特許第5912884号(P5912884)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5912884等価回路解析装置および等価回路解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912884
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】等価回路解析装置および等価回路解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20160414BHJP
   G01R 31/36 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   G01R27/02 A
   G01R31/36 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-126815(P2012-126815)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-250223(P2013-250223A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】春原 雅志
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−86451(JP,A)
【文献】 特開2000−329720(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0257681(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のインピーダンスについての周波数特性に基づいて各周波数での前記インピーダンスの実数成分値を横軸の座標とし、かつ当該インピーダンスの虚数成分値を縦軸の座標とするプロットで構成されるナイキストプロット曲線を作成するプロット曲線作成処理と、前記作成されたナイキストプロット曲線における円弧状領域に含まれる前記プロットの前記実数成分値および前記虚数成分値に基づいて当該円弧状領域に対応する半円をカーブフィッティング法によって算出するフィッティング処理と、前記算出した半円の前記横軸との2つの接点での前記各実数成分値と当該算出した半円の当該半円の中心を通過する前記縦軸と平行な直線との交点での前記周波数とに基づいて前記測定対象の等価回路を構成する容量成分を算出する容量算出処理とを実行する処理部を備え、
前記処理部は、前記プロットのうちの前記実数成分値が前記交点での前記実数成分値の前後となる一対の特定プロットでの前記周波数の差分値を当該一対の特定プロットでの前記実数成分値の差分値で除算して単位実数成分値当たりの周波数変化量を算出すると共に、当該一対の特定プロットのうちのいずれか一方の特定プロットでの前記実数成分値および前記交点での前記実数成分値の差分値に前記周波数変化量を乗算して得られる乗算値と、当該一方の特定プロットでの前記周波数とに基づいて前記交点での前記周波数を算出する周波数算出処理を実行する等価回路解析装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記周波数特性における周波数軸が対数軸のときには、前記周波数算出処理において、前記一対の特定プロットでの前記周波数を真数/対数変換した変換値の差分値を前記周波数の差分値として前記乗算値を算出すると共に、当該一対の特定プロットについての前記変換値のうちの前記一方の特定プロットについての変換値と当該算出した乗算値との加算値を対数/真数変換して前記交点での前記周波数を算出する請求項1記載の等価回路解析装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記プロットのうちの前記実数成分値が前記交点での前記実数成分値の直前および直後となる一対のプロットを前記一対の特定プロットとして前記周波数算出処理を実行する請求項1または2記載の等価回路解析装置。
【請求項4】
測定対象のインピーダンスについての周波数特性に基づいて各周波数での前記インピーダンスの実数成分値を横軸の座標とし、かつ当該インピーダンスの虚数成分値を縦軸の座標とするプロットで構成されるナイキストプロット曲線を作成するプロット曲線作成処理と、前記作成されたナイキストプロット曲線における円弧状領域に含まれる前記プロットの前記実数成分値および前記虚数成分値に基づいて当該円弧状領域に対応する半円をカーブフィッティング法によって算出するフィッティング処理と、前記算出した半円の前記横軸との2つの接点での前記各実数成分値と当該算出した半円の当該半円の中心を通過する前記縦軸と平行な直線との交点での前記周波数とに基づいて前記測定対象の等価回路を構成する容量成分を算出する容量算出処理とを実行する等価回路解析方法であって、
前記プロットのうちの前記実数成分値が前記交点での前記実数成分値の前後となる一対の特定プロットでの前記周波数の差分値を当該一対の特定プロットでの前記実数成分値の差分値で除算して単位実数成分値当たりの周波数変化量を算出すると共に、当該一対の特定プロットのうちのいずれか一方の特定プロットでの前記実数成分値および前記交点での前記実数成分値の差分値に前記周波数変化量を乗算して得られる乗算値と、当該一方の特定プロットでの前記周波数とに基づいて前記交点での前記周波数を算出する周波数算出処理を実行する等価回路解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池などの等価回路の各パラメータを解析して算出する等価回路解析装置および等価回路解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、電池の内部インピーダンスについての周波数特性を測定装置で測定し、測定したこの周波数特性に基づいて、電池の等価回路(溶液抵抗、反応抵抗および電気二重層容量の各パラメータで構成される等価回路)の各パラメータを測定する測定方法が従来の技術として開示されている。
【0003】
この測定方法で使用される上記の測定装置は、正弦波スイープ発信器とディジタルフーリエ演算器(利得測定手段と位相測定手段)を有する周波数応答アナライザ、および負荷装置を備えている。この場合、正弦波スイープ発信器は、任意の低周波数から高周波数までの正弦波信号を発生する。負荷装置は、電池と接続されると共に、正弦波スイープ発信器が発生した正弦波信号が与えられる。負荷装置は、正弦波スイープ発信器から与えられた正弦波信号と振幅が比例した電流量を電池から放電させる。ディジタルフーリエ演算器は、このときの放電電流と電池両端電圧をディジタルフーリエ演算することにより、正弦波信号の各周波数における利得と、位相特性から電池の内部インピーダンスを求める。
【0004】
上記のような各パラメータで構成される等価回路で表される電池では、上記の測定装置によって求められた内部インピーダンスの周波数特性をCole−Cole図(インピーダンスの実数部を横軸に、虚数部を縦軸にとって得られる図。ナイキストプロット図ともいう)で示した場合、円弧状のグラフとして表される。このCole−Cole図では、虚数部が0となる左端(横軸との交点のうちの左側の交点)の実数部が溶液抵抗を示し、円弧状グラフの左端と右端の間(横軸との2つの交点間)の実数部の大きさが反応抵抗(電荷移動反応による抵抗。このため、電荷移動抵抗ともいう)を示し、円弧状グラフの虚数部が最大値となる点において、ω=1/(Rct×Cdl)の式が成り立っている。ここで、Rctは反応抵抗を示し、Cdlは電気二重層容量を示している。また、ω=2πfである。したがって、求めた内部インピーダンスから電池内部の等価回路についての全パラメータをこの測定装置によって測定することが可能となっている。なお、電気二重層容量Cdlについては、Cole−Cole図における虚数部が最大値となる点に最も近いプロットでの周波数を、この最大値となる点での周波数とみなして使用して、上記の式から算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−90869号公報(第2−3頁、第8−11図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の従来の測定方法には、以下のような改善すべき課題が存在している。すなわち、この測定方法では、Cole−Cole図における虚数部が最大値となる点に最も近いプロットでの周波数を、この最大値となる点での周波数とみなして使用している。したがって、上記の測定方法では、Cole−Cole図における虚数部が最大値となる点の近傍での周波数の分解能が高い場合には、Cole−Cole図における虚数部が最大値となる点に最も近いプロットでの周波数が、最大値となる点での周波数とほぼ等しくなる状態となるため、高い精度で電気二重層容量Cdlを算出することが可能である。しかしながら、実際には、測定装置のハードウェア上の制限により、Cole−Cole図における虚数部が最大値となる点に最も近いプロットでの周波数を、最大値となる点での周波数とほぼ等しくなる状態に常にすることは困難である。このため、上記の測定方法には、電気二重層容量Cdlを高い精度で確実に算出できない場合が生じるという解決すべき課題が存在している。
【0007】
本発明は、かかる課題を改善するためになされたものであり、等価回路の各パラメータを高い精度で解析して算出し得る等価回路解析装置および等価回路解析方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載の等価回路解析装置は、測定対象のインピーダンスについての周波数特性に基づいて各周波数での前記インピーダンスの実数成分値を横軸の座標とし、かつ当該インピーダンスの虚数成分値を縦軸の座標とするプロットで構成されるナイキストプロット曲線を作成するプロット曲線作成処理と、前記作成されたナイキストプロット曲線における円弧状領域に含まれる前記プロットの前記実数成分値および前記虚数成分値に基づいて当該円弧状領域に対応する半円をカーブフィッティング法によって算出するフィッティング処理と、前記算出した半円の前記横軸との2つの接点での前記各実数成分値と当該算出した半円の当該半円の中心を通過する前記縦軸と平行な直線との交点での前記周波数とに基づいて前記測定対象の等価回路を構成する容量成分を算出する容量算出処理とを実行する処理部を備え、前記処理部は、前記プロットのうちの前記実数成分値が前記交点での前記実数成分値の前後となる一対の特定プロットでの前記周波数の差分値を当該一対の特定プロットでの前記実数成分値の差分値で除算して単位実数成分値当たりの周波数変化量を算出すると共に、当該一対の特定プロットのうちのいずれか一方の特定プロットでの前記実数成分値および前記交点での前記実数成分値の差分値に前記周波数変化量を乗算して得られる乗算値と、当該一方の特定プロットでの前記周波数とに基づいて前記交点での前記周波数を算出する周波数算出処理を実行する。
【0009】
請求項2記載の等価回路解析装置は、請求項1記載の等価回路解析装置において、前記処理部は、前記周波数特性における周波数軸が対数軸のときには、前記周波数算出処理において、前記一対の特定プロットでの前記周波数を真数/対数変換した変換値の差分値を前記周波数の差分値として前記乗算値を算出すると共に、当該一対の特定プロットについての前記変換値のうちの前記一方の特定プロットについての変換値と当該算出した乗算値との加算値を対数/真数変換して前記交点での前記周波数を算出する。
【0010】
請求項3記載の等価回路解析装置は、請求項1または2記載の等価回路解析装置において、前記処理部は、前記プロットのうちの前記実数成分値が前記交点での前記実数成分値の直前および直後となる一対のプロットを前記一対の特定プロットとして前記周波数算出処理を実行する。
【0011】
請求項4記載の等価回路解析方法は、測定対象のインピーダンスについての周波数特性に基づいて各周波数での前記インピーダンスの実数成分値を横軸の座標とし、かつ当該インピーダンスの虚数成分値を縦軸の座標とするプロットで構成されるナイキストプロット曲線を作成するプロット曲線作成処理と、前記作成されたナイキストプロット曲線における円弧状領域に含まれる前記プロットの前記実数成分値および前記虚数成分値に基づいて当該円弧状領域に対応する半円をカーブフィッティング法によって算出するフィッティング処理と、前記算出した半円の前記横軸との2つの接点での前記各実数成分値と当該算出した半円の当該半円の中心を通過する前記縦軸と平行な直線との交点での前記周波数とに基づいて前記測定対象の等価回路を構成する容量成分を算出する容量算出処理とを実行する等価回路解析方法であって、前記プロットのうちの前記実数成分値が前記交点での前記実数成分値の前後となる一対の特定プロットでの前記周波数の差分値を当該一対の特定プロットでの前記実数成分値の差分値で除算して単位実数成分値当たりの周波数変化量を算出すると共に、当該一対の特定プロットのうちのいずれか一方の特定プロットでの前記実数成分値および前記交点での前記実数成分値の差分値に前記周波数変化量を乗算して得られる乗算値と、当該一方の特定プロットでの前記周波数とに基づいて前記交点での前記周波数を算出する周波数算出処理を実行する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の等価回路解析装置および請求項4記載の等価回路解析方法では、一対の特定プロットのうちのいずれか一方の特定プロットでの実数成分値および交点での実数成分値の差分値に周波数変化量を乗算して得られる乗算値と、この一方の特定プロットでの周波数とに基づいて交点での周波数を算出し、この周波数を測定対象の等価回路における容量成分の容量値の算出に使用する。
【0013】
したがって、この等価回路解析装置および等価回路解析方法によれば、交点に最も近いプロットでの周波数を、この交点での周波数とみなして使用して容量値を算出する構成と比較して、交点での周波数をより正確に算出できるため、このより正確な周波数に基づいて、容量成分の容量値をより高い精度で算出することができる。
【0014】
請求項2記載の等価回路解析装置では、処理部は、周波数特性における周波数軸が対数軸のときには、周波数算出処理において、一対の特定プロットでの周波数を真数/対数変換した変換値の差分値を周波数の差分値として乗算値を算出すると共に、一対の特定プロットについての変換値のうちの一方の特定プロットについての変換値と算出した乗算値との加算値を対数/真数変換して交点での周波数を算出する。したがって、この等価回路解析装置によれば、インピーダンスの周波数特性を測定する際に周波数を対数ステップで変化させたとしても、一対の特定プロット間に位置する交点での周波数をより正確に算出できる結果、容量成分の容量値をより高い精度で算出することができる。
【0015】
請求項3記載の等価回路解析装置では、処理部は、プロットのうちの実数成分値が交点での実数成分値の直前および直後となる一対のプロットを一対の特定プロットとして周波数算出処理を実行する。ノイズなどの影響が少なく、少なくとも交点の近傍に位置している各プロットが半円上またはその近傍に位置しているときには、実数成分値が交点での実数成分値以下の範囲内で交点での実数成分値に最も近い直前のプロットと、実数成分値が交点での実数成分値以上の範囲内で交点での実数成分値に最も近い直後のプロットとを一対の特定プロットとして周波数算出処理を実行することにより、交点での周波数を最も正確に算出でき、これによって容量成分の容量値を最も高い精度で算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】等価回路解析装置1の構成を示す構成図である。
図2】電池11の等価回路(回路モデル)である。
図3図2の等価回路の電池11について実測したインピーダンスZから求めたインピーダンスZの実数成分Rと虚数成分(−X)と周波数fとの関係を示すナイキストプロット曲線Aと、カーブフィッティング法によって算出された半円Bとを示す図である。
図4】等価回路解析処理50のフローチャートである。
図5図4のパラメータ算出処理54のフローチャートである。
図6図5の周波数算出処理62のフローチャートである。
図7】他の測定対象の等価回路について実測したインピーダンスから求めたインピーダンスの実数成分Rと虚数成分(−X)と周波数fとの関係を示すナイキストプロット曲線A1と、カーブフィッティング法によって算出された半円B1,B2とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、等価回路解析装置1および等価回路解析方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
最初に、等価回路解析装置1の構成について、図面を参照して説明する。なお、一例として、電池を測定対象として、その等価回路の各パラメータを算出して解析する等価回路解析装置1を例に挙げて説明する。
【0019】
等価回路解析装置1は、図1に示すように、交流電流供給部2、電流検出部3、電圧検出部4、処理部5、記憶部6および出力部7を備え、図2に示される等価回路(回路モデル)で表される電池(リチウムイオン電池や鉛蓄電池などの二次電池)11についてのこの等価回路の各パラメータを算出して解析する。なお、測定対象である電池11の等価回路は、本例では一例として、抵抗成分(反応抵抗:抵抗値Rct)21と容量成分(電気二重層容量:容量値Cdl)22とが並列接続され、この並列回路に抵抗成分(溶液抵抗:抵抗値Rsol)23が直列接続されて構成されている。
【0020】
交流電流供給部2は、一例として、交流定電流源を備えている。交流電流供給部2では、交流定電流源が、一定の振幅の交流電流(交流定電流)I1を、処理部5によって指定された周波数fで生成して、電池11に供給する。電流検出部3は、不図示のA/D変換回路を備え、交流電流供給部2から電池11に供給されている交流電流I1を検出すると共に、A/D変換回路において、検出した交流電流I1の波形を予め規定されたサンプリング周期でサンプリングすることにより、電流波形データDiに変換して処理部5に出力する。
【0021】
電圧検出部4は、交流電流I1の供給に起因して電池11の両端間に発生する交流電圧V1を検出すると共に、その波形を予め規定されたサンプリング周期(電流検出部3のサンプリング周期と同一で、かつ同期した周期)でサンプリングすることにより、電圧波形データDvに変換して処理部5に出力する。
【0022】
処理部5は、CPUを備えて構成されて、図4に示すように、一例として、周波数特性測定処理、プロット曲線作成処理、フィッティング処理、パラメータ算出処理および出力処理を含む等価回路解析処理50を実行して、図2に示される等価回路を構成する抵抗成分(抵抗値Rctおよび抵抗値Rsol)および容量成分(容量値Cdl)を算出する。
【0023】
記憶部6は、一例として、RAMおよびROMなどの半導体メモリや、HDD(Hard Disk Drive )で構成されて、処理部5用の動作プログラムが予め記憶されている。また、記憶部6は、処理部5のワークメモリとしても機能する。
【0024】
出力部7は、一例として、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、処理部5によって解析された等価回路を構成する抵抗成分(抵抗値Rctおよび抵抗値Rsol)および容量成分(容量値Cdl)を画面上に表示する。なお、表示装置に代えて、外部装置とデータ通信を行うインターフェース装置で構成して、この外部装置に抵抗成分(抵抗値Rctおよび抵抗値Rsol)および容量成分(容量値Cdl)を出力する構成を採用することもできる。
【0025】
次に、等価回路解析装置1の解析動作および等価回路解析方法について図面を参照して説明する。
【0026】
等価回路解析装置1では、処理部5は、等価回路解析処理50を実行する。この等価回路解析処理50において、処理部5は、最初に、周波数特性測定処理を実行する(ステップ51)。この周波数特性測定処理では、処理部5は、まず、交流電流供給部2に対して周波数fを指定して、この指定した周波数fの交流電流I1を測定対象の電池11に供給させる。この交流電流I1が電池11に供給されている状態において、電流検出部3は、交流電流I1の波形を示す電流波形データDiを処理部5に出力し、電圧検出部4は、交流電流I1の供給に起因して電池11の両端間に発生する交流電圧V1を検出すると共に電圧波形データDvに変換して処理部5に出力する。
【0027】
次いで、処理部5は、電流波形データDiおよび電圧波形データDvを例えば1周期分ずつ取得して、記憶部6に記憶させる。続いて、処理部5は、記憶部6に記憶されている電流波形データDiおよび電圧波形データDvに基づいて、指定した周波数fでの電池11についてのインピーダンスZ(インピーダンスZの実数成分(R)と虚数成分(本例では、インピーダンスZの実際の虚数成分をXとしたときに、このXの符号を反転させた−Xを虚数成分というものとする)を算出して、指定した周波数fに対応させて記憶部6に記憶させる。処理部5は、交流電流供給部2に対して指定する周波数fを順次変化させつつ(例えば、低周波側から高周波側に順次変化(この例では、リニアに変化)させつつ)、指定した周波数fでのインピーダンスZを算出すると共にこの周波数fに対応させて記憶部6に記憶させることにより、予め規定された周波数範囲(例えば、0.1Hz〜10kHzの範囲)内でのインピーダンスZについての周波数特性を測定する。これにより、周波数特性測定処理が完了する。
【0028】
次いで、処理部5は、プロット曲線作成処理を実行する(ステップ52)。このプロット曲線作成処理では、処理部5は、算出した各周波数fでのインピーダンスZ(インピーダンスZの実数成分(R)と虚数成分(−X))に基づいて、図3に示すナイキストプロット曲線Aを作成する。
【0029】
続いて、処理部5は、フィッティング処理を実行する(ステップ53)。このフィッティング処理では、処理部5は、作成したナイキストプロット曲線Aにおける円弧状領域Wに含まれる各プロットの実数成分値および虚数成分値に基づいて、この円弧状領域Wに対応する半円Bをカーブフィッティング法(例えば、最小二乗法を利用したカーブフィッティング法)によって算出する。この場合、この半円Bを含む円は、以下の方程式で表される。
(R−(Rsol+Rct/2))+X=(Rct/2)
【0030】
次いで、処理部5は、パラメータ算出処理を実行する(ステップ54)。このパラメータ算出処理では、処理部5は、まず、図5に示すように、抵抗算出処理を実行する(ステップ61)。この抵抗算出処理では、処理部5は、まず、算出した半円Bにおける図3中の横軸との2つの接点P1,P2での各実数成分値R1,R2を算出する。次いで、処理部5は、算出した各実数成分値R1,R2に基づいて、抵抗値Rsol(=R1)と、抵抗値Rct(=R2−R1)とを算出して、記憶部6に記憶させる。これにより、抵抗値算出処理が完了する。
【0031】
次いで、処理部5は、パラメータ算出処理54において、周波数算出処理を実行する(ステップ62)。この周波数算出処理では、処理部5は、半円Bと、この半円Bの中心Oを通過する図3中の縦軸と平行な直線L1との交点P3での周波数fcを算出する。具体的には、処理部5は、まず、円弧状領域Wに含まれる各プロットのうちの実数成分値が交点P3での実数成分値の前後となる一対の特定プロットを検索する(ステップ71)。
【0032】
本例では、図3に示すように、交点P3での実数成分値は(R1+R2)/2となる。このため、処理部5は、(R1+R2)/2と、円弧状領域Wに含まれる各プロットでの実数成分値とを比較することにより、実数成分値が交点P3での実数成分値((R1+R2)/2)以下の範囲内で交点P3でのこの実数成分値に最も近い直前のプロットPaと、実数成分値が交点P3での上記の実数成分値以上の範囲内で交点P3での上記の実数成分値に最も近い直後のプロットPbとを、実数成分値が交点P3での実数成分値の前後となる一対の特定プロットPa,Pbとして検索して、これを記憶部6に記憶させる。この場合、特定プロットPaでの周波数と実効成分値とはそれぞれfa,Raであり、特定プロットPbでの周波数と実効成分値とはそれぞれfb,Rbであるものとする。また、本例では一例として、図3に示すように、Rb>Raかつfb<faであるものとする。
【0033】
次いで、処理部5は、図6に示す周波数変化量Δfの算出処理を実行して、一対の特定プロットPa,Pb間での単位実数成分値当たりの周波数変化量Δfを算出する(ステップ72)。本例では、インピーダンスZの周波数特性を測定する際に周波数fはリニアに変化させている。このため、処理部5は、一対の特定プロットPa,Pbでの周波数fa,fbの差分値(fa−fb)を一対の特定プロットPa,Pbでの実数成分値Ra,Rbの差分値(Rb−Ra)で除算して、周波数変化量Δf(=(fa−fb)/(Rb−Ra))を算出し、算出した周波数変化量Δfを記憶部6に記憶させる。
【0034】
続いて、処理部5は、図6に示す周波数fcの算出処理を実行する(ステップ73)。この周波数fcの算出処理では、処理部5は、一対の特定プロットPa,Pbのうちのいずれか一方の特定プロットでの実数成分値Rxおよび交点P3での実数成分値(R1+R2)/2の差分値(Rx−(R1+R2)/2)に周波数変化量Δfを乗算して得られる乗算値と、この一方の特定プロットでの周波数fxとに基づいて交点P3での周波数fcを算出する。具体的には、上記したようにインピーダンスZについての周波数特性の測定に際して周波数fをリニアに変化させているため、この乗算値にこの一方の特定プロットでの周波数fxを加算することにより、周波数fc(=fx+Δf×(Rx−(R1+R2)/2))を算出する。
【0035】
例えば、一例として特定プロットPbをこの一方の特定プロットとしたときには、処理部5は、上記の周波数fcの式におけるfxに特定プロットPbでの周波数fbを代入し、かつRxに特定プロットPbでの実数成分値Rbを代入する。これにより、処理部5は、周波数fc(=fb+Δf×(Rb−(R1+R2)/2))を算出する。一方、特定プロットPaをこの一方の特定プロットとしたときには、処理部5は、上記の周波数fcの式におけるfxに特定プロットPaでの周波数faを代入し、かつRxに特定プロットPaでの実数成分値Raを代入する。これにより、処理部5は、周波数fc(=fa+Δf×(Ra−(R1+R2)/2))を算出する。
【0036】
また、処理部5は、算出した周波数fcを記憶部6に記憶させる。これにより、周波数算出処理62が完了する。
【0037】
次いで、処理部5は、図5に示す容量算出処理を実行する(ステップ63)。この容量算出処理では、処理部5は、下記式に基づいて容量値Cdlを算出して、記憶部6に記憶させる。これにより、パラメータ算出処理54が完了する。
Cdl=1/(2π×fc×Rct)
【0038】
最後に、処理部5は、図4に示す出力処理を実行して(ステップ5)、算出した(解析した)等価回路についての各パラメータのパラメータ値(各抵抗成分の抵抗値Rct,Rsolおよび容量成分の容量値Cdl)を出力部7の画面上に表示させる。これにより、等価回路解析装置1による電池11についての等価回路解析が完了する。
【0039】
このように、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法では、一対の特定プロットPa,Pbのうちのいずれか一方の特定プロットでの実数成分値および交点P3での実数成分値の差分値に周波数変化量Δfを乗算して得られる乗算値と、この一方の特定プロットでの周波数とに基づいて交点P3での周波数fcを算出し、この周波数fcを電池11の等価回路における容量成分22の容量値Cdlの算出に使用する。本例では、インピーダンスZについての周波数特性の測定に際して周波数fをリニアに変化させているため、この乗算値と一方の特定プロットでの周波数を加算することにより、周波数fcを算出し、この周波数fcを容量値Cdlの算出に使用する。
【0040】
したがって、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法によれば、交点P3に最も近いプロットでの周波数を、この交点P3での周波数fcとみなして使用して容量成分22の容量値Cdlを算出する構成と比較して、交点P3での周波数fcをより正確に算出できるため、このより正確な周波数fcに基づいて、容量成分22の容量値Cdlをより高い精度で算出することができる。
【0041】
また、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法によれば、実数成分値が交点P3での実数成分値((R1+R2)/2)以下の範囲内でこの実数成分値((R1+R2)/2)に最も近い直前のプロットPaと、実数成分値が交点P3での実数成分値((R1+R2)/2)以上の範囲内でこの実数成分値((R1+R2)/2)に最も近い直後のプロットPbとを一対の特定プロットPa,Pbとして周波数算出処理を実行することにより、ノイズなどの影響が少なく、少なくとも交点P3の近傍に位置している各プロットが半円B上またはその近傍に位置しているときには、交点P3での周波数fcを最も正確に算出でき、これによって容量成分22の容量値Cdlを最も高い精度で算出することができる。
【0042】
なお、処理部5は、インピーダンスZの周波数特性の測定に際して、上記したように周波数をリニアに変化させる構成に代えて、低周波側から高周波側に周波数を対数ステップで変化させる構成(周波数特性における周波数軸を対数軸とする構成)を採用することもできる。
【0043】
この構成を採用したときには、処理部5は、上記の周波数算出処理62のステップ72での周波数変化量Δfの算出処理において、インピーダンスZの周波数特性を測定する際に周波数fを対数ステップで変化させているため、一対の特定プロットPa,Pbでの周波数fa,fbの差分値を、周波数fa,fbを真数/対数変換した変換値に基づいて算出する。つまり、処理部5は、周波数fa,fbの差分値を(log10fa−log10fb)に基づいて算出し、この算出した差分値を一対の特定プロットPa,Pbでの実数成分値Ra,Rbの差分値(Rb−Ra)で除算して、周波数変化量Δf(=(log10fa−log10fb)/(Rb−Ra))を算出する。
【0044】
また、処理部5は、ステップ73での周波数fcの算出処理において、一対の特定プロットPa,Pbのうちのいずれか一方の特定プロットでの実数成分値Rxおよび交点P3での実数成分値(R1+R2)/2の差分値(Rx−(R1+R2)/2)に周波数変化量Δfを乗算して得られる乗算値に、この一方の特定プロットでの周波数fxを真数/対数変換した変換値を加算して加算値fadd(=log10fx+Δf×(Rx−(R1+R2)/2))を算出する。また、処理部5は、この加算値faddを対数/真数変換して、周波数fcを算出する。この構成を採用することにより、インピーダンスZの周波数特性を測定する際に周波数fを対数ステップで変化させたとしても、一対の特定プロットPa,Pb間に位置する交点P3での周波数fcをより正確に算出できる結果、容量成分22の容量値Cdlについても、より高い精度で算出することができる。
【0045】
また、測定対象の等価回路の構成によっては、図7に示すナイキストプロット曲線A1のように、複数(同図では一例として2つ)の円弧状領域W1,W2が存在する場合もあるが、この場合においても、処理部5が、上記した等価回路解析処理50を各円弧状領域W1,W2に対してそれぞれ適用して、交点P4の周波数fc1については、交点P4の直前および直後(前後の一例)の一対の特定プロットPa1,Pb1の各周波数fa1,fb1と各実数成分値Ra1,Rb1、並びに円弧状領域W1に対してフィッティングして得られる半円B1の中心O1での実効成分値に基づいて算出することができる。また、交点P5の周波数fc2については、交点P5の直前および直後(前後の一例)の一対の特定プロットPa2,Pb2の各周波数fa2,fb2と各実数成分値Ra2,Rb2、並びに円弧状領域W2に対してフィッティングして得られる半円B2の中心O2での実効成分値に基づいて算出することができる。
【0046】
したがって、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法によれば、ナイキストプロット曲線A1上に複数の円弧状領域W1,W2が存在する等価回路を構成する複数の容量成分の容量値についても、正確に算出された対応する交点P4,P5での各周波数fc1,fc2に基づいて、より高い精度で算出することができる。
【0047】
また、上記の例では、測定対象としての電池11についてのインピーダンスZを測定するための構成(交流電流供給部2、電流検出部3および電圧検出部4)を備えているが、処理部5が、他の測定装置で測定された測定対象についてのインピーダンスZの周波数特性を示すデータを直接入力し、この入力したデータに対して等価回路解析処理50におけるプロット曲線作成処理(ステップ52)からパラメータ算出処理(ステップ54)までを実行して、この測定対象の等価回路についての各パラメータのパラメータ値(容量成分の容量値を含む)を算出する構成を採用することもできる。この構成の等価回路解析装置では、インピーダンスZを測定するための構成(交流電流供給部2、電流検出部3および電圧検出部4)を省くと共に、処理部5による等価回路解析処理50における周波数特性測定処理(ステップ51)の実行を省くことができる。
【0048】
また、交点P3,P4,P5の各周波数fc,fc1,fc2の算出に際して、交点P3,P4,P5のそれぞれについて、前後の一対の特定プロットの一例として、直前および直後の一対の特定プロット(例えば、交点P3については、直前および直後の一対の特定プロットPa,Pb)を検索して、この一対の特定プロットでの各周波数と各実数成分値とを使用する構成を採用しているが、インピーダンスZの周波数特性の測定の際にノイズなどの影響により、直前および直後の一対のプロットの少なくとも一方が半円(半円B,B1,B2)から大きく外れる場合がある。このような場合には、直前および直後の一対のプロットを一対の特定プロットとして算出される各周波数fc,fc1,fc2の算出精度が低下する虞がある。このため、大きく外れた直前および直後の各プロットに代えて、直前のプロットの1つ前のプロットやさらに1つ前のプロットなどの数個前までの範囲内の任意の1つのプロットを交点の前に位置する1つの特定プロットとし、また直後のプロットの1つ後のプロットやさらに1つ後のプロットなどの数個後までの範囲内の任意の1つのプロットを交点の後に位置する1つの特定プロットとする構成を採用して、各周波数fc,fc1,fc2の算出精度の低下を回避することもできる。
【0049】
また、電池11以外の測定対象のインピーダンスZの周波数特性を測定して、その測定対象の等価回路についての各パラメータのパラメータ値(容量成分の容量値を含む)を算出する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0050】
1 等価回路解析装置
4 処理部
11 電池
A ナイキストプロット曲線
B 半円
fa,fb 一対の特定プロットでの周波数
fc 交点での周波数
P1,P2 接点
P3 交点
Pa,Pb 一対の特定プロット
R 実数成分
Ra,Rb 一対の特定プロットでの実数成分値
W 円弧状領域
−X 虚数成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7