特許第5912807号(P5912807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912807
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】荷重計測システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   A61B5/10 310B
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-99568(P2012-99568)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-226225(P2013-226225A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101558
【氏名又は名称】アニマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 仁
【審査官】 多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−056278(JP,A)
【文献】 特開2007−319347(JP,A)
【文献】 特開2007−037851(JP,A)
【文献】 松浦知史 他,”床反力分析による下肢関節手術後の経時的変化”,医療,日本,1999年 5月20日,Vol.53, No.5,p.334-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 − 5/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の左右の足に対応する一対のフォースプレートと、
各フォースプレートにより検出された荷重データを用いて被験者の左右の足にそれぞれ作用する荷重の時系列データを取得する荷重取得手段と、
被験者の下肢の状態の評価値を算出する評価値算出手段と、
を備え、
前記荷重取得手段は、前記フォースプレート上で被験者が足踏みする間の当該被験者の左右の足にそれぞれ作用する荷重の時系列データを取得し、
前記評価値算出手段は、立脚期の荷重の立ち上がり部分における荷重速度を第1評価値として算出する、
荷重計測システム。
【請求項2】
前記荷重速度は、1歩毎の立脚期においてリアルタイムで取得される、請求項1に記載の荷重計測システム。
【請求項3】
前記荷重速度は、複数歩の立脚期における代表値として取得される、請求項1に記載の荷重計測システム。
【請求項4】
前記評価値算出手段は、さらに、前記荷重速度の標準偏差を第2評価値として算出する、請求項3に記載の荷重計測システム。
【請求項5】
前記評価値算出手段は、さらに、立脚期の荷重の立ち下がり部分における荷重速度を算出し、立ち上がり部分における荷重速度と立ち下がり部分における荷重速度の大きさの差分を第3評価値として算出する、
請求項1〜4いずれか1項に記載の荷重計測システム。
【請求項6】
前記荷重計測システムは、表示部を備え、
前記表示部には、前記第1評価値および/あるいは前記第3評価値が、健常者の値と対比して表示される、請求項に記載の荷重計測システム。
【請求項7】
前記表示部には、荷重速度を表す円弧状の目盛が表示され、当該目盛において健常者の荷重速度の範囲が扇状部によって表示されており、前記第1評価値が円弧中心から円弧状の目盛に向かって延びる指針によって当該目盛上で指し示される、請求項6に記載の荷重計測システム。
【請求項8】
前記表示部において、前記指針の先端の近傍には、当該指針の長さ方向に直交するバーによって前記第2評価値が表示される、請求項7(請求項4の従属項に限る)に記載の荷重計測システム。
【請求項9】
前記第1評価値は、1歩毎の立脚期においてリアルタイムで取得され、当該第1評価値は1歩毎にリアルタイムで前記表示部に表示される、請求項7に記載の荷重計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重計測システムに係り、詳しくは、2つのフォースプレートを用いた下肢荷重計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
重心動揺計を用いた検査の多くは、静的姿勢についての静的体平衡機能検査であるが、足踏み検査に用いられる重心動揺システムも提案されている(特許文献1)。重心動揺計のフォースプレートは本来的に荷重計測機能を備えており、重心動揺計を用いて足踏み時の荷重の時系列データを取得することができる。
【0003】
被験者がフォースプレート上で足踏みした時に取得される荷重データには、フォースプレート上で静的姿勢にある被験者から取得される荷重データに比べて多くの情報が含まれており、足踏み検査は、動的平衡機能検査のみならず様々な検査に用いられ得る可能性を秘めている。
【0004】
下肢の整形外科疾患に対する最大の治療目的は、疾患によって損なわれた機能の回復にあるが、機能回復の大きな要因として「痛みの軽減」があり、この痛みを取り除くことで機能を大きく改善できると考えられる。ところが、従来、この痛みを評価する指標は存在しなかった。例えば、静止立位で左右の荷重バランスを評価しても、静止立位の時だけ無理して立位を維持する人がいるため、下肢の痛みや違和感の評価を左右の静止荷重だけで行うことは困難である。本願発明者は、かかる現状に鑑み、足踏み検査を用いて被験者の下肢の状態(特に、下肢の痛みや違和感)を評価することを検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−330434
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被験者の下肢の状態を評価することができる下肢荷重計測システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明が採用した技術手段は、
被験者の左右の足に対応する一対のフォースプレートと、
各フォースプレートにより検出された荷重データを用いて被験者の左右の足にそれぞれ作用する荷重の時系列データを取得する荷重取得手段と、
被験者の下肢の状態の評価値を算出する評価値算出手段と、
を備え、
前記荷重取得手段は、前記フォースプレート上で被験者が足踏みする間の当該被験者の左右の足にそれぞれ作用する荷重の時系列データを取得し、
前記評価値算出手段は、立脚期の荷重の立ち上がり部分における荷重速度を第1評価値として算出する、
荷重計測システ、である。
【0008】
1つの態様では、前記荷重速度は、1歩毎の立脚期においてリアルタイムで取得される。
【0009】
1つの態様では、前記荷重速度は、複数歩の立脚期における代表値(典型的には平均値)として取得される。
1つの態様では、荷重速度は、正規化されている。具体的な正規化の手段については、当業者により適宜選択し得るものであり、荷重速度を被験者の体重で除して正規化すること、荷重速度を立脚期で正規化すること、が例示される。
【0010】
1つの態様では、前記評価値算出手段は、さらに、前記荷重速度の標準偏差を第2評価値として算出する。
【0011】
1つの態様では、前記評価値算出手段は、さらに、立脚期の荷重の立ち下がり部分における荷重速度を算出し、立ち上がり部分における荷重速度と立ち下がり部分における荷重速度の大きさの差分を第3評価値として算出する。
【0012】
1つの態様では、前記荷重計測システムは、表示部を備え、
前記表示部には、前記第1評価値および/あるいは前記第3評価値が、健常者の値と対比して表示される。
1つの態様では、前記第1評価値は、1歩毎の立脚期においてリアルタイムで取得され、当該第1評価値は1歩毎にリアルタイムで前記表示部に表示される。
【0013】
1つの態様では、前記表示部には、荷重速度を表す円弧状の目盛が表示され、当該目盛において健常者の荷重速度の範囲が扇状部によって表示されており、前記第1評価値が円弧中心から円弧状の目盛に向かって延びる指針によって当該目盛上で指し示される。
1つの態様では、前記表示部において、前記指針の先端の近傍には、当該指針の長さ方向に直交するバーによって前記第2評価値が表示される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る下肢荷重計測システムを用いることで、立ち上がり部分の荷重速度を評価値として被験者の下肢の状態を評価することができる。
具体的には、整形疾患に対する、治療の効果判定(手術、投薬、補装具の有効性の判定)、リハビリでの経過観察(訓練効果の把握、異常の検出)、病棟内歩行時の介助の必要性の定量的な判定(現状は医師、看護士、PTの合議制がほとんどで、客観的なデータを必要としている。)、杖をはずしていい時期の見極め(現状は医師、看護士、PTの合議制がほとんどで、客観的なデータを必要としている。)などに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る下肢荷重計測システムの概略ブロック図である。図1において、同様のブロックがペアで記載されているが、これらは左足の荷重取得手段、荷重速度算出手段、荷重速度(立ち上がり部分、立ち下がり部分)、右足の荷重取得手段、荷重速度算出手段、荷重速度(立ち上がり部分、立ち下がり部分)にそれぞれ対応している。また、図1では、左右の対向足間の荷重速度(立ち上がり部分と立ち上がり部分)の差分のみを表示しているが、同じ足の荷重速度(立ち上がり部分と立ち上がり部分)の差分を算出してもよい。
図2】ある被験者について取得した左右の足の足底荷重値データから得た荷重バランス(全体)、荷重バランス(立脚期)、バランス特性(全体)、バランス特性(立脚期)を示す図である。
図3】左右の足の1回の立脚期における足底荷重値を重ね書きしてなる図、及び、取得された荷重ピーク値特性を示す図である。
図4】左右の足の足底荷重値の荷重変化を立脚期で正規化して示す図、及び、取得された荷重特性を示す図である。
図5】荷重タイミングを示す図、及び、時間因子(ストライド基準)を示す図である。
図6】ある被験者について取得した左右の足の足底荷重値データから得た荷重バランス(全体)、荷重バランス(立脚期)、バランス特性(全体)、バランス特性(立脚期)を示す図である。
図7】ある被験者について取得した荷重タイミング、及び、時間因子(ストライド基準)を示す図である。
図8】ある被験者について取得した左右の足の足底荷重値データから得た荷重バランス(全体)、荷重バランス(立脚期)、バランス特性(全体)、バランス特性(立脚期)を示す図である。
図9】ある被験者について取得した荷重タイミング、及び、時間因子(ストライド基準)を示す図である。
図10】ある被験者について取得した荷重タイミングを示し、1立脚期毎に荷重速度をリアルタイムで取得すること(第1の手法)を示す図である。
図11】荷重速度を計算するための第2の手法を説明する図である。
図12】荷重速度を計算するための第3の手法を説明する図である。
図13】ある被験者について第3の手法での荷重速度の計算を説明する図である。
図14】ある被験者について第3の手法での荷重速度の計算を説明する図である。
図15】ある被験者について荷重速度を評価値として術後経過を示す図である。
図16】ある被験者について荷重速度を評価値として術後経過を示す図である。
図17】立脚期の立ち上がり部分における荷重速度、立ち下がり部分における荷重速度の計算を説明する図である。
図18】ある被験者についての下肢荷重検査結果を表示した図である。
図19】荷重速度をリアルタイムで被験者に提示するための表示を示す図である。
図20】ある被験者についての下肢荷重検査結果を表示した図である。
図21】荷重速度をリアルタイムで被験者に提示するための表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る下肢荷重計測システムは、足踏み検査の際の被験者の左右の足にそれぞれ作用する荷重を測定するシステムである。下肢荷重計測システムは、被験者の左右の各足の床反力(足底荷重値)を各々測定する2つのフォースプレートと、フォースプレートから出力されたデータを処理するデータ処理装置と、データ処理装置による処理結果を表示する表示部を備えている。フォースプレートは、2つの重心動揺計から構成することができる。データ処理装置は、1つあるいは複数のコンピュータ(データを入力するための入力手段、処理されたデータを出力するための出力手段、主としてCPUから構成される演算手段/制御手段、所定のプログラム、入力データ、計測データ、算出データ等を記憶するROM、RAM等の記憶手段、これらを接続するバス、を備えている)と、から構成することができる。表示部は、ディスプレイから構成することができる。
【0017】
本実施形態に係る下肢荷重計測システムは、いわゆるプレート式下肢荷重検査に適用される。プレート式下肢荷重検査とは、プレート式足圧計測装置(左右別型重心動揺計)により下肢荷重を計測し、足踏み動作時における左右別の足圧中心(COP)移動分析などを行う検査である(日本リハビリテーション医学会 2008/10/15発行 リハニュースNo.39(ISSN 1344-8838))。下肢荷重計測システムは、重心動揺検査の2枚のフォースプレートを組み合わせて、左右下肢別の荷重量と重心動揺を捉え、記録・分析して下肢支持能力およびバランスを検査することができる。
【0018】
重心動揺計は、被験者が載る足載せ台と、足載せ台の所定の複数箇所に作用する荷重データを検出する荷重検出手段と、を備えるフォースプレートと、前記荷重データを用いて左右の足底荷重値の時系列データを取得する足底荷重値取得手段と、前記荷重データを用いて左右の各足底のXY平面上の重心座標(COP)の時系列データを取得する重心座標取得手段備えている。足底荷重値取得手段、重心座標取得手段は、コンピュータの演算手段によって構成することができる。
【0019】
本実施形態では、フォースプレートは、平面視二等辺三角形状(より具体的には、略正三角形状)の形状を備えた可搬式のフォースプレートである。フォースプレートは、平面視二等辺三角形状の踏み台と、踏み台の3つの頂点の下方に位置して配置された3つのロードセル(荷重検知センサ)と、を備えている。ロードセルは3分力センサで、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の荷重出力を検出する。ロードセルにより検出された荷重データに係る所定の信号は、増幅器(図示せず)により増幅されてデータ処理装置に出力される。フォースプレートの形状や荷重センサの個数は限定されず、例えば、略四角形状の踏み台と、踏み台の四隅部に配置した4つのロードセルと、からなるフォースプレートを用いてもよい。フォースプレートは、被験者の足底荷重値を取得できるものであれば、いかなるフォースプレートでもよい。
【0020】
フォースプレートの各々は、側辺同士を互いに近接対向させて床面に配置される。一方のフォースプレートが被験者の左足に対応し、他方のフォースプレートが被験者の右足に対応しており、左足に作用する荷重、右足に作用する荷重を独立して取得するようになっている。各踏み台の上面には、被験者の足踏み動作の基準となる凸状の足踏み動作基準マーカMが設けられている。マーカを踏む位置は第一中足骨頭からやや小指よりの凹んだ部分とする。一例では、マーカは直径15mm、高さ2mmであり、マーカ間距離が160mmとなるように2つの重心動揺計が床面に置かれる。踏み板上のマーカの位置は位置調節可能となっている。マーカの詳細については、特許文献1を参照することができる。
【0021】
各ロードセルで取得される荷重情報(z、y、z方向)は、逐次コンピュータに送信され、コンピュータの演算手段でCOPを逐次(0.01秒、0.005秒、0.001秒等の単位時間毎)求めることで、足底荷重値の時系列データ、荷重の作用中心点(COP:Center of Pressure)の時系列データ(XY座標)を取得することができる。荷重情報、得られた足底荷重値、重心位置のデータ(XY座標値)は、取得時間と共に記憶手段に記憶される。なお、重心位置データは動揺解析には必須であるが、本発明においては必須ではない。本実施形態では、典型的には算出された各データは、表示手段に表示され得るが、データが記憶手段に記憶されており、後述する解析パラメータの計算が可能な状態であればよく、算出データを表示手段に表示することは必須ではない。
【0022】
1つの態様では、足踏み検査条件は以下の通りである。
計測周波数:10ms(100Hz)
計測歩数:40歩(右足20歩、左足20歩)のデータを使用
眼:開眼
歩行リズム:100歩/分のリズム音に従う
【0023】
時間因子は、以下のとおり定義される。
ストライド:足の接地から次の同足の接地までの時間
立脚期:足の接地から同足の離床までの時間
遊脚期:足の離床から同足の接地までの時間
両脚支持期:左右足の同時接地時間
これらの時間は、左右の足に対応するフォースプレートから得られた足底荷重値の時系列データから取得することができる。
【0024】
フォースプレート上における左右両足の複数回の足踏み動作によって、各足に対応する夫々のフォースプレートに作用した荷重データに基づいて、左右両足の足底荷重値を経時的に取得するする。取得した足底荷重値は、足底荷重値を縦軸、時間を横軸にとって表示部に表示することができる。
【0025】
図2に示すように、左右それぞれの足の足底荷重値の時系列データから荷重バランス(全体)、荷重バランス(立脚期)を取得することができる。荷重バランスは、縦軸を体重%として棒グラフで表示することができる。また、足底荷重値の時系列データをデータ処理装置の演算手段が統計的に処理することで、バランス特性として、全体、立脚期のそれぞれについて、平均値、SD、最大値を左右の足毎に算出する。
【0026】
図3に示すように、左右それぞれの足の1回の立脚期における足底荷重値の時系列データを重ね書きして表示する(上図)。左右の足それぞれについて、各立脚期における荷重ピーク値をコンピュータの演算手段が統計的に処理することで、荷重ピーク特性として、平均値、SD、最大値、最小値を、出現時間と共に取得することができる。計算された左右の足毎の荷重ピーク値特性を、図3下図に示す。
【0027】
図4に示すように、左右それぞれの足の足底荷重値の時系列データから荷重変化(立脚期で正規化)及び荷重特性を、左右の足毎に取得することができる。各足踏み動作における立脚期を所定値(例えば、100等)で等分して、等分された時刻毎に足底荷重値を算出する正規化処理を行う。等分された時刻ごとに各ステップの足底荷重値に基づいて平均値及び標準偏差を算出する。図4に示すように、縦軸を体重比(%)とし、横軸を正規化歩行周期(%)として処理結果を表示することができる。体重比の最大値を▲で示し、その最小値を▽で示し、これらの出現時の歩行周期比を数字で表している。得られた荷重特性(立脚期の荷重パターン)、具体的には、第1極大値、極小値、第2極大値、荷重変動(SD)の平均値を図4下図に示す。
【0028】
図5は、荷重タイミング、時間因子(ストライド基準)を示す。各値は複数回の足踏み動作を通して得られたデータの平均値である。
【0029】
荷重因子による評価例について説明する。以下の説明は本発明の背景となる考え方を示している。
荷重バランスによる評価
患足の痛みによる代償をある程度判断する方法として、最初に左右の荷重バランスに注目する。図6左図の例(LtHip AN(大腿骨頭無腐性壊死)42歳 男性 術前)の場合、左右の荷重差が左基準で20%以上あり、何らかの痛みの代償が働いているものと考えられる。一方、図6右図に示すように、立脚期の荷重バランスが全体の荷重バランスほど左右差がない。これは、足が接地している時の荷重の左右差が少ないことを示し、荷重負荷を減らす代償が時間的な要因で行われていることを示唆している。上記の例の荷重タイミングを図7に示す。明らかに左足の立脚期時間が短く(左足:64.53、右足:78.16)、左足に荷重をかける時間を減らすことで、痛みをかばっていることが読み取れる。
【0030】
荷重の立ち上がり速度による評価
図8に示す例は、両側OA(変形性関節症)の患者の左TKA(人工関節置換手術)の術前の荷重バランスである。荷重バランス(全体)、荷重バランス(立脚期)共に左右差もほとんど無く、この図からはでは正常者と差が見られない。一方、図9に示す荷重タイミングに着目すると、左右差は無いが、立脚期、両脚支持期共に長く、単脚支持期を表す遊脚期が非常に短くなっている。つまり、両脚で体重を支えている時間が長く、痛みをかばうために片足で立っている時間が短くなっているものと考えられる。
【0031】
下肢に痛みや違和感があると、人はそれをかばうが、かばう方法には個人差がある。荷重を十分にかけない人、ゆっくりと荷重をかけていく人、がいる。痛みの代償行為も荷重負荷の大きさだけでなく、ゆっくりと負荷をかけることで痛みの軽減を図る方法もあるはずである。痛みの代償動作は、荷重因子と時間因子の双方に影響を及ぼしているものと考えられる。そこで、これらの2つを合成したパラメータである荷重速度(加重傾斜)に着目した。荷重速度は足に体重を加えて行く速度であり、荷重速度によって荷重負荷の時間的な変化を捉えることができる。つまり、荷重と時間の両方の側面から観察することで「かばい行動」を定量化することができる。また、「かばい行動」があると1歩毎に速度がバラつくため、SD(標準偏差)も大きくなる。荷重速度やその変動(SD)から「かばい行動」を評価することができる。以下、荷重速度の算出方法について説明する。3つの手法を示すが、荷重速度の計算はこれら3つの手法に限定されるものではない。
【0032】
第1の手法は、図10に示すように、1歩毎の足底荷重値の時系列データからリアルタイムで荷重速度を算出する。1立脚期が終了した時点で当該立脚期における立ち上がり部分の荷重最大値、及び、足底の接地から荷重最大値までの時間を取得し、縦軸を荷重、横軸を時間としたグラフにおいて、接地時刻と荷重最大値の時刻を結ぶ直線の傾きから荷重速度をコンピュータの演算手段によって求める。
【0033】
第2の手法は、荷重変化(計測データ重ね書き)で荷重ピーク特性値が算出されているので、それぞれの足ピークの平均値と出現時間の平均値から、コンピュータの演算手段によって、左右それぞれの足について、
「荷重速度(加重傾斜)=ピーク平均値(体重%)/出現時間の平均値(秒)」
で算出できる。図11に基づいて説明すると、
左足の荷重速度=95.14/0.54=176.18
右足の荷重速度=101.40/0.56=181.07
となる。
【0034】
第3の手法は、立脚期で正規化した荷重変化の表から、コンピュータの演算手段によって、左右それぞれの足について、
「荷重速度(加重傾斜)=第1極大値/(出現地点(%)×立脚期時間)」
で算出できる。図12に基づいて説明すると、
左足の荷重速度=93.78/1.26×0.43=173.08
右足の荷重速度=98.08/1.26×0.43=181.02
となる。
【0035】
上記両側OA(膝)の患者について、左TKA術前と術後21日のデータ比較した例を図13図14に示す。図13は、術前のデータであり、荷重速度は、左:173.1(%/秒)、右:181.0(%/秒)、である。図13は、術前のデータであり、荷重速度は、左:303.1(%/秒)、右:319.5(%/秒)、である。健常者の平均値が、大体420±50(体重%/秒)程度であり、術前の175(体重%/秒)から術後21日目の300(体重%/秒)まで、かなり改善したことがわかる。
【0036】
荷重速度を評価値として用いて術後経過を観察した。結果を図15図16に示す。図15は、83歳 女性:両側OA 左TKA(膝関節置換手術)の荷重速度の経過を示す。条件:自由リズムで20歩、術後の痛みがひどい時期は立位補助具につかまって足踏みを行わせる。なるべく手を使わないように指示。5/7以降は自立。図16は、77歳 女性:右OA 右TKA(膝関節置換手術)の荷重速度の経過を示す。条件:自由リズムで20歩、杖使用(なるべく使わないように指示)。最後の2回は通院時に計測。荷重速度を観察することによって、回復の経過を客観的に捉えることができる。
【0037】
図17は、足部に加わる荷重の変化、及び、左右の足に加わる荷重の時間的な関係を表している。一般に、歩行中の1歩の中で踏力(足底荷重値)のピークが2つできることは良く知られており、第1ピークは制動期、第2ピークは駆動期に発生する。足踏み動作も基本的には歩行動作に準じて考えることができ、通常、1歩の立脚期において足底荷重値には2つの荷重ピークが存在するため、足部の接床(厳密には、フォースプレート上面に接する)から第1ピークまでを立ち上がり部とし、第2ピークから足部の離床(厳密には、フォースプレート上面から離れる)までを立ち下がり部とすることができる。すなわち、足踏み動作における立脚期の足底荷重値には、立ち上がり部分(足部の接地から最初の荷重ピークまでの区間)、立ち下り部分(最終荷重ピークから足部の離床までの区間)が存在する。なお、荷重ピークが3つ以上、あるいは、荷重ピークが1つ(荷重ピークが一定時間に亘って略一定である)の場合においても、立ち上がり部分、立ち下がり部分を特定することができることは当業者に理解される。
【0038】
足底荷重値の立ち上がり部分(足部の接地から荷重ピークまでの区間)から、荷重の増加速度(増加の傾斜)を求め、これを足踏時の下肢の痛みを表す評価値とすることについて説明した。荷重増加速度に加え、足底荷重値の立ち下り部分(最終荷重ピークから足部の離床までの区間)から、荷重の減少速度(減少の傾斜)を求め、対向足の速度差(右から左に荷重移行する場合、右足の荷重減少速度と左足の荷重増加速度の差分)により足踏時の下肢の痛みを評価してもよい。立脚期の足底荷重値の立ち下がり部分における荷重速度の算出手段については、立脚期の足底荷重値の立ち上がり部分における荷重速度の算出手段を適用することができ、最終荷重ピークの荷重値及び時刻、足部の離床時刻を用いて算出し得ることが当業者に理解される。
【0039】
足踏み時においては、左足から右足、右足から左足へと交互に荷重が作用するが、左足の立ち上がり時の荷重速度と左足の立ち下がり時の荷重速度の絶対値との差分、左足の立ち下がり時の荷重速度の絶対値と右足の立ち上がり時の荷重速度との差分、右足の立ち上がり時の荷重速度の絶対値と右足の立ち下がり時の荷重速度の絶対値との差分、右足の立ち下がり時の荷重速度の絶対値と左足の立ち上がり時の荷重速度との差分、をコンピュータの演算手段によって算出する。健常者の場合は、荷重速度が比較的一定しており、算出された差分が小さい。荷重速度の差分が大きい場合には、足に痛みや障害があることが想定し得る。
【0040】
図18図20は、それぞれある被験者についての下肢荷重検査結果を表示した図である。図18図20では、上から順に、接床荷重速度(左右の足のデータが並設されている)、荷重タイミング、荷重移行速度が表示されている。図18図20に示す図は、コンピュータの表示部に表示しても、あるいは、出力手段(印刷手段)により出力してもよい。
【0041】
接床荷重速度については、算出された数値に加えて、荷重速度をスピードメータに似た表現で視覚的に表示し、矢印(指針)の角度が上がるほど荷重速度が大きくなるようにした。扇状部(例えば、グリーンゾーンとして表示される)は多数の健常者のデータから得た健常範囲である。矢印(指針)の先のT字状の指標は速度のバラツキを示し、荷重速度が不安定なほどTの横軸(指針の長さ方向に直交するバー)が長くなる。荷重タイミングにおいて、荷重の正規化グラフが示され、足部に荷重が加わる状態の把握と、左右の時間的な関係が表してある。荷重移行速度において、右足から左足、または左足から右足へ荷重移行する場合の立ち上り時の荷重速度と立ち下り時の荷重速度の大きさの差が表示されている。荷重速度の差分を可視化して、多数の健常者のデータから得た健常範囲(帯状部位)と視覚的に対比することができる。
【0042】
図19図21は、算出した荷重速度をリアルタイムで被験者に提示するための表示を示す図である。1歩毎の立脚期の立ち上がり部の荷重速度が算出され、矢印(指針)の角度によって表示される。荷重速度をスピードメータに似た表現とし、一歩ごとに健常値範囲と対比して表現できるようにした。このメータをリアルタイムで被験者に提示することで、被験者(患者)が訓練として荷重速度を利用できるようにしている。足踏み検査で取得される「荷重速度」を、リアルタイムで画面表示して被験者に提示することで、足踏み検査が、単に評価だけでなく、高度な荷重のフィードバック訓練(従来の力に時間要因を加えたフィードバック訓練)として使用できる。荷重速度をリアルタイムで表示する場合には、SDを示すバーは表示されない。
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