の操作パネル等に設けることができる。
【0044】
また、制御装置80に接続されるナビゲーション装置112は、ハイブリッド車両が走行する道路状況等を制御装置80に送信する装置である。例えば、ハイブリッド車両が現在または近い将来走行する道路が上り坂であるか下り坂であるか平坦路であるかの情報、ハイブリッド車両が現在または近い将来走行する区域が市街地か住宅地か等の情報、道路の速度制限の情報等の車両走行状態を規定する情報が提供される。制御装置80は、その車両走行状態を規定する情報に基づき、予め定めた選択基準に従って、ハイブリッド車両の走行条件が経済性優先に適しているか出力優先に適しているかを選択できる。そして、その選択された走行条件に応じて、電動オイルポンプ44の作動が自動的に制御される。かかるナビゲーション装置112は、車室内の操作パネル等に設けることができる。
【0045】
制御装置80は、電動オイルポンプ44の作動制御に用いる条件として、回転電機20の温度θ
Mを取得して予め定めた閾値温度θ
M0以上か否かを判断する回転電機温度判断部82と、回転電機20の出力P
Mを取得して予め定めた閾値出力P
M0以上か否かを判断する回転電機出力判断部84と、回転電機温度判断部82と回転電機出力判断部84の結果に基づいて電動オイルポンプ44の作動を制御するEOP作動制御部86と、電動オイルポンプ44の作動の有無についてヒステリシス特性を設定するヒステリシス設定部88を含んで構成される。これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現できる。具体的には、EOP制御プログラムを実行することで実現できる。
【0046】
上記構成の作用について、
図2以下を用いて詳細に説明する。
図2は、ハイブリッド車両の走行条件に応じて電動オイルポンプ44の作動を制御する手順を示すフローチャートである。各手順は、EOP制御プログラムの各処理手順にそれぞれ対応する。
【0047】
ここでは、まず、ハイブリッド車両の走行条件の選択として、経済性優先を選択するか出力優先を選択するかが決定される(S10)。この選択は、運転者等のユーザによって走行モードスイッチ110が操作されるときは、その操作位置が経済性優先であるか出力優先であるかを取得することで決定される。走行モードスイッチ110が操作されないときでも、ナビゲーション装置112から送信される車両の走行状態を規定する情報を取得し、予め定めた選択基準に取得した情報を適用することでも決定することができる。
【0048】
決定された走行条件が経済性優先のとき(S12)、回転電機20の温度θ
Mが予め定めた閾値温度θ
M0以上か否かが判断される(S14)。この処理手順は、制御装置80の回転電機温度判断部82の機能によって実行される。S14の判断が肯定されると、次に、回転電機20の出力P
Mが予め定めた閾値出力P
M0以上か否かが判断される(S16)。この処理手順は、制御装置80の回転電機出力判断部84の機能によって実行される。S16の判断が肯定されると、電動オイルポンプ44が作動される(S18)。S16の判断が否定されるときは、電動オイルポンプ44は停止状態とされる(S20)。ここで、S18,S20の処理手順は、制御装置80のEOP作動制御部86の機能によって実行される。
【0049】
つまり、経済性優先のときは、回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上で、かつ回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上であるときに、電動オイルポンプ44が作動される。ここでは、電動オイルポンプ44の作動条件が、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)AND(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)となっている。
【0050】
これに対し、決定された走行条件が出力優先のとき(S22)、回転電機20の温度θ
Mが予め定めた閾値温度θ
M0以上か否かが判断される(S24)。この処理手順は、S14と同様に、制御装置80の回転電機温度判断部82の機能によって実行される。S24の判断が肯定されると、電動オイルポンプ44が作動される(S18)。S24の判断が否定されても次に、回転電機20の出力P
Mが予め定めた閾値出力P
M0以上か否かが判断され(S26)この判断が肯定されても、電動オイルポンプ44が作動される(S18)。S26の判断も否定されると、電動オイルポンプ44は停止状態とされる(S28)。ここで、S26の処理手順は、S16と同様に、制御装置80の回転電機出力判断部84の機能によって実行される。
【0051】
つまり、出力優先のときは、回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上か、または回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上となるときに、電動オイルポンプ44を動作させる。ここでは、電動オイルポンプ44の動作条件が、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)OR(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)となっている。
【0052】
図3と
図4は、経済性優先のときと出力優先のときについて、電動オイルポンプ44が作動される範囲を比較して説明する図である。これらの図の横軸は、ハイブリッド車両の車速であり、縦軸は、ハイブリッド車両の動力装置14が出力するトルクである。動力装置14においてエンジン16が停止しているときは回転電機20のみが作動しているので、その場合には、回転電機20のトルクである。
【0053】
図3、
図4において、動力装置14の限界動作範囲90は、動力装置14の最大パワー線と、最大出力限界線と、最大車速限界線とで規定される。ここで、出力はパワーで、パワー=トルク×回転数である。回転数は車速で示すこともできるので、出力一定の特性線は、
図3、
図4では双曲線状となる。
【0054】
ハイブリッド車両においてエンジン16が停止しているときは、回転電機20の冷却は電動オイルポンプ44のみで行われる。そのようなハイブリッド車両の走行状態は、EVモード、あるいはHVモードにおいてエンジン16が自動停止しているとき等である。この場合には、動力装置14の限界動作範囲90の内側に回転電機20の限界動作範囲92が来る。回転電機20の限界動作範囲92は、
図3、
図4において、動作点A,B,C,D,O,Aで囲まれる範囲である。動作点B,Cを結ぶ線が回転電機20の最大パワー線で、動作点A,Bを結ぶ線が回転電機20の最大出力限界線で、動作点C,Dを結ぶ線が回転電機20のみが作動するときの最大車速限界線で、実際には回転電機20の最大回転限界線である。
【0055】
以下では、回転電機20のみが作動しているときについて電動オイルポンプ44が作動される範囲を説明する。
【0056】
図3、
図4では、回転電機20の温度θ
Mが一定の特性線94と、回転電機20の出力P
Mが一定の特性線96が示されている。回転電機20の限界動作範囲92は、これらの特性線94,96によって、4つの範囲(a),(b),(c),(d)に分けられる。範囲(a)は、車速=(回転電機20の回転数)=0の線と、最大出力線と、特性線94と、特性線96とで囲まれた範囲で、動作点A,E,F,Hで規定される範囲である。範囲(b)は、最大出力線と、最大パワー線と、特性線94と、特性線96とで囲まれた範囲で、動作点E,B,C,Fで規定される範囲である。範囲(c)は、出力=0の線と、最大回転限界線と、特性線94と、特性線96とで囲まれた範囲で、動作点F,C,D,Gで規定される範囲である。範囲(d)は車速=(回転電機20の回転数)=0の線と、、出力=0の線と、特性線94と、特性線96とで囲まれた範囲で、動作点H,F,G,Oで規定される範囲である。
【0057】
ここで、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)の範囲は、範囲(a)+範囲(b)である。(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲は、範囲(b)+範囲(c)である。
【0058】
図3には、経済性優先のときに電動オイルポンプ44が作動される範囲が斜線で示されている。つまり、経済性優先のときは、回転電機20が範囲(b)で作動するときに、電動オイルポンプ44が作動される。ここで、範囲(b)は、回転電機20の限界動作範囲の中で、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)AND(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲である。この条件は、
図2におけるS14の肯定とS16の肯定とを共に満たすもので、S18により、電動オイルポンプ44が作動される。
【0059】
図4には、出力優先のときに電動オイルポンプ44が作動される範囲が斜線で示されている。つまり、出力優先のときは、回転電機20が範囲(a)+(b)+(c)で作動するときに、電動オイルポンプ44が作動される。ここで、範囲(a)+(b)+(c)は、回転電機20の限界動作範囲の中で、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)OR(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲である。この条件は、
図2におけるS24の肯定またはS26の肯定のときであって、S18により、電動オイルポンプ44が作動される。
【0060】
図3と
図4を比較して分かるように、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)AND(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲の方が、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)OR(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲よりも狭い。
【0061】
したがって、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)AND(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲の方が、電動オイルポンプ44が動作する範囲が狭い。つまり、電費向上要求あるいは距離優先要求に適し、経済性を優先するときに適した範囲である。
【0062】
逆に、(回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0以上)OR(回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0以上)の範囲の方は、電動オイルポンプ44が動作する範囲が広いので、経済性が犠牲になるが、広範囲でパワーを確保でき、出力優先要求に適した範囲である。
【0063】
このように、回転電機20の温度θ
Mが予め定めた閾値温度θ
M0以上となる条件と、回転電機20の出力P
Mが予め定めた閾値出力P
M0以上となる条件とに基づいて、電動オイルポンプ44を作動させることで、経済性優先あるいは出力優先のいずれにも適切に対応することができる。
【0064】
ハイブリッド車両において、回転電機20のみが作動する状態としては、車両を後退させるRレンジのときがある。Rレンジのときは、ハイブリッド車両の駆動に回転電機20のみが用いられるので、回転電機20の負荷が重い。したがって、Rレンジが選択されたときは、電動オイルポンプ44を作動することが好ましい。
図5は、その様子を示す図である。ここでは、時間t
1でRレンジがONとなって選択され、時間t
2でRレンジがOFFとなって他のレンジが選択された場合が示されている。この場合では、RレンジがONとなった時間t
1のときに電動オイルポンプ44がONとなって作動開始し、RレンジがOFFとなった時間t
2のときに電動オイルポンプ44がOFFとなって作動停止する。これによって、Rレンジのときにおける回転電機20の過熱を防止できる。
【0065】
上記では、電動オイルポンプ44の作動開始が回転電機20の温度θ
Mと出力P
Mに基づいて行われることを説明したが、電動オイルポンプ44の作動停止も、同様に回転電機20の温度と出力に基づいて行われる。この場合、作動開始の条件と作動停止の条件を同じとすると、回転電機20の温度θ
Mが閾値温度θ
M0の近傍にある場合、回転電機20の出力P
Mが閾値出力P
M0にある場合に、電動オイルポンプ44が作動開始と作動停止を頻繁に繰り返す恐れがある。電動オイルポンプ44が作動開始と作動停止を頻繁に繰り返すと、電動オイルポンプ44の耐久性が低下し、電動オイルポンプ44の故障につながる可能性がある。
【0066】
図6と
図7は、電動オイルポンプ44の作動の有無について、ヒステリシス特性を設けた例を示す図である。ヒステリシス特性を設定するのは、制御装置80のヒステリシス設定部88の機能によって実行される。
【0067】
図6は、電動オイルポンプ44の作動と停止の切替タイミングについて回転電機20の閾値温度θ
M0に関するヒステリシス特性を設ける様子が示されている。ここでは、電動オイルポンプ44が作動開始する閾値温度θ
MAと、作動停止するときの閾値温度θ
MBよりもHθだけ高温に設定される。つまり、電動オイルポンプ44が作動開始する動作線100と作動停止する動作線102は、回転電機20の温度としてHθのヒステリシス幅を介して離間して設定される。
【0068】
図7は、電動オイルポンプ44の作動と停止の切替タイミングについて回転電機20の閾値出力P
M0に関するヒステリシス特性を設ける様子が示されている。ここでは、電動オイルポンプ44が作動開始する閾値出力P
MCと、作動停止するときの閾値出力P
MDよりもH
Pだけ高温に設定される。つまり、電動オイルポンプ44が作動開始する動作線104と作動停止する動作線106は、回転電機20の出力としてH
Pのヒステリシス幅を介して離間して設定される。
【0069】
このように、電動オイルポンプ44の作動の有無について、ヒステリシス特性を設けることで、電動オイルポンプ44が作動開始と作動停止を頻繁に繰り返すことを防止し、電動オイルポンプ44の長寿命化を図ることができる。
【0070】
上記では、回転電機20の具体的な温度θ
Mまたは具体的な出力P
Mに関わらずヒステリシス幅を一定として説明したが、これを具体的な温度θ
Mまたは具体的な出力P
Mに応じてヒステリシス幅を変えるものとしてもよい。
【0071】
図8は、電動オイルポンプ44の作動タイミングのヒステリシス幅H
Pを回転電機20の具体的な温度θ
Mに応じて変更する例を示す図である。ここでは、回転電機20の温度θ
Mが高温となるにつれて、
図7で説明したヒステリシス幅H
Pを大きく設定する様子が示される。すなわち、回転電機20の温度θ
Mがθ
M3以下のときはヒステリシス幅H
P=0で、θ
Mがθ
M3からθ
M4の間はヒステリシス幅H
P=P
MC−P
ME=H
P1に設定され、θ
Mがθ
M4以上のときはH
P1よりも大きな値のヒステリシス幅H
P=P
MC−P
MD=H
P2に設定される。P
MC,P
MDは
図7で説明した内容である。
【0072】
このように、回転電機20の温度θ
Mが高いときにシステリシス幅を大きく取って電動オイルポンプ44の作動時間を長く取ることで、回転電機20の冷却を十分なものとできる。また、回転電機20の温度θ
Mが低いときにはシステリシス幅を小さくして電動オイルポンプ44の作動時間を短くし、過剰冷却を防止し、電力の経済性の向上を図ることができる。
【0073】
図9は、電動オイルポンプ44の作動タイミングのヒステリシス幅H
Pを回転電機20の具体的な出力P
Mに応じて変更する例を示す図である。ここでは、回転電機20の出力P
Mが大となるにつれて、
図7で説明したヒステリシス幅Hθを大きく設定する様子が示される。すなわち、回転電機20の出力P
MがP
M3以下のときはヒステリシス幅Hθ=0で、P
MがP
M3からP
M4の間はヒステリシス幅Hθ=θ
MA−θ
MC=Hθ
1に設定され、P
MがP
M4以上のときはHθ
1よりも大きな値のヒステリシス幅Hθ=θ
MA−θ
MB=H
P2に設定される。θ
MA,θ
MBは
図6で説明した内容である。
【0074】
このように、回転電機20の出力P
Mが大のときにシステリシス幅を大きく取って電動オイルポンプ44の作動時間を長く取ることで、回転電機20の冷却を十分なものとできる。また、回転電機20の出力P
Mが小のときにはシステリシス幅を小さくして電動オイルポンプ44の作動時間を短くし、過剰冷却を防止し、電力の経済性の向上を図ることができる。