特許第5912761号(P5912761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5912761消臭性再生セルロース繊維、それを用いた繊維構造物及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912761
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】消臭性再生セルロース繊維、それを用いた繊維構造物及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/00 20060101AFI20160414BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20160414BHJP
   D06M 11/62 20060101ALI20160414BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20160414BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   D01F2/00 Z
   D06M11/83
   D06M11/62
   D04B1/14
   D03D15/00 A
   D03D15/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-76191(P2012-76191)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204207(P2013-204207A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年6月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002923
【氏名又は名称】ダイワボウホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306024078
【氏名又は名称】ダイワボウノイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】築城 寿長
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3279120(JP,B2)
【文献】 特公平05−065191(JP,B2)
【文献】 特開平05−007617(JP,A)
【文献】 特開平06−025998(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/101995(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
D06M 10/00−11/84
D06M 16/00
D06M 19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消臭性再生セルロース繊維であって、
カルボキシル基を含む再生セルロース繊維に金属アンミン錯体が担持されており、金属の担持量は10000〜20000mg/kgであり、
前記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維は、カルボキシル基を含むポリマーをセルロース繊維中に含有させた繊維であり、カルボキシル基の総量が0.3〜1.15mmol/gであることを特徴とすることを特徴とする消臭性再生セルロース繊維。
【請求項2】
前記カルボキシル基を含むポリマーは、不飽和カルボン酸のホモポリマー、不飽和カルボン酸のコポリマー、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーからなる群から選ばれる一種以上のポリマーである請求項1に記載の消臭性再生セルロース繊維。
【請求項3】
前記金属アンミン錯体が、銅アンミン錯体、銀アンミン錯体及び亜鉛アンミン錯体からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の消臭性再生セルロース繊維。
【請求項4】
消臭性再生セルロース繊維の製造方法であって、
セルロースを含むビスコース原液にカルボキシル基を含むポリマーを添加して紡糸用ビスコース液を調製し、
前記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてカルボキシル基を含む再生セルロース繊維とし、
前記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維を、金属塩の濃度が2〜10g/Lの金属アンミン錯体イオンを含む溶液で20〜40℃の温度で10〜30分間処理して金属アンミン錯体を担持させており、
消臭性再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の総量を0.3〜1.15mmol/gにするとともに、金属の担持量を10000〜20000mg/kgにすることを特徴とする消臭性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の消臭性再生セルロース繊維を含むことを特徴とする繊維構造物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の消臭性再生セルロース繊維を含む繊維構造物の製造方法であって、
セルロースを含むビスコース原液にカルボキシル基を含むポリマーを添加して紡糸用ビスコース液を調製し、
前記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてカルボキシル基を含む再生セルロース繊維とし、
前記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維を含む繊維構造物を作製し、
前記繊維構造物を金属塩の濃度が2〜10g/Lの金属アンミン錯体イオンを含む溶液で20〜40℃の温度で10〜30分間処理して金属アンミン錯体を担持させて
再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の総量を0.3〜1.15mmol/gにするとともに、金属の担持量を10000〜20000mg/kgにすることを特徴とする繊維構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性再生セルロース繊維、それを用いた繊維構造物及びそれらの製造方法に関し、詳細には、汗臭に対して優れた消臭性を有する消臭性再生セルロース繊維、それを用いた繊維構造物及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生セルロース繊維は、ビスコース法、銅アンモニア法、溶剤紡糸法等様々な方法で製造されることが知られている。レーヨン繊維等の再生セルロース繊維は基質がセルロースであるため、それ自体肌に優しい性質を有する。従来から、このようなレーヨン繊維の性質を利用しつつ、更なる機能性を付与することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、金属アンミン錯体水溶液にレーヨンを浸漬してレーヨンに金属を担持させることで消臭性能を付与することが提案されている。また、特許文献2には、酢酸ビニルーマレイン酸共重合体を添加したビスコース溶液を紡糸して得られたビスコース繊維に金属イオンを担持させることで消臭性能を付与することが提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2に提案されているレーヨン繊維は、アンモニア等のアルキルアミン、硫化水素等の硫黄化合物、ホルマリンに対する消臭性は有するものの、アンモニア、酢酸及びイソ吉草酸を臭気成分とする汗臭を十分に消臭できるのものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−65191号公報
【特許文献2】特公平8−13905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、汗臭に対して優れた消臭性能を有する消臭性再生セルロース繊維、それを用いた繊維構造物及びそれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の消臭性再生セルロース繊維は、カルボキシル基を含む再生セルロース繊維に金属アンミン錯体が担持されており、金属の担持量は10000〜20000mg/kgであり、上記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維は、カルボキシル基を含むポリマーをセルロース繊維中に含有させた繊維であり、カルボキシル基の総量が0.3〜1.15mmol/gであることを特徴とすることを特徴とする。
【0008】
本発明の消臭性再生セルロース繊維の製造方法は、セルロースを含むビスコース原液にカルボキシル基を含むポリマーを添加して紡糸用ビスコース液を調製し、上記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてカルボキシル基を含む再生セルロース繊維とし、上記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維を、金属塩の濃度が2〜10g/Lの金属アンミン錯体イオンを含む溶液で20〜40℃の温度で10〜30分間処理して金属アンミン錯体を担持させており、消臭性再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の総量を0.3〜1.15mmol/gにするとともに、金属の担持量を10000〜20000mg/kgにすることを特徴とする。
【0009】
本発明の繊維構造物は、上記消臭性再生セルロース繊維を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の繊維構造物の製造方法は、セルロースを含むビスコース原液にカルボキシル基を含むポリマーを添加して紡糸用ビスコース液を調製し、上記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてカルボキシル基を含む再生セルロース繊維とし、上記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維を含む繊維構造物を作製し、上記繊維構造物を金属塩の濃度が2〜10g/Lの金属アンミン錯体イオンを含む溶液で20〜40℃の温度で10〜30分間で処理して金属アンミン錯体を担持させて、再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の総量を0.3〜1.15mmol/gにするとともに、金属の担持量を10000〜20000mg/kgにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、再生セルロース繊維にカルボキシル基を含むポリマーを含ませるとともに金属アンミン錯体を担持させることにより、アンモニア、酢酸及びイソ吉草酸を臭気成分とする汗臭に対して優れた消臭性を有する消臭性再生セルロース繊維及びそれを用いた繊維構造物を提供することができる。特に、繰り返し洗濯した後も、アンモニア、酢酸及びイソ吉草酸を臭気成分とする汗臭に対して優れた消臭性を有する消臭性再生セルロース繊維及び繊維構造物を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、汗臭に対する消臭性が高い消臭性再生セルロース繊維及びそれを含む繊維構造物を容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、再生セルロース繊維にカルボキシル基を含有させるとともに金属アンミン錯体を担持させると、消臭性、特にアンモニア、酢酸及びイソ吉草酸を臭気成分とする汗臭に対して優れた消臭性を発揮するうえ、洗濯後にも汗臭に対して優れた消臭性を示すことを見出して本発明に至った。
【0013】
(消臭性再生セルロース繊維)
本発明の消臭性再生セルロース繊維では、カルボキシル基を含む再生セルロース繊維に金属アンミン錯体が担持されることにより、カルボキシル基及びセルロース中のヒドロキシ基の一部に金属アンミン錯体が配位結合し、消臭性、特にアンモニア、酢酸及びイソ吉草酸を臭気成分とする汗臭に対して優れた消臭性を発揮するうえ、洗濯後にも汗臭に対して優れた消臭性を有すると推測される。
【0014】
上記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維(以下において、カルボキシル基含有再生セルロース繊維とも記す。)は、カルボキシル基を含むポリマーをセルロース繊維中に含有させた繊維である。例えば、セルロースを含むビスコース液にカルボキシル基を含むポリマーを添加して調製した紡糸用ビスコース液を紡糸することにより得ることができる。
【0015】
上記カルボキシル基を含むポリマーとしては、特に限定されないが、カルボキシル基の総量を多くするという観点から、不飽和カルボン酸のホモポリマー、不飽和カルボン酸のコポリマー、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーからなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、オレイン酸、桂皮酸及びそれらの無水物等が挙げられる。エチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。不飽和カルボン酸のホモポリマーとしては、特に限定されないが、錯体形成の観点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの金属塩等が好ましい。不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーとしては、特に限定されないが、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、オレフィン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルエステル−マレイン酸共重合体、及び塩化ビニル−マレイン酸共重合体等が好ましい。上記カルボキシル基を含むポリマーとしては、カルボキシル基を含むポリマーの水溶液を用いることができ、具体的には、荒川化学工業社製のポリアクリル酸の未中和塩水溶液(商品名タマノリ品番G−37)等の市販品を用いることができる。
【0016】
上記消臭性再生セルロース繊維におけるカルボキシル基の含有量(カルボキシル基の総量)は、0.3〜3.0mmol/gであることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.63mmol/gであり、さらにより好ましくは0.45〜1.15mmol/gである。カルボキシル基の含有量が少ないと、酢酸、イソ吉草酸などの酸性臭の消臭性に劣る傾向がある上、金属アンミン錯体が十分に担持されず、アンモニア臭の消臭性も劣る恐れがある。一方、カルボキシル基の含有量が多すぎると、繊維強度が低下する恐れがある。
【0017】
上記金属アンミン錯体としては、特に限定されないが、消臭効果が高いという観点から、銅アンミン錯体、銀アンミン錯体及び亜鉛アンミン錯体からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。中でも、亜鉛アンミン錯体は消臭効果が高く、白色であるため、衣料等染色等により様々な色に着色する用途に特に好ましい。
【0018】
上記消臭性再生セルロース繊維における金属の担持量は、300〜30000mg/kgであることが好ましく、より好ましくは1000〜25000mg/kgであり、さらにより好ましくは5000〜25000mg/kgであり、最も好ましくは10000〜20000mg/kgである。金属の担持量が少ないと、汗臭に対する消臭性を向上させる効果が発揮しにくい傾向がある。金属担持量は結合するカルボキシル基量により上限があり、消臭性能も頭打ちとなる傾向がある。本発明において、上記消臭性再生セルロース繊維における金属の担持量は、試料を105℃で乾燥後、0.5g程度を採取し、塩酸、硝酸及び過塩素酸を加えて加熱分解を行い、得られた分解液を蒸留水で希釈し、得られた希釈液を検液とし、ICP発光分光分析法にて測定を行い、試料質量あたりの金属量を算出したものをいう。
【0019】
上記消臭性再生セルロース繊維は、好ましくはアンモニア消臭率が70%以上、酢酸消臭率が80%以上、イソ吉草酸消臭率が85%以上である。本発明において、アンモニア消臭率、酢酸消臭率及びイソ吉草酸消臭率とは、それぞれ、社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)の消臭加工繊維製品認定基準(平成23年4月1日改訂版)で定めている測定方法により測定するアンモニア減少率、酢酸減少率及びイソ吉草酸減少率をいう。なお、JTETCの消臭加工繊維製品認定基準は、アンモニア減少率70%以上、酢酸減少率80%以上、イソ吉草酸減少率85%以上である。すなわち、上記消臭性再生セルロース繊維は、好ましくは、汗臭の臭気成分であるアンモニア、酢酸及びイソ吉草酸の全てに対し、JTETCの消臭加工繊維製品認定基準で定めている消臭性の認定基準を満たしている。
【0020】
上記消臭性再生セルロース繊維は、消臭性により優れるという観点から、アンモニア消臭率が80%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは90%以上である。また、酢酸消臭率が85%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは95%以上である。また、イソ吉草酸消臭率が95%以上であることがより好ましい。
【0021】
上記消臭性再生セルロース繊維は、消臭性の耐洗濯性に優れるという観点から、例えばJIS L 0217(103)に準じて、中性洗剤(JAFET標準洗剤)を用いて洗濯を50回行った後においても、アンモニア消臭率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。同様に、洗濯50回後において、酢酸消臭率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。同様に、洗濯50回後において、イソ吉草酸消臭率が85%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0022】
上記消臭性再生セルロース繊維は、繊度が0.3〜8.0dtexであることが好ましい。より好ましくは0.6〜6.0dtexであり、さらに好ましくは0.7〜3.6dtexである。繊度が0.3dtex未満であると、延伸時に単繊維切れが発生しやすい傾向にある。繊度が8.0dtexを超えると、繊維の再生状態が不良であり、繊維の色相等が悪くなる場合がある。上記消臭性再生セルロース繊維は、長繊維状又は短繊維状の形態で提供され、繊維構造物を形成することが好ましい。
【0023】
(消臭性再生セルロース繊維の製造方法)
本発明の消臭性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、原料ビスコースにカルボキシル基を含むポリマーを添加して調製した紡糸用ビスコース液を紡糸して得られたカルボキシル基含有再生セルロース繊維を金属アンミン錯体溶液で処理して金属アンミン錯体を担持させることで作製することが好ましい。
【0024】
<紡糸工程>
原料ビスコースとしては、セルロースを7〜10質量%、水酸化ナトリウムを5〜8質量%、二硫化炭素を2〜3.5質量%含むビスコース原液を調製して用いるとよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、二酸化チタン等の添加剤を使用することもできる。ビスコース液の温度は18〜23℃に保持するのが好ましい。セルロースを含むビスコース液に、カルボキシル基を含むポリマーを混合して紡糸用ビスコース液を調製する。カルボキシル基を含むポリマーとしては、上述したものを用いればよい。
【0025】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、硫酸を95〜130g/L、硫酸亜鉛を10〜17g/L、硫酸ナトリウムを290〜370g/L含む強酸性浴を用いることができる。より好ましい硫酸濃度は、100〜120g/Lである。また、紡糸浴は、温度が45〜60℃であることが好ましい。
【0026】
上記カルボキシル基含有再生セルロース繊維は、通常の円形ノズルを用いて製造することができる。紡糸ノズルとしては、目的とする生産量にもよるが、孔径0.05〜0.12mmであり、ホール数が1000〜20000である円形ノズルを用いることが好ましい。上記紡糸ノズルを用いて、紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出し、凝固再生させてカルボキシル基含有再生セルロース繊維とする。
【0027】
上記のようにして得られたカルボキシル基含有再生セルロース繊維糸条を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行うとよい。その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引等の方法で余分な油剤、水分を繊維から除去し、乾燥処理を施す。
【0028】
<金属アンミン錯体の担持工程>
上記カルボキシル基含有再生セルロース繊維を金属アンミン錯体溶液で処理することで銅アンミン錯体イオン、銀アンミン錯体イオン及び亜鉛アンミン錯体イオン等の金属アンミン錯体イオンを繊維に担持させる。処理する方法は、特に限定されず、浸漬、コーティング等で行うことができる。上記金属アンミン錯体溶液としては、特に限定されないが、例えば、水溶液中で銅、銀、亜鉛等の金属の硫酸塩、塩化物、硝酸塩等の金属塩に、アンモニア、アミン等の塩基性窒素を含有する化合物を反応させて金属アンミン錯体を生成させた溶液を用いることができる。また、上記金属アンミン錯体溶液は、例えば、一方社油脂工業社製の「クリーンN−15」などの界面活性剤などを含んでもよい。亜鉛アンミン錯体溶液としては、例えば、硫酸亜鉛(ZnSO4)又は塩化亜鉛(ZnCl2)をアンモニア水に溶解した溶液を用いることができる。上記金属アンミン錯体溶液の金属塩の濃度が1〜20g/Lであることが好ましく、より好ましくは、1〜10g/Lであり、さらに好ましくは2〜7g/Lである。
【0029】
操作が簡便という観点から、上記カルボキシル基含有再生セルロース繊維を金属アンミン錯体溶液に浸漬することで金属アンミン錯体を繊維に担持させることが好ましい。具体的には、上記の紡糸工程で得られたカルボキシル基含有再生セルロース繊維(原綿)を水洗し、金属アンミン錯体溶液に浸漬する。浸漬時の温度は、金属イオンを酸化させない観点から、20〜40℃であることが好ましく、より好ましくは25〜35℃である。また、浸漬時間は、十分に反応させる観点から、10〜30分であることが好ましく、より好ましくは15〜20分である。
【0030】
(繊維構造物)
本発明の繊維構造物は、上記消臭性再生セルロース繊維を含み、糸、織物、編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して用いることができる。また、上記繊維構造物とフィルム等の他のシートと積層した積層シートとしてもよい。上記消臭性再生セルロース繊維を含むことにより、上記繊維構造物は、優れた消臭性、特に汗臭に対して優れた消臭性を有する。また、上記繊維構造物の消臭性は洗濯耐久性も高い。
【0031】
上記繊維構造物が糸(紡績糸)である場合、上記消臭性再生セルロース繊維のみで構成されていてもよく、他の繊維と混紡、複合してもよい。他の繊維としては、上記消臭性再生セルロース繊維以外の他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。このような紡績糸は、例えば織物や編物に加工されて衣料等に用いることができる。
【0032】
上記繊維構造物が織物又は編物である場合、上記消臭性再生セルロース繊維のみで構成されていてもよく、他の繊維を含んでもよい。他の繊維としては、上記消臭性再生セルロース繊維以外の他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。織物や編物の組織は特に限定されない。例えば、編物では、丸編み、横編み、経編み(トリコット)が、織物では、平織、綾織、繻子織が、本発明の風合い効果がよく発揮できることから好ましい繊維構造物の形態である。
【0033】
上記繊維構造物がウェブ又は不織布である場合、上記消臭性再生セルロース繊維のみで構成されていてもよく、他の繊維と混綿してもよい。他の繊維としては、上記消臭性再生セルロース繊維以外の他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。不織布の形態としては、例えば、湿式不織布(湿式抄紙)、エアレイド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。
【0034】
上記繊維構造物が紙である場合、上記消臭性再生セルロース繊維のみで構成されていてもよく、他の繊維と混用してもよい。他の繊維としては、上記消臭性再生セルロース繊維以外のセルロース繊維、例えば、再生セルロース繊維、コットン等が挙げられる。
【0035】
上記繊維構造物として、例えば、ネットに加工する場合、上記消臭性再生セルロース繊維のみで構成されていてもよく、他の繊維と混用してもよい。他の繊維としては、上記消臭性再生セルロース繊維以外の他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。
【0036】
上記繊維構造物において、他の繊維と併用する場合は、上記消臭性再生セルロース繊維を10質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上含む。上記消臭性再生セルロース繊維が10質量%未満の場合は、消臭性が低くなる傾向がある。
【0037】
上記繊維構造物は、消臭性に優れるという観点から、アンモニア消臭率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。また、上記繊維構造物は、消臭性に優れるという観点から、酢酸消臭率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。また、上記繊維構造物は、消臭性に優れるという観点から、イソ吉草酸消臭率が85%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0038】
上記繊維構造物は、消臭性の耐洗濯性に優れるという観点から、例えばJIS L 0217(103)に準じて、中性洗剤(JAFET標準洗剤)を用いて洗濯を50回行った後においても、アンモニア消臭率が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。同様に、洗濯50回後において、酢酸消臭率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。同様に、洗濯50回後において、イソ吉草酸消臭率が85%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0039】
(繊維構造物の製造方法)
本発明の繊維構造物は、上記消臭性再生セルロース繊維を用いて製造することができる。或いは、本発明の繊維構造物は、セルロースを含むビスコース原液に、カルボキシル基を含むポリマーを添加して紡糸用ビスコース液を調製し、上記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出し、凝固再生させてカルボキシル基を含む再生セルロース繊維とし、上記カルボキシル基を含む再生セルロース繊維を含む繊維構造物を作製し、上記繊維構造物を金属アンミン錯体イオンを含む溶液で処理して金属アンミン錯体を担持させることで製造してもよい。繊維構造物を金属アンミン錯体イオンを含む溶液で処理すること以外は、上述した消臭性再生セルロース繊維の製造の場合と同様にして製造することができる。
【0040】
本発明の消臭性再生セルロース繊維及び繊維構造物は、例えば、衣類(帽子、手袋、ハンカチ等を含む)、寝具(布団、枕等を含む)、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、医療用シート、医療・介護用品の等の繊維製品の少なくとも一部に含まれて、日常の生活に供され、消臭機能を発揮することができる。特に、染色等により着色する衣類においては、染色性を損なうことなく、洗濯耐久性の高い消臭性能を有するので、都合が良い。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
まず、実施例で用いた測定方法などを説明する。
【0043】
(亜鉛担持量の測定)
試料を105℃で乾燥後、0.5g程度を採取し、12N塩酸20mL、16N硝酸10mL及び60%過塩素酸2mLを加えて200℃で2日間かけて加熱分解を行い、得られた分解液に蒸留水を入れて100mLとしたものを検液として、ICP発光分光分析法にて測定を行い、試料質量あたりの亜鉛量を算出した。
【0044】
(カルボキシル基の測定)
(1)1mol/Lの塩酸水溶液(pH0.1)50mLに試料1.2gを浸漬、撹拌して5分間放置する。その後、再び撹拌して水溶液のpHが2.5になるように調整した。次に、試料を水洗し、定温送風乾燥機で105℃、2時間乾燥させて、絶乾にした。
(2)ビーカーにイオン交換水100mL、塩化ナトリウム0.4g、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20mLを入れた。
(3)(1)で作製した試料1gを精秤[W1(g)]し、撹拌子に巻きつかない大きさまで細かく切断して、(2)で準備したビーカーに入れ、スターラーで15分間撹拌した。撹拌した試料は吸引ろ過した。ろ過液を60mL採って、指示薬にフェノールフタレインを使用して0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定し、滴定量をX1(mL)とした。
(4)下記式に基づいてカルボキシル基の総量Y(mmol/g)を算出した。
カルボキシル基の総量Y(mmol/g)=[{(0.1×20)−(0.1×X1)}×(120/60)]/W1
【0045】
(消臭性能1)
アンモニア及び酢酸に対する消臭性能は、社団法人繊維評価技術評議会で規定している機器分析(検知管法)に準じ、次のように測定した。試料1gを5Lのテドラーバックに入れて密封した。次に、シリンジを用いて規定の初期濃度になるように臭気成分ガス3Lをテドラーバックに注入した。臭気成分ガスを注入してから2時間後に、テドラーバックの臭気成分ガスの濃度を検知管により測定した。同様に空試験を行い、下記式により臭気成分の減少率を求めた。アンモニア、酢酸の初期濃度は、それぞれ、100ppm、50ppmであった。
減少率(%)={(2時間後の空試験における測定値−2時間後の試料を用いた場合の測定値)/2時間後の空試験における測定値}×100
【0046】
(消臭性能2)
イソ吉草酸に対する消臭性能は、社団法人繊維評価技術評議会で規定しているガスクロマトグラフィー法に準じ、次のように評価した。試料0.5gを5Lの500mLの三角フラスコに入れ、規定の初期濃度になるように臭気成分のエタノール溶液を滴下し、封をした。2時間後シリンジによりサンプリングし、ガスクロマトグラフ(GC)で臭気成分の濃度を測定した。同様に空試験を行い、下記式により臭気成分の減少率を求めた。イソ吉草酸の初期濃度は、38ppmであった。
減少率(%)={(2時間後の空試験における測定値−2時間後の試料を用いた場合の測定値)/2時間後の空試験における測定値}×100
【0047】
(洗濯耐久性)
JIS L 0217(103)に準じて、中性洗剤(JAFET標準洗剤)を用いて洗濯を所定回数(10回、50回)行った後、上述したとおり、消臭性能を測定した。
【0048】
(実施例1)
<カルボキシル基を含む再生セルロース繊維の製造>
ポリアクリル酸の未中和塩水溶液(荒川化学工業社製「タマノリG−37」、ポリアクリル酸(不揮発分)の濃度8.5%、粘度(20℃)4000cps、pH2.2)をポリアクリル酸がセルロースに対して6質量%となるように、原料ビスコースへ添加して混合し、紡糸用ビスコース液を調製した。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。次に、紡糸用ビスコース液を硫酸130g/L、硫酸亜鉛10g/L、硫酸ナトリウム250g/Lの強酸性浴中に白金ノズル(孔径0.06mm、ホール数4000個)から押し出し、常法により脱硫、精練漂白することにより、繊度が1.4dtexのカルボキシル基を含むビスコースレーヨン繊維(原綿)を得、繊維長が38mmになるようにカットした。原綿のカルボキシル基の総量は、0.90mmol/gであった。
【0049】
<金属アンミン錯体溶液による処理>
上記で得られたカルボキシル基を含むビスコースレーヨン繊維(原綿)100gを精練(下洗い)し、硫酸亜鉛七水和物を5g/L、25%アンモニア水を0.5g/L、及びクリーンN−15(界面活性剤、一方社油脂工業社製)を2ml/L含む金属アンミン錯体溶液1Lに、30℃で20分間浸漬した。続いて、水洗した後、油剤を付与し、脱水乾燥を行い、実施例1の消臭性再生セルロース繊維を得た。得られた消臭性再生セルロース繊維の亜鉛担持量は、16000mg/kgであった。
【0050】
参考例1
金属アンミン錯体溶液中の硫酸亜鉛七水和物の濃度を1g/Lとした以外は、実施例1と同様にして、参考例1の消臭性再生セルロース繊維を得た。得られた消臭性再生セルロース繊維の亜鉛担持量は、6100mg/kgであった。
【0051】
(実施例3)
金属アンミン錯体溶液中の硫酸亜鉛七水和物の濃度を10g/Lとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の消臭性再生セルロース繊維を得た。得られた消臭性再生セルロース繊維の亜鉛担持量は、17200mg/kgであった。
【0052】
(比較例1)
通常のレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン社製、繊度1.4dtex、繊維長38mm)を用いた。比較例1の繊維のカルボキシル基の総量は、0.25mmol/gであった。
【0053】
(比較例2)
比較例1のレーヨン繊維を、実施例1と同様の方法で金属アンミン錯体溶液で処理し、比較例2のセルロース繊維を得た。得られた再生セルロース繊維の亜鉛担持量は、5800mg/kgであった。
【0054】
実施例1、3、参考例1及び比較例1〜2の繊維の亜鉛担持量及び消臭性能を上記のとおり測定し、その結果を下記表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果から分かるように、実施例1、3、参考例1の消臭性再生セルロース繊維は、消臭性能試験において90%以上のアンモニアの減少率を示しており、70%以上というJTETCの消臭加工繊維製品認定基準を満たしていた。また、実施例1、3、参考例1の消臭性再生セルロース繊維は、消臭性能試験において88%以上の酢酸の減少率を示しており、80%以上というJTETCの消臭加工繊維製品認定基準を満たしていた。洗濯50回後の消臭性能試験においても、実施例1、3、参考例1の消臭性再生セルロース繊維は、84%以上のアンモニアの減少率、80%以上の酢酸減少率を示しており、いずれもJTETCの消臭加工繊維製品認定基準を満たしていた。実施例1、3、参考例1の消臭性再生セルロース繊維は、アンモニア、酢酸という汗臭の臭気成分に対して優れた消臭性能を示しており、洗濯耐久性にも優れていることが分かった。また、実施例1、3、参考例1の消臭性再生セルロース繊維の対比から、金属アンミン錯体の含有量が多いほど、アンモニア、酢酸に対する消臭性能及び洗濯耐久性に優れることが分かった。
【0057】
一方、比較例1の通常のレーヨン繊維は、アンモニアに対する消臭性はあるものの、酢酸に対する消臭性はJTETCの消臭加工繊維製品認定基準を満たしていなかった。また、金属アンミン錯体のみを担持している比較例2のレーヨン繊維は、酢酸に対する消臭性はあるものの、アンモニアに対する消臭性はJTETCの消臭加工繊維製品認定基準を満たしていなかった。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同様の手順で作製したカルボキシル基を含むビスコースレーヨン繊維(原綿)50質量%と綿50質量%を混紡した糸を用いて、50/50天竺のニット生地を作製した。次に、ニット生地を精練漂白し、反応染料(紺)で染色した後、硫酸亜鉛七水和物を5g/L、25%アンモニア水を0.5g/L、及びクリーンN−15(一方社油脂工業)を2ml/Lを含む金属アンミン錯体溶液に、30℃で20分間浸漬した。浴比は、1:10であった。続いて、水洗した後、油剤を付与し、脱水乾燥を行い、実施例4の繊維構造物(ニット生地)を得た。
【0059】
実施例4のニット生地の消臭性能及びその洗濯耐久性を上記のように測定し、その結果を下記表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例5)
実施例4のニット生地を縫製してTシャツ作製した。得られたTシャツは、汗臭に対する消臭性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の消臭性再生セルロース繊維及び繊維構造物は、例えば、衣類(帽子、手袋、ハンカチ等を含む)、寝具(布団、枕等を含む)、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、医療用シート、医療・介護用品の等の繊維製品の少なくとも一部に含まれて、日常の生活に供され、消臭機能を発揮することができる。