(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912821
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】熱回収システム
(51)【国際特許分類】
F02G 5/04 20060101AFI20160414BHJP
F01N 5/02 20060101ALI20160414BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20160414BHJP
H01L 35/30 20060101ALI20160414BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
F02G5/04 L
F01N5/02 Z
F02G5/04 P
F01P3/20 T
H01L35/30
H02N11/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-104843(P2012-104843)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-231411(P2013-231411A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】古川 卓俊
【審査官】
米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−111268(JP,A)
【文献】
特開2011−169237(JP,A)
【文献】
特開2011−214566(JP,A)
【文献】
特開平10−132495(JP,A)
【文献】
特開2009−224684(JP,A)
【文献】
特開2004−360681(JP,A)
【文献】
特開平3−117617(JP,A)
【文献】
特開昭60−59982(JP,A)
【文献】
特開2011−231670(JP,A)
【文献】
特開2010−229878(JP,A)
【文献】
特開昭63−111269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02G 5/04
F01N 5/02
F01P 3/20
H01L 35/30
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの熱回収を行う熱回収システムであって、
シリンダライナの外周面とシリンダブロックとの間に設けられ、その高温側が前記シリンダライナの前記外周面に当接されると共に、その低温側が前記シリンダブロックに当接された熱電素子と、
前記シリンダブロックに設けられ、冷却水を流通させる冷却水流路と、
前記冷却水の温度を制御するための温度制御部と、を備え、
前記熱電素子は、前記シリンダライナの前記外周面の上部以外に設けられており、
前記冷却水流路は、前記シリンダブロックにおいて前記シリンダライナの前記外周面の上部に近接するように設けられていることを特徴とする熱回収システム。
【請求項2】
前記冷却水を放熱させて冷却する放熱部と、
前記冷却水の温度を検出する冷却水温度検出部と、をさらに備え、
前記温度制御部は、前記温度検出部で検出した前記冷却水の温度が所定温度よりも大きい場合、前記冷却水の流量が増加するように当該流量を調整することを特徴とする請求項1記載の熱回収システム。
【請求項3】
前記熱電素子の高温側と低温側との温度差を検出するための温度差検出部をさらに備え、
前記温度制御部は、前記温度差検出部で検出した前記温度差に基づいて、前記熱電素子により生じる電力が所定電力となるように前記冷却水の流量を調整することを特徴とする請求項1又は2記載の熱回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等においてエンジンの排熱を回収して発電する熱回収システムが知られており、例えば下記特許文献1には、熱エネルギーを電気エネルギーに変換するゼーベック効果を利用した熱電素子を備えたものが開示されている。この熱回収装置では、燃焼室の上部に熱電素子を設け、当該熱電素子における高温側と低温側との間の温度差によって電力(起電力)を生じさせ、燃焼室内の熱を回収することが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−111269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年、上記従来の熱回収システムでは、例えばエンジンの高効率化の要求が益々高まっているのに伴い、熱回収量を向上させ、発電量を向上させることが求められている。また、上記従来の熱回収システムでは、例えば燃焼室温度が高温になると、シリンダブロックを流れる冷却水の温度も上昇することから、熱電素子の高温側と低温側との温度差(以下、単に「温度差」ともいう)が小さくなって熱回収量が不十分となる場合があり、この点においても、熱回収量の向上が求められている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、熱回収量を向上させることができる熱回収システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱回収システムは、エンジンの熱回収を行う熱回収システムであって、シリンダライナの外周面とシリンダブロックとの間に設けられ、その高温側がシリンダライナの外周面に当接されると共に、その低温側がシリンダブロックに当接された熱電素子と、シリンダブロックに設けられ、冷却水を流通させる冷却水流路と、冷却水の温度を制御するための温度制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この熱回収システムでは、シリンダライナを熱電素子の高温側熱交換器として機能させると共に、シリンダブロックを発電素子の低温側熱交換器として機能させることができ、よって、熱電素子における温度差を好適に生じさせることができる。加えて、例えば燃焼室温度が高温になった場合でも、温度制御部により冷却水の温度を制御して冷却水温度の上昇を抑制することができ、よって、発電素子において温度差を確実に生じさせることができる。従って、本発明によれば、エンジンからの熱回収量を向上させることが可能となる。
【0008】
また、冷却水を放熱させて冷却する放熱部と、冷却水の温度を検出する冷却水温度検出部と、をさらに備え、温度制御部は、温度検出部で検出した冷却水の温度が所定温度よりも大きい場合、冷却水の流量が増加するように当該流量を調整することが好ましい。これにより、冷却水の温度が所定温度以上の場合に、冷却水の流量を増加させて冷却水の温度を低下させることができ、発電素子の温度差を大きくして熱回収量を向上させることができる。
【0009】
また、熱電素子の高温側と低温側との温度差を検出するための温度差検出部をさらに備え、温度制御部は、温度差検出部で検出した温度差に基づいて、熱電素子により生じる電力が所定電力となるように冷却水の流量を調整することが好ましい。この場合、所望な電力量を熱電素子によって得ることができる。
【0010】
また、熱電素子は、シリンダライナの外周面の上部以外に設けられており、冷却水流路は、シリンダブロックにおいてシリンダライナの外周面の上部に近接するように設けられていてもよい。この場合、熱負荷の高いシリンダライナの上部については、冷却水によって確実に冷却することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱回収量を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る熱回収システムを示す構成図である。
【
図2】
図1の熱回収システムを示す他の構成図である。
【
図3】
図2のIII−III線に沿っての断面図である。
【
図4】
図1の熱回収システムの処理を示すフローチャートである。
【
図5】変形例に係る熱回収システムの
図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1及び
図2は実施形態に係る熱回収システムを示す構成図であり、
図3は
図2のIII−III線に沿っての断面図である。
図1〜3に示すように、本実施形態の熱回収システム100は、例えばハイブリット(hybrid)車等の車両に搭載され、そのエンジン1の排熱を回収して発電するものである。熱回収システム100の対象となるエンジン1としては、種類や仕様は特に限定されず、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の種々のエンジンを適用することができる。この熱回収システム100は、ウォータジャケット(冷却水流路)11、循環流路12、熱電発電モジュール13、及びECU(Electronic Control Unit)14、を備えている。
【0015】
ウォータジャケット11は、シリンダブロック2に設けられた冷却水流路であり、冷却水Wを流通させてエンジン1を冷却する。ここでのウォータジャケット11は、シリンダブロック2において複数のシリンダ3それぞれの周囲に形成されたジャケット部11aが、互いに連通するように構成されている。具体的には、シリンダ3の軸方向(以下、単に「軸方向」という)視において、各ジャケット部11aは、シリンダ3の径方向外側にて当該シリンダ3の形状に倣った形状を有している(
図3参照)。また、エンジン1の側断面視において、各ジャケット部11aは、シリンダブロック2の上端近傍から下端部に亘ってシリンダ3の軸方向に沿って延在している(
図2参照)。
【0016】
循環流路12は、ウォータジャケット11に接続された流路であり、冷却水Wを循環するように流通させる。具体的には、循環流路12は、ウォータジャケット11の軸方向下端側から冷却水Wをウォータジャケット11へ流入させると共に、ウォータジャケット11の軸方向上端側から冷却水Wをウォータジャケット11外へ流出させる。
【0017】
この循環流路12上には、冷却水Wを放熱させて冷却するサブラジエータ(放熱部)15が配設されている。サブラジエータ15は、通常のラジエータ(不図示)とは別途に設けられた熱交換器である。循環流路12におけるウォータジャケット11の上流側には、冷却水Wの温度T
2を検出する温度センサ(冷却水温度検出部)16が設けられている。なお、温度センサ16は、温度T
2を熱電発電モジュール13の低温側温度に対応するものとして検出する。温度センサ16は、検出した温度T
2をECU14へ出力する。
【0018】
また、循環流路12上には、冷却水Wの温度T
2を制御するための温度制御部として、冷却水Wを圧送するポンプ17と、循環流路12の開閉を制御するバルブ18とが配設されている。ポンプ17は、循環流路12においてサブラジエータ15の下流側に設けられている。このポンプ17は、ECU14に接続されており、そのポンプ回転数がECU14により制御される。バルブ18は、循環流路12においてポンプ17の下流側からサブラジエータ15へ冷却水Wの一部を戻す流路19に設けられている。このバルブ18は、ECU14に接続されており、そのバルブ開度がECU14により制御される。
【0019】
熱電発電モジュール13は、ゼーベック効果を利用して高温側(入熱側)と低温側(放熱側)との温度差により電力を生じさせる熱電素子を複数含んでいる。この熱電発電モジュール13は、シリンダライナ4と同軸の円筒状を呈している。熱電発電モジュール13は、シリンダライナ4の外周面4aとシリンダブロック2との間において、これらに当接するように設けられている。すなわち、熱電発電モジュール13の内周面(高温側)はシリンダライナ4に当接され、外周面(低温側)はシリンダブロック2に当接されている。そして、熱電発電モジュール13の径方向外側には、シリンダブロック2を介してウォータジャケット11が位置している。このような熱電発電モジュール13は、燃焼室側である高温側と冷却水W側である低温側との温度差によって熱電発電される。
【0020】
また、熱電発電モジュール13は、インバータ20を介してバッテリ21に電気的に接続されており、これにより、熱電発電モジュール13で発電された電力はインバータ20により逆変換されてバッテリ21に蓄電される。バッテリ21は、HVモータ5に電気的に接続されており、当該HVモータ5へ電力供給可能とされている。この熱電発電モジュール13の内周面には、熱電発電モジュール13の高温側の温度T
1を検出するための温度センサ22が設けられている。温度センサ22は、検出した温度T
1をECU14へ出力する。
【0021】
ECU14は、温度センサ16で検出した冷却水Wの温度T
2が、熱電発電モジュール13の低温側冷却温度閾値(所定温度)T
2Cよりも大きい場合、冷却水Wの流量が増加するようにポンプ17及びバルブ18を制御し、当該流量を調整する。また、ECU14は、熱電発電モジュール13の高温側と低温側との温度差ΔTに基づいてポンプ17及びバルブ18を制御し、熱電発電モジュール13により生じる電力が所定電力となるように冷却水Wの流量を調整する(詳しくは、後述)。
【0022】
このように構成された熱回収システム100では、
図4のフローチャートに示すように、ECU14による制御に応じた次の処理が実行される。すなわち、車両がキーオン状態にされると、まず、エンジン1が運転中か否かが判定される(S1)。ここでは、例えばエンジン回転数が運転判定閾値よりも大きい場合にエンジン運転フラグを立てる。
【0023】
上記S1にてYesの場合、ポンプ17のポンプ回転数Px及びバルブ18のバルブ開度Vxが初期化され、例えばポンプ回転数Px=0及びバルブ開度Vx=0にセットされる(S2)。そして、温度センサ22により熱電発電モジュール13の内周面の温度T
1が検出されると共に、温度センサ16により冷却水Wの温度T
2が検出される(S3)。
【0024】
続いて、熱電発電モジュール13の高温側動作温度閾値T
1mよりも温度T
1が大きく、且つ、熱電発電モジュール13の低温側動作温度閾値T
2mよりも温度T
2が大きいか否かが判定される(S4)。上記S4にてYesの場合、熱電発電モジュール13が発電状態とされる(S5)。このとき、上述したように、熱電発電モジュール13がシリンダライナ4及びシリンダブロック2に当接するよう設けられていることから、シリンダライナ4が熱電発電モジュール13の高温側熱交換器として機能されると共に、シリンダブロック2が熱電発電モジュール13の低温側熱交換器として機能される。他方、上記S4にてNoの場合、上記S1の処理に移行される。
【0025】
上記S5の後、熱電発電モジュール13の低温側冷却温度閾値T
2Cよりも温度T
2が大きいか否かが判定される(S6)。上記S6にてYesの場合、温度T
1から温度T
2が減算されて、熱電発電モジュール13の高温側と低温側との差分である温度差ΔTが算出されて検出される(S7)。
【0026】
続いて、温度差ΔTに関するポンプ回転数Pxのマップに基づいてポンプ回転数Pxが算出されると共に、温度差ΔTに関するバルブ開度Vxのマップに基づいてバルブ開度Vxが算出され、これらポンプ回転数Px及びバルブ開度Vxによってバルブ18及びポンプ17がそれぞれ制御される(S8)。ここで、当該マップは、推定される熱電発電モジュール13の発電量に関連付けられている。これにより、ポンプ回転数Px及びバルブ開度Vxは、温度差ΔTと熱電発電モジュール13の発電量とに応じてECU14により制御されて設定されることとなる。他方、上記S6にてNoの場合、上記S3の処理に移行される。
【0027】
続いて、上記S8の後及び上記S1にてNoの場合、エンジン1が停止しているか否か判定される(S9)。エンジン1が停止している場合において、キーオフ状態のとき、ポンプ17のポンプ回転数Px及びバルブ18のバルブ開度Vxが初期化され、ポンプ回転数Px=0及びバルブ開度Vx=0にセットされた後、処理が終了する一方、キーオフ状態でないとき、上記S1の処理に移行する(S10,S11)。
【0028】
以上、本実施形態では、シリンダライナ4が熱電発電モジュール13の高温側熱交換器として機能されると共に、シリンダブロック2が熱電発電モジュール13の低温側熱交換器として機能されることになる。よって、熱電発電モジュール13の温度差ΔTを好適に生じさせることができる。加えて、上述したように、例えば燃焼室温度(シリンダ3内温度)が高温になった場合でも、冷却水Wの温度を制御して冷却水W温度の上昇を抑制でき、よって、温度差ΔTを確実に生じさせることができる。従って、本実施形態によれば、エンジン1からの熱回収量(回収エネルギー量)を向上させることが可能となる。
【0029】
また、本実施形態では、上述したように、冷却水Wの温度T
2が動作温度閾値(所定温度)T
2m以上の場合、冷却水Wの流量が増加するように当該流量を調整し、冷却水Wの温度T
2を低下させることができる。その結果、冷却効率を向上できると共に、熱電発電モジュール13の温度差ΔTを大きくして熱回収量を一層向上させることができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、上述したように、熱電発電モジュール13の温度差ΔTに基づいたバルブ開度Vx及びポンプ回転数Pxのマップによってバルブ18及びポンプ17を制御でき、このマップを熱電発電モジュール13の発電量に応じて設定することができる。よって、熱電発電による電力が所定電力となるように温度差ΔTに基づき冷却水Wの流量調整でき、その結果、所望な電力量を熱電発電モジュール13によって得ることが可能となる。
【0031】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0032】
図5は、変形例に係る熱回収システムの
図2に対応する断面図である。
図5に示すように、熱電発電モジュール13は、シリンダライナ4の外周面4aの上部以外に設けられていてもよい。またこの場合、ウォータジャケット11は、シリンダブロック2においてシリンダライナ4の外周面4aの上部に対し、径方向外側に近接するように設けられていてもよい。これにより、熱負荷の高いシリンダライナ4の上部については、冷却水Wによって直接的且つ確実に冷却することができる。
【0033】
また、上記実施形態では、熱回収システム100を例えばハイブリット車等の車両に搭載したが、これに限定されるものではなく、種々の適用対象に対しエンジンの熱回収を行うものとして搭載することができる。また、上記実施形態では、本発明を熱回収システムとして説明したが、本発明は、エンジン1の熱回収を行う熱回収方法として捉えることもできる。
【0034】
また、上記実施形態では、ポンプ回転数Pxを制御パラメータとして用いてポンプ17を制御したが、ポンプ流量を用いても勿論よい。ちなみに、上記実施形態では、温度センサ16が冷却水温度検出部に対応し、温度センサ16,22が温度差検出部に対応する。
【符号の説明】
【0035】
1…エンジン、2…シリンダブロック、4…シリンダライナ、4a…外周面、12…ウォータジャケット(冷却水流路)、13…熱電発電モジュール(熱電素子)、14…ECU(温度制御部)、15…サブラジエータ(放熱部)、16…温度センサ(冷却水温度検出部,温度差検出部)、17…ポンプ(温度制御部)、18…バルブ(温度制御部)、22…温度センサ(温度差検出部)、100…熱回収システム。