(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912750
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】トーションビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
B60G9/04
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-73688(P2012-73688)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203200(P2013-203200A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000112082
【氏名又は名称】ヒルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126697
【弁理士】
【氏名又は名称】池岡 瑞枝
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(72)【発明者】
【氏名】坪田 悠希
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正志
(72)【発明者】
【氏名】日野 義信
【審査官】
倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−109507(JP,U)
【文献】
独国特許出願公開第10336800(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のトレーリングアームを連結するトーションビームが、前面板と、後面板と、前記前面板及び後面板の各上縁にわたって架け渡された前後対称な架橋板とからなる下方に開いた断面U字状であるトーションビーム式サスペンションにおいて、
トーションビームは、
前面板より後面板の長さを長くして、
前面板の下縁から前方に折り曲げて形成した前補強フランジの前折曲角度と、
後面板の下縁から後方に折り曲げて形成した後補強フランジの後折曲角度とを異ならせたことを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項2】
前折曲角度は、90度より大きい鈍角で、後折曲角度は、90度の直角である請求項1記載のトーションビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるトーションビーム式サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
左右一対のトレーリングアームをトーションビームで連結して構成されるトーションビーム式サスペンションは、左右一対のトレーリングアームが支持する車輪の上下動を前記トーションビームの捻れで吸収したり、様々な剛性(ロール剛性、ねじり剛性
、 トー剛性及びキャンバー剛性)を調整する働きを有している。こうしたトーションビームは、様々な構造のものが提案されている。例えば断面U字状の板金部材として構成されるトーションビームは、開放面を下方又は前方に向けた姿勢で、左右一対のトレーリングアームを連結する(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1が開示するトーションビーム式サスペンションは、減じられた重量で高い剛性を確保するため、前面板(脚)と、後面板(脚)と、前記前面板及び後面板の各上縁にわたって架け渡された前後対称な架橋板(弓形の嶺区分)とからなる下方に開いた断面U字状のトーションビーム(クロスストラット)が、少なくとも前面板又は後面板の一方の下縁に湾曲したカーリング部分(中空プロファイル状に湾曲した長さ区分)を形成し、前記カーリング部分の端部を前面板又は後面板の内面又は外面に接合している(特許文献1・請求項1)。
【0004】
特許文献2が開示するトーションビーム式サスペンションは、少ない部品点数で効率的にスタビライザ機能としてのロール剛性をトーションビームに持たせるため、トーションビームに沿って前記トーションビーム内を延在する連結部材を設け、前記連結部材の両端部を、トーションビームの左右端部に設けられた内側補強部材と一体的に連結している(特許文献2・請求項1)。具体的な連結部材として、下方に凸な断面円弧状板材(特許文献2・
図2)、逆に上方に凸な断面円弧状板材(特許文献2・
図4)やパイプ材(特許文献2・
図8)等を挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-029155号公報
【特許文献2】特開2001-088525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
断面U字状の板金部材として構成されるトーションビームは、材料を節約しながら、仕様要求に応える様々な剛性を確保する課題がある。特許文献1が開示するトーションビーム式サスペンションは、前面板又は後面板の下縁に湾曲したカーリング部分を形成することにより、前記課題の解決を試みている。特許文献2が開示するトーションビーム式サスペンションは、トーションビームと平行に別途連結部材を設けることにより、前記課題の解決を試みている。
【0007】
しかし、特許文献1が開示するトーションビーム式サスペンションは、カーリング部分だけ材料が余分に必要になるし、特許文献2が開示するトーションビーム式サスペンションは、別途連結部材が必要なことから、材料の節約を果たせていない。また、トーションビームに求められる剛性は、強すぎても、弱すぎても好ましくなく、仕様要求に合わせた細かな調整ができることが望ましいが、こうした点について特許文献1及び特許文献2は触れていない。
【0008】
断面U字状の板金部材として構成されるトーションビームは、端縁をそのまま延ばす場合、前記端縁が滑らかでないことによる応力の集中を防ぐため、研磨して前記端縁を滑らかにしていた。特許文献1が開示するトーションビーム式サスペンションは、こうした研磨作業を不要にする点で好ましいが、やはり剛性の向上の細かな調整に不適である。そこで、材料を節約しながら、仕様要求に応える様々な剛性を実現するため、剛性の向上を調整できるトーションビームについて、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
検討の結果開発したものが、左右一対のトレーリングアームを連結するトーションビームが、前面板と、後面板と、前記前面板及び後面板の各上縁にわたって架け渡された前後対称な架橋板とからなる下方に開いた断面U字状であるトーションビーム式サスペンションにおいて、トーションビームは、
前面板より後面板の長さを長くして、前面板の下縁から前方に折り曲げて形成した前補強フランジの前折曲角度と、後面板の下縁から後方に折り曲げて形成した後補強フランジの後折曲角度とを異ならせたことを特徴とするトーションビーム式サスペンションである。前折曲角度(後折曲角度)は、前面板の前面側(後面板の後面側)と前補強フランジの上面側(後補強フランジの上面側)とが挟む角度である。
【0010】
本発明におけるトーションビームは、前面板の下縁に形成する前補強フランジの前折曲角度と、後面板の下縁に形成する後補強フランジの後折曲角度とを異ならせ、前補強フランジによる前面板の剛性(特に前面板の下縁の剛性)の向上と、後補強フランジによる後面板の剛性(特に後面板の下縁の剛性)の向上とに差を設ける。前補強フランジ及び後補強フランジによる剛性の向上の差は、トーションビームの疲労強度を改善する。また、前補強フランジ及び後補強フランジの形成により、前補強フランジ及び後補強フランジの各端縁を研磨しなくても端縁に応力が集中することを回避できる。
【0011】
通常、前面板の剛性は後面板に比べて低くてよいので、前折曲角度は、90度より大きい鈍角で、後折曲角度は、90度の直角である構成が好ましい。後折曲角度を90度とすると、後補強フランジによる後面板の剛性の向上は最大限となる。ここで、前折曲角度を90度より大きい鈍角で調整すると、前補強フランジによる前面板の剛性の向上を、前記後面板の剛性の向上に対して、必ず低く調整できる。前折曲角度は、後面板の剛性の向上に対して前面板の剛性の向上の程度をどれぐらいに抑えるかによって決定される。
【0012】
また、前面板と後面板との長さを異ならせても、前面板及び後面板の剛性の向上に差を設けることができる。前補強フランジの前折曲角度と後補強フランジの後折曲角度の後折曲角度との差による剛性の向上の調整と、前面板及び後面板の長さによる剛性の向上の調整とは、個別に設定できるため、両者を組み合わせるとより細やかな剛性の向上の調整ができる。上述同様、前面板の剛性は後面板に比べて低くてよいとすれば、前面板より後面板の長さを長くする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、前面板の下縁から前方に折り曲げて形成した前補強フランジの前折曲角度と、後面板の下縁から後方に折り曲げて形成した後補強フランジの後折曲角度とを異ならせることにより、前面板と後面板との剛性の向上の程度に差を設けることができ、トーションビーム式サスペンションの仕様要求に合わせて、トーションビームの前面板及び後面板の剛性をそれぞれ個別に設定できるようになる。これにより、トーションビーム式サスペンションの設計自由度が向上する。前補強フランジ及び後補強フランジの形成は、前記前補強フランジ及び後補強フランジの端縁を研磨する必要をなくし、トーションビームの製造能率を向上させる効果をもたらす。
【0014】
前面板及び後面板の相対的な剛性の差を設けるため、例えば前面板を短くすると、前補強フランジ及び後補強フランジを設けていない従来のトーションビームと断面周長(トーションビームを平面に展開した場合における横幅)を同じにする、すなわち従来と変わらない原板から形成できるようになり、材料コストの上昇を抑制又は防止できる利点もある。前面板及び後面板の剛性の向上は、前補強フランジ、後補強フランジ、そして前記前面板及び後面板の長さの組み合わせにより調整できるため、前記従来のトーションビームに比べて断面周長を短くし、材料の節約を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の適用例であるトーションビーム式サスペンションの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。本発明のトーションビーム式サスペンション1は、例えば
図1に見られるように、左右一対のトレーリングアーム11,11をトーションビーム12により連結され、平面視H形状に構成される。トーションビーム12は、
図2に見られるように、前面板121と、後面板122と、前記前面板121及び後面板122の各上縁にわたって架け渡された前後対称な断面角山形状の架橋板123とからなる下方に開いた断面U字状である。
【0017】
本発明の特徴は、前面板121の下縁から前方に折り曲げて形成した前補強フランジ124の前折曲角度α1と、後面板122の下縁から後方に折り曲げて形成した後補強フランジ125の後折曲角度α2とを異ならせていることにある。本例のトーションビーム12は、前折曲角度α1が135度の鈍角、後折曲角度α2が90度の直角であり、前面板121の剛性の向上を、後面板122の剛性の向上より抑えて剛性に差を設けている。
【0018】
本例のトーションビーム12は、更に前面板121の長さL1を後面板122の長さL2より短くし、材料の節約を図っている。ここで、架橋板123の長さが同じとして、本例のトーションビーム12における前補強フランジ124、後補強フランジ125、前面板121、そして後面板122を足した長さが、端縁を下方に向けた旧来のトーションビームにおける前面板と後面板とを足した長さに等しければ、本例のトーションビーム12は従来と同じ原板から製造できることになり、材料コストの増加のないことが理解される。
【符号の説明】
【0019】
1 トーションビーム式サスペンション
11 トレーリングアーム
12 トーションビーム
121 前面板
122 後面板
123 架橋板
124 前補強フランジ
125 後補強フランジ
α1 前折曲角度
α2 後折曲角度
L1 前面板の長さ
L2 後面板の長さ