(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アライメントマークは、前記窪部の内部、前記窪部の底面および前記隣接領域のいずれかに互いに離隔して少なくとも2箇所に設けられた、互いに形状の異なる複数の図形パターンを含む請求項1に記載の試料保持プレート。
前記プレート状部材の上面に複数の前記窪部が設けられ、前記複数の図形パターンの形状とその配置との組み合わせが、前記複数の窪部間で互いに異なる請求項2に記載の試料保持プレート。
プレート状部材の上面に複数の窪部が設けられるとともに、前記窪部の各々に対し、当該窪部の内部、当該窪部の底面、および、前記プレート状部材の主面のうち当該窪部に隣接する隣接領域、の少なくとも1箇所に、光学的に検出可能なアライメントマークが設けられた試料保持プレートを、略水平姿勢に保持する保持工程と、
前記アライメントマークを撮像範囲内に含めながら前記窪部を撮像して、前記窪部の内容物の画像を取得する撮像工程と
を備え、
一の前記窪部に対して設けられた前記アライメントマークは、前記プレート状部材の上面に直交する軸周りの当該窪部の回転に対して非対称性を有する
ことを特徴とする画像取得方法。
前記撮像工程では、前記窪部から出射される可視光成分の光を受光して前記窪部の内容物を撮像するとともに、前記窪部から出射される可視光領域外の波長成分の光を受光して前記アライメントマークを撮像する請求項8に記載の画像取得方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
個別に撮像された複数の画像を比較する場合、それらの間の精密な位置合わせが必要である。しかしながら、撮像装置にプレートを載置する際、プレートの置き位置のばらつきが生じることが避けられない。また、撮像装置に設けた突き当て部材にプレートを突き当てて位置決めを行うことも考えられるが、培養される細胞等に衝撃が加わることによる影響が懸念される。
【0006】
このような問題を回避するために、位置のばらつきを含んだまま撮像された画像からでも位置合わせを行うことのできる技術が要望されるが、そのような技術は確立されていない。特に、ウェルの断面形状としては円形のものが一般的であり、プレートが本来の姿勢から回転した状態で撮像されていたとしても、それを画像から事後的に把握することは不可能であった。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、位置ずれを含んで撮像された画像から窪部の姿勢を把握するための情報を事後的に取得可能な試料保持プレート、および該プレートの窪部の画像を取得する画像取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる一の態様は、プレート状部材の上面に液体を保持可能な
複数の窪部を設けてなる試料保持プレートであって、上記目的を達成するため、前記窪部
の各々に対し、当該窪部の内部、
当該窪部の底面、および、前記プレート状部材の主面のうち
当該窪部に隣接する隣接領域、の少なくとも1箇所に、光学的に検出可能なアライメントマークが設けられ、
一の前記窪部に対して設けられた前記アライメントマークは、前記プレート状部材の上面に直交する軸周りの当該窪部の回転に対して非対称性を有することを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明では、窪部が撮像されたとき、その内容物と共にアライメントマークを
窪部ごとに画像に含ませることができる。したがって、このアライメントマークを窪部の姿勢を把握するに際しての位置基準のための情報として用いることが可能である。例えば、同じ窪部を撮像した複数の画像を重ねて比較する際に、
アライメントマーク同士を一致させることで、両画像の位置合わせを行うことができる。
【0010】
ここで、
複数の窪部の各々に対して設けられるアライメントマークは
、プレート状部材の上面に直交する軸周りの窪部の回転に対して非対称性を有するもの
である。このようにすると、試料保持プレートの回転に起因する画像の傾きが生じた場合でも、アライメントマークの位置や傾きから事後的にそれを検出することができる。
【0011】
また例えば、アライメントマークは、窪部の内部、窪部の底面および隣接領域のいずれかに互いに離隔して少なくとも2箇所に設けられた、互いに形状の異なる複数の図形パターンを含むものであってもよい。アライメントマークを複数箇所に設けた図形パターンにより構成することで、例えば培養された細胞などの窪部の内容物によって1つの図形パターンが遮蔽された場合にも位置合わせを行うことができる。また、図形パターンを異ならせた場合、複数の画像間で同じ図形パターン同士の位置合わせを行うことで、自動的に画像間の位置合わせがなされることになる。
【0012】
この場合において、プレート状部材の上面に複数の窪部が設けられ、複数の図形パターンの形状とその配置との組み合わせが、複数の窪部間で互いに異なるようにしてもよい。このようにすると、複数の窪部それぞれを撮像した画像間でアライメントマークのパターンが相違するため、どの窪部の画像であるのかを画像のみから容易に判別することが可能となる。
【0013】
また例えば、プレート状部材の上面に平行な切断面における窪部の断面形状が、円形、楕円形または正多角形であってもよい。このような回転対称性を有する形状の窪部においては、単にその輪郭からは試料保持プレートの回転に起因する画像の傾き量を一意に検出することが難しい場合があるが、本発明のアライメントマークを設けることで、位置基準としての確実な情報が得られるため、画像の傾き量を一意に検出することが可能である。
【0014】
これらの場合において、アライメントマークは、可視光に対して透明である一方、可視光領域外の特定の波長成分の光に対して不透明に構成されていてもよい。このような構成によれば、可視光域で撮像した窪部の内容物の画像にはアライメントマークの像が現れないので、画像の観察に際してアライメントマークは影響を与えない。一方、可視光領域外の光でアライメントマークを撮像することが可能であるので、位置基準としてのアライメントマークの機能にも支障は生じない。
【0015】
また例えば、この発明にかかる試料保持プレートは、上面から下面に貫通する貫通孔を有するプレート状部材と、プレート状部材の下面に当接して貫通孔の下面側開口を塞ぐシート状部材とを備え、貫通孔の側面とシート状部材上面のうち貫通孔に臨む部位とで囲まれる空間が窪部を構成するようにしてもよい。このような構成とすることにより、細胞等の観察に好適な試料保持プレートを工業的に効率よく製造することが可能である。また、窪部の壁面と底面とを構成するに際してそれぞれ独立に材料を選択することができる。
【0016】
また、アライメントマークは、例えばプレート状部材の上面と下面との間を貫通する貫通孔として形成されてもよい。このような構成によれば、プレート状部材の上面側、下面側のいずれからの撮像にも対応することができる。
【0017】
また、この発明にかかる画像取得方法は、上記目的を達成するため、プレート状部材の上面に
複数の窪部が設けられるとともに、前記窪部
の各々に対し、当該窪部の内部、
当該窪部の底面、および、前記プレート状部材の主面のうち
当該窪部に隣接する隣接領域、の少なくとも1箇所に、光学的に検出可能なアライメントマークが設けられた試料保持プレートを、略水平姿勢に保持する保持工程と、前記アライメントマークを撮像範囲内に含めながら前記窪部を撮像して、前記窪部の内容物の画像を取得する撮像工程とを備え、
一の前記窪部に対して設けられた前記アライメントマークは、前記プレート状部材の上面に直交する軸周りの当該窪部の回転に対して非対称性を有することを特徴としている。
【0018】
このように構成された発明では、位置基準となるアライメントマークを含んだ窪部の画像が得られる。そして、このアライメントマークを位置合わせのための情報として用いることで、例えば当該画像の傾きを検出したり、別のタイミングで撮像された複数の画像間での位置合わせ等を事後的に行うことが可能となる。また、このように画像のずれが把握されるため、試料保持プレートの保持における位置決め精度に対する要求を緩和することができる。したがって、撮像を行うための装置コストを抑制することができる。
【0019】
ここで、撮像工程では、例えば窪部から出射される可視光成分の光を受光して窪部の内容物を撮像するとともに、窪部から出射される可視光領域外の波長成分の光を受光してアライメントマークを撮像するようにしてもよい。このようにすると、試料保持プレートに設けるアライメントマークが可視光線で視認することができる必要性はなくなる。したがって、例えばアライメントマークを可視光に対して透明なものとして、観察すべき画像に映り込まないようにすることができる。
【0020】
また、同一の試料保持プレートについて保持工程と撮像工程とを含む一連の処理を複数回行って、同一の窪部の画像を複数取得し、複数の画像間の相対的な位置ずれを、それぞれの画像から検出したアライメントマークに基づき補正する補正工程をさらに備えるようにしてもよい。
【0021】
試料保持プレートの保持および撮像を繰り返し行う場合、試料保持プレートの保持位置を完全に同一にすることは極めて困難である。一方、アライメントマークを含む撮像を行うことで、保持位置のばらつきに起因する画像の相対的な位置ずれは、アライメントマークを位置基準として事後的に補正することができる。このような補正を行うことで、複数の画像の比較観察を効率よく行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、窪部の内容物とともにアライメントマークを含んだ画像を撮像することができ、アライメントマークを画像の位置基準を示す情報として用いることができる。このため、得られた画像から、当該画像の傾きや複数画像間の相対的な位置ずれを事後的に把握することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1はこの発明を好適に適用可能な撮像装置の一態様の概略構成を示す図である。この撮像装置1は、複数の、例えば96個(12×8のマトリクス配列)のウェルWを形成されたサンプル(マイクロプレート)2の下面周縁部に当接して該マイクロプレート2を略水平状態に保持するホルダ11と、該ホルダ11の上部に設けられた光源12と、ホルダ11の下部に設けられた撮像ユニット13と、これらを司って所定の動作を実行させる制御部10とを備えている。以下の説明のために
図1に示す通りに座標軸を設定する。X−Y平面は水平面であり、Z軸は鉛直軸である。
【0025】
光源12は、制御部10に設けられた光源制御部112によって制御され、光源制御部112からの制御指令に応じてホルダ11に保持されたマイクロプレート2の上方から複数のウェルWに対して一括して光Lを照射する。照射される光は可視光であり、特に白色光が好ましい。
【0026】
撮像ユニット13は、光源12から出射されてホルダ11に保持されたマイクロプレート2の下方に透過してくる透過光Ltを受光することでマイクロプレートMの画像を撮像するカメラとして機能するものである。撮像ユニット13は制御部10に設けられたカメラ駆動機構113に連結されており、カメラ駆動機構113は、ホルダ11に保持されたマイクロプレート2の下面に沿って撮像ユニット13を水平面内で走査移動させる。
【0027】
すなわち、この実施形態では、撮像ユニット13がマイクロプレート2の下面に沿って走査移動可能となっている。なお、ここでは撮像ユニット13がマイクロプレート2に対して移動するが、撮像ユニット13とマイクロプレート2との間の相対移動が実現されれば足り、この意味でマイクロプレート2を撮像ユニット13に対して移動させるようにしてもよい。
【0028】
撮像ユニット13により撮像された画像データは画像処理部114に与えられる。画像処理部114は、撮像ユニット13からの画像データに対して適宜画像処理を施したり、画像データに基づく所定の演算処理を実行する。処理前後のデータは必要に応じて記憶部115に記憶保存される。また、検出処理部116は、画像処理部114から与えられる画像データに基づき所定の検出処理を行って、画像に含まれる特徴的な部位を検出する。この検出処理は、例えば画像の輝度データを解析することによって当該画像の中で光学的特性がその周囲領域とは異なる領域を検出する処理であり、また当該領域について特徴量を算出することにより、当該領域がどのような起源・種類のものであるかの分類が可能である。このように画像からある特徴を有する部位を識別し検出する処理や、そのような処理に好適な特徴量については種々の技術が公知であるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0029】
検出処理部116による検出結果も記憶部115に保存される。また、後述するように、画像処理部114は必要に応じて検出処理部116による検出結果に基づいた画像処理を行う場合がある。そして、適宜の画像処理が施された画像データは例えば液晶ディスプレイ等の表示手段を有する表示部118に与えられ、表示部118は与えられた画像データに対応する画像を表示してユーザに提示する。さらに、この撮像装置1は、画像処理の内容や表示の態様等についてユーザからの操作指示入力を受け付けるための入力受付部117を有している。入力受付部117は、例えばキーボード、マウス、タッチパッド等の入力受付手段またはそれらを適宜組み合わせたものであり、ユーザからの指示入力を受け付けて制御部10がこれを装置の動作に反映させることで、ユーザが所望する機能を実現する。
【0030】
この撮像装置1は、各ウェルWに保持された流動体(本明細書では、液体、ゲル状のまたは半流動性を有する固体、および、例えば軟寒天のように流動性を有する状態でウェルに注入されその後固化するものの総称である)およびその中に含まれる細胞等の撮像対象物の光学像を撮像したり、その光学像から所定の光学的特徴を有する、より具体的にはウェルWに保持された液体等とは異なる光学的特性を有する特異な部分をその光学的特性の差異を利用して検出するという用途に適用することができる。例えば、培養液や培地中の細胞や細胞集塊(スフェロイド)を撮像対象物として撮像したり、さらに画像処理によりそのような細胞等を自動的に検出する目的に好適に使用することができる。
【0031】
図2はマイクロプレートの構造をより詳細に示す図である。
図2(a)に示すように、本発明の一実施形態であるマイクロプレート2は、略円筒状(より厳密には、底面に向けて断面積が漸減するテーパー付き)の側面形状を有する貫通孔211が一定のピッチで規則的に二次元マトリクス配置された上部プレート21と、上部プレート21の下面に各貫通孔211を塞ぐように貼付された下面シート22とを有している。
【0032】
図2(b)に示すように、下面シート22は上部プレート21の下面にぴったりと密着されており、上部プレート21の貫通孔211の側面と、下面シート22とによって囲まれた空間に液体を保持することが可能となっている。すなわち、この空間が流動体を保持するウェルWとして機能し、貫通孔211の側面がウェルWの側壁面を、また下面シート22がウェルWの底面をそれぞれなしている。下面シート22は透明な樹脂、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂により形成されたシート体である。
【0033】
マイクロプレート2における各ウェルWの直径および深さは代表的には数mm程度であり、ウェルWそれぞれには、例えば培養液、培地、試薬などの液体等(一部のみ図示)が注入されている。なお、この撮像装置1が対象とするマイクロプレートのウェル数およびそのサイズはこれらに限定されるものではなく任意である。また、撮像対象物を撮像可能である限りにおいて、例えば全体が一体形成されたウェルプレートであってもよい。
【0034】
また、マイクロプレート2上面の四隅には、マイクロプレート2がホルダ11に載置されたときの姿勢を検出するための姿勢検出用マーク212がそれぞれ設けられている。姿勢検出用マーク212を用いて、ホルダ11上におけるマイクロプレート2の概略位置の確認を行うことができる。撮像によりマイクロプレート2の位置確認を行う場合、該マークが設けられる面は撮像方向に依存する。すなわち、マイクロプレート2の上下主面のうち、撮像ユニット13に対向する面に形成される。マイクロプレート2の下面に形成する場合、符号222で示すように下面シート22に姿勢検出用マークが形成されてもよく、また下面シート22が光透過性を有するものであれば上部プレート21の下面に設けられてもよい。上部プレート21が透明材料により形成されている場合には上面、下面どちらに設けられてもよい。また、後述する貫通孔タイプのマークとした場合には上下いずれの方向からも撮像可能であるため上部プレート21は不透明であってもよい。
【0035】
また、マイクロプレート2の上面は長方形の4頂点のうち隣接する2頂点が切り欠かれた形状となっており、該切り欠き部213により、マイクロプレート2は水平面内での回転に対して非対称な外形を有している。これにより、水平面内でのマイクロプレート2の姿勢は一意に定められる。
【0036】
また、このマイクロプレート2では、各ウェルWの周辺領域、より具体的には、上部プレート21の上面であって貫通孔211の上面側開口部に隣接する隣接領域R1、ウェルW内部の貫通孔211の側壁面R2、ウェルW底面のうちウェル周縁部に近い領域R3、および、上部プレート21の下面であって貫通孔211の下面側開口部に隣接する隣接領域R4のいずれかに、あるいは、上部プレート21の上面と下面との間で貫通する貫通孔Hとして、後述するアライメントマークが設けられている。このアライメントマークは、撮像装置1によって撮像された画像における各ウェルWの姿勢、特にその鉛直軸周りの回転量を検出するために設けられるものである。
【0037】
撮像装置1によりウェルWを撮像した画像では、ウェルWの側壁面に相当する略円形の輪郭の中に、予めウェルW内で培養された細胞等の像が分布した状態となっている。その輪郭が円形であることから、例えばホルダ11に載置されたマイクロプレート2の水平面(X−Y面)内での傾き、つまり鉛直軸(Z軸)周りの回転によってウェルWが回転した状態で映っていたとしても、撮像された画像からそのことを把握することは事実上不可能である。
【0038】
そこで、この実施形態では、各ウェルWに予め姿勢確認用のアライメントマークを設けておき、ウェルWを撮像する際にはこのアライメントマークをウェルWと同じ撮像範囲内に収めた状態で撮像を行う。こうしておけば、撮像された画像からアライメントマークの位置を検出することで、画像内におけるウェルWの姿勢、特にその回転量を正確にかつ事後的に把握することが可能となる。
【0039】
図3はプレート上面から見たアライメントマークの例を示す図である。
図3(a)は上部プレート21上面のウェル周辺領域R1にアライメントマークが形成された例を示している。
図3(a)左側の例では、ウェルW1の周囲を取り囲むように4個の図形パターンP11〜P14が等角度間隔に設けられている。このうち3個のパターンP12〜P14は「+」型の同一形状を有しているが、1個のパターンP11のみはこれと異なる形状、すなわち「△」型となっている。このように、アライメントマークのパターン配置をウェルの水平面内での回転に対して非対称なものとしておくことで、各図形パターンの位置を検出することでウェルW1の回転量を一意に決定することが可能である。
【0040】
一方、
図3(a)右側の例では、ウェルW2を左右から挟むように2個の「+」型のパターンP21,P22が設けられ、ウェルW2の上部に「A1」の文字パターンが設けられている。このようなパターンによっても、各図形パターンの位置からウェルW2の回転量を一意に決定することが可能である。また、文字パターン「A1」はマイクロプレート2に設けられた複数のウェルから当該ウェルW2を特定するための識別コードであり、各ウェルWのそれぞれに対して異なる文字による識別コードが割り当てられる。こうすることにより、画像がどのウェルに対応したものであるかが容易に判別できるようになる。これにより、試料の取り違え等のミスを未然に防止することができる。また例えば、別途保存されている当該ウェルの培養条件等、試料に関する情報を、画像と関連付けて表示することも可能となる。
【0041】
図3(a)に示されたパターンは、上部プレート21の上下の主面のうち、撮像が行われる方向の面に形成される。すなわち、ウェルWを上側から撮像するケースに対応するためには上部プレート21の上面に、下側から撮像するケースに対応するためには上部プレート21の下面に形成される。双方のケースに対応可能とするために、上下両面に形成されてもよい。
【0042】
また、
図3(b)はウェル側壁面R2にアライメントマークが形成された例を示している。
図3(b)左側の例では、ウェルW3の周縁部に3箇所、径方向外側に向けて突出した突出部位P31〜P33が設けられている。一方、
図3(b)右側の例では、ウェルW4の周縁部に3箇所、径方向内側に向けて突出した突出部位P41〜P43が設けられている。このような突出部位をウェル側壁面に設けることによっても、画像におけるウェルの回転を検出することができる。突出部位の配置をウェルの回転に対して非対称なものとすることで、ウェルの回転量を一意に決定することができる。
【0043】
これらのアライメントマークはいずれも上部プレート21に形成されるものであるから、例えば上部プレート21が樹脂成型品である場合、これを製造するための型にアライメントマークに対応する凹凸を予め形成しておけばよい。また、上部プレート21や下面シート22に、例えばインクジェット法による印刷、レーザー光によるマーキングなどの加工によって、またはアライメントマークを有するシールを貼り付けるなどの方法によってもよい。
【0044】
一方、
図3(c)はウェル底面領域R3にアライメントマークが形成された例を示している。
図3(c)左側の例では、ウェルW5の底面周縁部の4箇所に図形パターンP51〜P54が設けられており、そのうち隣接する2個P51,P52は「+」型、残りの2個P53,P54は「−」型の図形パターンとなっている。また、
図3(c)右側の例では、ウェルW6の底面周縁部のうち上部に「△」型のパターンP61、左右にそれぞれ「+」型、「□」型の図形パターンP62,P63が形成されている。
【0045】
さらに、
図3(d)に示す例では、上部プレート21の上下主面の隣接領域R1、R4間を貫通する貫通孔P71,P72がアライメントマークとして形成されている。この場合には、上下いずれの方向からでも撮像可能である。上部プレート21の少なくとも表面を不透明または着色された材料により形成することで、上部プレート21の表面とアライメントマークP71,P72との画像コントラストを大きくして認識しやすくするようにしてもよい。なお、このような貫通孔タイプのアライメントマークは少なくとも上部プレート21において貫通している必要があるが、下面シート22が光透過性を有するものであれば、下面シート22を通して貫通している必要は必ずしもない。すなわち、上部プレート21に設けられた貫通孔が光透過性を有する下面シート22によって塞がれた構成でもよい。
【0046】
これらのパターンもウェルの回転に対して非対称に構成されており、このようなアライメントマークによっても、画像におけるウェルの回転量を一意に検出することが可能である。したがって、これらのアライメントマークをウェルの姿勢を把握するための情報として用いることができる。
【0047】
また、
図3(c)右側の例では、3箇所の図形パターンを全て異なる形状とすることで、マイクロプレート2に設けられた複数のウェルWを識別するための機能を持たせることが可能である。すなわち、図形パターンの形状やその配列順序、位置等からなる組み合わせパターンをウェルごとに異ならせておくことで、撮像された画像がどのウェルのものであるかを容易に識別することが可能となる。
【0048】
ウェル底面にアライメントマークを設ける場合、ウェルの内容物、例えばウェル内に注入された培地で培養される細胞等によってアライメントマークが遮蔽されてしまうことがあり得る。この意味において、アライメントマークはできるだけ多くの図形パターン、好ましくは3個以上の図形パターンからなるものが望ましい。また、アライメントマークの位置検出によってウェルの回転量を精度よく求めるために、ウェル底面のうち周縁部に近い領域R3に図形パターンが配置されることが望ましい。
【0049】
なお、ウェル底面に設けられる図形パターンは、ウェル上方または下方からの撮像視野に収めることができる範囲において、ウェル内部(つまり下面シート22の上面)、ウェル外部(つまり下面シート22の下面)のいずれに形成されてもよい。下面シート22が不透明である場合には当然に、撮像ユニット13が配置される側の面にアライメントマークが形成される必要がある。下面シート22への図形パターンの形成は、例えば適宜の印刷技術やインプリンティング技術によって行うことが可能である。
【0050】
上記したアライメントマークはあくまでその例を示したものであり、その図形パターンの形状や個数、配置等については上記したものに限定されず、本発明の趣旨に反しない限りにおいて種々のものを使用可能である。
【0051】
次に、上記のように構成された撮像装置1とマイクロプレート2との組み合わせによる画像取得処理について説明する。この画像取得処理は、同一の試料を所定の時間間隔で複数回撮像した画像を比較観察する、いわゆるタイムラプス観察のための画像を取得するための処理である。
【0052】
マイクロプレート2の各ウェルWには培地が注入されて細胞等が培養される。培養を行う間、所定の温度・湿度環境を維持するために、マイクロプレート2は適宜のインキュベーター(図示せず)内に保管されている。そして、所定の時間間隔ごとに、マイクロプレート2がインキュベーターから撮像装置1に移されて、その都度撮像装置1による撮像が行われる。
【0053】
また、これ以外にも、例えばウェルに薬液を注入する等の操作を施し、その前後におけるウェル内の変化を観察する目的で画像を取得する際にも、以下に説明する画像取得処理を適用することが可能である。この画像取得処理は、ユーザの実行指示に応じて制御部10が予め設定された処理プログラムを実行して装置各部を制御することにより実現される。
【0054】
図4は
図1の撮像装置1における画像取得処理を示すフローチャートである。まず、ウェルWに撮像の対象となる試料が保持されたマイクロプレート2が略水平姿勢で撮像装置1にセットされるのを待つ(ステップS101)。このとき、試料に衝撃が加わることで内部の細胞等に影響を与えることがないよう、ホルダ11へのマイクロプレート2の置き位置についてはある程度のばらつきを許容するようにするのが好ましい。これによるウェルの位置や傾きのばらつきについては、後述する画像処理によって補正することができる。
【0055】
続いて、この状態で撮像ユニット13をマイクロプレート2に対し走査移動させることで、マイクロプレート2全体を撮像し、全てのウェルWを含んだ画像を取得する(ステップS102)。上記したステップS101およびS102を、所定の時間間隔で、あるいはウェルに対する操作を挟んで再度実行し、必要枚数の画像が取得されるまでこれを繰り返す(ステップS103)。
【0056】
必要枚数の画像が取得されると、複数のウェルを含んだ画像から1つのウェル領域のみを含む部分領域を切り出してウェル画像を作成する(ステップS104)。このときウェル画像はアライメントマークを含むように全体画像から切り出される。ウェル領域内(側壁面R2および底面R3)にアライメントマークが形成されている場合には、ウェルの輪郭全体が収まる部分領域を切り出すことで、ウェル画像には自動的にアライメントマークが含まれる。一方、ウェル隣接領域R1にアライメントマークが形成されている場合には、ウェル輪郭の外側に位置するアライメントマークを含むように、全体画像から部分領域が切り出される。以後の処理はこのウェル画像ごとに実行される。
【0057】
こうして得られた各ウェル画像から、当該画像に含まれるアライメントマークの検出を行う(ステップS105)。そして、時間間隔をおいて同一のウェルを撮像した複数のウェル画像におけるアライメントマークの位置関係を比較して、それらの間における相対的なウェルの傾き量を算出する(ステップS106)。
【0058】
各ウェル画像の傾きは検出された複数の図形パターンの位置から求めることができる。例えば検出された2つの図形パターンそれぞれの重心を結ぶ線分の画像内における傾きが、予め想定された傾きのないウェル画像における角度とどの程度相違しているかによって、当該ウェルの絶対的な傾き量を把握することができる。また、該線分の傾きが複数の画像間でどの程度相違しているかによって、複数の画像間での相対的な傾き量を把握することが可能である。
【0059】
続いて、算出されたそれぞれの傾き量に基づき、ウェル画像の回転補正を行う(ステップS107)。その目的は、同一ウェルを撮像した複数の画像間におけるウェルの傾き量を等しくすることにある。したがって、それぞれの画像においてウェルの姿勢を所定の基準方向(例えば画像の上下方向)に揃えるようにしてもよいし、複数の画像の1つを基準として他の画像のウェルの姿勢をそれに合わせるようにしてもよい。画像の回転については、画像解析によってウェルの輪郭に対応する円を画像内で特定し、当該円の内部のウェル領域に属する画素を所定の角度だけ回転移動させるような処理を行えばよい。
【0060】
回転補正後の画像については、同一ウェルを撮像した画像を1セットとして撮像順に並べグループ化したものを当該ウェルについてのタイムラプス画像セットとして保存しておく(ステップS108)。こうしておくことで、それぞれのウェル内で細胞等がどのように変化したかを表す一連の画像を随時利用することが可能となる。
【0061】
図5および
図6はタイムラプス画像セットの例を示す図である。より詳しくは、
図5は上記した回転補正を行わずに作成したタイムラプス画像セットの例を比較例として示すものであり、
図6は回転補正を行って作成した本実施形態のタイムラプス画像セットの例を示している。ここでは
図3(c)右側のアライメントマークを設けたウェルの画像を例示するが、他のアライメントマークのパターンを用いた場合も同様である。
【0062】
まず
図5について説明する。
図5(a)に示す2つのウェル画像Iw1、Iw2は、同一のウェルを異なる時刻に撮像した画像の組である。なお、ここでは同一ウェルを撮像した画像が2つである場合を採り上げるが、画像が3以上ある場合も考え方は同じである。撮像装置1に対するマイクロプレート2の着脱時の位置ずれに起因して、2つのウェル画像におけるウェルの傾きに角度θの差があったとする。
【0063】
撮像装置1の表示部118または適宜の表示装置によってこれらの画像を時刻と共に切り換えながら表示する場合を考える。このような表示方法は、ウェル内に分布する細胞等の経時変化を観察する際、その位置や大きさの変化や、異なる画像間で互いに対応する細胞等を特定する上で有用なものである。
図5(b)に示すように、傾きの差を含んだまま作成されたタイムラプス画像セットS1の2つの画像Iw1、Iw2を切り換え表示したとき、先の画像Iw1においてある位置に表示された細胞等の画像オブジェクトが、後の画像Iw2では異なる位置に表示されることとなる。
【0064】
このため、2つの画像における画像オブジェクト間の対応関係がわからなくなってしまう。2つの画像で画像オブジェクトに変化がなければ傾きを認識することは不可能ではないが、生物科学分野における観察では、細胞の増減により画像オブジェクト自体が時刻とともに変化するため、画像間での対応関係を把握することが特に困難である。従来の技術においては、ウェル画像の段階ではウェルがどの程度傾いて撮像されたかを事後的に把握することができず、この問題を解消することができなかった。
【0065】
一方、
図6に示す本実施形態のタイムラプス画像セットは、
図6(a)に示すように、2つの画像Iw1、Iw2間における相対的な傾きの差θが回転補正によって解消される。ここではウェル画像Iw2について、矢印で示すようにウェル領域を回転させることで、傾きが補正されたウェル画像Iw2cを作成している。
【0066】
こうして回転補正された画像によりタイムラプス画像セットS2を構成することで、
図6(b)に示すように、時刻とともに切り換え表示される画像間でウェルの傾きは一致しており、同一の画像オブジェクトは、細胞等の移動がない限り、切り換え前後の画像において同一位置に表示される。また、細胞等が移動した場合には、その移動量を画像から容易に求めることができる。これにより、細胞等の発生・消滅やサイズの変化などを把握しやすくなり、ユーザによる観察が効率的に支援される。
【0067】
以上説明したように、この実施形態では、マイクロプレート2が本発明の「試料保持プレート」に相当しており、ウェルWが本発明の「窪部」に相当している。また、上部プレート21および下面シート22がそれぞれ本発明の「プレート状部材」および「シート状部材」として機能している。
【0068】
また、
図4の画像取得処理においては、ステップS101が本発明の「保持工程」に相当する一方、ステップS102が本発明の「撮像工程」に相当している。また、ステップS105〜S107が、本発明の「補正工程」に相当している。
【0069】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では可視光(白色光)によりウェル内容物とアライメントマークとを同時に撮像しているが、ウェル画像の傾きを自動的に補正する構成においては、アライメントマークは装置において何らかの光学的手段により検出されれば足り、人間により視認できるものである必要は必ずしもない。また、ウェル内容物の観察という点では視認できない方が好ましいとも言える。
【0070】
そこで、例えばアライメントマークを可視光に対しては透明であるが可視領域外の光(例えば赤外線)により撮像可能であるものとし、同じウェルの可視像と赤外像とを個別に撮像するようにしてもよい。この場合、可視光と赤外線とを個別にウェルに照射してその都度撮像を行ってもよく、また両波長成分を含む照射光の下で撮像を行い、分光により可視像と赤外像とを同時に得るようにしてもよい。赤外線で撮像されたアライメントマークの位置検出結果に基づくウェルの傾き量は当然に可視像においても同じであるから、赤外像に基づいて可視像を補正することで、ウェルの傾きを補正することが可能である。また、ウェル内容物とアライメントマークを異なる波長成分に基づき撮像することで、ウェル内容部がアライメントマークに重なった場合にこれらを分離することができる場合もある。
【0071】
また、上記実施形態では、撮像されたアライメントマークの位置検出結果に基づいて画像中のウェル領域の回転補正を行っているが、マイクロプレート2の載置位置ずれに起因する画像のずれとしては、ウェルの回転方向のもの(傾き)のみではなく、画像平面に沿った方向での位置ずれも生じ得る。このような位置ずれについても、画像内におけるアライメントマークの座標位置から把握することが可能であるから、これに対する補正処理を併せて実行するようにしてもよい。要するに、タイムラプス画像セットをなす各ウェル画像を重ねたときにアライメントマーク同士がぴったり一致するような補正を行えば、面内での位置ずれおよび傾きのいずれをも解消することが可能である。
【0072】
また、上記実施形態のマイクロプレート2はその水平断面形状が略円形であるウェルWを有するものであるが、ウェルの断面形状はこれに限定されず、種々の形状を用いることが可能である。特に、楕円、正多角形など、鉛直軸に対して回転対称性を有する断面形状のウェルを有するマイクロプレートを用いるとき、本発明の効果が特に顕著となる。
【0073】
また、上記実施形態の撮像装置1では、異なる時刻に撮像した複数の画像に必要な補正を施してタイムラプス画像セットを作成しているが、これに限定されない。この発明によれば、撮像時のウェルの位置ずれに関する情報は画像自体に含まれているため、画像の身から事後的に位置ずれに関する情報を取り出すことが可能である。したがって、ウェルの撮像と画像処理とは異なる装置において実行されてもよい。