(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912902
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】クローラ作業車における空気浄化装置の配置構造
(51)【国際特許分類】
B62D 49/00 20060101AFI20160414BHJP
B60H 3/06 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
B62D49/00 N
B60H3/06 E
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-138896(P2012-138896)
(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-916(P2014-916A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】布野 尚志
(72)【発明者】
【氏名】足立 孝夫
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−203233(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3168206(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 49/00
B60H 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のクローラを備えるクローラ式の走行部と、
平面視で左右のクローラ間に配置される操作部と、
操作部を覆うキャビンと、が設けられたクローラ作業車において、
吸入した外気を浄化してキャビン内に送る空気浄化装置を設けるにあたり、該空気浄化装置を、平面視でクローラよりも外側方、かつ、側面視でクローラの上方近傍に配置したことを特徴とするクローラ作業車における空気浄化装置の配置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラトラクタなどのクローラ作業車における空気浄化装置の配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
クローラ式の走行部を備えたクローラトラクタなどのクローラ作業車が知られている。この種のクローラ作業車は、走破性に優れているため、路面の条件が悪い湿田などでも作業が可能であり、特に、キャビン仕様のクローラ作業車では、外気と遮断された運転空間が確保されるので、外気の条件が悪い環境での作業も可能になる。
【0003】
しかしながら、キャビンによって外気と遮断された運転空間であっても、酸欠などを防止するために外気を循環させる必要があるので、外気の条件が悪い環境で作業を行う場合は、外気を浄化してキャビン内に供給する空気浄化装置を設けることが要求される。例えば、特許文献1に示されるクローラ作業車(建設機械)では、キャビンの背面部に空気浄化装置を設け、ここで浄化した外気をキャビン内に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−188181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるように、空気浄化装置をキャビンに設けると、キャビンの強度不足により、従来のキャビンをそのまま流用できない可能性がある。なお、空気浄化装置は、キャビンの側面部や上面部に設けられる場合もあるが、空気浄化装置をキャビンの側面部に設けると、クローラが持ち回る土砂が空気浄化装置に飛散し、外気の浄化に悪い影響を与える可能性があり、また、空気浄化装置をキャビンの上面部に設けると、クローラが持ち回る土砂の影響は受けにくくなるものの、取り付け位置が高所になるので、空気浄化装置のフィルタ交換などが行いにくくなり、メンテナンス性が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、左右一対のクローラを備えるクローラ式の走行部と、平面視で左右のクローラ間に配置される操作部と、操作部を覆うキャビンと、が設けられたクローラ作業車において、吸入した外気を浄化してキャビン内に送る空気浄化装置を設けるにあたり、該空気浄化装置を、平面視でクローラよりも外側方、かつ、側面視でクローラの上方近傍に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、空気浄化装置は、クローラが持ち回る土砂の飛散量が多いクローラの上方を避け、平面視でクローラよりも外側方に配置されるので、クローラが持ち回る土砂の影響を低減し、外気を良好に浄化することができる。しかも、空気浄化装置は、高所を避け、側面視でクローラの上方近傍に配置されるので、空気浄化装置のフィルタ交換なども容易になり、メンテナンス性の向上が図れる。また、このような空気浄化装置の配置によれば、空気浄化装置をキャビンで支持する必要がないので、キャビンの補強などを不要とし、従来のキャビンを流用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】クローラトラクタ(送風機カバーおよびウエイトブラケット装着状態)を右前方から見た斜視図である。
【
図6】クローラトラクタを右前方から見た斜視図である。
【
図7】クローラトラクタ(送風機カバーおよびウエイトブラケット装着状態)を左前方から見た斜視図である。
【
図8】クローラトラクタを右後方から見た斜視図である。
【
図9】空気浄化装置の取付フレームをウェイトブラケットに装着した状態を示す要部斜視図である。
【
図10】空気浄化装置の取付フレームをウェイトブラケットに装着した状態を示す要部正面図である。
【
図11】排風口の例を示すキャビンの斜視図である。
【
図12】(A)は排風口の他例を示す正面図、(B)は側面図である。
【
図13】排風口の他例を示すキャビンの斜視図である。
【
図14】排風口の他例を示す要部拡大斜視図である。
【
図15】遮蔽部材を示すクローラトラクタの斜視図である。
【
図16】遮蔽部材を示すクローラトラクタの要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1〜
図8において、1はクローラトラクタ(クローラ作業車)の走行機体であって、該走行機体1は、図示しないエンジンなどが搭載されるエンジン搭載部2、各種の作業機を装着可能な作業機装着部3、クローラ式の走行部4、オペレータが乗車する操作部5、操作部5を覆うキャビン6などを備えて構成され、各種の作業に適用される。本実施形態のクローラトラクタは、放射性物質で汚染された土壌の除染作業に用いることを想定しており、例えば、作業機装着部3には、放射性物質が堆積している表土を所定の厚さで削り取る表土切削用の作業機が装着される。
【0010】
クローラ式の走行部4は、左右一対のクローラ(履帯)7を備える。クローラ7は、駆動スプロケット8、アイドラ9、転輪10などに懸回されており、駆動スプロケット8の駆動に応じて走行機体1を走行させる。このようなクローラ式の走行部4は、走破性に優れるものであるが、多量の土砂を持ち回るので、クローラ7の上方空間では土砂の飛散量が多くなる。
【0011】
操作部5は、左右のクローラ7間に構成されており、ここには、オペレータが座る運転席や各種の操作具が配置されている。操作部5を覆うキャビン6は、左右に乗降口11を備え、いずれの乗降口11からでも乗り降りが可能であるが、通常は左側の乗降口11を介して乗り降りが行なわれる。乗降口11は、ドア12によって開閉される。また、乗降口11の下端部には、外側方に延出するステップ13が設けられており、ここに足を乗せることで乗り降りが容易になる。
【0012】
操作部5の右側後部には、エンジンの燃料を貯溜する燃料タンク14が設けられ、操作部5の左側後部には、油圧機器の作動油を貯溜する作動油タンク15が設けられている。燃料タンク14は、走行機体1のシャーシフレーム16から右外側方に延出される燃料タンクブラケット17の上部に固設されており、作動油タンク15は、シャーシフレーム16から左外側方に延出される作動油タンクブラケット18の上部に固設されている。
【0013】
走行機体1には、吸入した外気を浄化してキャビン6内に送る空気浄化装置19が設けられる。このような空気浄化装置19によれば、外気の条件が悪い環境で作業を行う場合、キャビン6内を与圧して放射性物質などの侵入を防いだり、キャビン6内の酸欠を防ぐことができる。
【0014】
本発明の実施形態に係るクローラトラクタでは、空気浄化装置19を設けるにあたり、該空気浄化装置19を、平面視でクローラ7よりも外側方に配置している。例えば、本実施形態では、平面視で右側クローラ7の右外側方に空気浄化装置19を配置している。つまり、クローラ7が持ち回る土砂の飛散量が多いクローラ7の上方を避け、平面視でクローラ7よりも外側方に空気浄化装置19を配置することにより、クローラ7が持ち回る土砂の影響を低減し、外気を良好に浄化することが可能になる。
【0015】
また、空気浄化装置19は、高所を避け、側面視でクローラ7の上方近傍に配置される。このようにすると、空気浄化装置19のフィルタ交換なども容易になり、メンテナンス性の向上が図れる。そして、このような空気浄化装置19の配置、すなわちキャビン6から空気浄化装置19を離間させる配置によれば、空気浄化装置19をキャビン6で支持する必要がないので、キャビン6の補強などを不要とし、従来のキャビン6を流用することが可能になる。
【0016】
本実施形態の空気浄化装置19は、外気を浄化するフィルタを収容したフィルタ収容部20と、フィルタ収容部20に取り込む外気を事前に浄化するプレクリーナ21と、フィルタ収容部20で浄化された空気を右側ドア12の吸気口22を介してキャビン6内に送る送風機23と、該送風機23を覆う送風機カバー24とを備えて構成されており、フィルタ収容部20は、フィルタ交換が可能となっている。
【0017】
本実施形態では、フィルタ収容部20、プレクリーナ21および送風機23を前後方向に並ぶように配置している。このようにすると、空気浄化装置19を機体の左右幅からはみ出すように配置するものでありながら、空気浄化装置19の左右幅を可及的に小さくし、空気浄化装置19の機体幅からのはみ出し量を抑えることができる。
【0018】
空気浄化装置19は、キャビン6で支持することなく、取付フレーム25を介してシャーシフレーム16側で支持されている。本実施形態の取付フレーム25は、燃料タンクブラケット17に対して着脱自在に取り付けられ、さらには、燃料タンクブラケット17から外側方に延出する取付フレーム25の上部に対して空気浄化装置19が着脱自在に取り付けられるようになっている。つまり、公道を自走したり、トラックに積載する場合には、空気浄化装置19が邪魔になるので、空気浄化装置19や取付フレーム25を着脱可能に構成している。
【0019】
さらに、公道を自走したり、トラックに積載する場合、取り外した空気浄化装置19は、寸法的にキャビン6内に積載することが可能であるが、取付フレーム25はキャビン6内への積載が困難な場合が想定される。そこで、本実施形態では、取り外した取付フレーム25を走行機体1の前端部に設けられるウエイトブラケット26に対して着脱可能としている。これにより、取付フレーム25を別途輸送することなく、走行機体1と一緒に輸送することが可能になる。
【0020】
ちなみに、ウエイトブラケット26は、作業機装着部3に重量が大きい作業機を装着する場合に、機体の前後バランスを保つために、バランスウエイトを選択的に取り付けるためのブラケットであり、本実施形態では、
図9および
図10に示すように、取付フレーム25の取付部25aの幅Bを、シャーシフレーム16の幅Aよりも広くしてウエイトブラケット26に上方から差し込み可能にするとともに、ピン27、28を用いてウエイトブラケット26に固定できるようにしてある。
【0021】
空気浄化装置19で浄化した外気をキャビン6内に供給してキャビン6内を与圧するにあたり、キャビン6には、内圧調整用の排風口29が設けられる。本実施形態では、
図11に示すように、作動油タンク15の内側近傍に排風口29を設け、キャビン6内の空気を作動油タンク15に向けて排出するようになっている。このようにすると、キャビン6からの排風を利用して作動油タンク15内の作動油を冷却することができ、特に、キャビン6内をエアコンで冷却する夏場においては、作動油タンク15に冷気を吹き付けることができるので、作動油の冷却効果を高めることができる。
【0022】
また、内圧調整用の排風口30は、
図12に示すように、ステップ13の近傍に設け、キャビン6からの排風をステップ13の上面に向けて排出するようにしてもよい。このようにすると、キャビン6からの排風を利用してステップ13に対する塵埃の堆積を防止できるので、キャビン6への出入りに際してキャビン6内に塵埃を持ち込む可能性を低減することができる。
【0023】
また、内圧調整用の排風口31は、
図13および
図14に示すように、HST32の近傍に設け、キャビン6からの排風をHST32のリンク部33に向けて排出するようにしてもよい。このようにすると、キャビン6からの排風を利用してHST32のリンク部33に対する塵埃の付着を抑えることができるので、HST32のリンク部33の動作を円滑にすることができるだけでなく、HST32のメンテナンスの回数や時間を減らすことができる。なお、HSTは、静油圧式無段変速装置の略称であり、本実施形態では、主変速装置としてHSTを用いている。
【0024】
図15および
図16に示すように、本実施形態では、クローラトラクタを除染作業に用いるにあたり、キャビン6の底部および壁部(下側半分)を遮蔽部材34、35(例えば、鉛板、タングステンシートなど)で覆うことにより、オペレータを放射線から保護している。本実施形態の底部遮蔽部材34は、キャビン6の底部に直接設けることなく、キャビン6とは分離して設けられる。このようにすると、底部遮蔽部材34をキャビン6で支持する必要がないので、キャビン6の補強などを不要とし、従来のキャビン6を流用することが可能になる。
【0025】
底部遮蔽部材34をキャビン6と分離して構成するにあたり、本実施形態では、キャビン6の底部と底部遮蔽部材34とを離間させ、両者の間に配管や配線の配索に利用可能なスペースSを確保している。このようにすると、キャビン6の底部に、配管や配線を引き出すための孔を形成するにあたり、底部遮蔽部材34には孔を形成する必要がないので、遮蔽性の低下を回避できるだけでなく、別途孔埋め部材で孔を埋める必要もない。
【0026】
本実施形態の壁部遮蔽部材35は、小セル化されており、タイルを貼る要領でキャビン6の壁部に重合状に装着されるようになっている。なお、キャビン6の壁部に対する壁部遮蔽部材35の装着方法は、両面粘着シートによる粘着の他、溶接、ネジ止めなどであってもよい。
【0027】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、左右一対のクローラ7を備えるクローラ式の走行部4と、平面視で左右のクローラ7間に配置される操作部5と、操作部5を覆うキャビン6と、が設けられたクローラトラクタにおいて、吸入した外気を浄化してキャビン6内に送る空気浄化装置19を設けるにあたり、該空気浄化装置19を、平面視でクローラ7よりも外側方、かつ、側面視でクローラ7の上方近傍に配置したので、空気浄化装置19は、クローラ7が持ち回る土砂の飛散量が多いクローラ7の上方を避け、平面視でクローラ7よりも外側方に配置されることにより、クローラ7が持ち回る土砂の影響を低減し、外気を良好に浄化することができる。しかも、空気浄化装置19は、高所を避け、側面視でクローラ7の上方近傍に配置されるので、空気浄化装置19のフィルタ交換なども容易になり、メンテナンス性の向上が図れる。また、このような空気浄化装置19の配置によれば、空気浄化装置19をキャビン6で支持する必要がないので、キャビン6の補強などを不要とし、従来のキャビン6をそのまま流用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 走行機体
4 走行部
5 操作部
6 キャビン
7 クローラ
11 乗降口
12 ドア
19 空気浄化装置
20 フィルタ収容部
21 プレクリーナ
22 吸気口
23 送風機
24 送風機カバー
25 取付フレーム