特許第5912762号(P5912762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912762
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】ダイコーター及び塗布膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20160414BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20160414BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   B05C5/02
   B05D1/26 Z
   B05C11/10
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-76300(P2012-76300)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-202558(P2013-202558A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】小松原 誠
(72)【発明者】
【氏名】守田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治
【審査官】 大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−339655(JP,A)
【文献】 特開2009−028685(JP,A)
【文献】 特開平06−047319(JP,A)
【文献】 特開2009−247964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00−21/00
B05D1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出するスロットと、前記スロットの長手方向に沿って配置されており前記スロットに塗布液を供給するキャビティとを備え、前記スロットから基材上に塗布液を吐出して該基材上に塗布膜を形成するダイコーターであって、
前記スロットの前記長手方向における塗布幅を変更させることができるように構成され、
前記キャビティの前記長手方向における第1の側に前記塗布液を供給する供給部と、前記長手方向における第2の側から前記塗布液を排出させる排出部とを備え、前記供給部により前記キャビティに供給された塗布液の一部が前記スロットを通過しつつ残りが前記排出部により排出されるように構成されており、且つ、
前記基材上に形成された塗布膜の厚みを検知し得る検知部と、
前記塗布幅を変更させたとき、前記検知部の検知結果に基づいて、前記供給部による前記塗布液の供給流量と前記排出部による前記塗布液の排出流量とを制御し得る制御部とを備え
前記制御部は、前記検知部の検知結果に基づいて、前記塗布膜の厚みが前記塗布幅の変更前よりも大きいとき、前記塗布幅の変更の前後で前記スロットを通過する前記塗布液の単位塗布幅当たりの通過流量が一定となるように制御し、且つ、前記塗布幅の変更前よりも前記供給流量と前記排出流量とが小さくなるように制御し、
前記塗布膜の厚みが前記塗布幅の変更前よりも小さいとき、前記塗布幅の変更の前後で前記通過流量が一定となるように制御し、且つ、前記塗布幅の変更前よりも前記供給流量と前記排出流量とが大きくなるように制御するように構成されていることを特徴とするダイコーター。
【請求項2】
前記塗布液は、せん断速度20〜2000(1/s)の範囲で粘度を測定したとき、粘度μ〔Pa・s〕、ゼロせん断粘度μ〔Pa・s〕及びせん断速度γ〔1/s〕について得られた式μ=μ・γn-1において、nが0.99〜1.01の範囲外であることを特徴とする請求項に記載のダイコーター。
【請求項3】
前記塗布液は、ゴム系溶液、アクリル系溶液、シリコーン系溶液、ウレタン系溶液、ビニルアルキルエーテル系溶液、ポリビニルアルコール系溶液、ポリビニルピロリドン系溶液、ポリアクリルアミド系溶液、セルロース系溶液から選択されたいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイコーター。
【請求項4】
塗布液を吐出するスロットと、該スロットに塗布液を供給するキャビティとを備えたダイコーターを用い、前記スロットから前記塗布液を吐出して基材上に塗布膜を作製する塗布膜の製造方法であって、
前記キャビティの長手方向における第1の側に前記塗布液を供給し、供給された塗布液の一部を前記スロットを通過させつつ残りを前記キャビティの前記長手方向における第2の側から排出させることにより、前記スロットから前記塗布液の一部を前記基材上に吐出する塗布工程を備え、
前記塗布工程では、
前記基材上に形成された塗布膜の厚みを検知し、前記塗布幅を小さくなるように変更させることによって、前記塗布膜の厚みが前記塗布幅の変更前よりも大きくなったとき、前記厚みの検知結果に基づいて、前記塗布幅の変更の前後で前記スロットを通過する前記塗布液の単位塗布幅当たりの通過流量を一定にし、且つ、前記塗布幅の変更前よりも前記第1の側への前記塗布液の供給流量と前記第2の側からの前記塗布液の排出流量とを小さくさせ、
前記基材上に形成された塗布膜の厚みを検知し、前記塗布幅を大きくなるように変更させることによって、前記塗布膜の厚みが前記塗布幅の変更前よりも小さくなったとき、前記厚みの検知結果に基づいて、前記塗布幅の変更の前後で前記通過流量を一定にし、且つ、前記塗布幅の変更前よりも前記供給流量と前記排出流量とを大きくさせて前記スロットから前記塗布液の一部を吐出することを特徴とする塗布膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイコーター及び塗布膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布装置の一つとして、塗布液を吐出するスロットと該スロットに塗布液を供給するキャビティとをダイに備えたダイコーターが知られている。該ダイコーターは、キャビティへと塗布液を供給し、該キャビティからスロットへと塗布液を押し出すとともに、該スロットに近接させてフィルム等の基材を相対移動させることにより、該基材上に塗布液を塗布するものである。
【0003】
この種のダイコーターにおいては、スロットの長手方向に亘って塗布膜の厚み(膜厚)にバラツキが生じ、均一な厚みの塗布膜が得られない場合がある。
【0004】
そこで、長手方向の塗布幅が一定であるスロットに塗布液を供給するためのキャビティと、該キャビティに塗布液を供給する供給部と、該キャビティから塗布液を排出させる排出部とを備え、該キャビティから排出される塗布液の排出流量を調整することによって、スロットからの吐出量を上記長手方向に亘って均一にし、塗布膜の厚みを上記長手方向に亘って均一にする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−28685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のようなダイコーターを含めて一般的にダイコーターでは、用途等に応じて種々異なる塗布幅で基材に対して塗布が行われる場合がある。例えば、比較的幅が広い基材への塗布と比較的幅が狭い基材への塗布とが同じ塗布幅で行われると、比較的幅が広い基材への塗布では、塗布されない多くの材料ロスが生じることから、このようなロスを回避するために、塗布する基材に合わせて塗布幅を変更する場合がある。
【0007】
しかし、このような場合において、一のダイコーターにおいて塗布幅を変更させて使用すると、予測し得ない膜厚バラツキが生じるため、従来、塗布幅の異なる複数のダイコーターを用いる必要があった。
【0008】
また、上記特許文献1のようなダイコーターにおいて塗布幅を変えた場合においても、塗布幅を変えると直ちに、キャビティ内の塗布液における圧力バラツキが大きく変化し、大きな膜厚バラツキが生じるため、かかるダイコーターにおいて、塗布幅を変更させる構成は到底採用し得なかった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、スロットの長手方向における塗布幅を適宜変更させつつ、該長手方向に亘って膜厚バラツキが比較的小さい塗布膜を得ることが可能なダイコーター及び塗布膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究したところ、以下のことが判明した。
すなわち、スロットの長手方向における塗布幅を変更させると、塗布液における単位塗布幅当たりのスロットを通過する通過流量が変化して、基材上に形成された塗布膜における上記長手方向(塗布膜の幅方向)全体の膜厚(膜厚の平均値)が変化することとなる。
具体的には、所定の塗布幅で、キャビティへの塗布液の供給流量及びキャビティからの塗布液の排出流量を設定した後、塗布幅を小さくさせると、上記通過流量が大きくなって、上記長手方向全体の膜厚が変更前よりも大きくなり、一方、塗布幅を大きくさせると、上記通過流量が小さくなって、上記長手方向全体の膜厚が変更前よりも小さくなる。
このため、塗布膜の膜厚が塗布幅の変更の前後で一定に設定されるようにするためには、塗布幅を小さくさせた場合には、上記通過流量が変更の前後で一定となるように、供給流量を変更前よりも小さくして塗布を行う必要があり、一方、塗布幅を大きくさせた場合には、上記通過流量が変更の前後で一定となるように、供給流量を変更前よりも大きくして、塗布を行う必要がある。
しかし、このように設定すると、塗布幅を小さくさせた場合には、小さくさせる前よりも、キャビティを通過する塗布液の流れ方向上流側に対する下流側の圧力損失が大きくなって、塗布膜における上記下流側の吐出で形成された部分が他の部分よりも薄くなる。一方、塗布幅を大きくさせた場合には、大きくさせる前よりも上記圧力損失が小さくなって、塗布膜における上記下流側の吐出で形成された部分が他の部分よりも厚くなる。
このように、塗布幅を変更させたとき、スロットを通過する通過流量における上記長手方向のバラツキが生じて塗布膜の上記長手方向における膜厚バラツキが生じることが判明した。
かかる知見に基づいて本発明者らがさらに鋭意研究したところ、塗布幅を小さくさせたときには、塗布幅の変更の前後で上記通過流量を一定にし、且つ、変更前よりも上記供給流量と排出流量とを小さくさせることによって、変更の前後での上記圧力損失の変化を抑制し得ることを見出した。また、塗布幅を大きくさせたときには、塗布幅の変更の前後で上記通過流量を一定にし、且つ、変更前よりも上記供給流量と排出流量とを大きくさせることによって、変更の前後での上記圧力損失の変化を抑制し得ることを見出した。
すなわち、変更の前後で上記通過流量を一定にし、且つ、変更前から上記供給流量と排出流量とを変化させることによって、塗布幅を適宜変更させても、変更の前後で、上記圧力損失が変化することを抑制して塗布液の通過流量における上記長手方向のバラツキを比較的小さくし得ることを見出した。
加えて、塗布幅を変更させたときの単位塗布幅当たりの通過流量の変化や、通過流量の上記長手方向のバラツキは、塗布膜の上記長手方向全体の膜厚の変化や、塗布膜の上記長手方向における厚みのバラツキとして現れるため、上記のように塗布幅を変更させたとき、塗布膜の厚みを検知し、得られた検知結果に基づいて、上記供給流量と上記排出流量とを制御することによって、変更の前後で、上記塗布液の通過流量における上記長手方向のバラツキを比較的小さくし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明に係るダイコーターは、
塗布液を吐出するスロットと、前記スロットの長手方向に沿って配置されており前記スロットに塗布液を供給するキャビティとを備え、前記スロットから基材上に塗布液を吐出して該基材上に塗布膜を形成するダイコーターであって、
前記スロットの前記長手方向における塗布幅を変更させることができるように構成され、
前記キャビティの前記長手方向における第1の側に前記塗布液を供給する供給部と、前記長手方向における第2の側から前記塗布液を排出させる排出部とを備え、前記供給部により前記キャビティに供給された塗布液の一部が前記スロットを通過しつつ残りが前記排出部により排出されるように構成されており、且つ、
前記基材上に形成された塗布膜の厚みを検知し得る検知部と、
前記塗布幅を変更させたとき、前記検知部の検知結果に基づいて、前記供給部による前記塗布液の供給流量と前記排出部による前記塗布液の排出流量とを制御し得る制御部とを備えていることを特徴とする。
【0012】
かかる構成のダイコーターによれば、塗布幅を小さくさせたときには、塗布膜の厚みの検知結果に基づいて、塗布幅の変更前後で、塗布液の単位幅当たりの通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも上記供給流量と排出流量とが小さくなるように制御することができ、これにより、変更の前後で、キャビティを移動する塗布液における第1の側(上流側)に対する第2の側(下流側)の圧力損失が変化することを抑制することができる。また、塗布幅を大きくさせたときには、塗布膜の厚みの検知結果に基づいて、塗布幅の変更の前後で上記通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とが大きくなるように制御することができ、これにより、変更の前後で、上記圧力損失が変化することを抑制することができる。
このように、上記検知部と制御部とを備えていることによって、塗布幅を適宜変更させても、変更の前後で上記圧力損失が変化することを抑制して、スロットを通過する塗布液の通過流量(吐出流量)における該スロットの長手方向(塗布膜の幅方向)のバラツキを比較的小さくし得る。
従って、スロットの長手方向における塗布幅を適宜変更させつつ、該長手方向に亘って膜厚バラツキが比較的小さい塗布膜を得ることが可能となる。
【0013】
また、上記ダイコーターにおいては、前記制御部は、前記検知部の検知結果に基づいて、前記塗布膜の厚みが変更前よりも大きいとき、前記塗布幅の変更の前後で前記スロットを通過する前記塗布液の単位塗布幅当たりの通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも前記供給流量と前記排出流量とが小さくなるように制御し、
前記塗布膜の厚みが変更前よりも小さいとき、前記塗布幅の変更の前後で前記通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも前記供給流量と前記排出流量とが大きくなるように制御するように構成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、スロットからの塗布液の吐出量における上記長手方向のバラツキを、より確実に抑制することが可能となる。
【0015】
また、上記ダイコーターにおいては、前記塗布液は、せん断速度20〜2000(1/s)の範囲で粘度を測定したときに、粘度μ〔Pa・s〕、ゼロせん断粘度μ〔Pa・s〕及びせん断速度γ〔1/s〕について得られた式μ=μ・γn−1において、nが0.99〜1.01の範囲外であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、上記nが0.99〜1.01の範囲外の塗布液は、上記nが0.99〜1.01の範囲以内の塗布液と比較して、せん断速度が大きくなるほど粘度の増加または低下が大きくなってスロットからの塗布液の吐出量が長手方向にバラツキ易いところ、上記ダイコーターは、このように吐出量がバラツキ易い塗布液を用いた場合であっても、塗布液の吐出量のバラツキを抑制することが可能となるため、有用となる。
【0017】
また、上記ダイコーターにおいては、前記塗布液は、ゴム系溶液、アクリル系溶液、シリコーン系溶液、ウレタン系溶液、ビニルアルキルエーテル系溶液、ポリビニルアルコール系溶液、ポリビニルピロリドン系溶液、ポリアクリルアミド系溶液、セルロース系溶液から選択されたいずれか1つ以上であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る塗布膜の製造方法は、
塗布液を吐出するスロットと、該スロットに塗布液を供給するキャビティとを備えたダイコーターを用い、前記スロットから前記塗布液を吐出して基材上に塗布膜を作製する塗布膜の製造方法であって、
前記キャビティの長手方向における第1の側に前記塗布液を供給し、供給された塗布液の一部を前記スロットを通過させつつ残りを前記キャビティの前記長手方向における第2の側から排出させることにより、前記スロットから前記塗布液の一部を前記基材上に吐出する塗布工程を備え、
前記塗布工程では、
前記塗布幅を小さくなるように変更させたとき、変更の前後で前記スロットを通過する前記塗布液の単位塗布幅当たりの通過流量を一定にし、且つ、変更前よりも前記第1の側への前記塗布液の供給流量と前記第2の側からの前記塗布液の排出流量とを小さくさせ、
前記塗布幅を大きくなるように変更させたとき、変更の前後で前記通過流量を一定にし、且つ、変更前よりも前記供給流量と前記排出流量とを大きくさせて前記スロットから前記塗布液の一部を吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上の通り、本発明によれば、スロットの長手方向における塗布幅を適宜変更させつつ、該長手方向に亘って膜厚バラツキが比較的小さい塗布膜を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るダイコーターを示した概略構成図
図2】ダイヘッドの概略斜視図
図3図3(a)及び図3(b)は、それぞれ、図2のダイの概略側面図及び概略上面図
図4図4(a)は、図3のダイの概略分解側面図であり、図4(b)、図4(c)及び図4(d)はそれぞれ、図4(a)の第1のダイブロック、シム及び第2のダイブロックの概略上面図
図5図5(a)及び図5(b)はそれぞれ、キャビティ、スロット及びシムの一実施形態を示す概略上面図
図6】本実施形態のダイコーターが塗布を行っている状態を示す概略部分側面図
図7】塗布幅が比較的大きい場合のキャビティ周辺を模式的に示す概略平面図
図8】塗布幅が比較的小さい場合のキャビティ周辺を模式的に示す概略平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係るダイコーター及び塗布膜の製造方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
まず、本発明に係るダイコーターの実施形態について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態のダイコーター1は、供給された塗布液5(図6参照)を基材51上に吐出するダイ2と、ダイ2に対して着脱可能な互いに塗布幅が異なる複数のシム(例えばシム3、シム4、図7図8参照)と、ダイ2に塗布液5を供給する供給部31と、ダイ2から塗布液5を排出させる排出部33と、塗布液5を収容する収容部35と、これらを連結する配管37と、基材51上に形成された塗布膜55の厚みを検知する検知部61と、検知部61での検知結果に基づいて供給部31による塗布液5の供給流量と排出部33による塗布液5の排出流量とを制御する制御部63とを備えている。なお、図1において、実線矢印は、塗布液5の流れを示す。
【0024】
また、図1図3に示すように、ダイ2は、塗布液5(図6参照)を吐出するスロット10と、該スロット10の長手方向(図3(b)の左右方向、以下、単に長手方向という場合がある。)に沿って配置されており、スロット10に塗布液5を供給するキャビティ22とを備えている。
【0025】
より具体的には、図2〜4に示すように、ダイ2は、その先端部にスロット10が形成されるように対向して配置された第1のダイブロック2a及び第2のダイブロック2bを備えている。第1のダイブロック2aには、上記長手方向に沿って凹部が形成されており、該凹部が第2のダイブロック2bで塞がれることによってキャビティ22が形成されるようになっている。キャビティ22とスロット10とは連通しており、キャビティ22からスロット10に塗布液5が供給されるようになっている。また、図3(a)、(b)に示すように、キャビティ22の短手方向における長さは、長手方向に亘って一定であるように形成されており、キャビティ22の高さも、該長手方向に亘って一定であるように形成されている。
【0026】
なお、キャビティ22を形成するため凹部は、第2のダイブロック2bに形成されていても良い。また、第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bにそれぞれ凹部が形成され、該第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bとが対向配置されることによってこれら凹部が合掌したキャビティ22が形成されても良い。
【0027】
図3(a)、(b)に示すように、スロット10の短手方向における長さは該長手方向に亘って一定であるように形成されており、その開口の高さも、該長手方向に亘って一定であるように形成されている。
【0028】
なお、図5(a)に示すように、キャビティ22は、上方から見たとき、キャビティ22の第1の端部22a(第1の側)から第2の端部(第2の側)22bに向かうほど、スロット10の開口縁たる塗布液5の吐出口に近づくように、上記長手方向に対して傾斜しているように形成され、スロット10は、上方から見たとき、上記第1の端部22a側から第2の端部22b側に向かうほど短手方向の長さが小さくなっているように形成されていてもよい。このように形成されていることによって、キャビティ22の第1の端部22a側から第2の端部22b側へと向かうほど、すなわち、後述する給液ポート25から離れるほど、より小さな圧力で塗布液5がスロット10を通過することが可能となるため、スロット10を通過する塗布液の通過流量のバラツキを上記長手方向に亘ってより小さくすることが可能となる。
また、図5(b)に示すように、キャビティ22は、上方から見たとき、キャビティ22の第1の端部22a側から第2の端部22b側に向かうほどキャビティ22の短手方向の長さが小さくなるように形成され、スロット10は、上方から見たとき、短手方向の長さが長手方向に亘って一定であるように形成されていてもよい。このように形成されていることによって、図3(b)及び図4(b)に示す場合と比較して、第1の端部22aから第2の端部22bに向かうほど塗布液5の内圧を高めることが可能となるため、スロット10を通過する塗布液の通過流量のバラツキを上記長手方向に亘ってより小さくすることが可能となる。
【0029】
また、ダイコーター1に備えられた複数のシムから選択されたいずれかのシムがダイ2に取り付けられることによって、スロット10の塗布幅を変更させることができるように構成されている。例えば、ダイコーター1に備えられたシム3(図2〜4、7参照)とシム4(図8参照)のうち、選択されたシム3のみがダイ2に取り付けられている。
【0030】
シム3は、図4(c)に示すように、上記長手方向に沿って延びる矩形状の基端部3aと、該基端部3aと直角をなし該基端部3aの両端からダイ2先端へと延びる一対の矩形状の延在部3bとを有し、これらは全体として略コの字状に形成されている。また、シム3は、各延在部3bの先端から基端部3aと平行に内側へと突出している一対の矩形状の突出部3cを有し、各延在部3bと突出部3cとは全体として略L字状に形成されている。一対の突出部3cの間隔は、塗布幅を決定しており、上記長手方向における突出部3cの突出長さによって後述する塗布幅たるW1(及びW2)が決定される(図7図8参照)。
【0031】
また、キャビティ22及びスロット10が上記図5に示すような形状の場合、これらの形状に応じた形状のシム3(及びシム4)を用いればよい。
【0032】
また、シム3は、ダイ2における第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bとの間に挟持されている。かかるシム3は、後述するように第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bとで挟まれた状態で、該第1のダイブロック2a及び第2のダイブロック2bと共に不図示のボルト等によって固定されることによって、ダイ2に取り付けられている。また、上記ボルトを外し、第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bとを離間させることによって、シム3は、ダイ2から取り外されるようになっている。このようにしてシム3をダイ2から取り外し、塗布幅がW1よりも小さいW2であること以外はシム3と同様に構成されたシム4(図8参照)を上記と同様にしてダイ2に取り付けることによって、スロット10の塗布幅を、W1からW2に変更させることができるようになっている。また、これとは逆に、シム4を取り外してシム3を取り付けることによって、塗布幅をW2からW1に変更させることができるようになっている。
【0033】
なお、互いに塗布幅が異なる3つ以上のシムからいずれかを選択し、選択されたシムを第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bの間に挟持することによって、スロット10の塗布幅を変更させるように構成してもよい。
【0034】
そして、これら第1のダイブロック2a及び第2のダイブロック2bが、例えばシム3を挟んだ状態で該シム3と共に不図示のボルト等によって固定されることによって、該ダイ2の内側には、キャビティ22と、該キャビティ22からスロット10へと至る塗布液5の流路が形成されている。具体的には、塗布液の流路は、対向する第1のダイブロック2a及び第2のダイブロック2bの内面と、シム3とによって区画されることにより形成されており、該流路の先端にはシム3の厚みと同じ高さのスロット10が形成されている。
【0035】
スロット10の長手方向に対しキャビティ22の第1の端部22aには、供給部31からキャビティ22に塗布液5が供給されるように第1のダイブロック2aに形成された給液ポート25が連通しており、第2の端部10bには、キャビティ22から排出部33に塗布液5が排出されるように第2のダイブロック2bに形成された排液ポート27が連通している。なお、排液ポート27は、第1のダイブロック2aに形成されていてもよい。
【0036】
さらに、ダイコーター1は、キャビティ22の上記長手方向における第1の端部22aに塗布液5を供給する供給部31と、上記長手方向における第2の端部22bから塗布液5を排出する排出部33とを備えており、供給部31から供給された塗布液5の一部がキャビティ22からスロット10へと移動して該スロットを通過しつつ、残りがキャビティ22を第1の端部22aから第2の端部22bへと移動し、排出部33により排出されるように構成されている。
【0037】
供給部31は、ポンプ31aと流量計31bとを有しており、例えばタンク等からなる塗布液5の収容部35から給液ポート25に塗布液を供給するようになっている。また、排出部33は、ポンプ33aと流量計33bとを有しており、排液ポート27から塗布液5を排出し、収容部35へと送るようになっている。すなわち、供給部31及び排出部33によって、塗布液5がキャビティ22に対して循環されるようになっている。
供給部31の流量計31bによる供給流量の検知結果と、排出部33の流量計33bによる排出流量の検知結果は、制御部63に送信されるようになっている。
【0038】
検知部61は、基材51上に形成された塗布膜55の膜厚(厚み)を検知し得るようになっている。また、検知部61は、検知結果を制御部63に送信するようになっている。かかる検知部61としては、例えば、基材51上に形成された塗布膜55と非接触に対向して配されて塗布膜55の膜厚を測定し、測定結果を制御部61に送信するように構成されたインライン厚み計が挙げられる。
また、検知部61は、塗布膜55における上記長手方向第1の端部22a側及び第2の端部22b側(図3参照)の厚みを少なくとも検知し得るように構成されていることが好ましい。
このような検知部61として、固定式の検知部と、移動式の検知部とが挙げられる。
上記固定式の検知部は、例えば、複数備えられ、該複数の検知部が、塗布膜55と非接触に対向する位置において上記幅方向に沿って複数配置されるようになっている。また、これら複数の検知部61の検知結果は、制御部63に送信されるようになっている。また。固定式の検知部は、上記長手方向に沿って、図1に示すように2つ配置されているようになっていても、その他、3つ以上配置されるようになっていてもよい。
上記移動式の検知部は、例えば、1つ備えられ、該1つの検知部が、塗布膜55と非接触に対向する位置において上記長手方向に移動しながら塗布膜55の厚みを検知(スキャン)するようになっている。この検知部の検知結果は、上記同様、制御部63に送信されるようになっている。
図1に示す態様では、検知部61は、固定式であり、且つ、2つ備えられており、塗布膜55における上記長手方向第1の端部22a側及び第2の端部22b側(図3参照)の厚みを検知することができるようになっている。
【0039】
制御部63は、塗布幅を変更させたとき、検知部61の検知結果に基づいて、供給部31による第1の端部22aへの塗布液5の供給流量と排出部33による第2の端部22bからの塗布液の排出流量とを制御し得るようになっている。
【0040】
上記供給流量は、ポンプ31aによって変化させることができ、上記排出流量は、ポンプ33aによって変化させることができるようになっている。また、塗布幅全体の通過流量(以下、全通過流量という。)は、上記供給流量と上記排出流量との差を変化させることによって調整することができるようになっている(供給流量−排出流量=全通過流量)。すなわち、上記全通過流量は、スロット10からの塗布液5における全吐出流量に相当する。また、上記通過流量は、上記全通過流量を単位塗布幅で割ることによって算出することができるようになっている。また、上記供給流量、上記排出流量及び上記通過流量の変化量は、それぞれ流量計31b、33bによって検知することができるようになっている。
【0041】
制御部63としては、例えば、中央処理装置(CPU)を備えたものが挙げられる。
図1の態様では、制御部63は、各検知部61の検知結果に基づいて、上記長手方向における塗布膜55の膜厚の平均値を算出するようになっている。また、算出された平均値と、検知部で検知された厚みとを記憶するようになっている。
また、塗布幅を変更させたとき、制御部63は、検知部61から送信された検知結果に基づいて、変更後の上記長手方向における塗布膜55の膜厚の平均値を算出するようになっている。
そして、制御部63は、変更後の膜厚の平均値が変更前の膜厚の平均値よりも大きくなったとき(塗布幅を小さくした場合に相当する。)、変更後の膜厚の平均値を変更前の膜厚の平均値に近づけるために、スロット10を通過する塗布液5の単位塗布幅当たりの通過流量が変更の前後で一定となるように、供給部31による供給流量が小さくなるように制御するようになっている。
さらに、制御部63は、このままでは上記第2の端部22b側(下流側)の膜厚が変更前よりも小さくなることから、上記通過流量を一定としつつ供給部31による供給流量と排出部33とが小さくなるように制御するようになっている。
なお、かかる双方小さくする制御は、第2の端部22b側の検知部61のみの検知結果に基づいて実行されるようになっていてもよく、また、第2の端部22b側と第1の端部22a側(上流側)の検知部61との検知結果のバラツキに基づいて実行されるようになっていてもよい。
一方、制御部63は、変更後の膜厚の平均値が変更前の膜厚の平均値よりも小さくなったとき(塗布幅を大きくした場合に相当する。)、変更後の膜厚の平均値を変更前の膜厚の平均値に近づけるために、スロット10を通過する塗布液5の単位塗布幅当たりの通過流量が変更の前後で一定となるように、供給部31による供給流量が大きくなるように制御するようになっている。
さらに、制御部63は、このままでは上記第2の端部22b側後の厚みが変更前よりも大きくなることから、上記通過流量を一定としつつ供給部31による供給流量と排出部333による排出流量とが大きくなるように制御するようになっている。
なお、かかる双方大きくする制御は、第2の端部22b側の検知部61のみの検知結果に基づいて実行されるようになっていてもよく、また、第2の端部22b側と第1の端部22a側の検知部61との検知結果のバラツキに基づいて実行されるようになっていてもよい。
また、制御部63は、前記供給流量、排出流量及び上記通過流量を、前記流量計31b、33bの検知結果に基づいて算出するようになっており、かかる算出結果に基づいて、ポンプ31aによる上記供給流量とポンプ33aによる上記排出流量を変化させるように構成されている。
【0042】
本実施形態のダイコーターによれば、塗布幅を小さくさせたときには、塗布膜の厚みの検知結果に基づいて、塗布幅の変更の前後で上記通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも上記供給流量と排出流量とが小さくなるように制御することができ、これにより、変更の前後で、キャビティ22を移動する塗布液5における第1の端部22a側(上流側)に対する第2の端部22b側(下流側)の圧力損失が変化することを抑制することができる。また、塗布幅を大きくさせたときには、塗布膜の厚みの検知結果に基づいて、塗布幅の変更の前後で上記通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とが大きくなるように制御することができ、これにより、変更の前後で、上記圧力損失が変化することを抑制することができる。
このように、検知部61と制御部63とを備えていることによって、塗布幅を適宜変更させても、変更の前後で上記圧力損失が変化することを抑制して、スロット10を通過する塗布液の通過流量における該スロット10の長手方向(塗布膜の幅方向)のバラツキを比較的小さくし得る。
従って、スロット10の長手方向における塗布幅を適宜変更させつつ、該長手方向に亘って膜厚バラツキが比較的小さい塗布膜を得ることが可能となる。
【0043】
本実施形態のダイコーター1は、レオメーター(HAAKE社製、レオストレスRS1)を用い、塗布する際の濃度及び温度にて、せん断速度20〜2000(1/s)の範囲で粘度を測定したときに、粘度μ〔Pa・s〕、ゼロせん断粘度μ〔Pa・s〕及びせん断速度γ〔1/s〕について得られた式μ=μ・γn−1において、nが0.99〜1.01の範囲外であるような塗布液5に対して好適に用いることができる。すなわち、せん断速度が変化すると粘度が比較的大きく変化するような塗布液に対して好適に用いることができる。また、上記nが0.95〜1.05の範囲外であるような塗布液5に対してより好適に用いることができる。
上記nが0.99〜1.01の範囲外の塗布液は、上記nが0.99〜1.01の範囲以内の塗布液と比較して、せん断速度が大きくなるほど粘度の増加または低下が大きくなってスロット10からの塗布液5の吐出量が長手方向にバラツキ易いところ、本実施形態のダイコーター1は、このように吐出量がバラツキ易い塗布液を用いた場合であっても、スロット10からの吐出量のバラツキを抑制することが可能となるため、有用となる。
【0044】
このような塗布液5としては、例えば、ポリマー溶液が挙げられ、該ポリマー溶液としては、例えば、ゴム系溶液、アクリル系溶液、シリコーン系溶液、ウレタン系溶液、ビニルアルキルエーテル系溶液、ポリビニルアルコール系溶液、ポリビニルピロリドン系溶液、ポリアクリルアミド系溶液、セルロース系溶液等が挙げられる。
【0045】
また、本実施形態のダイコーター1においては、制御部63が、検知部61の検知結果に基づいて、塗布膜55の厚みが変更前よりも大きいとき、塗布幅の変更の前後でスロット10を通過する塗布液5の単位塗布幅当たりの通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とが小さくなるように制御し、塗布膜の55厚みが変更前よりも小さいとき、塗布幅の変更前後で上記通過流量が一定となるように制御し、且つ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とが大きくなるように制御するように構成されていることが好ましい。
すなわち、塗布幅を変更前の塗布幅よりも小さくさせたとき(例えば図7のW1から図8のW2と小さくさせたとき)、変更の前後で上記通過流量を一定にしつつ、変更前よりも上記供給量と上記排出流量とを小さくさせ、塗布幅を変更前の塗布幅よりも大きくさせたとき(例えば図8のW2から図7のW1と大きくさせたとき)、変更の前後で上記通過流量を一定にしつつ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量を大きくさせるように構成されていることが好ましい。
【0046】
この構成によれば、スロット10からの塗布液5の吐出量における上記長手方向のバラツキを、より確実に抑制することが可能となる。
【0047】
次に、上記ダイコーター1を用いた塗布膜の製造方法について説明する。
【0048】
本実施形態の塗布膜の製造方法は、塗布液5(図6参照)を吐出するスロット10と、該スロット10に塗布液を供給するキャビティ22とを備えた上記ダイコーター1を用い、スロット10から塗布液5を吐出して基材51(図6参照)上に塗布膜55(図6参照)を作製する塗布膜の製造方法であって、キャビティ22の長手方向における第1の端部(第1の側)22aに塗布液5を供給し、供給された塗布液5の一部をスロット10を通過させつつ残りをキャビティ22の上記長手方向における第2の端部(第2の側)22bから排出させることにより、スロット10から塗布液5の一部を基材51上に吐出する塗布工程を備えている。また、該塗布工程では、塗布幅を小さくなるように変更(ここではW1からW2に変更)させたとき、変更の前後でスロット10を通過する塗布液5の単位塗布幅当たりの通過流量を一定にし、且つ、変更前よりも前記第1の端部22aへの塗布液5の供給流量と第2の端部22bからの塗布液5の排出流量とを小さくさせ、塗布幅を大きくなるように変更(ここではW2からW1に変更)させたとき、変更の前後で上記通過流量を一定にし、且つ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とを大きくさせてスロット10から塗布液5の一部を吐出する。
【0049】
基材51としては、帯状の可撓性を有する基材を用いることができ、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン樹脂)、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂から選択されたいずれか1つ以上の樹脂、または、これらから選択された2つ以上の樹脂の共重合体や混合物等から形成されたフィルムを用いることができる。また、基材51は、例えば図6に示すように、ローラ部材53で支持しつつダイ2に対して相対移動させることができる。
【0050】
上記製造方法は、例えば、上記したようにダイ2(すなわち、第1のダイブロック2aと第2のダイブロック2bとの間)に対して着脱可能な互いに塗布幅が異なる複数のシム(ここではシム3とシム4)から選択されたいずれかのシムが、上記の間に取り付けられることによって、スロット10の塗布幅を変更させることができるように構成されているダイコーター1を用いる。
【0051】
また、ダイ2にシム3を取り付けることによって、図7に示すように、塗布幅をW1に設定し、このときの上記供給流量をFa1、上記排出流量をFb1、全通過流量をFc1に設定しているとする。このとき、上記通過流量は、Fc1/W1に設定されている。
【0052】
この状態から、ダイ2からシム3を取り外し、代わりにシム4を取り付けることにより、塗布幅を、W1からW2へと小さくなるように変更させたとき、上記検知部61が塗布膜55の膜厚を検知すると、この検知結果に基づいて、制御部63は、変更後の塗布膜55の膜厚の平均値を算出する。変更後の膜厚の平均値が変更前よりも大きくなったとき、制御部63は、全通過流量がFc1からFc2となるように、排出流量をFb1で一定としつつ、供給流量をFa1から小さくする。このとき、スロット10を通過する上記全通過流量たるFc2は、上記通過流量(単位塗布幅当たりの通過流量)がFc1/W1と同じになるように、Fc2=W2×Fc1/W1に設定されており、これにより、変更の前後で上記通過流量が一定とされる。さらに、制御部63は、このままでは上記第2の端部22b側(下流側)の膜厚が小さくなることから、全通過流量をFc2で一定にしつつ、供給流量を最終的にFa2へと小さくしつつ排出流量をFb1からFb2へと小さくする。すなわち、制御部61は、検知部61の検知結果に基づいて、図8に示すように、上記供給流量と上記排出流量をそれぞれ、変更前のFa1からFa2、変更前のFb1からFb2へと変化させることにより、変更の前後で上記通過流量を一定にしつつ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とを小さくする。
【0053】
そして、このように上記通過流量を一定にしつつ変更前よりも上記排出流量を小さくさせた状態で、キャビティ22の上記長手方向における第1の端部22aに塗布液5を供給し、供給された塗布液5の一部をスロット10を通過させつつ残りをキャビティ22の第1の端部22aから上記長手方向における第2の端部22bへと移動させ、第2の端部22bから塗布液5を排出しつつ、スロット10から塗布液5を基材51上に吐出する。
【0054】
このように、塗布幅を小さくなるように変更させたとき、変更の前後で上記通過流量を一定にしつつ変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とを小さくさせることによって、塗布幅の変更前と変更後とで、キャビティ22を移動する塗布液5における第1の端部22a側に対する第2の端部22b側の圧力損失が変化することを抑制できる。
【0055】
一方、上記とは逆に、まず、ダイ2にシム4を取り付けることによって、図8に示すように、塗布幅をW2に設定し、このときの上記供給流量をFa2、上記排出流量をFb2、全通過流量をFc2に設定しているとする。
【0056】
この状態から、ダイ2からシム4を取り外し、代わりにシム3を取り付けることにより、塗布幅を、W2からW1へと大きくなるように変更させたとき、上記検知部61が塗布膜55の膜厚を検知すると、この検知結果に基づいて、制御部63は、変更後の塗布膜55の膜厚の平均値を算出する。変更後の膜厚の平均値が変更前よりも小さくなったとき、制御部63は、全通過流量がFc2からFc1となるように、排出流量をFb2で一定としつつ、供給流量をFa2から大きくする。このとき、キャビティ22からスロット10への上記全通過流量たるFc1は、上記通過流量(単位塗布幅当たりの通過流量)がFc2/W2と同じになるように、Fc1=W1×Fc2/W2に設定されており、これにより、変更の前後で上記通過流量が一定とされる。さらに、制御部63は、このままでは上記第2の端部22b側(下流側)の膜厚が大きくなることから、全通過流量をFc1で一定にしつつ、供給流量を最終的にFa1へと大きくしつつ排出流量をFb2からFb1へと大きくする。すなわち、制御部61は、検知部61の検知結果に基づいて、図7に示すように、上記供給流量と上記排出流量をそれぞれ、変更前のFa2からFa1、変更前のFb2からFb1へと変化させることにより、変更の前後で上記通過流量を一定にしつつ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量とを大きくする。
【0057】
そして、このように上記通過流量を一定にしつつ変更前よりも上記排出流量を大きくさせた状態で、キャビティ22の上記長手方向における第1の端部22aに塗布液5を供給し、供給された塗布液5の一部をスロット10を通過させつつ残りをキャビティ22の第1の端部22aから上記長手方向における第2の端部22bへと移動させ、第2の端部22bから塗布液5を排出しつつ、スロット10から塗布液5を基材51上に吐出する。
【0058】
このように、塗布幅を大きくなるように変更させたとき、変更の前後で上記通過流量を一定にしつつ、変更前よりも上記供給流量と上記排出流量を大きくさせることによって、塗布幅の変更前と変更後とで、キャビティ22を通過する塗布液5における第1の端部22a側に対する第2の端部22b側の圧力損失が変化することを抑制できる。
【0059】
本実施形態の製造方法によれば、塗布幅を適宜変更させても、変更の前後で、キャビティを移動する塗布液における第1の側(上流側)に対する第2の側(下流側)の圧力損失が変化することを抑制して、スロット10を通過する塗布液の通過流量における上記長手方向のバラツキを比較的小さくし得る。
従って、スロット10の長手方向における塗布幅を適宜変更させつつ、該長手方向に亘って膜厚バラツキが比較的小さい塗布膜を得ることが可能となる。
【0060】
本発明のダイコーター及び塗布膜の製造方法は、上記の通りであるが、本発明は上記実施形態に限定されず本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
例えば、上記実施形態では、キャビティ22から排出された塗布液5をキャビティ22に循環させる構成を挙げたが、その他、排出された塗布液5を回収する構成を採用することもできる。また、上記実施形態では、複数のシムからシムを選択することによってスロット10の塗布幅を変更させることができるような構成としたが、スロット10の塗布幅を変更させることが可能であれば、他の構成を採用することもできる。
【実施例】
【0061】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
図1に示すダイコーターと同様のダイコーターを用い、図6に示すのと同様に、ダイコーターに対して相対的に移動する基材に対して塗布を行った。また、基材の搬送速度を30m/minに設定し、塗布する際の温度を23℃に設定して、塗布膜の平均膜厚が23μmとなるように塗布を行った。
【0063】
塗布液は、アクリル系粘着剤をトルエンと酢酸エチルとの混合液に溶解させたものを用いた。かかるアクリル系粘着剤について、レオメーター(HAAKE社製、レオストレスRS1)を用い、塗布する際の温度23℃で、せん断速度20〜2000(1/s)の範囲で粘度を測定したところ、粘度μ〔Pa・s〕、ゼロせん断粘度μ〔Pa・s〕及びせん断速度γ〔1/s〕について得られた式μ=μ・γn−1において、ゼロせん断粘度μ=40Pa・s、n=0.37であった。
【0064】
基材は、帯状の可撓性基材たるPETフィルム(三菱樹脂社製、製品名ダイヤホイル、幅900mm、厚み38μm)がロール状に巻回されたものを用いた。
【0065】
また、スロットの塗布幅、塗布液のキャビティへの供給流量、キャビティからの排出流量、及び全通過流量を下記に示すように設定し、スロットから基材上に塗布液を吐出して塗布膜を形成した。そして、得られた塗布膜の膜厚バラツキを、光干渉式膜厚計によって基材幅方向に1mmピッチで塗布膜の厚みを計測し、測定結果の最大値と最小値との差〔mm〕を膜厚バラツキとして算出した。なお、表1において、排出流量が「0」である場合は、塗布液が排液ポートから排出されないことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、塗布幅が400mmの場合、塗布液を排出しない場合(No.1)には、膜厚バラツキが極めて大きかったが、塗布液を排出した場合(No.2〜No.7)には、膜厚バラツキがNo.1と比較して遥かに小さかった。また、排出流量が大き過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり、排出流量が1.5L/minのとき(No.3)に膜厚バラツキが最も小さかった。この結果、塗布幅が400mmの場合、塗布条件をNo.3に設定することが最適であることがわかった。
【0068】
次に、塗布幅を400mmから600mmに変更した。このとき、排出流量を上記No.3の条件と同じ1.5L/minのままとし、供給流量を5.1L/minとすることによって、単位塗布幅(100mm)当たりの通過流量が、塗布幅が400mmの場合と同じ0.6L/Lとなるように、全通過流量を3.6L/minに設定した(No.10)。その結果、膜厚バラツキが、No.3よりも大きくなった。
そこで、全通過流量を3.6L/minで一定にしつつ、排出流量を大きくしたところ(No.11〜No.13)、膜厚バラツキが小さくなった。また、排出流量が大き過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり(No.14)、排出流量が2.5L/minのとき(No.12)、膜厚バラツキが最も小さかった。
この結果、塗布幅が600mmの場合、塗布条件をNo.12に設定することが最適であることがわかった。
一方、全通過流量を3.6L/minで一定にしつつ、排出流量を小さくしたところ(No.9)、No.10よりもさらに膜厚バラツキが大きくなった。
【0069】
次に、塗布幅を400mmから800mmに変更した。このとき、排出流量を上記No.3の条件と同じ1.5L/minのままとし、供給流量を6.3L/minとすることによって、単位塗布幅(100mm)当たりの通過流量が、塗布幅が400mmの場合と同じ0.6L/Lとなるように、全通過流量を4.8L/minに設定した(No.17)。その結果、膜厚バラツキが、No.3よりも大きくなった。
そこで、全通過流量を4.8L/minで一定にしつつ、排出流量を大きくしたところ(No.18〜No.22)、膜厚バラツキが小さくなった。また、排出流量が大き過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり(No.21、No.22)、排出流量が3L/minのとき(No.20)、膜厚バラツキが最も小さかった。
この結果、塗布幅が800mmの場合、塗布条件をNo.20に設定することが最適であることがわかった。
一方、全通過流量を4.8L/minで一定にしつつ、排出流量を小さくしたところ(No.16)、No.17よりもさらに膜厚バラツキが大きくなった。
【0070】
次に、塗布幅を600mmから800mmに変更した。このとき、排出流量を上記No.12の条件と同じ2.5L/minのままとし、供給流量を7.3L/minとすることによって、単位塗布幅(100mm)当たりの通過流量が、塗布幅が600mmの場合と同じ0.6L/Lとなるように、全通過流量を4.8L/minに設定した(No.19)。その結果、膜厚バラツキが、No.12よりも大きくなった。
そこで、全通過流量を4.8L/minで一定にしつつ、排出流量を大きくしたところ(No.20)、膜厚バラツキが小さくなった。また、排出流量が大き過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり(No.21、No.22)、排出流量が3L/minのとき(No.20)、膜厚バラツキが最も小さかった。
この結果、塗布幅が800mmの場合、塗布条件をNo.20に設定することが最適であることがわかった。
一方、全通過流量を4.8L/minで一定にしつつ、排出流量を小さくしたところ(No.16〜No.18)、No.19よりもさらに膜厚バラツキが大きくなった。
【0071】
以上の結果、塗布幅を大きくさせた場合には、単位塗布幅当たりの通過流量を一定にしつつ排気流量を大きくさせることによって、膜厚バラツキを抑制することができることがわかった。
【0072】
一方、上記とは逆に、表1に示すように、塗布幅が800mmの場合、塗布液を排出しない場合(No.15)には、膜厚バラツキが極めて大きかったが、塗布液を排出した場合(No.16〜No.22)には、膜厚バラツキがNo.15と比較して遥かに小さかった。また、排出流量が大き過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり、排出流量が3L/minのとき(No.20)に膜厚バラツキが最も小さかった。この結果、塗布幅が800mmの場合、塗布条件をNo.20に設定することが最適であることがわかった。
【0073】
次に、塗布幅を800mmから600mmに変更した。このとき、排出流量を上記No.20の条件と同じ3L/minのままとし、供給流量を6.6L/minとすることによって、単位塗布幅(100mm)当たりの通過流量が、塗布幅が800mmの場合と同じ0.6L/Lとなるように、全通過流量を3.6L/minに設定した(No.13)。その結果、膜厚バラツキが、No.20よりも大きくなった。
そこで、全通過流量を3.6L/minで一定にしつつ、排出流量を小さくしたところ(No.11、No.12)、膜厚バラツキが小さくなった。また、排出流量が小さ過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり(No.9、No.10)、排出流量が2.5L/minのとき(No.12)、膜厚バラツキが最も小さかった。
この結果、塗布幅が600mmの場合、塗布条件をNo.12に設定することが最適であることがわかった。
一方、全通過流量を3.6L/minで一定にしつつ、排出流量を大きくしたところ(No.14)、No.13よりもさらに膜厚バラツキが大きくなった。
【0074】
次に、塗布幅を800mmから400mmに変更した。このとき、排出流量を上記No.20の条件と同じ3L/minのままとし、供給流量を5.4L/minとすることによって、単位塗布幅(100mm)当たりの通過流量が、塗布幅が800mmの場合と同じ0.6L/Lとなるように、全通過流量を2.4L/minに設定した(No.6)。その結果、膜厚バラツキが、No.20よりも大きくなった。
そこで、全通過流量を2.4L/minで一定にしつつ、排出流量を小さくしたところ(No.2〜No.5)、膜厚バラツキが小さくなった。また、排出流量が小さ過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり(No.2)、排出流量が1.5L/minのとき(No.3)、膜厚バラツキが最も小さかった。
この結果、塗布幅が400mmの場合、塗布条件をNo.3に設定することが最適であることがわかった。
一方、全通過流量を2.4L/minで一定にしつつ、排出流量を大きくしたところ(No.7)、No.6よりもさらに膜厚バラツキが大きくなった。
【0075】
次に、塗布幅を600mmから400mmに変更した。このとき、排出流量を上記No.12の条件と同じ2.5L/minのままとし、供給流量を4.9L/minとすることによって、単位塗布幅(100mm)当たりの通過流量が、塗布幅が600mmの場合と同じ0.6L/Lとなるように、全通過流量を2.4L/minに設定した(No.5)。その結果、膜厚バラツキが、No.12よりも大きくなった。
そこで、全通過流量を2.4L/minで一定にしつつ、排出流量を小さくしたところ(No.3、No.4)、膜厚バラツキが小さくなった。また、排出流量が小さ過ぎる場合には返って膜厚バラツキが大きくなる傾向にあり(No.2)、排出流量が1.5L/minのとき(No.3)、膜厚バラツキが最も小さかった。
この結果、塗布幅が400mmの場合、塗布条件をNo.3に設定することが最適であることがわかった。
一方、全通過流量を2.4L/minで一定にしつつ、排出流量を大きくしたところ(No.6、No.7)、No.5よりもさらに膜厚バラツキが大きくなった。
【0076】
以上の結果、塗布幅を小さくさせた場合には、単位塗布幅当たりの通過流量を一定にしつつ排気流量を小さくさせることによって、膜厚バラツキを抑制し得ることがわかった。また、塗布膜の膜厚を検知し、かかる膜厚の検知結果に基づいて供給流量と排出流量を制御することによって、膜厚バラツキを抑制し得ることがわかった。
【符号の説明】
【0077】
1:ダイコーター、2:ダイ、2a、2b:ダイブロック、3、4:シム、10:スロット、22:キャビティ、22a:第1の端部(第1の側)、22b:第2の端部(第2の側)、25:給液ポート、27:排液ポート、31:供給部、31a:ポンプ、31b:流量計、33:排出部、33a:ポンプ、33b:流量計、51:基材、55:塗布膜、61:検知部、63:制御部
図1
図2
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図8