特許第5912812号(P5912812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912812
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】繊維製品用殺菌剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/14 20060101AFI20160414BHJP
   A01N 33/24 20060101ALI20160414BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160414BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20160414BHJP
   D06M 13/388 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   A01N31/14
   A01N33/24
   A01P3/00
   D06M13/144
   D06M13/388
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-100884(P2012-100884)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-227257(P2013-227257A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100076680
【弁理士】
【氏名又は名称】溝部 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】古谷 智香
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−254613(JP,A)
【文献】 特開2001−288676(JP,A)
【文献】 特開昭61−255999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 31/14
A01N 33/24
A01P 3/00
D06M 13/144
D06M 13/388
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(A−1)で表される化合物及び(B)下記一般式(B−1)で表される化合物を含有する繊維製品用殺菌剤組成物。
RO−(EO)n−H (A−1)
(式中、Rは炭素数12の直鎖アルキル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは3の整数を示す。)
【化1】
【請求項2】
(A)/(B)の質量比が0.1以上、100以下である、請求項1に記載の繊維製品用殺菌剤組成物。
【請求項3】
(A)成分及び(B)成分を含む全界面活性剤100質量部中の陰イオン界面活性剤及びアルキルアミンオキシド以外の両性界面活性剤の割合が、10質量部以下である、請求項1又は2に記載の繊維製品用殺菌剤組成物。
【請求項4】
(A)成分及び(B)成分を含む全界面活性剤中、陰イオン界面活性剤及びアルキルアミンオキシド以外の両性界面活性剤を含有しない、請求項1〜3の何れか1項に記載の繊維製品用殺菌剤組成物。
【請求項5】
(A)成分及び(B)成分を含む全界面活性剤100質量部中の(A)成分及び(B)成分の合計の割合が80質量部以上である、請求項1〜4の何れか1項に記載の繊維製品用殺菌剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の繊維製品用殺菌剤組成物から調製した、(B)成分を5ppm以上、100,000ppm以下含有する処理液を繊維製品に接触させる、繊維製品の殺菌方法。
【請求項7】
前記処理液が、硬度が8°DH以上、30°DH以下の水と前記組成物とを混合して調製されたものである、請求項に記載の、繊維製品の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維製品用殺菌剤組成物、特には衣類・布巾用殺菌剤組成物である。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の衛生意識の高まりから、身の周りの物を清潔に保つことに関心が高まっている。特に衣類やリネン類や布巾などのキッチン周りの繊維製品は菌が付着していると人体に影響を及ぼす可能性もあるため、繊維製品の除菌・抗菌を行うことが望まれている。また不快な悪臭と微生物の繁殖を関連づけた情報の流布に伴い、繊維製品の除菌・抗菌を行うことで悪臭を除くことにも関心が高くなっている。
【0003】
繊維製品の除菌・抗菌を行う方法として、ジケトン化合物や、陽イオン性有機抗菌剤、トリクロサン及びジクロロサンなどの殺菌剤を含有する処理剤を用いた方法などが知られている。例えば、特許文献1にはトリクロサンを用いて繊維製品を殺菌する方法、特許文献2には第四級アンモニウム塩を用いて殺菌する方法が開示されている。その他に、例えばゲラニオールのような一部の香料成分は殺菌効果があることが知られている。また、塩素系漂白剤も強い酸化力から殺菌剤として使用することができる。また、特許文献3には、炭素数12の直鎖アルキル基と、1つ、2つ又は5つのエチレンオキシ基とを有する化合物がアシネトバクター属菌の殺菌に効果的なことが開示されている。
【0004】
また非特許文献1には炭素数8〜18のアルキル基を有するベタインやジメチルアミンオキサイドが抗菌効果をもつことが開示されており、特にはおよそ炭素数14〜16が有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-115182号公報
【特許文献2】特開2003-306698号公報
【特許文献3】特開2011-162484号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Sept. 2000, 2514-2517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、繊維製品用殺菌剤は、水で希釈して繊維製品に適用されるが、従来使用されている、例えば陽イオン界面活性剤では、希釈する水の硬度の影響を受ける、また効果を発揮するにはある程度の濃度を要することが知られている。そこで、本発明の課題は、希釈に使用する水の硬度の影響を受けず、殺菌効果の高い繊維製品用殺菌剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(A)下記一般式(A−1)で表される化合物〔以下、(A)成分という〕及び(B)下記一般式(B−1)で表される化合物〔以下、(B)成分という〕を含有する繊維製品用殺菌剤組成物に関する。
RO−(EO)n−H (A−1)
(式中、Rは炭素数12の直鎖アルキル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは3〜5の整数を示す。)
【0009】
【化1】
【0010】
また、本発明は、上記本発明の繊維製品用殺菌剤組成物から調製した、(B)成分を5ppm以上、100,000ppm以下含有する処理液を繊維製品に接触させる、繊維製品の殺菌方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、希釈や製剤化に用いる水の硬度の影響を受けずに、優れた殺菌効果が発現する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物の(A)成分は、一般式(A−1)
RO−(EO)n−H (A−1)
で表される化合物である。一般式(A−1)中、Rは炭素数12の直鎖アルキル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは3〜5の整数である。具体的には、炭素数12のアルコールにエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物が挙げられ、炭素数12のアルコールとしてはラウリルアルコールが挙げられる。本発明では、ラウリルアルコール由来の直鎖1級アルコールにエチレンオキシドが3モル付加したもの、すなわちトリオキシエチレンラウリルエーテルが最も殺菌・除菌効果が高い。本発明の(A)成分、なかでもラウリルアルコール由来の直鎖1級アルコールにエチレンオキシドが3モル付加したものは、硬度が8°DH以上、更には10°DH以上、更には30°DH以下、更には20°DH以下の水を用いて希釈した場合において、(B)成分と併用することで優れた殺菌効果を示す。
【0013】
また、本発明の繊維製品用殺菌剤組成物の(B)成分は、一般式(B−1)で表される化合物である。一般式(B−1)中のCH3(CH213−は、炭素数14の直鎖アルキル基である。
【0014】
【化2】
【0015】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、従来から洗浄剤、漂白剤や柔軟剤等の繊維製品処理剤に使用することが知られている他の界面活性剤、具体的には、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン界面活性剤を含有してもよい。アルキルアミンオキシド型の両性界面活性剤や非イオン界面活性剤として、(A)成分及び(B)成分以外の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は好ましくは8〜22、より好ましくは12〜18を有する。本発明では特にことわりが無い限り、アルケニルを省略してアルキルとして表現する。また脂肪酸又は脂肪酸エステルなどの界面活性剤の炭素数は、カルボニル基の炭素原子も数に加えるものとする。
【0016】
陰イオン界面活性剤としてはアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、(ポリ)オキシプロピレン−ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、(ポリ)オキシプロピレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩等が挙げることができる。塩としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を1〜3つ有し、他方は水素原子又はメチル基であるアルカノールアミンの塩を挙げることができる。本発明ではナトリウム、カリウム、又はモノエタノールアミンの塩が好ましい。
【0017】
非イオン界面活性剤としては、(A)成分を除くポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル等の1価アルコール誘導体型非イオン界面活性剤、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド等の多価アルコール誘導体型非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0018】
両性界面活性剤としては、(B)成分を除くアルキルアミンオキシド、アルキルベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、スルホベタイン、イミダゾリニウムベタイン、アミノカルボン酸、アミノプロピオン酸やこれらの塩などを挙げることができる。
【0019】
陽イオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩、脂肪酸アミドアミン塩、モノアルキル型4級アンモニウム塩、ジアルキル型4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩などを挙げることができる。
【0020】
また、洗浄剤組成物として使用するには、洗浄成分として非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0021】
なお、(A)成分及び(B)成分を含む全界面活性剤100質量部中の陰イオン界面活性剤、アルキルアミンオキシド以外の両性界面活性剤の割合は、殺菌効果の観点から、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更により好ましくは含有しないことである。
【0022】
また、(A)成分及び(B)成分を含む全界面活性剤100質量部中の(A)成分及び(B)成分の合計の割合は、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上、更により好ましくは95質量部以上である。
【0023】
本発明の殺菌剤組成物を洗浄剤組成物として用いる場合は、本効果を損なわない限りにおいて、界面活性剤以外にも、周知の洗浄剤成分を含有することができる。例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカノールアミンなどのアルカリ剤、硫酸ナトリウムなどの充填剤、ヒドロキシポリカルボン酸などの水溶性キレート剤、汚れ分散剤や汚れ付着防止剤として知られているポリアクリル酸又はアクリル酸−マレイン酸共重合体などのポリアクリル酸と他のモノマーとの共重合体、ポリエチレングリコールなどの高分子重合体、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼなどの酵素、香料、蛍光染料、青味付け剤、過炭酸ナトリウムや過酸化水素などの漂白剤、漂白活性化剤、プロキセル名で市販されている防菌・防カビ剤、香料などを挙げることができる。
【0024】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物を液体組成物とする場合は、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル、フェノキシエタノール、ジ又はトリエチレングリコールフェニルエーテルなどの水溶性有機溶剤、また残部として脱イオン水を配合することができる。このような液体組成物は、液体洗浄剤として用いることができる。
【0025】
本発明において、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、十分な殺菌効果の観点から、0.1以上、更に0.2以上、更に1以上であることが好ましく、また、100以下、更に20以下、更に10以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、殺菌効果の観点から、25℃におけるpHが2以上、更には3以上が好ましく、また、8以下、更に7以下が好ましい。
【0027】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、十分な繊維製品の殺菌・除菌効果を発揮できる濃度で使用される。本発明の繊維製品用殺菌剤組成物から調製した、(B)成分を5ppm以上、100,000ppm以下含有する処理液を繊維製品に接触させることが好ましい。該処理液は水を含有することが好ましい。本発明の組成物がこのような(B)成分含有量である場合はそのまま使用でき、また、本発明の組成物を水で希釈してこのような処理液を調製してもよい。処理液は、浸漬、塗布、噴霧などにより繊維製品と接触させることができる。すなわち、十分な殺菌効果が得られる濃度で(A)成分及び(B)成分を含有する処理液を用いて直接溶液に繊維製品を浸すようなことを行うことで直接繊維製品を処理してもよく、スプレー噴霧器などで塗布してもよい。また、本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、希釈を前提とした製品に配合してもよい。
【0028】
本発明の組成物を対象となる繊維製品と接触させる方法は限定されないが、繊維製品に本発明の組成物を付着させたり、塗り付けたりすることが可能である。具体的な例としては、本発明の組成物を一定量溜めて真菌が存在し得る繊維製品を浸漬して使用する方法、繊維製品の処理箇所が広範に亘る場合には、前記したようなスプレー噴霧器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりする方法が挙げられる。また、本発明の組成物を流したり、はけ等により塗布してもよい。その他、タオルなどに本発明の組成物を含浸させて、拭いても良い。
【0029】
繊維製品と接触させる時の処理液中の(B)成分の濃度は5ppm以上が好ましく、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは25ppm以上である。上限値は、100,000ppm以下が好ましく、より好ましくは10,000ppm以下である。なお、(A)成分の濃度は、この濃度の(B)成分に対して、(A)/(B)の質量比が0.1以上、100以下となる範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の殺菌方法の一例として、(A)成分、(B)成分及び水を含有する繊維製品用殺菌剤組成物を繊維製品に接触させる繊維製品の殺菌方法であって、前記組成物が(B)成分を5ppm以上、100,000ppm以下で含有し、前記組成物における(A)/(B)の質量比が0.1以上、100以下である、殺菌方法が挙げられる。この方法では、本発明の繊維製品用殺菌剤組成物と、硬度が8°DH以上、更には10°DH以上、また、30°DH以下、更には20°DH以下の水とを混合して調製された処理液を用いることができる。また、この方法で用いる処理液は、pH(好ましくは25℃におけるpH)が、2以上、更には3以上が好ましく、また、8以下、更に7以下が好ましい。
【0031】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、布帛、衣類、布巾、寝具、タオルなど、細菌の繁殖が懸念される種々の繊維製品に使用することができる。
【0032】
本発明の組成物及び方法は、病原性の細菌に対する殺菌性を有することから、一般家庭のみならず医療や介護などに用いる繊維製品の殺菌に利用できる一方で、衣類や洗濯環境にて多く見出され、繊維の生乾き臭や吸湿の際に臭いが再発する再発性臭に関与する原因細菌の殺菌にも使用できるものである。例えばモラクセラ(Moraxella)属細菌、アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌、シェードモナス(Pseudomonas)属細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌、ラルストニア(Ralstonia)属細菌、キュープリアビダス(Cupriavidus)属細菌、サイクロバクター(Psychorobacter)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ブルクホルデリア(Burkholderia)属細菌等が挙げられる。
【0033】
具体的には、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)、モラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)、アシネトバクター・レイディオレジステンス(Acinetobacter radioresistens)、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、エシェリキア・コーライ(Escherichia coli)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、サイクロバクター・パシフィセンシス(Psychrobacter pacificensis)、サイクロバクター・グラシンコラ(Psychrobacter glacincola)、スフィンゴモナス・ヤノイクヤエ(Sphingomonas yanoikuyae)、ラルストニア エスピー(Ralstonia sp.)、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccaromyces cerevisiae)、ロドトルラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)、ロドトルラ・スルーフィエ(Rhodotorula slooffiae)、キュープリアビダス・オキサラティカス(Cupriavidus oxalaticus)及びブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)等が挙げられる。これらのうち、モラクセラ属細菌は生活環境下に多く存在する。モラクセラ属細菌は乾燥耐性があり、繊維に付着した該細菌は、一般的な洗剤で洗濯後、乾燥によって殺菌することはできない。また、衣類に存在する該細菌は、衣類の生乾き臭の一つである4−メチル―3―ヘキセン酸(4M3H)臭を生成することが見い出されている。
【0034】
本発明の組成物や処理方法によると、生乾き臭として非常に閾値が低く除去が困難である4−メチル−3−へキセン酸を生成し、乾燥耐性に優れるモラクセラ属細菌を殺菌することができる。本発明は、繊維製品に付着したモラクセラ属細菌の殺菌に有用である。
【実施例】
【0035】
(1)使用菌種
中古衣類から単離されたMoraxella sp.4-1株を用いた。なお、Moraxella sp.4-1株は、2010年10月14日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター中央第6)に、受託番号FERM P-22030として寄託された。
【0036】
(2)配合成分
(A)成分:トリオキシエチレンラウリルエーテル〔日光ケミカルズ株式会社製〕
(B)成分:一般式(B−1)で表される化合物
【0037】
(3)評価
(3−1)菌懸濁液の調整
供試菌をSCDLP寒天培地に接種、37℃にて1日培養し、これを前培養プレートとした。前培養プレートからコンラージでコロニー表面を掻き取り、イオン交換水に懸濁した菌液を2800rpm、20min、25℃で遠心した後、上澄みを除去後、再びイオン交換水に懸濁した菌液を109cfu/mlに調整した。
【0038】
(3−2)殺菌性評価方法
表1又は表2の繊維製品用殺菌剤組成物10mlに、上記(3−1)で調整した菌懸濁液を0.1mL加え、25℃で15min、150rpmで攪拌後、この混合液を0.1mL採取して0.9mLのLP培地中に加えて十分に混合して繊維製品用殺菌剤組成物の菌への影響を低下させ、次いでこの混合液の原液及びLP培地によって10倍、100倍に希釈した溶液をSCDLP寒天培地で混釈培養した。なお繊維製品用洗浄剤組成物の調製には、滅菌イオン交換水に、塩化カルシウムと塩化マグネシウムとを質量比率7/3で用いて添加した硬度4°DH又は10°DHの水を溶媒として用いた。37℃で24時間培養した後、育成したコロニー数を数える。殺菌剤組成物に代えて、滅菌イオン交換水に、塩化カルシウムと塩化マグネシウムとを質量比率7/3で用いて添加した硬度4°DH又は10°DHの水にて同様の試験を行った結果をブランクとし、前記溶媒と同じ硬度の水によるブランクとの菌数差で殺菌性を評価した。結果を表1、2に示す。この評価結果は、繊維製品に存在する細菌に対する殺菌効果に相関する。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
*殺菌性はブランクとの菌数差であり、7に近いほど殺菌効果が高いことを表す。
【0042】
また実施例の殺菌剤組成物は、任意の中古衣類から単離したアシネトバクター(Acinetobacter)属細菌に対しても殺菌効果を示す。
【0043】
本発明の繊維製品用殺菌剤組成物は、衣類などの繊維製品内に存在する細菌に対して優れた殺菌効果を有する。更に本発明の殺菌効果は水の硬度の影響を受け難いので、本発明の組成物を水道水で希釈して、希釈液に繊維製品を浸漬するような処理方法を行なう場合に、水道水の硬度を考慮する必要が少ないことからも優位な発明である。