(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至3の何れかに記載の装置において、前記開繊装置は、前記ヤーンにウェーブを描かせるように走行させるべく配置された複数のバーを備えることを特徴とする装置。
請求項6乃至8の何れかに記載の方法において、前記開繊するステップは、複数のバーに前記ヤーンを走行せしめて前記ヤーンにウェーブを描かせることを含むことを特徴とする方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を添付の図面を参照して以下に説明する。
【0012】
本実施形態による開繊装置は、好適にはプリプレグ製造装置の中に組み込まれて利用される。開繊装置は炭素繊維のごとき強化繊維の開繊に利用されるが、炭素繊維以外の強化繊維に利用することもできる。開繊装置において、開繊のために過熱蒸気が利用される。本明細書および添付の請求の範囲において、過熱蒸気とは、一般的な意味と同じく、沸点以上に熱せられた蒸気を意味する。
【0013】
図1を参照するに、プリプレグ製造装置1は、概略、複数のヤーンYを供給するクリールスタンド3と、供給されたヤーンYをそれぞれ開繊する開繊部5と、その下流側に配置されて繊維束Sを未硬化ポリマと結合してプリプレグPを製造する結合部7と、その下流側に配置されてプリプレグPを巻き取るワインダ9と、よりなる。
【0014】
クリールスタンド3としては、複数のボビンを備えて複数のヤーンYを供給できる公知のものが利用できる。好ましくはヤーンYに撚りを与えないよう、ボビンを水平に支持し、また弛まないようヤーンYに適宜の張力を付与できるものが利用できる。複数のボビンからそれぞれヤーンYが引き出され、面を為すように平行に並べられ、開繊部5に供給される。
【0015】
図2,3を
図1と組み合わせて参照するに、開繊部5は、前処理装置11と、過熱蒸気を発生して前処理装置11に供給する過熱蒸気発生装置71と、加熱装置13と、開繊装置15と、を備える。
【0016】
主に
図2を参照するに、前処理装置11は、好ましくはヤーンYが走行する方向に延長された矩形、角柱、円柱等の適宜の外形を有する外壁51と、上流側Uおよび下流側Dに向いて外壁51に開けられた開口53U,53Dと、過熱蒸気を導入するための管55と、余剰の過熱蒸気およびヤーンYから除去されたオイル等を排出するためのドレン57とを備える。外壁51は、熱電対のごときセンサ61を導入するための開口59を備えてもよい。
【0017】
外壁51は、チャンバ65を囲んでいる。開口53UはヤーンYをチャンバ65内に導入するように構成され、開口53Dは、ヤーンYをチャンバ65から排出するように構成されている。以ってヤーンYはチャンバ65内を走行し、チャンバ65内に保持された過熱蒸気に曝露される。
【0018】
外壁51は、加熱による酸化を防止する等の要件に照らして適宜の材料、例えばISO/TS15510−LNo6(JIS−SUS304)ステンレス鋼よりなる。過熱蒸気の温度の低下を防止するべく、外壁51は適宜の断熱材を含んでもよく、またヒータ63を含んでもよい。外部からチャンバ65へのアクセスを許容するべく、外壁51は分解可能とする。
【0019】
管55は、図示のごとくチャンバ65内に開口した単純な管であってもよく、ヤーンYに過熱蒸気をジェット状に吹き付けるべくノズル状であってもよい。
【0020】
過熱蒸気発生装置71としては公知のものが利用しうるが、例えば
図3のごとく、水を蒸発せしめて飽和蒸気を発生する蒸発器73と、飽和蒸気を更に加熱する蒸発器75とを備えたものが利用できる。蒸発器73および蒸発器75は、それぞれ適宜のヒータ79,81を内蔵しており、水または蒸気を加熱する。ヒータ79,81としては、カーボンヒータや誘導加熱コイル等の適宜の加熱手段が利用できる。あるいは、加熱のために火炎、高温流体あるいは他の適宜の手段を利用してもよい。
【0021】
蒸発器73および蒸発器75を貫いて、加熱管77が走行しており、その熱効率を高めるべく、蒸発器73および蒸発器75の内部においてそれぞれ蛇行している。蛇行の代わりに、蒸発器73または蒸発器75の周囲を取り巻く螺旋であってもよいし、また他の形状であってもよい。
【0022】
通常の水Wが加熱管77を通って蒸発器73を通過すると、水Wが蒸発して飽和蒸気Vが発生する。飽和蒸気Vの温度は、通常、沸点の程度に過ぎない。飽和蒸気Vは、更に蒸発器75を通過することにより昇温されて、過熱蒸気SVに転ずる。
【0023】
過熱蒸気SVの温度は上述のごとく沸点以上である。開繊の効率の観点からは、その温度はより高い方が好ましく、例えば200℃を越え、より好ましくは470℃を越える適宜の温度である。ただしエネルギ効率の観点からは、より低い方が好ましいので、例えばその温度は700℃以下である。
【0024】
この例では加熱は蒸発器73および蒸発器75による2段階だが、効率的な加熱の観点から3段階以上でもよく、あるいは可能ならば1段階でもよい。
【0025】
水Wは工業的に入手できる通常の水だが、適宜の添加物を含んでいてもよい。あるいは水Wに代えて、適宜の揮発性液体を利用してもよい。
【0026】
加熱蒸気発生装置71の加熱管77は前処理装置11の管55に接続されており、過熱蒸気SVはチャンバ65に充満して空気を排除する。過熱蒸気SVで満たされたチャンバ65においてヤーンYは前処理を受ける。
【0027】
開繊部5には、好ましくは、開繊装置15の直前においてヤーンYの開繊を促すべく、適宜の加熱装置13を設ける。セラミックヒータ等いずれの加熱手段もこれに適用可能であり、また輻射、接触伝熱、空気等の媒体による間接伝熱等の何れの形式を採用してもよい。
図4に示されるのは、加熱手段13の一例であって、互いに対向した一対のプレートヒータ91,93よりなる。各プレートヒータ91,93は、例えば蛇行したセラミックヒータが埋め込まれた金属ないしセラミックの板である。好ましくはヤーンYに対する距離を調整するべく、プレートヒータ91,93は可動とする。ヤーンYは対向したプレートヒータ91,93の間の隙間を通って上流側Uから下流側Dに向かって走行する間、輻射により加熱される。あるいは可能ならば加熱は一枚のプレートヒータによってもよい。
【0028】
また開繊装置15の直前において、ヤーンYを等間隔に揃えるべく、適宜のガイドを設けてもよい。ガイドには、例えばヤーンYが走行する面に対して垂直に立てられた複数のピンが利用できる。好ましくはピン相互の間隔は可変とする。かかるガイドは開繊装置15の直前に設けてもよく、あるいは加熱装置13の直前に設けてもよく、あるいは加熱装置13および開繊装置15の両方に設けてもよい。
【0029】
図5,6を
図1と組み合わせて参照するに、開繊装置15は、例えば圧縮空気をヤーンYに吹き付けるノズル101a,101bと、ヤーンYがその表面に接しつつ走行する複数のバー103a〜103eと、を備える。
【0030】
ノズル101a,101bは、例えばコンプレッサ等の圧縮空気を供給する手段と接続されて空気を噴出するノズルである。圧縮空気を供給する手段は、空気を加熱する手段を更に備えていてもよい。空気を高速で噴き出すべく、ノズル101a,101bはスロットル状に絞られている。また各ノズルは、ヤーンYに対して幅方向に伸びるスリット状でもよいし、複数のノズルが幅方向に並べられていてもよい。さらには、単一のノズルを幅方向に往復運動させてもよい。
【0031】
ノズル101a,101bは図示のごとくヤーンYを挟んで対を為していてもよいし、ヤーンYに対して片側にのみ設けられていてもよい。ノズル101a,101bは、後述のバー103a〜103eの直前に配置されていてもよいし、バー103a〜103eの間に配置されていてもよい。あるいは、バー103a〜103eの何れかに空気を吹き付けるようにノズルが配置されていてもよい。空気流は、繊維間の空隙を広げ、以って開繊を促す。
【0032】
各々のバー103a〜103eは、少なくともヤーンYが接する部位において、円柱形状である。接触圧を調整する目的で、他の形状、例えば楕円柱形状、角柱形状、角の丸められた角柱形状を採用してもよい。またその表面は、摩擦係数を調節するべく、いわゆる梨地仕上げにされている。あるいはセラミクスまたはダイヤモンドライクカーボンよりなるコーティング、またはその他の表面処理が施されていてもよい。
【0033】
複数のバー103a〜103eは、ヤーンYにウェーブを描かせるように走行させるべく配置されている。このような配置は、ヤーンYを複数のバー103a〜103eに適度な圧の下に接触させるのに有利である。
【0034】
バーの数は図示された例では5であるが、4以下であってもよく、6以上であってもよい。各バーはその軸周りに回転しない固定バーであるが、これらのバーのうちの一ないし少数は軸周りに回転可能であってもよい。
【0035】
好ましくは接触圧ないし接触面積を調節するべく、複数のバー103a〜103eはヤーンYが走行する面に対して垂直に可動とする。全てのバーを可動にする必要はなく、これらから選択された幾つかのバー、例えばバー103b,103dのみを可動として、残りを固定にしてもよい。
【0036】
また複数のバー103a〜103eから選択された一以上に、加振装置を設けてもよい。あるいはこれらのバー103a〜103eとは別に、振動するビーターを設けてもよい。バーまたはビーターによりヤーンYに振動を与えることは、開繊を促すに有利である。
【0037】
ヤーンYに適宜の張力を付与すると、複数のバー103a〜103eに対して適宜の接触圧が生ずる。適度な接触圧の下に、ヤーンYはバー103a〜103eに接しつつ走行する。すると上流側Uから下流側Dへ走行するにつれて開繊が進み、各ヤーンYは次第に幅広となる。適当な条件の下では図示のごとく両端が互いに接し、以って単一の繊維束Sが得られる。
【0038】
あるいは、上述の開繊装置に代えて、ヤーンYに打撃を与える等、他の手段による開繊装置を利用してもよい。
【0039】
図7を
図1と組み合わせて参照するに、開繊部5よりも下流側に結合部7が設けられる。結合部7は概略、未硬化ポリマEを繊維束Sに密着させるローラ23と、未硬化ポリマEを繊維束Sと共に加熱する加熱部25と、未硬化ポリマEを繊維束Sと共に加圧する加圧ローラ27と、冷却部29と、よりなる。
【0040】
未硬化ポリマEは、プリプレグの用途に応じて選択される熱硬化性樹脂の前駆体を含み、例えばそれはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、またはポリイミド樹脂である。未硬化ポリマEは、好ましくはその表面の保護のために一方に剥離紙が貼付されている。また、その反対の面(繊維束Sに密着するべき面)の保護のために適宜の樹脂フィルム、例えばポリエチレンフィルムがその面に貼付されていてもよい。未硬化ポリマEは、ロール状に巻かれた態様で提供され、上下ボビン21a,21bから供給される。樹脂フィルムは、貼付されている場合には、ローラ23に供給される以前に剥離される。
【0041】
ローラ23は、通常、繊維束Sを挟む一対のローラである。上ローラ23の側から未硬化ポリマEがフィードされ、下ローラ23の側からも未硬化ポリマEがフィードされ、繊維束Sとともにこれらが一対のローラ23に挟まれることにより、未硬化ポリマEと繊維束Sとが仮結合する。ローラ23は、未硬化ポリマEの粘性を調整するべく、加熱手段を内蔵してもよい。
【0042】
加熱部25は、セラミックヒータ等の適宜の加熱手段を備え、例えば前述の加熱装置13と同様に一対のプレートヒータよりなる。未硬化ポリマEは繊維束Sと共に上流側Uから下流側Dに向かって走行する間、輻射により加熱される。加熱により未硬化ポリマEが軟化して繊維束Sとの融合が進む。
【0043】
加圧ローラ27は、未硬化ポリマEを繊維束Sと共に挟み、圧力を加えることのできる一対のローラである。加圧ローラ27は、ローラを昇降する油圧装置あるいはボール装置を備え、以って加圧力およびローラ間のギャップを調整することができる。加圧ローラ27は好ましくは未硬化ポリマEを冷却するべく例えば水冷装置を内蔵する。加圧により未硬化ポリマEと繊維束Sとの結合が進み、以ってプリプレグPが製造される。
【0044】
冷却部29は、例えば水冷パイプを内蔵したプレートである。未硬化ポリマEと一体となった繊維束Sは、冷却部29に接しつつ走行し、冷却される。冷却により剥離紙の剥離が促される。
【0045】
ポリマEに剥離紙が貼付されている場合には、これを剥離するべく剥離部31が設けられる。剥離部31は、例えば剥離ローラと、剥離紙を巻き取るボビン33a,33bとを備え、以って剥離紙を未硬化ポリマEから剥離する。
【0046】
プリプレグPの表面を保護するべく、適宜のフィルム、例えばポリエチレンフィルムを改めて貼付してもよい。
図1の例では、フィルムを貼付するべく、ボビン35a,35bと、圧着ローラ37とが図示されている。
【0047】
これらの下流側に配置されてワインダ9が設けられる。ワインダ9によりプリプレグPはロール状に巻き取られる。
【0048】
クリールスタンド3からワインダ9に至るまでの適宜の一以上の箇所に、テンションローラ、ダンサローラやフリクションバーのごとき、ヤーンYの弛みを防止する手段を設けてもよい。
【0049】
図1乃至
図7を参照するに、本実施形態によれば、開繊のプロセスを含むプレプレグ製造方法は以下の通りである。
【0050】
それぞれ強化繊維よりなる複数のヤーンYが、クリールスタンド3より平行に送り出される。並行して、過熱蒸気発生装置71により過熱蒸気SVが生成され、過熱蒸気発生装置71に接続された管55を経由して前処理装置11のチャンバ65に導入される。ヤーンYはチャンバ65において過熱蒸気SVに曝露され、ヤーンYに塗布されたオイル等が除去される。かかる前処理を終えたヤーンYは、開繊装置15においてそれぞれ開繊される。
【0051】
開繊装置15におけるプロセスは、次の通りである。すなわち、開繊を促すべくヤーンYは加熱装置13において加熱され、さらにノズル101a,101bを通ってヤーンYに空気が吹き付けられる。即座にヤーンYはバー103a〜103eの間を通され、ウェーブを描くように走行する。この際、適度な接触圧の下にヤーンYはバーに接しつつ走行し、以ってヤーンYは開繊して単一の繊維束Sが得られる。
【0052】
次いで未硬化ポリマEがローラ23により繊維束Sに密着させられる。繊維束Sととも未硬化ポリマEは、加熱部25により加熱され、加圧ローラ27により圧力を加えられて、互いに結合し、以ってプリプレグPが製造される。
【0053】
冷却部29によりプレプレグPが冷却され、剥離部31により剥離紙が剥離され、次いでワインダ9により巻き上げられて、プリプレグPのロールが得られる。
【0054】
本実施形態によれば、開繊されたヤーンSは、実質的に一方向に揃えられた強化繊維の束Sである。開繊される前のヤーンYに比べ、開繊されたヤーンSの幅の倍率は20程度に達する。先行技術によれば開繊後の幅は数倍の程度であるので、本実施形態は開繊の程度において顕著に優位である。
【0055】
このように高い開繊度が得られる理由は必ずしも明らかでないが、強化繊維の表面のオイル等の物質が関連している。すなわち、強化繊維には、その表面の損傷を防ぐなどの目的で、シリコーンオイルやラテックス等が微量に塗布されている。これらの物質は強化繊維相互の運動を阻害し、以って開繊を妨げると考えられる。ヤーンが過熱蒸気に曝露されることにより、これらの物質が除去され、強化繊維がより自由に運動できるようになり、以って開繊が促進される。
【0056】
オイルを除去するには溶剤を用いるなどの方法が容易に思いつくが、溶剤によってオイルを完全に除去するには長時間の処理が必要であり、さらに乾燥にはより長時間が必要であって、インラインで行う処理としては適切でない。その点、過熱蒸気によればごく短時間で完全にオイルが除去され、乾燥も必要でなく、プリプレグ製造プロセスにおいてインラインで行うに適している。
【0057】
過熱蒸気は高温でありながら酸素のごとき反応性の気体分子を含まないために、オイル等の物質を化学的に変性して強化繊維に固着させてしまうことがない。それゆえオイル等の物質の除去が十分であり、強化繊維の表面は清浄かつ活性な状態となり、強化繊維と未硬化ポリマとの結合性が良好となる。ポリマが硬化した後の状態を光学的に観察すると、強化繊維の近傍においても樹脂の屈折率に急変は認められず、従って繊維とポリマとの結合が良好であることが推定できる。すなわち本実施形態によれば、繊維強化樹脂の製造に好適なプリプレグが得られる。
【0058】
好適な実施形態により本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、当該技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。