特許第5912903号(P5912903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5912903シリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912903
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20160414BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20160414BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20160414BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   C30B29/06 502B
   C30B15/10
   C03B20/00 H
   C03C3/06
   C03B20/00 F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-139615(P2012-139615)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-5154(P2014-5154A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】小畑 直之
(72)【発明者】
【氏名】小幡 茂雄
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−255476(JP,A)
【文献】 特開平07−330483(JP,A)
【文献】 特開2006−206342(JP,A)
【文献】 特開平07−300326(JP,A)
【文献】 特開2011−213561(JP,A)
【文献】 特開平10−273335(JP,A)
【文献】 特開2010−138034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C03B 20/00
C03C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al濃度が8.8〜15wtppm、Na濃度が0.1wtppm未満、K濃度が0.2wtppm未満、Li濃度が0.3〜0.8wtppmであり、かつ、AlのLiに対するモル濃度比が7.5以下である石英ガラスからなる外層を備えていることを特徴とするシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボ。
【請求項2】
請求項1記載のシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボの製造方法において、前記石英ガラス中のAl濃度及びLi濃度は、溶融して前記石英ガラスとするために用いられる石英原料粉中のAl成分又はLi成分の少なくともいずれかを添加することにより調整されることを特徴とするシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項3】
前記Al濃度は硝酸アルミニウム九水和物水溶液の添加により、前記Li濃度は硝酸リチウム水溶液の添加により、それぞれ調整されることを特徴とする請求項2記載のシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法と言う。)によりシリコン単結晶を引上げる際に用いられる、原料シリコン融液を収容するための石英ガラスルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造においては、CZ法が広く用いられている。この方法は、ルツボ内に収容された原料シリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、前記種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることにより、種結晶の下端に単結晶インゴットを育成していくものである。
上記方法において、シリコン融液を収容するためのルツボには、一般に、内層が、高純度の合成石英ガラスの透明層からなり、外層が、内層よりも純度が低く、安価な、天然石英ガラスの不透明層からなる石英ガラスルツボが用いられている。
【0003】
近年、シリコン単結晶製造の効率化のため、引上げるシリコン単結晶の大口径化が進み、これに伴い、シリコン単結晶の製造に要する時間も長くなり、ルツボの使用時間、すなわち、加熱時間も長くなり、ルツボは長時間にわたって高温下に曝されるようになっている。このため、ルツボを構成する石英ガラスの粘度が低下し、ルツボが変形を生じやすくなることが懸念される。
また、シリコン単結晶の大口径化に伴い、使用される原料シリコン融液も増量し、ルツボ自体のサイズも大きくなるため、ルツボに対する重量負荷が大きくなり、しかも、原料シリコン融液の湯面振動も大きくなる。
【0004】
したがって、石英ガラスルツボ、特に、大型のルツボにあっては、高温下においても変形せず、かつ、収容される原料シリコン融液の湯面振動を抑制することができる強度が求められている。
【0005】
これに対しては、高温下でのルツボの変形抑制するために、石英原料粉にアルミニウム(Al)を添加することにより、石英ガラスの粘度を高めることが知られている。
例えば、特許文献1には、所定濃度のAlと該Al濃度の2%以上の濃度のリチウム(Li)を含有した石英粉を用いて外周部分を製造したルツボが記載されている。該特許文献1によれば、このルツボは、石英粉中のAl含有量が多いほど石英ガラスの粘性が高くなり、高温下での形状安定性が向上し、一方で、Liによって、Alによる電気抵抗の増加分を打ち消して、高電圧印加によりアルカリ金属や銅を外表面部分に濃集させて除去する電解精製効果を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−16240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Alは、石英ガラスの結晶化を促進する作用があるため、石英ガラス中の含有濃度が高い場合、ルツボ使用時の高温下において、ルツボの結晶化が急速に進行し、厚い結晶層が形成され、特に、底部の湾曲部において、冷却時にルツボにクラックが生じ、湯漏れを招くおそれがある。
また、Li濃度が高い場合、結晶構造において、シリコン(Si)の位置に同型置換したAlが電荷拘束される割合が低下し、この部分が結晶化の起点となりやすいため、過剰な結晶化が誘発され、この場合も、ルツボが脆くなり、クラックの発生や湯漏れを招くおそれがある。
【0008】
したがって、ルツボの強度の向上を図るためには、結晶化を過度に促進することなく、石英ガラスの粘度を高めることが望ましい。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、石英ガラスを適度に結晶化させることにより、ルツボの変形及びクラックの発生を抑制し、大型化した場合においても、シリコン融液を安定的に保持し得るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボは、Al濃度が8.8〜15wtppm、ナトリウム(Na)濃度が0.1wtppm未満、カリウム(K)濃度が0.2wtppm未満、Li濃度が0.3〜0.8wtppmであり、かつ、AlのLiに対するモル濃度比が7.5以下である石英ガラス原料からなる外層を備えていることを特徴とする。
このように、所定量のAl及びLiを含む石英ガラスでルツボ外層を形成することにより、優れた強度特性を有するルツボが得られる。
【0011】
また、本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボの製造方法は、前記シリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボの製造方法において、前記石英ガラス中のAl濃度及びLi濃度は、溶融して前記石英ガラスとするために用いられる石英原料粉中のAl成分又はLi成分の少なくともいずれかを添加することにより調整されることを特徴とする。
Al成分又はLi成分の添加により、適度に結晶化が促進される所望のAl濃度及びLi濃度の石英ガラスを容易に調整することができる。
【0012】
前記製造方法においては、前記Al濃度は硝酸アルミニウム九水和物水溶液の添加により、前記Li濃度は硝酸リチウム水溶液の添加により、それぞれ調整されることが好ましい。
このような硝酸塩の水溶液を用いることにより、Al成分及びLi成分を石英原料粉中に均一かつ容易に添加することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボによれば、ルツボ使用時の高温下においても変形せず、収容されるシリコン融液の湯面振動を抑制することができ、かつ、冷却時におけるクラックの発生や湯漏れ等も抑制することができ、優れた強度特性が得られる。
さらに、本発明は、石英ガラスルツボの大型化にも対応し得るものであり、シリコン単結晶引上げの効率向上に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボは、Al濃度が8.8〜15wtppm、Na濃度が0.1wtppm未満、K濃度が0.2wtppm未満、Li濃度が0.3〜0.8wtppmであり、かつ、AlのLiに対するモル濃度比が7.5以下である石英ガラスからなる外層を備えているものである。
すなわち、本発明に係る石英ガラスルツボは、外層を構成する石英ガラス中のAl濃度及びLi濃度が所定量であることを特徴とするものである。
このような石英ガラスで外層を形成することにより、高温下においても変形せず、また、冷却時における体積変化によるクラックの発生や湯漏れを生じることのない優れた強度特性を有するルツボを得ることができる。
【0015】
本発明においては、ルツボ外層の石英ガラス中のAl濃度を8.8〜15wtppmとする。
上述したように、Alは、石英ガラスの結晶化促進作用を有しており、石英ガラス中に上記範囲内の濃度で含まれていることにより、Li濃度との適度なバランスでの相互作用によって、外層が過度に結晶化することなく、適度な結晶化の進行を維持することにより、ルツボの強度の向上を図ることができる。
【0016】
前記石英ガラス中のNa濃度は0.1wtppm未満、K濃度は0.2wtppm未満とする。
NaもKも、石英ガラスの結晶化促進作用を有しているが、1価の陽イオンとなるアルカリ金属であり、Siとの親和性等の観点から、2価又は3価の陽イオンとなりやすいAlよりも結晶化促進作用が過激であり、これらの濃度調整によって結晶化の程度を制御することは難しい。また、Na及びKは、引上げるシリコン単結晶に対する重大な汚染源となりやすいアルカリ金属であるため、ルツボの構成材料中に含まれていないことが好ましい。
したがって、Na及びKは、前記石英ガラス中の濃度はできる限り低く抑えることが好ましい。
【0017】
また、前記石英ガラス中のLi濃度は0.3〜0.8wtppmとする。
Liは、結晶化抑制作用を有するため、Alによる結晶化促進作用を適度に抑制する調整剤としての役割を果たすものとして石英ガラス中に含有させる。
ただし、Liは、NaやKと同様に、引上げるシリコン単結晶に対する重大な汚染源となりやすいアルカリ金属であるため、ルツボの構成材料中に多く含まれることは好ましくなく、上記濃度範囲内に抑える。
【0018】
さらに、前記石英ガラス中のAlとLiの濃度は、AlのLiに対するモル濃度比(Al/Liモル濃度比)が7.5以下となるように調整する。
Alは、結晶構造において、Siの位置に同型置換した際、正電荷が不足した状態となる。Liは、この部分に取り込まれやすく、Alは電荷拘束される。この電荷拘束された原子ペアは結晶化の起点とはならない。
Al/Liモル濃度比が大きい場合、相対的にLi濃度が小さく、Si位置に同型置換したAlが電荷拘束される割合が低下し、その部分が結晶化の起点となりやすい。そして、Al/Liモル濃度比が大きくなるにつれて、結晶化の起点となる核である点失透の個数が増加し、結晶化が過度に促進される。特に、Al/Liモル濃度比が7.5を超えると、結晶化がルツボ内層にまで伸展し、特に、底部の湾曲部において、冷却時の体積変化によりルツボにクラックが生じたり、さらには、湯漏れが起きたりするおそれがある。
したがって、Al/Liモル濃度比を7.5以下とすることにより、電荷拘束されずに存在するAlを低減し、点失透の発生を抑制し、適度な結晶化の進行を維持させる。
【0019】
前記Al濃度及びLi濃度は、石英原料粉中に元々含まれているAl及びLiの濃度をICP発光分析法等にて測定し、それぞれ所定の濃度範囲及びAl/Liモル濃度比となるように、必要に応じて、Al成分又は/及びLi成分を添加して濃度調整する。
石英原料粉中の元々のAl濃度又はLi濃度が、前記石英ガラス中の所定濃度範囲内である場合には、Al/Liモル濃度比を考慮して、Al成分又はLi成分の一方のみを添加すればよい。
なお、前記Na濃度及びK濃度はできる限り低いことが好ましいため、石英原料粉中に元々含まれているNa及びKの濃度が、前記石英ガラス中の濃度範囲を超えている場合には、公知の方法により予め精製しておく必要がある。
【0020】
前記Al成分は、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)の水溶液として、また、前記Li成分は、硝酸リチウム(LiNO3)の水溶液として、石英原料粉にそれぞれ添加されることが好ましい。
各水溶液は石英原料粉の量に応じて、できるだけ均一に添加することができるように適宜濃度調整し、石英原料粉に均一に添加した後、これを乾燥して、再度粉末化して使用することが好ましい。
このような硝酸塩の水溶液の添加によれば、Al及びLiの濃度調整を均一かつ容易に行うことができる。また、過剰の水分及び硝酸分は、乾燥、加熱により容易に除去することができ、取扱い容易である。
【0021】
なお、前記石英原料粉は、合成石英及び天然石英のいずれを用いてもよいが、ルツボ外層の不透明層の構成材料であるため、低コスト化の観点からは、内層よりも純度が低く、安価である天然石英がより好適に用いられる。
一方、ルツボ内層は、ルツボの構成材料に起因する単結晶シリコンの不純物汚染や原料シリコン融液の湯面振動の抑制等の観点から、通常、シリコンアルコキシドの加水分解等により得られる高純度の合成シリカ原料により形成される合成石英ガラスからなる透明層とする。
【0022】
前記内層及び外層を含むルツボ全体の厚さは、ルツボの強度や重量等を考慮して、10〜23mm程度であることが好ましい。通常は15mm程度とする。
また、前記外層の厚さは、特に限定されるものではないが、同様の観点から、9〜18mm程度であることが好ましい。
一方、前記内層は、溶出によりルツボ内表面にルツボ外層が露出したり、シリコン融液の湯面振動を生じさせたりしない程度の厚さとする必要があり、このような観点から、1〜5mm程度であることが好ましい。
【0023】
本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、上記のように、外層の形成に使用する石英原料粉中の添加物を濃度調整して配合すること以外は、特に限定されるものではなく、公知の工程により製造することができる。一般的には、回転モールド法及びアーク溶融法により製造される。
具体的には、回転するルツボ成形用型内に、外層を構成するための石英原料粉を所定の層厚さで装填し、その内側に内層を構成するための合成シリカ原料粉を所定厚さで装填して、成形する。そして、この中にアーク電極を挿入し、減圧アーク溶融にてガラス化することにより、本発明に係る石英ガラスルツボを製造することができる。
なお、外層形成後、火炎溶融法により内層を直接堆積させて形成することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
回転モールド法及びアーク溶融法により、ルツボ内層が厚さ2mmの合成石英ガラスからなり、ルツボ外層が厚さ14mmの天然石英ガラスからなる外径32インチ、高さ450mmの石英ガラスルツボを作製した。
ルツボ外層を構成するための天然石英原料粉は、Na濃度0.1wtppm未満、K濃度0.2wtppm未満とし、また、0.1〜0.9wt%の範囲の濃度で適宜調製した硝酸アルミニウム九水和物水溶液及び硝酸リチウム水溶液を添加して均一に分散させて乾燥させることにより、Al濃度8.8〜15wtppm、Li濃度0.3〜0.8wtppmとなるように調整した。
また、前記アーク溶融は、約2000℃で1時間未満で行った。
【0025】
(評価1)
前記ルツボ外層から、10mm×10mm×40mmのサンプルを切り出し、大気中で1500℃で100時間熱処理し、発生した点失透を目視にて観察し、その個数をカウントすることにより、結晶化の評価を行った。
【0026】
その結果、ルツボ外層を構成する天然石英ガラス中のAl/Liモル濃度比が10以上の場合は、点失透が40個以上となる場合もあるのに対して、Al/Liモル濃度比が7.5以下の場合、点失透は20個以下であり、Al/Liモル濃度比が小さいほど、点失透の個数は少ないことが確認された。
【0027】
(評価2)
作製した石英ガラスルツボを、カーボンルツボに嵌め込んでセットし、ルツボ外周からヒータ加熱して、ルツボ内で約300kgの原料シリコンを溶融させ、CZ法により、直径12インチのシリコン単結晶の引上げを行った。
そして、シリコン単結晶引上げ後のルツボの表面状態の観察及び結晶化の評価を行った。
【0028】
その結果、ルツボ外層を構成する天然石英ガラス中のAl/Liモル濃度比が7.5以下の場合、評価した20個のルツボはいずれも、シリコン単結晶引上げに問題なく使用することができ、そのうちの16個(80%)については、内層への結晶化の伸展も見られなかった。
一方、前記Al/Liモル濃度比が7.5を超える場合は、9.0以下であれば、20個中13個(65%)のルツボは、内層への結晶化の伸展が見られたが、シリコン単結晶引上げにおける使用上の問題はなかった。しかしながら、7個のルツボは、結晶化が過度に進行し、内層への結晶化の伸展も多く、冷却時に湯漏れが発生又は発生するおそれがある状態であった。
さらに、前記前記Al/Liモル濃度比が9.0を超える場合は、20個中18個(90%)のルツボが、結晶化が過度に進行し、内層への結晶化の伸展も多く、冷却時に湯漏れが発生又は発生するおそれがある状態であった。