(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シールケース側に設けられた第1密封環及びシールケースを洞貫する回転軸に設けられた第2密封環の少なくとも一方を周方向に複数の円弧状セグメントに分割された分割型密封環となして、この分割型密封環を、シールケース又は回転軸に軸線方向に移動可能な状態又は移動不能な状態で保持されたリテーナリングにこれに軸線方向に締め付け自在に取り付けた金属製の緊縛リングによって円環状に緊縛された状態で固定保持させ、第1密封環と第2密封環との対向端面である密封端面の相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域たる被密封流体領域とその外周側領域たる非密封流体領域とを遮蔽シールするように構成された分割型メカニカルシールにおいて、
分割型密封環が、密封端面を形成した先端リング部と緊縛リングにより緊縛される中間リング部と弾性的に拡径自在な保持リングにより緊縛される基端リング部とからなるものであって、基端リング部を緊縛した保持リングにより円環状のセグメント集合形態に保持された状態で、リテーナリングに締め付けた緊縛リングによりリテーナリングに固定されたものであり、
分割型密封環の基端リング部を中間リング部より小径となし、中間リング部の基端面における外周側部分を軸線方向に直交する円環状面である保持リング係止面に構成して、保持リングが当該保持リング係止面に衝合した状態で基端リング部に嵌合されていることを特徴とする分割型メカニカルシール。
【背景技術】
【0002】
この種の分割型メカニカルシールは、一般に、第1及び第2密封環をシールケース内に配置して、両密封環の対向端面たる密封端面の相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の外周側領域たる被密封流体領域とその内周側領域たる非密封流体領域とを遮蔽するように構成したインサイド型メカニカルシール(例えば、特許文献1の
図2を参照)と、第2密封環をシールケース外の非密封流体領域に配置して、両密封環の対向端面たる密封端面の相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域たる被密封流体領域とその外周側領域たる非密封流体領域とを遮蔽するように構成したアウトサイド型メカニカルシール(例えば、特許文献2の
図2を参照)とに大別される。このような分割型メカニカルシールは、これが大型のものである場合にもメンテナンス作業を含む分解,組立作業を容易に行うことができ、大型回転機器の軸封手段として好適するものである。
【0003】
しかし、インサイド型メカニカルシールでは、シールケースを分割型のものとしておく必要があり、しかもシールケースには被密封流体による内圧が作用することから、アウトサイド型メカニカルシールに比して、シールケースが複雑化,大型化することになり、シールケースの分解,組立を含むメンテナンス作業に多大な労力を必要としていた。
【0004】
一方、アウトサイド型メカニカルシールでは、シールケースを非分割型のものとできるから、メンテナンス作業も分割型密封環のみの分解,組立で済み、メンテナンス作業に要する労力負担が小さく、分割型メカニカルシールとして実用性に優れる。
【0005】
すなわち、従来のアウトサイド型メカニカルシールにあっては、例えば、特許文献2の
図2〜
図4に示す如く、シールケース側の第1密封環を周方向に分割して複数の円弧状セグメントに分離構成した分割型密封環となし、緊縛リングを、これに分割型密封環を内嵌させた状態で、シールケースに保持したリテーナリングに軸線方向に締め付けることにより、分割型密封環を円弧状セグメントの端面同士が衝合する円環状形態に緊縛固定するように構成されており、緊縛リングのリテーナリングへの脱着により分割型密封環の組立,分解を容易に行うことができるように工夫されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来のアウトサイド型メカニカルシール(以下「従来シール」という)にあっては、分割型密封環をその分割面が正確に衝合した適正形態(円弧状セグメントの端面同士が正確に衝合した円環状形態)に組立てることが困難であり、分割型密封環が適正形態に組立てられていないことにより密封端面からの漏れや密封端面の異常摩耗が生じる等、良好なシール機能を発揮できない場合があった。
【0008】
すなわち、分割型密封環の組立作業は、上記した如く、緊縛リングをこれに分割型密封環を内嵌させた状態でリテーナリングへと締め付けることにより行われるが、緊縛リングのリテーナリングへの締め付けがほぼ完了して分割型密封環が緊縛リングによって円環状形態に保持されるようになる段階(以下「最終組立段階」という)に至るまでは、複数の円弧状セグメントをその端面同士が衝合する円環状の集合形態に人為的に保持させておく必要がある。しかし、複数の円弧状セグメントをこのような円環状の集合形態に人為的に保持させておく作業(以下「セグメント保持作業」という)はかなりの熟練度を要するものであり、作業者が未熟練者である場合には勿論、熟練者である場合にも、最終組立段階に至るまでに円弧状セグメントの端面間に軸線方向及び/又は径方向にズレが生じ易く、分割型密封環をその分割面が正確に衝合した適正形態に組み立てることが困難であった。特に、当該メカニカルシールが回転軸を水平とする横型回転機器(横軸型ポンプ等)に装備されるものである場合や大型(大径)の分割型密封環を使用するものである場合には、セグメント保持作業を適正に行うことが極めて困難であり、分割型密封環が適正形態に組み立てられず再組立を余議なくされる等、分割型密封環の組立作業を効率よく行い得ない。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、セグメント保持作業を容易且つ適正に行うことができ、分割型密封環を適正形態に効率よく組み立てることができる分割型メカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シールケース側に設けられた第1密封環及びシールケースを洞貫する回転軸に設けられた第2密封環の少なくとも一方を周方向に複数の円弧状セグメントに分割された分割型密封環となして、この分割型密封環を、シールケース又は回転軸に軸線方向に移動可能な状態又は移動不能な状態で保持されたリテーナリングにこれに軸線方向に締め付け自在に取り付けた金属製の緊縛リングによって円環状に緊縛された状態で固定保持させ、第1密封環と第2密封環との対向端面である密封端面の相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域たる被密封流体領域とその外周側領域たる非密封流体領域とを遮蔽シールするように構成された分割型メカニカルシールにおいて、上記の目的を達成すべく、特に、分割型密封環
が、密封端面を形成した先端リング部と緊縛リングにより緊縛される中間リング部と弾性的に拡径自在な保持リングにより緊縛される基端リング部とからなるものであって、基端リング部を
緊縛した保持リン
グにより円環状
のセグメント集合形態
に保持された状態で
、リテーナリングに締め付け
た緊縛リングによりリテーナリングに固定
されたものであり、分割型密封環の基端リング部を中間リング部より小径となし、中間リング部の基端面における外周側部分を軸線方向に直交する円環状面である保持リング係止面に構成して、保持リングが当該保持リング係止面に衝合した状態で基端リング部に嵌合され
ていることを特徴とする分割型メカニカルシールを提案するものである。
また、本発明は、シールケース側に設けられた第1密封環及びシールケースを洞貫する回転軸に設けられた第2密封環の少なくとも一方を周方向に複数の円弧状セグメントに分割された分割型密封環となして、この分割型密封環を、シールケース又は回転軸に軸線方向に移動可能な状態又は移動不能な状態で保持されたリテーナリングにこれに軸線方向に締め付け自在に取り付けた金属製の緊縛リングによって円環状に緊縛された状態で固定保持させ、第1密封環と第2密封環との対向端面である密封端面の相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域たる被密封流体領域とその外周側領域たる非密封流体領域とを遮蔽シールするように構成された分割型メカニカルシールにおいて、上記の目的を達成すべく、特に、分割型密封環が、密封端面を形成した先端リング部と緊縛リングにより緊縛される中間リング部と弾性的に拡径自在な保持リングにより緊縛される基端リング部とからなるものであって、基端リング部を緊縛した保持リングにより円環状のセグメント集合形態に保持された状態で、リテーナリングに締め付けた緊縛リングによりリテーナリングに固定されたものであり、分割型密封環の基端リング部の外周面に、前記セグメント集合形態において保持リングが当該密封環の軸線方向に相対移動不能に係合保持する環状の凹溝が形成されていることを特徴とする分割型メカニカルシールを提供するものである。
【0011】
かかる
各分割型メカニカルシールの好ましい実施の形態にあっては、分割型密封環の中間リング部とこれに外嵌させた緊縛リングとの対向周面が、緊縛リングのリテーナリングへの締め付け方向に漸次拡大する截頭円錐状のテーパ面に構成される。また
、保持リングとしてはガータスプリング又はOリングを使用することが好ましい。さらに、分割型密封環の本体部と緊縛リングとの対向周面間には、当該本体部の全周を囲繞する弾性部材を介装しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分割型メカニカルシールにあっては、複数の円弧状セグメントを保持リングによって円環状の集合形態に保持させた状態で分割型密封環の組立作業を開始することができるから、最終組立段階(緊縛リングのリテーナリングへの締め付けがほぼ完了して分割型密封環が緊縛リングによって円環状形態に保持されるようになる段階)に至るまでのセグメント保持作業において、複数の円弧状セグメントを上記集合形態に人為的に保持させておく必要がない。このため、セグメント保持作業の人為的作業部分が保持リングによって一体にまとめられたセグメント集合物を保持するものに過ぎず、セグメント保持作業を格別の熟練度を必要とすることなく容易且つ適正に行うことができ、分割型密封環をその分割面(円弧状セグメントの端面)に軸線方向及び/又は径方向のズレを生じることなく適正形態に容易且つ効率よく組立てることができる。また、分割型密封環を分解する場合において緊縛リングによる複数の円弧状セグメントの緊縛を解除したときにも、これらの円弧状セグメントが保持リングにより集合形態に保持されているから、分割型密封環の分解作業を安全且つ効率よく行うことができる。したがって、本発明によれば、当該メカニカルシールが回転軸を水平とする横型回転機器(横軸型ポンプ等)に装備されるものである場合や大型(大径)の分割型密封環を使用するものである場合にも、メンテナンス作業を含む分解,組立作業を容易且つ効率よく行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は本発明に係る分割型メカニカルシールの一例を示す縦断側面図であり、
図2は
図1の要部を拡大して示す詳細図であり、
図3は
図1のIII−III線に沿う縦断背面図であり、
図4は
図1のIV−IV線に沿う縦断正面図である。なお、以下の説明において、前後とは
図1及び
図2における左右を意味するものとする。
【0015】
図1に示す分割型メカニカルシールは、横型回転機器(横軸型ポンプ等)のハウジング(ポンプハウジング等)1に取り付けられたシールケース2と、シールケース2に第1リテーナリング3及び第1緊縛リング4を介して軸線方向(前後方向)に移動自在に且つ相対回転不能に保持された第1密封環5と、当該回転機器の水平な回転軸(インペラ軸等)6に第2リテーナリング7及び第2緊縛リング8を介して固定された第2密封環9と、シールケース2と第1リテーナリング3との間に介装されて、第1密封環5を第2密封環9に押圧接触させるべく軸線方向へと附勢するスプリング部材10とを具備して、両密封環5,9の対向端面たる密封端面5a,9aの相対回転摺接作用により、その相対回転摺接部分5a,9aの内周側領域である被密封流体領域(ハウジング1内に連通する領域)Aとその外周側領域である非密封流体領域(ハウジング1外の領域であって、この例では大気領域)Bとを遮蔽シールするように構成された端面接触型のアウトサイド型メカニカルシールである。
【0016】
シールケース2は、
図1に示す如く、回転軸6より大径の内周部2aを有する断面L字状の金属製の非分割の円環状体であり、回転軸6が同心状に貫通する状態でハウジング1に取り付けられている。
【0017】
第1密封環5は、
図1及び
図2に示す如く、密封端面5aを形成した先端リング部5Aと第1緊縛リング4により緊縛される中間リング部5Bと第1保持リング11により緊縛される基端リング部5Cとからなる円環状体であって、
図1及び
図3に示す如く、周方向に複数(この例では2個)の円弧状セグメント51,52に分割された分割型密封環に構成されている。また、第2密封環9も、第1密封環5と同様の分割型密封環に構成されている。すなわち、第2密封環9は、
図1及び
図2に示す如く、密封端面9aを形成した先端リング部9Aと第2緊縛リング8により緊縛される中間リング部9Bと第2保持リング12により緊縛される基端リング部9Cとからなる円環状体であって、
図1及び
図3に示す如く、周方向に複数(この例では2個)の円弧状セグメント91,92に分割された分割型密封環に構成されている。
【0018】
各先端リング部5A,9Aの先端面は、
図2に示す如く、軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面5a,9aに構成されている。各中間リング部5B,9Bの外周面には、
図2に示す如く、基端方向(後方)に漸次拡径する截頭円錐状のテーパ面5b,9bが形成されている。各基端リング部5C,9Cは、
図2に示す如く、中間リング部5B,9Bの基端の外周面より小径のものであって基端面を軸線に直交する保持面5d,9dに構成した円筒形状をなす。各中間リング部5B,9Bの外周面と各基端リング部5C,9Cの外周面とは当該中間リング部5B,9Bの基端面における外周部分で連結されているが、この基端面の外周部分は、
図2に示す如く、軸線に直交する円環状面である保持リング係止面5e,9eに構成されている。
【0019】
なお、第1及び第2密封環5,9は、シール条件等に応じて、両密封環共に炭化珪素等のセラミックスや超合金等の硬質材で構成されるか、或いは一方の密封環を炭化珪素等のセラミックスや超硬合金等の硬質材で構成すると共に他方の密封環をこれより軟質のカーボン等で構成する。この例では、両密封環5,9を炭化珪素等のセラミックスで構成してある。
【0020】
第1リテーナリング3は、
図1に示す如く、筒状の保持部3aとその先端部に一体形成された環状のフランジ部3bとからなる金属製の非分割の円筒体であり、保持部3aをシールケース2の内周部2aにOリング13を介して嵌合させることにより、シールケース2に軸線方向移動可能に保持されている。第1リテーナリング3は、フランジ部3bの外周側に形成した係合孔3cにシールケース2に突設したドライブピン14を係合させることにより、所定範囲での軸線方向移動を許容された状態でシールケース2に対する相対回転を阻止されている。第1リテーナリング3の先端部における内周側部分つまりフランジ部3bの先端部における内周側部分には環状突起3dが形成されており、この環状突起3dの先端面は軸線に直交する受止保持面3eに構成されていて、第1密封環5の基端面(基端リング部5Cの基端面)たる保持面5dを軸線方向に受け止め保持するようになっている。なお、受止保持面3eにはOリング15が係合保持されていて、受止保持面3eと第1密封環5の保持面5dとの間を二次シールするようになっている。また、受止保持面3eには、Oリング15の外周側領域に配して、複数本(1本のみ図示)のドライブピン16が突設されていて、各ドライブピン16を第1密封環5に形成した係合凹部5fに係合させることにより、第1密封環5の第1リテーナリング3に対する相対回転を阻止するように工夫されている。また、環状突起3dの外径は、
図2に示す如く、第1密封環5の最大外径(中間リング部5Bの基端面(保持リング係止面)5eの外径)より大きく設定されている。
【0021】
一方、第2リテーナリング7は周方向に2分割された金属製の円筒体であり、
図1に示す如く、締結ボルト17によりリング状に締結されて回転軸6に嵌合すると共に、当該リテーナリング7に螺合させた適当数(1個のみ図示)のセットスクリュー18を回転軸6へと締め付けることにより、回転軸6に固定されている。第2リテーナリング7の先端部における内周側部分には環状突起7aが形成されている。この環状突起7aの先端面は軸線に直交する受止保持面7bに構成されていて、第2密封環9の基端面(基端リング部9Cの基端面)たる保持面9dを軸線方向に受け止め保持するようになっている。なお、受止保持面7bにはOリング19が係合保持されていて、受止保持面7bと第2密封環9の保持面9dとの間を二次シールするようになっている。また、受止保持面7bには、Oリング19の外周側領域に配して、複数本(1本のみ図示)のドライブピン20が突設されていて、各ドライブピン20を第2密封環9に形成した係合凹部9fに係合させることにより、第2密封環9の第2リテーナ7に対する相対回転を阻止するように工夫されている。また、環状突起7aの外径は、
図2に示す如く、第2密封環9の最大外径(中間リング部9Bの基端面(保持リング係止面)9eの外径)より大きく設定されている。
【0022】
各緊縛リング4,8は、
図1に示す如く、環状のフランジ部4a,8aとその先端内周部から突出する筒状の緊縛部4b,8bとからなる金属製の非分割の円筒体である。各フランジ部4a,8aの内径は一定であり、当該フランジ部4a,8aをリテーナリング3,7の環状突起3d,7aに軸線方向移動可能に嵌合保持させうるように設定されている。各緊縛部4b,8bの内周面は、フランジ部4a,8aの内周面より小径であって、密封環5,9の外周テーパ面5b,9bに対応するテーパ面、つまり基端方向に漸次拡径する截頭円錐状のテーパ面4c,8cに構成されている。第1緊縛リング4は、
図1に示す如く、フランジ部4aを第1リテーナリング3の環状突起3dに嵌合させると共にフランジ部4aに挿通させた適当数(1個のみ図示)の締付ボルト21を第1リテーナリング3のフランジ部3bに螺合させることにより、第1リテーナリング3に軸線方向に締め付け自在に取り付けられている。また、第2緊縛リング8は、
図1に示す如く、フランジ部8aを第2リテーナリング7の環状突起7aに嵌合させると共に第2リテーナリング7に挿通させた適当数(1個のみ図示)の締付ボルト22をフランジ部8aに螺合させることにより、第2リテーナリング7に軸線方向に締め付け自在に取り付けられている。
【0023】
スプリング部材10は、
図1に示す如く、第1リテーナリング3のフランジ部3bに形成した貫通孔3fに軸線方向移動可能に嵌挿保持されたスプリング受体23とシールケース2との間に介装された複数(1個のみ図示)のコイルスプリングで構成されている。このスプリング部材10による第1密封環5の第2密封環9への押圧接触力は、第1緊縛リング4に貫通状に螺合されて貫通孔3fに突出する調整ボルト24を螺送操作することにより、任意に調整することができる。
【0024】
各保持リング11,12は、
図1〜
図3に示す如く、径方向の負荷が作用しない自然状態においては内径が密封環5,9の基端リング部5C,9Cの外径より小さい弾性リングであって、自然状態から当該基端リング部5C,9Cに嵌合させうる程度以上に拡径(弾性変形)できるものであり、一般にガータスプリング又はOリングが使用される。この例では、各保持リング11,12としてガータスプリングが使用されている。
【0025】
而して、第1保持リング11を自然形態から弾性変形(拡径)させて第1密封環5の基端リング部5Cの外周面に嵌合させることにより、第1密封環5をその分割面51a,52aが適正に衝合した円環状形態つまり円弧状セグメント51,52の端面51a,52a同士が軸線方向及び径方向にズレを生じることなく衝合した円環状のセグメント集合形態(
図3参照)に緊縛保持させておくことができる。第2保持リング12についても、同様に、第2保持リング12を自然形態から拡径させて第2密封環9の基端リング部9Cの外周面に嵌合させることにより、第2密封環9をその分割面91a,92aが適正に衝合した円環状のセグメント集合形態(
図4参照)に緊縛保持させておくことができる。ところで、上記セグメント集合形態における円弧状セグメント51,52又は91,92の径方向のズレは円弧状セグメント51,52又は91,92への保持リング11,12の嵌合力(縮径力)によって阻止され、円弧状セグメント51,52又は91,92の軸線方向のズレは円弧状セグメント51,52又は91,92と保持リング11,12との摩擦係合力(軸線方向における相対移動を阻止する摩擦係合力)によって阻止される。また、各保持リング11,12は、
図2に示す如く、保持リング係止面5e,9eに衝合させた状態で基端リング部5C,9Cの外周面に嵌合させておくことが望ましく、このようにしておくことにより、一方の円弧状セグメント51,91(又は52,92)への保持リング11,12の摩擦係合力と他方の円弧状セグメント52,92(又は51,91)の保持リング係止面5e,9eへの保持リング11,12の衝合力とによって、円弧状セグメント51,52又は91,92の軸線方向へのズレがより確実に防止されることになる。
【0026】
なお、各保持リング11,12による基端リング部5C,9Cの緊縛保持力は、自然形態における保持リング11,12の内径と基端リング部5C,9Cに嵌合させたときの保持リング11,12の内径つまり基端リング部5C,9Cの外径との寸法差に比例し、この寸法差が大きくなるに従い当該緊縛保持力も大きくなるが、保持リング11,12として使用するガータスプリングの選定に当たっては、保持リング11,12による分割型密封環5,9の緊縛保持作業(保持リング11,12を自然形態から拡径して基端リング部5C,9Cに嵌合させる作業)をも考慮しておく必要がある。すなわち、自然形態における内径が基端リング部5C,9Cの外径に比して必要以上に小さな保持リング(ガータスプリング)11,12を使用すると、大きな緊縛保持力が得られるものの、基端リング部5C,9Cに嵌合させうる程度に拡径することが困難となる。逆に、自然形態における内径が基端リング部5C,9Cの外径に比して必要以上に大きな保持リング(ガータスプリング)11,12を使用すると、基端リング部5C,9Cに嵌合させうる程度にまで容易に拡径することができる反面、分割型密封環5,9を上記セグメント集合形態を維持するために必要且つ十分な緊縛保持力が得ることができない。
【0027】
以上のように構成された分割型メカニカルシールにあっては、分割型密封環である第1及び第2密封環5,9を次のように組み立てることができる。
【0028】
すなわち、第1密封環5については、まず、分割面つまり円弧状セグメント51,52の端面51a,52a同士を衝合させた上、ガータスプリング11を中間リング部5Bの基端面である保持リング係止面5eに衝合させた状態で基端リング部5Cに嵌合させることにより、円弧状セグメント51,52をその端面51a,52aが軸線方向及び径方向にズレを生じない円環状をなして集合するセグメント集合形態に保持する(
図2及び
図3参照)。そして、このようにガータスプリング11によりセグメント集合形態に緊縛保持された分割型密封環5を第1緊縛リング4に嵌合させると共に、第1緊縛リング4を、そのフランジ部4aを第1リテーナリング3の環状突起3dに嵌合させた状態で、締付ボルト21により第1リテーナリング3のフランジ部3bに取り付ける。この段階(以下「緊縛開始段階」という)では、分割型密封環5は緊縛リング4により緊縛されていないが、分割型密封環5がその基端リング部5Cに嵌合させたガータスプリング11により円環状のセグメント集合形態に緊縛保持されているから、第1緊縛リング4が第1リテーナリング3に取り付けられた緊縛開始段階では、分割密封環5がガータスプリング11により分離不能な一体集合物として第1緊縛リング4に内嵌保持されることになり、円弧状セグメント51,52を円環状形態に保持しておく人為的なセグメント保持作業は必要とされない。すなわち、セグメント保持作業は緊縛開始段階に至るまでは必要とされるが、その後においては必要とされず、セグメント保持作業の人的作業部分が大幅に減少すると共に、セグメント保持作業中の第1及び第2密封環5,9を損傷させるリスクを低減することが可能となる。
【0029】
次いで、この状態から締付ボルト21により第1緊縛リング4を第1リテーナリング3へと締付けることにより、第1緊縛リング4に形成されたテーパ面4cと分割型密封環5の中間リング部5Bのテーパ面5bとが係合して、当該中間リング部5Bが第1緊縛リング4により緊縛されていき、分割型密封環5の基端面(基端リング部5Cの基端面たる保持面)5dが第1リテーナリング3の受止保持面3eに衝合した時点で第1緊縛リング4の締め付けが完了し、第1密封環5が第1緊縛リング4により第1リテーナリング3に固定保持されて当該密封環5の組立が完了する。
【0030】
このとき、分割密封環5の分割面51a,52aはガータスプリング11により緊縛保持された状態で第1緊縛リング4による緊縛作用を受けるため、緊縛開始段階から最終組立段階(緊縛リングのリテーナリングへの締め付けがほぼ完了して分割型密封環が緊縛リングによって円環状形態に保持されるようになる段階)を経て第1緊縛リング4による分割密封環5の緊縛が完了する組立完了に至る間において、分割密封環5の分割面51a,52aが軸線方向及び/径方向にズレを生じるようなことがなく、分割密封環5を適正形態に組み立てることができる。
【0031】
したがって、第1密封環5の組立を、格別の熟練度を必要とすることなく安全に、しかも容易且つ効率よく行うことができる。
【0032】
また、第2密封環9の組立は、第1密封環5の組立に引き続いて行われるが、第2密封環9の組立も上記した第1密封環5の組立と同様の手順で行われる。すなわち、第2密封環9をガータスプリング12で円環状のセグメント集合形態に緊縛保持した上、これを第2緊縛リング8に内嵌保持させる共に第2緊縛リング8を締付ボルト22により第2リテーナリング7に締付けることにより、第2密封環9がその分割面91a,92aが軸線方向及び/径方向にズレを生じない適正形態に組み立てられる。この場合も、人為的なセグメント保持作業は、第2緊縛リング8が第2リテーナリング7に取り付けられた緊縛開始段階以降は必要とされず、第2密封環9の組立を格別の熟練度を必要とすることなく安全に、しかも容易且つ効率よく行うことができる。
【0033】
また、分割型密封環5,9を分解する場合において緊縛リング4,8による緊縛を解除したときにも、ガータスプリング11,12による緊縛状態が保持されていて、分割型密封環5,9が円弧状セグメント51,52又は91,92に分離することがないから、分割型密封環5,9の分解作業を安全且つ効率よく行うことができる。したがって、当該メカニカルシールが回転軸6を水平とする横型回転機器(横軸型ポンプ等)に装備されるものである場合や大型(大径)の分割型密封環5,9を使用するものである場合にも、メンテナンス作業を含む分解,組立作業を安全に、しかも容易且つ効率よく行うことができる。
【0034】
ところで、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲で適宜に改良,変更することができる。
【0035】
例えば、上記した例では、分割型密封環5,9を金属製の緊縛リング4,5によって直接的に緊縛させるようにしたが、分割型密封環5,9を緊縛リング4,5との間にシート状の弾性部材を介在させて間接的に緊縛させるように構成してもよい。すなわち、
図5は本発明に係る分割型メカニカルシールの変形例を示す縦断側面図であり、
図6は
図5の要部を拡大して示す詳細図であり、
図7は
図5のVII−VII線に沿う要部の縦断背面図であり、
図8は
図5のVIII−VIII線に沿う要部の縦断正面図であるが、
図5〜
図8に示す分割型メカニカルシールにあっては、分割型密封環5,9の中間リング部5B,9Bと緊縛リング4,8との対向周面間に、当該中間リング部5B,9Bの全周を囲繞するシート状の弾性部材(例えば、ゴム等の非圧縮性弾性材からなるシート)25,26を介装してある。このようにすれば、緊縛リング4,8による緊縛力に過不足がある場合や分割型密封環5,9に作用する内圧が高い場合にも、分割型密封環5,9が適正な円環状形態に保持されることになり、円弧状セグメント51,52又は91,92が変形して密封端面5a,9aに歪を生じる等の問題を生じることがない。また、分割型密封環5,9と緊縛リング4,8との摩擦係合力が増大して、分割型密封環5,9とリテーナリング3,7との相対回転を阻止するためのドライブピン16,20及びこれが係合する係合凹部5f,9fの形成を排除することも可能となる。
【0036】
また、上記した例では、円弧状セグメント51,52又は91,92とその基端リング部5C,9Cに嵌合させた保持リング11,12との軸線方向における相対移動を、保持リング11,12と中間リング部5B,9Bとの摩擦係合力に加えて保持リング11,12を保持リング係止面5e,9eに衝合させることによる係止力によって阻止するようにしたが、
図9に示す如く、分割型密封環5,9の基端リング部5C,9Cの外周面に、前記セグメント集合形態において保持リング11,12を当該密封環5,9の軸線方向に相対移動不能に係合保持する環状の凹溝5g,9gを形成しておいてもよい。このようにすれば、上記相対移動を効果的に阻止することができ、分割型密封環5,9の組立時における分割面のズレ、特に軸線方向のズレをより確実に防止することができる。
【0037】
また、保持リング11,12としては上記したガータスプリングの他、Oリングを使用することができる。保持リング11,12としてOリングを使用する場合には、Oリングの一箇所を切離して、この切離箇所を分割密封環5,9の緊縛時に接着剤等により連結するようにすることも可能である。
【0038】
また、本発明は、第1及び第2密封環5,9の何れか一方のみを分割型密封環とするアウトサイド型メカニカルシールにも適用することができる。また、上記した例では、密封環5,9及び第2リテーナ7を除いて非分割構造としたが、これら以外のメカニカルシール構成部材(シールケース2、第1リテーナリング3及び緊縛リング4,5等)についても周方向に複数部分に分割した分割構造としておくことも可能である。