特許第5912894号(P5912894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912894
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの動荷重半径予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   G01M17/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-136171(P2012-136171)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1977(P2014-1977A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】余 ▲ろ▼
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−266815(JP,A)
【文献】 特開2004−347514(JP,A)
【文献】 特開2012−052926(JP,A)
【文献】 特開2005−164337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部にトレッドゴムを有する空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(1)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの動荷重半径予測方法。
【数1】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a5:定数
【請求項2】
トレッド部にトレッドゴムを有する空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(2)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの動荷重半径予測方法。
【数2】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a5:定数
【請求項3】
トレッド部にトレッドゴムを有する空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(3)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの動荷重半径予測方法。
【数3】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a7:定数
【請求項4】
ベルトコードをタイヤ赤道に対して傾斜して配列させた少なくとも1枚のベルトプライを有するベルト層と、
前記ベルト層の半径方向外側に配されるトレッドゴムとを具えた空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(4)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの動荷重半径予測方法。
【数4】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a7:定数
【請求項5】
ベルトコードをタイヤ赤道に対して傾斜して配列させた少なくとも1枚のベルトプライを有するベルト層と、
前記ベルト層の半径方向外側に配されるトレッドゴムとを具えた空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(5)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの動荷重半径予測方法。
【数5】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a7:定数
【請求項6】
ベルトコードをタイヤ赤道に対して傾斜して配列させた少なくとも1枚のベルトプライを有するベルト層と、
前記ベルト層の半径方向外側に配されるトレッドゴムとを具えた空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(6)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの動荷重半径予測方法。
【数6】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a9:定数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ設計の効率化に役立つ空気入りタイヤの動荷重半径予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの基本性能を示す指標の一つとして、タイヤ走行時の半径である動荷重半径が知られている。このような動荷重半径の測定方法としては、先ず、試作されたタイヤをリムにリム組みし、かつ所定の内圧を充填する。次に、内圧充填後のタイヤに所定の荷重を負荷させて、タイヤ一回転あたりの走行距離を測定する。そして、タイヤ一回転あたりの走行距離を、2πで除することにより、動荷重半径が測定される。関連する技術としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−266815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来の方法では、実際にタイヤを試作しなければ、動荷重半径を特定することができないため、タイヤ試作前の設計初期段階において、動荷重半径を予測することができなかった。このため、所定の動荷重半径を満足するタイヤを製造するためには、タイヤの設計及び試作を繰り返す必要があり、製造コストが増大するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤ設計の効率化に役立つ空気入りタイヤの動荷重半径予測方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部にトレッドゴムを有する空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(1)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする。
【数1】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a5:定数
【0007】
また、請求項2記載の発明は、トレッド部にトレッドゴムを有する空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(2)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする。
【数2】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a5:定数・・・である。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、トレッド部にトレッドゴムを有する空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(3)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする。
【数3】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a7:定数
【0009】
また、請求項4記載の発明は、ベルトコードをタイヤ赤道に対して傾斜して配列させた少なくとも1枚のベルトプライを有するベルト層と、前記ベルト層の半径方向外側に配されるトレッドゴムとを具えた空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(4)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする。
【数4】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a7:定数
【0010】
また、請求項5記載の発明は、ベルトコードをタイヤ赤道に対して傾斜して配列させた少なくとも1枚のベルトプライを有するベルト層と、
前記ベルト層の半径方向外側に配されるトレッドゴムとを具えた空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(5)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする。
【数5】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a7:定数
【0011】
また、請求項6記載の発明は、ベルトコードをタイヤ赤道に対して傾斜して配列させた少なくとも1枚のベルトプライを有するベルト層と、
前記ベルト層の半径方向外側に配されるトレッドゴムとを具えた空気入りタイヤの動荷重半径を、下記式(6)を用いて予測する工程を含むことを特徴とする。
【数6】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a9:定数
【発明の効果】
【0012】
請求項1乃至3記載の空気入りタイヤの動荷重半径予測方法は、各上記式(1)〜(3)を用いて、空気入りタイヤの動荷重半径を予測する工程を含む。各上記式(1)〜(3)に入力されるパラメータは、いずれもタイヤを設計する際に決定される具体的な設計因子である。従って、請求項1乃至3記載の予測方法では、タイヤ試作前の設計初期段階において、動荷重半径を予測することができるため、タイヤ設計の効率化に役立つ。
【0013】
請求項4乃至6記載の空気入りタイヤの動荷重半径予測方法は、各上記式(4)〜(6)を用いて、空気入りタイヤの動荷重半径を予測する工程を含む。各上記式(4)〜(6)に入力されるパラメータには、上記式(1)〜(3)に入力されるパラメータに加え、タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅及びタイヤ赤道に対するベルトコードの角度が含まれる。従って、請求項4乃至6記載の予測方法では、動荷重半径に大きな影響を及ぼすベルトプライのパラメータが入力されるため、より正確な動荷重半径を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の動荷重半径予測方法で評価される空気入りタイヤの断面図である。
図2図1のベルト層の部分斜視図である。
図3】動荷重半径の実測値を求める方法を説明する側面図である。
図4】予測された動荷重半径と実測した動荷重半径との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤの動荷重半径予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある)は、空気入りタイヤの動荷重半径を予測する工程が含まれる。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態の予測方法で評価される空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されたベルト層7とを具えた乗用車用のものが例示される。
【0017】
前記トレッド部2には、ベルト層7のタイヤ半径方向外側にトレッドゴム2Gが配されている。
【0018】
前記カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のラジアル構造のカーカスプライ6Aにより構成される。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aからのびてビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含む。また、本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのび、かつ硬質ゴムからなるビードエーペックスゴム8が配され、ビード部4が適宜補強される。
【0019】
前記ベルト層7は、少なくとも1枚、本実施形態では、タイヤ半径方向の内、外2枚のベルトプライ7A、7Bからなる。また、本実施形態では、ベルト層7のタイヤ軸方向の両端7eで大きな剛性段差が生じるのを防ぐために、外のベルトプライ7Bのタイヤ軸方向の幅Bwが、内のベルトプライ7Aのタイヤ軸方向の幅Bxよりも小に設定される。
【0020】
図2に示されるように、前記ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコード7cをタイヤ赤道Cに対して10〜40度程度の角度Baで傾斜して配列されたコード配列体13と、このコード配列体13を夫々被覆するトッピングゴム14とからなる。これらのベルトプライ7A、7Bのベルトコード7c、7cは、互いに交差する向きに重ね合わせて配置される。
【0021】
そして、前記タイヤ1の動荷重半径を予測する工程では、下記式(1)が用いられる。
【数1】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a5:定数
【0022】
図1に示されるように、前記タイヤ外径Mrは、上記タイヤ1を正規リムにリム組みし、かつ正規内圧を充填した無負荷の正規内圧状態において、タイヤ赤道C上で測定される外径とする。上記式(1)では、タイヤ外径Mrを2で除することにより、タイヤ半径(Mr/2)が求められる。このようなタイヤ半径(Mr/2)は、動荷重半径を求める上での基準となる。なお、この寸法は、実際に測定される場合の他、例えば、設計時の寸法(金型内寸法)が採用されても良い。
【0023】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" とするが、対応する規格がない場合、前記正規リムには、メーカにより推奨されるリムが適用される。
【0024】
前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、対応する規格がない場合、前記正規内圧には、メーカにより推奨される空気圧が適用される。
【0025】
図3に示されるように、前記荷重TLは、タイヤ1の設計段階において、所定の車両への装着した時に、タイヤ1に負荷されると予測される荷重である。
【0026】
前記正規荷重MLは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" とする。
【0027】
そして、荷重TLを、正規荷重MLで除することにより、正規荷重MLに対する荷重TLの割合、即ち負荷率(TL/ML)が求められる。
【0028】
図1に示されるように、前記トレッドゴムの厚さGtは、前記正規内圧状態のタイヤ1において、ベルト層7とトレッド部2の外面2Sとのタイヤ赤道C上での厚さ、又はベルト層7のタイヤ半径方向外側にバンド層(図示省略)がある場合は、該バンド層とトレッド部2の外面2Sとのタイヤ赤道C上での厚さで特定されるものとする。なお、本実施形態のように、タイヤ赤道C上に溝10が設けられる場合には、溝縁間を延びる仮想線11上で測定されるものとする。
【0029】
前記定数a1〜a5は、5本のタイヤ1の実測した動荷重半径と、各パラメータMr〜Gtに対応する各タイヤ1の実測値とを、上記式(1)にそれぞれ代入して成立する5個の連立方程式を解くことにより求められる。
【0030】
図3に示されるように、動荷重半径の実測値を求める方法としては、先ず、正規内圧状態かつ荷重TLが負荷されたタイヤ1を速度V(80km/h)で走行させたときのタイヤ一回転あたりの走行距離Lを測定する。そして、タイヤ一回転あたりの走行距離Lを、2πで除することにより、動荷重半径が測定される。
【0031】
前記動荷重半径は、トレッド部2が路面に接地する接地時のタイヤの形状に大きく左右される。発明者は、鋭意研究を重ねた結果、正規内圧Ap、負荷率TL/ML及びトレッドゴムの厚さGtの設計因子が、接地時のタイヤ1の形状に大きな影響を及ぼし、ひいては、動荷重半径の予測に不可欠なパラメータになることを知見した。従って、上記式では、タイヤ半径Mr/2を基準として、正規内圧Ap、負荷率TL/ML及びトレッドゴムの厚さGtの各パラメータが加算されることにより、動荷重半径Drが求められる。
【0032】
図4には、パラメータDr〜Gtが異なる636本のタイヤ1において、上記式(1)で予測された動荷重半径を横軸、実測した動荷重半径を縦軸としてプロットしたグラフが示される。このグラフに示されるように、上記式(1)を用いて予測された動荷重半径Drは、実測した動荷重半径との相関が非常に高いことが確認できる。なお、本実施形態では、相関係数が1.000、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の標準偏差σが0.376であった。
【0033】
このように、本発明の予測方法は、動荷重半径を実測することなく、タイヤ試作前の設計初期段階において、タイヤ外径Mr等のパラメータを上記式(1)に代入することにより容易に予測できる。従って、本発明の予測方法によれば、従来のように、所定の動荷重半径を満足するタイヤを製造するために、タイヤの設計及び試作を繰り返す必要がないため、製造コストの増大を抑制でき、タイヤ設計の効率化に役立つ。
【0034】
次に、本発明の他の実施形態の予測方法を説明する。
この実施形態では、タイヤ1の動荷重半径を予測する工程において、下記式(2)が用いられる。
【数2】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a5:定数
【0035】
上記式(2)において、各タイヤ1のパラメータDr〜Gtは、上記式(1)と同一である。また、前記定数a1〜a5は、前実施形態と同様に、5本のタイヤ1の実測した動荷重半径と、各パラメータMr〜Gtに対応する各タイヤ1の実測値とを、上記式(2)にそれぞれ代入して成立する5個の連立方程式を解くことによって求められる。
【0036】
また、上記式(2)では、上記式(1)とは異なり、空気入りタイヤの正規内圧Ap及び前記負荷率TL/MLの各項が二乗されている。これは、発明者らが、上記パラメータのうち、正規内圧Ap及び負荷率TL/MLが、動荷重半径に最も影響することを知見し、これらのパラメータの重みを相対的に大きくさせたことによるものである。
【0037】
パラメータDr〜Gtが異なる636本のタイヤにおいて、上記式(2)で予測された動荷重半径及び実測した動荷重半径を、図4に示したグラフにプロットした。その結果、この実施形態では、相関係数が1.000、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の標準偏差σが0.358であった。従って、上記式(2)を用いた予測方法では、上記式(1)を用いた予測方法よりも、実測した動荷重半径との相関を高くできるとともに、予測された動荷重半径Drのバラツキを小さくすることができるため、タイヤ設計の効率化に一層役立つことができる。
【0038】
次に、本発明の他のさらに実施形態の予測方法を説明する。
この実施形態では、タイヤ1の動荷重半径を予測する工程において、下記式(3)が用いられる。
【数3】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
a1〜a7:定数
【0039】
上記式(3)において、各タイヤ1のパラメータDr〜Gtは、上記式(1)、(2)と同一である。また、前記定数a1〜a7は、前実施形態と同様に、7本のタイヤ1の実測した動荷重半径と、各パラメータMr〜Gtに対応する各タイヤ1の実測値とを、上記式(3)にそれぞれ代入して成立する7個の連立方程式を解くことによって求められる。
【0040】
上記式(3)では、上記式(1)に、空気入りタイヤの正規内圧Ap及び前記負荷率TL/MLを二乗した項がさらに含まれる。これは、上述のように、動荷重半径Drへの影響が大きいと考えられる正規内圧Ap及び負荷率TL/MLの重みをさらに大きくさせたことによるものである。
【0041】
パラメータDr〜Gtが異なる636本のタイヤにおいて、上記式(3)で予測された動荷重半径及び実測した動荷重半径を、図4に示したグラフにプロットした。その結果、この実施形態の相関係数が1.000、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の標準偏差σが0.266であった。従って、上記式(3)を用いた予測方法では、上記式(1)、(2)を用いた予測方法よりも、実測した動荷重半径との相関を高くできるとともに、予測された動荷重半径Drのバラツキを小さくすることができるため、タイヤ設計の効率化に一層役立つことができる。
【0042】
次に、本発明の他のさらに実施形態の予測方法を説明する。
この実施形態では、タイヤ1の動荷重半径を予測する工程において、下記式(4)が用いられる。
【数4】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a7:定数
【0043】
上記式(4)において、各タイヤ1のパラメータDr〜Gtは、上記式(1)〜(3)と同一である。
【0044】
図1に示されるように、前記ベルトプライの幅Bwは、前記正規内圧状態のタイヤ1において、タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライ、即ち外のベルトプライ7Bのタイヤ軸方向の幅とする。
【0045】
図2に示されるように、前記ベルトコードの角度Baは、前記正規内圧状態のタイヤ1において、内のベルトプライ7A又は外のベルトプライ7Bのベルトコード7cのタイヤ赤道に対する角度とする。これらは通常、向きが異なるが、同一の角度のためである。
【0046】
また、前記定数a1〜a7は、7本のタイヤ1の実測した動荷重半径と、各パラメータMr〜Baに対応する各タイヤ1の実測値とを、上記式(4)にそれぞれ代入して成立する7個の連立方程式を解くことにより求められる。
【0047】
上記式(4)では、上記式(1)に、ベルトプライの幅Bw及びベルトコードの角度Baのパラメータがさらに加算される。これは、発明者が、剛性の高いベルト層7も、接地時のタイヤ1の形状に大きな影響を及ぼすことを知見したことによる。
【0048】
パラメータDr〜Baが異なる636本のタイヤ1において、上記式(4)で予測された動荷重半径及び実測した動荷重半径を、図4に示したグラフにプロットした。その結果、この実施形態の相関係数が1.000、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の標準偏差σが0.301であった。従って、上記式(4)を用いた予測方法では、上記式(1)を用いた予測方法よりも、実測した動荷重半径との相関を高くできるとともに、予測された動荷重半径Drのバラツキを小さくすることができるため、タイヤ設計の効率化に一層役立つことができる。
【0049】
同様に、下記式(5)、(6)に示されるように、上記式(2)、(3)に、ベルトプライの幅Bw及びベルトコードの角度Baが加算されるのが望ましい。
【数5】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a7:定数
【0050】
【数6】

ここで、
Dr:動荷重半径(mm)
Mr:空気入りタイヤの正規内圧充填時のタイヤ外径(mm)
Ap:空気入りタイヤの正規内圧(kPa)
TL:空気入りタイヤに負荷される荷重(kN)
ML:空気入りタイヤの正規荷重(kN)
Gt:タイヤ赤道上でのトレッドゴムの厚さ(mm)
Bw:タイヤ半径方向の最外側に配されるベルトプライの幅(mm)
Ba:タイヤ赤道に対するベルトコードの角度(度)
a1〜a9:定数
【0051】
上記式(5)、(6)において、各タイヤ1のパラメータDr〜Baは、上記式(4)と同一である。また、上記式(5)の前記定数a1〜a7は、7本のタイヤ1の実測した動荷重半径と、各パラメータMr〜Baに対応する各タイヤ1の実測値とを、上記式(5)にそれぞれ代入して成立する7個の連立方程式を解くことにより求められる。さらに、上記式(6)の前記定数a1〜a9は、9本のタイヤ1の実測した動荷重半径と、各パラメータMr〜Baに対応する各タイヤ1の実測値とを、上記式(6)にそれぞれ代入して成立する9個の連立方程式を解くことにより求められる。
【0052】
パラメータDr〜Baが異なる636本のタイヤ1において、上記式(5)で予測された動荷重半径及び実測した動荷重半径を、図4に示したグラフにプロットした結果、相関係数が1.000、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の標準偏差σが0.277であった。さらに、上記式(6)での相関係数が1.000、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の標準偏差σが0.258であった。従って、各上記式(5)、(6)を用いた予測方法では、実測した動荷重半径との相関を高くできるとともに、予測された動荷重半径Drのバラツキを小さくすることができる。
【0053】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0054】
上記式(1)〜(6)を用いて、タイヤ構成部材が異なる636本のタイヤについて動荷重半径を予測するとともに、それらのタイヤの動荷重半径を実測した(実施例1〜6)。そして、各実施例1〜6において、それぞれ予測された動荷重半径と実測した動荷重半径との相関係数、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の最大値、平均及び標準偏差σが求められた。
【0055】
また、比較のために、上記式(1)〜(6)の各パラメータのうち、少なくとも一つのパラメータを満たさない式を用いて、タイヤ構成部材が異なる636本のタイヤについて動荷重半径を予測するとともに、それらのタイヤの動荷重半径を実測した(比較例1〜6)。そして、各比較例1〜6において、それぞれ予測された動荷重半径と実測した動荷重半径との相関係数、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の最大値、平均及び標準偏差σが求められた。なお、比較例1〜6の満たさないパラメータは次のとおりである。
比較例1:上記式(2)のトレッドゴムの厚さGt
比較例2:上記式(1)のトレッドゴムの厚さGt
比較例3:上記式(4)の正規内圧Ap及び負荷率(TL/ML)
比較例4:上記式(1)の正規内圧Ap及び負荷率(TL/ML)
比較例5:上記式(5)の正規内圧Ap、負荷率(TL/ML)及びベルトコードの角度Ba
比較例6:上記式(3)のトレッドゴムの厚さGt
【0056】
各実施例1〜6及び比較例1〜6の各定数a1〜a9は、3〜9本のタイヤを実測した動荷重半径と、各タイヤの各パラメータを上記式(1)〜(6)に代入することにより成立する3〜9個の連立方程式を解くことにより求められた。
テストの結果を、表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
テストの結果、本発明の予測方法で予測された動荷重半径は、比較例と比べて、実測した動荷重半径との相関係数が高く、|予測された動荷重半径Dr−実測した動荷重半径|の最大値、平均及び標準偏差σが小さいことが確認できた。従って、本発明の予測方法は、正確な動荷重半径を予測することができるため、タイヤ設計の効率化に役立つ。
【符号の説明】
【0059】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
2G トレッドゴムの厚さ
Dr 動荷重半径
ML タイヤ外径
Ap 正規内圧
TL 荷重
ML 正規荷重
Gt トレッドゴムの厚さ
図1
図2
図3
図4